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資料1 奥田聡 アジア経済研究所地域研究センター 東アジアグループ長
経済財政諮問会議 EPA・農業 ワーキンググループ 発表資料 韓米FTA --韓国対外経済政策の新たな展開-- 2008年1月31日 日本貿易振興機構 アジア経済研究所 奥田 聡 1 韓米FTAに至るまで 1980年代の韓米経済摩擦の中での奇策としての韓米 FTAが取りざたされる。 (立ち消え) 1998年以後のFTA推進のなかで長期的課題として浮上。 「同時多発的FTA推進」 (2003年FTAロードマップ) 米国は、EUや中国と共に中長期的推進対象に指定される。 ただし、当時は米国とのFTAは現実味が薄かった。 2005年以後動きが活発化。 米国は中国が台頭する東アジアでの足がかり作りを望む。 同時に、韓米間懸案の一括解決を狙う。 「4大前提条件」 韓国は「対米自主路線」で悪化した対米関係の修復を望む。 2005年秋に青瓦台が交渉開始に向けた昀終決断。 2 韓米FTA交渉日誌 2003.8 “FTA 推進ロードマップ”で中長期的課題に指定 2005.2.3 韓米 FTA 事前実務点検会議 2005.9 米政府, 韓国など 4ヶ国を FTA 優先交渉対象国に選定 この間 韓国政府部内で検討作業が進行 2006.2.2 韓米 FTA 第1回公聴会開催 2006.2.3 韓米 FTA 交渉開始を発表 2006.6.5-9 韓米 FTA 第1次公式交渉開催 2006.6.27 韓米 FTA 第2回公聴会開催 2007.2.26 韓米通商代表会談 2007.3.8-12 韓米 FTA 第8次公式交渉開催 2007.3.19-22 韓米 FTA 高位級交渉開催 2007.3.26-4.2 韓米 FTA 通商長官会議開催 2007.3.29 盧武鉉大統領、ブッシュ米大統領と電話会談 2007.4.2 韓米 FTA 交渉妥結 2007.6.21-26 米新通商政策と関連した追加協議(環境、労働) 2007.6.30 署名 (出所) 外交通商部自由貿易協定ホームページ(http://www.fta.go.kr/fta_korea/info.php?country_id=19、2007年8月10日アクセス) を各種報道で筆者が補完。 3 韓米FTA-新たな時代の幕開けー 意義(1) 本格的FTA:主要相手国かつ世界昀大市場 とのFTA。 後光効果: 国際的信用向上。格付け機関 による評価の上方修正。 (Moody‘s (A3→A2) :07年7月25日) 4 FTA締結国との貿易比率(輸出、%) 韓 米 F TA締 結 前 ( % ) FTA締結国, 11.1 注:2006年の貿易 額を基準とする その他, 88.9 韓 米 F TA締 結 後 ( % ) FTA締結国, 24.4 その他, 60.5 (EU27), 15.1 5 意義(2) 韓米同盟強化:盧武鉉政権出帆後の韓米関 係の軋み 対中関係におけるバランサー 交渉技術向上と今後の交渉ポジション強化 6 交渉を取り巻く与件 米国が提示した4大前提条件 牛肉、スクリーンクォータ、薬価、自動車。交渉開始前に受諾 これらはすべて長年の韓米間の懸案 TPA期限(07年7月1日) 第1回交渉後の交渉期間はわずか10ヶ月 盧政権任期満了に当たっての花道作り 格差拡大、ソウル不動産高騰などで批判 →拙速交渉との批判、激烈な反対を招来 7 交渉体制 – 韓米FTA締結支援委員会 体制は、交渉団、国内調整、補償の三本立て。 韓米FTAの国内調整は独自の機構である「韓米FTA締 結支援委員会」が担当。 交渉途中の2006年7月、外交通商部の独走が目立ち、 世論、他部署から批判。 盧大統領の指示で、8月に委員会発足。 他部署、学識経験者を呼び込んで国内調整・意見集約 にあたる。 他部署との調整と同時に、それまで不足していた国民か らの意見集約の機能も。 委員会設立以後は、批判が徐々に下火に。 現在は「自由貿易協定国内対策委員会」に改組。 8 主要な成果 レベルの高い関税撤廃 一般商品の3年以内関税撤廃率 韓国94.0%、米国94.6% 農業: 韓国の3年以内の関税撤廃率40% 5・10年撤廃の他、15年以上の長期撤廃、季節・割当関税など多様 除外品目 (韓国市場) も除外品目が少ない コメ:韓国の他のFTAより 開城(ケソン)工団品目:別途付属書を後日採択 9 主要争点・成果 (1)自動車 双方の関心品目。 韓国 米国における有税主力品目、FTA による関税引き下げの効果が昀大。 米国の関税率: 乗用車2.5%→引下実現。 日本車の迂回輸入防止: 実現せず。 米国 韓米貿易における大幅入超、韓国 市場への食い込みを狙う。 韓国側の大型車課税の軽減を狙う→実現。 10 主要争点・成果 (2)牛肉 米国の関心品目。 BSE発生で、03年12月以降対米輸入停止。 03年輸入は27万トン(シェア54%)。 骨なし肉は交渉中に輸入再開(前提条件)。 小骨片検出と返送騒ぎを繰り返す。 牛肉の開放除外はならず。 15年間での関税撤廃 セーフガードの認定 11 主要争点・成果 (3)医薬品 韓国健保の「薬価適正化」に米国製薬会 社が不満。 「ポジティブリスト」への反発:効能の確か な薬品のみを薬価収載。 米の交渉戦略:薬価適正化の損失回避。 薬価算定への異議申し立て→実現。 新薬の価格保障→実現せず。 新薬特許延長→5年に延長。 12 補償措置 「韓米FTA締結に伴う国内補完対策」 (07年6月28日発表) 全FTAを対象とした既存の履行支援基金(農民向け)、貿易調整支援(製造業)、 農業・農村中長期投融資計画(119兆ウォン事業)を改組。 農業対策は07年11月6日に農林部が詳細骨子を発表。韓米FTAによる追加支 援額は2008-17年の10年間で20.4兆㌆。 国内対策の3つの柱 直接的被害支援 産業別競争力強化 農漁村所得基盤拡充 13 直接的被害支援 農水産業(1.2兆㌆) 被害補填直接支払い(農漁民) 所得補填割合:(基準収入対比)収入減少額の85%。 廃業補償(農漁民) 支援額:(農業所得ー自家労働相当額)の3年分。 製造業・サービス業 製造業等貿易支援調整支援法による支援 構造調整資金を融資。サービス業を広くカバー。 中小企業の転業資金を融資。 勤労者 雇用安定策:企業向けの転職支援金、訓練費用補助 など。 14 産業別競争力強化 農業 ブランド育成・確立(韓牛トレーサビリティな ど):7兆㌆ 経営委譲支援、専業農家の支援強化:12兆㌆ 既存投融資計画の拡充:119兆㌆→123兆㌆ 製造業・サービス業 新薬開発支援、ファインケミカル・精密機械向 けR&D支援 FTA総合支援センターの運営 15 短期的影響の算出:技術的留意点 算出の基本的アイデア 各品目(昀細分類)について下記の通り算出。 影響額 = 貿易額*関税*同削減幅*弾性値 第三国の影響については、各国の貿易シェアで按分。 限界 規制等で貿易量僅少な品目への対応 FTA不使用割合への対応(全量FTA適用を仮定) 韓米貿易の特性(韓国側の価格競争力依存などは考慮せず) 原産地規則の影響(規則が厳密だとFTA適用を断念する、等は捨象) 16 韓国経済への影響:短期 単純平均関税率 : 韓国12.5%、米国3.7% 短期的効果:米国に比較的大きなメリット 韓国の輸出増 16.3億ドル(+3.63%) 自動車、繊維に集中。 米国の輸出増 17.9億ドル(+5.31%) 機械・電機、精密・光学、化学、農産物など広範囲。 第三国からの 貿易転換効果 輸入国産品 との代替 輸出増加計 増加率 韓→米 1,083 542 1,625 3.63% 米→韓 1,153 633 1,786 5.31% 注:単位100万㌦。出所:筆者計算 17 韓国経済への影響:長期 長期的影響 生産性増大を仮定した場合、年平均0.6%の成長加速。 この場合雇用はサービスを中心に30万人以上増加。 ただし、農業では雇用は減少。 生産性増大仮定 発効10年の実質 GDP増分 雇用増加 無 1.28% 8万3千名 有 6.00% 33万6千名 出所) 対外経済政策研究院(KIEP)ほか, 「韓・米FTAの経済的効果分析」(国会韓米FTA特別委員会報告資料)、 2007年4月30日。 18 第三国への影響:短期 日本、EU: 韓米両国市場で競争、大きな影響。 日本5.85億ドル、EU5.33億ドル(第三国計の半分)。 日本は韓国市場での影響が大きい。 中国は意外に影響を受けない。 影響額3.24億ドル。 商品構成における韓米両国との衝突が少ない。 カナダ・メキシコは米国市場での影響あり。 カナダ1.91億ドル、メキシコ1.81億ドル。 (以上、筆者計算による) 19 今後に向けて 農産物開放 今後の開放は「ボディブロー」。他のFTAでの 譲歩が少ないと「ダブルスタンダード」との批判 も。 補償対策 既存政策の「看板掛け替え」との批判。 農村の多元的価値や健康保険制度への配慮 がないとの批判もある。 一部被害者が補償に依存する兆候も。FTAと 関係のない廃業で支援を受け取る事例あり。 20 批准見通しと今後の政治日程 批准見通し 9月7日に批准同意案を国会提出。 2月の国会で審議される予定だが、議員の間では 総論賛成、各論慎重の空気。 春の総選挙以降にずれ込む可能性が高まる。 ただし、大統領選を控える米国での批准も意 外に難航。 韓国の牛肉輸入、米国への韓国車流入、韓国の 非関税障壁除去などへの対策不足に批判。 民主党のヒラリー、オバマ両氏は韓米FTAに慎重。 21 第三国への含意 日本へのメッセージ 年5億ドル輸出減の試算。 韓EU・FTAで影響は複合化。 コメ除外の事実をどう活用する? 日韓FTA交渉再開の契機?(韓国政権交代) 高村外相の関心表明と李在五ハンナラ党議員の「2月の首 脳会談で日韓FTA交渉再開」発言(1月) 中国の熱い視線 韓米FTA妥結後、韓国へのラブコール高まる。 22 おわり 23