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シリコン基板上への硫化亜鉛系強磁性ワイドバンドギャップ半導体の作製

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シリコン基板上への硫化亜鉛系強磁性ワイドバンドギャップ半導体の作製
NSG Found. Mat. Sci. Eng. Rep.
シリコン基板上への硫化亜鉛系強磁性ワイドバンドギャップ
半導体の作製に関する研究
鳥取大学大学院工学研究科情報エレクトロニクス専攻 市野邦男
Study on Growth and Characterization of ZnS-based Ferromagnetic Wide-bandgap
Semiconductors on Silicon Substrates
Kunio Ichino
Graduate School of Engineering, Tottori University
ZnS系希薄磁性半導体における強磁性化を検討した.特にCr添加ZnSを中心として分子
線エピタキシーによる結晶成長を行い,結晶構造と磁気円二色性(MCD)から希薄磁性半
導体としての可能性を検討した.その結果,Cr組成1.5%までの単相の閃亜鉛鉱構造
ZnCrSエピタキシャル結晶が作製可能であることがわかった.またその組成域の結晶の
MCDスペクトルより,作製したZnCrS結晶が希薄磁性半導体であることが示された.
The growth of ferromagnetic semiconductors based on ZnS was investigated. In
particular, ZnS doped with Cr was grown by molecular beam epitaxy. The suitability of the
material for a diluted magnetic semiconductor was examined by characterizing the crystal
structure and the magnetic circular dichroism(MCD)
. As a result, it was possible to grow
single phase zinc-blende ZnCrS epitaxial crystals with the Cr concentration of up to 1.5%. In
addition, the ZnCrS crystals showed characteristics of diluted magnetic semiconductors in
MCD spectra.
1.はじめに
近年,物質あるいはその構成元素,さらに伝導キャリアの磁性・スピンを,単なる磁気
記録媒体ではなくエレクトロニクスデバイスとして積極的に用いようとするいわゆるスピ
ンエレクトロニクスの研究が盛んになっている1).その中で半導体においても多様な取り
組みがなされている.その一つとして,強磁性化した半導体を室温において実現しようと
する研究が国内外で活発になされている.そのアプローチとして,代表的な強磁性半導体
であるGaMnAsを材料としてそのキュリー温度
(強磁性転移温度)
の上昇を図る,あるいは,
異なる材料系で室温以上のキュリー温度を持つものを探索する,などの研究が理論的・実
験的になされている.強磁性半導体の応用目的の一つとして,将来的に現在の半導体デバ
イスの主流であるSiデバイスへ適用し,新機能を実現することは大きな意義があると思わ
れる.そのための材料としては,当然Si半導体・集積回路との親和性の高いものが要求さ
れる.そのような材料として,大きく分けて,(1)Si自体に遷移金属元素や希土類元素を
添加して強磁性化するもの,(2)Si上で比較的高品質の結晶が得られ,かつ強磁性化が可
能な他の半導体,の2通りが考えられる.前者に関してこれまでにSi:Ce2)やSi:Mn3)などの
取り組みが知られているが,後者の観点の取り組みは多くないように思われる.そして,
高品質結晶の実現や,Siデバイスとの接合を考えると,Siに格子整合する材料が望まし
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(財)日本板硝子材料工学助成会,26(2008)
い. そのようなベース材料として本研究ではII-VI族半導体の一つであるZnSに注目した.
ZnSは閃亜鉛鉱型の結晶構造を持ち,Siとの格子不整合が0.4%と小さいため,Siとの高い
親和性が期待される.また,歴史的にはMn添加CdTeを初めとするII-VI族半導体は希薄磁
性半導体として早くから研究され,光アイソレータの材料として実用化もされている4)た
め,多くの基本的知見が蓄積されている.ただしMn添加II-VI族半導体では強磁性化は難
しいため,GaMnAsなどのMn添加III-V族半導体に研究の主流が移行したという経緯があ
る.しかし,近年,Mnに代えてCrなど他の遷移金属元素を添加することで,II-VI族半導
体でも強磁性化が可能との理論的予測5)および実験的報告6,7)がなされている.
以上の観点から,本研究ではZnS系ワイドバンドギャップ半導体を希薄磁性半導体のベ
ース材料として位置づけた.本研究では,将来的にSiデバイスとの集積,受発光機能の集
積等を目指しているが,ZnS系希薄磁性半導体においては,まず強磁性化の手法を確立す
ることが最重要との現状認識に基づき,
そのための材料探索の基礎研究を行うこととした.
以上の点を踏まえ,本研究においては,Cr添加ZnSを中心として作製し,その磁性半導体
としての性質を明らかにすることを目的とした.とくに評価手法として単なる磁気測定で
はなく,半導体性を合わせて評価するため,磁気光学的手法,具体的には磁気円二色性の
測定系を整備することとし,これを用いて作製した試料を評価した.
2.実験方法
試料は分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy; MBE)により作製した.原料と
しては,それぞれ単体のZn,Cr,Sを用いた.各分子線の強度比を制御することで組成比
を制御し,Cr組成(Zn1−xCrxSにおけるx)は0∼0.04(4%)の間で制御した.基板としては,
まず比較的高品質なZnS結晶を作製しやすく,本研究室における従来の知見8)も蓄積され
ているGaP基板を用いた.また一部透過測定用には石英ガラス基板上に作製した配向した
多結晶薄膜も用いた.基本的結晶構造の評価としてX線回折(X-Ray Diffraction; XRD)測定
を行った.また,磁気光学的評価として,光弾性変調器を用いた磁気円二色性(Magnetic
Circular Dichroism; MCD)
の測定系を整備し用いた.
3.結果と考察
従来ZnCrS結晶は,希薄磁性半導体とし
て9)またそれとは別に固体赤外線レーザ材
料として10)報告例があるものの,いずれも
Cr組成は1%以下と小さいものに限られ,
結晶構造についてはポリタイプを含む場合
があるなど詳しくはわかっていない.また
ZnCrSのMBE成長についての知見は皆無で
あった.そこでまず,実際にZnCrSのMBE
成長を行い,その結晶構造およびその組成
依存性を調べた 11).Fig. 1にGaP基板上に
MBE成長したZn 0.99Cr 0.01SのXRDパターン
をZnSと対比させて示す.まずZnSについ
ては,閃亜鉛鉱型(Zinc-Blende; ZB)の結晶
−2−
Fig. 1 XRD pattern of ZnCrS and ZnS.
NSG Found. Mat. Sci. Eng. Rep.
がエピタキシャル成長していることを反映
して,400および200回折ピークが対応する
GaP基板のピークの高角度側に観測されて
いる.Zn0.99Cr0.01SについてもZnSに非常に
よく似ており,同様に400および200回折ピ
ークのみが観測されている.このことは,
ZB型の単相の結晶がエピタキシャル成長
していることを示している.Cr組成を増加
させた場合,ほぼx<0.02では同様にZB単相
のエピタキシャル結晶が得られた.しかし
ながら,それ以上にCr組成を増大させると,
XRDパターンにおいて他の回折ピークが現
れ,明らかに他の結晶相が混在し,相分離
状態となることがわかった.
これについてもう少し詳しく検討するた
め,回折ピーク角度から得られたZB構造
の格子定数のCr組成依存性を検討した.そ
の結果をFig. 2に示す.図より,作製した
結晶が,3種に分類できることがわかった.
第1は,Cr組成x>0.025と大きく,格子定数
に関しては,小さい値でほぼ一定となって
いるものであり,これらは上述のように相
分離を生じている結晶である.あとの2つ
のグループは,いずれもXRDパターンから
は単相のエピタキシャル結晶と思われるも
のであるが,1つは基板温度Tsub=200°
Cと比
Fig. 2 Lattice constant of Zn1-xCrxS.
Fig. 3 Lattice constant and XRD intensity of
ZnCrS.
較的低温で成長したもので,格子定数がほ
ぼZnSと同じで変化がないもの,もう1つ
はTsub=275°
Cで成長したもので,こちらは
Cr組成の増加とともに急速に格子定数が小
さくなっていくものである.このように同
じ組成で格子定数が異なるグループが生じ
た原因は現時点では不明であるが,物性と
も関わってくる可能性があるのでさらに検
討を進める必要がある.
Fig. 4 MCD and transmission spectra of ZnCrS.
Fig. 3は,Fig. 2で示した以外の条件で作
製した試料も含め,格子定数と回折ピークの積分強度のCr組成依存性を示した.格子定
数に関しては上述の傾向がわかるが,強度に関してはx>0.015では弱くなっていることが
わかった.このことは,明らかに相分離状態のXRDパターンを示したもの(x>0.025)だけ
ではなく,0.015<x<0.025では,単相に見えるXRDパターンであっても,相分離、あるいは
多結晶化によりエピタキシャル成長したZB結晶の比率が小さくなっていると考えられる.
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(財)日本板硝子材料工学助成会,26(2008)
したがって,実際に単相のZB結晶がエピタキシャル成長しているのは,x<0.015の組成範
囲と考えられる.
次に,ZB単相結晶が得られた組成域の結晶について,MCDスペクトル測定による評価を
試みた.Fig. 4にCr組成1.3%のZnCrSのMCDスペクトルおよび透過スペクトルを示す.な
お,
ここでの試料は,
光透過測定を行うため石英基板上に作製した多結晶薄膜を用いている.
透過スペクトル(点線)より吸収端が320−330nmに位置していることがわかる.磁性半導
体においては,吸収端などの臨界点近傍においてゼーマン効果により生じるMCD信号が増
強されることが知られている6).Fig. 4のMCDスペクトルにおいてもややブロードではあ
るものの吸収端近傍において変化する信号が得られており,ZnCrSが磁性半導体としての
性質を持っていることを示していると考えられる.作製した試料のCr濃度が1.5%以下と低
い範囲に止まっていること,また試料の結晶性が十分とはいえないことなどから,現状では
磁場依存性,温度依存性等から強磁性の兆候は得られていないが,引き続き検討中である.
4.まとめ
所期の目的に向け,まずZnS系希薄磁性半導体における強磁性化に向け,材料探索の基
礎研究を行った.具体的には,Cr添加ZnSを中心にMBE成長を行い,結晶構造,磁気円
二色性(MCD)を評価した.その結果,Cr組成1.5%以下では単相結晶のエピタキシャル成
長が可能であることがわかった.またその組成域の結晶のMCDスペクトルより,添加し
たCrの効果により作製したZnCrS結晶が磁性半導体として機能することが確認された.
謝 辞
本研究は,
(財)日本板硝子材料工学助成会の平成17年度研究助成を受けて行ったもので
ある.同助成会に心より感謝いたします.
参考文献
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東京,2004)
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6) H. Saito, V. Zayets, S. Yamagata and K. Ando, Phys. Rev. B, 66, 081201(2002)
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7) S. Kuroda, N. Ozaki, N. Nishizawa, T. Kumekawa, S. Marcet and K. Takita, Sci. Tech.
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8) K. Ichino, K. Ueyama, M. Yamamoto, H. Kariya, H. Miyata, H. Misasa, M. Kitagawa and
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11)K. Ichino, Y. Morimoto and Hiroshi Kobayashi, Ext. Abst. 24th Electronic Materials
Symp., Matsuyama, Japan, 49,(2005)
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