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蛋白質核酸酵素:コムギの栽培化とパンコムギの成立
特集 栽培植物の分子生物学 コムギの栽培化 とパ ンコムギの成 立 種 内分 化 と異質倍 数化 による多様性 Wheat domestication differentiation and and bread wheat speciation: Variation produced by intraspecific allopolyploidization 宅見薫雄 高次 倍数体 であるパ ンコムギは,ゲ ノムの 巨大 さ と複雑 さか ら分 子生物 学的解析 が困難 とされてきた.し か し近 年, 技術 開発 とゲ ノム情報 の蓄積 にともない,コ ムギの品種 改良 や倍 数化 にかかわ った遺 伝子 が続々 とク ロー ニングさ れるよ うにな った.こ のよ うな 遺伝子 は機能獲 得型 の優性ア リル である ことが多 い.ま た,コ ムギ とその近縁種 は 種 間交雑 後の核 内倍加 の過程 が再現 できる ことか ら,異 質倍数 化 に際 してゲ ノムに起 こる遺 伝的な 再編 やエ ピジ ェ ネテ ィックな修 飾 に関するモ デルと しても注 目されは じめて いる. Database Center for Life Science Online Service Key words ●異質倍数化 ●栽 培 化 ●種 内分化 ●同 祖ゲ ノム ら れ た. は じめ に コ ム ギ 属 に も っ と も近 縁 な エ ギ ロ プ ス 属(Aegilops)と 多 くの高 等 植物 の核 ゲ ノ ム は倍 数 性[→ 今月 のKey Words あ わ せ て"コ ム ギ ・エ ギ ロ プ ス 属"と よ ば れ て い る が,こ (p.1923)]を 示 す.こ の 倍 数 性 は,同 一 の核 内 に複 数 の 染 コ ム ギ ・エ ギ ロ プ ス 属 の 植 物 の う ちAゲ 色 体 セ ッ トが共 存 す る現 象 で,同 じ タイ プ の染 色 体 セ ッ ト ギ 属 に 入 る.こ を複 数 もつ場 合 を 同質 倍 数 性,異 な る タイ プ の染 色 体 セ ッ aestivum)や マ カ ロ ニ コ ム ギ(T.turgidum どの 栽 培 植 物 を 含 ん で お り,わ れ る植 物 は,2倍 性 ゲ ノ ム,4倍 とい え る.ま 性 ゲノムを た,パ それ ぞれ もつ複 数 の種 の集 合 体 で,コ ム ギ属(Triticum)に か ら扱 わ れ,さ 分 類 され る. る.パ コ ムギ 属植 物 の核 ゲ ノ ムが 倍 数 性 系 列 を なす こ とは,坂 村 徹 の"コ ム ギ属 倍 数 性 の発 見"(1918年)に よ り明 らか に の ツ ム を もつ 種 が コ ム の グ ル ー プ は パ ン コ ム ギ(T.aestivum トを もつ 場 合 を異 質 倍 数 性 とい う.一 般 に"コ ムギ"と よば 性 ゲ ノ ム,6倍 を ssp. ssp.durum)な れ わ れ に な じみ の 深 い植 物 群 ン コ ム ギ は 遺 伝 学 の 研 究 対 象 と して 古 く ま ざ まな細 胞 遺 伝 学 的系 統 が 作 出 され て い ン コ ム ギ の 成 立 に つ い て は,ゲ ノ ム の 異 質 倍 数 化 と, 栽 培 化[→ 今 月 のKey Words(p.1924)]や 品種 改 良 との両 面 か ら と ら え る 必 要 が あ る だ ろ う. され た.ま た,木 原 均 の"染 色 体 数 を異 にす る種 間 雑 種 の 研 究"(1919年)に よ り"ゲ ノ ム"の 概 念 が 確 立 され,コ ム ギ I コムギの異質倍数性 と栽培化 が2倍 種 間 交 雑 と異 質 倍 数 化 を遂 げ て きた 植 物 群 で あ る こ とが 示 され た.こ こ に コ ムギ の 近 代 的 研 究 が は じま った と され,種 間雑種 にお け る二 価 染 色 体 形 成 の頻 度 に も とづ き パ ン コ ム ギ のAゲ ノ ム,Bゲ ノ ム,Dゲ れ 起 源 を 同 じ くす る の で 同 祖 ゲ ノ ム と よ ば れ,お ゲ ノムの あい だの分 化 の程 度 を測 る木 原 の研 究 法 は"ゲ ノム の 染 色 体(1A∼7A,1B∼7B,1D∼7D)か 分析"と して 知 られ てい る.こ れ に よ り,パ ン コムギ の核 ゲ コ ム ギ のAゲ ノム を構 成 す る3つ の分 化 した ゲ ノ ムはA,B,Dと Bゲ ノ ム は エ ギ ロ プ ス 属Sitopsis節 名づけ Ae. speltoidesが れぞ の お の7対 らな る.パ ノ ム は 野 生 一 粒 系 コ ム ギT.urartuに る と さ れ る(図1a).Bゲ Shigeo ノ ム は,そ ン 起 源 し, に分 類 され る種 に起 源 す ノ ムの提 供 親 と して クサ ビ コム ギ 有 力 視 さ れ て い る が,染 色 体 対 合 の レベ Takumi ル で はAe.speltoidesの 核 ゲ ノ ム はSゲ ノ ム と し てBゲ ノム 神 戸 大 学 大 学 院 農 学 研 究 科 生 命 機 能 科 学 専 攻 植 物 遺 伝 学 研 究 室 E-mail:[email protected] URL:http://www.ans.kobe-u.ac.jp/kenkyuuka/seimei/ と は 明 確 に 区 別 さ れ,ヘ テ ロ ク ロ マ チ ン に 富 むBゲ ノ ムが どの よ う に 分 化 し た の か に つ い て は い ま だ 決 着 して い な い. syokubutuiden.html Bゲ ノ ム提 供 親 が 母 親 と な り,T.urartuの 蛋白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15 花 粉 が 交 雑 して (2007) 1947 Database Center for Life Science Online Service コムギ属 の倍 数性 進化 図1 (a)コ ム ギの 系 統 進化 の 概 要.一 通 系 コム ギ(AABBDD)が 粒 系 コ ムギ(AA)と 成 立 した.AAGGゲ クサ ビコム ギ(SS)か ら二粒 系 コム ギ(AABB)が ノム をも つの は チ モフ ィー ビ系 コ ムギ.一 成 立 し,そ の のち,タ ル ホコ ムギ(DD)と の複2倍 体 で あ る普 粒 系 コ ムギ と 二粒 系 コム ギ,チ モ フ ィー ビ系 コム ギ でそ れ ぞれ 独 立 に栽 培 化 が起 こ って い る. (b)"肥 沃 な三 日月 地 帯"周 辺 地域 にお ける,パ ン コムギ の2倍 体 祖 先 野 生種 のお およ その 分 布 域.一 粒 系 コ ムギ や二粒 系 コムギ が栽 培 化 され た とされ るKaracadag 山 を▲,Diarbakirを ● で 示 した1-4). F1雑 種 が成 立 し,親 の体 細 胞 と同 じ染 色 体構 成 を もつ 非 還 monococcum 元 配 偶 子*1が 雌 性 配 偶 子 と雄 性 配 偶 子 の両 方 で形 成 され る 栽 培 二 粒 系 コ ム ギ,パ こ とで4倍 性 ゲ ノ ム を もつ複2倍 体 が成 立 した.最 初 に成 立 れ て い る(図1a).こ した 異 質4倍 性 二 粒 系 コムギ は野 生 種 で,栽 培 化 され た栽 東 部Karacadag山 培 二 粒 系 コム ギの 畑 の片 隅 で,Dゲ 一 粒 系 コ ム ギT. monococcum ノ ム提 供 親 で あ る タル ssp,monococcum,マ カ ロ ニ コム ギ を含 む ンコ ム ギ を含 む普 通 系 コム ギ が知 ら の う ち,栽 培 一 粒 系 コ ム ギ は トル コ南 の 地 域 で,約1万 年 前 に1回 ホ コ ムギAe. tauschiiの 花 粉 が 受 粉 してF1雑 種 が 成 立 し, 化 され た ら し い1).二 非 還 元 配偶 子 形 成 を介 して 栽 培 種 で あ る異 質6倍 性 の普 通 場 合 と 同 様 に 詳 細 な 解 析 が 行 な わ れ,栽 系 コ ムギ が成 立 した(図2a,図3).し Karacadag山 たが っ て,普 通 系 コ ムギ に は野 生 種 が 存 在 しな い. だ け,野 ssp .aegilopoidesか 生 ら栽 培 粒 系 コ ム ギ に つ い て も一 粒 系 コ ム ギ の 培 二 粒 系 コ ムギ も あ る い は そ の 周 辺 地 域 で,約1万 二 粒 系 コ ム ギT. turgidum 同祖 染 色 体 は相 互 に補 償 可 能 で,ほ ぼ 同 じ遺伝 子 の セ ッ れ た と さ れ る24).栽 トを同 じ並 び で もっ て い る.同 祖 染 色 体 上 の 同 じ位 置 に あ の 倍 数 性 進 化 は,カ り同一 の祖 先 に起 源 した遺 伝 子 は同 祖 遺 伝 子 と よば れ,パ 回,起 ンコ ムギ で は同 じ核 内 に 同祖 の 関 係 にあ る 遺伝 子 が3つ 存 化 さ れ た 二 粒 系 コ ム ギ は,東 在 す る.こ の3つ の 同祖 遺 伝 子 の 比 較 か ら,異 質 倍 数 性 進 出 会 っ た こ と に な る(図1b). ssp.dicoccoidesか 年 前 に野 生 ら栽 培 化 さ 培 二 粒 系 コ ム ギ か らの 普 通 系 コ ム ギ へ ス ピ海 南 岸 地 域 で,約8000年 こ っ た 可 能 性 が あ る.よ っ て,ト 前 に複 数 ル コ南 東 部 で栽 培 へ と伝 播 し て タ ル ホ コ ム ギ と 化 の過 程 で,遺 伝 的 な変 異 だ け で な くエ ピジ ェ ネ テ ィ ック な変 化 が生 じて い る例 が知 られ る ように な り,3つ の同祖 遺 II パンコムギ成立の遺伝的背景 伝 子 はパ ンコ ムギ 細 胞 内 で必 ず し も等 価 に機 能 してい るわ パ ン コム ギ の成 立 に は異 質 倍 数 化 が 重 要 で あ るが,異 質 けで はな い. コムギ には お もな栽 培 種 と して,栽 培 一 粒 系 コムギ のT. *1 1948 非遺 元配偶 子:2n配 倍 数 体 が 生 じる ため には,異 な るゲ ノム を もつ種 の あい だ 偶子 と もい う.通 常 の減数 分 裂 で は,核 相 が2nの 個 体 か ら核 相 がnの 還 元配 偶 子 が形 成 され る(くわ し くは,本 特 集 松 岡 由浩 の 項 を参 照). 蛋 白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15 (2007) Database Center for Life Science Online Service 特集 図2 栽培植物の分子生 物学 異 質倍数 体の成立機構 (a)コ ムギ とシロイヌナズナの人為倍数体の育成法.コ ムギでの異質倍数化では,F1雑 種で非還元配偶子が形成されることで核内倍加 が達成されるが,シ ロイヌナ ズナとその近縁種を用 いた人為異質倍数体の育成では,同 質4倍 体 をまず育成 しておいて,そ の系統間交雑 により直接に異質倍数化 されたF1雑 種を作出する23). (b)二 粒系 コムギとタルホコムギの雑種 にみられる受精後生殖隔離7) で生 じた雑 種 に お い て非 還 元 配偶 子 が 形 成 され な けれ ば な よ って,こ れ らの 受精 後 生 殖 隔 離 に は複 数 の遺 伝 子 が か か らな い.こ の種 間雑 種 で は減 数 第1分 裂 の 中 期 に染 色 体 が わ って お り,個 々 の表 現 型 を示 す タル ホ コ ムギ系 統 の 地 理 配 列 され るが,娘 染 色 体 が 分 配 され な い復 旧核 を形 成 す る 的分 布 に は著 しい偏 りが み られ る もの の,タ こ とで非 還 元 配 偶 子 形 成 が 起 こ る5).非 還 元 配 偶 子 形 成 能 全 分 布 域 にわ た り二 粒 系 コムギ との雑 種 成 立 を阻 害 す る遺 に は,F1雑 伝 子 が広 が って い た こ とに な る7).以 上 の よ うに,非 還 元 種 の親 の組 合 せ に よ って多 様 性 が 認 め られ る. また,同 祖 染 色 体 が 安 定 的 に次代 へ と受 け継 が れ るた め, 配 偶 子形 成 能 を もち,Ph遺 ル ホ コ ムギ の 伝 子 を保 持 し,生 殖 隔離 の壁 を 同祖 染 色 体 の あ い だの染 色 体 対 合 を抑 制 す る遺 伝 子 と して く ぐ り抜 け た二 粒 系 コ ムギ と タル ホ コム ギ の系 統 の組 合 せ Ph遺 伝 子 が知 られ て い る.こ のPh遺 伝 子 に よ り,異 質 倍 で 雑 種 が 生 じて は じめ て,パ 数 性 ゲ ノ ムで あ って も減 数 分 裂 時 には 相 同 染 色 体 ど う しが え られ る. ンコ ムギ が 成 立 した もの と考 二 価 染 色 体 を形 成 す るだ けで,同 祖 染 色 体 が この 対 合 にか か わ って多 価 染 色 体 を形 成 す る こ とは な い.欠 失 変 異 に よ りPh遺 伝 子 が失 わ れ る と,同 祖 染 色 体 のあ い だで も対 合 が 生 じる.5B染 色 体 長 腕 上 のPh1遺 伝 子 は,cdc2遺 III Q遺 伝子 とRht遺 伝子による パンコムギの外部形態の変化 伝子ホ モ ロ グの ク ラス ター近 傍 にサ ブ テロ メア 由来 の ヘ テ ロ ク ロマ 最 初 に成 立 した 二粒 系 コム ギ と タル ホ コ ム ギ の雑 種 は, チ ン領 域 が 挿 入 さ れ た構造 を してお り,こ の挿 入 は4倍 性 雑 種 強勢 に よ り草 丈 が 高 く,二 粒 系 コ ムギ 畑 にあ っ て非 常 コム ギが 生 じた直 後 に起 こっ た とされ る6). にめ だ っただ ろ う.二 粒 系 コムギ とタル ホ コムギ の雑 種 か ら 栽 培 二 粒 系 コム ギ と タル ホ コム ギ の交 雑 に よ り雑 種 個 体 人為 的 に作 出 した 合 成 パ ン コム ギ と比 べ る と,現 在 の 品種 が で きる際 に,雑 種 の生 育 を さ また げ る遺 伝 的要 因 が 二粒 は穂 が 少 しず ん ぐ り して い て草 丈 もず い ぶ ん と低 い(図3). 系 コム ギ と タル ホ コ ムギ の双 方 の ゲ ノ ム に存 在 す る.ネ ク も と もとパ ンコム ギ は皮 性 で,小 穂 の 外 側 に位 置 す る包 穎 ロ シス,ク ロ ロ シス,発 芽後 す ぐの 成 長 の 停 止 ,異 常 な分 と小 花 を包 む外 穎 が しっ か りと種 子 を覆 っ て い るが,近 代 けつ と矮 化 な ど,雑 種 に よって表現 型 は多 様 であ る(図2b). 品種 は容 易 に種 子 が外 穎 か ら外 れ て脱 穀 しやす い裸 性 に な 蛋白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15 (2007) 1949 図3 人 為的 に再 合成 したパ ンコムギ系 統 とパ ン コムギ品種 の穂 の形態比 較 二 粒 系 コ ムギ 品 種Langdonに タル ホ コ ム ギ 系統(左 か ら, KU-2022,KU-2083.KU-2101)を そ れ ぞ れ交 雑 して 作 出 した 合 成 パ ンコ ムギ 系統(F2世 ン コムギ 品 種 は,左 代)の 穂 を示 す.3系 か ら,チ ホ クコム ギ,ホ 統のパ ロシ リコム ギ, Database Center for Life Science Online Service Mironovskaya808. って い る. 子 は,シ ロイヌ ナズ ナAPIETALA2(AP2)遺 こ の よ うな穂 の形 態 変 化 に関 与 した遺 伝 子 と してQ遺 伝 伝 子,WAP2で あ っ た9).WAP2遺 伝 子 の相 同遺 伝 子 は幼 穂 で強 く発 現 子 が知 られ てお り,パ ンコ ムギ の 改 良 に深 くか か わ っ て き し,そ の発 現 レベ ル はQア た.Q遺 の 形 態 や 長 さ,草 丈 な ど い.Qア 色 体 長 腕 の 末端 に位 置 す 塩 基 置 換 が非 同義 置換 を ひ き起 こす10).こ の ア ミノ酸 置換 伝 子 は,皮 性 と裸 性,穂 を多 面 的 に制 御 す る もので,5A染 る.パ ン コム ギ の穂 の 形 態 は,speltoidと の スマ ー トな もの と,square headと よば れ る流 線 型 リルの ほ うがqア リ ル よ りも高 リル とqア リルの あ い だの変 異 の うち,ひ は ホモ2量 体 形 成 に影 響 を与 え る し,WAP2遺 とつ の1 伝 子 を過剰 よ ばれ穂 先 が尖 らず 発 現 させ た形 質転 換 コム ギ の穂 は小 穂 間が 短 い コ ンパ ク ト 小 穂 間 が密 に なっ て少 々ず ん ぐ りした もの とに大 別 され る. な形 を と り,逆 に,そ の発 現 レベ ル を抑 制 した形 質転 換 コ こ のspeltoid型 の形 質 を抑 制 してsquare head型 ム ギ で は小 穂 間長 の広 いspeltoid型 を示 す.同 の穂 を決 時 に,こ の 定 づ け る遺 伝 子 がQ遺 伝 子 で あ り,近 代 品種 に は必 須 の遺 speltoid型 の穂 を示 す 形 質 転 換 コ ム ギで は裸 性 が 失 われ て 伝 子 で あ る.合 成 パ ンコ ムギ を含 め スペ ル タ コムギ(T.aes- お り,こ の こ とか ら もQ遺 伝 子 の もつ多 面 発 現 効 果 が 証 明 tivum ssp. spelta)な どの 原 始 的 形 質 を とどめ る普 通 系 コ され て い る.Qア ム ギ は,Q遺 (gain-of-function)の 変 異 で あ る(図4a). 型 を示 し,qア 伝 子 につ い て 劣 性 ア リルqで,穂 はspeltoid リル はQ遺 伝 子 の欠 失 あ る い は ヌ ル ア リル と よ く似 た表 現 型 を示 す こ とに な る.ま た,Q遺 伝子の表 リ ル はqア リル に 由 来 す る 機 能 獲 得 型 近代 パ ンコムギ 品種 の もうひ とつ の特徴 であ る半 矮 性 は優 性 の形 質 で あ り,わ が国在 来 の達磨 コ ムギ に由 来す る2つ の 現 型 発 現 に は コ ピー数 の増 加 に と もな う顕 著 な増 大 効 果 が Rht遺 伝 子,Rht1とRht2と 認 め られ,Q遺 年代 に"緑 の革 命"に 寄 与 したRht1遺 伝 子,Rht2遺 伝 子 の コ ピー数 を細 胞 遺 伝 学 的 に上 げ る と 小 穂 間が 顕 著 につ まっ た穂 の形 を と り,逆 に,コ ピー数 を に よ る と ころが 大 きい.1960 そ れ ぞ れ4B染 色 体 短 腕,4D染 伝 子 は, 色 体 短 腕 に座 乗 し,同 祖 遺 下 げ る と小 穂 間 の長 さは大 き くな る8).同 様 の 効 果 はqア 伝 子 の 関係 に あ る.Rht1遺 リ ル につ い て も認 め られ,し たが っ て,初 期 の パ ン コムギ ナ ズナGAI遺 改 良 の過 程 で表 現 型へ の効 果 の弱 いqア リル か ら効 果 の強 白質 を コー ドす る11).い ず れ の優 性 ア リル も1塩 基置 換 の た いQア め途 中 で終 止 コ ドンを生 じる.そ して,こ の直 後 の メチ オニ リルが 出現 し,こ のQア リル が急 速 に広 が った こ と 伝 子 や イ ネSLR1遺 伝 子 は シ ロイ ヌ 伝 子 と同 じ くDELLA蛋 ン残 基 が新 た な開 始 コ ドンとなってN末 端側 を欠 い たポ リペ に な る. 詳 細 な欠 失 マ ッ ピ ング に よ りク ロ ー ニ ング され たQ遺 伝 1950 伝 子 とRht2遺 蛋 白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15 (2007) プチ ドが 生 成 され る.こ のDELLAド メ イ ンに欠損 の あ る蛋 特集 栽培植物の分子生物学 図4 パン コムギの改 良 にかかわ った3つ の遺 伝子 座の変異 (a)Q遺 伝 子.プ ロモ ー ター 領 域 の 変異 は発 現 量 を 減 少 さ せ, 非 同義 置 換 がそ の産 物 であ るAP2蛋 (b)Rht遺 伝子.優 白質 の機 能 に影 響 す る10). 性 ア リル はDELLAド メイ ン に欠 損 の あ る 蛋 白 質 をつ くる11). (c)Vrn-1遺 伝子.プ ロ モー タ ー領 域 と 第1イ ン トロ ンの 構造 変 異(赤 色 の 横 線 が欠 失 領 域 を示 す)が 遺 伝 子 発 現 の パ ター ン あ る い は発 現 量 に影 響 し,優 性 のVrn-1ア リル をも つ 春 播 き 性 の 品種 とな った12-14). ア リル のあ いだ で共 通 の塩 基 多 型 を*で 示 した と くに赤 色 の Database Center for Life Science Online Service 文 字 は,表 現 型 に影 響 をお よぼす と考 え られて いる変 異 を示 す. 白 質 はユ ビキ チ ン分 解 系 に よる制 御 を受 け る こ とが で きず, 遺 伝 子 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ た12).栽 細 胞 伸 長 にかか わ る下 流 の シグナル伝 達 経路 を抑 制 しつづ け き性 品 種 と春 播 き性 品 種 の 構 造 多 型 か ら,開 る ため半 矮性 形 質 を示 す もの と考 え られ て いる.Q遺 流160bp付 同様 に,Rht1遺 伝 子,Rht2遺 伝子 と 伝 子 の優 性 ア リル も,劣 性 ア リル に 由来 す る機 能 獲 得 型 の 変 異 で あ る(図4b). IV 近 や 第1イ 培 ム ギ類 の秋 播 始 コ ドンの上 ン トロ ン に 生 じ た 欠 失 変 異 が 春 播 き 性 の 原 因 と な っ て い る こ と が わ か っ た12-l4)(図4c).Vrn-1 同 祖 遺 伝 子 の 発 現 量 や 低 温 へ の 応 答 パ ター ンは 品種 に よ っ Vrn遺 伝子による 開花制御 と種 内分化 て 大 き く異 な り著 しい 多 様 性 を み せ る が15),Vrn-1遺 伝子 は そ の 発 現 量 を 抑 制 す る と 出 穂 開 花 に 遅 延 が 生 じ,遺 伝 子 座 全 体 を 欠 失 させ る と ま っ た く 出 穂 が 起 こ ら な い こ とか ら, コム ギ の栄 養 成 長 か ら生 殖 成 長 へ の 移 行 に必 須 の 遺伝 子 と 秋 に播 種 され た パ ン コム ギ は冬 期 の低 温 に さ らされ る こ とで春 化 を経 験 し,春 にな っ て短 日か ら長 日へ と変 わ る 日 い え る16,17). Vrn-1遺 伝 子 以 外 で 春 化 要 求 性 を 制 御 す る 遺 伝 子 と して 長 の変 化 を感受 して 出穂 ・開花 し,麦 秋 に収 穫 期 を迎 え る. 同 定 さ れ たVrn-2遺 パ ンコ ムギ で は 出 穂 ・開花 に冬 期 の低 温 を必 要 とす るか ど コ ム ギ とパ ン コ ム ギ か ら ク ロ ー ニ ン グ さ れ た.Vrn-2遺 うか を決 定 す る要 因 と して 春 化 要 求 性 が 知 られ,そ の 主 働 は5A染 遺 伝 子 と してvrn-1が ドメ イ ン を もつ 転 写 因 子 を コ ー ドし て こ れ は 開 花 を 負 に 制 御 第5同 祖 群 染 色 体 長 腕 に位 置 づ け ら れ てい る. 色 体 に 座 乗 し,ジ す る18).Vrn-3遺 vrn-1遺 伝 子 は,パ ンコ ムギ だ けで な く,一 粒 系 コ ムギ, 伝 子 とVrn-3遺 伝 子 も,近 年,一 粒 系 伝子 ン ク フ ィ ン ガ ー ドメ イ ン とCCT 伝 子 は7B染 色 体 短 腕 に座 乗 し,シ ロイ ヌ ナ ズ ナ や イ ネ で フ ロ リ ゲ ン(花 成 ホ ル モ ン)を コ ー ドす る と 二 粒 系 コム ギ,オ オ ム ギ で も同 定 され て お り,染 色 体 の シ さ れ る.FT/Hd3a遺 ンテニ ーが認 め られ る.秋 播 き性 パ ンコム ギ品 種 は3つ の同 子 が 秋 播 き 性 の 遺 伝 子 型 で あ っ て も 遺 伝 的 に 上 位 なVrn-2 祖 遺伝 子 座 に劣 性 のvrn-1ア 遺 伝 子 に 変 異 が あ っ て 春 播 き性 に な っ て い る 栽 培 一 粒 系 コ のvrn-1ア リル を もち,ひ とつ で も優 性 リル を もて ば 春 播 き性 品種 とな る.実 際 に は, 伝 子 の オ ー ソ ロ グ で あ る19).Vrn-1遺 ム ギ 系 統 で は,Vrn-2遺 伝 子 は 劣 性 ア リ ル で あ り,プ ロモー ア リル に よ って 表 現 型 へ の作 用 力 が 異 な り春 化 要 求 性 の 程 タ ー 領 域 の 欠 失 あ る い はCCTド 度 は多 様 で あ る.最 も な う1塩 基 置 換 が 春 播 き性 の 原 因 と な っ て い る18).ま Vrn-A1遺 近,栽 伝 子 がAPETALA1遺 培 一 粒 系 コ ム ギ の 解 析 か ら, 伝 子 様 のMADSボ ックス Vrn-2遺 メ イ ン内 の 非 同 義 置 換 を と 伝 子 は 春 化 処 理 に よ りmRNA量 蛋白質 核酸 酵素 伝 Vol.52 た, が 低 下 し,Vrn-1 No.15 (2007) 1951 遺伝 子 とは まっ た く逆 の発 現 パ ター ンを示 す.一 方,7B染 来,綿 色 体 をパ ンコム ギ品 種Hopeに 述 べ て きた こ と以 外 に も数 多 く知 られ て い る コム ギ を め ぐ 置換 した パ ンコムギ の染 色 体 置 換 系 統 は早 咲 きに な るが,そ の 原 因 遺 伝 子 がVrn-3遺 子 であ る.HopeのVrn-3ア 伝 る遺伝 現 象 に対 して,生 命 科 学 の メス が入 る こ と を期 待 し て や ま ない. リル で は開始 コ ドンの約600bp 上 流 に レ トロ トラ ンスポ ゾ ンの挿 入 が起 こ り,Vrn-3遺 々 とつ ちか って きた実 験 系 統 を いか しつ つ,本 稿 で 伝子 本稿 の執 筆 に際 して,福 井 県 立大 学 の村 井耕 二 博士 ・松 岡 由浩博 士, の発 現 レベ ルが 有 意 に上 昇 してい る19). 神 戸大 学 の森 直樹 博 士 に貴 重 な助言 をいただい た.こ こに感 謝 申 し上 栽 培 コム ギで は,以 上 の よ うな 出穂 開花 の主 働 遺 伝 子 と げる. そ の ほか の 開花 関 連遺 伝 子 に起 こ った変 異 を組 み合 わせ て, 各 地 域 に適 した 出穂 開 花 特 性 を獲 得 しつつ,多 様 な 品種 群 が 育種 された.タ ルホ コムギ の 自然 集 団 を調 べ る と,Vrn-1 遺 伝 子 に つ い て は春 播 きコ ム ギ 品種 でみ られ る よ うな ア リ ルが 見 い だ され る.こ の こ とか ら も,人 類 は コム ギ農 耕 の 歴 史 の なか で,自 然 界 で も起 こ りうる多 様 な変 異 を見 い だ 文 献 1) Heun, M. et al.: Science, 278, 1312-1314 (1997) 2) Ozkan, H., Brandolini, A., Schafer-Pregl, R., Salamini, F.: Mol. Biol. Evol, 19, 1797-1801 (2005) 3) Ozkan, H. et al.: Theor. Appl. Genet., 110, 1052-1060 (2005) して改 良 に いか して きた こ とが うか が え る. Database Center for Life Science Online Service 4) Luo, M. -C. et al.: Theor. Appl. Genet., 114, 947-959 (2007) 5) Matsuoka, Y., Nasuda, S.: Theor. Appl. Genet., 109, 1710-1717 お わ り に ― こ れ か らの コ ム ギ遺 伝 学 (2004) コム ギ ・エ ギ ロ プス 属 で は,種 間 交 雑 が 比 較 的 容 易 で人 為 的 に異 質 倍 数 化 を再 現 で きる こ とか ら,異 質 倍 数 体 成 立 時 の遺 伝 子 発 現 を含 め たゲ ノム の変 化 を解 析 で きる20).合 成 コムギ に お い て,レ トロ トラ ンス ポ ゾ ンWis2-1Aの 不活 性 化 が解 除 され近 傍 の遺 伝 子 発 現 に変 化 が生 じる例 も確 認 され てい る し21),パ ン コム ギ 品種 の ゲ ノ ム に存 在 す る3つ の 同祖 遺 伝 子 の あ い だ で も,遺 伝 的 また は エ ピジ ェ ネテ ィ ック な要 因 に よっ て発 現 の量 やパ ター ンに違 い が 見 い だ さ れて い る.た とえ ば,花 器 官形 成 の ク ラスEのMADSボ 6) Griffiths, S. et al.: Nature, 439, 749-752 (2006) 7) Matsuoka, Y., Takumi, S., Kawahara, T.: Theor. Appl. Genet., 115, 509-518 (2007) 8) Muramatsu, M.: Genetics, 48, 469-482 (1963) 9) Faris, J. D., Fellers, J. P., Brooks, S. A., Gill, B. S.: Genetics, 164, 311-321 (2003) 10) Simons, K. J. et al.: Genetics, 172,547-555 (2006) 11) Peng, J. et al.: Nature, 400, 256-261 (1999) 12) Yan, L. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 6263-6268 (2003) 13) Yan, L. et al.: Theor. Appl. Genet., 109, 1677-1686 (2004) ッ 14) Fu, D. et al.: Mol. Genet. Genomics, 273, 54-65 (2005) ノ ムの コ ピーが 挿 入 配 列 に 15) Ishibashi, M. et al: Plant Breed., 126, 464-469 (2007) クス 遺 伝 子WLHS1で は,Aゲ よ り機 能 を失 い,Dゲ ノム の コ ピー は転 写 制 御 領 域 のDNA メチ ル化 を ともな ってエ ピジ ェネ テ ィ ック に不 活 性 化 され て い る22).ま た,タ ル ホ コムギ に由 来 す るDゲ ノム は,パ ン 16) Murai, K. et al.: Plant Cell Physiol., 44, 1255-1265 (2003) 17) Shitsukawa, N. et al.: Gene Genet. Syst., 82, 167-170 (2007) 18) Yan, L. et al.: Science, 303, 1640-1644 (2004) 19) Yan, L. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 19581-19586(2006) コム ギ に 製 パ ン性 や さ まざ ま な地 域 で の栽 培 を可 能 とす る 20) Shaked, H. et al.: Plant Cell, 13, 1749-1759 (2001) 環境 適応 性 をあ た えた.Bゲ 21) Kashkush, K., Feldman, M., Levy, A. A.: Nature Genet., 33, 102106 (2003) をは た し,Aゲ ノムはSゲ ノムか ら劇 的 な変 化 ノム は コ ムギ属 を特 徴 づ け る ゲ ノム で あ る. 各 ゲ ノム の個 性 が ひ とつ とな ってパ ン コムギが成 立 して い る 22) Shitsukawa, N. et al.: Plant Cell, 19, 1723-1737 (2007) 23) Comai, L. et al.: Plant Cell, 12, 1551-1567 (2000) とい え,そ の ゲ ノ ム の"共 生"関 係 を科 学 す る のが これ か ら の コ ムギ 遺伝 学 で あ ろ う. モ デ ル植 物 と比 較 して,き わ め て大 きなサ イズ と高 次 倍 数性 とい う複 雑 な ゲ ノ ム を もつ パ ン コム ギ は,分 子 生 物 学 的解 析 に適 さ な い と もい われ て きた.し か し,ESTラ ラ リー な どのDNAデ 略 歴:1991年 京都 大 学農 学 部 卒 業,1992年 石川 県 農業 短 期 イブ 大学 農 業資 源研 究所 助 手,1997年 京 都大 学 博 士(農 学),同 年 ー タバ ンク,近 縁 野 生 種 や細 胞 遺伝 神 戸大 学農 学 部 助 手,2002∼2003年 米 国Stanford大 学 客 員 研 究員 を経 て,2005年 神 戸 大学 農学 部 助教 授(現 准 教授). 学 的系 統 を含 め た種 子 の配 布 体 制 が整 っ た現 在,コ ムギ 遺 伝 学 は新 た な局 面 を迎 えつ つ あ る.坂 村 博 士 ・木 原博 士 以 1952 宅 見 薫雄 蛋白質 核酸 酵素 Vol.52 No.15 (2007) 研 究 テーマ:コ ムギ属植 物 の種 内分 化 と倍 数 性進 化 の意 義.