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日豪関係の将来について - オーストラリア大使館

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日豪関係の将来について - オーストラリア大使館
ブルース・ミラー駐日オーストラリア大使
日本記者クラブにおける講演
日豪関係の将来について
2011 年 10 月 26 日
(実際の講演と多少内容が異なる場合があります)
脇様、ご紹介有難うございました。オーストラリア大使として、ここ日本記者クラ
ブに居りますことを、大変な名誉と受け止めております。私は 1978 年、国際交流基
金の招きにより、初めて日本を訪れたのですが、今日ここで私がお話をさせて頂く
ことなど、いったい誰が予想したでしょうか。
皆様がよろしければ、私個人について、また日本との個人的かかわりについてまず
は簡単に説明いたします。といいますのも、今回の赴任は私にとって特別の意味が
あるからです。これは単に仕事というレベルで語れるものではありません。
私が 11 才の時ですが、父はもし何か外国語を学ぶのであれば、アジアの言葉を選び
なさいと私に言いました。日本に関心を持つようになったのは、この時からです。
そして初めて日本に来た 33 年前から、通算 11 年以上をここ日本で過ごしてきまし
た。日本の大学に留学していた時は、日本の文学と歴史を学び、日本の家族の下に
ホームステイしました。外交官になってからは 1990 年代、2000 年代、現在と 3 度の
日本赴任を経験しております。私にとり日本は第 2 の故郷です。日豪関係に関する
姿勢は、単に職務上の義務によるものだけではありません。個人的な思い入れがあ
ります。
私の仕事はもちろん、日豪関係を強化するだけではありません。日本において、わ
が国の国益を代表する役目を担っております。温かい言葉だけでなく、時に厳しい
現実にさらされることもあります。
1 しかし一方で、私は大変恵まれていると思います。我々のこの地域で、いや世界全
体を見ても、これほど共通の関心事と強い補完性でつながっている国同士というの
は、なかなか存在しません。ほとんどの分野において、わが国の国益は日本の国益
であり、またわが国の不利益は日本にとっても不利益です。この点から私の仕事の
多くは、日豪、アジア太平洋地域、世界の利益のために、両国がよりいっそう緊密
に協力できる方法を模索することにあります。
世界規模で不安定要因が増えている今日、目標達成は必ずしも容易ではありません。
世界経済は、非常に不確かな時代を迎えています。欧米では経済成長は鈍く、失業
率は高止まりしています。マーケットは不安定で、国家債務は持続不可能なレベル
に達しています。ユーロをめぐる現在の不安定な状況は、日豪を含む全ての国に影
響を及ぼしています。
これらの出来事は、より複雑で、より体系的な変化を背景に起きています。アメリ
カは当分の間、世界最大の経済大国であり続けるでしょうが、一方で他の国々が躍
進しています。いわゆる新興経済国のことですが、こうした国々の台頭により世界
のバランスに変化が起きています。これにより、G20 や東アジア首脳会議といった
新たな枠組みが、注目を集めています。一方では、国際通貨基金(IMF)などの組
織で構造的変化が起きており、より広範な国々が国際問題への取り組みで発言する
機会を与えられています。
アジア太平洋地域の発展もまた、注目すべき問題です。中国やインド、他の新興経
済国の台頭により、21 世紀はアジアの世紀であるという点が証明されています。こ
の地域は我々の地域であり、その将来は我々の将来です。こうした変化はすでに何
億人という人々を貧困から救い出しており、極めて大きな明るい可能性がここに存
在しています。このような規模の変化においては、あらゆる者が適応せざるを得な
い、新しい戦略面、政治面での現実が浮かび上がります。
2 しかしこのような状況にありながら、日本は我々が想像できないような問題に直面
しています。今年 4 月にジュリア・ギラード首相はここ日本記者クラブで、東日本大
震災や津波、原発事故に見舞われた日本に対し、わが国は日本と共にあると述べ、
支援を約束しました。復興は大変な作業ですが、我々は今後も力の限り日本と寄り
添っていくつもりです。
ギラード首相は外国首脳として初めて被災地を訪問しましたが、私自身も今週末、
ふっこういち
大使館関係者と共に南三陸町を訪れ、現地で開催される‘福 興 市 ’に参加いたしま
す。このイベントがその名の通り、幸福が至る所にわき起こるよう、私達は被災地
域の人々とのふれあいを大切にしていきます。
復興という喫緊の課題以外にも、日本は経済や財政、人口に関連した避けて通れぬ
問題に直面しています。日本がこうした事柄に上手く対処されるよう我々は望んで
います。強く、自信に満ちた日本が外に目を向け、アジア太平洋地域の問題に十分
な役割を果たしてくれることは、わが国の国益につながるのだという点を、私から
本日の最初のメッセージとしてお伝え致します。
さて、次に皆様へお話したいことがあります。
今日きわめて良好な日豪関係をより発展させる上で、我々はいくつかの世界、地域
困難に直面する一方、これからの新しい時代を開く状況に置かれています。本日の
2 つ目のメッセージとして、私が日本及び日豪関係の将来に楽観的である点を申し
上げます。その理由は、次のとおりです。
現在の困難な世界情勢という荒波の中で船出する状況においては、将来を形作る上
で建設的に行動することが重要になります。ケビン・ラッド外務大臣の言葉を借りれ
ば、“ただ受身の態度を取り、次の危機が起きるのを待っていてはいけない。それ
は現実的対応ではなく、希望的観測に立って外交政策を進めることになる”わけで
3 す。日豪両国は舞台の後ろに下がって、他の国が指導力を発揮するのをただ見てい
るのでなく、問題の解決に積極的に関与しなくてはなりません。
日本とオーストラリアが行動を共にすれば、地域及び世界の問題により影響を与え
られることは確かです。1980 年代の後半、こうした認識に基づき、日豪は APEC の
推進のために立ち上がりました。
最近では、日豪は共通の国益に従い、重要な国際世論を形成できる力を発揮してい
ます。例えば、安全な核兵器のない世界という目標を実現させるための協力を実現
させています。これはオーストラリア政府の優先事項であり、ラッド外務大臣はこ
の問題への取り組みに、特に力を入れています。
こうした共通課題に、日本は能力と資源を投入しています。今は日本以外の国の経
済の急速な台頭に目が向けられており、日本への関心が若干薄れているようです。
しかしこう考える悲観主義者は、日本の偉大な技術力、産業部門の強さ、国民の高
い教育水準と秩序立った社会といった数々の要素を無視しています。
日本よりはるかに人口の多い国の経済が、最終的に日本以上に成長したとしても、
驚くことではありません。実際、そうならない方が驚きであるともいえます。この
事態が起きるまでに、長い時間がかかったことに、我々はむしろ驚くべきでしょう。
各国における労働者の相対的な生産性を知る上で、一人当たりの国民所得は重要で
す。日本の人口が圧倒的に少ないにもかかわらず、日本経済は中国と同程度の規模
であり、インドより大きいことを忘れてはなりません。日本はその経済力により、
世界において重要な存在であり続けるでしょう。
しかし日本がわが国の重要なパートナーであるのは、決してその経済力のためだけ
ではありません。両国は民主主義や法の秩序、契約義務の遵守、自由主義経済の価
値観を共有しています。これは日本とオーストラリアがこうした価値観を正しいと
考えているだけでなく、これらが我々の社会を強固にしてくれるのを知っているた
めです。両国はアメリカが地域と世界に安定と平和をもたらしてきた点を認識して
4 おり、共にアメリカの緊密な同盟国です。この点からも、日本とオーストラリアは
自然に相手国をパートナーとして捉えています。
本日ご来場の皆様が御存知の通り、我々2カ国はすでにさまざまな分野において、
緊密な協力を行っています。しかし今後 5 年間は、さらに様々な対処すべき課題が
待ち受けています。例えば、地域の国が東アジア首脳会議のような機会を通じて、
戦争の脅威なしに共に経済を発展できるような枠組みを構築するという課題があり
ます。この他にも、世界経済の管理強化のために、地域の途上国がより参加した
G20 のようなメカニズムを強化したり、温室効果ガス削減の協調行動を通じ気候変
動の脅威に対処する点が挙げられます。
協力の基盤を構築する
自然な協力を行うには、両国の利益がいかに一致しているかを説明なしに理解して
いる必要があります。日豪は多くの分野において、こうした理解強化への土台を積
み重ねています。こうした例を、2、3 説明したいと思います。
まずは両国の貿易・投資関係です。この関係は、両国にとり極めて大きなものです。
両国にウィン・ウィンの関係をもたらす良い例が、この日豪貿易・投資関係です。
貿易・投資における両国のパートナーシップは、協力関係の強化は単なる取引以上の
メリットをもたらすことを教えてくれます。
日本の食料自給率の低さについては、多くのことが語られています。しかしエネル
ギーも、食料と同じように重要です。エネルギーなくしては、食料を必要な場所に
届けることは不可能です。そればかりか、日本は競争力のある優れた製品を生産で
きなくなります。
ご存知のように、日本のエネルギー自給率はわずか 4 パーセントに過ぎません。し
かしその中で日本はこの 50 年間、繁栄を謳歌してきました。日本は自給率という言
5 みずから
葉の‘ 自 ’という部分の意味を改めることで、繁栄を成し遂げてきたのです。日
本は自給率とは何かという意味を拡大解釈し、友人であり信用できる主要なパート
ナー国であるオーストラリアをその中に含めて考えてきたのです。
皆様が日本で電気をつける時、わが国のことを思い出してください。日本における
発電のかなりの部分は、わが国の石炭や天然ガス、ウランを通じて行われています。
わが国は長年にわたり、最大の日本向けエネルギー供給国のひとつであり続けてい
ます。今後数年は新しい天然ガス田の操業が開始され、他のエネルギー供給資源の
後退が見込まれるため、わが国による日本へのエネルギー供給は、より重要性を増
すと考えられます。
将来に目を向けますと、レアアースなど両国の利益となる新分野がすでに生まれて
います。オーストラリア企業のライナス・コーポレーションとアラフラ・リソーシズ
は、レアアースの生産を近いうちに手がけます。日本の国際協力銀行の支援を得て、
わが国のライナス・コーポレーションが双日と戦略的提携を結び、日本市場への追加
供給の確保へと動いた点を嬉しく思います。
日本とオーストラリアはまた、炭素回収・貯留、つまり留め込み事業を含む、クリー
ンエネルギー技術において協力を拡大しています。炭素回収・貯留は、わが国の石炭
輸出に密接に関わっている技術であり、オーストラリア政府のイニシアチブである
グローバル CCS インスティチュートの最近の日本事務所開設は、こうした取り組み
をいっそう促進させることでしょう。
わが国がエネルギー、天然資源の安全で安定的な長期供給に力を入れていると語る
時、これが言葉だけのものではないことは歴史が証明しています。
しかし、これはあくまで双方向の関係です。日豪関係は、ウィン・ウィンの方程式で
す。オーストラリアが現在の経済の繁栄を考える時、我々も日本を思い出すべきで
す。わが国を代表する産業の多くは、日本からの需要のみならず、日本の投資、日
本企業とのパートナーシップにより発展してきました。
6 日本による対オーストラリア直接投資の累計額が、この 5 年間で倍増しているのが
良い例です。
昨今の流れにおいて、エネルギーの安定供給は日本の懸念事項となっています。こ
の点において、わが国は今後も日本にとり安定した供給先であり続けます。そして
INPEX や三菱、三井、丸紅、伊藤忠、双日といった優れた日本の企業が数多くこの
分野に関わっている点を考えても、ごく自然にそうなっていくのだと考えられます。
私は大使として、こうした関係がより発展するようできる限りのことを行っていき
たいと思います。我々は 4 年以上も交渉を続けている日豪経済連携協定(EPA/FTA)
を締結すべく、迅速に行動する必要があります。経済の補完性が存在する日本とオ
ーストラリアがより行動を共にしていく上で、本協定は欠かせないものです。
いまだに交渉すべき点はいくつかあるのですが、農業はその中のひとつです。私は
日本とオーストラリアの農業貿易をめぐる議論が、従来の硬直した立場の繰り返し
を離れ、将来への前向きな議論に変わるよう望んでおります。現在の日本の政策自
体をここで批判するつもりはありません。実際、日本政府が昨年の暮れに発表した
包括的経済連携に関する基本方針の内容には勇気づけられました。
経済連携協定(EPA/FTA)は、日本の食料安全保障に貢献します。これは事実上、
じ
自給率の‘自’の部分を拡大するためです。また、わが国の農業及び食品加工施設
に対する日本企業の投資を促すでしょう。こうした企業は日本の水準に見合った安
全で健康的な食品を輸出することで、より利益を得られるでしょう。EPA/FTA は日
本の企業や政府、消費者にとりコストの低減につながります。また食品の選択肢を
広げます。より重要なことに、正しい政策が実行に移される場合、日本の農業の強
化につながります。
保護の削減が日本の農業を強化するというと、違和感を覚えるかもしれません。し
かし確かなのは、保護政策は機能しないということです。食料自給率など日本で成
7 功の指標とされている条件に照らしても、この点は明らかです。保護主義の結果、
日本で食料自給率は 1960 年に 79 パーセントから、2010 年に 39 パーセントまで低下
しました。保護政策を続ける限りは、衰退が続くという結果が待っているのです。
もうひとつ、ここで明言したいのは、日本の農業の衰退はわが国を含め、どの国の
ためにもならないということです。日豪 EPA/FTA を通じて、こうした事態が起きる
ことはあり得ません。わが国の農業輸出量はすでに、限界に近いところまで来てい
ます。国連食糧農業機関(FAO)において日本とオーストラリアは緊密な協力を保
っていますが、この機関は 2050 年までに 93 億人に到達する世界の人口に食料を届
けるために、食料生産を 70 パーセント増やす必要性を説いています。これは決して
小さな問題でも、途上国にのみ当てはまる問題でもありません。むしろ、我々が直
面している最大規模の世界的課題といえます。
この問題で我々両国の農家の果たす役割は、大きなものがあります。日本とオース
トラリアの農家は生産を増やし、効率性と持続性を高める必要があります。そして
国内、海外を問わず、必要な場所へ早く、安く食料を届ける必要があります。
忘れてはならないのは、供給が逼迫した状況において競争を強いられるのは、売り
手ではなく買い手であるという点です。日豪 EPA/FTA は日本の買い手に有利に働く
ものであり、オーストラリアの生産者は同じ商品を欲しがっている他国の競争相手
より、日本に売る方が楽であると考えるでしょう。日本は重要な供給網を安定的に
確保できると共に、わが国の生産者がよそで長期契約を結ぶというリスクを減らす
ことができます。
よって日本政府が農業貿易における自らの立場、及び農業改革や貿易自由化を行う
ための措置の導入を検討しているのは自然なことです。こうした措置により、日本
の農家は国際的競争力や生産性を高め、より力をつけることができます。我々はこ
うした動きを歓迎します。これはわが国のためだけでなく、日本の利益にもなるか
らです。
8 日本が貿易自由化、農業改革といった野心的な道に一歩踏みだせば、日本の農業は
変わるでしょう。日本の農業は、長期的に良い方向へ向かうと思います。より強く
なり、競争力と生産性を高めていくでしょう。日本の製造業がかつて海外での競争
にさらされ、世界一になったのと同じです。
もうひとつ日豪関係における重要分野としてお話したいのは、両国の戦略面でのパ
ートナーシップです。これは両国がアメリカの同盟国である点に基づいています。
まずお伝えしたいのは、過去数年、この分野での両国の関係はより重要性を増して
きたということです。1990 年代、日本へ赴任した時、多くの日本政府の方々は、ど
うして地域の安全保障問題を我々が取り上げたがっているのかと、戸惑っているよ
うでした。しかし今やわが国は、日本がアメリカ以外で外務・防衛閣僚会議(2 プラ
ス 2)を開催している唯一の国となっています。また我々にとって日本は、アメリ
カ以外で物品役務相互提供協定(ACSA)への署名を行った唯一の国です。日本と
オーストラリアは現在、情報保護協定を含め、さらなる協定の締結に向けて動いて
おり、実現すれば両国はより緊密な協力を行えると共に、アメリカを含めた三カ国
の関係をより強固に構築していくことでしょう。
これらは素晴らしいことであり、我々は両国が協力的活動の枠組を築けるよう、力
を入れていきたいと思います。しかし一方、こうした関係は実際にどのような成果
を残してきたかによって、その重要性が試されることを忘れてはなりません。日本
との戦略的関係の価値が、すでに実証されているのを嬉しく思います。
わが国は 3 月の震災発生後、アメリカ以外で日本に空輸支援を提供した唯一の国で
す。わが国の C-17 輸送機は米軍及び日本の自衛隊と共に行動し、震災後最初の 2 週
間で、延べ 500 トン以上の救援物資と機材、および人員の国内輸送を行いました。
また福島第一原子力発電所の冷却に必要なポンプが日本に運び込まれた際、わが国
の別の C-17 二機がこの冷却ポンプの輸送にあたりました。ポンプは米軍基地にて降
ろされ、自衛隊のトラックで福島に運ばれました。両国が協定の枠組みを設けよう
9 としているのは、このような活動が可能となるからであり、日豪間では必要な時に、
結果を生み出せるような体制が整っています。
戦略・防衛協力の分野で、5 年後には達成したいことがあと二つあります。ひとつは、
日豪関係をより包括的に規定した、より良い法的な枠組を整備するということです。
ふたつめは両国がこうした枠組を実行に移し、人命救助や生活の質的向上を図る上
で行動を共にすることです。こうした協力は日豪両国、あるいは第三国のどちらで
も可能です。わが国の兵士は、イラクで日本の自衛隊の警護を担当しましたし、パ
キスタンでは日本の医療チームのために空輸活動を行いました。
我々はこうした点から、現在日本で起きている論議、特に海外での PKO 参加五原則
や武器輸出三原則に関する論議に関心を払っております。しかしこれらは無論、日
本が議論を重ね、自ら決定を行うべき問題です。
わが国としては、もし日本の決定が世界の安全保障においてより大きな役割を果た
すものであるなら、これを歓迎いたします。日本は安全保障の分野で、東アジアに
おける最も緊密なパートナーであり、将来より多くを共に実現できることを期待し
ています。
この他にも触れておきたい多くの分野があります。例えば、政府開発援助、ODA に
おいては、我々の地域で両国の協力を深め得る余地が多分に存在しています。わが
国の ODA 予算は 2007 年から 15 年までの 8 年間に 4 倍になります。それは日本の予
算を上回る可能性があります。日豪の強みはそれぞれ違うところにあり、これがお
互いを補完しあっています。両国はこの分野で、協力して行動すべきです。
気候変動においても、日本とオーストラリアは多くの点で同じ課題に直面していま
す。両国の貿易・投資関係においてはエネルギーが大きな位置を占めていますが、こ
こでも持続性が確保されるよう、時間をかけて適応措置が講じられるべきです。わ
が国は最近、炭素価格制度を導入しており、将来的には排出量取引制度へと移行し
10 ていく予定です。日本が同種の制度の立ち上げに動く中で、我々は日本との緊密な
対話を維持したいと考えています。この分野で両国がお互いから学べることは多い
はずです。
時間が経ってきましたが、もうひとつだけ、日豪関係で最も重要な分野についてお
話させてください。それは両国間の人的交流です。
この分野でも、近年著しい進展が見られます。両国双方の実情に対する認識が深ま
りました。
こうした変化には、いくつかの要因があります。重要なのは、この 20 年間に両国間
を行き来する観光客が引き続き多いことです。上がり下がりはありますが、長期的
にはかなりの数に上ります。
教育もまた、重要な分野です。1970 年代の終わりや 80 年代の初頭において、私の
ように日本語を学んでいたオーストラリア人は非常にまれでした。しかし今では小
学校から大学まで、日本語はわが国の教育体系で、最も広く学ばれている外国語と
なっています。
その他にも、活発な人的交流を支える要因があります。日本各地で盛んな活動を行
う日豪協会や、わが国の豪日協会の存在は、人々の交流を豊かにし、若い方々を交
換プログラムを通じて相手国に派遣しあうなど、重要な役割を果たしています。現
代アーティストや音楽家による両国間の頻繁な訪問も、同様の役割を果たしていま
す。またロータリーやライオンズクラブといった慈善団体の果たす役割も、評価さ
れるべきです。
3 月の震災に対する草の根レベルでの広範な対応は、こうした両国民同士の交流が、
政府の活動とは別のところでいかに強固なものであるのかを教えてくれました。
こうした交流は、長期的な日豪関係に欠かせない重要な分野であり、我々はさらに
努力を重ねる必要があります。多くの日本人学生が、わが国を訪れています。
11 ところが残念なことに、近年日本からの観光客は減少傾向で、2010 年にわが国を訪
れた日本人の数は、30 万人を若干上回るに過ぎませんでした。お互いの国を訪問す
るという個人的経験を通じて、相手国に対する見識は深まります。我々はこれを最
大限活用する必要があります。
今後 5 年間で目指すもうひとつの目標として、オーストラリア大使館では教育・人的
交流を再び活性化するために、できる限りのことを行います。日本の観光客がいっ
てみたい国に再びわが国がなるよう、またより多くの学生が日豪間を行き来するよ
うになればと願っております。特に、日本の学生がわが国で豊かな体験をし、日本
の若者の間でオーストラリアあるいは、とにかく海外へ出て行きたいという気持ち
が高まってくれるよう願っております。日本が外の世界に目を向け続けるというの
は、わが国にとって国益につながります。
活発な人的交流を実現させる上で大きな鍵となるのが、航空便の運行数と乗客の利
便性の問題に取り組むことです。ジェットスター航空が就航して以降、航空運賃が
安くなり、また羽田空港発着のオーストラリア直行便が利用できることで、日本-
オーストラリア・ルートの魅力は高まります。
我々は観光に対する考え方を変え、両国は共に日豪双方向の航空便運行から利益を
得られるという認識に改めるべきです。自国を訪問する観光客の数のみを増やそう
とするのでなく、ツーウェイ、双方向の観光がもたらす利益を共に考え、包括的な
訪問者数の目標設定に努めるべきです。これもまた両国のパートナーシップにふさ
わしい、ウィン・ウィンの考え方ではないかと思います。
皆様は、この分野に関連してギラード首相が来日中に行ったいくつかの発表をご存
知かもしれません。オーストラリアに渡航する日本人学生を対象とした奨学金や、
両国の教育機関における交流を推進するプログラムが、この中に含まれていました。
我々はまた、日本政府の優れた‘JET’プログラムに似たプログラムの実現可能性
についても調べています。これにより日本の若い方々を、日本語教師としてオース
12 トラリアにお迎えするためです。またわが国の大学が世界の先端を行く国際教育の
分野においても、両国で意見交換を行える大きな可能性が存在しています。これは
若者に職場で必要な技能を教える技術・職業専門教育においても同様です。これら全
ての分野をしっかりと実行していくことに、力を入れていきたいと思います。
わが国の大学や語学学校やビジネス・カレッジ、ホスピタリティ・カレッジは世界
的評価が高いだけでなく、日本人の学生を受け入れてきた長い歴史があります。こ
の意味で現在よく言われる、日本の新世代の被雇用者やマネージャー、リーダー、
管理者におけるグローバル化のニーズに応える上で理想的な立場にあります。
日豪はごく自然に、お互いがパートナーとなる関係です。また共にこの地域のリー
ダーでもあります。我々は一世紀以上にわたって、未来指向の実業界、政界、教育
界の方々の努力を通じ、経済、政治、戦略、文化面にまたがる緊密な二国間関係を
築いてきました。
我々は一方で日本政府と同様、どのような関係においても、ある種の意見の違いは
存在するものだと理解しています。ご承知のように、日豪政府は捕鯨問題において
異なる立場を取っており、私はこの問題ではわが国の見解を主張し続けていきます。
一方、この問題が大変有益な両国の関係を損なってはならないという点で、日豪両
政府の意見は一致しています。
本日は日本とオーストラリアが取るべき次のステップについて、簡単に説明いたし
ました。経済連携協定(EPA/FTA)、より緊密な安全保障・防衛協力、教育、気候変
動が次の協力の分野に該当します。両国が自然にパートナーとなる時代を共に構築
できれば、将来にわたり日豪、さらにはより広い地域の安全と繁栄を支えていくこ
とができると思います。
ご清聴ありがとうございました。
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