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経過中急性腎不全を呈し,ステロイド治療が有効 であった

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経過中急性腎不全を呈し,ステロイド治療が有効 であった
〔症例報告〕
サルコイド結節性間質性腎炎による急性腎不全
経過中急性腎不全を呈し,ステロイド治療が有効
であったサルコイドーシスの一例
杉本亮子1),岳中耐夫2),池田拡行1),福田浩一郎2),宮山東彦3),中村享道1)
【要旨】
症例は74歳の片腎女性,ぶどう膜炎と両側肺門リンパ節腫大の精査入院中,急激な腎機能低下が出現した.腎生検では間質
の「ラングハンス」型巨細胞を伴う組織球性肉芽腫が広範に認められ,サルコイドーシスによる肉芽腫性間質性腎炎と診断さ
れた.副腎皮質ホルモンによる治療により,腎機能は改善した.腎病変を伴ったサルコイドーシスについて文献的考察を加え
て報告する.
[日サ会誌 2003;23:87-90]
キーワード: サルコイドーシス,肉芽腫性間質性腎炎,急性腎不全,ステロイド治療
…………………………………………………………………………………………………………………
A Case of Sarcoidosis with Acute Renal Failure which
Responded to Corticosteroid Therapy
Ryouko Sugimoto1), Shinobu Takenaka2), Hiroyuki Ikeda1), Kohichiro Fukuda2),
Haruhiko Miyayama3), Takamichi Nakamura1)
【ABSTRACT】
A 74-year-old female with evidence of multi-organ involvement of sarcoidosis experienced acute renal failure. Surgical renal
biopsy revealed massive sarcoid granulomatous infiltration in the interstitium of unilateral kidney. Corticosteroid therapy
promptly improved renal function. This case showed the effectiveness of corticosteroid therapy in granulomatous interstitial
nephritis, and suggests the need for early initiation of the therapy to prevent permanent renal dysfunction.
[JJSOG 2003;23:87-90]
keywords ;
Sarcoidosis, Granulomatous interstitial nephritis, Acute renal failure, Corticosteroid therapy
…………………………………………………………………………………………………………………
1) 熊本市立熊本市民病院腎臓内科
2) 呼吸器内科
3) 病理部
著者連絡先 : 岳中耐夫
〒862-8505 熊本市湖東1-1-60
熊本市民病院呼吸器科
TEL: 096-365-1711
FAX: 096-365-1796
Kumamoto City Hospital
1) Division of Nephrology
2) Division of Pulmonary Diseases
3) Division of Pathology
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日サ会誌 2003,23(1)
はじめに
めなかった.この結果,サルコイドーシスによる肉芽腫性
サルコイドーシスは,非乾酪性類上皮性肉芽腫を特徴と
間質性腎炎と診断し,8 月 6 日よりプレドニゾロン(以下
する原因不明の全身性疾患である.本邦における剖検例に
PSL)30mg/ 日の内服投与を開始した.内服開始後,血清
Cr,ACE,尿中β2MGはすみやかに低下し始めたため,投
与開始より4 週後に 25mg/ 日に減量し,以後5mg/2 週のペー
スで減量を行った.血清Cr,ACE,尿中β2MGはいずれも
順調に低下し,胸部X線上BHLの改善もみられたため,9月
27日,PSL15mg/日にて退院し以後外来通院で経過観察,治
療となった.
(Figure 2)
よる各臓器のサルコイドーシス病変検出の頻度は,肺およ
び肺門リンパ節 82%,心臓 69%,肝 45%,脾 41%,腎 13%
と肉芽腫性腎病変の検出頻度は他臓器に比して少ない 1).
更に,肉芽腫性腎病変は腎機能低下が軽度で臨床的に問題
とならない場合には,しばしば診断されない2).
今回我々は,肉芽腫性腎病変による急性腎不全を呈し,
ステロイド治療が有効であった片腎の症例を経験したので
報告する.
Table. Laboratory data on admission
症例
●症 例:74歳,女性
●主 訴:全身倦怠感,霧視
●既往歴:20 才代に右腎摘出(詳細不明),40 才代より高
血圧症
●現病歴:平成 14 年 5 月 28 日,右眼の霧視を自覚し近医眼
科を受診.ぶどう膜炎の診断を受け,加えて胸部 X 線写真
にて両側肺門リンパ節腫大を指摘され,サルコイドーシス
の疑いにて当院紹介受診.精査目的にて 6 月 17 日,当院呼
吸器科入院となる.
●入院時現症:身長152cm,体重53kg,血圧170/90mmHg,
脈拍 84bpm 整,心音清,肺野清,浮腫なし,その他明ら
かな異常は認めなかった.
入院時検査所見(Table)
:尿検査所見は尿蛋白(±),潜血
(-).入院時,BUN 24.7mg/dl,Cr 2.18mg/dlと腎機能障害
を呈し,尿中β2MG 41596μg/Lと著明な高値を示した.尿
中NAGは正常であった.血清Caは 11.5mg/dlとやや高値で
あった.ACEは29.5IU/lで,ツベルクリン反応は陰性であっ
た.胸部X線およびCTにて両側肺門リンパ節の明らかな腫
大を認め,ガリウムシンチ上,同部への集積亢進を認めた.
●臨床経過:入院後,腎機能は急速に低下し,血清Cr値は
最高4.73まで上昇,また,尿中β2MG高値もみられたため,
腎サルコイドーシスを疑い,腎生検を施行した.片腎であっ
たため,平成14年7月25日,左腎の開放的腎生検を行った.
●腎生検所見:Figure 1に示したように,光顕は糸球体には
著変を認めなかったが,間質のラングハンス型巨細胞を伴
う組織球性肉芽腫が広範に認められた.蛍光抗体法では
IgG, IgA, IgM, C3, C4の沈着は認められなかった.以上の所
見から肉芽腫性間質性腎炎と診断した.HE染色にて,間質
にラングハンス型巨細胞を伴う組織球性肉芽腫が多発して
おり,サルコイドーシス性の肉芽腫性間質性腎炎として矛
盾しなかった.蛍光抗体法では,肉芽腫域の陽性所見は認
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Figure 1. A histopathological finding of a renal biopsy
specimen. Lymphocytic interstitial infiltration and
noncaseating epitheloid cell granuloma with
multinucleated giant cells were observed. (PAS, X250)
〔症例報告〕
サルコイド結節性間質性腎炎による急性腎不全
Ca(mg/dL)
ACE(IU/L)
尿β2-MG(ug/L)
Cre(mg/dL)
尿NAG(u/L)
Ca
Cre
尿NAG
ACE
尿β2-MG(×104)
PSL
30mg
25mg
20mg
15mg
40
9
8
35
7
30
6
25
5
20
4
15
3
10
2
CX-P
CX-P
腎生検
5
0
1
0
6/16
6/23
6/30
7/7
7/14
7/21
7/28
8/4
8/11
8/18
8/25
9/1
9/8
9/15
9/22
9/29
10/6
10/13
Figure 2. The clinical course of the patient. Plasma calcium (Ca), serum angiotensin converting enzyme (ACE), and serum creatinine
(Cre) concentrations decreased after corticosteroid therapy with predonisolone (PSL). Urinary beta 2 microgloburin (β2-MG)
also decreased after treatment.
考察
β2MG のみの上昇を認めている 10).本症例では NAG の上
今回サルコイドーシスの経過中に肉芽腫性間質性腎炎に
昇はなく,β2MGの上昇が認められた.さらに尿路結石は
よる急性腎不全を呈した片腎患者を経験した.サルコイ
認められず,腎組織へのカルシウムの沈着も認められな
ドーシスでは 10% 以下に臨床的に明らかな腎病変が存在す
かった.肉芽腫性腎病変は通常腎機能へ影響することがな
る3).サルコイドーシスで末期腎不全へ進行するのは1-2%
いが,本症例は過去に右腎摘出を受け片腎であったことか
以下と言われている
3,4)
.サルコイドーシスにおける腎障害
ら,腎機能低下が強く現れた可能性が高いと考えられる.
の原因は,カルシウム代謝異常による腎障害,肉芽腫性間
以上のことから,本症例においてはサルコイドーシスの肉
質性腎炎,糸球体腎炎2-12) および血管炎 12) が知られている
芽腫性間質性腎炎が急性腎不全の主因であると考えられた.
2-12).これらの中で,カルシウム代謝異常が腎機能低下の
BergerとRelmanが1955年,肉芽腫性間質性腎炎による腎
主な原因とされている 2-11).サルコイドーシスでの肉芽腫
不全の症例を報告して以来6),同様の報告がなされている.
性腎病変の検出頻度は他臓器に比べ低く,肉芽腫性腎病変
Hannedouche らは肉芽腫性間質性腎炎と腎不全の 6 症例を
報告している7).6例全例が副腎皮質ホルモンに反応し腎機
能は改善したが,1例も完全に正常化はしていない.彼らは
症例報告された51例の肉芽腫性間質性腎炎による腎不全症
例のほとんどが副腎皮質ホルモンに反応し腎機能は改善す
るも,完全に正常化はしていないことも報告している.更
に,完全に腎機能が正常化した症例においても間質の線維
化と瘢痕化が認められている.本症例では,サルコイドー
シス発症時から血清クレアチニン値は 2.0mg/dl と高値であ
り,1か月間で4.7mg/dlまで上昇した.1日プレドニゾロン
30mg 投与を開始した後血清クレアチニン値は 1.6mg/dl ま
で 速 や か に 低 下 し た.し か し,血 清 ク レ ア チ ニ ン は
Hannedouche らの症例同様正常化しなかった.これは,本
症例では片腎による軽度の腎機能低下がサルコイド - シス
は通常腎機能へ影響することがないために,臨床の場で診
断されることはまれと言われている10).
本症例では,サルコイドーシス診断時から血清カルシウ
ム値は 10-11.5mg/dl 程度の高カルシウム血症を認めた.高
カルシウム血症による腎障害は,血清カルシウム濃度が
13mg/dl以上時に,尿濃縮能異常や電解質異常などの尿細管
機能の障害が主にみられる 13).異常高値が長時間続くと,
尿細管萎縮や間質性腎炎が認められる.本症例では血清カ
ルシウム濃度は11.5mg/dl以下であり,このレベルのカルシ
ウム濃度では腎機能低下をきたすことは考えにくい.Ikeda
らは高カルシウム血症と肉芽腫性間質性腎炎による急性腎
障害では尿中NAGとβ2MGの上昇を認めたが,高カルシウ
ム血症のない肉芽腫性間質性腎炎による急性腎障害では
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日サ会誌 2003,23(1)
発症前に存在していたため,あるいは Hannedouche らの報
引用文献
告のように間質の線維化や瘢痕化が生じていたためにクレ
1)
アチニン値が正常化しなかったと考えられた.
サルコイドーシスにおける腎機能障害は,腎
尿路結石
などカルシウム代謝異常が認められる例ではこれ単独で腎
障害の原因とみなされることが少なくなく,腎生検による
評価が行われていない症例がかなり存在すると推測され
る.1955年以来,サルコイドーシスの肉芽腫性間質性腎炎
による重篤な腎障害が報告されているが 2-12),肉芽腫性間
質性腎炎が腎不全へ進展した場合には腎機能の完全な回復
は困難であることから,早期に腎病変を把握し治療するこ
とが予後に対し重要である7).患者で血清クレアチニン値,
カルシウム値,更に尿所見が正常の場合でも,尿中β2MG
やNAGが高値である症例が存在することから,尿中β2MG
やNAGはサルコイドーシスによる尿細管 間質障害の早期
検出に有用である可能性が示された.本症例ではステロイ
ド治療によってクレアチニン値と同様に尿中 β2MG も低
下したことから,治療効果判定にも有用であると考えられた.
結論
今回我々は,サルコイドーシスの経過中に,肉芽腫性腎
病変による腎機能障害を呈した一例を経験した.カルシウ
ム代謝異常は明らかでなく,血清クレアチニン値やBUN値
が上昇する場合,肉芽腫性間質性腎炎による可能性を考慮
し,腎生検を含む精査を行い,的確な治療が必要と考えら
れた.
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