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コンサルタントに期待する(下水道)

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コンサルタントに期待する(下水道)
水坤 コンサルタントに期待する
(下水道)
寄稿
古米弘明
東京大学大学院工学系研究科 附属水環境制御研究センター/
都市工学専攻/教授 ■はじめに
対策機能向上のための新たな基本的考え方」にも
取りまとめられている。
人口減少と少子高齢化、高度情報化、温暖化へ
今後は、既存の下水道施設情報だけでなく、気
の懸念、社会資本の老朽化、さらには経済のグロ
象情報、流量や水位の観測情報もストックとして
ーバル化など、今までに経験してこなかった社会
捉えた上で、それらを最大限に活用して、計画を
的変化に的確に対応することが、下水道分野でも
上回る降雨に対して、被害を軽減するという新た
求められている。
な思想を導入することが求められる。
都市の水インフラである下水道は、単なる汚水
この思想の導入推進を支えるのは、コンサルタ
処理、雨水排除という機能を有する基盤施設では
ントの方々がいかに浸水シミュレーションを駆使
ない。健全な水循環及び良好な水環境の創造、さ
して、高度な雨水管理計画を立案するかに依存し
らには持続可能な都市の構築に寄与できるよう
ているものと思われる。
に、様々な役割を担うことが期待されている。
その際、浸水対策だけでなく、質的管理のため
そこで、高度化した「多機能型下水道」の姿を
の合流改善対策を含め、XRAINデータの利用、管
イメージして、上下水道コンサルタント協会創立
路内水位計測情報の取得などを通じて、既存スト
30周年の記念号に際して、コンサルタントに期待
ックの機能診断を高度に行い、効率的な整備や効
したいことを雨水管理に関連したことを中心にい
果的な運転管理の提案を推進すべきである。まさ
くつか記載させていただきたい。
に、シミュレーション技術力を持ったコンサルタ
ントの出番である。
■雨水管理のスマート化の推進
2)他事業との連携力アップ
1)シミュレーション技術力アップ
多くの自治体で、河川や下水道分野の連携によ
下水道事業は、建設整備から維持管理に重点を
る浸水対策は進められている。しかし、それだけ
移行する時代を迎えた。汚水処理の最適化だけで
では限界があり、他の関連事業との連携も探るこ
なく、都市浸水対策を含め雨水管理においても新
とが必要である。浸水の潜在的な危険性を認識し
時代の到来である。平成 26 年 7 月に公表された新
て、雨水が流出しにくいまちづくりを目指すべき
下水道ビジョンにおいては、雨水管理のスマート
である。
化として表現されている。
下水道による雨水対策とともに、雨水の貯留・
従来の雨水管理から新展開が期待されている。
浸透機能を積極的に取り入れた再開発事業、道路
施設設計のためのマニング式や合理式だけでな
整備、公園・校庭の整備、商業ビル・学校・住居
く、管路内の非定常流や水位変化を扱えるサンブ
の建築などが期待される。都市計画や都市デザイ
ナン式や分布型下水道モデルを標準的に使う時代
ンと連携した雨水管理の方向性を明確にすること
である。その点は、
「ストックを活用した都市浸水
が求められる。それが、将来の気候変動にも適応
6
できる総合的な雨水管理計画の具体化につなが
での流出雨水処理料金から学ぶべき点があると考
る。是非、都市計画やデザイン分野の方々との交
えている。流出雨水の管理に充てられるべき費用
流を推進してもらいたい。
の一部を下水道料金として支払うことの妥当性を
明確化すべきである。
3)貯留・浸透の多面的評価手法の開発
汚水処理料金と流出雨水処理料金を分けて徴収
現在示されている水循環基本計画(案)の講ず
することで、住民意識も変わり、雨水流出抑制の
べき施策のなかでも、貯留・涵養機能の維持及び
行動を誘導できるはずである。また、公費に加え
向上、水の適正かつ有効な利用の促進がしっかり
て、徴収した流出雨水処理料金を活用して、浸水
と謳われている。雨水の貯留・浸透は、治水・防
対策事業の推進に振り向けることも可能となる。
災面だけでなく、水循環や水環境の健全化に寄与
そろそろ、下水道使用料算定の基本的考え方(昭
できる非常に多種多様な機能や効果を有してい
和 62 年下水道管理指導室長通知)を、コンサルタ
る。
ント協会がリードして見直してみることも面白い
従来型の単なる雨水排除や雨水貯留による対策
のではなかろうか。
を立案するだけではなく、分散型の雨水貯留・浸
透による流出抑制、さらには地下水涵養や合流式
■上下水道一体化でのビジョンに向けて
下水道の改善やノンポイント対策、平常時の雨水
利用等、様々な便益を総合的に評価することの重
現在、川崎市上下水道局では上下水道ビジョン
要性が認識されてきている。
の策定が行われている。著者は同市の上下水道事
このような多面的な機能を定量的に評価する手
業経営問題協議会の一員として、昨年末に、川崎
法開発を検討することが期待される。上記のシミ
市らしいビジョンづくりにしていただきたいとの
ュレーションを利用することで、評価手法の開発
発言をした。
へのブレイクスルーが見つかるのではないかと思
また、著者は、e-Water プロジェクト(浄水処
っている。
理トータルシステム開発に関する研究)のなかで、
上下水道排水一体化処理を対象に、国内外の事例
■雨水管理の費用負担の再考
調査を行い、経済性向上・環境負荷低減効果を明
下水道の管理運営の費用負担は、雨水と汚水に
業のもとで、荒川流域圏での気候変動を想定した
分類される。我が国では従来から、雨水費用は資
水資源の量と質の将来予測を行い、都市の自己水
本費、維持管理費ともに公費負担である。一方、
源である雨水、再生水などの活用を促進するため
汚水費用は、一部公費で負担すべき経費を除き資
の都市水利用システムのあり方を検討した。
本費と維持管理費とも、下水道使用料などの私費
都市の水循環や水利用システムの最適化には、
で負担するしくみである。
水道と下水道を別々に考えることに限界があると
新下水道ビジョンにおいても、制度構築の具体
考えている。2050年や2100年を想定するには、既
的施策として、
「国は、浸水リスクが増大する中、
存の枠組みや前提を外すことが必要であろう。水
早急に浸水対策を実施するため、雨水管理の費用
道と下水道の個別システムの最適化ではなく、長
負担のあり方について検討する。」ことが示され
期的な将来ビジョンを考えるには、行政界を越え
た。これは、都市域での雨水流出は自然現象では
た流域単位での上下水道一体化システムとして捉
ないことから、雨水公費のみの原則を再考する意
えることが必要である。
思表示であると思っている。
自治体単位では発想しにくい、流域単位での雨
コンサルタント協会にて、費用負担のあり方の
水や再生水の有効利用の可能性を含めた、持続可
再考する検討会をスタートしてはと思われる。著
能な水利用ビジョンの構築に挑戦してもらいた
者自身は、財政や経営の専門家ではないが、海外
い。
らかにした。平成 21 年からは、戦略的創造推進事
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■おわりに
きるコンサルティングが求められる時代だと思わ
れる。
上記の雨水管理や上下水道一体化以外にもコン
さらに、自治体の下水道職員等を対象に、雨水
サルタント力が求められている点が多い。
例えば、
管理に関する人材の育成を目的とした雨道場がス
都道府県構想の見直しにおいて、持続的な汚水処
タートしたように、下水道分野の人材育成が求め
理システムの構築を目指して、地域の特色があふ
られている。
れた構想づくりを推進されることも期待したい。
したがって、協会の主導のもと、シンクタンク
また、従来のような技術屋集団としてのコンサ
的なコンサルタント力を向上することや、コンサ
ルタントから、費用負担の再考のように、施設計
ルタントの方が「下水道の鉄人」として人材育成
画や設計を越えて、アセットマネジメント、事業
に活躍されることを願っている。
の経営計画とのつながりを持って技術力を発揮で
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