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『道路標識自動認識システム』∼走るだけで、地図の道路標識情報を更新∼
『道路標識自動認識システム』∼走るだけで、地図の道路標識情報を更新∼ ë今回お話をうかがった先生ê 谷黒 亘(たにぐろ わたる)さん 株式会社パスコ 道路センター 情報技術部 調査担当部長 RCCM(道路・機械部門)。1956年生。1978年東海大学工学部光学工 学科卒業。同年パスコ入社、現在に至る。路面性状調査装置の開発、 試験および評価。橋梁、トンネル、高欄の調査システムの開発、設 計および試験。舗装調査、舗装現況分析および評価。排水性舗装・ 環境舗装の調査、評価手法の開発、研究。道路・標識計測装置の開 発、研究。 てんけんくん(以下「て」):こんにちは!谷黒さんはどんな研究をしているのですか? 谷黒さん(以下「谷」):こんにちは。私は㈱パスコで3次元計測技術を使った「道路標識自動認識システ ム」を研究しています。 て:3次元計測ですか…なんか難しそう…。 谷:簡単に言えば、3次元計測とは2つのカメラで撮影した静止 画像から、立体的な情報を得ることです。てんけんくん、人間はな ぜ、モノを立体的に見ることができるか知っていますか? て:え?なんで立体的に見えるかって?うーん…そんなこと考え たこともなかったよ…。 谷:人間の目は、平均7㎝ほど左右に離れていると言われていま す。左右それぞれの目に写る景色は、離れているため微妙な違いを 生じます。この違いを脳が解析処理するため、私たちはモノを立体 的に認識できるのです。この微妙な違いを「視差」と言うのですが、 ピースクルーザー(道路標識測定車)は、GPSとIMU (Inertial Measurement Unitの略)を搭載し、自分の 位置を把握しながら、対象標識の位置を正確に計測す る。 このシステムはそれと同じ原理で3次元計測を行います。つまり、 人間が左右2つの目で物を見るように、2つのカメラを離れた位置 に配置することで視差を生じさせ、コンピュータで処理することで 立体的(3次元)な計測を行うシステムです。計測には測定車「ピースクルーザー=写真左=」を使用します。 て:でも、測定車に乗っている人が道路標識をいちいちチェックしていくのは、すごく時間がかかりそう…。 谷: 大丈夫ですよ、てんけんく ん。道路標識の認識はコンピュータ が自動的に行ってくれるのです。 て:え!本当ですか?まるで人間 みたい!どんな仕組みなのですか? 谷:まず、ピースクルーザーに搭 載されているコンピュータに標識の サンプルを登録します。ピースクル ーザーが走り出すと、コンピュータ は登録されたサンプルとカメラから 40 整備 in Tokyo 2006年 9 月号 (左)スピーカーのように見えるのは、デジタルカメラ。ステレオペアが2セット、計4台装 備されている。このカメラで5メートルごとに写真を撮影、解析することでデータベースを 構築する。 (右)車内の様子。電子要塞のよう。 送られてくる道路情報を照らし合わせ、標識を探 します。ここが開発で一番難しいところでした。 なぜなら、コンピュータの認識は人間のように融 通がきかないからです。指紋認証などはこういっ た特性を利用したシステムですが、道路標識の認 識では、それが逆に障害となってしまいます。コ ンピュータへ「これが『止まれ』だよ」等のサン プルを入力してみても、現実の道路標識は木の葉 で隠れていたり、歪んでいたりと一様でないため、 認識しないのです。 そこで、私たちは認識システムに人工知能(AI) を採用しました。コンピュータは道路各所にある サンプルに近い標識から認識をはじめ、徐々に多 くの標識を認識できるようになります。人間が経 実際の『道路標識自動認識システム』画像。この写真では、横断歩道を認識し ている。 験から学習していくように、この「道路標識自動 認識システム」も経験を積んで正確な認識を行う ようになっていくのです。走れば走りこむほど賢 く、正確になる。これが人工知能の強みです。現 在は95%を超える認識率となっています。 て:それで、このシステムは僕たちの生活にど んなふうに関わってくるのですか? 谷:私の勤務する㈱パスコは、カーナビや地図 の基となる道路データを作成する空間情報サービ ス企業です。この道路データと「道路標識自動認 識システム」を組み合わせることで、定期的に道 路標識のデータを更新することができます。この システムを使えば、簡単に道路標識の新設・更新 情報をまとめられるため、カーナビゲーションシ データベースはこのように構築される。標識そのものの画像も記録されている ので、確認や修正も容易にできる。 ステムなどへ情報を素早く反映させることができ ます。つまり、自動車ユーザーが求める『迅速な標識データ更新』に対応できるのです。将来的には看板や道 路情報も認識させることで「店舗情報」や「障害物情報」なども素早く更新できるよう、研究を進めています。 測定車によって収集されるデータの種類を増やすことで、社会インフラそのものをデータ化することが可能に なるのです。今まで提供されることのなかった「マンホール」や「幅員」などもカーナビに載る時代がくるか も知れません。 て:すごい!なんかカーナビの進化に僕たちがついて行けないような予感…。ところで、この測定車両はど れくらいの速度で計測するのですか? 谷:現在、カメラで収集したデータを時速36㎞程度の速さで解析し、処理を行うことができます。研究を続 けていくことで、もっと速い速度でも計測処理を行えるようにしたいと考えています。ちなみに、現在の技術 で東京都23区内の計測を行った場合、ピースクルーザー2台を使用すれば1年で完了する試算です。一度完全 な標識情報を入手してしまえば、あとは変更があった箇所の情報更新だけで済みますから、データの保守はさ らに容易であると考えています。 て:地図が最新の情報に保たれると、カーライフがより一層、楽しくなるかも! 谷: 道路施設もこれからは「つくる」時代から「維持管理」の時代になると言われています。このシステ ムは、道路の破損状況などを立体的に把握できるため、より経済的で効率的な道路の維持管理や災害時の道路 状況把握にも利用できます。皆様に最新の標識情報を提供するだけではなく、安心で安全な社会の維持に貢献 できるのです。まさに「ピース(平和)クルーザー(巡回車) 」と言えるでしょう。 整備 in Tokyo 2006年 9 月号 41