ライコムギの飼料成分とサイレージ品質

北草研究報3
0
:5
0-5
3(
19
9
6
)
ライコムギの飼料成分とサイレージ品質
一ーその品種間差およびライムギ¥コムギとの比較一一
相馬義樹*.予承吉**・崖一信**・義平大樹*・安宅一夫*
ChemicalCompositionandSilageQualityo
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一一一
TheDifferencebetweentheVarietieso
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YoshikiSOUMA*，Seung-gilYUN**，I
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*
*，TaikiYOSHIHIRA*andKazuoATAKU
本
いるは 5) 。一方、北海道では組飼料や敷料、堆肥用のわ
Snmmary
らの確保など環境保全型作物として、注目されている。し
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Tsukisamu1，andChihokuKmugi)，r
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かし、ライコムギの飼料価値やサイレージ調製に関する
研究報告は少ない。
Warko，andMardar)，andt
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o，
そこで、ライコムギのサイレージ原料としての特性を
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mに細断し、
サイレージ調製は、収穫直後の材料を 1c
1，R 容実験用サイロに調製し、 5
0日目に開封して分析に
キーワード:刈取時期、コムギ、サイレージ、ライコム
ギ、ライムギ
供した。
材料およびサイレージの飼料成分の分析は、水分と組
Key Words M
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Wheat
蛋白質 (CP) は常法により、また水溶性炭水化物 (W
SC)、中性デタージェント繊維 (NDF)、酸性デタージェ
ント繊維 (ADF)、デンプンは畜産試験場の方法 7) に準
緒言
じて行った。サイレージ品質の分析は、 pHはガラス電
コムギとライムギを交配させた属間雑種であるライコ
極法、アンモニア態窒素は水蒸気蒸溜法、有機酸はカス
ムギは、収量性、耐倒伏性、耐寒性に優れるなどの特徴
クロマトグラフィー(機種:島津 GC-14A型、検出機
を持ち、府県では新たな冬作飼料作物として利用されて
:FID、カラム:1
.6mガラス製、温度:1
2
0→ 1
9
0C)
本酪農学園大学 (
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9 北海道江別市文京台緑町 5
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)
RakunoGakuenU
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6
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韓国安城産業大学校(韓国京畿道安城巴)
*
*AnSeongNationalU
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y，AnSeong，Korea
「平成 7年度研究発表会において発表」
本稿は、 1
9
9
5年度酪農学園大学共同研究の成果の一部である。
- 5
0
0
相馬・予・崖・義平・安宅:ライコムギノ飼料成分とサイレージ品質
により行・った。
コムギと成熟期のすべての草種で 0.05%以下の低い値に
結果
なった。また出穂期ではコムギが、乳熟期ではライムギ
が他の草種寄り有意に高かった。総酸含量はライムギで
ライコムギ、コムギおよびライムギの熟期別乾物収量、
は出穂期で1.33%、ライムギは乳熟期で1.45%、コムギ
飼料成分とサイレージの発酵品質を表 1に示した。なお、
は糊熟期で1.53%と最高になったが、いずれもせいじゅ
本研究の目的は、刈取時期とサイレージの品質の関係に
き意では著しく低かった。 NH-N
比率はライコムギお
ついて、草種間差を明らかにすることなので、供試 3草
よびコムギでは乳熟期で高く、以後低下したが、ライム
種についてそれぞれ 3品種を平均した値を表示した。
ギは出穂期で 17.3%と高く、乳熟期で 10.5%まで低下し
乾物収量は、出穂期では 1
0a当たり 9
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間に差がなかったが、それ以後コムギで緩慢に増加した
.
4
た。いずれも成熟期で最低となり、とくにコムギは 2
%となり、他の草種より有意に低かった (P<O.01
)
。
のに対し、ライコムギはほぼ直線的に、ライムギは乳熟
乾物回収率は、いずれの草種においても乳熟期で最も
期から糊熟期にかけて大きく増加し、糊熟期と成熟期で
低い値を示したが、熟期が進むにつれて高くなる傾向が
はライコムギとライムギが、コムギより有意に多くなっ
あった。乳熟期では、ライコムギとコムギがライムギの
.
0
1
)。水分含量はいずれの草種も生育にともな
た (p<0
.
01)、その他の熟期にお
値より有意に高かったが (Pく0
い低下し、出穂期では約 80%のものが、成熟期では 50%
いては、草種間の差はなかった。
以下になった。乾物中 CP含量は、ライコムギおよびコ
ライコムギにおけ 3品種の熟期別乾物収量、飼料成分
ムギでは糊熟期まで低下し、成熟期で再び高くなった。
およびサイレージの発酵品質を表 2に示した。これらの
これに対し、ライムギは出穂期において 9.6%と最も高
熟期における変化は、表 1で示した草種の変化と類似し
い値を示したが、乳熟期で激減し、以後変化はなかった。
ているので、品種間の差を中心に見ることにする。乾物
ライコムギは常にライムギとコムギの中間値であった。
収量は、いずれも熟期が進むにつれて増加し、成熟期で
WSC含量はいずれも出穂期から乳熟期にかけて最高に
最大になったが、すべての熟期で品種聞に差がなかった。
なり、その後低下した。ライコムギの WSC含量は糊熟
がMonikoより有意に高く、
水分含量は、糊熟期で Tewo
期出最も低かったが、他の刈取時期ではコムギとライム
P
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oは中間であった (P<O
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)oCP含量は、出穏期
ギの中間に位置した。デンプン含量はいずれも出穂期で
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oより高かったが (P<0.01
)
、
、
でTewoがMonikoとP
はほとんど認められなかったが、乳熟期から糊熟期にか
その他の熟期では品種の差がなかった o WSC含りょう
けて急激に高まり、成熟期ではすべての草種においてほ
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oがMoniko
は、いずれも乳熟期で最大値を示し、 P
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6%)になった。また、 WSC+デンプ
ぼ同じ値 (
より有意に高く (Pく0
.
01
)
、 Tewoは中間であった。デ
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ンプン含量は、成熟期で最大となり、 P
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oがMoniko
イムギでは緩慢に増加し、成熟期で最大となった。 ND
より有意に高く (P<0
.
01
)
、 Tewoは中間であった。 N
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DFとADF含量は MonikoがTewoより高く、 ADF含量
ギくライコムギ<コムギの順であり、ライコムギおよび
がP
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oとTewoyori
高かった。
はMoniko
ライムギは生育にともない低下した。コムギでは乳熟期
サイレージの品質では、 pHは出穂期から糊熟期まで
含量に変化なく、 ADF
含量は成熟期で再び高
以後NDF
.
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1
)、P
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oが常に低
品種間に有意差がみられ (P<0
くなた。
い値を示した。また、糊熟期で、は TewoがP
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oととも
サイレージの pHは、いずれも糊熟期で 3
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にMonikoより低かった。乳酸含量にも出穏期から糊熟
低い値を示した以外は高く、すべての熟期において草種
期まで品種間に有意差があったが (P<0.01)、熟期によ
聞に有意差がなかった。乳酸含量は、ライムギでは出穂
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o
って傾向が異なった。酢酸含量は、出穂期では P
期から乳熟期にかけて最高となり、ライコムギとコムギ
は糊熟期で最高となった。糊熟期のコムギで 0.84%、次
>Tewo>Monikoの順で、あった。酪酸含量は、出穂、期
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oより有意に高かった (P<
でMonikoとTewoがP
いで乳熟期のライムギで 0.79%と他より高かったが有意
0
.
0
1
)、他の熟期では差がなかった。総酸含量には、乳熟
差はなかった。酢酸含量はいずれも糊熟期で高く、コム
期から成熟期まで品種間差があったが、熟期で傾向が異
ギは 0.63%と最も高かったが草種間に有意差はなかっ
なった。 NH-N
比率は、成熟期のすべての品種と出穂
た。酪酸含量はすべての草種間において、生育にともな
r
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s
t
o
、
で 10%以下であった以外、高い値を示した。
期の P
い低下する傾向があった。出穏期およびライムギを除い
乾物回収率は、出穏期で、は P
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t
oが他の品種より有意
た乳熟期では 0.5%以上と含量が高かったが、糊熟期の
に高く (Pく0
.
0
5
) 、成熟では Monikoが Tewoより高
北海道草地研究会報3
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19
9
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く
、 Prwstoは中間で、あった。
表1
. ライコムギ、コムギおよびライムギの熟期別乾物収量、飼料成分とサイレージの発行品質
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本実験において、ライコムギの乾物収量はライコムギ
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含量は乾物中 10%以上であり、
%と中水分で、あり、
サイレージの良質発酵が期待された。しかしサイレージ
考察
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) 酸性デタージェント繊維
3)中性デタージェント繊維
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) 水溶性炭水化物
1
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N
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N 乾物回収率
総酸
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(%DM)
酪酸
酢酸
乳酸
pH
A D F叫
W S c2) :
fn'i N D F3)
CP1)
乾物収量
abc は同一熟期内で有意差あり (P<0.05)
A BC は同一熟期内で有意差あり (P<0.01)
表2
. ライコムギの熟期別乾物収量、飼料成分とサイレージの発行品質
1
)， Z
)， 3
)， 4
)， a
b
c， ABC は表 lと同じ
と同等か、それ以上であり、キムギよりも高い値を示し、
のライコムギではライムギ、コムギより悪かった。林
他の報告以 5) と類似している。
ら1)は糊熟期に収穫したライコムギとライムギのサイレ
相馬・ヂ・崖・義平・安宅:ライコムギの飼料成分とサイレージ品質
応性が高いと報告しており、本実験の結果と異なってい
引用文献
るD 本実験において乳熟期以前に収穫した場合、十分な
WSC含量があったにもかかわらずサイレージ品質が悪
1) 林 秀 幸 ・ 吉 田 茂 昭 ・ 宗 石 忠 信 ・ 柿 本 裕 (
1
9
9
2
)
かったのは、材料に付着する微生物相が原因かもしれな
ラ イ 小 麦 (T
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eSpp.) の生育特性および
い。清水 5) は、出穏期と糊熟期のライコムギ(ライダッ
飼料成分. 日本畜産学会北陸支部会報. 13-16.
クス)のサイレージを調製し、糊熟期では無添加で良質
のサイレージができたが、出穏期では良質のサイレージ
を調製するには、ビートパルプ添加による水分調製や糖
添加だけでは不十分であり、乳酸菌の添加が必要である
としいる。一方、本実験において、成熟期に収穫すると
2)岩田康男(19
9
4
) ライコムギ新品種「ライラッコ」
2 (9)，5- 7.
の特性とその利用.ぼくそと園芸 4
8
4
) サイレージの実際.酪農学園短期
3)高田富治(19
大学酪農学校. pp. 94-121
.
4) McCARTNEY，D.H.andA.S
.VAAGE (
19
9
4
)
すべて酪酸の生成が少なく、アンモニア態窒素比率の低
Comparativey
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いサイレージができた。これは低水分によってすべての
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発酵が抑制されたためであると考えられる口
4 (1)， 91-96.
ofnimalScience. 7
Jour
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本実験では、ライコムギを材料とした場合、生育にと
1
9
9
1
) 草地畜産における技術革新(2)
.
5)清水矩宏 (
もないサイレージ品質は向上した。したがって乾物収量
転換畑におけるソルガムーライコムギ超多収作付体
とサイレージ品質を考慮すると、成熟期が刈取適期と判
系.畜産の研究
断される。しかしながら、 McCARTNEYとVAAGEは
、
4
5 (3)， 8
6-9
2
.
6)高野信雄(19
8
0
) ホールクロップサイレージの作り
生育の進んだライコムギを材料とした場合、飼料価値の
方と利用のしかた.社団法人
低いサイレージが調製されたと報告している。また、ラ
148-155.
イムギのサイレージ調製利用では、栄養価や晴好性を重
視して、早刈りすることが推奨されている 3.6) 。しかし
p
.
日本草地協会. p
7)農林水産省畜産試，験場 (
1
9
8
8
) 畜産試験場研究資料
第 2号別冊. 629.
本実験では、 3草種とも早期刈取ではサイレージ品質は
摘要
悪かった。したがって、飼料価値が高く、発酵品質の良
好なサイレージを調製するには、予乾処理や添加物など
ライコムギのサイレージ原料としての特性を知るため
の使用が必要であることが示唆された。ライコムギ、につ
に、コムギ(北見 6
6
号、月寒 1号、チホクコムギ)、ライム
いて乾物収量、飼料成分およびサイレージ品質における
ギ (Amilo，Warko，Mardar)、ライコムギ (Moniko，
品種間差を調べたところ、飼料成分および乾物収量の品
Presto，Tewo) を出穂期、乳熟期、糊熟期、成熟期に
種間差をは草種間差より少なかったのに対し、サイレー
収穫し、サイレージ調製した。材料の乾物収量はいずれ
ジ品質では品種間差が草種間差より大きかった。したが
の草種も生育にともない増加し、ライコムギは他 2者よ
って今後はその地域の土壌や気象条件に適した品種の選
り収量性に優れていた。また、ライコムギの飼料成分は
択、栽培とそのサイレージ調製技術の確立が重要である
コムギおよびライムギのほぼ中間に位置した。乳熟期の
と思われる。
ライコムギサイレージの品質はコムギ、ライムギより悪
かったが、糊熟期以後、酪酸含量が低下し、品質が向上
した。
(
19
9
6年 2月2
8日受理)