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小児気管支喘息患者を対象とした テイラー化教育プログラムの開発

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小児気管支喘息患者を対象とした テイラー化教育プログラムの開発
早稲田大学審査学位論文
博士(人間科学)
概要書
小児気管支喘息患者を対象とした
テイラー化教育プログラムの開発および効果の検証
Development of a Tailored Education Program
for Pediatric Asthma Patients
2013年1月
早稲田大学大学院
人間科学研究科
飯尾 美沙
Misa, Iio
研究指導教員:竹中
晃二 教授
わが国においては,生活環境や疾病構造の急激な変化によって,
子 ど も の 3 割 が 何 ら か の ア レ ル ギ ー 疾 患 を 有 し て お り ,な か で も 小
児気管支喘息(以下,小児喘息とする)は,有病率が最も高く,長
期的な治療・管理が必要な疾患である.本研究では,小児喘息のコ
ントロール状態を改善・維持するための管理行動の継続を目的とし
た 患 者 教 育 に つ い て ,2 つ の 課 題 に 焦 点 を あ て て 研 究 を 行 っ て い る .
ひとつは,小児喘息管理行動の継続において重要な心理的変数(セ
ル フ ・ エ フ ィ カ シ ー Self-Efficacy; 以 下 , SE と す る ) を 評 価 す る
尺度の開発である.もうひとつは,小児喘息の管理行動の継続を目
的とした患者教育プログラムの開発である.その教育効果の検証に
は,開発した尺度を含む様々な指標を用いている.本研究において
は , 患 者 教 育 の 対 象 を , 1)学 童 期 以 降 に あ る 喘 息 患 児 , お よ び 2)乳
幼児喘息患児を養育する保護者,の 2 群に分け,それぞれに対応し
た研究を行った上で,それらを融合している.
1 章では,本研究に関連する従来の研究を詳細に概観し,さらに
本研究の意義および目的を述べている.
2 章においては,学童期および思春期喘息患児を対象に,効果的
な患者教育を提供するための教育手法,および教育内容について検
討 し て い る . ま ず , 研 究 Ⅰ -1 で は , 小 児 喘 息 の 長 期 管 理 に 対 す る 患
児 用 S E 尺 度( C A S E S )を 開 発 し ,喘 息 患 児 の 長 期 管 理 に 果 た す S E
の役割を明らかにしている.その結果,喘息患児の長期管理に対す
る SE は , 喘 息 管 理 の 負 担 感 , お よ び 喘 息 コ ン ト ロ ー ル 状 態 を 予 測
す る 役 割 を 担 う 変 数 と な っ て い た .研 究 Ⅰ -2 で は ,プ ロ グ ラ ム 開 発
の基礎調査として,学童期喘息患児の長期管理行動に影響を与える
要因を明らかにしている.その結果,認知的要因,環境要因,およ
び行動(吸入ステロイド薬,内服)要因が,患児の長期管理行動に
大 き な 影 響 を 与 え て い た .そ の 後 ,研 究 Ⅰ -3 に お い て ,研 究 Ⅰ -2 で
明らかにした影響要因を基に,社会的認知理論の構成概念を適用さ
せ た テ イ ラ ー 化 教 育 プ ロ グ ラ ム の 開 発 し ,さ ら に 研 究 Ⅰ - 4 に お い て ,
このプログラムの教育効果をランダム化比較試験で検討している.
その結果,テイラー化教育プログラムを実施した介入群,および喘
息パンフレットを配布した統制群ともに,喘息管理負担感の低減,
喘息知識の増加,および小児用健康統制位置尺度の「他者統制」に
改善が認められた.テイラー化教育プログラムは,患児にとって受
け入れやすく,楽しく学べるものであり,喘息患児に対する新たな
患者教育ツールとしての使用可能性が示唆された.
3 章においては,乳幼児の喘息患児を養育する保護者を対象とし
た 教 育 手 法 ,お よ び 教 育 内 容 に つ い て 検 討 し て い る .研 究 Ⅱ - 1 で は ,
小 児 喘 息 長 期 管 理 に 対 す る 保 護 者 用 S E 尺 度( P - C A S E S )を 開 発 し ,
保 護 者 の 長 期 管 理 に 果 た す SE の 役 割 を 明 ら か に し て い る . 保 護 者
の 長 期 管 理 に 対 す る SE は , 喘 息 管 理 の 負 担 感 , お よ び 子 ど も の 喘
息 コ ン ト ロ ー ル 状 態 を 予 測 す る 変 数 で あ っ た .研 究 Ⅱ -2 で は ,プ ロ
グラム開発の基礎調査として,乳幼児喘息患児を養育する保護者の
長期管理行動に影響を与える要因を明らかにしている.その結果,
認知的要因,環境要因,社会的要因,経済的要因,身体的要因,行
動要因(ステロイド吸入薬,内服薬,環境整備)が,保護者におけ
る 長 期 管 理 行 動 の 影 響 要 因 で あ っ た . さ ら に , 研 究 Ⅱ -3 で は , 研 究
Ⅱ - 2 で 明 ら か に し た 影 響 要 因 を 基 に ,保 護 者 用 テ イ ラ ー 化 教 育 プ ロ
グ ラ ム 開 発 を 行 い ,研 究 Ⅱ -4 で は ,こ の プ ロ グ ラ ム の 教 育 効 果 を ラ
ンダム化比較試験によって検証している.その結果,保護者用テイ
ラー化教育プログラムを実施した介入群,および喘息パンフレット
を配布した統制群ともに,喘息コントロール状態の改善,喘息養育
者 Q u a l i t y o f L i f e 尺 度 の「 治 療 薬 不 安 」お よ び「 発 作 不 安 」の 改 善 ,
お よ び P-CASES の 環 境 整 備 行 動 得 点 の 増 加 が 認 め ら れ た . テ イ ラ
ー化教育プログラムは,保護者にとって受け入れやすく,喘息管理
の重要性を再認識させる新たな患者教育ツールとしての使用可能
性が示唆された.
4 章 で は ,2 章 お よ び 3 章 よ り 得 ら れ た 知 見 を 総 括 し て い る .そ れ
ら は , 1) 開 発 し た CASES, お よ び P-CASES は , 患 者 教 育 研 究 に
お け る 評 価 指 標 と し て 有 用 で あ る こ と ,2 ) 小 児 喘 息 管 理 に は ,認 知 ,
行動,環境,社会,および経済という多様な要因が影響しているこ
と , 3)開 発 し た テ イ ラ ー 化 教 育 プ ロ グ ラ ム は , 医 療 現 場 に お い て 実
用 可 能 で あ る こ と , 4)テ イ ラ ー 化 教 育 プ ロ グ ラ ム は , 従 来 の 患 者 教
育 と 同 等 の 効 果 が あ る こ と ,お よ び 5 ) タ ッ チ パ ネ ル 式 コ ン ピ ュ ー タ
を用いた患者教育は,患児および保護者にとって受け入れやすく,
新たな教育ツールとして使用可能であること,が挙げられていた.
以上,本研究の知見から,患児および保護者への患者教育におい
て,長期管理を見据えた行動科学的アプローチを新たに患者教育ツ
ールとして提供できる可能性が示された.本研究は,小児喘息患者
教育の効果を行動科学的観点によってランダム化比較試験を実施
したわが国初の研究である.今後は,本研究の知見が医療機関に限
らず,地域や学校,保育所・幼稚園,および家庭において広く活用
されることが期待される.
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