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サルサ・バー・パリ
Amsterdam におけるスクワッティング居住に関する調査 ―居住・生活・芸術運動と協働の視点から― 大阪大学 1、 問題の 問題の所在 新自由主義経済の拡大に伴う雇用の不安定化、企業福祉からの撤退、家族福祉の不安定化などを背 景として新たな貧困が問題化するなか、福祉の中心に生活の物理的基盤としての住居を据える「居住福 祉」ないし「居住の権利」という考え方が注目されている(早川 2002)。2006 年末には、ホームレス支援団体 「ドン・キホーテの子供たち Les Enfants de Don Quichotte」がパリで行った大規模なデモンストレーション、 および「住宅権利機構 DAL」の指揮による空家占拠運動(スクワッティング)に、多くの一般人・著名人が参 加した結果、翌年のフランス政府に一定の居住権の保障の義務を負わせたことは記憶に新しい。本研究 では「居住の権利」を求める直接行動のもうひとつの例として、アムステルダムにおけるスクワッティングを対 象として調査研究を行う。とりわけ、居住運動が家族ではない他人との共同居住を伴うことに着目し、プライ ベートな住居を巡るパブリックな権利要求のための、他人との私的な生活の協働というねじれの中で、住居 の内外で、どのような構造において、どのような協働が行われているのかを明らかにしたい。 2、 定義・ 定義・調査概要 ここで、スクワッティング Squatting とは、「放棄されたか、あるいは誰も住んでいない建物や場所を、所有 権も、賃借権も、使用権も持たずに占有する行動」を指す(Neuwirth 2004)。具体的には、都市部の廃屋を 占拠するスラムのようなものから、占拠した建物をアートギャラリーとして改装するアクティヴィズム色の強い ものまで多岐に渡る。定義上、必ずしもその場に人が居住することを必要としないが、本研究は居住として の側面、とりわけ家族ではない他人同士が協力して行動するという共同居住としての側面に焦点を当てる ため、「スクワッティング居住」と呼ぶことにする。アムステルダムでの調査は 2007 年 9 月に 2 週間にわたり、4 久保田 裕之 つの代表的なスクワッティング居住を訪ね、実際に住んでいる 8 名を対象に、フォーマルインタビューとインフォ ーマルインタビューを織り交ぜながら、非構造的な聞き取り調査を行った。同時に、実際に占拠活動に参加する などの参与観察と、欧州のスクワッティングの歴史に関する資料収集などを行い、制度的・歴史的な背景と共に アムステルダムにおけるスクワッティングの全体像を明らかにすることを目的とした。 3、 結果・ 結果・分析 調査の結果、不法占拠者への法的保護が厚いアムステルダムのスクワッティング居住では、占拠した建物を 20 人程度が住居として使用しながら、生活に密着したサービスを地域に提供していることがわかった。具体的に は、カフェ、バー、オーガニックレストランなどから、 アートギャラリー、ライブハウス、映画館、小劇場、さらには、 インターネットカフェ、パソコン教室、ヨガ教室、サルサ教室からサウナまで多岐に渡る。このようなサービスの提 供により、1)居住者の生活原理によって強制的な排除からの保護を獲得し、2)文化・芸術活動を通じて関連 NPO からの政治的・経済的支援を獲得し、3)地域のへのサービスの提供を通じて周囲の支持を獲得している。 いわば、不法占拠から得る経済的・空間的利益の分配を通じて、関係者を一種の共犯関係におくのである。 4、 参考文献 参考文献 Corr, Andres., 1999, No Trespassing: Squatting, Rent Strikes, and Land Struggles Worldwide, South End Press. 早川和夫,2002,『居住福祉学と人間』,岩波新書. Neuwirth, R ., 2004, , A New Urban World, Routledge. Shadow Cities: A Billion Squatters Ward, Colin., 2005, Cotters and Squatters, Nottingham, Five Leaves Press.