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女子バスケットボール選手の コーチングにおける情動知能の果たす役割
早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学) 概要書 女子バスケットボール選手の コーチングにおける情動知能の果たす役割 ー心理的競技能力との関連性からー Effects of Emotional Intelligence in coaching of Female Basketball Players : Focus on the Psychological Competitive Ability 2012年1月 早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 守屋 志保 MORIYA, Shiho 研究指導教員: 福林 徹 教授 【緒言】 競技力向上のためのコーチングにおいて,指導者が選手の人間的成長を考慮したコー チングを行うことは,重要である.本研究では,女子バスケットボール選手を対象に, コーチングにおける情動知能の果たす役割について,心理的競技能力との関連性から検 討を行った.情動知能と心理的競技能力を測定には,情動知能尺度(EQS)と心理的教 護能力検査(DIPCA.3)を用いた.その際, 人間の基本的な能力である情動知能が心理 的競技能力に影響を与え,これらを高めることが,競技レベルの向上につながるという 仮説モデルを立て,検討を行っていくことにした.本研究の目的は,①多様な競技レベ ルの女子バスケットボール選手を対象として,情動知能と心理的競技能力の実態を明ら かにすること,②情動知能が心理的競技能力に与える影響について検討すること,③大 学生女子バスケットボール選手の強化の過程において,情動知能はどのように変化して いくのかを明らかにすることである. 【第 1 章 研究の背景と目的】本研究の目的,独自性と意義について述べる. 【第 2 章 情動知能の実態】 〈目的〉女子バスケットボール選手を大学生と実業団という,競技レベルの大きく異な る 2 つのカテゴリーに分け,情動知能の特徴を明らかにすることを目的とした. 〈方法〉分析Ⅰでは,競技成績により,「大学生上位」と「大学生下位」に分けて,分 析を行った.次に,分析Ⅱでは,競技レベルの異なる「ナショナルチーム」と WJBL の W リーグに所属する選手を「実業団」として,分析を行った. 〈結果〉大学生上位と下位の比較において, t 検定を行った結果,「リーダーシップ」 において有意差が認められ,大学生上位の方が高い値を示した.また,ナショナルチー ムと実業団においては,「自己動機づけ」において有意差が認められ,ナショナルチー ムの方が高い値を示した. 〈考察〉競技成績を高めるためには,カテゴリーごとに異なる情動知能にアプローチす ることが重要であることが示唆された. 【第 3 章 心理的競技能力の実態】 〈目的〉研究 1 と同様に,心理的競技能力の特徴を明らかにすることを目的とした. 〈結果〉大学生上位と下位の比較において,DIPCA.3 の 12 尺度中,7 尺度において有意 差が認められ,すべてにおいて,大学生上位の方が高い値を示した.また,ナショナル チームと実業団の比較においては,4 尺度において有意差が認められ,いずれの尺度と もナショナルチームの方が高い値を示した. 〈考察〉心理的競技能力を高めることは,競技成績を向上させるためには重要であった. 【第 4 章 情動知能が心理的競技能力に与える影響】 〈目的〉情動知能が心理的競技能力に与える影響を明らかにすることを目的とした. 〈方法〉EQS の 9 因子を独立変数,DIPCA.3 の各尺度を従属変数とした重回帰分析(ス テップワイズ法)を行った.その際,従属変数は,第 3 章で得られた結果をもとに,競 技レベルの差を反映した尺度とした. 〈結果〉分析Ⅰでは,情動知能は多様な心理的競技能力に影響を与えていた.また,分 析Ⅱでは,情動知能は,限定的な心理的競技能力に影響を与えていた. 〈考察〉心理的競技能力の向上を目的とした情動知能への働きかけは,選手の競技レベ ルに応じて,そのつど内容を適切なものへと調整する必要性がある. 【第 5 章 長期縦断調査からみた大学生女子バスケットボール選手の強化の過程にお ける情動知能の変化】 〈目的〉縦断調査による大学生女子バスケットボール選手の情動知能の変化の様子を明 らかにすることを目的とした. 〈方法〉大学女子バスケットボール選手 6 名を対象に,計 5 回にわたるアンケート調査 を実施し,期間設定を行い,変化の様子を検討するため,対応のある 2 変数のノンパラ メトリック検定を行った. 〈結果〉短期間で見た場合,特定の因子にのみ有意な変化が認められた.一方,比較的 長期間で見た場合は,多様な情動知能に有意な変化が認められた. 〈考察〉失敗や成功などのリーグ戦における経験だけではなく,シーズンオフ期におけ る過ごし方も,情動知能の変化に影響を与えていることが示唆された. 【第 6 章 総合考察】研究の結果をふまえ,情動知能は心理的競技能力に影響を与えて おり,カテゴリーによって,影響を与える因子は異なるため,コーチングの際には,そ のつど適切なアプローチをすることが重要であることが示唆された.また,情動知能は, 様々な経験を通して変化していくことから,忍耐強く情動知能にアプローチしていくこ とが必要であることが示唆され,継続して情動知能に関する検討を行っていくことは重 要であると考えられる.今後の課題は,仮説モデルを実証していくことと,情動知能に アプローチする効果的なタイミングと方法を追求してくこと,さらに,心理的競技能力 を向上させるための他の要因も加味していくことであり,継続して検討を行く必要があ る.