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種子の脱水耐性機構 ヒメツリガネゴケの脱水耐性機構

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種子の脱水耐性機構 ヒメツリガネゴケの脱水耐性機構
図2 被子植物のモデル植物シロイヌナズナと、コケ植物のモ
デル植物ヒメツリガネゴケ。
取り出したり(遺伝子クローニング)、逆に人工的に
導入したり(形質転換)出来る性質を植物が有してい
なければならない。このような性質を兼ね備えた植物
をモデル植物という。その代表例は陸上植物で初めて
全ゲノム配列が2000年に解読されたシロイヌナズナで
ある。つまり、被子植物はシロイヌナズナをモデルと
して研究することが可能である。
これに対して、コケ植物は上記の性質を兼ね備えた
モデル植物がなかなか見つからず、ほとんど遺伝子レ
ベルの研究がなされてこなかった。しかし最近になっ
て、蘚類ヒメツリガネゴケが上記の性質を有している
ことが明らかにされ、さらには、シロイヌナズナでも
ほとんど成功例のない相同組換えを用いた遺伝子ター
ゲティング(特定の遺伝子を欠失させたり改変したり
する技術)が高効率に行えることが明らかとなった。
2008年には全ゲノム配列が解読され、シロイヌナズナ
と“同レベル以上”の研究が可能なモデル植物として
急速に利用が進み、植物の進化に関する初めての知見
が多く得られている(図2)。
種子の脱水耐性機構
話を種子の脱水耐性に戻そう。種子は胚の形態形成
期(成熟初期)を過ぎると、発芽の際の栄養分となる
貯蔵物質を蓄積した(成熟中期)後に、乾燥耐性と休
眠能を獲得する時期( 成熟後期 ) を経て、完熟する。
このうち、中期・後期のステージでは植物ホルモンで
あるアブシジン酸(ABA)が重要な働きをしている。
ABAを作ることの出来ないトウモロコシの変異株で
は種子は成熟ステージの中期・後期に入ることなく、
親植物体の穂から発芽を始めてしまい、そのまま枯
死してしまう。ABAは種子が乾燥耐性と休眠性を獲
図3 野生型株
と ABI3破壊株
3
の乾燥耐性。
(WT)
(
)
野生型株は10 M 以上の ABA を与えることで、24時間
の乾燥処理に耐えることが出来るが、ABI3破壊株では
100 M もの ABA を与えても乾燥耐性を得ることはもは
や出来ない。
得するために必須のホルモンなのである。このABA
作用の分子機構はシロイヌナズナで精力的な解析が
進められ、ABI3という転写因子がABAの作用に必須
であることが明らかとなった。しかしながら、ABA
とABI3が脱水耐性を種子に与える分子機構の詳細は、
文字通り「厚い種皮」に阻まれて、未だ不明な点が多
く残されている。
ヒメツリガネゴケの脱水耐性機構
ABI3は被子植物の種子でのみ発現することが知ら
れており、種子特異的な機能を持つ植物固有の転写因
子であると長らく信じられてきた。しかしながら、筆
者は種子を持たないモデル植物ヒメツリガネゴケにも
ABI3が存在することを初めて示し、ABI3は植物が陸
上化を果たした時には既に存在していたことを明らか
にした。
ABI3は種子をもたない植物でどのような機能を持
つのであろうか?ヒメツリガネゴケはゆっくりとした
脱水ストレスには強い耐性をもつが、急速な脱水(ろ
紙の上に置いて一晩風に曝し乾燥させる)には耐える
ことが出来ず死滅してしまう。おそらく、急速すぎて
ABAの合成が間に合わないためと思われた。そこで
乾燥前にABAを与えておくと、この急速な乾燥にも
耐えることが明らかとなった。つまり、種子と同様に、
ABAはヒメツリガネゴケの脱水耐性も誘導すること
が出来るのである。では、ABI3はこのプロセスにも
やはり関わっているのであろうか。これに答えるため
には、「ABI3を持たない」ヒメツリガネゴケが脱水耐
性をもつのかを調べればよい。筆者はワシントン大学
のグループと共同で、ABI3遺伝子を遺伝子ターゲティ
ングにより削除したヒメツリガネゴケを作出した(実
新・実学ジャーナル 2010.9
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