...

漢字熟語の音読メカニズムの認知心理学的検討

by user

on
Category: Documents
55

views

Report

Comments

Transcript

漢字熟語の音読メカニズムの認知心理学的検討
漢字熟 語の音 読メカニズムの認知心理学的検討
− 単 語 単 位の 知 識 と 文 字 単 位 の 知識 −
伏 見 貴 夫 1)、伊 集 院 睦 雄 1)、 Karalyn Patterson2)、辰 巳 格 1)
1) 東 京 都 老 人 総 合 研究 所 、2)Medical Research Council, U.K.
【 目 的 】 単語 音 読 に は 、 単 語 単 位で の 読 み の 知 識 と 、 文字 単 位 で の 読 み の 知 識が 使 わ
れ る と い われ る 。 日 本 語 の 仮 名 単語 で は 個 々 の 文 字 に 個々 の 音 韻 を 対 応 さ せ る文 字 単
位 の 知 識 が使 わ れ 、 漢 字 語 で は 個々 の 文 字 に 複 数 の 読 みが あ る た め 、 文 字 列 全体 に 音
韻 全 体 を 対応 さ せ る 単 語 単 位 の 知識 が 使 わ れ る と 考 え られ て き た が 十 分 な 検 討が な さ
れ て な い 。本 研 究 で は 、 漢 字 2 字熟 語 の 音 読 に 単 語 単 位の 知 識 の み な ら ず 、 文字 単 位
の 知 識 も 使わ れ る こ と を 示 す 。
漢 字 熟 語の 音 読 に お い て 、 単 語単 位 の 知 識 が 使 わ れ てい る の な ら 、 高 頻 度 語は 低 頻
度 語 に 比 べ音 読 が 容 易 で あ り 、 単語 は 非 語 に 比 べ 音 読 が容 易 な は ず で あ る 。 一方 、 文
字 単 位 の 知識 が 使 わ れ て い る の なら 、 単 語 ・ 非 語 と も 構成 文 字 の 読 み の 一 貫 性が 高 い
も の ほ ど 音読 が 容 易 な は ず で あ る。 そ こ で 、 実 験 1 で は単 語 音 読 に お け る 単 語頻 度 と
一 貫 性 の 影響 を 、 実 験 2 で は 非 語音 読 に お け る 一 貫 性 の影 響 を 調 べ た 。
【 方 法 】 実験 1 : 単 語 を 構 成 す る文 字 の 読 み の 一 貫 性 を調 べ る た め 、 岩 波 国 語辞 典 第
四 版 (1986) の 見 出 し 語 か ら 漢 字 2 字 熟 語 約 31,000 語 に つ い て 、漢 字 ご と 、 文字 位 置
別 に 読 み を集 計 し た 。 例 え ば 、1 文 字 目 が 「 歌 」 で あ る単 語 は 30 語 あ る が、「 か 」 と
読 む 単 語 が 23 語、「 う た 」 と 読 む単 語 が 7 語 な の で、「 か 」 を 典 型 的 読 み と 定 義で き
る 。 こ の 集計 に 基 づ き 、 単 語 を 以下 の 3 つ に 分 類 し た 。(i)一 貫 語 :「 満 開 」 の よう に
読 み が ひ とつ し か な い 漢 字 、 す なわ ち 読 み が 一 貫 し て いる 漢 字 で 構 成 さ れ る もの 、 (ⅱ )
非 一 貫 典 型語 ( 以 下 、 典 型 語):「歌 詞 」 の よ う に 個 々 の文 字 に は 複 数 の 読 み があ る
が 、 そ の 単語 で は 典 型 的 読 み が あて は め ら れ る も の、( ⅲ ) 非 一 貫 非 典 型 語 ( 以下 、 非
典 型 語):「歌 声 」 の よ う に 非 典 型的 読 み が あ て は め ら れる も の 。 単 語 頻 度 ( 高頻
度 ・ 低 頻 度、 国 立 国 語 研 究 所 ,1970) と 一 貫 性 ( 一 貫 語・ 典 型 語 ・ 非 典 型 語 )を 統 制
し た 20 単 語×6 種類 、 計 120 単 語 を 刺 激 と し た 。
実 験 2: こ の 120 語 の 文 字 対 を組 み 替 え て 非 語 を 作 成し た 。 例 え ば、「 歌 声 」 と
「 極 上 」 から 、 非 語 「 歌 上 」 を 作成 し 、「 か じ ょ う 、 う たう え 、 う た が み 」 な ど各 構
成 文 字 に 対し 単 語 で 出 現 す る 読 み、 お よ び 漢 和 辞 典 に 記載 さ れ た 読 み の 組 み 合わ せ す
べ て を 非 語の 読 み と し た。「 歌 上 」 の よ う に 複 数 の 読 み を持 つ 漢 字 か ら 構 成 さ れる 非
語 で は 、 それ ぞ れ の 文 字 に は 主 に、 単 語 で の 典 型 的 読 みが 割 り 当 て ら れ る と 考え ら れ
る 。 そ こ で非 語 を 構 成 す る 文 字 の読 み の 一 貫 性 を 、 典 型読 み を す る 単 語 の 割 合
(「 歌 」 に つ い て は 23/30)と 定 義 し 、 非 語 を 以 下 の 3 つ に 分 類 し た。( i) 一 貫 非 語 :
「 満 送 」 のよ う に 読 み が ひ と つ しか な い 漢 字 で 構 成 さ れる も の 、( 辻 ) 非 一 貫 備向 非 語
( 以 下 、 偏向 非 語 ):「 歌 上 」 の よう に 典 型 的 読 み を す る単 語 の 割 合 が 高 い 文 字で 構
成 さ れ る もの 、( ⅲ ) 非 一 貫 曖 昧 非語 ( 以 下 、 曖 昧 非 語):「 仲 女 」 の よ う に 典 型的 読
み を す る 単語 の 割 合 (「 仲 」 に つ いて は 7/13) が 低 い 文字 で 構 成 さ れ る も の 。一 貰 非
語 、 偏 向 非語 、 曖 昧 非 語 、 各 40、 計 120 非 語 を 刺 激 と した 。
実 験 1 ・2 と も 、 19∼40 才 の 健常 成 人 20 名 を 対 象 とし 、 刺 激 を 1 項 目 づ つコ ン
ピ ュ ー タ ー画 面 に 呈 示 し 、 即 座 に音 読 す る よ う 求 め た 。
【 結 果 】 実 験 1: 高 頻 度 語 は 低 頻度 語 よ り 正 答 音 読 潜 時が 短 く ( そ れ ぞ れ 483ms、
550ms)、 誤 答 率 も 低 か っ た (3.5% , 9.2%)。 ま た 低 頻 度語 で は 、 一 貫 語 、 典 型語 、
非 典 型 語 の順 に 正 答 音 読 潜 時 (516ms, 536ms,598ms)、 誤 答 率 (5.3% , 6.5% ,
15.8% ) が 大 き くな っ た が 、 高 頻度 語 で は こ の 傾 向 が 頼著 で は な か っ た 。
実 験 2 :非 語 音 読 の 誤 答 率 は 単語 よ り や や 高 く (11.2%)、 正 答 音 読 潜 時 は 単語 に
比 べ 著 し く長 か っ た (785ms)。 ま た 一貫 性 に 関 し て は 、正 答 音 読 潜 時 (744ms,
769ms,842ms)、 誤 答 率 (8.1% ,12.0% ,13.5%)、 非 典 型 的 読 み が 割 り 当 て ら れた 比
率 (0.8% ,21.6% ,59.9% ) な ど が、 一 貫 非 語 、 偏 向 非 語、 曖 昧 非 語 の 順 に 大 きく な っ
た。
【 考 察 】 音 読 潜 時 お よ び 誤 答 率を 指 標 と し た 場 合 、 単語 頻 度 効 果 お よ び 語 彙性 効 果
( す な わ ち単 語 と 非 語 の 差 ) か ら、 漢 字 熟 語 の 音 読 に は単 語 単 位 の 読 み の 知 識が 使 わ
れ て い る こと が わ か る 。 一 方 、 単語 ・ 非 語 音 読 に お け る一 貫 性 効 果 か ら 、 文 字単 位 の
知 識 も 使 われ て い る こ と が わ か る。 し か し 、 高 頻 度 語 につ い て は 一 貫 性 効 果 が認 め ら
れない。
こ の よ うな 現 象 を 説 明 す る 音 読の 認 知 心 理 学 的 モ デ ルに は 、 大 き く 分 け て 、2 種 の
モ デ ル 、 すな わ ち 単 語 単 位 の 知 識と 文 字 単 位 の 知 識 が 単一 の シ ス テ ム に よ っ て表 現 さ
れ る 単 一 経路 モ デ ル と 、 別 々 の シス テ ム に よ り 表 現 さ れる 2 重 経 路 モ デ ル が ある 。 発
表 で は 、 どの よ う な モ デ ル に よ り熟 語 音 読 の メ カ ニ ズ ムが 説 明 で き る か 、 議 論を 行 う 。
Fly UP