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Mahara オープンフォーラム 2015 講演論文集
Proceedings of Mahara Open Forum 2015
-教育ビッグデータの活用に向けた Mahara-
第 6 回 Mahara オープンフォーラム
2015 年 10 月 10 日(土),11 日(日)
放送大学(千葉市美浜区)
主催
Mahara User Group Japan 運営委員会
MUG-Japan 運営委員長:森本康彦(東京学芸大学)
MOF2015 運営委員長:秋光淳生(放送大学)
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
目次
大会プログラム ........................................................................................................................................................................... 1
SECI モデルと e ポートフォリオ・リテラシースキルを用いた授業設計
田中洋一(仁愛女子短期大学), 山川修(福井県立大学) ................................................................................................. 3
ポートフォリオ・リテラシーの育成とダッシュボードの設計
佐藤眞久, 吉川雅修, 奥原利昌(山梨大学), 田中雅貴(株式会社カルク), 日永龍彦(山梨大学) ............................ 8
通信制大学における学修活動理解の試み
秋光淳生, 秦野努, 三輪眞木子, 仁科エミ(放送大学) ...................................................................................................... 12
PBL における Mahara の利用 -ペーパーレスを目指したピア評価システム堀場文彰, 鈴木茂孝(藤田保健衛生大学), 遠藤大二(酪農学園大学), 若月徹, 大槻真嗣(藤田保健衛生大学) ... 18
プレゼンテーション学習におけるルーブリックのピア評価について ~2,361 件データに対する分析~
亀田真澄(山口東京理科大学) .............................................................................................................................................. 21
マハラン・コネクション~Mahara と LMS を接続する
隅谷孝洋, 秋元志美, 原田久美(広島大学) ......................................................................................................................... 28
複数システムで一貫した用語を使用する手法の提案 -Mahara, Moodle, Sakai CLE による共通翻訳メモリ宮崎誠(畿央大学), 平岡斉士(熊本大学), 常盤祐司(法政大学),
出口大輔(名古屋大学), 喜多敏博(熊本大学), 梶田将司(京都大学) ...................................................................... 32
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
【大会プログラム】
◎1 日目:10 月 10 日(土)
開始~終了
プログラム
12:30
受付開始
13:00~13:10
開会挨拶・趣旨説明
秋光淳生(放送大学, MOF2015 運営委員長)
13:10~13:40
招待講演 1 【遠隔講演】
Mahara15.10 について(仮題)
Kristina D.C. Hoeppner(Catalyst IT)
13:40~13:50
休憩
13:50~14:50
招待講演 2
MOOCs と Learning Analytics(仮題)
山田恒夫(放送大学)
14:50~15:00
休憩
15:00~16:30
一般セッション 1
SECI モデルと e ポートフォリオ・リテラシースキルを用いた授業設計
田中洋一(仁愛女子短期大学), 山川修(福井県立大学)
ポートフォリオ・リテラシーの育成とダッシュボードの設計
佐藤眞久, 吉川雅修, 奥原利昌(山梨大学)
田中雅貴(株式会社カルク), 日永龍彦(山梨大学)
通信制大学における学修活動理解の試み
秋光淳生, 秦野努, 三輪眞木子, 仁科エミ(放送大学)
16:30~16:40
休憩
16:40~17:40
一般セッション 2
PBL における Mahara の利用 -ペーパーレスを目指したピア評価システム堀場文彰, 鈴木茂孝(藤田保健衛生大学), 遠藤大二(酪農学園大学)
若月徹, 大槻真嗣(藤田保健衛生大学)
プレゼンテーション学習におけるルーブリックのピア評価について
~2,361 件データに対する分析~
亀田真澄(山口東京理科大学)
18:00~20:30
情報交換会(放送大学)
1
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
◎2 日目:10 月 11 日(日)
開始~終了
プログラム
8:30~
受付開始
9:00~10:00
一般セッション 3
マハラン・コネクション~Mahara と LMS を接続する
隅谷孝洋, 秋元志美, 原田久美(広島大学)
複数システムで一貫した用語を使用する手法の提案
-Mahara, Moodle, Sakai CLE による共通翻訳メモリ宮崎誠(畿央大学), 平岡斉士(熊本大学), 常盤祐司(法政大学)
出口大輔(名古屋大学), 喜多敏博(熊本大学), 梶田将司(京都大学)
10:00~10:10
休憩
10:10~11:10
パネルディスカッション
高等教育で全学的に Mahara を利用する意義と課題
進行:山川修(福井県立大学)
パネリスト:緒方広明(九州大学), 高橋暁子(徳島大学)
11:10~11:20
休憩
11:20~11:50
クロージングセッション
Mahara User Group Japan の設立と e ポートフォリオのこれから
進行:田中洋一(仁愛女子短期大学)
パネリスト:森本康彦(東京学芸大学, MUG-Japan 運営委員長)
11:50~12:00
閉会挨拶
秋光淳生(放送大学, MOF2015 運営委員長)
2
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
SECI モデルと e ポートフォリオ・リテラシースキル
を用いた授業設計
田中洋一†1 山川修†2
SECI モデル及び e ポートフォリオ・リテラシースキルを用いた授業設計について報告する.
Instructional Design using SECI model and e-Portfolio Literacy Skill
YOICHI TANAKA†1 OSAMU YAMAKAWA†2
We report on the instructional design using SECI model and e-Portfolio Literacy Skill.
の4つの知識変換モードを考えている(図1).(S)個人の
1. は じ め に
暗黙知からグループの暗黙知を創造する「共同化」,(E)暗
「基礎学力」「学習意欲」「将来への意欲」が低い最近の
黙知から形式知を創造する「表出化」,(C)個別の形式知か
大学生に対して,主体的で深い学びを創発させるためには,
ら体系的な形式知を創造する「連結化」,(I)形式知から暗
職場や市民生活における「リアルな課題」
(真正な文脈,真
黙知を創造する「内面化」.
正な活動)に取り組ませ,プロセスの中で評価すること(真
暗黙知
正の評価)が大切である.構成主義,社会的構成主義にお
いて「学習」とは,個人またはグループの中でモノや人と
「対話」・「協同」し,自分の中や社会に意味を構成するも
のである.このように学習者が中心となり主体的に進めら
暗
黙
知
れる学習を「真正な学習」とよぶ.真正な学習における「真
正の評価」は,
「大人が仕事場や市民生活,個人的な生活の
場で試されている,その文脈を模写すること(Wiggins, G.)」,
「リアルな課題に取り組ませるプロセスの中で子どもたち
(S) 共同化
(E) 表出化
Socialization
Externalization
(I) 内面化
(C) 連結化
Internalization
Combination
を評価すること(Shaklee, B.D.)」等と定義されている.真
形
式
知
形式知
正の評価の一つとしては,e ポートフォリオに学習のエビ
デンスとして artifact(学習成果物)を蓄積し,ルーブリッ
図1.SECI モデル:4つの知識変換モード
クを用いて,パフォーマンスに対する自己評価・相互評価・
教師評価・他者評価を行う方法がある.ただし,e ポート
SECI モデルを授業設計に活用している,仁愛女子短期大
フォリオを使えば学習が上手くいく訳ではなく,授業設計
学での実践例を紹介する.筆者が担当する授業では,LMS
及び学習コミュニティの構築が重要である.本稿では,
(Moodle)を授業ポータルサイトとして用いて,毎回の学
SECI モデルと e ポートフォリオ・リテラシースキルを用い
習目標,授業内容,参考資料等を提示している.また,e
て,授業設計を見直す方法を報告する.
ポートフォリオ(Mahara)にて課題の提出,振り返りノー
トの記述を行い,受講者間で共有し,フィードバックを実
施している.
2. SECI モ デ ル
幼児教育学科1年後期に開講している「教育の方法と技
組織の知識創造を理論化したものとして,野中らの SECI
術」では,幼稚園における保育・教育の方法,情報機器や
モデルがある.知識が暗黙知と形式知の社会的相互作用を
教材の活用法を学ぶ.到達目標は,一人ひとりの発達や障
通じて創造されるという前提に基づき,SECI モデルでは次
がいに応じて援助できるように,保育方法や保育環境(ICT
を含む)を設計できること.この授業で e ポートフォリオ
†1 仁愛女子短期大学 Jin-ai Women’s College †2 福井県立大学 Fukui Prefectural University を利用する理由は以下の2つである.1つめは,授業 15
3
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
回の学びが Mahara の1ページで俯瞰でき,授業の終わり
の発表を準備する.
に毎回自己省察しやすいことである.2つめは,授業を受
④
グループ発表(ロールプレイング)
講している学生間でページの閲覧が可能であり,情報の共
学生らが希望する順番でグループ発表を行う.大学
有及び他者へのフィードバックがしやすいことである.使
の授業内での発表ではなく,保護者説明会のロールプ
用する Mahara ページは3列のレイアウトであり(図2参
レイングとして,発表者らは一つの幼稚園の教諭,他
照),左列に毎回の振り返りノート(授業の最後に行動や考
の学生らは保護者を演じる.保育内容の説明では,ス
えの変化等を記述),中央列に課題の文章(幼児教育に関す
ライドを用いた説明に留まらず,保護者役の学生に対
るミニレポート,グループ発表の自己評価,制作物のコン
して,設定保育(英語での手遊び,太鼓を用いたリト
セプト,簡易的な指導案等),右列に制作物(幼稚園児向け
ミック等)を実際に行う.
CM,保育電子教材)を配置している.
⑤
質疑応答
他のグループメンバーは保護者の視点で質問し,発
振り返りノート 課題(文章) 課題(制作物) 表者は教諭の視点で回答する.
⑥
相互評価【Moodle 利用】
相互評価では,他グループの発表を聴きながら,
Moodle のアンケート機能を用いて,4つの観点(発表
内容,スライドの見やすさ,スライドの工夫,発表方
法)に対して4件法で評価し,感想(良い点を見つけ
てほめる,改善点を指摘する)を記述する.
⑦
相互評価の振り返り【Moodle 利用】
全グループの発表終了後,クラスからの相互評価結
果を閲覧し,振り返りを行う.
図2.Mahara ページの例
⑧
発表スライドの共有【Mahara 利用】
本授業は3クラスで開講しているため,他のクラス
本授業の内容のうち,SECI モデルで解釈すると知識創造
で同じテーマを担当したグループのスライドを閲覧し
プロセスが理解しやすい,幼児教育に関するグループ発表
たり,同じクラスのスライドを見直したりする.ある
(4回分)の流れを説明する.1学年 120 名定員を3クラ
学生にとって,同じグループの学生がコア・メンバー,
スに分けているため,1クラスは 40 名程度であり,その1
同じクラスの学生がアクティブ・メンバー,他クラス
クラスを8グループに分け,各グループが1つの幼稚園の
の学生が周辺メンバーと言える.
教諭として活動に取り組む.グループ(幼稚園)ごとに特
⑨
自己評価【Mahara 利用】
色ある保育・教育が異なり,シュタイナー,モンテッソー
自分のグループについて,発表の良かった点と改善
リ,自然体験,音楽,英語,パソコン・タブレット,放送
すべき点を記述する.
番組,玩具のいずれかである.各グループは,与えられた
⑩
テーマの先行事例を調べ,保護者説明会という仮想的なイ
幼児教育に関するミニレポートの作成【Mahara 利用】
「自分が考える良い幼児教育の方法」についてミニ
ベントにて自分の園が行っている保育内容のメリットを発
レポート(400 文字程度)を記述する.
表する.説明を聴いた上で,保護者役の学生(他のグルー
⑪
学習成果物(ミニレポート等)へのフィードバック
プ)は心配な点や理解できなかった点を質問し,教諭役の
【Mahara 利用】
学生が回答するというロールプレイングである.
毎回の振り返りノート及び課題(グループ発表の自
グループ発表の流れは,次のとおりである.
己評価+ミニレポート,幼稚園児向け CM,保育電子
①
グループディスカッション
教材+指導案)を挿入した Mahara ページを最低5名
グループごとにテーマについて話し合い,発表のア
分閲覧し,簡単なコメント(良い点をほめる)を投稿
ウトラインを作成する.
する.
②
個人スライドの作成
⑫
アウトラインにもとづき担当する役割を決め,先行
Mahara ページにて,自分自身及び他者の 14 回を通
事例を調べ,スライドを作成する.2週間前の授業で
した学びを振り返った上,再び「自分が考える良い幼
グループ分け及びテーマ決めをしているため,グルー
児教育の方法」に関するミニレポートと 15 回を通し
プによって予習や個別スライドの作成を始めている.
③
再レポートの作成【Mahara 利用】
た感想を記述する.
グループの発表準備
グループ発表を知識創造の SECI モデルで解釈すると,
個別に作成したスライド及び原稿をまとめ,7分間
下記のようになる(図3).
4
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
暗黙知
と考えている.
暗黙知
(E)表出化とは,対話(共同での思考)等により,暗
(S)共同化
暗黙知
黙知を明確なコンセプト(形式知)に表すプロセスである.
(E)表出化
①グループ
②個人スライドの作成
ディスカッション
⑥相互評価,⑨自己評価
形式知
の作成,相互評価,自己評価を挙げている.今回の例なら
⑤質疑応答
暗黙知
ば,参考文献に基づきスライドをまとめる点よりも,対話
(I)内面化
(C)連結化
④グループ発表
③グループの発表準備
(ロールプレイング)
⑩ミニレポート作成
を通してイメージを概念化する点が肝要である.
(C)連結化とは,異なるコンセプト(形式知)を組み
形式知
合わせて,新たな一つの知識体系(形式知)を創り出すプ
ロセスである.本授業のグループ発表では,連結化として,
形式知
本授業のグループ発表では,表出化として,個人スライド
グループ発表の準備,ミニレポートの作成を挙げている.
形式知
今回の例ならば,一つひとつのコンセプト(園における季
図3.授業設計における SECI モデル(グループ発表)
節や発達に合わせた活動概念等)に基づき個人個人で作成
した発表スライド及びシナリオを統合して,一つのコンセ
1回目の SECI サイクルとしては,与えられたテーマに
プト(園の基本概念)に基づくストーリーを作るように助
関して①グループディスカッションすることにより個人の
言する.
暗黙知からグループの暗黙知を創造する共同化
(I)内面化とは,行動による学習(learning by doing)や
(Socialization),担当項目を調べ②個人スライドを作成す
他者による経験の追体験によって,形式知を暗黙知へ体化
ることにより暗黙知から形式知を創造する表出化
するプロセスである.体験の内面化には,書類やマニュア
(Externalization),個人スライドをまとめ③グループ発表
ル等の文書化が大切である.本授業のグループ発表では,
を準備することにより個別の形式知から体系的な形式知を
内面化として,ロールプレイングによるグループ発表を挙
創造する連結化(Combination),④グループ発表でロール
げている.今回の例ならば,ロールプレイングにおける追
プレイングを行うことにより形式知から暗黙知を創造する
体験を意識させることが重要である.
内面化(Internalization)という流れである.2回目の SECI
サイクルとしては,⑤質疑応答をすることにより(S)共
3. e ポ ー ト フ ォ リ オ ・ リ テ ラ シ ー ス キ ル
同化,⑥相互評価及び⑨自己評価することにより(E)表
出化,⑩レポートを書くことにより(C)連結化,その後
Paul Treuer(2014)は,「e ポートフォリオとは,継続学
の活動により(I)内面化が進む.このように知識創造のプ
習,学習の深化,目的に沿った学習に寄与する自身の学び
ロセスでは,SECI モデルのサイクルが螺旋状に何回も繰り
を記録するための道具である」と定義し,e ポートフォリ
返されることになる.
オ・リテラシーとして以下の5つのスキルをまとめている.
今回のように,授業設計を SECI モデルで解釈した場合
e ポートフォリオ・リテラシースキルは図4のように螺旋
のメリットを下記に整理する.SECI モデルでは知識創造プ
状に繰り返される.
ロセスを共同化(Socialization),表出化(Externalization),
① 学習成果を収集する(Collection)
連結化(Combination),内面化(Internalization)と明確に
1つめは,意図した学習目標を実践した成果を収集
構造化しているため,各プロセスを実行しているかをチェ
し共有するスキルである.授業設計としては,学生に
ックすることにより,授業設計のヒントが得られる.
学習成果を説明させる,学習成果の習熟度を示すルー
(S)共同化とは,経験を共有することにより,言葉を
ブリックを与える,学習の証拠として説得力のある例
使わずに他者の暗黙知を獲得するプロセスである.たとえ
を与える,ポートフォリオの証拠としてなぜそれを採
ば,職人の修行や部活動にて,師匠や先輩から言葉を使わ
用したのかを説明させる等の手法が考えられる.
② 自己調整行動を記録する(Self-Regulation)
ず,観察・模倣・練習から技術を学ぶこと.本授業のグル
ープ発表を SECI モデルで解釈した際,共同化としては,
2つめは,個人が新たな学習を実践し応用する行動
グループディスカッションと質疑応答を挙げている.両場
をコントロールするスキルである.授業設計としては,
面とも言葉を介しているが,言葉を使用していることが問
意図した学習成果に関連する行動を説明させる,学習
題なのではなく,共体験していることが重要といえる.今
スタイルを記述させ学習行動の効果を説明させる,学
回の例ならば,グループ発表の役割分担やシュタイナーの
習行動における変化の証拠を問いかける等の手法が考
ことを話し合うよりも,シュタイナー教育を取り入れた幼
えられる.
③ 批判的省察を記録する(Reflection)
稚園の教諭として保護者説明会の段取りや保育内容の改善
3つめは,明確な目標と価値をもつ学習の意味と意
について話し合う方が同じ文脈のもとに経験を共有できる
5
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
義を文脈化するスキルである.授業設計としては,学
科書の演習問題を解答)を配置している.ワークシートは,
習者が批判的省察を記述・共有する前に学習者間での
グループワークを構造化し,個人作業・グループ作業・ク
信頼関係を築く,批判的省察のためのきっかけを与え
ラス発表という3つの次元での思考や活動を支援するよう
る,批判的省察を共有するために思慮深く丁寧な応答
な質問と回答欄から成る.2つめは,授業を受講している
をする,学習している知識やスキルと関係した自分の
学生間でページの閲覧が可能であり,情報の共有がしやす
経験を書かせる等の手法が考えられる.
いことである.3つめは,本授業だけでなく他の授業科目
④ 知識の統合を記録する(Integration)
も含めて,学習成果物(アーティファクト)をセレクショ
4つめは,学習をまとめ,あらゆる状況へ転移する
ンして,ショーケースポートフォリオを作成しやすいこと
スキルである.授業設計としては,ある科目での学び
である.
を他の科目や授業外活動における学習へどのように適
テーマ(情報収集力・情報分析力・課題発見力・構想力・
用しているかを記述させる,学習がサービス・プロジ
表現力・実行力等)ごとに教科書の演習を解く回とグルー
ェクトへどのように転移されているかを記述させる等
プワークを行う回の2回を1セットとして授業を進めてい
の手法が考えられる.
る.5 名ごとのグループで授業を進めており,1クラスは
8グループから成る.演習の回では Mahara の課題ノート
⑤ 学習協調を記録する(Collaboration)
5つめは,知識やスキルを構築するための学習コミ
に解答を記述し,グループワークの回では Mahara のワー
ュニティへ参加するスキルである.授業設計としては,
クシートを入力しながら活動を行う.
興味・疑問・熱意に基づく自己選択での協調学習の機
「生活情報論」では,SECI モデルと共に,e ポートフォ
会を与える,ある知識領域における新たな学びをいか
リオ・リテラシースキルを用いて授業設計を見直した.大
にして進めるかを示す等の手法が考えられる.
きな修正点としては,
「1年前期で学んだこと」というテー
マで Mahara 上に新規ページを作成する期末課題を課した
ことである.自己評価というタイトルのテキストブロック
①Collection
を一番上に挿入し,学んだことを記述する.その主張の根
拠(エビデンス)として,いくつかの授業や資格対策講座
⑤Collaboration 等の成果物(アーティファクト)をブロックで挿入する.
②SelfRegulation つまり,この課題は,Mahara 等に収集した学習成果物をセ
レクションして作る,1年前期のショーケースポートフォ
リオである.
④Integration 多くの学生が根拠として示した成果物の一つを紹介する.
③Reflection 筆者が担当する科目「キャリアプランニング」にて,
「5年
後の自分への手紙」として,自分を振り返り,自分語りを
図4.e ポートフォリオ・リテラシースキル
した動画「デジタルストーリーテリング」である.制作過
程としては,ピアメンタリングを行い,お互いに幼児から
SECI モデルに基づき授業設計をした後,e ポートフォリ
今日までを振り返り,Mahara のワークシート上に簡略版の
オ・リテラシースキルを用いて設計の修正を行うことによ
自分史を書き出した上,ナレーション原稿を作成する.次
り, e ポートフォリオが効果的に機能する.
に,本専攻において在学期間無料で貸与している Windows
事務職につく学生が多い生活情報専攻1年前期に開講し
タブレットを用いて,ナレーションの録音,静止画や動画
ている「生活情報論」の授業設計を紹介する.生活情報論
の編集を行い,デジタルストーリーテリングを制作する.
の到達目標は,ジェネリックスキルのなかでも情報収集
完成した動画はファイル自体をクラウド上にアップロード
力・情報分析力・課題発見力・構想力・表現力・実行力と
して,Mahara に埋め込んだ.デジタルストーリーテリング
いう問題解決に不可欠なリテラシーを身につけることであ
は,制作を通じて,自分の生き方を振り返り,現在の自分
る.この授業で e ポートフォリオを利用する大きな理由は
を見つめ直すため,アイデンティティに関わる e ポートフ
以下の3つである.1つめは,授業 15 回の学びが Mahara
ォリオの一形式といえる.
ページで俯瞰でき,授業の終わりに毎回自己省察しやすい
その他,根拠(エビデンス)として,「プログラミング
ことである.本授業では,振り返りシート 1 枚とグループ
Ⅰ」にて Scratch で制作した小学生向けゲーム,「マルチメ
ワーク用ワークシート 9 枚,計 10 枚の Mahara ページを1
ディア演習Ⅱ」にて制作した自治体広報 CM,
「プレゼンテ
つのコレクションとして使用している.振り返りシートは
ーション演習Ⅰ」にて行った MOS PowerPoint の模擬試験
2列のレイアウトで,左列に振り返りノート(授業の最後
結果,
「日本語表現演習Ⅰ」のプレゼンテーションで使用し
に行動や考えの変化等を毎回記述),右列に課題ノート(教
たスライド等,多くの成果物を提示した上で,1年前期で
6
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
【授業での e ポートフォリオ活用のメリット】
学習したことや身につけたことを記述している.
2015 年度の「生活情報論」において,e ポートフォリオ・
① 学習者支援ツールのため,提出・収集した学習成果物
リテラシースキルを用いて実施した Mahara 活用方法は下
を学習者が俯瞰・省察しやすい.
記のとおりである.
授業「教育の方法と技術」では,Mahara1ページに,
① 学習成果を記録する(Collection)
振り返りノート・課題(文章)
・課題(制作物)という
「生活情報論」の期末課題にて,根拠を示した上で,
学習成果物(アーティファクト)を整理し,15 回にわ
身についた学習成果を説明させた.来年度は,ディプ
たる学習の軌跡が俯瞰できる.この点では LMS より
ロマポリシーに基づくカリキュラム・ルーブリックを
も e ポートフォリオが優れている.また,紙のポート
提示し,より学習成果を理解させたいと考えている.
フォリオと異なり,動画をページ上で視聴できたり,
② 自己調整行動を記録する(Self-Regulation)
関連する他のページへリンクで移動できたりする.
授業の最後に毎回,振り返りノートにて学習成果に
② ネットワークで繋がっているため,相互評価がしやす
関連する行動を記述させた.
い.
Mahara のページごとに,他者と共有するアクセス権
③ 批判的省察を記録する(Reflection)
学生の信頼関係を築き,評価の観点を説明した上で,
を設定でき,相互に閲覧や評価ができる.一つの課題
ワークシートにて,他者の成果物やプレゼンテーショ
に対する相互評価ならば LMS でも可能であるが,①
ンの評価や自分の成果物の省察を記述させた.
のように一定期間の学習記録に対する相互評価では e
④ 知識の統合を記録する(Integration)
ポートフォリオの方が優れている.他者の学習記録を
「生活情報論」の期末課題(ショーケースポートフ
相互評価することにより,自分自身の学習記録に対す
ォリオ)にて,知識の統合を記述させることを目指し
る省察が深まる.授業「教育の方法と技術」では,相
た.ただし,個別の授業で身についた学習成果を記述
互評価を 15 回目に行っているが,可能ならばセメス
している学生が多く,ある授業で身についた知識・技
ターの中間等でも行うべきである.
能・態度が他の授業でどのように活用・応用されたか
相互評価のメリットは3つある.1つめは,他の学
を記述した学生はほとんどいない.来年度は,カリキ
生に評価される効果である.教師のみに評価されるな
ュラムマップを提示すると共に,科目間における知識
らば,点数が低くなるだけなので,学生によっては成
の統合を明示的に問いかけたいと考えている.
果物の質に妥協する場合がある.それに比べ,他の学
⑤ 学習協調を記録する(Collaboration)
生に評価される場合は完成度のレベルが高くなる傾向
授業中に演習課題を行う場合,ピアワークやグルー
がある.2つめは,他の学生を評価する効果である.
プで対話することを推奨しているが,関心に基づき主
評価基準をもって,他の学生の成果物を閲覧すること
体的な協調学習をさせることは難しい.ただし,グル
により,他者の視点を理解し,考えがひろがる.授業
ープワークの合意形成において,以下の点を記述させ
評価アンケートでも,他者の成果物を閲覧できたこと
ている.自分の意見や考えを述べたか,他者の意見や
に対して好意的な評価がなされていた.3つめは,閲
考えを聴けたか,合意形成はどの程度達成できたか,
覧や評価することにより,学習コミュニティ(共同体)
合意形成において最も効果的だったのは誰の・どんな
の形成が進む.本授業の相互評価においては,評価対
発言・態度・行動だったか,次回の留意点.
象者がコア・メンバー,同じクラスがアクティブ・メ
ンバー,同じ授業の受講者が周辺メンバーといえる.
4. お わ り に
このように SECI モデルと e ポートフォリオ・リテラシ
筆者が担当する授業では LMS(Moodle)と e ポートフォ
ースキルに基づき授業設計を行うことにより,学習コミュ
リオ(Mahara)を活用している.行動主義,状況主義,ど
ニティが活性化され,知識創造サイクルが促進されると考
ちらの学習観でも利用しやすい Moodle は,利用前の授業
えている.
設計をあまり変更しなくとも,授業支援ツールとして課題
提出・小テスト・アンケート等の学習活動で活用できる.
参考文献
それに比べ,「Mahara は,どのように使用すれば良いのか
1) Jill D. Jenson & Paul Treuer. (2014) "Defining the E-Portfolio: What
It Is and Why It Matters", Change: The Magazine of Higher Learning
2) Nonaka, I. & Takeuchi, H. (1995) The Knowledge Creating
Company, Oxford University Press. (梅本勝博訳,
『知識創造企業』,
東洋経済新報社,1996.)
3) 田中耕治 (2008) 『教育評価』,岩波書店
わからない」という教員の声を聞く.そこで,下記に,授
業で e ポートフォリオ Mahara を利用したメリットを整理す
る.
7
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
ポートフォリオ・リテラシーの育成とダッシュボードの設計
佐藤眞久†1,吉川雅修†1,奥原利昌†1,田中雅貴†2,日永龍彦†1
概要:学生による mahara の活用率向上のために,本学では教職履修カルテなど,該当する学生の情報を自動的に集
積し,それを踏まえて学生に入力を強制するようなモジュールを中心に構築している.しかし,これだけでは活動記
録を自主的に蓄積して自己表現するような「ポートフォリオ・リテラシー」は育たない.そこで,一枚ポートフォリ
オ評価(OPPA)などのように,自らの振り返りを促すモジュールの導入や,ダッシュボードの設計を工夫すること
で,その両立に取組んでいる.
キーワード:教職履修カルテ,一枚ポートフォリオ評価(OPPA),飛ぶノート,大学間連携共同教育推進事業
The formation of 'Portfolio Literacy' and the design of Dashboard
MASAHISA SATO†1 MASANOBU YOSHIKAWA†1 TOSHIMASA OKUHARA†1
MASATAKA TANAKA†2 TATSUHIKO HINAGA†1
Abstract: We have prepared for several modules, such as the records for teacher training and One Page Portfolio Assessment
(OPPA), in order to promote making students fill out items in the form. But forcing to describe items prevents students from
forming 'Portfolio Literacy', the competency of storing records of academic activities voluntarily and of making good use of
self-expression. Therefore, we are trying to find a way of balancing compelled use and voluntary use by means of improving
dashboard.
Keywords: Students’ records of teacher-training, One Page Portfolio Assessment (OPPA), Flying Note (Tobu-Note),
Program for Promoting Inter-University Collaborative Education
そこで上述のとおり,カルテとしての利用に重点をおきな
1. は じ め に
がら,学生が自ら計画を立てたり,自らを振り返ったりす
山梨大学では,学生が自らの学習目標に応じて自主的か
る機会を確保し,またそれを促すような内容を組み込むこ
つ効果的に履修できるよう支援するとともに,本学の教育
ととした.
目標の達成度を検証するために,2013 年度より mahara を
以下,本学がこれまで構築してきたモジュールとその活
用いたポートフォリオの構築を開始した.導入に際して行
用の促進の過程を報告する.その際,学生自らがポートフ
なったポートフォリオ活用先進事例校調査から,「mahara
ォリオを利用することの意義を理解し,自ら主体的に有効
を入れて自由に学生に活用させる」ということでは一般的
活用できるようになるための一つの工夫としてすすめてき
に言われているように,学生に活用されることは少ないた
ているダッシュボードの設計についても紹介する.
め,①大学側で作成する様式に記入を求める,②学生個々
2. こ れ ま で に 構 築 し た モ ジ ュ ー ル ( 構 築 中
のものを含む)
に作成が義務づけられているようなものを mahara で実現
する,③学生・教員の入力作業は最低限にしてできるだけ
既存のデータを自動で持ってくる,といったことに留意す
学生のポートフォリオに盛り込む項目は,本学各学部所
る必要があるという結論にいたった.そこで,mahara の e
属教員と大学教育センターの教員が連携して組織する e ラ
ポートフォリオ・システムを使うものの,どちらかと言え
ーニングプロジェクトチームと,その下部組織であるポー
ば学生の情報を集積するための箱(カルテ)として利用す
トフォリオワーキンググループが,各学部・学科等の教育
ることに重点をおく方針で当面作業を進めていくこととし
組織からのヒヤリングを踏まえながら検討,決定した.
た.
2.1 主 に カ ル テ と し て 活 用 し て い る も の
その一方で,今日の大学にとって,学生に定期的な学習
(1) 教 職 履 修 カ ル テ
計画の立案とその振り返りを行う姿勢や習慣を身につけさ
教員養成を主目的とする教育人間科学部と,数学・工業
せることは,自発的な学習者育成という重要な課題である.
等の教員免許を取得することができる工学部・生命環境学
部では,教職実践演習に活用する教職履修カルテを作成す
†1 山梨大学 University of Yamanashi †2 株式会社カルク CALC Co.,LTD.
ることが義務付けられている.従来,工学部・生命環境学
部では,所定の様式を含む MS-Excel ファイルに学生が履
8
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
修状況その他のさまざまな情報を入力し,それを閲覧した
教員がコメントを一人ひとりに入力し,そのファイルを
moodle 上に保存して共有を図っていた.他方,教育人間科
学部では別のシステムを利用して教職履修カルテとして求
められる諸情報を蓄積していた.
2013 年に mahara を導入する際,3学部共通のモジュー
ルを構築することとなった.このモジュールは,①年次学
習記録・教職実践演習記録(図1,毎年度の学習の総括と
課題等を学生が入力.図は一覧表示.),②教職課程履修記
録(図2,履修科目・成績・成績に対応する教員のコメン
ト等を教務 DB から自動入力.),③必要な資質についての
自己評価シート(図3,設定された指標についての自己評
図 3 必 要 な 資 質 に つ い て の 自 己 評 価 シ ー ト 定を学生が記入.),④教職に関する学外実習等の記録(図
4,教職に関する学外実習やボランティア活動について学
生が入力.必要に応じて実習記録などの電子ファイルを添
付できる.図は入力画面)という4つの様式から構成され
ている.そして,図2に示すように,教務関連データベー
スとリンクさせて履修状況を自動的に入力されるようにす
ることで大幅な省力化が実現し,2015 年度から運用を開始
した.
図 4 教職に関する学外実習等の記録
(2) グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 プ ロ グ ラ ム ・ ポ イ ン ト 確 認 シ
ステム
グローバル人材育成プログラムは 2014 年度から開始さ
れ,「国際性」「教養」「専門性」「コミュニケーション力」
図 1 年 次 学 習 記 録 ・ 教 職 実 践 演 習 記 録
「主体性」
「積極性」
「語学力」などの育成をめざしている.
参加者には,アクティブラーニングを取入れた授業科目や
体験型の科目を履修するとともに,海外研修,海外インタ
ーンシップなどで実際に海外に出て,国際人として必要と
なる能力とマインドを身につけることが期待されている.
本学在学生であれば,プログラム参加資格があり,国際的
教養科目,プログラム特別科目,英語科目,などの指定さ
れた科目の履修や専門科目の成績状況(GPA),体験活動
を通じてポイントを累積していく.3年前期終了時に 10
ポイント以上獲得している学生にはプログラム受講証(証
明書)が発行されるほか,ポイントに応じて海外インター
ンシップ等への参加の際に奨学金が支給される.また,プ
ログラムの修了要件(獲得したポイントが 30 ポイント以上)
図 2 教 職 課 程 履 修 記 録
を満たしたものにはプログラム修了証が授与される.
2015 年度からこのような活動に応じたポイントを確認
するためのモジュールの運用を開始した.教職履修カルテ
9
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
と同様,科目履修に伴うポイント獲得状況については教務
のように OPPA のシートを電子化することでその実現を図
関連データベースとの連携をとって自動的に入力されるほ
り,2015 年度からいくつかの科目で試験運用を始めている.
か,TOEIC 等の外
下の図7は実際の記入例である.授業設問として3つの問
部試験の結果票や
いを設定し,学生に毎回記入を求めている.
ボランティア活動
の活動報告などを
添付して提出し,
要件を満たせばポ
イントが付与され
るような機能を備
えている.また,
図5のようにプロ
グラム修了要件へ
の到達状況を一覧
するための画面も
図 7 OPPA の 記 入 例
2.3 カ ル テ と ポ ー ト フ ォ リ オ の 両 面 を も つ も の
準備した.
図 5 プ ロ グ ラ ム 修 了 の た め の ー学生ポートフォリオ(現在構築中)
ポ イ ン ト 獲 得 状 況
学生が多様化する中で,履修指導や学生生活全般の支援
2.2 主 に ポ ー ト フ ォ リ オ と し て 活 用 し て い る も の
にあたり,担当者が当該学生についての情報を迅速かつ的
ー OPPA(One Page Portfolio Assessment)
確に把握することが不可欠になってきている.そのため,
一枚ポートフォリオ評価(OPPA)は,本学の教授によ
学生の基本情報(学籍番号・氏名の他,連絡先,出席状況,
り開発されたもので,もともと特定の科目履修の前後にお
保険加入状況等),履修・成績情報を mahara で学生と閲覧
ける学生の変化が1枚の紙に表現されることを目指して考
権限のある教員が共有する仕組みを構築している.大半の
案されたものであった.
情報は学内の各部署が電子化して所有しているものである
そこに含まれる項目は,「授業前/後設問」「授業設問」
ため,それらを自動で表示できるようにする予定である. 「振り返り設問」という設問である.授業前/後設問では,
その一方で,単に履修科目やその成績を表示するだけで
学期開始直後と学期終了時に同じような問いかけをするこ
なく,学習目標や履修計画(必修科目や残りの単位数など
とで,それに対する学生の回答の変化を明確化するもので
を含む)や学習に対する自己評価を記入することができる
ある.授業設問は毎回の授業に関する設問で,授業におけ
ようにするとともに,その根拠となる学習成果(レポート,
る学びの内容をアウトプットすることを目的とする.振り
プレゼン資料,作品の写真等)を添付できるようにする.
返り設問は,上記の諸設問への学生自身の回答状況とそれ
また,それらの情報をもとに,履修指導等を担当する教員
に対する教員のコメントを基に,当該科目における学びを
がコメントを付すことができるようにする.これらを通じ
振り返ることで成長を実感し,また今後の学習課題を見出
て,学生の自主的な学習計画とその振り返りを促すととも
すことを目的とするものである.
に,教員に適切な履修指導を行うための情報提供を行って
いくことができるようになる. 2.4 そ の 他 の 補 助 的 な モ ジ ュ ー ル
ー 8 大 学 連 携 事 業 に お け る 「 PDF か ら mahara へ の 自
動転送プラグイン」
2012 年度から5年間,文部科学省の大学間連携共同教育
推進事業として「学士力養成のための共通基盤システムを
活用した主体的学びの促進」が採択された.本事業は,千
歳科学技術大学を代表校として,本学の他,愛媛大学,佐
賀大学,北星学園大学,創価大学,愛知大学,桜の聖母短
期大学の計 8 大学が連携する事業である. 本事業では,①英語・数学・日本語・情報等の共通基盤
図 6 OPPA 一 覧 画 面
的な教育に関する教材やテストを共同で開発するとともに
ただ,紙という媒体のため,複数の教員間,学生間で共
ICT を用いて共有し(共通基盤システムの構築),②1 年次
有することが困難であった.この課題を克服するため図6
を対象に,共通基盤システムを活用したテストを実施する
10
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
とともに,学生の学修特性を把握した上で e ラーニングを
が,全般的に運用を開始したばかりで実際の効果の検証は
活用した入学前教育や入学後の補習教育等を行い(初年次
これからである.当面,利用した学生・教職員の意見を聴
系 学修支援プログラム),③初年次教育を修了した学生を
取するとともに,学内外からの意見を踏まえてよりよいも
対象に,e ラーニングを活用した主体的に学べるキャリア
のに改善を図っていきたい.
系の学修支援プログラムを構築して,授業外の時間を有効
活用できる環境を形成し(キャリア系 学修支援プログラ
参考文献
ム),④e ラーニングを通じて習得した知識理解を基礎に,
1) Masanobu Yoshikawa, Application of QFD for supporting
successful introduction of E-Portfolio in University, Proc. of the 20th
International Symposium on Quality Function deployment, Vol.1,
pp.115-126 (2014).
2) Yoshimitsu Miyasawa, Yoshimi Fukumura, & Takashi Yukawa, An
e-portfolio System that Enables Cooperation between Institutes,
Procedia Computer Science 35 p1239 (2014).
3) 堀哲夫,教育評価の本質を問う 一枚ポートフォリオ評価 OPPA,
東洋館出版社(2013).
共通基盤システムの教材を活用した体験型・交流型の教育
プログラムを実施(体験型・交流型 特色ある教育プログラ
ム)することを通じて,連携大学の教育の質を向上させる
ことを目的としている. そのうち,②において学生が受験するプレイスメントテ
スト,到達度テストの結果を学生個々に示すために作成さ
れる「個票」を mahara を通じて自動で返却するモジュール
を構築した.これは「飛ぶノート」の技術を利用したもの
で,学籍番号をファイル名とすることで,教員が学生一人
ひとりに電子ファイルを送る手間を省くことができるもの
である.このモジュールは大学間連携事業以外の用途につ
いても広く応用可能であり,次年度以降,利用の促進を図
るため,効果的な利用法について検討していく必要がある.
3. 利 用 促 進 の た め の ダ ッ シ ュ ボ ー ド の 工 夫
さまざまな機能を自由に使えるのが mahara の特徴であ
るが,使い慣れない学生にとっては,ログインするものの
何をすればよいかがわからず,結果として利用されないま
まになりがちである.そこで,下図のように各モジュール
の進捗状況を明示し,学生が何をすべきかがわかるような
ダッシュボードを設計することで,ポートフォリオの活用
を促し,その意義を体感させることを目指している.
図 7 ダッシュボードのイメージ 4. ま と め と 今 後 の 課 題
以上,本報告では mahara の活用実績を向上させ,学生に
ポートフォリオを活用することの意義を理解させ,自発的
な利用を促すために本学が取り組んでいることを中心に報
告した.OPPA については,2014 年度前期の試行運用を通
じて,学生が自らの成長を実感している様子もうかがえた
11
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
通信制大学における学修活動理解の試み
秋光淳生†1
秦野努†1 三輪眞木子†1 仁科エミ†1
概要:筆者らは 2013 年度より初年次のパソコン科目の受講生を対象に、e ポートフォリオを提供している。通信制
大学では学習者は教材を用いて個人がそれぞれ学ぶため、講師がその学習過程を見ることが難しかった。一方、近年
ICT を用いることで、ログなどから学習状況を知ることもできるようになってきた。そこで、本稿では利用者の学習
状況把握の取り組みについて述べる。
The trial of understanding of learners' activities
in correspondence education
TOSHIO AKIMITSU†1 TSUTOMU HATANO†1
MAKIKO MIWA†1 EMI NISHINA†1
We have used a Mahara e-portfolio system for the students who take a digital-literacy course in the Open
University of Japan. In correspondence education course, students learn through home study. Therefore it is
difficult for lecturers to know their learning process. Recently, with ICT, teachers can collect a large date about
students and such data has possibility to reveal leaners’ learning process. In this paper, we report the trial to
understanding learners’ activities.
2. 対象科目について
1. はじめに
ここでは、放送授業の学習の流れと、今までの取り組み
現在、日本は、高齢化や国際競争の激化など多くの課題
を抱え、
「全員参加型の生涯学習社会」の実現へ向けた検討
についてまとめる。
が始められている 1)。こうした社会の実現に向けて、高等
2.1 放送授業の学習のしくみ
放送大学の学生には、4 種類の学生がある。
教育では育成すべき能力を身につけられるよう学修の質保
1.
証が問われている。
科目履修生
1学期間のみ在学し科目を履修する
放送大学は正規の通信制大学として、多数の、そして幅
2.
広い世代の学生に対して教育を提供している。印刷教材と
選科履修生
1年間在学し科目を履修する
放送教材を学ぶ放送授業では、ICT を用いた学習環境も整
3.
備されてはいるが、学生と講師、学生同士の交流はまだま
全科履修生
大学卒業を目指す。最大 10 年間在籍できる
だ少ない。多くの学生は各自が自分のペースで孤独に学ぶ。
4.
講師からも個々の学生がどのように学んでいる、その学習
特別聴講生
単位互換協定を結んだ他大学の学生
過程を知る手立てはほとんどない。
筆者らは 2013 年度より主に初年次の学生に向けた基礎
一度、科目履修生として履修した後、全科履修生として登
科目としてデジタルリテラシー科目を開講している。その
録する学生や、卒業後さらに再入学する学生も多数存在す
受講生を対象に、学びの記録を作成し、振り返りをサポー
る。再入学した場合であっても同一の学生番号が用いられ、
トする目的で Mahara を用いた e ポートフォリオサーバー
講師や学生が学生番号からその学生種別を知ることはでき
を構築し提供してきた。5 学期間、同じ科目を開講し、述
ない。
べの登録者は 5,000 名を超える。一度でもログインした者
放送授業には、基礎、共通、専門、総合という科目区分
は半数程度であるが、継続的に利用に至ったものはごく少
があるが、制限はほとんどなく、どの科目を履修するかは
数に留まっている。そこで、Web のログや学生へのアンケ
受講生の判断に任せられている。そのため、受講生の年齢
ート調査などを元に、学生の利用状況を分析し、今後の課
や受講目的などは様々である。また、教材は開講前に作成
題について検討する。
され、4 年間(8 学期間)開講される。
受講生が単位を取得するためには、学期の半ばに一度行
なわれる通信指導問題(演習問題)の答案を提出する。通
†1 放送大学 教養学部
The Open University of Japan
12
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
信指導に合格すると学期末に行なわれる単位認定試験の受
を購入し、それを日本語に訳したものを見て、チェッ
験資格が与えられる。そして各学習センターで行われる単
クを入れる(2014 年1学期〜)。
4.
位認定試験に合格すると単位修得となる。受講生は講義で
分からないことがある場合には、郵送や Web サイトを通じ
講義の目標であるレポートやプレゼンテーションを作
成してアップロードする。
講師に質問をすることができ、その回数に制限はない。し
ここで、学習の進捗、習熟度、オンライン学習者のスキル
かし、義務としては通信指導問題と単位認定試験のみであ
標準については、blocktype プラグインとして新たに作成
り、講師が途中の学生の学習活動を知ることはほとんどな
した。
い。
2.3 各学期による環境の相違
2.2 e ポートフォリオの環境
2013 年度 1 学期か提供を開始し、5 学期間開講している。
放送授業の開始された 2013 年度1学期から筆者らの担
放送授業の内容に変化はないが、学習環境は学期ごとに異
当している放送授業1科目の受講生を対象にサービスを提
なっている。特に、Mahara 以外の大学が提供する Web サ
供している。Mahara を用いてサーバーを構築し、各学期
ービスにも変化がある。そこで各学期における違いについ
に毎回受講生を登録している。現在は毎回 CSV によりユ
て述べる。
まず、2013 年度 1 学期にそのサイト内のフォーラム機
ーザーを登録している。
認証について、放送大学では統合認証環境が整備されて
能を用いて、教員からのお知らせを作成して周知した。通
おり、学生向けのほとんどの Web サービスがシングルサイ
信指導問題は他の放送授業では郵送と専用の学内 Web サ
ンオンで利用できる。そこで、学内の認証システムと連携
イト(moodle)の 2 種類の方法で提出することができるが、
し、登録した学生は個人のアカウントを用いて利用できる
この科目では Web サイトからの提出に限定した。通信指導
ようにしている。一度登録した学生は、在学中であれば引
用の Web サイトは、提出期間である 5 月中旬(または 11
き続き利用できる。また、Mahara のグループへのテンプ
月中旬)に開設される。そのため、受講生は提出期間には
レート配信機能を用い、ユーザーが初めてログインした際
必ずこの Web サイトにアクセスする。そこで、このサイト
にはテンプレートが配信されるようにした。
でフォーラムを見て興味を持った一部の学生が e ポートフ
ォリオを利用することを目指した。
しかし、この方法では、興味をもった一部の学生しか e
ポートフォリオのサイトにアクセスしない。そこで、2013
年 2 学期からは利用者を増やす目的で、通信指導問題の 1
問を変更し、共有されたポートフォリオにあるレポートを
見て解答するような問題にした。
2014 年1学期から、学生用の学習情報などを掲載した学
生向け Web サイトがリニューアルされ、フォーラム機能が
学生用 Web サイトに移行した。また、教員からのお知らせ
については、サイト内に掲載すると同時に、自動的に学生
に電子メールで送ることもできるようになった。この機能
は科目登録が完了すると利用できるため、より開講日に近
い時期に学生に周知することができるようになった。また、
オンライン学習者の
図 1
配信されるテンプレート(2014 年度 1 学期)
学習記録などは毎週記録することが望ましい。また、学
e ポートフォリオの利用については以下の4つを目標と
生が学ぶモチベーションが高いのは開講日であると考え、
して定めた。
2014 年 2 学期からは、放送授業が流れる日に毎週お知ら
1.
共有のポートフォリオとして担当講師と学生役2人の
せメールを送ることにした。放送大学では人によっては手
ポートフォリオを作成し、その中にあるレポートを読
続きとして 4 月 1 日や 10 月 1 日に科目登録が完成してい
む。
ない学生もいるが、そういう人はサイト内のお知らせを見
テンプレートを配布し学習記録を作成する。
てもらうことにした。
2.
a.学習目標や学習記録を入力する。
3.
通信指導を郵送で送ることができる科目の場合には、問
b.各回の進捗度、及び習熟度に記入する。
題が印刷教材とともに送られてくる。しかし、この科目の
e ラーニングのための様々な技能の標準化を定める国
通信指導問題は Web サイトに掲載されているだけで、具サ
際的な組織である
ibstpi2)の定めたオンライン学習者
イトが開設されてからでないと問題を知ることができない。
13
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
提出期間が限られているため Web 閲覧などの操作に不慣
ただし、放送授業は 1 学期には 4 月 29 日から 5 月 5 日、
れな学生の中には早々に諦めてしまう学生もいるのではな
また、2 学期には 12 月 31 日から 1 月 3 日まで「ゆとりの
いかと考えた。そこで、2015 年 1 学期には通信指導問題
期間」という再放送が放送される期間がある。そこで、各
を学生向けに掲載し、お知らせメールで知らせることにし
学期その期間を除いてある。
学期によっては 1〜2 週の差はあるが、この図から次の
た。主な変更点を表 1 にまとめる。
ようなことが見て取れる。まず、2013 年 1 学期は一部の
表 1
関連する学生用 Web サイト
周知
1 学期
2 学期
3 学期
2013 年 2 学期から、通信指導問題を提出する期間である 5
変更
週目から 10 周目にログイン割合がピークになっている。
フォーラム
1問
メール
(毎週)
5 学期
システム
との関連
なし
(随時)
4 学期
通信指導
フォーラム
メール
メール
(毎週)
学生だけがログインしている。通信指導問題を変更した
1問
1問
問題を早
めに周知
そしてその後、引き続き利用する人は少ない。
このように、受講生数で正規化すると、通信指導提出の
テンプレート
変更
ピークの割合や、その後引き続き利用している人数にそれ
スキル
ほど差がないことがわかる。e ポートフォリオに興味を持
標準
って使ってみようとする人が一定の割合でいることが示唆
される。その一方で、今回のシステムでは一度履修した学
なし
生は在学している限り利用できるようになっているが、割
合は変わらないことから、履修後も継続して使い続けてい
ログ
る学生はほとんどいなかったと考えられる。
また、毎週メールを送るようになった 2014 年 2 学期か
らは通信指導の提出よりも前の時期のログイン割合が増加
3. 利用の実績
した。また、e ポートフォリオに関連した通信指導問題の
ここでは他のシステムや Mahara から読み取れる範囲での
正答率は、2013 年 2 学期から順に 60.9%、63.5%、70.9%、
利用実績について述べる。
71.2%と正答率が上がっている。
2014 年 2 学期と 2015 年 1 学期はどちらも開講日にメー
3.1 利用実績
5 学期間の述べ受講生は 5,000 名を超えた。放送大学に
ルを送ったものの 1,2 週目のログイン割合に差がでた。そ
は高齢の学生も多く、入学するまでにパソコンに触れてい
の要因について前期と後期の違いもあり、次学期以降に実
なかった学生も多いと思われる。この科目はそうした学生
践を重ねながら検討したい。
も想定して作成されている。実際、5 学期間の受講生(再
履修を含む)の平均年齢は 17 歳から 88 歳までの 49 歳で
3.2 アンケートの分析
あり、学部の放送授業受講生の平均年齢 44 歳よりも有意
に高い結果となった。それを踏まえ利用実績について調べ
各学期には、Reas3)を用いてオンラインアンケートを実施
た。
した。このうち、同じアンケート項目を含む 2013 年 2 学
まず、ログイン人数について調べた。Mahara の管理ツ
期からのアンケートについて、受講生の意識について調べ
ールには「日時ユーザ統計」として日々のログイン数が集
た。4 学期間での回答数 336 のうち、欠損値を除く 229 名
計されている、それを用い、4 月 1 日、10 月 1 日から 7 日
のデータを用いた。ただし、回答率は低く、回収率は 1 割
間の合計を計算し、各学期の受講数で正規化することでロ
に満たないため、必ずしも全体の特徴を反映しているとは
グイン人数の推移を調べた。それを図 2 に示す。
いえない。全体のアンケート項目について因子分析を行い、
独自因子の高いものを除き、再度因子分析を行った。その
結果、次のアンケート項目を1から8、9 から 14 の 2 つに
分けることができた。
1.
使うことによって学びの楽しさが増えた。
2.
自分がうまく学べているかどうかを確認することがで
きた。
図 2 各週の述べログイン人数の割合
3.
自分の学習のペース作りに役立った。
4.
自分が何を知らないかに気がついた。
5.
自分が何を学びたいか気づいた。
6.
進捗グラフを作成することは自分の学習のペースを調
整する上で役に立った。
14
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
7.
自分の学習を振り返ることの重要さに気づいた。
8.
他の科目の学習にも有効であると感じた。
9.
もっと色々な人の学習記録を見たいと思う。
図 4 ログイン後のヘッダー。
10. 他の人に自分の学習記録を見てもらいたいと思う。
11. 他の人の学習記録にコメントをしたいと思う
そこで、ログアウトとヘルプの間に図5のような Web ビー
12. 自分の学習記録を他の学習者に見てもらいコメントし
コンの要領で php を埋め込み、日付、ユーザー名、URL
をファイルに書き出すようにした。
てもらいたいと思う。
13. 他の人の学習記録について点数をつけるなどの評価を
図 5 埋め込んだ php
したいと思う。
これによって、アクセスがあるたびに、図 6 のようなデー
14. 自分の学習記録を他の学習者に評価してもらいたいと
タが書き出される。
思う。
この 2 つの因子について、1 から 8 を e ポートフォリオの
有効性についての評価、9 から 14 を協働作業についての評
価とした。それぞれの因子について平均点をプロットする
と次のようになった。
図 6
書き出されたログの例
これによって、いつ誰がどこを見たまでが把握できるよう
になった。最後にブラウザを閉じた時間が記録されないの
で分からないので、各ページの全ての滞在時間までは分か
らない。
4.2 集計したログの分析
このシステムを実装したシステムを用いて、2015 年 1
学期にも提供した。ログのうち、管理者や運用支援者を取
り除いたデータを用いた。一度でもログインした人数は 21
名であった。また、今学期履修している学生のうち、一度
でもログインした学生は 53.3%であった。
そこで、利用期間を開講から通信指導問題の提出時期ま
図 3
で(4 月1日〜5月 11 日:期間 1)、通信指導問題の提出期
オンラインアンケートの集計
これを見ると、この e ポートフォリオについての有効性に
間(5 月 12 日〜6 月 5 日:期間2)、通信指導後(6 月 13
ついては多くの学生が有効であると感じているのに対し、
日〜:期間3)に分け、それぞれについて集計した。
学生同士の協同学習への意識は低い。オンラインで学生間
利用の概要を表 2 に示す。
表 2
が協同して学び合うには担当講師のファシリテーションな
どの介入が必要であることが推察される。
ログインした
4. ログの実装とその分析
人の割合
利用状況について述べた。Mahara の管理機能からだけ
利用者の
では、十分な利用状況を知ることができない。そこで、
ログイン回数
Mahara を改造してより詳細なログを取得した。ここでは
1 回あたりの
その改造とログの分析について述べる。
ページ遷移
4.1 Mahara の改造
1 人あたりの
Mahara ではログインすると図 4 のように右上に名前が
ページ遷移
表示される(ヘルプ以外にも設定やメールなどのメニュー
があるが、放送大学では利用しないため非表示にしている)。
ここに何を表示するかは
ログによる利用集計
期間 1
期間 2
期間 3
31.8%
86.7%
21.9%
2.5
1.7
1.7
2.7
19.1
16.0
14.2
16.7
48.4
27.7
23.9
44.6
合計
これを見ると、期間 1、期間 2、期間 3 へ行くほど利用が
減っていくことがわかる。一回のログインの中で移動した
htdocs/theme/raw/template/header/topright.tpl
ページ数も多いことから色々と試行錯誤しながら利用して
で定義されている。
いると考えることができる。
15
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
これを見ると、期間が進むにつれてポートフォリオの閲覧
や進捗度などの blocktype の割合が増えており、利用回数
は減っていても操作に慣れた様子がうかがえる。
次にページ遷移をより詳細に調べるために、ページ遷移
の割合について調べた。ある利用者 A が「1->4->3」とペ
ージ遷移をした場合に、1 行 4 列、4 行 3 列目の行列の値
を足していき、利用回数や利用者による重み付けはしない
ものとした。
この行列を成分の総和が一定になるようにし、その行列
を隣接行列とするグラフを R の igraph パッケージで書く
図 7
と図 8 のようになる。
ログイン後の画面
そこで、次にサイト内のページを 11 個に分類して閲覧
の割合について調べた。top はサイトのトップページであ
り(図 7)、そこからマイポートフォリオをクリックすると
view のトップページに遷移する。通信指導問題を見るため
には、そこから「私との共有」へ行き、共有されたポート
フォリオを閲覧する。共有されたポートフォリオや個人の
ポートフォリオを見る場合には、view.php が呼ばれる。ま
た今学期期はテンプレートの配信がうまく行かず自分でテ
ンプレートをコピーする学生もいた。
トップページからコンテンツをクリックすると、本シス
テムではコンテンツのファイルを表示するように改修して
いる。日誌やプランを閲覧する場合も artefact である。
それぞれが自分の学習の進捗や習熟度を表すためには、
自分のポートフォリオからブロックを選択する。すると、
blocktype が呼ばれる。オンライン学習者のスキル標準は
テンプレートからではなく、トップページにリンクがある
ため分けた。
各学期の受講者を区分するために、グループを設定して
あり、右の名前のブロックにあるグループ名をクリックす
ると group へ移動する。それ以外をその他とした。
このようにページを分類し、期間ごとのページの閲覧割
合を集計した。それを表 3 に示す。
表 3 ページの分類と各期間での閲覧割合
ページ
期間 1
期間 2
期間 3
合計
1. top
14.5%
16.2%
15.5%
15.6%
2. view
13.4%
13.8%
13.4%
13.6%
3. 共有
2.2%
3.9%
3.0%
3.2%
4. view.php
8.2%
10.6%
11.6%
9.9%
5. template
2.0%
2.2%
1.0%
2.0%
6. view その他
14.3%
15.4%
15.3%
15.0%
7. artefact
10.8%
8.5%
9.9%
9.5%
8. blocktype-1
12.5%
7.5%
15.7%
10.1%
9. ibstpi
10.0%
12.3%
8.2%
11.0%
図 8 ノードの遷移
ここで、各ノードが表 3 の分類された URL を表しており、
辺が多いほどつながりの頻度が高いことを表している。上
から期間 1、期間 2、期間 3 に対応している。
隣接行列やグラフから、期間 2 ではノード 3 へのつなが
りが多いが、期間 1 や期間 3 ではそれほど多くないこと、
また期間 3 ではノード 2 からノード4への結合が増えてい
10.
group
8.0%
5.5%
3.8%
6.2%
ることが分かった。このように、期間 3 になるにつれ、無
11.
その他
4.0%
4.0%
2.7%
3.8%
駄のない推移をしていることを反映していると思われる。
16
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
5. まとめと今後の課題
放送大学における Mahara の実践とその利用者の利用状
況について報告した。実践を積み重ねるにつれて周知方法
も増え、ログインする回数は徐々に増えている。しかし、
図 2 のグラフに示すように通信指導問題を提出後に自発的
に学習記録を残すものは少ない。アンケートの分析によれ
ば、e ポートフォリオについて、その有効性を理解してい
ても協同で学ぶ意識は低いことが見て取れた。今後、学生
が自分の学習記録を残すため、さらなる方策が望まれる。
また、Mahara に残るログだけでは利用者の利用状況を
十分に知ることはできない。そこで今回ビーコンを埋め込
みログを収集した。その分析から、通信指導前には興味の
ある学生が色々と試行錯誤しながら操作している様子、ま
た通信指導後に利用する学生の行動からは合目的的と思わ
れる操作が増えている様子が見て取れた。今後も引き続き
実践を行い、分析手法の精度を高めていきたい。
分析にあたっては Excel と R を組み合わせて行った。今
後は自動化も検討したい。
謝辞
この研究は JSPS 科研費(26350331)の助成を受けた。
参考文献
1) 文部科学省,” 個人の能力と可能性を開花させ、全員参加による
課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在
り方について(諮問)”,
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/to
ushin/1360055.htm
2) 放送大学教育支援センター,“REAS(リアルタイム評価支援シス
テム)
http://reas2.code.ouj.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/top
3) IBSTPI, ”Online Learner Competencies”,
http://ibstpi.org/online-learner-competencies/
4) R でアトリビューション分析
http://abrahamcow.hatenablog.com/entry/2015/02/10/2012
(いずれも 2015 年 9 月最終アクセス)
17
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
PBL における Mahara の利用
-ペーパーレスを目指したピア評価システム-
堀場文彰†1
鈴木茂孝†1
遠藤大二†2
若月徹†1
大槻真嗣†1
概要:本学では 2007 年より PBL(Problem based learning)を実施している.2011 年からはグループワークにおける各
学生のパフォーマンスが公正に当人の成績に反映されるよう,グループ内で相互に評価させ(ピア評価)
,集計結果
(貢献度)をグループ点に乗じて個々人の成績に組み入れている.
今回,web から利用できるピア評価システムを構築した.学生へのフィードバックも飛ぶノートと Mahara を利用
することによりペーパーレスなシステムを目指した.
キーワード:PBL,Mahara,ピア評価,飛ぶノート
Using of Mahara in PBL
-Peer evaluation system with the aim paperless
FUMIAKI HORIBA†1 SHIGETAKA SUZUKI†1 DAIJI ENDOH†2,
TORU WAKATSUKI†1 MASATSUGU OHTSUKI†1
Abstract: In our medical school, students have been attending PBL (Problem based learning) since 2007. Peer evaluation
having been introduced into our PBL since 2011.
We built paperless peer evaluation system. After our students submitted a peer evaluation on the web, we returned the evaluation
to them by using "TobuNote" and Mahara.
Keywords: PBL, Mahara, Peer evaluation, TobuNote
1. 目
する.
的
藤田式PBLは臨床問題解決型PBLであり,シナリオ
我々は以前より,FTP サーバ,表計算ソフト Excel のマ
が診療の流れに沿って提供される.学生は主訴,病歴,身
クロ機能を利用したピア評価システムを開発,利用してい
体所見,検査といった診療プロセスを体験することができ
る.このシステムでは,入力端末は Excel がインストール
る.藤田式PBLの流れを図1に示す.
されている PC に限定される欠点があった.そこで,この
環境に依らないシステムを構築し,さらに,学生へのフィ
学生はグループでシナリオを学習しながら,学習課題を
ードバックも e ポートフォリオシステムを利用することに
発掘する.授業後,学習課題を自習する.次の日,同じグ
より,ペーパーレスなシステムを構築した.
ループの学生に学習課題を発表し,知識を共有する.
【1日目】
主訴から身体所見を提示するまでがテーマである.
2. 藤田式PBL(Problem based learning)
【2日目】
藤田式PBLは第3学年 11 月から第4学年6月にかけ
検査を行い,診断を確定するまでがテーマである.
て 54 時限(1週9時限,6週)実施する必須の授業である.
【3日目】
本学には,16 部屋のスモールグループ学習室(以下SGL
各自が調べた内容をグループとして1つにまとめる.5
室と略す)と,各SGL室の様子(映像と音声)を確認で
分間のプレゼンテーションを作成し,4グループが集まっ
きるモニター室がある.学生は 16 グループ(1グループ6
た中で発表する.その後,全体発表会,シナリオ作成者に
~7名)に分けられ,各グループが1つのSGL室を利用
よる解説が行われる.
†1 藤田保健衛生大学 医学部
School of Medicine, Fujita Health University
†2 酪農学園大学
Rakuno Gakuen University
18
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
[前週配布資料] 主訴(症候)の予告 ・準備するもの等
Step1(学習課題の発掘)
1
日
目
・
月
Step2(学習課題の自習)
Step3(知識の共有)
[Chapter1] 主訴のみ
[Chapter2]
簡単な病歴
[Chapter3] 詳しい病歴
[Chapter4] 身体所見
[Chapter5] プロブレムリスト
[Chapter6] 学習課題(個人)の自習
2
日
目
・
水
[Chapter7] 知識の共有
[Chapter 9] 一般的な検査
[Chapter8] 2グループ発表会
プロブレムリストの修正
[Chapter10] 確定診断・病態生理図
[Chapter11] 学習課題(班)の自習
3
日
目
・
金
[Chapter12] 知識の共有
[Chapter13] 4グループ発表会
[Chapter14]
全体発表会 ・シナリオ解説
[Chapter15] 振り返り
図1
Figure 1
藤田式 PBL の流れ
Method of “Fujita-style" problem-based learning.
3. PBLの評価
筆記試験,チュータ(教員)からの評価,ビア評価等を
勘案し,学生の総合評価としている.総合評価には入らな
いものの学生個人には自己評価も付けてもらっている.
チュータは,主に臨床系教員が担当する.1日目・2日
目は2グループを,3日目は4グループを受け持ち,
「準備」,
「グループへの参加」,「医師を目指すものとしての行動」
の3つのポイントから総合的に評価する.ピア評価は,グ
ループワークにおける各学生のパフォーマンスが公正に当
(n=91)
人の成績に反映されるよう,グループワークへの貢献の程
図2
度をグループ内で相互に評価させ,集計結果(「貢献度」)
ピア評価と各評価の相関
(*:p<0.05, **:p<0.01)
をグループ点に乗じて個々人の成績に組み入れるものであ
Figure 2
る.
Correlation between the peer evaluation
and other evaluation
図2は 2011 年の3年生,2012 年の4年生の,ピア評価
4. 方
と各評価の相関を示した図である.
2011 年,2012 年ともピア評価とチュータ評価,筆記試験,
法
Web から利用できるピア評価システムを構築した.Web
自己評価の間で有意な相関があった.3年生と4年生では
アプリケーションであるため,端末は限定されず,ノート
グループメンバーを入れ替えているが同一の傾向が見られ
PC,タブレット,スマートフォンなどから利用することが
た.一方,主にグループ内の行動を見るチュータ評価と,
可能である.
知識を問う筆記試験の間では相関が低く,関係性が低いこ
(1) チーム情報 Up Load
とが示唆された.
教員が所定形式の CSV ファイルをアップロードするこ
とで学生のチーム情報をデータベースに登録する
19
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
5. 結
(2) 学生の評価入力
(貢献度を数値として表した量的評価と,自由記載による
果
入出力のインターフェースを工夫することにより,教員
質的評価)
が他の人の手を借りることなくピア評価の準備から評価票
学生は web ブラウザでチーム員の評価を入力する.入力
の配布まで,実施することができるようになった.
されたデータはデータベースに直接,保存される.
(3) 集計作業
6. 結
収集した評価データは個人毎に集計し,学籍番号をバー
コードにして付加したPDFファイルとして保存する.
論
今回,開発したシステムは web アプリケーションである
(4) 評価票の配信
ため,端末,場所を選ぶことなくピア評価を実施すること
個人ごとのPDF評価票は「飛ぶノート」を利用し,バ
が可能となった.また,個人毎の評価票を電子的に配布す
ーコードを手がかりにeポートフォリオシステム Mahara
ることにより,ペーパーレス,なおかつ迅速なフィードバ
の個々のページに自動配信される.
ックが実現可能となった.
参考文献
1) 大槻眞嗣,若月徹 他: テュータをモニター室から支援する
「藤田式 PBL」の確立, 医学教育, 42(3), pp135-140(2011)
2) Toru Wakatsuki, Shigetaka Suzuki, Masatsugu Ohtsuki et al.: The
peer-evaluation in PBL tutorial, 3rd Asia-Pacific Joint Conference on
Problem-Based Learnig(2014)
3) 遠藤大二, 内田英二, 大西昭夫 :飛ぶノートの展開, 第4回
Mahara オープンフォーラム(2013)
図3
ワークフロー
Figure 3
Workflow
20
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
プレゼンテーション学習におけるルーブリックの
ピア評価について
-2,361 件データに対する分析-
亀田真澄†1
学生 7~10 名が1グループとして次の協調学習を行う.第 1 に物理・化学実験に対するスライドを作成する.第 2 に
作成したスライドでプレゼンテーションを行う.第 3 にプレゼンテーションに対する質疑応答を行う.第 4 に一連の
プレゼンテーション活動に対して,ルーブリックに従ったピア評価を行う.この学習活動において得られたピア評価
の件数が 2,361 件となった.このピア評価に対するデータ分析で得られた研究成果を発表する.
About peer evaluations of the rubric in presentation learning
-the analysis of 2,361 items dataMASUMI KAMEDA†1
7-10 students perform collaborative learning as a group with the four steps. In the first, the group creates a slide for the physical
and chemical experiments. In the second, they make a presentation by slide that was created. In the third, they and others students
do question-and-answer session for the announcement and its activities. In the fourth, against presentation activity, it does peer
evaluation in accordance with the rubrics. The number of the peer evaluation were obtained by the learning activity became 2,361
items. We announce the research results obtained in this data analysis.
ーを学習する目的で「コンピュータ演習」があり,前期に
1. はじめに
文書作成スキルと表計算スキルを学習し,後期にホームペ
本発表は,工学系大学の初年次教育「コンピュータ演習」
ージ作成スキルとプレゼンテーション活動スキルを学習し
で実施したプレゼンテーション学習において,ルーブリッ
て,その最終の学習活動としてプレゼンテーションの実践
クによるピア評価を行ったことによる評価データ(2,361 件)
的な活動を実行している.
を分析した研究内容を発表するものである.
本学の教育方針には,学生各人が 1 台のノート PC を所
この学習活動の支援には,学習管理システム(LMS)で
持して,物理・化学実験などの実験レポートの作成を指導
ある Moodle で構成された専用 Web サイト[a]を利用した.
している.また無線 LAN システムが本学キャンパスのほ
さらに実際に使用したルーブリック評価表は,池村[8]が
とんどをカバーしている学習環境も備えている.
作成した評価表を元に,本授業活動に適した設問に編集し
(1) プレゼンテーション活動の手順
直したルーブリック評価表(図 19~21)を用いた.またピ
平成 25 年度に実施したプレゼンテーション活動に参加
ア評価の実施方法には,Moodle 機能である小テスト(Quiz)
した評価者は 144 名であった.評価者を含めた全履修者を
を活用することでピア評点が集計できるように実施した.
21 組のグループに分け,7 つの実験テーマ(これは物理・
これにより,Moodle に組み込まれている小テストに対
化学の実験テーマであり,事前に実験活動を終了し,その
する統計情報(標本数,平均,標準偏差,歪度[b],尖度[c],
実験結果をまとめたレポートを作成済である状況)を設定
内部整合性係数[d],ファシリティ指標[e],識別率[f]など)
し,一つの実験テーマに対して各グループがプレゼンテー
が自動生成・集計された結果を活用できた.
ションの統合的な活動を共通の役割・制約(図 22)の下で,
これらの統計情報を用いて,ルーブリックによるピア評
行う.
価の可視化,信頼性と妥当性について考察する.
また 3 組のグループは同一テーマでプレゼンテーション
を行い,他テーマの履修者からルーブリックによるピア評
2. プレゼンテーション活動
価を受ける.さらに同一テーマのグループの平均評点によ
山口東京理科大学(以下,本学)は,3 学科の小規模単科
りテーマ内グループの優劣を定めている.
大学である.その初年次においてコンピュータ・リテラシ
プレゼンテーション活動は,リーダー(責任者),プレゼ
†1 山口東京理科大学
Tokyo University of Science, Yamaguchi
【 研究報告用原稿:上記*の文字書式「隠し文字」 】
a) https://kame-els.eng.yama.tus.ac.jp/2014/
b) 歪度とは,評点分布の非対称性度を表す指標である.
c) 尖度とは,評点分布の鋭さを表す指標である.
d) 内部整合性係数とは,設問に対する信頼性を示す指標である.
e) ファリシリティ指標とは,項目容易度を示す指標である.
f) 識別率は,上位と下位における正答率を比較した指標である.
21
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
ンター(発表者),ディベーター(質問者)をグループ内で
(3) 専用サイトへのアクセス状況
各 1 名が分担し,他のメンバーは他の支援活動を行うよう
このプレゼンテーション活動は,専用の e-Learning サイ
にしてグループワークを実行する.図 1 は実験テーマに割
トを利用した.図 3 は活動実施日(2014 年 12 月 21 日(日))
り当てられたグループとそのメンバーの役割分担を示す図
における時間帯別アクセス状況を示す面グラフである.当
表である.例えば実験テーマ「弦の振動と振動波」をグル
日の 9 時から 17 時間帯のアクセス総数は,27,129 件(全日
ープ AK31, AM11, AE21 が取り組み,グループ AK31 のリ
比 90%)であり,評価者一人当たり平均 188 件のアクセス
ーダーが学籍番号 F314056 であることを示す.
を実行したことになる.さらに綺麗な 2 峰となる活動状況
を示している.
図 3
実施当日の時間帯別アクセス状況
3. Moodle による統計処理
ピア評価を Moodle 機能である小テストで実施したこと
により,多種多様な統計情報が自動的に生成される.
図 1
3.1 Moodle による統計情報
テーマ・役割表(抜粋)
第 1 次統計情報には,発表グループ(被評価グループ)
発表活動は,一人のプレゼンターだけで実行する.発表
直後,質疑活動に移行し,同一テーマの他グループのディ
毎に,評価を行った人数(標本数),全体と各設問に対する
ベーターから,教員から,または他の履修者から質疑応答
平均評点が集計される.図 4 は全評点記録に続けて,全体
を受け全メンバーで対応する.
の平均 62.07 点(110 は評価人数),設問 Q.1 の平均 6.45 点
であることを示すデータ群である.
この発表活動と質疑活動を同一テーマである 3 グループ
が続けて実行する(1 グループ 15 分の活動となる).合計
21 回のプレゼンテーションの統合的活動を実行し,観察し
ていく.
(2) プレゼンテーション活動のピア評価
同一テーマの 3 グループのプレゼンテーション活動終了
図 4
後,他の 18 グループのメンバーがルーブリックによるピ
ピア評点に対する全体・設問別平均点
第 2 次統計情報には,ピア評価に対する可視的な情報と
ア評価をまとめて行う.ルーブリックの設問数は 10 題あ
なるピア評点のヒストグラムである(図 5).
り,各設問は 0, 2, 4, 6, 10 点(満点)の配分設定として,0
点以上 100 点以下の評点となる.図 2 はピア評点の記録表
(抜粋)であり,最初の評価者が,所要時間 14 分 27 秒を
費やして,全体で 74 点,設問 Q.1 で 10 点,設問 Q.3 で 6
点を評価している.なお設問 Q.11 は無評点のコメント欄で
ある.
図 2
ピア評点と設問別評点の集計表(抜粋)
図 5
ピア評価活動により,ピア評価された総数が 2,361 件で
ピア評点のヒストグラム
第 3 次統計情報には,ピア評点に対する基本統計量であ
あった.すなわち評価者一人当たり平均 16.4 件のピア評価
る.図 6 には被評価グループ AK31 におけるピア評点に対
を行ったことになる.
22
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
する基本統計量を示すデータ群である.
価グループ別(中央値降順)と全体のピア評点の分布状況
を示した箱ひげ図である.
図 9
被評価グループ別(中央値降順)と全体のピア評点
分布
図 6
分布における天井効果,床効果とは,次の状況が起こる
ピア評点に対する基本統計量(抜粋)
第 4 次統計情報には,ピア評価における問題構造分析で
場合で判断される.
ある.図 7 は被評価グループ AK31 における問題構造分析
Xmax≦M + SD,
Xmin≧M - SD
表(抜粋)であり,設問 Q.1 のファシリティ指標 64.55%,
ここで,Xmax は最大値,Xmin は最小値,M は平均,SD は
設問 Q.2 の識別率 75.21% として集計されている.
標準偏差である.今回のピア評価では天井効果・床効果が
存在しないことが確かめられた.
次に分布における評点 Xi が外れ値(軽度)とは,次の状
況が起こる場合で判断される.
Xi≧Q3 + 1.5 * IQR,
図 7
Xi≦Q1 – 1.5 * IQR
ここで,Q3 は第 3 四分位,Q1 は第 1 四分位,IQR は第 1-
ピア評点に対する問題構造分析表(抜粋)
第 5 次統計情報には,ピア評価に対する問題構造に関す
第 3 四分位間値である.今回のピア評価では上側外れ値が
る可視的な情報である.図 8 は被評価グループ AK31 にお
219 件(全体比 9%),下側外れ値が 39 件(同 2%)存在した.
ける設問別ファリシリティ指標と識別率を組み合わせ棒グ
これは全評価件数の 11%が外れ値であり,上側外れ値の件
ラフである.
数は下側外れ値の件数の 5.62 倍であることより,ルーブリ
ックによるピア評価では上側の評点を選ぶ傾向があること
を示している.
さらに被評価グループ間の平均評点の差について 1 元配
置分散分析より,有意差があることが分かる(df=21, F=12.1,
p<0.001).
4.2 被評価グループ別評点分布の正規性に対する分析
被評価グループ毎の評点分布(ヒストグラム)に対する
正規性について分析する.分布の歪み(歪度,Skewness)
とは非対称度を示す指標であり, S で表す(S=0 のとき対
称,負のとき右寄り,正のとき左寄り分布である).分布の
尖度(Kurtosis)とは分布の鋭さを表す指標であり, K で
表す(K=3 のとき正規分布と同等な鋭さ).図 10 は被評価
グループ別に歪度と尖度を比較する折れ線グラフである.
図 8
設問別ファシリティ指標と識別率のグラフ
このときジャック・ベラ(Jarque-Bera)検定統計量 JB が
次式で定義される[3].ただし N は標本数である.
4. ピア評点に対するデータ分析
JB = N / 6 * ( S2 + (K-3)2 / 4 )
プレゼンテーション活動に対するルーブリックよるピア
この検定量 JB が自由度 2 のχ2 分布に従うことを用いて,
評価によって導き出された統計量を用いて,ルーブリック
帰無仮説「正規分布に従う」を検定した.このとき被評価
によるピア評価を分析する.
グループ AM11 だけが帰無仮説を棄却できない(df=2,
4.1 被評価グループ別評点に対する分析
JB=1.09, p>0.1).すなわち被評価グループ AM11 以外のピ
被評価グループ毎の評点について分析する.図 9 は被評
ア評点分布が正規分布に従わないといえる.
23
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
する.図 13 は被評価グループ別設問別の平均評点の分布
状況をレーダーで示した(21 個の 10 角形が重なっている).
線の重なりから離れた多角形には点線で識別表示している.
このとき設問 Q.4~6 においてグループ間の線の重なり度
が他の設問と比べて軽い状況が観られる.すなわち第 k 番
の設問 Q.k における最大値と最小値の差異を d(Q.k) で表
す.今回のピア評価では次の状況である.
d(Q.4)=2.28,
d(Q.5)=3.22,
d(Q.6)=2.69.
なお全差異の平均は d(平均)=1.72 であった.
図 10
被評価グループ別ピア評点分布の歪度と尖度状況
4.3 評価回数に対する分析
評価者 144 人が実行した評価回数について分析する.図
11 は評価回数毎の度数分布図である.今回のピア評価では
評価者一人当たり,最大 18 回に対して平均 16.4 回のピア
評価を実行している.平均回数以上である,17 回以上のピ
ア評価を実行した評価者は全体の 72.9%を占める.
図 13
被評価グループ別の設問別平均評点レーダー分布
4.5 ピア評価の内部整合性係数に対する分析
ピア評価に対する内部整合性係数[4][6]について分析す
る.図 14 は被評価グループ別の内部整合性係数の状況を
示した折れ線グラフである.
図 11
ピア評価回数の分布
被評価グループ内において評価回数で 2 群に分ける。例
えば被評価グループ AK31 における評価回数 17 回以上の
評価者の集団を AK31a,その他を AK31b でそれぞれ示す.
このとき 2 群における平均評点の差について帰無仮説「平
均の差がない」を検定する.この検定で帰無仮説を棄却で
きる被評価グループは 4 組であった.
AK36a, AK36b : (df=111, t=-2.52, p<0.05),
図 14
被評価グループ別内部整合性係数の状況
この係数はクロンバック(Cronbach)の α 信頼性係数,
AK23a, AK23b : (df=108, t=-2.39, p<0.05),
単に α 係数といい,次の式で定める.
AK39a, AK39b : (df=107, t=-2.22, p<0.05),
α = ( k / (k-1) ) * ( 1-Σi Si2 / Sx2)
AK24a, AK24b : (df=114, t=-3.37, p<0.01).
ここで,k は設問の個数,Σi Si2 は i 番目の設問の分散 Si2
の総和,Sx2 は全評点の分散を示す.
今回のピア評価では,α 係数は次の範囲をとる.
0.8127≦α≦0.9003
これより Wikipedia サイト[4]によれば,ピア評価の被評価
グループ別の設問に対する信頼性が高い(Good)ことが確
かめられた(表 1).
図 12
評価回数による 2 群に対する評点分布
4.4 被評価グループ別の設問別平均評点に対する分析
ピア評価の設問(10 問)における平均評点に対して分析
24
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
α係数の解釈表
表 1
Cronbach’s alpha
4.7 識別率に対する分析
ピア評価における識別率(Discrimination efficiency)につ
Internal consistency
α≧0.9
Excellent.
いて分析する.この識別率は,全体の評点の上位群と下位
0.9>α≧0.8
Good.
群に対して設問の正答率を識別できているかを示す指標で
0.8>α≧0.7
Acceptable.
あり,DE で表し,次の式で定める.
0.7>α≧0.6
Questionable.
0.6>α≧0.5
Poor.
ここで SUMxy / N は,全体スコアと項目スコアとの共分散,
0.5>α
Unacceptable.
SDx は全体スコアの標準偏差,SDy は項目スコアの標準偏
DE = ( SUMxy / N ) / ( SDx * SDy )
(-1≦DE≦1)
差を示す.図 16 は今回のピア評価の設問別に識別率の分
4.6 ファシリティ指標に対する分析
ピア評価におけるファシリティ指標(Facility index)につ
布を比較させた箱ひげ図である.今回のピア評価の識別率
いて分析する.この指標は設問がどれだけ簡単か難しいか
DE は,範囲 0.3392≦DE≦0.8825,平均 0.6715,標準偏差
を示す指標であり,F で表し,次の式で定める.
0.0993 であった.
Moodle サイト[5]によれば,識別率が 0.5 以上であれば
(0≦F≦1)
F = Xaverage / Xmax
ここで,Xaverage は平均評点,Xmax は最大評点である.図 15
適切であると設定されている.今回のピア評価では,0.5 以
は今回のピア評価の設問別のファシリティ指標の分布を示
上の識別率は 195 件(全体比 92.9%)であった.
した箱ひげ図である.ファシリティ指標 F は,範囲 0.3222
≦F≦0.6800,平均 0.5729,標準偏差 0.0527 であった.
図 16
図 15
5. ルーブリックによるピア評価の信頼性と妥
当性
ピア評価の設問別ファシリティ指標の分布
Broown(2005, p.75)[7]によれば適切な指標は 0.3 から 0.7
村山[1]は,信頼性(Reliability)が高く,かつ妥当性(Validity)
であるとされている.今回のピア評価では全ての設問が適
が高いテストについて,
「ダーツのアナロジー」を用いて解
切であると判断できる.また Moodle サイト[5]によれば,
説している.この節ではこのダーツのアナロジーに類似し
レベル「Moderately difficult(適度に難しい)」の件数が 1 件,
た可視化イメージで,プレゼンテーション活動におけるル
レベル「About right for the average student(平均的な学生に
ーブリックによるピア評価の信頼性と妥当性について考察
適切)」の件数が 202 件,レベル「Fairly easy(かなり簡単)」
する.
の件数が 7 件として分類される(表 2).
表 2
ピア評価の設問別識別率の分布
5.1 設問別平均評点の分布状況について
ファシリティ指標 F の解釈表
第 4.4 節で扱った被評価グループ別の設問別平均評点に
F
Interpretation
5 or less
Extremely difficult or something wrong with the
考え,最大評点による多角形の外接円,及び最小評点によ
question.
る多角形の内接円をトレースしたものである.このイメー
6--10
Very difficult.
ジは,ダーツのアナロジーを推測できる 2 重リングで疑似
11--20
Difficult.
的に表現したものである(2 重リングの幅が狭い程,信頼
20--34
Moderately difficult.
性が高いと言えると考える).
35--64
About right for the average student.
66--80
Fairly easy.
81--89
Easy.
90--94
Very easy.
95--100
Extremely easy.
ついて分析する.図 17 は設問毎の最大評点と最小評点を
25
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
標が適切な指標対である次の領域 Area 内に存在している
ことが分かる.
Area = { ( F, DE ) | 0.3≦F≦0.7, DE≧0.5 }
この事実はピア評価の信頼性と妥当性がともに高いことを
示していることの一つの判断であると考える.
最小包含円の曲率κ(=1/c) = 1.238 もピア評価の信頼性を
示す指標と考えるが(曲率が大きい程,信頼性が高い),科
学的な根拠を示す事例・理論が乏しいことより,私見的な
範疇を超えることができない.
図 17
設問別の最大評点による多角形の外接円と最小評
点による多角形の内接円のイメージ
5.2 内部整合性係数について
第 4.5 節で,ピア評価に対する内部整合性係数である α
係数を取り扱った.その下限値について
α≧0.8127
であることから,ピア評価に対する信頼性が高いことを既
に示している.
5.3 ファシリティ指標と識別率の散布図について
ピ ア 評 価 に 対 し て 次 の よ う に 点 群 Pij (i=1,2,…,21;
図 18
ピア評価のファシリティ指標と識別率の散布図と
最小包含円
j=1,2,…,10)を定める.
Pij ( Fij , DEij )
ここで,第 i 番目の発表グループ(被評価グループ)に対
謝辞
する第 j 番目の設問に対するファシリティ指標と識別率を
て頂いた宇田川暢(山口県立大学)による全面的なサポー
それぞれ Fij ,DEij と表す.
トにより実現できている.この紙面を借りて感謝の意を表
210 個の点群に関する相関係数は r = -0.1014 である.こ
本研究は,専用 Web サイトに対する SE を担当し
する.
の相関係数に対する無相関の仮説を検定すれば,帰無仮説
「無相関である」を棄却できないことが分かる(df = 208, t
参考文献
= -1.469, p > 0.05).
1) 妥当性概念の展開(村山 航)
http://www.jartest.jp/pdf/jirei7_rep1a.pdf (access 2015.09.09)
2) 点群の凸包および最小包含円を求める(JavaScript 版)
http://k-ichikawa.blog.enjoy.jp/etc/HP/js/convexHull/cvx.html (access
2015.09.09)
3) ジャック・ベラ検定(Wikipedia サイト)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83
%E3%82%AF-%E3%83%99%E3%83%A9%E6%A4%9C%E5%AE%9
A (access 2015.09.10)
4) Cronbach's alpha(Wikipedia サイト)
https://en.wikipedia.org/wiki/Cronbach%27s_alpha (access 2015.09.10)
5) Facility index(Moodle サイト)
https://docs.moodle.org/dev/Quiz_report_statistics (access 2015.09.10)
6) George, D., & Mallery, P.: SPSS for Windows step by step: A
simple guide and reference. 11.0 update (4th ed.). Boston: Allyn &
Bacon (2003).
7) Brown, J. D.: Testing in language programs: A comprehensive
guide to English language assessment (New ed.). New York: McGraw
Hill (2005).
8) 池村努: プレゼンテーション授業における相互評価に関す
る事例報告-2-,教育システム情報学会,第 39 回全国大会論文
集,pp.217-218 (2014).
点群 Pij を平面上の点の集まりと捕える(図 18).このと
き点群 Pij を含む,中心 C(a, b), 最小半径 c である次の円
の方程式を考察する(この円を最小包含円[2]という).
( x-a )2 + ( y-b )2 = c2 .
最小包含円の定め方は,全ての点群 Pij を含む最小の凸
多角形(凸包,Convex hull)を定め,次にその凸多角形の
外接円を定めることになる.また平面上の円は,円周上の
異なる 3 点を通る条件,または円の直径の両端となる 2 点
を通る条件で定まる.
点群 Pij の内より,3 点 P12(0.6600, 0.7521), P16(0.6800,
0.6389), P35(0.3222, 0.5047) を通る円の方程式:
(x-0.4681)2 + (y-0.6598)2 = 0.80782
は最小包含円である.すなわち最小包含円の中心 C ,半径
c について
C(0.4681, 0.6598),
c=0.8078
であることが分かる.
このとき最小包含円の中心 C について,x 座標 0.4681
付録
は適切なファシリティ指標の範囲内であり,y 座標 0.6598
付録 A.1 ルーブリック評価表
は適切な識別率の範囲内に存在していることが分かる.す
図 19~21 はプレゼンテーション活動に対するピア評価
なわちピア評価によって導き出された最小包含円の中心座
26
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
の基準となったルーブリック評価表である.なお評点入力
は Moodle の小テスト手法を取っている.
図 21
ルーブリック評価表(#3/3)
付録 A.2 プレゼンテーション活動における役割・制約につ
いて
図 22 はプレゼンテーション活動においてグループ内メ
ンバーの役割分担,さらに活動における文書制約を示して
いる,他に発表制約,質疑制約などがある(省略).
図 19
ルーブリック評価表(#1/3)
図 22
プレゼンテーション活動の役割分担と文書制約
(抜粋)
図 20
ルーブリック評価表(#2/3)
27
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
マハラン・コネクション ∼Mahara と LMS を接続する
隅谷孝洋1
秋元志美1
原田久美1
概要:本学では、おもに大学院むけの学習ポートフォリオとして Mahara を利用している。そのなかで、
LMS で作成した学習成果を Mahara で参照できるような連携を構築しているので、その設計方針と内容に
ついて紹介する。
Maharan Connection
– Make a Connection between Mahara and LMS –
Takahiro Sumiya1
Yukimi Akimoto1
Kumi Harada1
Abstract: Mahara is recognized as a learning e-portfolio system mainly for graduate students in Hiroshima
University. Our Mahara has a function which allows users to create links from Mahara to their submissions
on LMS. We will introduce the feature of this function.
Mahara から参照したいという要望が出てきた。ここでは、
1. はじめに
その要望に応えるために Mahara に追加したプラグイン、
広島大学では、大学院生を主な対象として、Mahara を
および拡張した Mahara の機能について紹介する。
ベースとしてした e ポートフォリオシステムを運用してい
2. LMS と e ポートフォリオの連携
る [1]。このシステムは、2012 年度後期よりフェニックス
リーダー育成プログラム*1 、2013 年度前期より生物圏科学
一般に、LMS は授業単位での活動を支援し、e ポート
研究科、後期より総合科学部、2014 年度前期より「たお
フォリオは学生単位での活動を支援する。
やかで平和な共生社会創生プログラム*2 」で運用されてい
LMS は基本的に担当教員と履修生というグループ(
「コー
る。それぞれの部局もしくはプログラムでの利用について
ス」という)で共通のコンテンツを利用し、授業に関連する
は [2] で紹介しているが、おもな利用目的は学習と研究の
課題の管理や議論などの支援をする機能をもっている。学
進捗状況のモニタ、指導記録、達成度の評価などである。
生は LMS を通して課題を提出したり意見を投稿したりす
本学では Mahara に、利用者が定型的な文書を作成しや
ることでサーバに学習成果が蓄積されていくが、それらは
すい機能(テンプレート機能)を追加した。これは Mahara
学生から見るとコースごとに分散しているように見える。
本体へのカスタマイズやサブシステムの開発によって実
一方、e ポートフォリオは授業内外の学習活動の成果を
現している [1]。また、各部局・プログラムの要望に対応
学生ごとに一か所に蓄積し、整理・省察・共有することが
するため、いくつかのプラグインを開発している [3]。そ
目的となる。授業の主な成果物を e ポートフォリオシステ
のような中で、本学で全学向け LMS として導入している
ムにアップロードしたり、ゼミや学会発表などの記録をし
Blackboard Learn(以下、Bb という)への課題提出物を
ておくことに向いているだろう。
1
*1
*2
これら2つのシステムが連携して動く時、どのような
広島大学 情報メディア教育研究センター
Information Media Center, Hiroshima University
放射線災害復興を推進するフェニックスリーダー育成プログラム
http://www.hiroshima-u.ac.jp/lp/program/ra/
たおやかで平和な共生社会創生プログラム
http://taoyaka.hiroshima-u.ac.jp
ことが望まれるだろうか。まず最初に考えられることは、
LMS で提出し、評価されたレポートを e ポートフォリオで
も参照できるようにすることだろう。LMS に緊密に結び
ついた、もしくは LMS 上に構築された e ポートフォリオ
28
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
システムでは、そのような機能がはじめから含まれている。
例えば manaba folio
*3 と呼ばれる
Bb
コース A
e ポートフォリオシ
ステムは商用 LMS である manaba の拡張機能として提供
1
される。現段階での manaba folio における e ポートフォ
一括コピー
2
コース B
リオは、単純にファイルを蓄積する機能でしかないが、課
題として作成・アップロードしたファイルを、学生は一か
*4
1
2
ビュー
3
リンク
file 2
3
(1)
所にまとめて見ることができるようになる。また、これも
商用 LMS である Bb には、Content Management
Mahara
コンテンツ
とい
う拡張機能があり、この中に e ポートフォリオ機能が含ま
れている。この機能を用いると、学生や教員はコースと独
立なファイル保存領域を持つことができ、そこに保存した
コース A
ファイルや、Bb で提出したレポートのファイルを使って、
1
e ポートフォリオの重要な機能であるショウケース機能を
*5
2
必要に応じ
随時コピー
コース B
使うことができる。オープンソース LMS の Sakai におい
ても、OSP
Bb
という e ポートフォリオ機能があり、LMS
Mahara
コンテンツ
2
ビュー
リンク
file 2
3
(2)
での提出物を e ポートフォリオでシームレスに利用するこ
とができる。
Mahara にはオープンソース LMS の Moodle と連携す
る機能が用意されている [4]。Mahoodle と呼ばれるこの機
Bb
コース A
能を使うと、両システム間のシングルサインオンが可能に
なり、Mahara のビューを Moodle の課題として提出でき
1
るようになる。前述のように LMS での提出物を e ポート
2
リンク
コース B
フォリオで使うのではなく、e ポートフォリオで作成した
ビュー
3
ものを LMS の提出物として使うという、いわば逆の機能
である。これは Mahara の使いやすいページ作成機能を評
Mahara
コンテンツ
file 2
(3)
図 1 LMS の提出物を Mahara で使う
価してのことだろう。
3. Maharan Connection
( 2 ) LMS での提出物を、Mahara で参照作成時にコピー
LMS への提出物を Mahara でシームレスに利用できる
( 3 ) LMS での提出物へのリンクを、Mahara で参照可能と
ようにするためにはどのようにすればよいだろうか。図 1
する
のような 3 つの連携方法が考えられる。
というものである。
一つ目は、LMS での提出物をすべて Mahara へコピー
これらのうち、広島大学では (3) のアプローチをとった。
してしまう方法である。宮崎らは、Blackboard Learning
(3) では、Mahara で参照されたファイルが、たしかに LMS
System CE と SakaiOSP をこの方法で連携させた [5]。こ
で提出されたものであることを保証できるというメリット
の場合、選択的にコピーすることは面倒であるため、すべ
がある。このことは、Mahara で作成した e ポートフォリ
ての提出物を Mahara にコピーすることになるだろう。
オを評価に使用したい場合には重要な事項であると考え
また、Mahara で参照したいときに、LMS へ提出物を取
た。デメリットとしては、Mahara からは参照だけである
りに行くというアプローチもある。この場合、LMS への
ため、LMS 側でコースを削除すると参照できなくなって
提出物の複製を作成して Mahara に保存する方法と、LMS
しまうことがあげられる。
への提出物へのリンクを Mahara に作成する方法が考えら
以下では、広島大学の公式 LMS である Bb と Mahara を
れる。
連携させるために開発した拡張機能について説明する。
まとめると
( 1 ) LMS でのすべての提出物を、定期的に Mahara にコピー
3.1 Blocktype プラグインの作成
*3
プラグインを作成した。ブロックを配置し、コース名と課
*4
*5
Bb への提出物を Mahara で参照するために、Blocktype
http://manaba.jp/products/folio/
http://www.blackboard.com/platforms/learn/products
/blackboard-learn/teaching-and-learning
/expanding-learn/content-management.aspx
https://confluence.cornell.edu/display/eportfolio/
What+is+Sakai+OSP
題名を記入すると、Bb 上で該当する課題への提出物があ
れば、そのファイルへのリンクを表示する(図 2)
。このと
き、課題は採点済みでなければ表示されない。これは、教
29
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
コース名・課題名・ユーザ名
Bb
提出物のファイル名・ファイル内容
図 2 Bb9 レポート表示ブロック
3.2 ファイル領域の拡張
員がチェックしたものを教育プログラムの学習/教育成果
としてシステムとして保証するための制限である。
前節の Blocktype プラグインよりも広範囲で Bb への提
また、このブロックを配置した、すなわち Bb 上の提出物
出物を利用したいという要望があり、ファイル領域の拡張
へのリンクを含むページを Mahara の機能を用いて HTML
をおこなった。Mahara 本体のコードをカスタマイズする
ファイルアーカイブとしてエクスポートした場合には、Bb
ことになったため、保守性などの問題は発生するが、
「ダウ
上のファイルへのリンクではなく、アーカイブ内へ取得済
ンロードできるファイル」や日誌エントリの添付ファイル
みのファイルへのリンクとして表示されるようにした。
でも使えるようになる。
コース名と課題名を指定する際に、課題を実施した際の
この拡張では、図 3 のようにファイル領域に「Bb9 提出
学生番号も入れられるようにしている。これは学部生のと
物」という仮想フォルダを表示するようにした。この仮想
きのレポートも、大学院生になってから作るポートフォリ
フォルダを開くと、ページ所有者の ID が学生として登録
オで参照できるようにするためである。広島大学では進学
されているコースのうち、レポートファイルが提出されて
の際に学生番号が変更になるので、Mahara のデータベー
いるコースの一覧が表示される。コース名をクリックする
スに旧学生番号を管理するテーブルを追加している。本機
とそのコース内の課題名の一覧が表示され、さらに課題名
能はこのテーブルを参照することにより実現している。
をクリックすると添付ファイルの一覧が表示される。表示
コース名と課題名の指定は、選択式ではなく記入式とし
ている。その理由は、当初コストを削減するためと、本学
Mahara との親和性のためである。
本学では、Mahara を改修し、テンプレート方式の e ポー
トフォリオシステムとして利用している。すなわち、管理
者がテンプレート(ポートフォリオ文書の雛形)を作成
し、それを教育プログラム所属の学生に配布、学生は配布
されたテンプレートを編集してポートフォリオを作成して
ファイル領域に
いく。あらかじめ決められた Bb 課題を参照するようなテ
仮想フォルダを
表示
ンプレートを作成したい場合、選択式を採用すると管理者
は膨大なコース名と課題名のリストから目的の組み合わせ
を探さなければならなくなる。これは非効率的であり、と
もすれば選択ミスを招く可能性もある。そのため記入式を
とった。
このような機能を実現するため、Bb 側にも Building
Block を作成して以下の機能を追加した*6 。
• 利用者 ID を指定し、関連コース名、課題名、提出物
の有無を問い合わせる
• コース、課題、提出物の有無を問い合わせる
提出物がある
Bb コースを一覧
• ファイル本体を取得する
本 Blocktype プラグインは、この Building Block とやりと
りし、情報の取得やファイルの取得をしている。
*6
本学の Mahara 機能拡張は SCSK 株式会社に開発を請け負って
頂いている。Bb の Building Block 作成も同社に依頼している。
図 3 ファイル領域の拡張
30
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
されている添付ファイルは通常の手順で Mahara にアップ
た。特に広島大学で実装している Bb と Mahara の間の連
ロードされたファイルと同様に扱うことができる。
携について述べた。この連携では Mahara から Bb に提出
されたファイルをさまざまな形で活用することができる。
3.3 利用実績
e ポートフォリオの素材としては、学習成果として e ポー
3.1 のプラグインは、フェニックスリーダープログラム
トフォリオシステムに意図的にアップロードされるファイ
の「分野融合セミナー」という授業と、進級試験で利用さ
ルだけでなく、日々の学習を通して LMS に蓄積されてい
れている。
るファイルも重要な位置を占めている。今回実装した連携
分野融合セミナーでは、LMS のいくつかのコースに提
は、そういったファイルの利用法に対して一つの提案をす
るものとなっている。
出されたレポートを、Mahara の一つのビューにまとめて
表示、レポートごとに設定されたポイントの合計で単位を
LMS への提出物以外にも、学習ログや活動ログなどオン
認定する。レポートの対象となるセミナーは十数件開催さ
ラインで活動していると自然と蓄積されるデータなども、
れ、学生はそのなかから自分の好きなものを選ぶことがで
e ポートフォリオの素材になりうる。今後はこのようなロ
きる。学生はこのプラグインにコース名と課題名を記入
グの活用も考えていきたい。
し、担当事務でレポートのチェックをおこなう。Mahara
参考文献
で見えるレポートは、Bb で教員が採点済のものに限られ
るため、担当事務の形式的なチェックで十分なものとなっ
ている。
[1]
秋元志美,隅谷孝洋,金井裕美子,古澤修一「大学院学生
指導用 e ポートフォリオシステムの開発-テンプレートか
らはじめる e ポートフォリオ-」情報処理学会情報教育シン
ポジウム論文集, pp.193–196, 2013
[2]
秋元志美, 原田久美, 隅谷孝洋「三年目の Mahara」Mahara
オープンフォーラム 2014 講演論文集, pp.40-44, 2014
[3]
隅谷孝洋, 秋元志美「みんなで Blocktype プラグインを
作ろう」Mahara オープンフォーラム 2013 講演論文集,
pp.11–16, 2013
[4]
System Administrator’s Guide/Moodle/Mahara Integration,
https://wiki.mahara.org/index.php/System
Administrator’s Guide/Moodle/Mahara Integration
(2015.09.15 確認)
[5]
宮崎誠, 小山田誠, 中野裕司, 根本淳子, 喜多敏博, 鈴木克
明「学習成果物取得自動化による e ポートフォリオシステ
ムの実現」情報処理学会研究報告, Vol.2010-CLE-3 No.9,
pp.1–7, 2010
進級試験(博士論文研究基礎力審査、QE: Qualifying
Examination) では、研究計画書などを Bb に提出する。そ
れをこのプラグインを通して Mahara 上で表示させてい
る。こちらの Mahara ページはあらかじめテンプレートに
Bb のコース名と課題名が入った状態で学生に配布される。
学生は Bb の課題として必要書類を提出し、教員がそれを
チェックして採点すると、Mahara 上に表示されるように
なっている。
3.2 のファイル拡張については、その使用は学生への指
示には含まれていない。現状、進級試験の際の自己評価で
エビデンスを示すのに利用されている事例がある。
4. まとめ
本稿では LMS と e ポートフォリオの連携について述べ
31
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
複数システムで一貫した用語を使用する手法の提案
- Mahara, Moodle, Sakai CLE による共通翻訳メモリ宮崎誠†1
平岡斉士†2 常盤祐司†3
出口大輔†4
喜多敏博†2
梶田将司†5
概要:近年,国内の大学では様々なソフトウェアが導入されるようになった.しかし,それぞれのソフトウェアは,
独自の国際化および日本語化を行っているために同一語に対して異なる翻訳がされていることが散見される.そこで
複数システム間でも一貫した翻訳が可能な共通翻訳メモリを使った手法について発表する.
キーワード:国際化,i18n,ローカライズ,l10n,TMX
A proposal for technique to use common terms among multiple
systems
- Common translation memory by Mahara, Moodle and Sakai CLE Makoto Miyazaki†1
Naoshi Hiraoka†2 Yuji Tokiwa†3
Toshihiro Kita†2 Shoji Kajita†5
Daisuke Deguchi†4
Abstract: Recently, various software are introduced to universities. However, each software is often translated different terms. I
show the technique using the common translation memory to translate consistently.
Keywords: internationalization, i18n, localization, l10n, TMX
いている.しかし,それぞれのシステムを開発する会社や
1. はじめに
OSS コミュニティにて固有の国際化(以下,i18n)および日
近年,大学において ICT の導入が進み,教育に関しても
本語への翻訳を含む地域化(l10n)が行われているため,それ
学務情報システムをはじめ,LMS や CMS,e ポートフォリ
ぞれのシステムで使われている訳語の用語や表現について
オシステム等が教員の授業運営や学生の学習に活用されて
は,一貫性が保証されていない.そのため,複数のシステ
いる[1].教育を支援するシステムとしては,商用のパッケ
ムが共存し,ユーザがシステム間を行き来して利用するよ
ージ製品だけでなく無償の Moodle, Mahara, Sakai などのオ
うな場合には,ユーザが用語や表現に違和感を覚えること
ープンソースソフトウェア(以下,OSS)の採用も進んでおり,
が懸念される.
複数のシステムが大学に共存する中,大学ポータルサイト
これらの訳語による用語や表現の違いによってユーザが
を用意することでシステムを利用する入口や情報を一本化
感じる違和感の解消を目指し,複数システムで一貫した用
する,SSO により各システムをシームレスな利用を可能に
語を使用する手法について取り組んでおり[2],本稿では,
するなど,ユーザの利便性を向上させる仕組みや技術も今
Mahara での適用方法について述べる.
後ますます重要になってくると考えられる.これらシステ
ム,特に OSS の多くについては,英語圏で開発されている
2. Mahara を利用する際の用語の課題
ため日本に導入する際には,日本語に翻訳されたものを用
Mahara を利用した用語に関する問題の指摘として,
†1 畿央大学
Kio University
†2 熊本大学
Kumamoto University
†3 法政大学
Hosei University
†4 名古屋大学
Nagoya University
†5 京都大学
Kyoto University
Mahara でのグループを使った活動において問題なくシス
テムが利用できるか行ったユーザ評価がある[3].その結果,
手順書がある場合,グループでのフォーラムへの投稿やフ
ァイルの共有等においてユーザは,躓くことなく利用でき
ることが分かったが,一方で使いにくかった点や分かりに
くかった点をインタービューし,次のような課題があるこ
32
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
3. ソフトウェアにおける翻訳
とが分かっている.
・ラベルの表記(言葉の意味)が分かりにくい
-
PHP や Java 等のプログラミング言語には,国際化に対応
意味が分からないと全く使わない機能になる
するための標準的なパッケージが用意されており,PHP で
- 「レジュメ」の意味が分からない
あれば言語ファイルに PO ファイルを利用した gettext 形式,
- 「フォーラム」が何なのか伝わらない
Java では言語ファイルにプロパティファイルを利用した
- 日誌の更新の際,「エントリを追加する」ではなく
ResourceBundle が用意されている.
mixi のように「日誌を書く」の方が分かりやすい
これら国際化の仕組みによる翻訳では,通常,翻訳を支
- 「プラン」は「計画」や「目標」の方が分かりやす
援する専用ツールが用いられ,一人で開発する Web アプリ
い
ケーションやプログラムでは開発環境の IDE に付属する翻
・コンテンツにある項目(情報)が多すぎる
訳ツールを利用することが多い.一方,OSS コミュニティ
- どのページを表示してもタブが多い
のように協同して多数の翻訳者で翻訳する場合,翻訳箇所
・コンテンツのファイルのフォルダ構造が分かりにくい
の分担や統合,翻訳表現のルール化や合意など,一人で翻
- ツリー表示があると良い
訳する際には問題にならないような困難さが存在する.そ
・ページ作成の際の操作方法が複雑で分かりにくい
のため,近年では,共通の翻訳ソースを対象に協働で翻訳
- 操作の説明の表示も色が薄くて,気づきにくい
できる Web ベースでの翻訳プラットフォームサービスが
登場し,OSS を中心に活用されている.
特に,ラベルの表記(言葉の意味)の分かりにくさが指
これら翻訳を支援するツールでは,翻訳元と翻訳先の一
摘されており,mixi や facebook と同じような表現だと分か
組の翻訳セットを集めた翻訳メモリ[4]が利用できる.翻訳
りやすいとの意見があった.このことより,Mahara を使う
メモリとは,いわゆる文章の辞書と考えることができ,あ
際には,ユーザが普段よく使っているシステムでの表現と
る翻訳対象文字列(文章)がある際には,翻訳メモリの文字
の違いから「違和感」があるという課題があることが分か
列と一致するか似通った文字列を参照し,その翻訳結果を
った.よって,Mahara の使いやすさを向上させるためには,
翻訳候補文字列として扱うことができる.よって,翻訳メ
システム固有の用語や表現をユーザの馴染みのあるシステ
モリを活用することで翻訳の省力化が可能となり,一貫し
ムに合わせることが重要であると考えられる.
た翻訳が実現できる.
開発範囲
前版
PO
前版
PO
前版
PO
前版
TMX
翻訳前
ソース
①
.prop.
②
.po
③
④
.php
src2po
translator
.po
po
updater
Transifex
Client
(put)
.php
翻訳後
ソース
⑦
.po
.php
po2src
translator
.po
⑧
翻訳
.po
.prop.
.php
⑤
⑥
Transifex
Client
(get)
.po
共通
TMX
成果物
図 1 システム概要([2]より)
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成
果
物
Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
6. Mahara における翻訳メモリの作成
4. OSS の共通翻訳メモリによる翻訳手法
6.1 Mahara における i18n
2 章で述べたように Mahara の使いやすさを向上させるた
めには,システム固有の用語や表現をユーザの馴染みのあ
Mahara は,PHP で実装されたソフトウェアであるため
るシステムに合わせることが重要であり,ユーザの馴染み
i18n においては gettext 関数を利用することが可能であるが,
のあるシステムから翻訳メモリを作成し Mahara の翻訳に
Mahara では文字列型変数の連想配列による方法が用いら
利用することで用語や表現をユーザの馴染みのあるシステ
れている.以降 Mahara で用いられている i18n と l10n の仕
ムと一貫したものにすることができる.
組みを簡単に紹介する.
Mahara では,言語パック(Language packs)を導入する
現在,Mahara コミュニティでは,launchpad[5] [a]という
Web ベースの翻訳プラットフォームが利用されているが,
ことで各種言語に対応することが可能である.例えば,
今回,教育を支援する OSS システムとして利用されている
Mahara に日本語(ja ロケール)の言語パックを導入するに
Moodle, Mahara, Sakai については,Web ベースの翻訳プラ
は,Mahara の設定ファイルに設定されているファイルシス
ットフォームである Transifex[6]にて翻訳を行い,一つの結
テム上のデータディレクトリ直下に存在する
合した共通翻訳メモリを作成した.共通翻訳メモリは,
“languagepacks”ディレクトリに日本語言語パックを展開
Moodle, Mahara, Sakai の翻訳によって得られるそれぞれの
することで,
“ja.utf8”というロケールと文字コードを表し
翻訳メモリを結合したものであり,Transifex での翻訳時に
た名称のディレクトリが作成され日本が利用できるように
共通翻訳メモリを利用することで,Moodle, Mahara, Sakai
なる.
“ja.utf8”以下には,翻訳 PHP ファイルが集められて
の翻訳実績から適応率に応じた翻訳候補を使って用語や表
配置されている.Mahara で利用言語に日本語を指定すると
現に一貫性のある翻訳が可能となる.
ホームディレクトリ以下の言語 PHP ファイルの代わりに
言語パックの“ja.utf8”以下の対応する翻訳 PHP ファイル
が読み込まれることで言語が切り替わる仕組みとなってい
5. 共通翻訳メモリを用いた翻訳手法
る . Mahara で 用 い ら れ て い る 言 語 PHP フ ァ イ ル は
図 1 は,提案している Moodle, Mahara, Sakai にて共通翻
「$string['hello_world'] = 'Hello World!';」のように$string と
訳メモリを用いて翻訳を行う手順を示しており,[2]で示し
いう一つの文字列型変数に対して,キー(hello_world)と
たものである.図中の開発範囲と示した領域を除けば,一
値(Hello World!)という連想配列で表される.また,翻訳
般的な開発手順となる.図中の①,②…は下記の番号に対
PHP ファイルの文字コードは UTF-8 であるので,値には翻
応する.
訳するロケール言語を直接記述することができる.
このように, Mahara では各言語パックの翻訳 PHP ファイ
①Moodle, Mahara, Sakai のソースファイルを準備する.
ルを文字列型変数$string の連想配列として記述することで
②PHP あるいは.properties ファイル形式のソースファイル
i18n と l10n が行われている.
を新たに開発した src2po translator にて PO ファイルに変換
この仕組を変えずに Transifex によるコミュニティ翻訳
する.
を導入するためには,gettext 形式の PO ファイルとして翻
③新たに開発した po updater を用い,以前のバージョンで
訳する必要があるため,Mahara の言語 PHP ファイル群と
生成した PO ファイルがあればそれを利用して,ソース文
Transifex の間を橋渡しするプログラムの開発が必要である.
字列が一致した文字列に日本語訳を設定する.
これを実現するために,Mahara の連想配列となっている翻
④Transifex が用意するクライアントモジュールを使って更
訳ファイルから gettext 形式の PO ファイルを作成し,
新された PO ファイルを Transifex にアップロードする.
Transifex での翻訳を実現した[2].以降の 6.2 では,Mahara
⑤以前のバージョンにて得られた Moodle, Mahara, Sakai の
の翻訳 PHP ファイル群から翻訳用ソースとなる PO ファイ
翻訳メモリを結合した前版翻訳メモリ(図中,前版 TMX)を
ルを生成して Transifex へアップロードする仕組みを説明
用いて翻訳する.翻訳が完了した時点で,更新された最新
する.次に 6.3 では,Transifex から翻訳用ソースをダウン
の共通翻訳メモリ(図中,共通 TMX)が得られる.
ロードして Mahara の翻訳 PHP ファイル群へ書き戻す仕組
⑥Transifex が用意するクライアントモジュールを使って翻
みについて述べる.
訳済 PO ファイルを Transifex からダウンロードする.
6.2 翻訳用ソース作成
⑦翻訳済 PO ファイルを新たに開発した po2src translator に
Mahara の言語パックには,翻訳言語 PHP ファイルが“ja.utf8”
て PHP あるいは.properties ファイル形式のソースファイル
ディレクトリ直下モジュール毎にディレクトリに分けられ
に変換する.
集められている.gettext 形式で翻訳するためには,このモ
ジュール毎に翻訳 PHP ファイルを一つの PO ファイルにま
とめることで,翻訳時にどの機能について翻訳しているの
a launchpad は,Ubuntu や WordPress 等の OSS の翻訳にも利用されている.
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Maharaオープンフォーラム2015講演論文集
報を抽出した後,Mahara の言語パックの“ja.utf8” ディレ
クトリ以下のそれぞれの翻訳した連想配列 PHP ファイル
に書き戻すことで実現している.ただし,実際に運用する
際には,新しく言語パックが更新された際に翻訳結果が 上
書きされることがないようローカル言語(独自翻訳)として
[Mahara ホームディレクトリ]/local/lang/ja.utf8/ に保存する
方が良いと思われる.ローカル言語の翻訳は,言語パック
より優先して採用される.
7. まとめ
教育を支援するシステムとして OSS である Moodle,
Mahara, Sakai のそれぞれの翻訳メモリを結合することで共
通翻訳メモリを作成した.共通翻訳メモリを使って翻訳す
る 翻 訳 プ ラ ッ ト フ ォ ー ム と し て Transifex を 利 用 し ,
図 2 Moodle における機能別 PO ファイル生成
Moodle, Mahara, Sakai のそれぞれの翻訳ファイルとの橋渡
(Mahara も同様[2]より)
しをするプログラム src2po translator と po2src translator を
開発した.Moodle, Mahara, Sakai 以外の教育を支援するシ
ステムでも共通翻訳メモリを用いることで一貫した翻訳が
か把握し,機能や文脈に依存するような翻訳が必要な際に
可能となる.また,未翻訳のシステムや独自プラグイン等
も適切な表現がし易いよう配慮している.Mahara のインス
を国際化する際には,翻訳メモリを使うことで用語や表現
トールディレクトリ以下は“auth”や“blocktype”ディレ
を保ったままで翻訳が省力化できることが期待できる.
ク ト リ 等 の 機 能 毎 に分 か れて お り , そ れ ら の 階層 中 の
作成した共通翻訳メモリは,Web サイト[7]にて公開して
“lang/en.utf8”ディレクトリに存在している言語 PHP ファ
おり,大学で複数のシステムが導入されている中で,ユー
イルが“ja”の翻訳 PHP ファイルに対応している.よって,
ザにとってより使いやすい環境を目指し,この共通翻訳メ
Moodle の機能単位に翻訳用ソースを作成するためには,機
モリによる翻訳も検証を進めていく予定である.
能毎のディレクトリにある“lang/en.utf8”の言語 PHP ファ
イルに対応する言語パックの翻訳 PHP ファイルを翻訳対
象として抽出し,一つの翻訳用ソースとして整形する機能
謝辞
が必要である[2].さらに翻訳用ソースは,元の翻訳 PHP
ファイルへの変換に必要な情報を保持している必要がある.
本研究は JSPS 科研費 25280127 の助成を受けたも
のです.
これらの条件を実現するよう,Mahara の機能毎のディレク
トリ内に含まれる言語 PHP ファイルを走査し,対応する翻
訳 PHP ファイルを翻訳用ソースに含め gettext 形式の PO フ
ァイルを作成するプログラム src2po translator を開発した
参考文献
[2].図 2 は,Moodle における PO ファイル生成の例である
1) 「高等教育機関等における ICT の利活用に関する調査研究」
成果報告書
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/a
fieldfile/2014/05/19/1347641_01.pdf
2) 常盤祐司・出口大輔・宮崎誠・平岡斉士・喜多敏博・梶田将
司: 教育用オープンソースソフトウェア群のローカライゼーショ
ンと 共通翻訳メモリの開発 -一貫性のある用語による教育支援
シス テムを目指して-, 情報処理学会デジタルプラクティス,pp
79-88, Vol.6 No.2 (Apr. 2015)
3) 宮崎誠・鈴木靖: 学習コミュニティとしての e ポートフォリ
オシステムの試行, 情報処理学会研究報告, Vol.2011-CLE-6 No.8
(Dec. 2011)
4) TMX 1.4b Specification:
http://www.gala-global.org/oscarStandards/tmx/
5) launchpad: https://launchpad.net/
6) Transifex: https://www.transifex.com/
7) TMX プロジェクト:http://www.sakaiproject.jp/tmx/
が,Mahara の場合もファイル構造がほぼ同じであり,同様
に処理している.生成した翻訳用ソースは Transifex Client
ツールを用いて Transifex にアップロードしている.
6.3 翻訳済ソースの反映
6.2 の処理により,翻訳対象となるソースは PO ファイル
としてすべて Transifex にアップロードされ,Transifex 上で
複数の翻訳者が協力しながら同時に翻訳作業を進めること
が可能となる.ここで得られた翻訳結果を Mahara に反映
するためには,Transifex から翻訳結果をダウンロードし,
Mahara の翻訳 PHP ファイルに書き戻すことが必要であり,
プログラム po2src translator を開発した[2].polib を利用し
て PO ファイルから翻訳結果と書き戻すべき翻訳対象の情
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MOF2015 運営委員会
委
委
員
長
員
秋 光 淳 生 (放送大学)
遠 藤 大 二 (酪農学園大学)
大 澤 真 也 (広島修道大学)
久 保 田 真 一 郎 (宮崎大学)
隅 谷 孝 洋 (広島大学)
田 中 洋 一 (仁愛女子短期大学)
平 岡 斉 士 ((熊本大学)
平 塚 紘 一 郎 (仁愛女子短期大学)
宮
崎
誠 (畿央大学)
森 本 康 彦 (東京学芸大学)
山
川
修 (福井県立大学)
Mahara オープンフォーラム 2015 講演論文集
発
行
日
2015 年 10 月 8 日
Rev.1.0
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