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海外視察報告 - 国立病院機構 九州医療センター

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海外視察報告 - 国立病院機構 九州医療センター
Kyushu Medical Center
独立行政法人
国立病院機構
九州医療センター臨床研究センター便り
平成26年度Vol.4(冬)
Kyushu Medical Center
お知らせ
春のお慶びを申し上げます。昨年度は全国的に臨
床研究の信頼をゆるがす事件が起きましたが、今
年は未年でおだやかなスタートとなればと望んでいま
す。当院の臨床研究は国立病院機構ネットワーク研究に
おいても、複数分野から主任研究課題が採択されて、ブラ
ッシュアップされてきており、研究の質は着実に向上し
てきているように思います。また治験事業では国際共同
研究の占める割合が年々多くなってきており、優秀な臨
床研究コーディネーターの支援で多くの研究が滞りなく
実施されています。今年は当院独持の英文原著論文もさ
らに増加が期待されます。
新
一方で今年は臨床研究と疫学研究の倫理指針が統合さ
れ、
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が施
行されることから、臨床研究に関わるすべての人々の倫
理教育プログラムの受講や研究の進捗管理などが義務付
けられ、新たな努力が必要になりそうです。さらなる臨床
研究の躍進のために、今年も快適な研究環境とネットワ
ークの充実に努めます。本年も臨床研究センターをどう
ぞよろしく御願い申し上げます。
平成27年1月
臨床研究センター長 岡田 靖
Kyushu Medical Center
海外視察報告
欧州消化器病学会週間 2014 に参加して
消化器内科
井星 陽一郎
014年10月18−22日にオーストリアのウィーン
で開催された UEGW ( United European
Gastroenterology Week) 2014 に参加いたしました。
約13,000名の臨床医、研究者、コメディカルが参加し、
様々な消化器分野の臨床的・基礎的研究の新知見、クリニ
カルプラクティスに関する発表、討論がなされました。
学会序盤のPostgraduate teaching programでは、主
要なテーマ毎に選ばれたスピーカーが教育的側面を重視
しクリニカルプラクティスのアップデートを含め中立的
な立場からのレクチャーを行いました。途中で聴衆がス
マートフォンから回答したり座長に質問を送る対話的形
式で進められ、参加することができ大変勉強になりまし
た。日本と同様に内視鏡関連のものやLive endoscopyは
盛況のようでした。しかし同時に例えば炎症性腸疾患や
Celiac/Non-celiac wheat sensitivity、Clostridium
difficileなどの感染性腸炎、ターミナルケアなどに関する
プログラムも充実し示唆に富み、普段は日常診療でのウ
ェートを反映し内視鏡関連の研究会が多いため個人的に
は新鮮味をもって感じられ、自分が“知らない”ことを知
る良い機会となりました。また学会企画のmentoring
programやnetworking eventではトップレベルの指導者
と若手または若手同士の交流を促進する機会が提供され
2
好評を博しました。
中盤・後半はさらに多様な2000を超えるシンポジウム
や口演・ポスター発表が続きましたが、日本からの内視
鏡関連の圧倒的なポスター数は印象的でした。今回私は
“Multigene analysis unveils helper T-cell-related
genes expression in intestinal mucosa that
correlates with endoscopic severity in ulcerative
colitis”の題目で、潰瘍性大腸炎の炎症部粘膜サンプルに
おけるサイトカイン発現と重症度との相関についてのポ
スター発表を行いました。潰瘍性大腸炎は未だ病態解明
の途上にあり、有用とされる抗サイトカイン療法への反
応性は個々の症例で異なります。治療選択肢が増える将
来においても、理想的なテーラーメード治療のためには
個々の症例ごとの遺伝的背景・環境要因を元に発生した
異なる炎症性状に応じた治療を要する可能性があり、同
様の研究の延長がそこまで到達できればと願うばかりです。
以上UEGW 2014について簡単にご報告いたしまし
た。学会参加をサポートし勉強する機会を与えて下さ
いました消化器科
の先生方に御礼申
し上げます。今回学
んだことを活かし
今後の診療・研究に
努力したいと思い
ます。
Kyushu Medical Center
TOPICS
肝胆膵外科における内視鏡外科手術
肝胆膵外科
髙見 裕子
在、消化器センター外科・呼吸器外科・泌尿器科を
中心とするロボット支援下手術を筆頭に当院でも
低侵襲手術への注力が進んでおります。
肝胆膵外科の領域においてどうかと言いますと、1992
年に他領域よりもいち早く腹腔鏡下胆のう摘出術が保険
収載され、これを起点に日本に内視鏡外科が広がったと
言っても過言ではありません。しかし、1990年後半に胃・
大腸・泌尿器・産婦人科・呼吸器外科などに適応が拡大し
ていったのとは裏腹に、意外にも肝胆膵外科領域でのそ
の後の進歩には停滞がありました。おそらく、肝切除時の
肝実質の出血コントロール、術後の出血や胆汁ろう、さら
には胆膵領域の胆道再建や膵管吻合など、クリアしなけ
ればならない問題が、たくさんあったからに違いありま
せん。
しかし、これらの問題点を次々に克服し(その、ほとん
どは使用するデバイスの進歩によるところが大きいです
が、)肝胆膵外科領域でも腹腔鏡下胆のう摘出術に続い
て、やっと2010年には腹腔鏡下肝部分切除・外側区域切
除、そして2012年には腹腔鏡下膵体尾部切除が保険収載
されました。
当科においても徐々にこれらの術式を、まだ完全鏡視
下ではありませんが、腹腔鏡補助下の形で導入を始めま
した。例えば、膵体尾部切除は大きく左肋弓下をL字切開
する開腹手術と比較して、正中に約8cmの皮切を加える
だけとなり、術後の疼痛、整容性は格段に改善された感が
あります。
ただし、この低侵襲の手術はあくまで安全性と、根治性
が担保されたものでなくてはなりません。腹腔鏡下外側
区域切除・肝部分切除の対象は肝細胞癌・転移性肝癌が主
現
ですが、これらに対して当院では開院以来、マイクロ波凝
固壊死療法(MCN)を用いて治療にあたっており、その安
全性と根治性・治療成績は非常に良好と自負しておりま
す。そのMCNにとって代わるだけの安全性・根治性を腹
腔鏡下に得られるだけの手応えには未だ乏しい感があり
ます。新しさと低侵襲を追いかけるばかりに、本来、癌の
治療に必須の姿勢を忘れないようにしなければいけま
せん。
腹腔鏡補助下膵体尾部切除においても適応疾患は厳密
に検討されるべきで、現在は、膵臓の良性および低悪性度
腫瘍が適応と考えており、いわゆる膵臓癌には従来通り
開腹による手術を行っています。このため、現在の腹腔鏡
補助下膵体尾部切除の適応は膵体尾部の膵管内乳頭粘液
性腫瘍(分枝型のみ)、粘液性もしくは漿液性嚢胞性腫瘍、
神経内分泌腫瘍などと考えています。
今後、適応疾患についての検討、そして技術の向上な
ど、様々な課題を乗り越えながら、慎重に確実に内視鏡手
術を取り入れていきたいと考えています。新春には国内
の肝胆膵内視鏡手術ではhigh volume centerの一つ、都
立駒込病院から研修を終えた龍 知記医師が戻って参り
ます。彼を筆頭に、従来の開腹手術・MCNに加えて、肝胆
膵内視鏡手術を確固たる新たな戦略として取り入れ、よ
り肝胆膵領域の外科治療を充実させていきたいと考えて
います。
「腹腔鏡下膵体尾部切除 膵の拳上や離断を鏡視下で行う」
臨床研究報告 優秀学術賞(平成25年度)
「C型慢性肝炎の3剤併用IFN療法における
口腔症状の評価」
福岡東医療センター/
九州医療セ ンター客員臨床研究員
歯科口腔外科
永井 清志
【緒 言】
C型慢性肝炎の治療は、従来のPeg-IFN(ペグインター
フェロン)とRBV(リバビリン)の2剤併用療法に新薬で
あるTPV(テラプレビル)を加えた3剤併用IFN療法(IFN
療法)が行われ、12週までは3剤を併用し、13∼24週は
Peg-IFNとRBVの2剤だけを併用する。本研究は、IFN療
法の副作用としての口腔症状の解明を目的として、1)
IFN療法における口腔症状、2)3剤投与期間中の口腔症状
とその影響要因について検討を行った。本研究の意義は、
Kyushu Medical Center
今後のIFN療法における副作用の軽減ならびに治療継続
率の向上に寄与することにある。
【IFN療法における口腔症状】
2012年1月∼6月にIFN療法を行った50例を対象に味
覚障害と口渇感(問診)、口腔粘膜疾患およびヘモグロビ
ンについて治療期間である24週間と治療終了後の24週
間について経時的変化を調査した。味覚障害、口渇感は初
診時に症状がみられた9例を除き41例について検討し
た。味覚障害は78.0%、口渇感は80.5%にみられ、TPV
投与が終了する12週前後をピークとし、治療終了後に消
失し可逆的であった。口腔粘膜疾患は、初診時に口内炎が
みられた2例を除き48例について検討した。全例が口内
炎で23例33病変がみられ、アフタ性口内炎15例、口角炎
10例、口腔カンジダ症7例、口腔扁平苔癬1例であった。口
腔扁平苔癬は治療終了後約1年半の時点で消失し、他の
口内炎は治療終了後4週の診察時には消失した。ヘモグ
ロビンは、初診時は13.8±1.7g/dlであったが、12週目に
は9.7±1.6g/dlと著明に低下し、TPV投与の終了ととも
に徐々に上昇し、
治療終了後には初診時の状態に回復した。
味覚障害、口渇感、口内炎ならびにヘモグロビンは、IFN
療法終了後には改善したため症状は可逆的であることが
明らかとなった。
味覚障害を認めた患者数の経時的変化
(人)
N=41
35
29
30
2013年2月∼7月にIFN療法を行った11例を対象に、
TPVの投与期間である12週間の味覚障害と口渇感、全身
症状のうち倦怠感、食欲不振、皮疹の自覚症状および苦痛
度をVAS法により評価した。また、味覚障害の影響要因を
唾液量(吐唾法、サクソンテスト、ガムテスト)、ヘモグロ
ビン、
血清亜鉛、
血清鉄、
口腔粘膜疾患の診査により行った。
12週の調査では味覚障害10例、口渇感10例、口内炎3例、
倦怠感9例、食欲不振8例、皮疹10例がみられ、味覚障害と
皮疹は患者の苦痛度が高かった。安静時唾液量(吐唾法)、
ヘモグロビンおよび血清亜鉛は、治療開始12週では初診
時と比較し有意に低下していた。血清鉄の減少はみられ
なかった。口腔粘膜疾患は、アフタ性口内炎2例、口角炎1
例がみられた。なお、刺激時唾液量は低下しなかった。以
上より、TPVの投与により安静時唾液量が低下し、ヘモグ
ロビンの著明な減少による血清亜鉛の低下が味覚障害の
原因となっていると考えられた。
IFN療法中の味覚障害は、皮疹とともに苦痛度が高く
て改善が望まれ、亜鉛の投与などの検討が必要と考えら
れた。口渇感は、咀嚼などによる唾液排出の刺激や水分の
こまめな摂取や夜間のマスクの使用、保湿剤の使用など
の対症療法が必要である。口腔症状は、倦怠感、食欲不振、
皮疹、貧血など様々な全身症状と関連していることから、
内科や皮膚科など関連する各科と協力して治療を行い、
患者のQOLの改善を図ることが重要である。
25
24
18 21
20
17
17
15
13
12
12
治療期間
9
10
治療後
10
7
8
4
5
2
1
0
0
0
0 1
4
8
12
16
20
23
28
36
48(週)
Peg-IFNα-2b, Ribavirin -24weekTelaprevir -12week-
口渇感を認めた患者数の経時的変化
(人)
N=41
35
30
23
22 21
25
19
20
17 19 18
16
16
14
12
15
9
10
14
治療期間
8
12 13
10
治療後
12
4
5
2
2
0
1
0
0
0 1
4
8
12
16
20
23
28
36
48(週)
Peg-IFNα-2b, Ribavirin -24weekTelaprevir -12week-
【謝 辞】
本研究を終えるにあたり、ご指導頂きました国立病院
機構九州医療センター歯科口腔外科医長 吉川博政先生
ならびに消化器内科医長 中牟田誠先生に深謝致します。
また、常に励ましの言葉を頂きました歯科口腔外科の各
位に深く感謝致します。
Kyushu Medical Center
CPC
病理組織学的に良悪性の鑑別を試みた
初発褐色細胞腫(PC)の1例
高血圧内 科、臨床検査部
病理
29
23
25
15
【3剤投与期間中の口腔症状とその影響要因】
28
25
木下 理恵・井上 美奈子
荒川 仁香・冨永 光裕
桃崎 征也
30歳代 女性
主 訴
頭痛、血圧高値
既往歴
特記事項なし
生活歴
喫煙なし 飲酒なし
家族歴
母:高血圧 母方の祖父:脳溢血
現病歴
生来健康で第一子の際には妊娠・出産・産褥期ともに高血圧や
尿蛋白の出現はなかった。 30歳代で第二子出産後産褥期に高
血圧となり、2か月ほど降圧薬を内服していた。その後多忙で通
院困難となったため、内服を自己中断していた。201X年6月よ
り頭痛が3日間出現。その後四肢の筋肉痛が出現したため、6日
後近医を受診した。その際血圧170/110mmHg程度で降圧薬内
服( a m l o d i p i n e 5 m g , c a n d e s a r t a n 4 m g / 日 )を 開 始 し
た 。しかし 、そ の 後 も 血 圧 コ ン ト ロ ー ル が 不 良 で あ る た
め 、同 年 7 月 当 科 紹 介 と な っ た 。当 科 初 診 時 、家 庭 血 圧
140-160/80-100mmHg、診察室血圧は座位で140/100mmHg
であった。初診時の血中ノルアドレナリン値が12067pg/mlと
有意に髙く、腹部CTで左副腎に3.0×3.5㎝大の腫瘤を認め、褐
色細胞腫が疑われた。降圧薬をα遮断薬に切り替えた後、8月当
科に精査入院となった。
入院時現症
身 長:1 5 4 . 6 ㎝ 体 重:5 4 . 4 ㎏ B M I:2 2 . 8 、血 圧
(doxazosin8mg/day内服下)
:座位rt 102/66mmHg PR
9 2 / m i n ( 整 ) l t 1 0 4 / 6 8 m m H g P R 9 2 / m i n ( 整 ) 、lt 立位
96/72mmHg 100/min
(整)
頸部:甲状腺触知‐, 血管雑音‐、胸部:
心音・呼吸音共に異常なし、下肢:浮腫‐、動脈触知+、皮膚:カフ
ェオレ斑‐
検体検査
<尿一般>蛋白(-)<尿生化学>Alb 4.1mg/g・Cr
<血算>WBC 6500 /μl, RBC 407万/μl, Hb 12.0g/dl, Ht
35.8%, Plt 36.5万/μl
<生化学>TP 6.7g/dl, Alb 4.2g/dl, TBil 0.5mg/dl, LDH
192IU/l, AST 15IU/l, ALT 12IU/l γGTP 11IU/l, ALP
166IU/l, Tchol 227mg/dl, TG 65mg/dl, HDL 69mg/dl, LDL
147mg/dl, BUN 9mg/dl, Cr 0.72mg/dl, eGFR
74.0ml/min/1.73㎡, UA 5.4mg/dl, Na 140mEq/l, K
4.1mEq/l, Cl 106mEq/l, Glu 99mg/dl, HbA1c 6.1%
<内分泌>
血中カテコラミン(アドレナリン(Ad) 44pg/ml, ノルアドレナ
リン(NAd) 9587pg/ml, ドーパミン(Dopa)157 pg/ml), 尿中
カテコラミン(Ad 22.7μg/day, NAd 2081.1μg/day, Dopa
679.8μg/day), 尿中メタネフリン 0.14mg/day, 尿中ノルメ
タネフリン 2.95mg/day, 尿中VMA 16.0mg/day, HVA
3.3mg/day, PRA 2.3ng/ml/h, PAC 207pg/ml
画像所見
<上腹部―骨盤部CT(図1)>
両側腎動脈本幹や主幹部に有意な狭窄を認めない。左副腎に約
3×3.5㎝大の境界明瞭な軽度分葉状の腫瘤あり。内部石灰化な
し。辺縁部主体に造影良好。
WHOによりmalignancyを示唆する所見として指定されてい
る以下の15項目についてはすべて陰性であった。1. Capsular
invasion, 2. Vascular invasion, 3. Expansion into the
periadrenal adipose tissue, 4. Expanded, large and
confluent nests, 5. Diffuse growth, 6. Necrosis, 7.
Increased cellularity, 8. Tumor cell spindling, 9. Profound
nuclear and cellular pleomorphism, 10. Cellular monotony
(smaller cells with high N/C ratio), 11. Nuclear
hyperchromasia, 12. Macronucleoli, 13. Increased mitotic
figures, 14. Atypical mitotic figures, 15. Absence of
hyaline globules.
組 織 分 化 度 分 類“ G A P P ”に よ る 組 織 的 分 化 度 は 3 点
(Cellularity, Ki-labeling index, CA
phenotype-norepinephrine type各1点)であった。
またSuccinate dehydrogenase complex subunit B
(SDHB)免疫染色は陽性であった。SDHB, SDHA, SDHC,
SDHD遺伝子に変異はないと考えられた。
(当症例は国立病院機構函館病院 臨床研究部病因病態研究室
木村伯子先生にコンサルトした。)
病理診断
Pheochromocytoma, moderately differentiated type,
SDHB-immunoreactivity: positive.
図1
<123I-MIBGシンチグラフィー(図2)>
左副腎に一致すると思われる部位を含め、
明らかな異常集積無し
考 察
本症例は臨床症状・内分泌学的にはPCの典型例であったが、
123 I−MIBGシンチが陰性であり、
最終診断を組織学的に行っ
図2
<副腎MRI>
左副腎に長径3.9㎝大の境界明瞭な軽度分葉状の腫瘤あり。T2
WIにて非常に高信号で造影後辺縁部主体に強く造影される。
<FDG-PET-CT>
左副腎既知病変へのdelayでやや明瞭となる高集積あり。
(SUVmax=4.88→delay5.19)
<甲状腺エコー>腫大、結節なし、副甲状腺腫大なし
臨床経過
初診時、入院時共に血中NAd高値で尿中NAd、ノルメタネフ
リン、VMA高値を認めたこと、入院前より変更したα遮断薬が
降圧に非常に有効であること、左副腎領域にCT、MRI等で腫瘍
を認めたことより、褐色細胞腫が最も考えられた。しかしなが
ら、123I−MIBGシンチが陰性であり、確定には至らなかった。幸
い現時点で心血管合併症は頸動脈プラークのみであったが、若
年であり今後の心血管病予防のためには腫瘍を摘出し、組織学
的診断が望ましいと考え、泌尿器科にて腫瘍摘出を行って頂い
た。術中腫瘍剥離中に収縮期血圧170mmHg台に上昇したため、
操作を中断されたエピソードはあったが、無事手術は終了した。
術後降圧薬中止にて血圧は100/60mmHg台となり、血中・尿中
NAd、ノルメタネフリン共に正常化している。
た。その結果、病変は副腎髄質に存在し、PCとの確定診断に至っ
た。PCはクロム親和性細胞が腫瘍化したもので、病理学的に副
腎髄質から発生したものをPC、傍神経節から生じたものをパラ
ガングリオーマと呼び区別することがある。高血圧内科では
2003年以降本例を含め4例を経験したが、3例目は術後1年以内
に多発転移が認められた悪性例であった。一般的に全PCの約
10%が悪性であるといわれるが、通常転移が明らかでない初発
時での悪性の鑑別は極めて困難である。良・悪性の鑑別をする上
での参考点としては表1などがあげられているが、今回、本症例
の予後を予測する目的でこの中の病理組織所見によるスコアリ
ングと原因遺伝子の一つであるsuccinate dehydrogenase
complex subunit B(SDHB)の免疫染色を院外に委託した。こ
の結果のうちKi-67染色陽性率2-3%、GAPPスコア3点、SDHB
変異陰性などから、本症例は悪性ではないものの、確実に良性と
は言えないと判断した。このため、今後も慎重に転移、再発の有
無を観察する予定である。
参考文献
1)成瀬 光栄 他:褐色細胞腫診療マニュアル改訂第2版 2012
表1
(文献1より)
鑑別マーカー
臨床所見
画像検査
一側性
単発性
副腎性
MIB-1(Ki-67) 染色
病理組織所見
病理所見
46×28 mm大の副腎内に限局する被膜を有する暗褐色の腫
瘤を認めた。組織学的には均一な多角形細胞が充実性胞巣もし
くは索状に配列し増殖していた。間質は繊細な血管から構成さ
れていた(いわゆるZellballen配列)。腫瘍細胞は細胞異型に乏
しく、また浸潤性増殖は示していなかった。Ki-67 labeling
indexは2-3%であった。
良性
カテコールアミン分泌パターン A 優位
分子マーカー
遺伝子変異
スコアリングスケール
(Kimura, et al )
hTERT
遺伝子発現
HSP90
免疫染色
テロメラーゼ活性
VEGF 免疫染色
COX-2 免疫染色
SDHB 変異
陽性率低い
(<2%)
1∼2 点
(高分化型)
悪性(未分化, 転移性)
NA 優位 ドパミン著増
DOPA, ALAAD 高値 , A/(NA+A)低値
両側性でやや多い
多発性
(非クロム親和性組織の病変)
副腎外性
18
F-FDG PET 陽性率が高い
陽性率高い
(>5%)
7∼10 点
(低分化型)
低頻度
高頻度
陰性∼弱陽性
強陽性
陰性
陰性∼弱陽性
陰性∼弱陽性
陽性
強陽性
中等度∼強陽性
陰性が多い
約 40%が陽性
A:アドレナリン, NA:ノルアドレナリン, ALAAD:aromatic L-amino acid decarboxylase, hTERT:human telomerase reverse
transcriptase, HSP 90:heat shock protein 90, VEGF:vascular endothelial growth factor, COX-2:cyclooxygenase-2
Kyushu Medical Center
委員会報告
災害対策委員会報告
救急広域災害対策部長
小林 良三
九
州医療センターは福岡県基幹災害拠点病院である
が、NHO九州グループにおいては九州グループ
統轄の使命が課せられている。平成7年1月阪神淡路大震
災以降、防災対策・災害対応に対し「自助/共助/公助」と
いう考え方が強調されてきた。○自助とは、自ら(家族も
含む)の命は自らが守ること、または備えること。○共助
とは、近隣が互いに助け合って地域を守ること、または備
えること。○公助とは、区をはじめ警察・消防・ライフライ
ンを支える各社による応急・復旧対策活動を指している。
しかし、平成23年3月東日本大震災では、地震・津波によ
る15,000人超の死傷者、複合災害となった福島原発事故
では数万人におよぶ避難を余儀なくされた。また、近未来
には南海トラフ連動地震の発災が懸念されている。九州
東沿岸の大分・宮崎・鹿児島各県では津波襲来による甚大
な被害が想定され、減災のための防災対策見直しが図ら
れている。当院では、災害派遣医療班(日本DMAT)や県
医療班の体制維持および訓練参加による隊員教育によ
り、有事に備えている。また、
「NHO九州グループ災害従
事者研修」を毎年開催し、研修会の到達目標を「災害対応
と、九州東沿岸の重心・精神・難病病床からの患者転送、病
院避難等九州グループネットワークの構築」とし、機能す
ることを目指している。今年度末、内閣府および福岡県・
市が担当する「国民保護訓練(テロ・化学災害)」の開催が
決定しており、当院はサリン散布による傷病者受け入れ、
「ゲートコントロール、防護、除染」の一連を可能とする病
院として求められている。
災害対策委員会は月例会として開催し、各論充実のた
め3グループに分かれ災害時対応への問題の抽出と改善
を図っている。⑴災害訓練グループ:防火・防災総合訓練
の企画と検証、実動訓練ではとくに災害対策本部運営機
臨床試験支援センター
先進医療の実施について
臨床試験支援センター
佐藤 栄梨
回、先進医療についてご紹介をさせていただきます。
先進医療とは、薬事法の承認等が得られていない
医薬品・医療機器の使用を伴う先進的な医療技術につい
て、有効性及び安全性を確保するため一定の施設基準を
設定し、当該基準に該当する各医療機関が申請の上、個別
に認められることにより保険診療との併用が可能となる
ものです。
今
能、指揮・調整系統の確立および現場の自律的活動を可能
とするアクションカード周知に力を入れている。⑵医療
班教育グループ:災害医療班指定者を召集し「災害医療班
の役割」、
「トリアージの実際」、
「化学災害対応の知識」な
ど、医療班の一員としての啓発を行っている。⑶備蓄庫お
よびマニュアル整備グループ:災害マニュアルの改訂(第
4版)、巻末には各部署作成のアクションカードを掲載、
備蓄庫は医薬品や医療備品の配置など、整備をおこなっ
ている。今後、委員会活動として有事に対応すべく、予知
能力をいかし発信していきたい。
災害対策本部
シナリオ確認
看護部人員再配置
各部署の被災情報
参集職員配置表
トリアージエリア
トリアージタグ記載
外来傷病者の誘導
院長講評
Kyushu Medical Center
平成26年11月1日現在、国内において102種類の先進
医療が認められており当院ではそのうち次の5種類を
実施しております。
・ペメトレキセド静脈内投与及びシスプラチン静脈内
投与の併用療法/肺がん【呼吸器外科】
・パクリタキセル静脈内投与及びカルボプラチン腹腔
内投与の併用療法/上皮性卵巣がん、卵管がん又は
原発性腹膜がん【婦人科】
・術後のホルモン療法及びS−1内服投与の併用療法
/原発性乳がん【乳腺外科】
・パクリタキセル腹腔内投与及び静脈内投与並びに
先進医療(旧名称:高度医療)を実施して以降、先進医療の
申請から試験の実施に至るまで積極的に支援を行ってお
り、関与するCRCについても、治験等における経験を最
大限に活用し先進医療の支援を行っております。
今後、先進医療をはじめ質の高い臨床試験に対応できる
上級者CRCの更なる育成に取り組み、先生方が安心して
治験・臨床試験等を実施できる支援体制の強化・整備を進
めていきますので、今後も先進医療をはじめ活発な臨床
試験等の実施をお願いいたします。
S−1内服併用療法/胃がん【消化器外科】
・S−1内服投与、オキサリプラチン静脈内投与及びパ
クリタキセル腹腔内投与の併用療法/胃がん【消化
器外科】
先進医療は治験と異なり治験依頼者の関与がないた
め、医療機関において臨床試験の質を担保することが求
められます。また、試験管理の点でも適正な実施体制が求
められることから、先進医療の実施医療機関は、臨床試験
を適切に実施できる体制整備が認められたこととなります。
臨床試験支援センターでは、平成24年に当院で初めて
平成26年度
第68回 国立病院総合医学会
優秀ポスター賞
ベスト口演賞
平成26年6月20日
平成26年11月14日∼15日
表彰者名 鶴﨑 雄一郎(脳血管内治療科)
表彰者名 川端 陽子(看護部)
演 題 当院での頭蓋内主幹動脈病変を有する
急性期アテローム血栓性脳梗塞の治療現状
演 題 チーム医療を実践し潰瘍を伴う肛門周囲皮膚炎が
治癒に至った一事例
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院外表彰者の
お知らせ
第20回 日本血管内治療科学会
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第68回国立病院総合医学会
ベストポスター賞
表彰者名 田中 沙希恵(臨床検査部)
平成26年11月14日∼15日
演 題 C型肝炎に対する3剤併用療法における2種類の
リアルタイムPCR測定法の比較検討
表彰者名 坂本 理美(看護部)
演 題 看護実践活動での倫理観の向上を目指して
∼事例検討を柱とした当院での活動報告∼
表彰者名 仲田 彩(看護部)
演 題 当院における看護師の職務満足度実態調査
∼職務満足度の現状の一考察∼
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学会の
お知らせ
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会 長
会 場
事務局
「女性内視鏡医のキャリアサポートを目指した教育研修体制確立に関する研究会」
3月21日(土)∼22日(日)
2015年
宮原 寿明
(九州医療センター副院長)
アクロス福岡
九州医療センター 整形外科 江崎 幸雄
九州大学整形外科 中島 康晴
5月31日(日)
演題募集締切日: 2015年
1月31日(土)
原田 直彦
(九州医療センター 光学診療部長)
会 場 名古屋国際会議場
会 長
大会URL:http://www.congre.co.jp/49k-ryumachi/index.html
昨年
「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイド
ライン」
が発表され、
今年から新たに
「人と対象とする医学系
研究に関する倫理指針」
「
、研究活動における不正行為への対
演 題 メンタルヘルス不調病休者に対しての
復職プログラム実践報告
平成27年度日本消化器内視鏡学会附置研究会
第49回 九州リウマチ学会
2015年
表彰者名 江口 珠美(看護部)
研究会案内
URL:http://www.jges.net/index.php/member_submenu/archives/386
応等に関するガイドライン」が発表されます。臨床研究を
進めるにあたり、
指針をしっかり遵守しなければなりません。
研究倫理に関する
「CITI Japan教育研修プログラム」
履修も
必要になります。アクセル(研究意欲)だけでは危険です。
ブレーキ
(倫理)
があるから安全な運転ができるのです。
(原田)
発 行 責 任 者: 臨床研究センター長 岡田 靖 (臨床研究企画運営部長併任)
医療管理企画運営部長
がん臨床研究部長
各研究室室長・副室長: 組織保存・移植
生化学・免疫
研究企画開発
化学療法
放射線治療開発
システム疾患生命科学推進
医療情報管理
臨床試験支援室
独立行政法人
国立病院機構
九州医療センター
才津秀 樹
楠本哲 也
岡村精 一 、 江 崎 幸 雄
山本政 弘 、 冨 永 光 裕
中牟田 誠 、 久 冨 智 朗
蓮尾泰 之 、 内 野 慶 太
松村泰 成 、 坂 本 直 孝
佐藤真 司 、 小 河 淳
原田直 彦 、 占 部 和 敬
岡田 靖 、 山 脇 一 浩
臨床研究推進部長
トランスレーショナル研究部長
病態生理
動態画像
情報解析
臨床腫瘍病理
先端医療技術応用
医療システムイノベーション
教育研修
〒810-8563 福岡市中央区地行浜1丁目8番1号
矢坂正弘
富田幸裕
中 村 俊 博 、 一 木 昌 郎 、 村里 嘉 信
黒岩俊郎、桑城貴弘
吉住秀之、中村 守
桃崎征也、中川志乃
小野原俊博、高見裕子
詠 田 眞 治 、 甲 斐 哲 也 、 津本 智 幸
末松栄一、
TEL:092-852-0700(代)
FAX:092-846-8485
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