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2012 年度上期の北陸市況

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2012 年度上期の北陸市況
ファイバー/テキスタイル
2012 年度上期の北陸市況
―福井県繊維卸商協会 河野喜澄専務理事に聞く ―
インタビュアー:繊維調査部長 寒川
雅彦
北陸の織物生産の推移は、1999 年の 100 万 856m から 2008 年の 72 万 2,957m まで 10 年間で 28
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万 m と約 30%減らしてきた。翌 2009 年が 47 万 3,122m とたった 1 年で 25 万㎡、前年比▲ 34.6 ポイ
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ントと大幅に減じた。リーマンショックが北陸繊維産業にあたえた影響はすさまじく、国内設備は大幅に縮小した。
リーマンショックで疲弊した産地企業にとって細デニールの高密度織物は日本の合繊メーカーの技術力と北陸産
地の高次加工技術力を駆使した日本ならではの商品で産地の稼働を助ける格好の商品であった。2011 年は、産
地の生産量も 50 万 m を超え 2008 年当時との品種構成差(細繊度・高密度化)などを考慮すると実質の稼働
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率は、大幅に改善し産地の救世主であった。
寒川:上期を振り返り、現在の稼働状況はいかがで
すか?
河野:北陸産地の生産状況は悪化傾向が続いてい
ます。現状、織物関係で設備の平均稼働率は 60 〜
65%、編み物関係で 65 〜 70%稼働と思われます。
そして、織布企業では 2010 年より高密度織物を中
心に生産設備の稼働率が回復しましたが、採算的に
は厳しい場面の連続で、このままの状態が続けば倒
廃業が多発して産地機能の喪失が必至だと思われ
ます。特にこれまで北陸の多品種小ロットと QR 対
応を支えてきた弱小の下請け準備業者の衰退が、北
陸産地の産地機能喪失を早めそうです。
寒川:細番高密度織物でスペースが満杯という状況
は要注意であった。さらに量から質への転換に対し
て採算の転換が進まなかったということですね。
昨年後半から合繊高密度織物の市況が悪化して
います。1 〜 3 月の輸出、4 〜 6 月の国内ともに盛
り上がりに欠けましたが北陸産地の今後は?
河野:現在の北陸産地合繊長繊維織物生産のキー
となっている高密度織物は国内外の過剰在庫調整
が進まず、なおかつ、高密度織物生産が可能な日本
社団法人福井県繊維卸商協会 専務理事 河野 喜澄 氏
福井県繊維卸商協会は、北陸産地の織物生産量の約半数を取引す
る、産元商社の団体。河野氏はその専務理事として、常時、産元
商社、産地の情報を把握している。
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繊維トレンド 2012 年 9・10 月号
製 高 性 能 織 機 が、中 国・ 韓 国 に お い て 既 に 年 間
14,000 台前後も導入されているので、北陸に戻っ
てくる可能性がある高密度織物は、中国・韓国が生
産不能な少量の一部の高密度織物のみです。また、
その他織物の輸出は中国の景気減退や欧米の景気
混乱、円高、通商問題等で長期にわたって低迷が続
くと思われます。従って、北陸の合繊長繊維織物の
2012 年度上期の北陸市況
今後は、震災復興予算が速やかに実行され、その結
果として国内経済状況が好転して、国内の衣料消費
だし染色加工料の改正はいまだになされていませ
ん。
がどこまで戻るかにかかってきますが、一部の織物
生産が回復したとしても、高密度織物と輸出用織物
の落ち込み分までは到底カバーできず回復には長
寒川:超円高も産地企業にとって相当厳しい状況だ
と思いますが?
期を要すると思われます。
寒川:生産量としては回復しているように見えます
がどのような問題点が内在していますか?
河野:2010 年になって北陸産地の設備稼働率が急
河野:現在の円高も、欧米経済の混乱も当分の間続
きそうです。加えて日本の FTA をはじめとする通
商問題の対応の遅れも響いてきました。今の輸出ビ
ジネスの停滞は円高だけが原因ではなく、通商問題
等もあるので回復には長期を要すると思われます。
速に回復したにもかかわらず、採算的に厳しい状況
が続いている原因は、2010 年から 12 年にかけて
次々に起こった①原材料の高騰、②円高、③大震災
の悪影響をうけて、加工賃改正、単価アップのタイ
寒川:2011 年度は生産量が増加し、産地設備は増
えているのですか?
ミングをことごとく逃したことにあります。これか
ら先、産地の大方の織布企業は注文不足、資金不足、
先の不透明感に晒されて中小企業経営者の経営意
欲減退の加速が危惧されます。その中にあって北陸
の商流を担っている産元も、開店休業に近い薄商い
の日が続いています。これまで多くの産元は、多品
種小ロットの QR 商売対応システムを駆使しながら
辛うじてその商売を守ってきましたが、今後は極小
の準備工程下請け会社の衰退によって、それも困難
になり産元の倒廃業も起こりそうです。
このような北陸産地の今日の凋落には①内地の
衣料消費停滞、②円高による輸出不振、③中国の景
気減退、④欧米の金融不安等の、複合的な理由に
よるものだと多くの人が言っていますが、私は真の
理由は、日本の特に北陸のテキスタイル生産者が、
河野:織物の場合、過去 20 数年間北陸では生産設
備は減少の一途をたどっていて生産設備の増加は
あり得ません。2011 年度北陸の織物生産量は 2010
年 度 比 約 15 % 増 で す が、2010 年 度 は リ ー マ ン
シ ョ ッ ク 以 前 の 2007 年 度 比 ▲ 40 % で す。 従 い
2011 年度は 2007 年度比▲ 31%です。日本の、北
陸のテキスタイル生産業者は斬新で魅力的な商品
を作り出すノウハウや技をまだ持ってはいますが、
そのすご腕を発揮する素材、原料=差別化原糸が
ないために消費者が欲しくなるような商品を作れ
なくなっているのです。また今回の高密度織物の
ように高機能性を追求した織物を生産するには、設
計書どおりに、ただ物理的・計数的に織物を織る
基盤技術を駆使した高性能織機があればそれで良
いわけで、職人の技とか生産ノウハウのブラック
国内外の市場にて最終消費者が買いたくなるよう
な新しい魅力的な商品を作れなくなったからだと思
ボックスなんて全く必要がないのです。紡糸機械
も同様です。2011 年北陸産地には高密度織物生産
います。どの商品もそれほど変わらない金太郎飴の
ような商品であれば安い方を選ぶのは当然です。
に適した約 500 台の新鋭織機が導入されましたが、
同時期に中国だけで 14,000 台の同タイプの織機が、
日本国内単価より 3 割も安く導入されているので
す。これでは全く勝負になりません。
寒川:他方、産元商社や染色加工業の状況はいか
がですか?
河野:産元商社は、内地、輸出ともに閑散とした商
寒川:高密度(技術)を応用した韓国、中国をさ
らに引き離す秘策は? 新たな用途展開の可能性
況が続いていますが、一部川上メーカー系大手産元
以外のほとんどの中小産元は、過去の経験から生産
設備を持たず、おのおのが得意とするニッチな商品
は?
に商いを絞っているため平穏です。一方、染色加工
業者は、昨年末より受注量の減少が続いていました
が、6 月ごろからやや下げ止まっています。車両資
術を組み合わせて、二重の高密度織物ができれば
いろいろな用途開発が可能と思われます。
材やユニホームの受注量が回復しつつあります。た
寒川:新たな取り組み、原糸メーカー、国の施策に
河野:高密度織物の生産技術と二重織物の生産技
繊維トレンド 2012 年 9・10 月号
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ファイバー/テキスタイル
期待することは?
河野:今、福井の産元がオーガナイザーとなって
韓国、台湾の中小原糸加工会社(仮撚り業者、撚
糸業者等)と日本国内織物製造業者の連携、国境
を越えた生産連携による戦略的差別化糸の開発が
始まりました。同時に北陸地区の織布業者やニッ
ト業者と産元の商工連携、グループ化が進展し始
げて行政へプッシュすること等をしなければと思っ
ています。
寒川:個々の企業努力はこれまで以上に必要です
が、国からも有効かつ実行性のある支援を期待した
いところです。産地企業の復権に期待しています。
本日はお忙しいところありがとうございました。
めています。
これから先に日本の、北陸の繊維生産、産地を適
正規模(今の約半分か?)で残そうとするならば、
北陸に残った匠の技を具現化する差別化糸をどう
にかして入手しなければなりません。同時にこれ以
上弱小の下請け準備業者を減らさないようにするこ
とが重要です。これらに関しては、産地の企業者は
国内川上メーカーや行政をあてにすることはできま
せん。前者の具体的方策は産地の産元商社がイニシ
アチブを取りながら、多国間の企業連携を推進する
ことです。後者の方策は、複数の産元が出資して弱
小の準備業者を手元に置く他に方策はないと思い
ます。
すでに福井の一部の産元は、差別化糸の開発の
ために韓国やインドネシアの企業と連携した糸作り
プロジェクトや、弱小準備業者への資本参加が始
まっています。同時に早期の FTA 締結等を業界あ
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繊維トレンド 2012 年 9・10 月号
東レ経営研究所 繊維調査部長 寒川 雅彦
1988 年東レ入社。ユニフォーム事業部にて長短中肉厚織物、そ
の後、衣料資材事部にて輸内薄地織物を担当。2002 年中国織染
工場出向、2004 年本社広報課長を経て、2011 年から現職。
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