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July 2011 - フラストレーションが創る新しい物性

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July 2011 - フラストレーションが創る新しい物性
NEWS
LETTER
科学研究費補助金 特定領域研究
フラストレーションが創る新しい物性
Vol.12
Vol.12
July 2011
目 次

巻頭言
• 高山

一
······················································································· 3
研究紹介
• パイロクロア酸化物におけるフラストレーション ······································· 4
松平
和之(九州工業大学大学院工学研究院)
• フラストレートした強相関電子系の電気伝導 ············································· 6
常次
宏一(東京大学物性研究所)他
• リラクサー誘電体における分極クラスターの成長メカニズム ························ 8
松浦
直人(東北大学金属材料研究所)
• パイロクロア磁性体 Tb2Ti2O7 における量子スピン液体状態 ··························· 10
門脇
広明(首都大学東京理工学研究科)
• 磁気多極子液体相における核磁気共鳴の理論 ············································· 12
桃井
勉(理化学研究所)他
• 三角スピンチューブにおけるフラストレーションが誘起するスピン液体状態 ··· 14
真中

浩貴(鹿児島大学大学院理工学研究科)
日‐加ジョイントフラストレーション・ワークショップ
• 報告
································································································ 16
安井
大久保
幸夫(名古屋大学理学研究科)
毅(大阪大学大学院理学研究科)
• プログラム ························································································ 19
-1-

Novel Phenomena in Frustrated Systems
• 報告
································································································ 22
小野瀬

佳文(東京大学大学院工学系研究科)
トピックス
• Mn-O-O-Mn 経路による Mn 蜂の巣格子の磁気フラストレーション ················· 24
和達

大樹(東京大学大学院工学系研究科)
理研一般公開
• 報告
································································································ 26
菊池
彦光(福井大学大学院工学研究科)

成果論文リスト ···················································································· 28

お知らせ ······························································································ 31

編集後記 ······························································································ 32
-2-
巻頭言
巻頭言
高山
一
幾何学的フラストレート磁性体に関する研究は、わが国のお家芸の一つであり、今から四
半世紀以上前から、世界をリードする研究が行なわれてきた。その代表的課題で、最も単純
なフラストレート磁性体の一つが2次元三角格子イジング反強磁性体であろう。最近接反強
磁性相互作用(大きさ J1)だけが存在する場合、長距離秩序相への相転移は有限温度にはな
く、系は絶対零度で巨視的残留エントロピーを伴う多重縮退した基底状態に至る。この系に
次近接強磁性相互作用(大きさ J2)が加わると、その大きさが極めて小さくても(J1 » J2)
、
巨視的な多重縮退は消え、3副格子磁化が整列したフェリ磁性秩序相(図 a)
が J2 程度の温度以下で出現する。
この J1-J2 系を平均場近似で解
析すると、J2 程度ではなく、J1 程
度の温度以下で図 b に示す部分的
無秩序反強磁性相が出現する。た
だし、この結果は厳密な2次元系
に平均場近似を適用したためであ
り、同じ温度領域を数値シミュレ
ーションで調べると、3つの副格
2次元三角格子イジング反強磁性体の
(a)フェリ磁性相と(b) 部分的無秩序反強磁性相
に役割を交代しながら揺らいでおり、部分的無秩序相ではなく、2次元 XY 強磁性模型が示
す”準長距離秩序”と同じ臨界的振舞いを示す相が確認されている。
主たる相互作用が競合するフラストレート系において、副次的な相互作用を付加したとき
に生じる得る新たな秩序相を確定し、様々な”摂動”効果に対して新たな相が示す多様な応答
を解明するというのがフラストレート系物性研究において比較的考え易いアプローチであろ
う。しかし、このような”摂動”効果として調べるためにも、2次元三角格子イジング反強磁
性体の例のように、主相互作用によりフラストレートした非摂動状態の正確な理解が必要と
なる。すなわち、競合している主たる相互作用を担う実体は何か---電子スピン、電荷、軌道、
格子自由度---の見極めが現象理解の第一ステップであり、関連して、各自由度の量子力学特
性や電子間相関効果の正しい理解も必要となる。
本特定領域研究では、三角、カゴメ、パイロクロア格子反強磁性体や、磁性と強誘電性が
結合したマルチフェロイクスなどの様々な幾何学的フラストレート系と、スピングラスやリ
ラクサーなどのランダムフラストレート系とを合わせたフラストレート系全般についての研
究を展開し、この 4 年間で多くの成果を積み上げてきた。領域研究の最終年度に入り、フラ
ストレート系物性に関する、より統括的な描像が構築されることを期待したい。
-3-
研究紹介
パイロクロア酸化物におけるフラストレーション
計画研究「幾何学的フラストレート磁性体の新奇秩序」
九州工業大学工学研究院
松平和之
パイロクロア酸化物における新奇な物性の探索および究明を行っている.最近の
研究からスピンアイス Dy2Ti2O7 におけるスピンダイナミクスと金属絶縁体転移を
示す Nd2Ir2O7 の圧力効果について紹介する.
パイロクロア酸化物は一般式A2M2O7と表
され、AおよびM副格子がそれぞれ独立に正四
面体が頂点共有した格子(パイロクロア格子)
を形成している.パイロクロア格子は三角格
子の3次元版とも言え、強いフラストレーショ
ン効果が期待される系である.
スピンアイス Dy2Ti2O7 におけるスピ
ンダイナミクス
スピンアイスの典型物質 Dy2Ti2O7 は、Dy3+
イオンが<111>の局所的 1 軸磁気異方性を有
した 10 B の大きな磁気モーメント(スピン)
を持っている.これらのスピン間には 1.1 K
の強磁性的な相互作用が働いている.一つの
正四面体に着目するとその頂点にある 4 つス
ピンは、2 つのスピンが内側を向き 2 つのス
ピンが外側を向いた配列“2-in, 2-out”が安
定となる.このスピン配列は 6 通りの自由度
を持っており、実際に Dy2Ti2O7 では系全体と
して巨視的な縮退(スピンアイス)が実現し
ている.近年、その基底状態からの励起が磁
気モノポールによって表されることが明らか
となり[1]、磁気モノポール描像に基づいた研
究が進展している.
これまでにスピンアイス Dy2Ti2O7 のスピ
ンダイナミクスは3つの温度域にて特徴付け
られることが判っている.(1) 15 K 以上:単
一サイトの強い1軸異方性による熱活性型
(エネルギー障壁~220K)の温度依存性.(2)
-4-
スピンアイスの基底状態からの励起は磁気モノポー
ルとして考える事が出来る.
2-15 K:温度に依存しない.これは最近接ス
ピン間の双極子相互作用を通じた量子トンネ
ル過程と理解されている.(3) 2K 以下:長距
離のスピン相関の発達に伴う緩和時間の増大.
最近の磁気モノポール描像による理論的研
究により 0.75 K までの緩和時間の温度依存
性に関して実験との良い一致が得られた[2].
しかし、0.75 K 以下の極低温域では実験、理
論とも十分な理解は得られていない.現在、
Dy2Ti2O7 の 80 mK までの極低温域での詳細
なダイナミクスについて、C. Paulsen 氏(Néel
Institute, Grenoble)と共同研究を進めてお
り、その結果について紹介する[3].
1 K 以下の緩和時間を得るために低周波数
の AC 磁化率に加え、磁化の長時間緩和の測
定を行った.長時間緩和の測定手順は、弱磁
場下にて 1 K から目標温度まで急冷(~600
sec)した後、磁場をゼロにし、磁化の緩和を
測定した.解析の結果、今回の実験結果は長
研究紹介
短2つの緩和時間(S とL)を用いた"2- モ
デル"が最も良くフィットできることが判っ
た.緩和時間の温度依存性は 0.5~1 K の温度
域で熱活性型を仮定すると、エネルギー障壁
エネルギー10 K 弱である.しかし、0.5 K 以
下では、その熱活性型の温度依存性からの抑
制が見られることが判った.これは量子揺ら
ぎの効果と推測している.
緩和時間の温度依存性は解明できたが、2
つの緩和時間(S とL)の起源等、スピンア
Nd2Ir2O7 の相図.MI 転移は加圧により抑制され、新た
イスの極低温ダイナミクスはまだまだ不明で
に強磁性相(秩序化したスピンアイス)が出現する.
あり、測定は現在も進行中である.
モーメントは<111>の局所的 1 軸磁気異方性
を有しており、
強磁性秩序としては 2-in 2-out
金属絶縁体転移を示す Nd2Ir2O7 の圧
力効果
の磁気構造が考えられる.つまり、スピンア
イスの巨視的縮退が解けた"秩序化したスピ
Ln2Ir2O7 は、Ln3+からの 4f 電子が局在モー
ンアイス"が実現していると考えられる.
メントによる磁性、Ir4+からの 5d 電子が電気
伝導性を担っている.我々は従来よりも高品
質の多結晶 Ln2Ir2O7 の合成に成功し、その結
参考文献
果として Ln2Ir2O7 (Ln = Nd− Ho)が温度誘
[1] C. Castelnovo et al.: Nature (London) 451
(2008) 42.
起の金属絶縁体(MI)転移を示す事を明らかに
[2] L. D. C. Jaubert and P. C. W. Holdsworth:
してきた[4].この MI 転移は2次相転移であ
Nature Phys. 5 (2009) 258.
り、Ir の磁気秩序を伴うと考えられる.しか
しながら、MI 転移の機構は未だ明らかではな
[3] K. Matsuhira et al.: in preparation.
く、機構解明に向けた研究を展開している.
[4] K. Matsuhira et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 76
(2007) 043706: to be published in J. Phys. Soc.
その中で最近の成果の一つとして、Nd2Ir2O7
Jpn. (2011).
の圧力効果について紹介する[5].これは大阪
[5] M. Sakata et al.: Phys. Rev. B 83 (2011)
大学極限量子科学研究センターの清水研究室
041102(R)-1-4
との共同研究による成果である.
Nd2Ir2O7 は 36 K にて MI 転移を示す.圧力
の印可により電気伝導性はより金属的になり、
MI 転移は抑制されることが判った.また、中
間温度域では抵抗極小が現れる.注目すべき
は MI 転移は 10 GPa でほぼ消失するが、新
たに 3 K に磁気秩序相が出現する.この秩序
相は Nd の強磁性相であると考えられる.こ
れは圧力下にて MI 転移が抑制され低温まで
2009 年 5 月グルノーブルにて
金属となり、RKKY 相互作用によって Nd モ
松平和之
ーメントの秩序が生じたと考えられる.Nd
九州工業大学工学研究院
-5-
研究紹介
フラストレートした強相関電子系の電気伝導
計画研究「フラストレーションと量子伝導」
東大物性研
佐藤年裕、服部一匡、常次宏一
フラストレートした half-filling 電子系で特徴的におこるモット金属絶縁体転
移の臨界点近傍における電気伝導の特徴を最近発展している新しい数値計算法
によって研究した。三角格子ハバード模型の結果を紹介する。
量子伝導班ではフラストレートした結晶構
があると、実効的な磁気エネルギースケール
造を持つ金属系の実験・理論研究および磁性
J*は J よりさらに小さく抑制されます。もち
絶縁体のスピン輸送の研究を行っています。
ろん、強相関効果によって電子が繰り込まれ
本記事では、我々の研究室で現在行っている
て形成される準粒子の有効バンド幅 W*も裸
フラストレート格子上のハバード模型の光学
の値 W より小さくなっています。フラストレ
伝導度の研究を紹介します。
ーションを含んだこれらの強相関効果を反映
する電子のダイナミックスの代表的な物性と
伝導電子系のフラストレーション
効果
電子が動いていてもフラストレーションっ
して、電気伝導を研究しています。
モット金属絶縁体転移
てあるのですかという質問をよく受けます。
よく研究されている典型的なフラストレーシ
電子密度が half filling で電子間斥力がバン
ョン系はスピン系です。金属については伝統
ド幅より十分大きくなるとおこるモット金属
的な見方に従い、状態密度に代表される一番
絶縁体転移は、もともと磁気秩序などの自発
大事な特徴であるフェルミエネルギー付近の
的対称性の破れをなにも伴わない転移として
電子構造が似ていれば、結晶構造がフラスト
提唱されました。この場合にはまさにフラス
レートしているかどうかは大事ではないと思
われるかもしれませんが、フラストレーショ
ン効果が大きな役割を果たすと期待される場
合があります。それは電子間斥力 U の強い強
相関電子系です。この場合には、強相関効果
によって磁気励起のエネルギースケール J が
電子のバンド幅 W に比べると、W/U のオーダ
ーで小さくなります。また、強相関効果があ
ると電子の伝搬のコヒーレンスが抑制される
ため、磁気励起は近距離の反強磁性相互作用
が支配的になります。この時、結晶構造がフ
ラストレートしているかどうかが本質的に大
事になってきます。フラストレーション効果
-6-
図1 三角格子ハバード模型の光学伝導度。3サイ
トクラスターを用いた CDMFT 法による計算結果。
周波数ωの単位は t.
研究紹介
度に最も近い温度ですが、ドルーデピークの
消失が劇的におこっていることが特徴的です。
より詳細に解析するため、光学伝導度の中
でコヒーレントなドルーデ部分を分離して、
その重み D と幅 1/ の U 依存性を図2に示
します。2つ重要な点があります。1つは U
を増大させる時に、通常の期待と異なり、金
属絶縁体点移転に向かって幅が広がり絶縁体
になるのではなく、逆に幅は狭くなっている
図2 臨界点近傍のコヒーレント部分の U 依
存性。T/t=0.09, U=U9.35t
ことです。2つめは、ドルーデ重み D の消失
が U について非線形におこっているように見
トレーションが本質的に重要となる物理です。
えることです。U>0 の領域では D=0 である
温度-圧力相図でモット転移は1次転移の線
ことに注意ください。計算している温度は臨
を成しますが、その臨界終点において転移は
界温度にジャストフィットは未だしていませ
連続となり普遍的な特徴が現れることが期待
んが、非常に近い温度になっています。した
されます。我々のグループでは現在、三角格
がって、このデータは D ~ (U) というス
子やカゴメ格子などの幾何学的にフラストレ
ケール則を考えると、臨界指数μが1よりも
ートした格子上のハバード模型について、電
かなり小さな値をとることを示しています。
気伝導度がこのモット臨界終点近傍で周波数
これは、周波数依存性を拡張ドルーデ形式で
依存性も含めてどのような特徴を持つかをク
解析すると、転移点に向かって有効質量が増
ラスター動的平均場(CDMFT)と呼ばれる数値
大していくことが主要な変化となっているこ
的手法を用いて研究しています。
ととも一致しています。さらに、臨界点近傍
臨界点近傍の光学伝導度
の周波数依存性が非自明なベキ則に従うこと
を示唆する興味深い結果も得られました。こ
図1は臨界点近傍で温度を T=0.09t に固定
れらはモット臨界点の伝導現象の大きな特徴
して U を変化させたときの三角格子ハバード
であると考えられますが、頂点補正を取入れ
模型の光学伝導度の周波数依存性の変化を表
た現在進行中のより進んだ解析を含めて、別
しています。t は隣接サイト間の電子のホッピ
の機会に詳しく紹介したいと思います。
ング積分で、電子間に斥力がない場合のバン
ド幅は W=9t となります。臨界終点は U/t が
9.3 と 9.4 の間にあり、そこでは磁気不安定性
はおこっていないことが知られています。U
が 9.3t 以下の金属領域では、低周波領域にい
わゆるコヒーレント伝導を表すドルーデピー
クがありますが、U が 9.4t 以上になると消え
て、ハバードバンドを反映するω~6t 付近のイ
ンコヒーレント伝導ピークのみが残ります。
フラストレーション効果を反映して、臨界温
左から佐藤年裕、常次宏一、服部一匡
東京大学物性研究所
度はバンド幅の1%程度しかない低温になっ
ています。今の温度は計算した中では臨界温
-7-
研究紹介
リラクサー誘電体における分極クラスターの成長メカニズム
計画研究「フラストレーションとリラクサー」
東北大学金属材料研究所
松浦直人
リラクサー誘電体において重要な役割を果たしている分極クラスターの成長メ
カニズムについて、中性子散乱の実験結果から、従来の変位型、秩序無秩序型か
らのアプローチとは異なる成長メカニズムを提案する。
リラクサー誘電体はその巨大な誘電応答や
圧電性から応用、基礎両面で盛んに研究が行
TA
われている。リラクサー誘電体を作る重要な
レシピの1つに、不均一性がある。不均一性
による長距離秩序の阻害の代わりに生じる局
所的な分極クラスター領域(polar nanoregion:
TO
PNR)がリラクサーの特異な性質:巨大な誘
電率や 10 桁以上に及ぶ誘電緩和、ブロードな
温度依存性に重要な役割を果たしていると広
く認識されている。つまり、PNR の成長メカ
ニズムの解明がリラクサー誘電体の特異な温
度依存性を重要な解く鍵となっている[1]。
これまでに、PNR の成長メカニズムに対し
て、実験からは変位型、秩序無秩序(OD)型、
の 2 つのアプローチがなされてきた。中性子
散乱では変位型の特性モードであるソフトモ
ードの探索が行われ、充分高温ではソフト化
する横波光学(TO)モードが見出された[2]。一
方で OD 型に特有な準弾性散乱(緩和モード)
が観測されており[3]、それぞれ 変位型もし
くは OD 型の機構が重要と主張している。し
かし、リラクサーは“不均一”な系である。
我々はこれら 2 つのアプローチは、ヘテロな
リラクサー誘電体の 2 つの面をそれぞれ見て
いると考えている。
(変位型:PNR 外の cubic
領域、OD 型:PNR 内、もしくは PNR 同士の
相関)
我々は不均一な構造において、それ
ぞれの領域からの特性モードを考慮し、中性
子散乱実験データの解析を試みた。
図 1
[1-10]方向の横波音響(TA)モード、横波光学
(TO)モードのスペクトラムの温度依存性。
図
1
に リ ラ ク サ ー 誘 電 体
0.7Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-0.3PbTiO3 で測定した横波
音響(TA)モード、横波光学(TO)モードのスペ
クトラムを示す。10meV 付近の TO モードは
高温では過減衰気味だが、温度を下げると共
にハード化して常減衰状態に戻る。一方で
4meV 付近の TA モードは高温では常減衰状態
にあるが、低温で過減衰状態に至る。
フォノンモードの過減衰は、フォノンが他
のモードと結合して寿命が短くなっている為
に起こる。TO モードの過減衰が PNR 生成と
共に起こる事、それと同時に PNR 内の緩和モ
ードが観測されている事などから、モード結
合の相手は PNR 内の緩和モードと考えるの
が自然である。緩和モードとフォノンモード
-8-
研究紹介
図3
PNR 成長メカニズムの模式図
ードが過減衰状態になり、変位したきり元の
cubic の位置に戻って来ない。そのような状態
が測定手段の time scale よりも長ければ、その
領域は PNR として観測される。つまり、PNR
周辺のソフトモード(cubic)領域が PNR の緩和
図2
モードに喰われる事で PNR が成長している
[1-10]方向の TA モード、TO モードと緩和モー
と言える。
ドの分散関係。
PNR が十分大きくなると、緩和モードはよ
の 結 合 を 取 り 入 れ た 山 田 に よ る
り遅くなり、フォノンモードとのカップリン
pseudospin-coupled model [4]によりフォノン
グが外れ、ソフトモード的な振る舞いが復活
スペクトラムを解析した所、図 2 に示すよう
する事が予想される。逆にリラクサーの特異
な緩和モードを見出した。pseudospin-coupled
な緩和現象は、成長が止まってしまう PNR に
model によれば、緩和モードとフォノンモー
おける緩和モードとフォノンモードの結合に
ドは周波数が近い領域で、フォノンは強く減
よってもたらされていると言える。
衰を起こす。図1の高温における TO モード
我々の提案した新しい PNR 成長メカニズ
の過減衰、低温における TA モードの過減衰
ムは、リラクサーにおけるブロードな緩和現
は、PNR における緩和モードとの結合でよく
象を定性的に説明できるのみならず、変位型
説明できる。緩和モードは温度を下げると共
と秩序無秩序型 2 つ
に slowing down を起こすが、その振る舞いは
のアプローチをつな
PNR の相関長の成長とほぼ反比例しており、
ぐものとなっている。
PNR の成長と共に緩和モードが遅くなる事を
最後に、リラクサーの
示している。
図 3 に PNR 成長メカニズムの模式図を示す。
ここでは菱面体晶の<111>方向の分極(Pb 原
子の変位)を仮定している。PNR 外部では、
cubic 構造の格子点を中心に<111>方向に振動
しているソフトモードが、PNR 内部では<111>
変位を安定化させる potential 障壁によって緩
研究へ導いて頂いた
故廣田和馬先生(阪
大)に深く感謝申し上
げます。
松浦直人
東北大学金属材料研究所
[1] J. Mater. Sci. 41, 31 (2006).
和モードになる。PNR 周辺(図のグレーゾー
[2] Phys. Rev. Lett. 84, 5216 (2000).
ン)においてもモード結合により、ソフトモ
[3] Phys. Rev. B 69, 92105 (2004).
[4] J. Phys. Soc. Jpn 36, 641 (1974)
-9-
研究紹介
パイロクロア磁性体 Tb2Ti2O7 における量子スピン液体状態
公募研究「フラストレート系におけるトポロジカルな励起」
首都大学東京理工学研究科
門脇広明
パイロクロア磁性体 Tb2Ti2O7 は、50mK まで短距離スピン相関しか示さない常磁性
状態に留まるが、この系はなぜ長距離秩序を持たないのだろうか?我々は、低エ
ネルギー磁気励起を中性子非弾性散乱法により調べ、0.4K で何かのクロスオーバ
ーが起こり、0.3K 以下で量子スピン液体といえる基底状態になることを発見し
た。
この3月に、NIST に行って中性子非弾性散
極子相互作用を導入して、Tb2Ti2O7 を古典ス
乱実験を希釈冷凍機温度まで行って来た。そ
ピン系として理論的に考察すると、約 1.2 K
こで目撃したエネルギースペクトルは、今迄
で反強磁性相転移をするという結果が出る
に見た事もない不思議な形状を示していたた
[3]。これでは、最近接スピン間の距離までし
め、非常に驚き、何かの大発見をしたような
か、スピン相関が発達しないという中性子回
気分であった。その後、あれこれ考えて論文
折の実験事実[2,5]との不一致が大きい。
を書いたので[1]、ここで紹介したい。
最近、結晶場励起二重項(18K)への仮想励
パイロクロア磁性体(図1a)Tb2Ti2O7 は、
起を取り入れる形に理論をモデルチェンジす
キュリーワイス温度-19K に比較して十分低
ると、Tb3+のスピンはパウリ行列(Seff=1/2)
温の 0.05K まで磁気長距離秩序を示さない状
で表され、実効的ハミルトニアンは Dy2Ti2O7
態であることが報告されている[2]。ミューオ
などのスピンアイスモデルに非対角成分のス
ンと中性子の実験データは、0.1K でも 90%以
上のスピンが揺らいでいることを示すため、
正四面体ネットワーク構造から期待される幾
何学的フラストレーションに起因する古典的
スピン液体状態(協力的常磁性状態ともいわ
れる)として理解できるだろうと、1999 年か
ら言われてきた[2,3]。しかし、Tb2Ti2O7 はな
ぜ長距離秩序を持たないのか?フラストレー
in
ションは働くのか?基底状態は何なのか?と
いう問題は難しく、その解明には今後の発展
out
を待つ必要がある。
Tb3+の磁気モーメントは、低温においては、
J=6 の結晶場基底二重項を表現する容易軸型
のイジングモデルで近似され、Tb3+スピンは、
正四面体の中心方向またはその逆向きを向く
(若干の傾きは可能)[3]。交換相互作用と双
- 10 -
図 1. (a) パイロクロア磁性体 Tb2Ti2O7 の Tb サイトのみを描
いた構造。Tb3+スピンは低温において、異方性により正四面
体の中心またはその反対方向を向く。図の矢印は同じ構造
と異方性を持つスピンアイス Dy2Ti2O7 の縮退した基底状態
の各四面体における 2-in-2-out 構造を表す。(b)量子スピンア
イ ス状態 [4]は、 ひとつ の四面 体にお ける6 個の可 能な
2-in-2-out 構造の量子論的な重ね合わせで表される。これは
一種の量子スピン液体状態である。
研究紹介
ピンフリップ項を付け加えた形になることが
Dy2Ti2O7 の磁気散乱は、この実験の分解能
示された[4]。この量子スピンモデルなら、ス
(0.06meV FWHM)では弾性散乱として観測さ
ピンアイスのフラストレーション機構が働く
れるので、Tb2Ti2O7 の 0.1K における非弾性散
であろう。四面体ひとつに限った数値計算で
乱は、[4]で導入されたスピンフリップ項が働
は、量子スピンアイスといえる基底状態が得
いてマクロな縮退が解け、量子揺らぎを持つ
られるので(図1b)、Tb2Ti2O7 を量子スピン
量子スピン液体というべき基底状態に凝縮し
アイス状態として理解する可能性が提案され
ていることを示すと考えられる[1]。
ている[4]。
この実験では非常に面白い結果が得られた
Tb2Ti2O7 は実験的にもなかなか難しい。0.1K
と同時に、新しい疑問も湧いて来た: 0.4K
において 90%以上のスピンが揺らいでいると
で起こることは、いったい何なのか?量子ス
いうスピン液体状態を支持する実験結果[2]
ピンアイス状態として理解して本当に良いの
と、長距離秩序はないものの、0.4K では 50%
か?励起状態はスピンアイスにおける磁気モ
程度のスピンが凍結状態にあるという矛盾す
ノポールの量子版なのか?等々。今後の発展
る実験結果[5]が報告されている。Tb2Ti2O7 に
を期待したい。
関する多くの実験報告を調べると、Tb2Ti2O7
[1] H. Takatsu et al. arXiv:1106.3649. [2] J.S. Gardner
et al. Phys. Rev. Lett. 82, 1012 (1999), Phys. Rev. B 68,
180401 (2003). [3] M.J.P. Gingras, Phys. Rev. B 62,
6496 (2000); M. Enjalran and M.J.P. Gingras, Phys.
Rev. B 70, 174426 (2004). [4] H.R. Molavian et al.
Phys. Rev. Lett. 98, 157204 (2007). [5] Y. Yasui et al. J.
Phys. Soc. Jpn. 71, 599 (2002).
がスピン液体状態であると主張する重要な実
験はすべて多結晶サンプルで行われている。
また、結晶を用いた実験はサンプル依存性が
大きく解釈が難しいことが読み取れる。そこ
で、多結晶サンプルならこの系のスピン液体
状態を調べることが可能だろうという予想を
立てた。もし量子スピンアイス仮説[4]が正し
いとすると、Tb2Ti2O7 はスピンアイスのマク
ロに縮退した基底状態が、スピンフリップ項
により縮退がすべて(あるいは部分的に)解
け、有限エネルギー幅([4]の見積りでは 0.5K
程度)の状態密度が形成される。中性子非弾
性散乱実験により、この状態密度を反映した
エネルギースペクトルとその温度変化が観測
図 2. 中性子非弾性散乱スペクトル。波動ベクトル Q=0.8
Å-1 におけるエネルギースキャンの温度変化を示す。0.3K
以下のスペクトル形状は見慣れない不思議な形である。
できるだろう。
低温領域において実験を行い、観測したエ
ネルギースペクトルの温度変化を図2に示す
[1]。0.4K 付近でクロスオーバーが起こり、
高温域(1.5K)の熱揺らぎによる E=0 にピーク
を持つ準弾性散乱スペクトルから、低温域
(0.3K 以下)の量子スピン揺らぎを意味する非
弾性散乱スペクトルへと変化する様子が分か
る [1]。スピンアイス(古典スピン液体)
Tb2Ti2O7 の低温(3-100 K)X 線回折パターンを測定中
門脇広明(左)&後藤和基(右) 首都大理工
- 11 -
研究紹介
磁気多極子液体相における核磁気共鳴の理論
公募研究「低次元フラストレート系における
カイラル及び多極子秩序とその動的観測量」
青山学院大 1、群馬大 2、理研 3
佐藤正寛 1、引原俊哉 2、桃井
勉3
強磁性最近接相互作用 J1 と反強磁性次近接相互作用 J2 を持つ J1-J2 スピン鎖に磁
場を加えると、非常に広いパラメータ領域で 3 種類の磁気多極子液体相(4,8,16
極子)が現れることが理論的に示されている。幸運なことに対応する擬 1 次元銅
酸化物磁性体も幾つか存在する。標準的な実験で磁気多極子を直接観測すること
は難しいが、核磁気共鳴緩和率に多極子相の特徴が現れることを予言できる。こ
の特徴は磁気多極子相の探索に役立つと考えられる。
す。つまり、スピン 1/2 の多極子秩序は本質
磁気多極子とフラストレーション
重い電子系では昔から電気・磁気多極子秩
序が盛んに議論されているが、近年、格子上
のスピン模型や実際の磁性体においても磁気
多極子秩序(の可能性)が精力的に研究されて
的に多体問題と言える。サイトではなくボン
ド上に秩序が定義されることは、重い電子系
や冷却原子系の多極子と質的な違いである。
スピン 1/2 の J1-J2 ジグザグ鎖
いる。N 次の磁気多極子秩序変数(オーダーパ
ここから我々が最近研究している強磁性最
ラメータ)は N(≧2)個のスピン演算子 Sj のテ
近接相互作用 J1(< 0)と反強磁性次近接相互作
ンソル積で定義される。以下、N 次の秩序変
用 J2(> 0)を持つフラストレートスピン 1/2 鎖
数が有限の値を持ち、かつ、N-1 次以下全て
について考えよう。近年、この J1-J2 鎖におい
の秩序変数の値がゼロの状態を、N 次の多極
て Sz 方向に磁場 H を印加すると、飽和磁場近
子状態と呼ぶことにしよう。例えば空間反転
傍の非常に広い 2 次元パラメータ空間(J1/J2 ,
について対称な 2 次多極子状態(スピンネマテ
H)で 2、3、4 次の磁気多極子(4、8、16 極子)
ィック状態とも呼ぶ)の実現には、〈Sj+Sj+1+〉
演算子 Sj+Sj+1+、Sj+Sj+1+ Sj+2+、Sj+Sj+1+ Sj+2+ Sj+3+
が有限であると同時に、スピン(双極子)モー
が反強的な準長距離秩序を示すことが明らか
メント〈Sj〉がゼロである必要がある。一方、
にされた[1,2]。基底状態相図を図 1 に示す。
標準的な磁性体は十分低温で〈Sj〉が有限の
磁場と垂直面内のスピンで構成された複数サ
値をもつため、多極子状態を発現させるには、
イトに渡る多極子秩序が発現していることに
通常の磁気秩序化を抑制する必要がある。故
注意されたい。この 3 相では、多極子と共に
に、フラストレートスピン系は、磁気多極子
磁場方向のスピン Sjz も非整合な準長距離秩
状態を実現する有望な候補として期待される。
序を示すが、磁場と垂直面内のスピン Sjは
スピン 1/2 の系
指数関数型の短距離相関である。つまり 1 マ
ここで、スピン 1/2 の磁性体の磁気多極子
秩序を考えよう。スピン 1/2 演算子は 2 乗す
ると定数になるため、磁気多極子秩序変数は
必然的に異なる複数サイトのスピンの積で定
義されることになる。これが有限になるには
当然サイト間の相互作用が重要な役割を果た
- 12 -
グノン励起に有限のギャップが存在する。そ
れぞれ、マグノン 2 個、3 個、4 個の束縛状態
が凝縮することで 2、3、4 次の多極子相が形
成される[1]。通常の 1 次元量子磁性体では 1
マグノンが凝縮して朝永ラッティンジャー
(TL)液体相が実現するが、J1-J2 鎖の場合はマ
研究紹介
グノン束縛状態の液体が実現するのだ。この
らかにした[3,4]。3 つの多極子 TL 液体相では
意味で、我々はこの 3 相を 2、3、4 次の磁気
多極子相関が支配的な高磁場領域と、非整合
多極子 TL 液体相と呼ぶ。
Sz 相関が支配的な低磁場領域の間に、クロス
幸運なことに、この単純なフラストレート
オーバー曲線が存在する。この曲線を境にし
J1-J2 模型で記述されると思われる擬 1 次元銅
て 1/T1 も振舞を変え、低磁場側では低温で
酸化物磁性体が多数(LiCuVO4、Rb2Cu2Mo3O12、
1/T1 は発散するが、高磁場側では 1/T1 はゼロ
PbCuSO4(OH)2 など)知られている。これらの
に向かう(図 2(a))。これは、通常の TL 液体(図
磁性体に磁場を加えることで多極子液体相が
2(b))では磁場によらず常に低温で 1/T1 が発散
実現できると期待される。
することと明確に異なる。この振舞は多極子
磁気多極子液体の特徴付け
液体に 1 マグノンギャップが存在することに
由来する。このような 1/T1 の振舞が観測され
紙面の残りが少ないが、ここからが本題で
れば、多極子液体相の強い(間接的)証拠と言
ある。J1-J2 鎖の多極子液体相を実験でどのよ
えよう。これに加え、1/T1 の磁場依存性[4]や
うに検出したらよいだろうか。直接、多極子
動的構造因子のピーク位置[3]にも多極子 TL
の情報を得るには、例えば 4 極子の場合
液体の特徴が現れることが分かった。最近、
〈Sj+Sj+1+ SkSk+1〉のような 4 点相関を観測す
LiCuVO4 では高磁場・低温で 3 次元スピンネ
る必要がある。しかし標準的な実験手段では
マティック秩序の可能性が指摘されている
普通 2 点相関の情報しか得られない。多極子
[5]。今後のさらなる実験の進展が期待される。
は捕まえにくい秩序なのだ。我々は標準的な
実験手段で如何に多極子液体の特徴付けが可
[1] T. Hikihara et al., PRB 78, 144404 (2008).
能かを検討した。前述のように J1-J2 鎖の多極
[2] J. Sudan et al., PRB 80, 140402(R) (2009).
子 TL 液体相は通常の磁場誘起 TL 液体相の拡
[3] M. Sato et al., PRB 79, 060406(R) (2009).
張と言える。それ故、熱力学量の振舞は両者
[4] M. Sato et al., PRB 83, 064405 (2011);
で非常に似ている。磁化曲線はなめらかで比
arXiv: 1101.1375.
熱は温度の 1 次で増加する。”普通”の TL 液体
[5] L. Svistov et al., JETP Lett. 93, 24 (2011).
と多極子液体とを区別する方法が重要になる。
我々は核磁気緩和率 1/T1 の温度・磁場依存
性に多極子液体固有の特徴が現れることを明
図 2: 1/T1 の温度依存性; (a) J1-J2 スピン鎖の 2 次多極子
(ネマティック)TL 液体相、(b)スピン 1/2 反強磁性鎖。
(a)では、1/T1 の振舞が高磁化と低磁化で明らかに異なる。
図 1:強磁性 J1 と反強磁性 J2 を持つスピン 1/2 鎖の磁
場中基底状態相図。縦軸が磁化 M=〈Sjz〉、横軸が J1/J2。
青、緑、黄が各々4,8,16 極子 TL 液体相。赤がカイラ
ル秩序相である。4, 8 極子液体相中には、多極子相関
が強い高磁場領域と S
z
スピン相関が強い低磁場領域
の間のクロスオーバー曲線を示している。
左から、佐藤(青学)、引原(群馬大)、桃井(理研)。
- 13 -
研究紹介
三角スピンチューブにおけるフラストレーションが誘起する
スピン液体状態
公募研究「三角スピンチューブにおける新奇な磁気状態の解明」
鹿児島大学大学院理工学研究科
真中浩貴
三角スピンチューブでは, 三角形内における幾何学的スピンフラストレーション
と, 三角形が積み重なって繋がる一次元性の特徴が共存する。最近, 三角スピン
チューブのモデル物質 CsCrF4 とα-KCrF4 の作製に成功した。これら 2 種類の化
合物では, 結晶学的な僅かな違いが原因となって, スピン液体状態と反強磁性秩
序状態という相反する基底状態が実現した。
幾何学的スピンフラストレーションによっ
て誘起される新しい物理現象の研究は, 古く
て新しい問題として活発に研究が行われてき
た。二次元系(三角格子, カゴメ格子)や三次元
系(パイロクロア格子)の研究では枚挙にいと
まがない。一方, 一次元系では近年, 三角スピ
ンチューブに関する理論研究が精力的に行わ
れ て き た [1] 。 実 験 的 に は Na2V3O7 や
図 1 CsCrF4 の結晶構造。
[(CuCl2tachH)3Cl]Cl2 が候補物質として報告さ
れている。しかし結晶構造が複雑なため, 三
相互作用の大きさは全て同じとなるため, 3 ス
角スピンチューブ構造と磁気状態との関連性
ピンの拮抗状態は絶対零度の極限でも保たれ,
の議論には適していなかった。
反強磁性秩序は起こりづらい。その結果, ス
ピン液体状態が実現する。
正三角スピンチューブ
図 2(a)には比熱(Cp)の温度(T )依存性の測定
結晶構造が単純な正三角スピンチューブの
結果を示す。CsCrF4 の結果(●)を見れば分か
候補物質として図 1 に示すような CsCrF4 の作
るように, 1.5 K までの測定では磁気相転移を
製に成功し, その磁気状態を報告した[2]。本
示唆する異常はない。帯磁率から見積もった
化合物は Cr 3+イオンが S = 3/2 を担い, その Cr
ワイス温度(-145 K)から frustration factor は
原子が ab 面内で正三角形を形作り, さらにそ
100 を超え, 強いフラストレーションを内包
の正三角形がねじれることなく c 軸方向に積
している事がわかった[3]。
み重なることで正三角スピンチューブを形成
図 2(b)には Cp(T ) / T vs. T 2 プロットを示す。
する。Cs 原子はスピンチューブ間に入り込み
この結果より, CsCrF4 ではγ> 0 であること
チューブ間に大きなスペースを作るため,
が分かった。(もしスピン液体状態が実現する
CsCrF4 は互いにほぼ独立したスピンチューブ
ならば, 絶対零度の極限においてもスピンは
の集まりと見なせる。正三角形内の反強磁性
揺らいでいるためγ> 0 となるはずである。)
- 14 -
研究紹介
Cp [ J / (mol K)]
1.5
CsCrF4
α-KCrF4 TN2 = 4.0(1) K
1.0
TN1 = 2.5(1) K
0.5
H=0
(a)
1
2
0.08
2
Cp / T [ J / (mol K )]
0.0
0
0.06
3
T (K)
4
5
6
図 3 α-KCrF4 の結晶構造。
(b)
H=0
におけるスピン構造は 120 度構造からずれて
0.04
CsCrF4
いる(148 度, 139 度, 73 度)[4]。さらにこの磁
0.02
Cp / T = γ + A T 2
γ= 7.8 mJ / (mol K2 )
A = 5.4 mJ / (mol K4 )
8 2
2
T (K )
より, frustration factor は 18.8 となった[3]。
0.00
0
4
12
気構造から ME 効果も期待されている[5]。帯
磁率から見積もったワイス温度(-75 K)と TN2
16
三角スピンチューブの研究はまだ緒につい
図 2 (a) CsCrF4 とα-KCrF4 の比熱の温度変化。
たばかりであり, 実験・理論両面からの今後
(b) Cp(T ) /T vs. T 2 プロット。
の発展を期待している。本研究は鈴鹿工業高
等専門学校の三浦陽子氏との共同研究である。
さらに帯磁率や磁化曲線がギャップレスな基
参考文献:
底状態を示したため, resonating spin-singlet
[1] 本特定領域 News Letter 7 (2009) 14 に坂
pairs が実現していることが示唆された[3]。
井氏による review が掲載されている。その他,
歪んだ三角スピンチューブ
文献[3]の参考文献を参照。
正三角形の三辺のうち一辺でも短く(長く)
なると, 3 スピンの拮抗状態が解消され, 反強
磁性秩序が起こりやすくなる。このような目
的で, 歪んだ三角スピンチューブα-KCrF4 の
作製にも成功した。図 3 にはα-KCrF4 の結晶
[2] H. Manaka 他: JPSJ 78 (2009) 093701.
[3] H. Manaka 他: JPSJ 80 (2011) 掲載決定.
[4] P. Lacorre 他: JMMM 66 (1987) 219.
[5] G. Nenert and T. T. M. Palstra: J. Phys.:
Condens. Matter 19 (2007) 406213.
構造を示すが, CrF6 八面体が ac 面内で僅かに
歪んだ三角形を形作り, その三角形がb軸方
向に twist しながら積み重なることでチュー
ブを形成する。粉末 X 線構造解析により, ac
面内の Cr-Cr-Cr 三角形の内角は 60 度から僅
かにずれ, 59.24(5) 度, 59.41(6) 度, 61.34(6) 度
となっていることを明らかにした[3]。
図 2(a)に示したα-KCrF4 の比熱の結果(▲)
より, TN1 = 2.5(1) K と TN2 = 4.0(1) K で磁気相
転移を起こすことが分かった[3]。Lacorre ら
氏名:真中
による中性子磁気散乱の結果によれば, 1.5 K
所属:鹿児島大学大学院理工学研究科
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浩貴
会議報告
日加ジョイントワークショップ
会議報告
MEXT/CIFAR Program on Frustrated Magnetic and Other Systems
2011 年 5 月 28 日~31 日、カナダ・バンクーバーにおいて、日加ジョイントワークショップ
が開かれました。5 月 28 日は、
“Aspects of Frustration in Strongly Correlated Electrons and Spin
System”をテーマに、カナダ CIFAR の Quantum Materials 分野の研究者と、日本のフラストレー
ション特定領域の研究者とのジョイントセッションでした。招待講演も含めて一日で講演は 5
件と少ないですが、その分、現在ホットな研究テーマについて一人1時間、丁寧かつ詳しく講
演がなされ、理解が大変深まりました。詳しいタイトルは後述するプログラムを見ていただき
たいのですが、講演の主なキーワードは、spin ice, Mott transition in frustrated system, quantum spin
liquid, quantum criticality 等、興味が惹かれる講演ばかりでした。翌日の 5 月 29 日から 5 月 31
日が、カナダ CIFAR のフラストレーション分野の研究者と、日本のフラストレーション特定領
域の研究者とのジョイントワークショップでした。フラストレーションといっても研究対象は
多岐に渡りますが、リラクサー絡みの研究者は別の会議に参加するらしく、本ワークショップ
ではパイロクロア格子や三角格子、カゴメ格子などフラストレーションを持つ磁性に関する研
究や磁気構造起源の強誘電性(マルチフェロイック)に関する研究の講演が多く、磁性の研究
者が興味を持つようなホットな研究テーマが盛りだくさんでした。参加者はきちんと数えたわ
けではありませんが、おおよそ 60 人前後だったと思います。ワークショップのスケジュールに
ついて、日本で研究会を開く場合は一人でも多くの研究者にオーラル発表の機会を与えようと、
朝から夜までびっしりと講演が並び非常にタイトなスケジュールになることが多いですが、本
ワークショップではカナダのお国柄もあると思いますが coffee break や lunch に十分な時間が割
かれており、日本の会議ではあり得ないような大変ゆとりのあるスケジュールでした(朝の開
始時間が 8 時 25 分からというのも日本ではあ
まり見受けられず、カナダのお国柄でしょう
か)
。coffee break や lunch の時間も会場や廊下
の至る所で議論がなされていて、大変楽しい
時間をすごしました。ワークショップ期間中
のバンクーバーは毎日どんより曇っていて
時々小雨が降るという天気で、晴れ間がのぞ
いたのはわずかな時間だけでした。雨がちの
天気と言っても湿度が低いせいか、大変過ご
しやすかったと思います。以下に印象に残っ
た主な講演を記載します。
フラストレーション系の代表であるパイロクロア化合物 A2B2O6O’ (A=稀土類元素、B=遷移金
属元素)に関する講演が多く、その基底状態や磁気相関、さらには低温での磁気的振舞いに熱い
議論がなされました。最も興味深かったテーマは、spin ice 系 Ho2Ti2O7 及び Dy2Ti2O7 を舞台に
- 16 -
会議報告
して現れる monopole の揺らぎや励起現象を捉
えようとする研究です。高精度の交流磁化測定
装置を開発して monopole の揺らぎや緩和を捉
えようとしたグループもあれば、SR を用いた
実験や、独自に開発した計算手法を用いた理論
グループもあり、必ずしも現時点で全ての結果
がコンシステントになっているわけではありま
せんが、実験プローブが異なれば見え方も違う
ことも踏まえて、今後どのような形でスピンア
イス系の monopole の振舞いが統一的に理解さ
れるかとても楽しみになりました。パイロクロア格子だけではなく、磁気フラストレーション
を示すものとして良く知られている三角格子やカゴメ格子、さらにはハニカム格子(最近接相
互作用だけではフラストレーションは生じないが、次近接以遠の相互作用によりフラストレー
ションが生じる場合がある)を持ついろいろな物質系の特異な磁気的挙動を明らかにしようと、
中性子回折、ESR、強磁場実験、磁化率、誘電率、ホール効果の測定など様々な実験手段によ
り研究され、フラストレーション研究の広がりの大きさと奥深さを感じました。
会議では、フラストレート磁性体の研究において、理論的・実験的に大きな興味を集めてい
る量子スピン液体についても活発な議論が行なわれました。有機三角格子反強磁性体について
NMR や比熱の測定による実験結果が報告された他、スピノン描像に基づく gapless な量子スピ
ン液体理論の講演が行われ、そのような量子スピン液体が現実の物質で実現している可能性の
議論がなされました。また、Pr2Ir2O7 でのカイラルスピン液体状態の可能性を示唆する異常ホー
ル効果の報告に加えて、psudespin-1/2 モデルに基づくスピン液体状態の理論の話題もあり、パ
イロクロア格子磁性体におけるスピン液体も注目を集めた話題でした。
また、Bi3Mn4O12(NO3)を念頭においた、フラストレートしたハニカム格子磁性体について複
数の講演がありフラストレーションによる長距離秩序の抑制や磁場による反強磁性秩序の誘起
についての理論的な研究が報告されました。会議中には、別のフラストレートしたハニカム格
子磁性体候補として Na2IrO3 の実験も報告されており、フラストレート系としてのハニカム格
子磁性体の研究の進展が楽しみです。
これらフラストレート系の典型例である磁性
体の研究に加え、トポロジカル絶縁体、フラス
トレートした局在スピンと伝導電子の結合系等、
興味深いテーマでの講演が行なわれた他、液体
のガラス転移についても複数の講演がありまし
た。局所的に好まれる構造では全空間を隙間な
く埋め尽くせないという幾何学的なフラストレ
ーションが液体にも存在しており、このような
フラストレーションとガラス転移の関係が議論
されました。会議で幅広い内容の講演に触れ、
- 17 -
会議報告
フラストレーションという概念の普遍性の高さを再認識できました。
2009 年の 5 月にフランス・リヨンで開かれた欧州 ESF の"Frustration Network"とのジョイント
会議に引き続き、この日加ジョイントワークショップは、本特定領域研究と海外の研究コミュ
ニティーとの二回目のジョイント会議になりました。三年の間に、日欧、日加とフラストレー
ションをキーワードにした共催の会議が二度も開催されたことは、特定領域研究が走っている
日本のみならず、世界的にもフラストレーションという概念が大きな注目を集めているという
実感を抱かせます。このような状況で、日本、カナダのみならず世界の最先端の研究にも触れ
ることができた本国際会議はとても刺激的で有意義でした。
最後になりましたが、このような楽しい国際会議を企画・運営していただいた日本、カナダ
の主催者の方々に深く感謝致します。
(安井幸夫、大久保毅)
- 18 -
日加ジョイントミーティング
「MEXT/CIFAR Program of Frustrated Magnetic and Other Systems」
日時:平成 23 年 5 月 28 日~5 月 31 日
会場:カナダ、バンクーバー
5/28
8:25 - 8:30, Michel Gingras, University of Waterloo
8:30 - 9:30, Steve Kivelson, Stanford University, "Some exact results for simple
quantum models with exact Mott insulating ground states or to what
extremes will a highly frustrated physicist go?"
9:30 - 10:30, Steve Bramwell, University College London, "From monopoles to
magnetricity: the magnetolyte properties of spin ice"
11:00 - 12:00, Kazushi Kanoda, University of Tokyo, "Spin frustration and Mott transition
in triangular-lattice organics"
14:00 - 15:00, Patrick Lee, MIT, "Quantum spin liquid: key issues and proposals for
further experimental probes"
15:30 - 16:30, Satoru Nakatsuji, University of Tokyo, "Spin liquids, Quantum Criticality,
and Anomalous Transport in 4f based Kondo Lattice Systems"
5/29
8:25 - 8:30, Hikaru Kawamura, Osaka University
8:30 - 9:15, Gilles Tarjus, Université Pierre & Marie Curie, Jussieu, "Frustration and
the Glass Transition"
9:15 - 9:35, Hajime Yoshino, Osaka University, "Sliding and jamming of vortices in a
frustrated Josephson junction array"
9:35 - 10:05, Yasuhiro Nakazawa, Osaka University, "Specific heat of spin liquid state in
organic triangular salts"
10:05 - 10:25, John Greedan, McMaster University, "Unexpected ground states in
frustrated FCC lattice materials"
11:00 - 11:30, Bruce Gaulin, McMaster University, "Dynamic Spin Liquid and Static Spin
Ice Ground States in Ising-like Pyrochlores"
11:30 - 12:00, Graeme Luke, McMaster University, "Quantum spin fluctuations in spin
ice detected by muon spin relaxation"
12:00 - 12:20, Jan Kycia, University of Waterloo, "Low temperature AC susceptibility
measurements of Ho2Ti2O7"
14:00 - 14:45, Peter Wolynes, University of California in San Diego, TBA
14:45 - 18:00, poster session
5/30
8:30 - 9:15, Michel
Kenzelmann,
Paul
Scherrer
Institute,
"Magnetically-driven
magneto-electric quantum phase transition in an organo-metallic S=1/2
antiferromagnet"
- 19 -
9:15 - 9:45, Tsuyoshi Kimura, Osaka University, "Magnetoelectric aspect of frustrated
magnets"
9:45 - 10:15, Yukitoshi Motome, University of Tokyo, "Emergent order in spin-charge
coupled systems on frustrated lattices"
10:45 - 11:15, Marcel Franz, University of British Columbia, "Interactions and frustration
in topological insulators"
11:15 - 11:45, Yong-Baek Kim, University of Toronto, "Spin liquid and topological
insulator in correlated electron systems with strong spin-orbit coupling"
11:45 - 12:05, Yukio Yasui, Nagoya University, "Anomalous dielectric properties of
quasi-1D frustrated spin-1/2 Systems with CuO2 ribbon chain"
14:00 - 14:30, Hidenori Takagi, University of Tokyo, "Quantum magnetism in Ir4+ based
oxide magnets"
14:30 - 15:00, Toshifumi Taniguchi, Osaka University, "Universality class for canonical
spin glass systems"
15:00 - 15:20, Chris Wiebe, University of Winnipeg, "Spin and charge correlations in
single crystalline Y2Mo2O7"
15:45 - 16:15, Steve Julian, University of Toronto, "Metallic frustrated spin systems"
16:15 - 16:35, Isao Maruyama, Osaka University, "Topological invariants based on Berry
phases for frustrated systems"
5/31
8:30 - 9:15, Masaaki Matsuda, Oak Ridge National Laboratory, "Recent neutron
scattering studies of honeycomb and triangular antiferromagnets"
9:15 - 9:45, Michel Gingras, University of Waterloo, "Pyrochlore oxides: problems with
the XY familly"
9:45 - 10:15, Shigeki Onoda, RIKEN, "New pyrochlore spin liquids"
10:45 - 11:15, Masanori Kohno, National Institute for Materials Science, "Origin of high
-energy magnetic excitations in anisotropic triangular antiferromagnets
in a magnetic field: relation to Mott physics"
11:15 - 11:45, Hikaru Kawamura, Osaka University, "Multiple-Q order and the skyrmion
lattice in triangular-lattice antiferromagnets in applied fieds"
11:45 - 12:05, Naoki Kawashima, University of Tokyo, "Mixed State and novel transitions
in quasi-two dimensional frustrated magnets"
14:00 - 14:20, Toru Sakai, Japan Atomic Energy Agency, "Critical magnetization
behaviors of the triangular and kagome lattice quantum"
14:20 - 14:40, Hitoshi Ohta, Kobe University, "High field ESR studies of kagome
antiferromagnets"
14:40 - 15:10, Arun Paramekanti, University of Toronto, "Quantum paramagnets and
field -induced Neel order on the honeycomb lattice"
15:10 - 15:15, Michel Gingras, University of Waterloo
- 20 -
Poster session
P-1
Ayaka Higashiguchi, Osaka Prefecture University, "Physical properties of an organic
triangular spin system, TNN・CH3CN, in magnetic fields"
P-2
Takashi Honda, Osaka University, "Magnetoelectric effect in olivine-type manganese
oxide"
P-3
Yuya Ishikawa, University of Fukui, "Magnetic properties of S =1/2 zigzag-chain
model compound VO(SO4)(2,2’-bpy)"
P-4
Hiroshi Kageyama, Kyoto University, "(CuBr)Sr2Nb3O10 with a 1/3 magnetization
plateau"
P-5
Kazuhisa Kakurai, Japan Atomic Energy Agency, "Study of complex magnetic
structures in frustrated magnets by means of polarized neutrons"
P-6
Hae-Young Kee, University of Toronto
P-7
Hae-Young Kee, University of Toronto
P-8
Hikomitsu Kikuchi, University of Fukui, "Magnetic properties of pseudomalachite on
new type spin lattice"
P-9
Taoran Lin, University of Waterloo, "Numerical study of Coulomb phase physics in
spin ice"
P-10
Joji Nasu, Tohoku University, "Study of Orbital Degenerate System in Frustrated
Checkerboard Lattice"
P-11
Tomoyuki
Obuchi,
Osaka
University,
"Spin
and
chiral
orderings
of
the
anti-ferromagnetic XY model on a triangular lattice and their critical properties"
P-12
Susumu Okubo, Kobe University, "Multi-Frequency ESR Measurements of Frustrated
Honeycomb Lattice Antiferromagnets"
P-13
Tsuyoshi Okubo, Osaka University, "Ordering and dynamics of Z_2-vortex in the
triangular-lattice Heisenberg antiferromagnet"
P-14
Fujita Takahito, KYOKUGEN, Osaka Univ., "High field magnetism of the S=1/2
frustrated chain compound LiCuVO4"
P-15
Hirokazu Takashima, Tohoku University, "Charge and spin order of the extended
Hubbard model in triangular lattice with internal degrees of freedom"
P-16
Takashi Tonegawa, Kobe University, "Ground-State Phase Diagram of an Anisotropic
S=2 Antiferromagnetic Chain: Appearance of the Intermediate-D Phase due to the
Competition between Ising-Type Exchange Interaction and Easy-Axis-Type
On-Site Anisotropy"
P-17
Tsuyoshi Okubo, Osaka Universit, "Multiple-Q state and Skyrmion lattice of the
triangular-lattice Heisenberg antiferromagnet in a magnetic field"
P-18 Toru Sakai, Japan Atomic Energy Agency, "Exotic quantum critical phenomena of the
spin nanotubes"
- 21 -
会議報告
International conference
“Novel Phenomena in Frustrated systems”会議報告
米国 Los Alamos 国立研究所の
Center for Nonlinear Studies が主催する表
題の会議が 2011 年 5 月 23 日から 27 日ま
での 5 日間、ニューメキシコ州サンタフ
ェのインディアン時代をモチーフにして
作ったと思われる趣がある La Fonda とい
うホテルで行われた。口頭講演が 50 件弱、
ポスターが 26 件、総参加者が 100 名程度
の会議ではあるが、L. Balents、D.
Khomskii、A. P. Ramirez、S. W. Cheong な
ど欧米の著名な研究者が参加しており、
日本からも多数の研究者が参加した。この会議では、マルチフェロイクス、異常ホール効果、
スピン液体、フラストレート系の臨界現象の四つを重点項目として行われており、ここではそ
のなかで実験に関する講演について報告する。
一日目は、スピンアイスなどスピンカイラリティーを持つ非共線磁気構造を中心にして行
われた。この日は何といっても午前の最後に行われたハンブルク大の Wiesendanger による、タ
ングステンやイリジウムなどの重金属の基板に Mn や Fe などの磁性元素を 1,2 原子層積んだ超
薄膜で現れる非共線磁気構造を、スピン STM で観察した結果が素晴らしかった。まずはじめ
に、薄膜の step and terrace 構造や欠陥構造などがある薄膜表面を STM で観察したものをスター
ウォーズの宇宙船から月面を見てるようなアニメーションで紹介したことには、まさに度肝を
抜かれ時差ぼけによる眠気がいっぺんに覚める思いがした。さらに、スパイラル構造や 120 度
構造、さらに筆者の研究とも関係するスキルミオン格子が表面のジャロシンスキー守谷相互用
によって実現されている様子が、原子レベルの磁気構造が観測可能なスピン STM を存分に用
いたきれいな実空間像で次から次へと紹介され、非常に面白かった。
2 日目、3 日目は主にスピン液体、スピンアイスに関する講演が行われた。筆者はこの分野
は専門ではないが、個人的には東大新領域の高山氏によって講演されたイリジウム系の展開を
注視している。スピン軌道相互作用が大きい半導体では、トポロジカル絶縁体が発見され大き
な注目を集めている。その次のステップとして、大きいスピン軌道相互作用が電子相関や磁性、
フラストレーションとどうかかわってくるのか?ということが研究課題になることは必然かも
しれない。理論的に提案されているトポロジカルモット絶縁体や Kitaev モデルとどうかかわっ
てくるのか今後も注目していきたい。三日目の午後は講演がなくフリータイムとなっていた。
この時間に近くの山でのハイキングが企画されており、筆者も参加した。日本人は、求、望月、
加藤、小渕各氏に筆者を加えた 5 名が参加した。日本人グループの乗せた車が遅れ他のグルー
プと別行動となり、2 時間ほど山歩きを楽しんで引き返してきた。一方で、他の人たちは 5 時
- 22 -
会議報告
間かけて山頂近くまで登って行ったようであ
る。一緒に山頂までいっていたら、疲れ果て
て次の日の講演が出来たかどうかわからない
ので別行動になったことはむしろ幸いだった
と言えるかもしれない。
4 日目の午前はマルチフェロイクスのセ
ッションになっていて、午後は磁気励起とい
うことが中心のセッションとなっていた。筆
者(小野瀬)もこの午後のセッションで講演を行った。当初、最近発見したマグノンのホール
効果に絞った講演を行うつもりであったが、川村先生が講演の中で小野瀬がスカーミオン格子
の話をするとの宣伝をして頂いたので、それに触発されスカーミオン格子とマグノンホール効
果の二本立てで講演を行った。この分野ではスカーミオン格子の関心が高く、会議でも Bishop
の Keynote スピーチや Wiesendanger と川村先生の講演で取り上げられた他ポスターにもスカー
ミオンの理論についていくつかありスカーミオン格子を含めたことはよかったようで講演後も
いくつか質問を受けた。
5 日目は、あまりセッションに統一性がなかったが、その分スピン液体、マグノンボーズ凝
縮、Shastry-Sutherland などの多彩な話題に触れることが出来、マルチフェロイクスやスピンカ
イラリティーといったこと以外は不慣れな筆者にとってはいい勉強の機会になった。
会議の全体として講演時間が招待講演の場合 40 分、一般講演の場合 20 分と比較的長く各講
演者とも丁寧なイントロダクションの後に研究成果を発表しており、最新の結果のみならず分
野の流れや方向性を理解するいい機会になった。また、個人的には 3 日目の夜に川村先生と食
事をする機会があり、1980 年代以前は日本がフラストレーションの研究をリードしていたこと、
1986 年以降高温超伝導に多くの研究者
が移って行ったなかでフラストレーシ
ョンの分野に残り頑張られていたこと
など興味深いお話を伺うことが出来た。
筆者のような若手研究者にとって、
日々発展し変化していく研究分野の中
でどのような分野を選びとって(また
出来得ることなら築いて)いくかとい
うことが今後の大きな課題になってい
くということを改めて感じた会議とな
った。
最後に写真を提供していただいた望月維人氏に感謝いたします。
(小野瀬佳文)
- 23 -
トピックス
Mn-O-O-Mn 経路による Mn 蜂の巣格子の磁気フラストレーション
東京大学大学院工学系研究科
和達大樹
Mn 蜂の巣格子を持つ Bi3Mn4O12(NO3)の電子状態を、X 線吸収分光とハートリーフォ
ック計算により研究を行った。Mn-O-O-Mn 経路により第二、第三近接の磁気的相
互作用が大きく、これが磁気フラストレーションを起こし長距離秩序を妨げてい
ることが明らかになった。
私はカナダ・バンクーバーのブリティッシュ
に合わせるのではなく、自分のペースでこだ
コロンビア大学の George Sawatzky 教授のグ
わりを持って研究を進めている研究者が多い
ループで、2007 年 4 月から 2010 年の 6 月ま
ように感じました。
での期間、ポスドクとして研究を行っており
私は主にシンクロトロン放射光を用いた物
ました。最初の 2 年間は日本学術振興会の海
性研究を行っており、カナダも内陸部のサス
外特別研究員として、その後は CIFAR の
カ ト ゥ ー ン に 放 射 光 施 設 Canadian Light
Junior Fellow としての身分でした。CIFAR と
Source (CLS)を持っております。2005 年から
は Canadian Institute for Advanced Research の
ユーザーにも開放されて実験が始まっており、
略で、カナダ国内の基礎研究の促進を目的と
光電子分光、X 線吸収分光、共鳴 X 線回折な
した新しい組織です。CIFAR には自然科学か
どの測定が可能となっています。昨年 7 月に
ら社会科学にいたるまで様々な研究領域が含
東京大学大学院工学系研究科に着任したばか
ま れ て い ま す 。 そ の 中 の 1 つ に “Quantum
りで自分の実験室の建設が進行中の私として
Materials (QM)”という固体物理学、特に強相
は、CLS でのビームタイムが大変貴重なもの
関電子系の研究領域があります。
となっています。
CIFAR の QM は春と秋に会合を行っており、
このままではただの“カナダ体験記”です
秋はプログラムメンバーだけのものですが、
ので、磁気フラストレーションに関する研究
春は学生やポスドクも参加できるより規模の
のお話[1]をそろそろ始めましょう。
大きなものです。今年 2011 年には 5 月 25-28
日に開催されました。その後、CIFAR/MEXT
Mn 蜂の巣格子
Japanese Network (日加ジョイントフラスト
最近、Mn 蜂の巣格子を持つ Bi3Mn4O12(NO3)
レーションワークショップ)として 31 日まで、
において、スピンが disorder した基底状態が
川村光先生を代表とする特定領域研究「フラ
報告された[2]。この物質では MnO6 八面体が
ストレーションが創る新しい物性」と合同で
次の図のようにネットワークを形成しており、
会議が続きました。私は残念ながら都合によ
第一から第四近接の磁気的相互作用 J1 から J4
り 28 日に東京に帰ってしまったため、後半の
も定義されている。私はこの物質に対し、X
フラストレーションの部分にはあまり参加で
線吸収分光(XAS)とハートリーフォック(HF)
きませんでした。
計算により電子状態の研究を行った。HF 計算
CIFAR 会議の穏やかな雰囲気からも強く感
じられるのですが、カナダにはテーマを流行
- 24 -
では XAS のクラスターモデル(CI)解析で得ら
れたパラメーターを用いている。
トピックス
以上の解析で得られたパラメーターを用い
て HF 計算を行い、第一から第四近接の磁気
z
的相互作用 J1 から J4 の値を見積もった。その
J1
結果は以下のようになった。
y
x
J3
J1 = 2.19 meV
J2
J3 = -0.132 meV
J2 = 0.220 meV
J4 = -0.002 meV
ここで、正の符号は反強磁性、負の符号は強
J4
磁性を示す。また、層間の磁気的相互作用 JC
Mn
は JC = 2.22 meV となった。これらの値は中性
O
子回折の結果[3]として得られた関係式
Mn 蜂の巣格子における MnO6 八面体のネットワーク。
第一から第四近接の磁気的相互作用 J1 から J4 の定義
3 J1 +6 J2+ JC ~ 6 meV とよく一致している。
上記のパラメーターは、J1 と J2 が反強磁性
であり、J3 と J4が強磁性であることを示す。
も示した。
J1 から J3 の符号が磁気フラストレーションを
Mn-O-O-Mn 経路
引き起こし、スピン長距離秩序を妨げている
と考えられる。また、J2 と J3 の値が J1 と比べ
下の図で Bi3Mn4O12(NO3)の Mn 2p XAS スペク
てそれほど小さくないことは、が小さいため
トルを示す。スペクトル形状が SrMnO3(Mn4+)
に Mn-O-O-Mn 経路を介しての超交換相互作
に似ていることから、この物質中の Mn の価
用が大きく寄与しているためと考えられる。
数が 4+であることが分かる。この図中には
以上の結果は、幾何学的フラストレーション
CI 理論計算との比較も示した。計算結果は酸
は存在しないはずの蜂の巣格子で、フラスト
素の 2p 軌道から Mn の 3d 軌道への電荷移動
レーションによると思われる乱れた基底状態
エネルギーに依存し、= 1.0 ± 1.0 eV の場合
が見つかった点で特に興味深い。
に実験のスペクトルとの一致がよい様子が見
[1] H. Wadati, et al., arXiv:1101.2847v1.
られる。この計算ではその他のパラメーター
として、クーロン反発エネルギーU = 6.0 eV、
酸素の 2p 軌道と Mn の 3d 軌道の混成強度
2p3/2
8313 (2009).
[3] M. Matsuda, et al., Phys. Rev. Lett. 105,
V(eg) = 3.0 eV を用いている。
Mn 2p
[2] O. Smirnova, et al., J. Am. Chem. Soc. 131,
187201 (2010).
Bi3Mn3O12(NO3)
2p1/2
Intensity (arb. units)
Experiment
TEY
CI theory
 = 0.0 eV
 = 1.0 eV
 = 2.0 eV
 = 4.0 eV
635
640
645
650
655
660
665
Photon Energy (eV)
Bi3Mn4O12(NO3)の Mn 2p XAS スペクトルと CI 理論計
バンクーバーのオリンピック聖火跡の前で。
算の比較。
和達大樹(東京大学大学院工学系研究科)
- 25 -
会議報告
理研一般公開講演報告
2011 年 4 月 23 日(土)に理化学研究所和光研究所一般公開が行われ(9:30—16:30)
、
その企画の一つとして、香取浩子さん(現東京農工大学)によるフラストレーションを題材と
した一般向けの講演会がなされました。当日は激しい雨が降り、傘がこわれるほどの強風も吹
くといった生憎の天候でしたが、研究所内は多数の一般参加者でにぎわっていました。一般講
演はいくつかの会場でなされており、香取さんの「フラストレーションの解消法
– 磁石を舞
台として -」と題された講演は、藤山さん司会のもと鈴木梅太郎ホールにおいて 14:30〜15:30
の時間で行われました。正式な聴衆数はわかりませんが、70~80 名の聴衆がおられたと思いま
す(川村先生及び香取先生のご令嬢の姿もありました)
。
講演では、自然科学・社会科学・人文科学間の「知の交錯」、複雑系、自己組織化といった重
要なキーワードを非常に要領よく説明するところからはじまり、以下のような章立てで話され
ました(章名は報告者の記憶)
。
1.磁石(語源や人との関わり)
2.磁性体
3.フラストレーション
4.磁気相転移
5.フラストレート物質におけるフラストレーション解消法
i) がまんする
ii) 結晶を歪ませる
iii) 磁場の印加
6. 何の役に立つのか?
(実用性)
最初に磁石ということばの語源など「文系」的な内容から始まり、磁気相転移の説明の際に
はキュリー温度が低いガドリニウム(Tc=20.25 ℃)試料を用いた実演実験を交えるなど聴衆の
興味を引いておられました。
後半のフラストレーションの解消法ということでは、スピングラスや軌道‐格子結合系
(ZnV2O4, CdV2O4 等)
、GeFe2O4 における磁場誘起相転移など、かなり高度な話題をとりあげられ
ていました。次に、どのような役にたつのか?といった章では、スピングラスにおける「若返
り」効果や記憶効果、CuFeO2 における原子位置の磁場制御、といったトピックスを紹介したあ
と、最後に本特定領域の紹介でしめくくっておられました。
後半部分は一般聴衆対象としてはかなり専門的な内容ではありましたが、私にとっては「こ
ういう風にしゃべったらええねんや」ということがわかり大変参考になりました。
(菊池彦光)
- 26 -
会議報告
- 27 -
発表論文のリスト
566. “Elastic properties of the rare-earth dititanates R2 Ti2 O7 (R = Tb, Dy, and Ho)”, Y. Nakanishi, T. Kumagai, M. Yoshizawa, K. Matsuhira, S. Takagi, and Z. Hiroi: Phys. Rev. B 83(18)
184434/1-7 (2011).
567. “Spin-chirality decoupling and critical properties of a two-dimensional fully frustrated XY
model”, S. Okumura, H. Yoshino and H. Kawamura, Phys. Rev. B 83, 094429 (2011).
568. “The ordering of XY spin glasses”, H. Kawamura, J. Phys. Condens. Matter 23, 164210-(1-9)
(2011).
569. “Observation of Spin Locking in Dysprosium through a Nonlinear AC Magnetic Response”,
M.Mito, K.Iriguchi, Y.Taniguchi, M.Kawase, S.Takagi, H.Deguchi: J. Phys. Soc. Jpn. 80,
064707 (2011).
570. “Metal-insulator transition in the hollandite K2 V8 O16 with a frustrated zigzag ladder proved
by 51 V NMR.”, Y. Shimizu, K. Okai, M. Itoh, M. Isobe, J-I. Yamaura, T. Yamauchi, and Y.
Ueda, Phys. Rev. B 83 (2011) 155111/1-8.
571. “New Ferromagnetic Chromium Chalcogenides, ACr5 Te8 (A = K, Cs and Rb).”, Yamazaki
and Y. Ueda, Solid State Phenomena 170 (2011) 17-20.
572. “Fe-Site Substitution Effect on the Structural and Magnetic Properties in SrFeO2 ”, Liis Seinberg, Takafumi Yamamoto, Cédric Tassel, Yoji Kobayashi, Naoaki Hayashi, Atsushi Kitada,
Yuji Sumida, Takashi Watanabe, Masakazu Nishi, Kenji Ohoyama, Kazuyoshi Yoshimura,
Mikio Takano, Werner Paulus, and Hiroshi Kageyama, Inorg. Chem. 50, 3988-3995 (2011).
573. “Pressure-Induced Structural, Magnetic and Transport Transitions in the Two-Legged Ladder Sr3 Fe2 O5 ”, Takafumi Yamamoto, Cédric Tassel, Yoji Kobayashi, Takateru Kawakami,
Taku Okada, Takehiko Yagi, Hideto Yoshida, Takanori Kamatani, Yoshitaka Watanabe,
Takumi Kikegawa, Mikio Takano, Kazuyoshi Yoshimura, and Hiroshi Kageyama, J. Am.
Chem. Soc. 133, 6036-6043 (2011).
574. “First Single-Crystal Synthesis and Low Temperature Structural Determination of the Quasi2D Quantum Spin Compound (CuCl)LaNb2 O7 ”, Olivier J. Hernandez, Cédric Tassel, Kunihiro Nakano, Werner Paulus, Clemens Ritter, Eric Collet, Atsushi Kitada, Kazuyoshi
Yoshimura, and Hiroshi Kageyama, Dalton Trans. 40, 4065-4613 (2011).
575. “Highly-Reduced Anatase TiO2 −δ Thin Films via Low-Temperature Reduction”, A. Kitada,
S. Kasahara, T. Terashima, Y. Kobayashi, K. Yoshimura, and H. Kageyama, App. Phys.
Exp. 4, 035801/1-3 (2011).
576. “Magnetization plateaus of the spin-1/2 kagome antiferromagnets volborthite and vesignieite”, Y. Okamoto, M. Tokunaga, H. Yoshida, A. Matsuo, K. Kindo and Z.Hiroi: Phys.
Rev. B 83;, 180407/1-4 (2011).
577. “Two-dimensional magnetism and spin-size effect in the S = 1 triangular antiferromagnet
NiGa2 S4 ”, Y. Nambu and S. Nakatsuji: J. Phys.: Condens. Matter 23;, 164202/1-10 (2011).
578. “Electron Spin Resonance in the Quasi-Two-Dimensional Triangular-Lattice Antiferromagnet
Rb4 Mn(MoO4 )3 ”, H. Yamaguchi, S. Kimura, R. Ishii, S. Nakatsuji and M. Hagiwara: J. Phys.
Soc. Jpn. 80;, 064705/1-5 (2011).
579. “Magnetic transition, long-range order, and moment fluctuations in the pyrochlore iridate
Eu2 Ir2 O7 ”, S. Zhao, J. Mackie, D. MacLaughlin, O. Bernal, J. Ishikawa, Y. Ohta and S.
Nakatsuji: Phys. Rev. B 83;, 180402/1-4 (2011).
580. “Anisotropic Hysteretic Hall Effect and Magnetic Control of Chiral Domains in the Chiral
Spin States of Pr2 Ir2 O7 ”, L. Balicas, S. Nakatsuji, Y. Machida and S. Onoda: Phys. Rev.
Lett. 106;, 217204/1-4 (2011).
- 28 -
581. “Successive phase transitions and phase diagrams for the quasi-two-dimensional easy-axis
triangular antiferromagnet Rb4 Mn(MoO4 )3 ”, R. Ishii, S. Tanaka, K. Onuma, Y. Nambu,
M. Tokunaga, T. Sakakibara, N.Kawashima, Y. Maeno, C. Broholm, D. P. Gautreaux, J. Y.
Chan and S.Nakatsuji: Europhys. Lett. 94;, 17001/1-5 (2011).
582. “Quasi-one-dimensional spin dynamics in d-electron heavy-fermion metal Y1−x Scx Mn2 ”, M.
Miyazaki, R. Kadono, M. Hiraishi, T. Masuda, A. Koda, K. M.Kojima, T. Yamazaki, Y.
Tabata and H. Nakamura: J. Phys. Soc. Jpn. 80;, 063707/1-4 (2011).
583. “Interplay between quantum criticality and geometric frustration in Fe3 Mo3 N with stella
quadrangula lattice ”, T. Waki, S. Terazawa, T. Yamazaki, Y. Tabata, K. Sato, A. Kondo,
K.Kindo, M. Yokoyama, Y. Takahashi and H. Nakamura: Europhys. Lett. 94;, 37004/1-6
(2011).
584. “Spin nematic state as a candidate of the hidden order phase of URu2Si2 ”, S. Fujimoto:
Phys. Rev. Lett. 106;, 196407/1-4 (2011)
585. “Magnetism and magnetoelectricity of a U-type hexaferrite Sr4 Co2 Fe36 O60 ”, K. Okumura,
T. Ishikura, M. Soda, T. Asaka, H. Nakamura, Y. Wakabayashi, T. Kimura, Appl. Phys.
Lett. 98, (No.21) 212504/1-3 (2011).
586. “Ring-Exchange Interaction in Doubly Degenerate Orbital System”, J. Nasu and S. Ishihara,
J. Phys. Soc. Jpn. 80, (No.3) 033704/1-4 (2011).
587. “Spin-Wave Spectrum in ’Single-Domain’ Magnetic Ground State of Triangular Lattice Antiferromagnet CuFeO2 ”, T. Nakajima, S. Mitsuda, T. Haku, K. Shibata, K. Yoshitomi, Y.
Noda, N. Aso, Y. Uwatoko, N. Terada, J. Phys. Soc. Jpn 80 (No.1) (2011) 014714/1-4.
588. “Appearance of a Large Magnetization at Elevated Temperatures in Nearly Antiferromagnetic α-Fe2 O3 ”, Y. Yui, S. Ito, J. Mizuguch, Y. Ishikawa, R. Kiyanagi, Y. Noda, Jpn. J.
Appl. Phys. 50 (No.1) (2011) 013003/1-9.
589. “Spin-Driven Ferroelectricity and Magneto-Electric Effects in Frustrated Magnetic Systems”,
T. Arima, J. Phys. Soc. Jpn. 80, (No.5) 052001/1-14 (2011).
590. “Stepwise Neutral-Ionic Phase Transitions in a Covalently Bonded Donor/Acceptor Chain
Compound”, H. Miyasaka, N. Motokawa, T. Chiyo, M. Takemura, M. Yamashita, H. Sagayama,
T. Arima, J. Am. Chem. Soc. 133, (No.14) 5338-5345 (2011).
591. “Interfacial Structure of Manganite Superlattice”, Y. Yamasaki, D. Okuyama, M. Nakamura,
T. Arima, M. Kawasaki, Y. Tokura, T. Kimura, Y. Wakabayashi J. Phys. Soc. Jpn., 80(7)
07360-1-4 (2011).
592. “High-Performance Ferroelectric Bi0.5 Na0.5 TiO3 Single Crystals Grown by Top-Seeded Solution Growth Method under High-Pressure Oxygen Atmosphere”, Y. Kitanaka, Y. Noguchi
and M. Miyayama, Ferroelectrics, 414, 24-29 (2011).
593. “Contribution of intermediate submicrometer structures to physical properties near Tc in
Pb(Zn1/3 Nb2/3 )O3 -9%PbTiO3 ”, K. Ohwada, J. Mizuki, K. Namikawa, M. Matsushita, S.
Shimomura, H. Nakao, and K. Hirota, Phys. Rev. B 83(22), 224115/1-7 (2011).
594. “Metal-Insulator Transition and Magnetic Order in the Pyrochlore Oxide Hg2 Ru2 O7 ”, M.
Yoshida, M. Takigawa, A. Yamamoto, and H. Takagi: J. Phys. Soc. Jpn. 80(3), 034705/1-9
(2011).
595. “Thermodynamic Properties of S=1/2 Ising-like Heisenberg on Triangule-based Lattices”,
M.Isoda, H.Nakano and T.Sakai: Mod. Phys. Lett. B 25 (12&13), 909-915 (2011).
596. “Numerical-Diagonalization Study on Spin Gap Issue of the Kagome Lattice Heisenberg
Antiferromagnet”, H.Nakano and T.Sakai: J. Phys. Soc. Jpn. 80(5), 053704/1-4 (2011).
- 29 -
597. “Haldane, Large-D and Intermediate-D States in an S=2 Quantum Spin Chain with On-Site
and XXZ Anisotropies”, T.Tonegawa, K.Okamoto, H.Nakano, T.Sakai and K.Nomura: J.
Phys. Soc. Jpn. 80(4) 043001/1-4 (2011).
598. “Critical magnetization behavior of the triangular- and kagome-lattice quantum antiferromagnets”, T.Sakai and H.Nakano: Phys. Rev. B 83(10), 100405(R)/1-4 (2011).
599. “Collapse of Ferrimagnetism in Two-Dimensional Heisenberg Antiferromagnet due to Frustration”, H.Nakano, T.Shimokawa and T.Sakai: J. Phys. Soc. Jpn. 80(3), 033709/1-4
(2011).
600. “Magnetization Plateau of the Quantum Spin Nanotube”, K.Okamoto, M.Sato, K.Okunishi,
T.Sakai and C.Itoi: Physica E 43, 769-772 (2011).
601. “Competing phases in spin-1/2 J1-J2 chain with easy-plane anisotropy”, M. Sato, S. Furukawa, S. Onoda, and A. Furusaki, Mod. Phys. Lett. B 25(12&13), 901-908 (2011).
602. “Connecting distant ends of one-dimensional critical systems by a sine-square deformation”,
T. Hikihara and T. Nishino, Phys. Rev. B 83(6), 060414(R)/1-4 (2011).
603. “Field and temperature dependence of the NMR relaxation rate in the magnetic quadrupolar
liquid phase of spin-1/2 frustrated ferromagnetic chains”, M. Sato, T. Hikihara, and T.
Momoi, Phys. Rev. B 83(6), 064405/1-10 (2011).
604. “Metal-insulator transition in the hollandite K2 V8 O16 with a frustrated zigzag ladder probed
by 51 V NMR”, Y. Shimizu, K. Okai, M. Itoh, M. Isobe, J. Yamaura, T. Yamauchi, and Y.
Ueda, Phys. Rev. B, 83, 155111/1-8 (2011).
605. “Magnetic frustration effect in the multi-band vanadate NaV2 O4 ”, H. Takeda, M. Itoh, and
H. Sakurai, J. of Phys.: Conf. Ser., 273, 012142/1-4 (2011).
606. “Anisotropic hyperfine coupling in vanadium oxides”, Y. Shimizu, H. Takeda, M. Tanaka, M.
Itoh, S. Niitaka, H. Takagi, M. Isobe, T. Yamauchi, J. Yamaura, and Y. Ueda, J. of Phys.:
Conf. Ser., 273, 012128/1-4 (2011).
607. “Competition between vanadium tetramerization and trimerization in Ba1−x Srx V13 O18 ”, M.
Ikeda, T. Okuda, K. Kato, M. Takata, and T. Katsufuji: Phys. Rev. B 83, 134417/1-5 (2011).
608. “Magnetic susceptibility and specific heat of a spinel MnV2 O4 single crystal”, M-W. Kim, J.
S. Kim, T. Katsufuji, R. K. Kremer: Phys. Rev. B 83, 024403/1-9 (2011).
609. “Designing Dirac points in two-dimensional lattices”, K. Asano and C. Hotta, Phys. Rev. B
83, 245125 (14pages) (2011).
610. “Dimensional crossover in the Ising antiferromagnet on the anisotropic triangular lattice at
finite temperature”, C. Hotta, T. Kiyota, N. Furukawa, Europhys. Lett. 93, 47001 (5pages)
(2011).
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お知らせ
◇ 川村代表によるチュートリアル講演
会議:日本物理学会秋季大会
講演タイトル:フラストレーションが創る新しい物性
日時:2011年9月23日
場所:富山大学
◇ Novel Quantum States in Condensed Matter: Correlation, Frustration and
Topology (NQS2011)
日時:2011年11月7日~12月9日
場所:京大基研
期 間 中 、 関 連 す る ト ピ ッ ク ス は 、 frustrated systems ( 1 1 月 7 日 ~ 1 1 日 )、
frustration/topology(11月14日~18日)の週。
http://www2.yukawa.kyoto-u.ac.jp/ws/2011/nqs2011/index.html
◇ 物性科学領域横断研究会
日時:2011年11月19日(土)~20日(日)
場所:仙台(詳細未定)
委員長:秋光純,副委員長:福山秀敏,実行委員長:川村光
◇ Geometrically Frustrated Magnets: From Spin Ice to Kagome Planes
日時:2011年12月12日~17日
場所:Natal, ブラジル
オーガナイザー:Jason Gardner, Peter Holdsworth, Hikaru Kawamura,
Rafael Freitas, Rubem Luis Sommer
http://www.ens-lyon.fr/FM_Brazil/spin-ice/Home.html
◇ 2011年度成果報告会
日時:2012年1月6日(金)~8日(日)
場所:銀杏会館(大阪大学吹田キャンパス)
世話人:川村,谷口他
◇ Highly Frustrated Magnetism 2012 (HFM2012)
日時:2012年6月4日(月)~6月8日(金)
場所:カナダ,McMaster 大学
オーガナイザー:B. D. Gaulin(McMaster 大学)
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型にはまった日常ばかりを過ごしていると発想が
乏しくなる気がします。4月から7月まで期間限定
の単身赴任生活をしていることもあり、電気器具の
ない家で過ごしてみることにしました。どのコンセ
ントにも何も刺さっていません。洗濯機、冷蔵庫、
テレビという三種の神器はもちろんありません。部
屋の照明器具もつけていません。
始めてみると、意外と生活できるものです。もちろん、東京電力の恩恵は
受けています。二十分も歩けば、コンビニエンスストアやコインランドリー
があって、冷蔵庫や洗濯機の代わりになります。夜は暗いのですが、眠れば
いいだけの話で、4時過ぎにはお日様という無料で大変明るい照明が使えま
す。扇風機がなくても扇子がありますし、扇子の前で自分の方が動けば涼め
るなどという江戸時代の相対性理論もあるくらいですから、別にどうという
こともありません。
この電気をほとんど使わない生活より、3月から4月にかけてのガスが使
使
えず、水や食料を求めて行列に並ぶという生活の方がよほど不便でした。あ
のときは頭の中に三角格子やらせん磁性が浮かぶ余地はほとんどなかったと
いうのが正直なところですが、今は、物質科学、趣味、様々なことを自由に
考えることができます。
残る最大の問題は、この非日常的な生活によって良いアイデアが浮かぶか
どうかです。が、個人的に、この半年は色々な変化が重なって起きているの
で、どの要因がどのように自身の活動に影響しているのかは解析不能です。
人間は多自由度複雑系の極みなので、それよりはずっと自由度の少ない簡単
な模型として、これからトピカルミーティングに参加して、電荷・スピン・
軌道・格子系を楽しむことにします。それでも難しい…。
有馬孝尚
特定領域研究「フラストレーションが創る新しい物性」
ニュースレター Vol.12
2011年7月発行
発行者
編集担当
編集協力
川村 光(大阪大学 大学院理学研究科)
有馬孝尚(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
陰山 洋(京都大学 大学院工学研究科)
菅谷久仁子(大阪大学 大学院理学研究科)
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