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EPRパラドックス

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EPRパラドックス
「物理と論理」(細谷分)レポート課題
EPRパラドックス
鹿野
豊
東京工業大学・理学部・物理学科2年
1.
はじめに
アインシュタイン,ボトルスキーとローゼンは1935年の論文[1]「物理的実在の量
子力学的記述は完全であろうか?」
(EPR論文)の中で,物理的実在(element of reality),
不確定性関係(uncertainty relation),非局所性(nonlocality)の3つを主に論じている。
以下では、このEPR論文から端を発したと言われているEPRパラドックスについて論
じていく。そして、小澤正直が提唱した小澤の不等式[2]によりEPRパラドックスは解
消したのかを論じていく。
まず、EPRは論文の中で、物理的実在性を「系を乱すことなく、ある物理量を予言す
ることができるならば、その物理量に対応する実在がある」と定義して、以下のような思
考実験を行った。
静止していた粒子が2個の粒子1,2に崩壊したとして、それぞれの座標と運動量を x1,
x2 とp1,p2 とする。粒子の相対座標r=x1−x2 と全運動量p=p1+p2 は交換可能で
あるので、rとpを同時に正確に定めることができる。また、運動量保存則からp1+p2
=0であり、x1−x2=Lとすると、波動関数は ψ =δ(p1+p2)δ(x1−x2−L)と書け
る。粒子1と2は遠くに離れていて互いに影響をしないという局所性(locality)を仮定す
る。そして,粒子1の位置座標x1 を測定すると,局所性より粒子2の系を乱すことなく
x2=x1−Lを確定的に予言できる。そうすると,x2 は物理的実在ということなる。また
同様の議論にして,p2 も物理的実在といえる。以上の議論より,粒子2の位置座標x2 と
運動量p2 はともに物理的実在であるのだが,粒子2の系だけを考えた場合,不確定性関
係からx2 とp2 がともに物理的実在であることはない。よって,矛盾が生じてしまった。
これをEPRパラドックスという。このEPRパラドックスは量子力学に対する理解を深
めることに役立った。
2.
不確定性関係
EPRパラドックスの中では,不確定性関係により粒子の位置座標と運動量が同時に確
定的には定まらないというところから,矛盾を導いている。この不確定性関係に焦点を絞
って解決の道を探っていく。
まず,不確定性関係とは,1927年にハイゼンベルクが初めて提唱した考え方である。
ハイゼンベルクは次のようなγ線顕微鏡の思考実験を行った。電子の位置qを正確に測定
しようとする時に波長の短いγ線が必要である。その測定に生じる電子の位置の誤差
(error)を ∆q > λ である。波長λとγ線の運動量pλには,アインシュタイン−ド・ブロイ
~
の関係より, p λ =
h
λ
となる。電子はγ線にたたかれて反跳する。よって,電子の運動量
の誤差(disturbance)は ∆p ≈ p λ =
h
λ
となる。以上より, ∆q∆p > h というハイゼンベルク
~
の不確定性関係が導かれる。
また,ロバートは数学的に不確定性関係を導いた。それは, σ pσ q ≥
ベルクの不等式であり, σ p =
ψ ( pˆ − < pˆ >) 2 ψ , σ q =
h
というハイゼン
2
ψ (qˆ − < qˆ >) 2 ψ と,p
とqの標準誤差を定義した。
しかし,ハイゼンベルクの不確定性関係もロバートの不確定性関係もEPRパラドック
スを解決するようなものでなかった。それはハイゼンベルクの不確定性関係には状態の概
念が抜けていて,ロバートの不確定性関係には測定概念が示されていなかった。
3.
小澤の不等式
そこで,小澤正直は次のように位置の誤差と運動量のじょう乱を考えた。t=0での観
測対象をt=Tで測定するものとして,観測対象の位置座標を測定する。この時,測定器
の目盛りをX(t)とし,観測対象の真の位置座標,運動量をq(t),p(t)とする。
このとき,位置座標の誤差を ∆q =
運動量のじょう乱を ∆p =
ψ ( X (T ) − q(0)) 2 ψ
ψ ( p(T ) − p(0)) 2 ψ と定義する。
そうすると,関係式 ∆qσ p + ∆pσ q + ∆p∆q ≥
h
が導かれ,これを小澤の不等式と言う。
2
小澤の不等式にはロバートには見られなかった観測の概念,ハイゼンベルクには見られ
なかった状態の概念を同時に一つの式で取り扱えるようになったことが画期的な発見で
ある。この小澤の不等式によれば,位置座標が正確に確定したとしても,位置座標の誤差
が0にならないので,小澤の不等式を破ることがない。よって,EPRパラドックスを解
決したことにつながるのではないかと言う意見がある。
しかし,小澤の不等式にはいくつか問題点がある。まず,測定器の問題である。EPR
の思考実験の場合は二粒子で考えていたために,片一方の粒子を測定器と捕らえ,もう一
方の粒子を測定するということである。しかし,EPRの思考実験では局所性を仮定でき
るほど粒子と測定器とが離れていると仮定した。粒子と測定器が離れていても粒子は観測
できるのであろうか。
また,相対座標rと運動量pとが交換可能であったから,同時に測定することが可能で
あった。そうすると,x2 が正確に測定可能であって,同様にするとx1 も測定可能である。
としたときに,p=p1+p2 は正確に測定することができて,p1 とp2 は正確に測定でき
ないという結果が生じる。つまり,p1 とp2 の運動量のじょう乱の間には関係式が生じて
しまい,運動量のじょう乱が測定可能である。だから,私の結論としては,小澤の不等式
は不確定性関係を議論する上で非常に大きな発見であるが,これによってEPRパラドッ
クスは解決してはいない。
4.
結び
EPRパラドックスは本来,量子力学を批判するものであったはずであるが,今となっ
ては量子力学の理解を促進するための基盤となっている。小澤の不等式は,今までの不確
定性関係の考え方から大きく脱却するものであったが,依然としてEPRパラドックスを
解決するまでには至っていない。しかし,小澤の不等式は観測の問題を大きく進展させた。
この観測の問題は,物理学のみならず,化学や生物学といった自然科学から,経済学や心
理学といった社会科学にまで広く影響を与える余地を秘めていると思う。
現在,物理学科の2年であるが,これからの物理学でも重要であるでろう観測や認識の
問題を幅広い視点を持ちながら(自然科学的にも社会科学的にも),研究をしていきたい
と今のところは考えている。
参考文献
[1] A. Einstein, B. Podolsky and N. Rosen, Phys.Rev. 47 ,777(1935)
[2] M. Ozawa, Phys..Lett. A31821(2003).quant-ph /0210044, Ann. Phys.311350(2004)
quant-ph /0307057.
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