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「主体的に健康課題に取り組み,自分の生活に生かす力を育てる指導
1 研究主題について 本校では保健領域において,保健室の機能を生かした養護教諭が行う保健学習や保健指導のあり 方について研究を行っている。養護教諭は日々,保健室で個々の健康課題に直面しては個別に対応 しており,その職務の特質は個別の保健指導にあると言える。保健学習において,養護教諭の職務 の特質を生かすには個別指導と集団の学習を相互に生かし合う授業作りが必要となる。そのため, 日々の保健室経営で得た子どもの健康情報を生かして,子どもの実態や個に応じた保健学習を目指 して取り組んでいる。その中で,子どもが進んで健康課題に取り組み,健康な生活への実践意欲を 高めることをねらいとしてきた。子どもたちを取り巻く健康課題が山積し,その常識までもが日々 変化していく時代である。自分の健康は自分で守るという意志を持ち,健康課題について主体的に 自分ができることを見つけ「やってみよう」 「続けていこう」という実践意欲をもつことが大切だ と考える。 保健の特質は, 「知っているけれどできていない」 「その場では理解しても,なかなか習慣づかな い」というところにあると考える。これは,健康的な生活を実践するにあたって大人の管理下にあ り,受動的に行なっている部分が多い「子どもならでは」に限ったことではなく,大人にも共通し て言えることである。なぜなら,プラスの効果もマイナスの効果も即効ではあらわれないことが多 いからである。だからこそ,その教材価値の理由や意味を強く,深く実感させることが大切となる。 そのためには,教科書で学習する知識を「自分自身のこと」としてとらえて課題に取り組み,知識 を記憶するだけでなく実践的理解をし,自分自身の生活に生かすことができるような指導を行う必 要がある。そこで,子どもが自ら健康の大切さに気付き,主体的に課題に取り組めるように,以下 の4つの観点を持って取り組んできた。 ①具体的に自分の心や体,生活や行動を振り返らなければならない場を設定する。 ②保健室でとらえた子どもたちの健康課題を,全体指導の場で生かす。 ③実験や体験的活動を通して実感し,思考したり,判断したりする学習活動の場を設定する。 ④視覚的に理解しやすく記憶に残りやすいよう,教材や教具を工夫する。 この4つの観点を持って,今後も継続して取り組みを続けていくこととする。 以上のこれまでの研究をふまえ,今年度の保健領域の研究主題を 「主体的に健康課題に取り組み,自分の生活に生かす力を育てる指導」 とし,研究を進めていくこととする。 2 研究の内容について 小学校学習指導要領体育編には「健康・安全についての理解」において, 「基礎的・基本的な内 容を実践的に理解すること」 「グループ活動や実習などを通して単に知識や記憶としてとどめるだ けではなく,児童が身近な生活における学習課題を発見し,解決する過程を通して,健康・安全の 大切さに気づくこと」とある。 「分かっているつもり、だけどできていない。 」これが保健の特質の 一つであるため,この「分かっているつもり」をゆさぶる支援が重要である。子ども自身が主体的 に学習課題を発見するための工夫,またその課題自体の吟味(主体的に学習できる課題であるのか) , 主体的に解決するための手立て,更にその内容が実践を伴って理解されるための継続的な支援が必 要であると考える。継続的な支援として,担任と連携し,また学校ぐるみで日々の生活指導を行う ほか,他教科との関連や保健指導との関連も考慮し,一貫性を持って効率よく計画的に学習を進め ていく必要があると考える。 1 研究の道筋 保健学習の内容は,生活リズムや清潔,けがや病気等,子どもたちにとって身近な「何となく知 っている,聞いた事がある」内容が多く含まれている。子どもたちは,保護者や教師等,人から言 われて行っているが理由は深く理解していないこと,見たり聞いたりして記憶していることを「知 っている=理解している」と思っている。この状態での子どもの言葉は, 「手洗いした方が良い」 のように言葉では表現できるが,なぜした方が良いのか,しないとどうなるのか等,その行動と体 の状態とのつながりを深くイメージできていないままの実感のない言葉だと考える。そこで,本研 究ではそのような知識理解( 「知っていると思っていたけれどうまく説明できない」 「できていると 思っていたのに実はできていない」 「そんなつながりがあるなんて考えたことがなかった」等)の 1) 視点を変換するきっかけを与えるようなゆさぶりの場面を設定したい。吉田氏によるとゆさぶりの 目的は「子 ど も の 誤 っ た 理 解 や 判 断 を ゆ さ ぶ る こ と に よ っ て そ れ を 正 し い も の と 入 れ 替 わ れ ば よ し と す る だ け で な く ,視点を変換することを通して,さまざまな視点の関連づけと統 合が行われ,対象の多面的で深い認識と,新しい発見とが行われること,さらにそのことを通して 新鮮な喜びが経験されること,そして,さらに,視点の変換そのものが柔軟に行なえるようになる こと, 「しなやかさ」が育てられること」であるという。 よって,授業では実験や実習などの体験的活動を多く取り入れ,その場で視点の変換を通して実 感したことを大切にしようと考える。子どもたちが自ら適切な価値判断を獲得し,実生活で生かす ことができるように,以下の①~③のステップで授業作りをしていく。 ① イメージを持つ:子どもたちに,生活経験や既習内容をもとにした現段階での見方や考え方で学 イメージを持つ 習内容を捉えさせる。この段階で「課題に取り組む前の姿」として子どもたちが共通の見方・考 え方・感じ方を持てるようにする。つまり, 「知っているつもり」 「分かっているつもり」になっ ている状態を引き出しておく。この段階で想定通りの共通の「課題に取り組む前の姿」を持てて いなければ②,③は成り立たないため,十分に児童理解をして想定することが必要不可欠となる。 ② 実感する:葛藤を生み出す課題を設定し,実験,実習等体験的活動を通して子どもの思考をゆさ 実感する ぶり,主体的に課題に取り組ませる。課題の設定に当たっては,教材分析はもちろん,深い児童 理解が必要となり,保健室で得た健康・安全面での児童理解だけでは不十分である。葛藤してい る状態の時に,その教材の価値,意味や理由につなげていく支援をすることで,強く,深く実感 させ,その場で視点を変換することを通して葛藤を解消できるようにする。単に人から言われた 記憶,どこかで見たり聞いたりした知識にとどまらない実感は,驚きや納得を伴い,それが教材 についてもっと知りたいという特殊的好奇心の高まりや知識理解の深まり,実践意欲の育成につ ながると考える。 ③ 判断する: 判断する 自分は何ができるか,これからどうしていきたいのか考え,判断する。ここで「変容 した見方・考え方・感じ方」を見取る。②で実感したことをふまえて判断することができていれ ばひとつの評価につながる。また,授業中の態度やワークシートで実践意欲はある程度評価でき るものの,継続的に実態を観察し,指導,支援していく必要があることは言うまでもない。 学習した健康課題が自分にとって大切で必要であると実感し,体験的活動と視点の変換を通して 感じたことから適切な価値判断を獲得し,理解した知識をいかに活用して実践につなげるかを子ど も自身に考えさせたい。実践意欲の育成は,今後の保健学習や関連する各教科にも生かされ,実践 意欲を持ち続ければそれは「習慣」となり,生涯を健康に過ごす糧となるに違いないと考える。 2 3 実践事例 3年「毎日の生活とけんこう」 (1)葛藤を生み出すために 葛藤を生み出す要因をどのように子どもに感じさせるのかにあたって,学習前の本校3年生の子 どもたちの実態を,本単元で扱う生活リズム(食事,運動,休養及び睡眠) ,体の清潔,環境を整 えることについて述べる。本校3年生の子どもたちは,給食は残さずよく食べ,毎日朝食を食べて 来ないという子どもはおらず,寝坊や体調不良で時折欠食することがある程度である。運動が好き な子どもが多く,朝早く登校し,元気よく外で遊んでいる様子が見られる。食事や運動,睡眠とい った基本的な生活習慣に関わることは,これまで家庭でのしつけや学校での指導などで日頃から耳 にしていることである。しかし,単なる知識として知っていても,多少の生活習慣の乱れによって すぐに大きく体調が変化しないこともあり,だんだんと就寝時間が遅くなり,寝坊により朝食を欠 食する等の事態がこの頃から少しずつ起こり始める。本校では,高学年になると習い事で帰宅が遅 くなる等の理由から就寝時間が遅くなり,睡眠不足からの体調不良が多々見られ,生活リズムが乱 れていく子どもが増えてくる。このことからも,3年生のこの時期に生活リズムの大切さを自分の 心身の状態と照らし合わせてしっかりと学んでおく必要性を感じる。 手洗いについては,休み時間に外から帰ってきたとき,トイレの後などもしっかり行えていない 子どももいた。時折,ハンカチ,ティッシュの忘れ物や,爪がのびていたりすることはあるが,毎 日ハンカチ,ティッシュを持っていない,爪は伸びたままということはない。しかし,ハンカチを 持っていても,昨日と同じものを使っていたり,使わずに手を振って乾燥させていたり,服で拭い たりしている様子も指導前には見られていた。きれいに手洗いする技能を身につけても,汚れたハ ンカチで拭いていては意味がないので,手洗い後のハンカチの使用が習慣になるよう,きれいなハ ンカチを使うことの意味も強調して理解させたいと考えた。また,夏季には運動場で制服のシャツ まで濡れるほどの汗をかいて休み時間の運動を楽しんでいる子どもが多数いるが,下着を着ていな い子どもが多数いたため,汗の始末や下着の着用についての保健指導の必要性を感じた。 生活環境については,教室にはエアコンや空気清浄機が備え付けられていたり,十分数の電灯が あり切れた時には子どもたちが気付く前にすぐに取り換えられていたり,安全点検は常日頃教員が 行っていたりと,すでに整えられた環境で生活しているため,特に意識していない子どもが多い。 上記のような様子から体の清潔や環境を整えることについても,した方が良いという知識はあっ ても,その行動と体の状態とのつながりまでは深くイメージできておらず,しなければならない, 自ら進んでしよう,という意識までは育っていないと考えた。 そこで, 本単元第2次の第1時では,手の清潔を扱い,子どもを葛藤に向かわせる要因を”不 調和”と設定した。課題は「きれいに洗えたかどうか確かめてみよう(ヨウ素でんぷん反応による 手洗い実験) 」である。 手洗いについては,子どもたちは「しなければいけない,した方がよい」という認識は皆もって おり,どんな時に手洗いをすべきなのかも,いくつも答えることができる。それゆえ,子どもたち は手洗いについて「分かっているつもり」になることが多く,正しい手洗いをしていなくても汚れ が目に見えないこともあり, 「自分はやればきれいに手を洗うことができる」と認識している。 よってステップ①の段階において「課題に取り組む前の姿」として,「手洗いについて知ってい るつもり,できているつもり」の姿を引き出しておいた。「今日,起きてから手でどんなものに触 りましたか?」という発問により,自分の生活を振り返って,手は意識していなくてもたくさんの 3 ものに触れていることに気付かせた。特に,手は体の中で最もよく使う部分であり,菌を運ぶ媒体 になることを強調した。次に「なぜ,あなたは手を洗うのですか?」と発問し, 「汚れたから」 「イ ンフルエンザや風邪にならないため」等の「分かっているつもり」の考えを引き出した。どうして 汚れたままではいけないのか,手が汚れているとどうして病気になるのかについて,体の模型図の 教材を使い,手についた菌が体の中に入って増殖する様子を視覚的に理解しやすいように示した。 しかし,手洗いを疎かにするとすぐに病気になるわけではないので,これだけでは子どもたちは十 分に必要感を感じられない。そこで,前時の「毎日の生活と健康」で生活リズムを学習した際に使 用した「睡眠,食事,運動,排便」の板書カードを利用し,ひとの体には健康的な生活を送ること によって免疫力が備わっており,菌に負けないようバリアをはっている様子を示した。子どもたち とのやりとりの中で,強い菌がきたり,菌の数が多かったり,疲れていて免疫力が弱っていたりす ると病気になることに気付かせ,「上手に手洗いできていないと意味がない」ということをおさえ た。 次にステップ②の段階で,どれだけきれいに手洗いできるかを確認する活動にうつる。葛藤を生 み出す課題は「きれいに洗えたかどうか,確かめてみよう。 」であり,15秒と時間を限定して, 時間内にいつも通り手を洗うよう指示した。自分の手を観察させ,きれいに洗えていることを確認 させた上で,洗い残しを紫色に染めだした。爪の間や,手のしわ,親指や手首のしわなどが,洗い 残しがあり,染まりやすい部分である。15秒と時間も限定されているため,丁寧に色々な部分を 洗うだけではなく,強くこすったり,早くこすったりといった技能も洗い残しなくきれいに手洗い するコツになってくる。子どもたちは,期待した情報(きれいに洗うことができる)と得た情報(意 外に汚れが残っている)の間にくいちがいを見出し, “不調和”を感じると想定した。 「実はきれい に洗えていなかった」「きれいに見える手にも汚れが残っていた」というところで,視点の変換を 図った。この活動は班で行い,結果を見せ合ったり,話し合ったりする場を設定しており,自分一 人の結果だけでなく,きれいに見える友だちの手の染めだし結果も知ることにより,より一般的な 情報を知ることができる。きれいに洗えた子どもに対しても,同じようにきれいに見える友だちの 手は染まっていて,自分は染まっていないというところで”不調和”を感じさせることができると 想定した。染まった部分を見ながら,実感を持って感想を言わせて他の子どもの意見と関連付けた り,染まった部分を発表させ全体で良く染まる部分を共有したりした。また,染まった手を見なが ら,導入部分での手に着いた菌が体の中に入る図を示し,「これは大変だ,何とかしなくてはいけ ない。 」という意識を持たせた。そこで,正しい手洗い方法を示し,実習を行うことで,どの部分 をこすれば良いかだけではなく,どのようなこすり方をすれば汚れが落ちるのかを実感させ,葛藤 を解消させるようにした。正しい手洗い方法については,「おおかみ洗い」 「ドーナツ洗い」 「腕時 計洗い」などキーワードを出し,視覚的にとらえやすく,記憶に残りやすい教材を用いた。単に手 の平をこすり合わせるだけでなく,洗い残しやすい部分に注目させることが支援となると考えた。 最後にステップ③の段階で,自分の手洗いの仕方を再考させ,本時で学んだことをもとに, 「こ の手洗いをこれからしたい」と判断する姿が目指す「変容した見方・考え方・感じ方」であったが, この姿は全員に見られた。なお,当然であるが保健学習では関心・意欲・態度,思考・判断,知識・ 理解について目標を立て,評価していく。手洗いについてどの程度洗えば良いか,どのように洗え ば良いかといった技能面については,保健指導において適切な技能を身につけられるよう,また強 迫概念等の潔癖症になることのないよう配慮しながら行っていきたい。担任と連携し,協力しなが 4 ら日常の指導で習慣付くように継続して支援を行っていくこととする。 (2)目標 健康への関心・意欲・態度 ・ 毎日の生活と健康の関係について,関心を持ち,健康によい一日の過ごし方を実践する意欲が持てる。 健康への思考・判断 ・ 授業や活動を通して,毎日を健康に過ごすためにはどんなことが大切か考えることができ,どのように自 分の生活に生かそうか考えることができる。 健康への知識・理解 ・ 毎日を健康に過ごすためには,食事・運動・睡眠・排便の調和のとれた生活を続ける必要があることを理 解できる。 ・ 毎日を健康に過ごすためには,体の清潔を保つことや明るさ,換気などの生活環境を整える必要がある ことを理解できる。 (3)指導計画(全4時間 本時2/4時間) 次 1 学習活動 ○支援 ◆評価規準 「毎日の生活とけんこう」 ・紙芝居を見て,毎日の生活の仕方と 健康について考える。 ○健康に良くない生活を送る紙芝居の主人公と自分の共通点や 良くないと思う点を見つけさせることで,自分の生活を振り 返らせ,健康のために何が必要か具体的に捉えられるように する。 ・睡眠・食事・運動・排便など,毎日 ○どこを改善したらよいのかという視点で考えさせるために の生活の仕方は健康と深く関わって 「こうすればいいよ」というアドバイスの形式で自分の考え いることを理解する。 を書かせる。 ・睡眠・食事・運動・排便のそれぞれ のつながりについて考える。 ○板書でアドバイスを整理し,矢印で4つの要素の関連を示す ことで,それぞれのつながりに気付かせる。 ◆紙芝居を通して健康な生活の仕方について考え,健康には, 睡眠,食事,運動,排便など,毎日の生活の仕方が深く関わ っていることを理解する。 <知・理> ◆学習したことをもとに自分の課題を考えたり,実現可能なめ あてを設定したりしている。 2 「手のせいけつ」 ① ・なぜ清潔でなければならないのかを 考える。 <関・意・態> ○体の模型図を使って,手についた菌が体の中に入って増殖す る様子を示し,上手に手洗いできていないと意味がないこと をおさえておく。 ・ヨウ素でんぷん反応による手洗い実 験を行い,洗い残しのある部分を知 る。 ○ヨウ素でんぷん反応で手の洗い残しが視覚的に分かる手洗い の実験を取り入れ,洗い残しを視覚的に実感させる。 ○洗い残しの部分を発表させ,板書で色をつけることで,どの 部分に注意して洗わないといけないのかを理解させる。 本時 ○正しい手洗い手順をイメージしやすい絵図とキーワードを 用いて理解させる。 5 ・正しい手の洗い方を理解する。 ○染めだした手で正しい手洗い手順を実際に行わせることで, 手順だけでなく,どのようなこすり方をすれば汚れが落ちる のか実感させる。 ◆手を清潔にする必要性,正しい手洗いの方法を理解する。 <知・理> ◆活動を通して,手洗いをどのように自分の生活に生かそうか 考えることができる。 2 「汗について」 ② ・汗はなぜかくのか,どの部分にかき やすいのか,始末はどうするのかを知 る。 (保健指導) <思・判> ○体の模型資料を使って,体の汚れやすい部分=汗をかきやす い部分であることに気づかせる。 ○濡れた手と乾いた手を同時に砂につけ, 「濡れていると汚れが 付きやすい」と実感させる。 ○具体的な場面をイメージさせ,次時「体のせいけつ」と関連 づけてどのように行動すべきか考えさせる。 「体のせいけつ」 ・体を清潔に保つために,毎日行って ○体を清潔にするための行動を,具体的な場面を指定して自分 いることがたくさんあることに気が の生活を振り返って考えさせ,「体を清潔にできているつも つく。 り」の状態を引き出しておく。 ・体の色々な部分を水で濡らした脱脂 綿で拭く活動をする。 ○脱脂綿で拭く活動を通して汚れを視覚的に実感させる。 ○板書に体の資料を用意し,拭いて汚れが見えた部分に色を塗 り, 「汚れやすい部分」として意識させる。 ○汚れた脱脂綿を見ながら「この汚れは何でしょう。 」と発問し, 汚れの正体(砂,垢,ホコリ,鉛筆,細菌等)に気付かせる。 ○「なぜその部分が汚れていると思いますか。 」という発問によ って,汚れの原因や汚れる過程に視点を変換させる。 ・目に見える汚れ,見えない汚れにつ いて考える。 ○ニンヒドリンで実際に子どもたちが使用したシャツや靴下, ハンカチを染めだした資料を提示し,目に見えない汚れが付 きやすい場所を読み取らせる。 ◆体を清潔にすることの意味,衣服やハンカチなど,清潔なも ・どの部分に注意して清潔にすれば良 いか考える。 のを身につけることの意味を理解できる。 <知・理> ◆活動を通して,体を清潔に保つ行動をする際に,どの部分に 注意して行うと良いか考えることができる。 <思・判> ◆体や身の回りを清潔にしようと実践する意欲を持つことがで きる。 <関・意・態> 「換気,明るさの調節について」 ・換気の必要性や方法について知る。 ・照明やカーテンの使用方法について 知る。 (保健指導) ○空気の通り道が目に見えるよう,アクリル板で作成したミニ 教室で換気の方法を確かめさせる。 ○実際に窓と教室のドアを開けて換気したり,教室の照明を消 したりカーテンを使用したりして,空気の通り道や照度につ 6 いて実感させる。 3 「環境をととのえる」 ・毎日を健康で過ごすためには,部屋 の明るさを調節する,換気をするな ど,生活環境を整える必要があるこ とを知る。 ○発展途上国の学校環境の資料を提示し,自分達の学校環境と の違いについて考えさせる。 ○何のために教室環境が変化したのかを考えさせ,自分たちの 生活する環境は,すでに色々な人たちによって整えられてい ることに気付かせる。 ・自分たちの健康を守る人々の活動を 知る。 ◆学校では,児童の健康を守るために様々な人が色々な活動を していることが分かる。 <知・理> ◆自分の生活を見直すことを通じて,生活環境を整えるために 自分でできることに気づき,実践する意欲を持つ。 <関・意・態> (4)指導の結果(第2次第1時の授業の実際) 葛藤を生み出す課題を「きれいに洗えたかどうか,確かめてみよう。(ヨウ素でんぷん反応によ る手洗い実験)」と設定したが,「確かめてみよう」では作業(ヨウ素でんぷん反応による手洗い 実験)の指示になってしまうため,課題として適切ではなかった。今回の手洗い実験の教材につい て,3つの観点から分析した。 一つ目,「教材の特質に迫っていたか」については指導案で述べたように,「手全体」を見て「指 先や爪などの手の部分」に注目できていない子どもたちに,細かい部分に注目させるための手段と して,全員が自分の手洗いをその場でより実感できる教材として適切であったと考える。 二つ目,「葛藤の要因を感じるものであったか」については,染まった手と導入部の菌が体の中 に入って病気になる図を交互に見て,主体的に正しい手洗いを知ろうとし,実習を行っていた部分 では適切であったと考える。ただ,手が染まらなかった少数の子どもに対しては有効でなかった。 他のクラスの指導では,染まらなくても友だちの結果と見比べて不調和を感じていたため,進め方 にも問題があった。染まらなくて良かった,と安心する進め方ではなく「同じようにきれいに見え る友だちの手は染まっていて自分は染まっていないのはどうしてだろう」「染まりやすい部分に共 通点があるのはなぜだろう」と疑問に思わせるような進め方をする必要がある。染まったかどうか ではなく,染まっている部分はどこかに注目させたかったため,話題がそちらに集中し,染まらな かった子どもと染まった子どもの手洗いの仕方を全体の場で比較しなかった。この比較も葛藤の解 消には重要であったと考える。 三つ目,「多様な考えを生むものであったか」については,「確かめてみよう」では多様な考え は生まれない。「きれいに洗えたはずだ」と全員に思わせるところからスタートし,染まった手を 見ることで「実はきれいに洗えていなかった」という結果だけでなく,「染まらなかった友だちと 自分の手洗いの違いはどこか」「なぜ染まりやすい部分に共通点があるのか」「自分は染まった部 分をきちんと洗っていたはずなのにどうして染まっているのか」等の疑問を抱かせたかった。その 答えは手洗いの技能面になる。反省点として,手洗いをいつやるのか(時),なぜやるのか(理由), どのようにやるのか(技能)の三つを一時間に行いたかったため,焦点が絞られていなかった。 以上の分析から,技能面については必ず必要なことであるが,一時間の授業で習得させるのは難 しいと言える。よって,保健学習では(時)と(理由)に焦点を当ててしっかりと知識理解を行った 7 上で,保健指導で一時間本時の手洗い実験を行う等の方法を採用するべきでないかと考える。 代案として,課題は「手洗いをしなくていいのはいつ?」とし,ビデオで A さんの一日(手洗い の場面を意図して盛り込んだもの)を作成する。手洗いのタイミングを考える際には,多様な考え が生まれると想定する。例えば「食事の直前に手洗いしないと,その後にドアノブやロッカーなど 色んな所を触っていてはきれいに洗った手にまた菌が付くかもしれない。」「こんなにたくさん手 を洗うべき機会があって驚いた。」「お金やペットを触った後は手洗いした方が良い。」等,これ らの「いつ(時)」を考える際には「なぜ(理由)」が必ず必要になり,手洗いの特質に迫ることができ, 保健指導で技能面を習得する際にもよりきれいに洗いたいという意欲面にもつながると考える。 4 考察と今後の課題 養護教諭が年間を通して保健学習を担当することで,学年や季節に応じた保健指導 をする際にも保健学習につながる内容,または活かせる内容等,関連を意識して計画 的,継続的に行うことができる。保健室での日々の個別指導に,意図して学級での全 体指導を適宜加えることで,個別指導だけでは得られない効果の広がりや定着につな がることもある。養護教諭の専門性を生かした保健学習を行うこと,それによってよ り担任との連携を強め学校全体としての日常の保健指導を養護教諭がマネージメント するという点では大いに価値がある。ただ全体指導をするにあたって,養護教諭の専 門性を生かした教材分析や保健室での個別の子どもの理解以上に最も必要になるのは, その学年,学級の「児童理解」である。指導者がいくら価値のある教材だと思ってい てもその教材が指導学年の子どもたちに適するかどうか,どのような活用方法が適切 か,細部にわたってどのような進め方が適切か,子どもの反応や指導の結果は想定で きるのか,これらの判断ができない限り教材は生かすことができない。保健行事や全 体での保健指導を行う際にも,各学年・学級の子どもたちの実態,全体としての雰囲 気を理解しようと常々意識し,この内容の指導をしたらどのような反応をするかとい う想定をして子どもたちを見る必要がある。それでもやはりつかみきれない教室での 子どもたちの実態もあることから,担任との連携をより一層強めていくこと,可能な 範囲で始業前や給食時間,授業時間等に教室に入って子どもたちの様子を観察するこ とで,今後は集団の児童理解に努めていきたい。 [引用文献] 1)『授業の心理学をめざして 教授学叢書5』(1975年) 吉田 章宏 国土社 [参考文献] 『小学校学習指導要領解説 体育編』(平成20年8月) 文部科学省 『中央教育審議会答申』(平成20年1月) 文部科学省 『養護教諭が行う保健学習』(平成14年) 東山書房 『エンカウンターでイキイキわくわく保健学習 小学校』(平成14年) 國分 康孝・國分久子 監修 酒井 緑 著 図書文化 8