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平成21年度農政課題解決研修 果樹の気象変動対応技術
平成23年度農政課題解決研修 成 年度農政課題解決 修 ブドウの省力・安定生産技術 研修テキスト 平成23年9月15日~16日 独立行政法人農業・食品産業技術研究機構 独 行政法人農業 食品産業技術研究機構 果樹研究所 本研修テキストについては、引用等著作権法上認められた行為を 除き、果樹研究所の許可なく複製、転載はできませんので、利用さ れ る 場 合 は 果 樹 研 究 所 ( 連 絡 先 : 電 話 番 号 : 029-838-6455) に お 問 い合せ下さい。 目 次 1日目 9月15日(木) 1.有機物の長期連用栽培技術 9:10~10:30 農研機構果樹研究所 栽培・流通利用研究領域 主任研究員 井上博道 ……… 1 2.環状はく皮による着色改良技術 10:40 10:40~12:00 12:00 農研機構果樹研究所 品種育成・病害虫研究領域 主任研究員 山根崇嘉 ……… 9 3.ブドウの高品質栽培に向けた取組みと現地視察 14:00~16:30 茨城県農業総合センター 園芸研究所果樹研究室 長 多比良和生 良 ……… 45 室長 2日目 9月16日(金) 4.ブドウの育種動向と新品種の特性 9::00~10:00 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域 上席研究員 佐藤明彦 ……… 51 5.ブドウの着色機構 10:00~11:00 農研機構果樹研究所 栽培・流通利用研究領域 主任研究員 児下佳子 ……… 59 6.ブドウの省力栽培化技術 ブド 省 栽培 技 11:00~12:00 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域 上席研究員 薬師寺博 ……… 65 7. 総合討論 13:00~14:00 (資料なし) 1.有機物の長期連用栽培技術 農研機構果樹研究所 栽培・流通利用研究領域 主任研究員 井上博道 -1- 有機物の長期連用栽培技術 (独)農研機構 果樹研究所 栽培・流通利用研究領域 井上 博道 はじめに 農業には環境保全的なイメージがあり、適切な管理下では確かにそのような一面もある が、作物の生産性と品質を重視する現代農業においては環境に様々な負荷を与えている。 環境負荷を与える農業活動の一つに施肥がある。過剰施肥が肥料成分の溶脱、アンモニア 揮散、一酸化二窒素の放出を引き起こすばかりでなく、肥料の製造、輸送、施肥作業に伴 う重機の使用等も環境に負荷を与える行為である。一方、環境負荷軽減のため、畜産業か ら排出される家畜ふんや食品産業から排出される有機性廃棄物の有効利用が求められ、農 地へ還元(投入)されている。これら有機物の投入は、施肥に換算して使用すべきである が、従来の土作りの一環として行われることも多く、新たに環境負荷を増大させている面 も少なくない。ここでは樹園地への有機物施用に伴う環境負荷を軽減するために、ブドウ 園への有機物長期連用試験の結果を通して(これだけでは不十分であるが)、長期的に安 定して有機物を利用する方法について考えていきたい。 有機物の種類 農地へ施用される有機物には、堆肥、きゅう肥、わら、樹皮、剪定枝、おがくず、刈り 草、菜種油粕、コーヒー粕等いろいろある。下記に分解特性から有機物をグループ分けし た表を示す。有機物は微生物によって分解されるため、微生物活動が盛んな条件(好気的、 適切な水分、窒素過多)で分解が促進される。 表 有機物の分解特性による群別と施用効果(志賀、1985) 施用効果 C,N分解速度 有機物例 肥料的 肥沃度増 有機物集積 速やか (年60~80%) 余剰汚泥、鶏ふん、蔬菜 残渣、クローバー (C/N比 10前後) 大 小 小 中速 (年40~60%) 牛ふん、豚ぷん (C/N比 10~20) 中 中 中 ゆっくり (年20~40%) 通常の堆肥類 (C/N比 10~20) 中~小 大 大 非常にゆっくり (年0~20%) バーク堆肥など (C/N比 20~30) 小 中 大 C速やか (年60~80%) わら類 (C/N比 50~120) 初め - 後 中 大 中 水稲根、製紙かす、未熟 初め 小 後 中 中 中 - 小 中 C中速~ゆっくり 堆肥 (年20~60%) (C/N比 20~140) C非常にゆっくり おがくずなど (C/N比 200~) (年0~20%) -2- 有機物の中でもよく利用されているものとして、家畜ふん堆肥、バーク堆肥がある。家畜 ふん堆肥は、家畜(牛、豚、鶏、馬など)のふん尿に副資材としてわら、もみ殻、剪定チッ プ、おがくずなどを混ぜて堆肥化したもので(副資材を含まないものもある)、家畜の種類 と副資材の種類および混合比によって、特性に大きな違いがある。バーク堆肥は、主にバ ーク(樹皮)に鶏ふんもしくは窒素肥料(石灰窒素等)を加えて分解を促進したもので、 家畜ふん堆肥に比べると分解速度は緩やかであり、かつては土作りの中心的存在であった。 有機物施用の効果 有機物施用の効果として期待されていることは、土壌の化学性、物理性、生物性を改善 し地力を高めることで、化学性では多量および微量要素の供給、陽イオン交換容量の増加 など、物理性では団粒形成に伴う通気性、透水性、保水性の改善など、生物性では微生物 や小動物の富化などが挙げられる。ただし、有機物を施用すれば上記のような効果が得ら れるわけではない。前述のように、有機物は多種多様で、それぞれに特徴があるので、求 める効果に応じて、有機物の種類と施用量を検討する必要がある。 ブドウへの有機物長期連用試験の結果 (1)試験概要 農研機構果樹研究所(つくば)では有機物の長期連用試験を行っている。圃場の土壌型 は腐植質黒ボク土である。処理としては、バーク堆肥区(3t/10a/year 施用)、稲わら区 (1.5t/10a/year 施用) 、堆肥区(牛ふん堆肥を 3t/10a/year 施用)草生区(オーチャード グラス) 、清耕区の 5 処理である。園地では 1979 年 3 月にブドウ‘キャンベル・アーリー’ を定植し、1983 年から 2010 年まで有機物施用処理を行った。その間、2007 年 12 月に‘キ ャンベル・アーリー’は伐採、抜根し、2008 年 3 月に‘安芸クイーン’と‘ピオーネ’を 定植している。バーク堆肥区と堆肥区は毎年冬季に有機物を施用し、その後草生区以外で はロータリー耕で表層 10cm までを耕耘した。稲わら区では毎年 3 月に処理区表面に稲わら を敷き詰めた。なお、すべての処理区で化学肥料(N-P2O5-K2O=10-10-10)を 10kgN/10a/year 表面施肥しているが、途中樹勢が強い時期には施肥量を 6kgN/10a もしくは 4kgN/10a に減 肥した。このような条件で行った試験の結果について土壌の物理性、炭素貯留、土壌の化 学性の面から検討していく。 (2)土壌の物理性 有機物施用には、土壌の物理性改善効果が期待されている。図1には深さ別の土壌硬度 を示した。清耕区、バーク堆肥区、堆肥区では深さ 25~30cm 付近で土壌硬度が増加してい る。これは、長期にわたる重機の使用により緻密な層ができているものと思われる。草生 区では冬季に耕耘していないため、緻密な層ができていないが、稲わら区で深さ 25~30cm 付近の土壌硬度が高くならずに、表層で高い値を示しているのは稲わらを表面施用してい る特徴であろうか。いずれにせよ、黒ボク土において有機物施用による土壌硬度の低下は -3- 0 バーク堆肥区 稲わら区 5 清耕区 10 15 堆肥区 20 深さ(cm) 25 30 草生区 35 40 45 15 20 25 土壌硬度(cm) 図 1 ブドウ園における有機物の連用が土壌硬度に及ぼす影響 図 2 ブドウ園における有機物の連用が容積重に及ぼす影響 (第 1 層:0-10cm、第 2 層:10-20cm、第 3 層:20-30cm) あまり見られない。図 2 には深さ別の容積重を示した。有機物が投入されている第 1 層 (0-10cm)を比較すると、清耕区に比べ堆肥区、バーク堆肥区、草生区では容積重が低下 しているが、稲わら区では清耕区と変わらなかった。透水係数でもバーク堆肥区、堆肥区、 草生区では清耕区より値が高くなっていたが、稲わら区では透水係数の値は増加しなかっ た。 (図 3) 。稲わらは分解が早く、春に表面施用したものがブドウ栽培期間中にある程度分 解され、冬の土壌への鋤込みによって速やかに分解されると考えられる。土壌の全炭素の -4- 図 3 ブドウ園における有機物の連用が透水係数に及ぼす影響 (第 1 層:0-10cm、第 2 層:10-20cm、第 3 層:20-30cm) (年) 図4 有機物長期連用ほ場における土壌全炭素の推移 深さ 0-10cm 推移を見ても、清耕区に比べ稲わら区ではやや高い値で推移しているが、2010 年ではほと んど変わらない(図 4) 。そのため、稲わらの物理性改善効果はほとんどないと考えられる。 一方、バーク堆肥や堆肥区では容積重の低下、透水係数の上昇など、物理性の改善効果が ある程度認められる。ただし、例えば土壌の透水性の改善が必要な場合には透水係数を 10 倍高めるような処理が必要とされるので、ここでの有機物施用による効果では不十分であ ると思われる。元々有機物含量が高く、土壌物理性に優れる黒ボク土においては、有機物 施用による物理性に対する効果は大きくないとも考えられるが、土壌物理性に問題がある 場合には、有機物施用による改善を期待するよりも、深耕などの機械的な作業を行う方が、 高い効果が得られるのではないかと考えられる。 -5- (3)土壌への炭素貯留 近年、地球温暖化の進行が二酸化炭素の増加によるためとの考えから、二酸化炭素の排 出削減が求められている。農業活動も二酸化炭素を排出する要因の一つであるが、土壌へ 有機物を投入することにより本来は排出される炭素を貯留し、全体として農業活動からの 二酸化炭素の排出量を削減しようと考えられている。ここでは、有機物の長期連用によっ て炭素がどの程度貯留されたかについて検討する。 土壌中の全炭素の推移を見ると、深さ 0-10cm では清耕区の全炭素量は試験開始時から大 差なく、4%程度で推移していたのに対し、有機物施用の 3 処理区と草生区では全炭素量が 増加したが、2000 年付近以降ではあまり増加していない(図 4) 。バーク堆肥、稲わら、堆 肥の炭素濃度はそれぞれ 45,40,28 %で、乾物率を考慮に入れた各処理区の年間炭素投入量 は 675, 510, 420 kg C /10a である。炭素投入量が堆肥区よりも多い稲わら区で土壌全炭 素が低く推移しているのは、稲わらが堆肥に比べ分解しやすかったためと考えられる。一 方、分解に時間がかかると考えられるバーク堆肥区では、堆肥区や稲わら区よりも全炭素 量が多い状態で増加量が鈍化し、炭素投入量と放出量が平衡に達したと考えられる。深さ 10-20cm ではバーク堆肥区、堆肥区、稲わら区では増加する傾向が見られたが、他の区は試 験開始時とあまり変わらずに推移した。深さ 20-30cm では、どの区も増加する傾向は見ら れなかった。以上から、有機物を投入すると、投入された層では有機物が蓄積し、その下 層でもやや蓄積する傾向がみられるが、10cm 以上下層では有機物の蓄積は見られなかった。 表層での有機物の蓄積も徐々に平衡に達し、平衡に達した後では投入した有機物の炭素量 と同等量の炭素が土壌から放出されると考えられる。 (4)土壌への養分の蓄積 有機物には植物に必要な養分が含まれ、特に家畜分が含まれたものには多量の肥料成分 が含まれている。以前、土作り運動が盛んであった頃には堆肥中の肥料成分は考慮に入れ ずに堆肥施用が行われていたが、家畜排せつ法の制定以降の家畜ふん堆肥の肥料成分は従 来よりも高濃度化しているため、堆肥中の肥料成分を確認し、適正量を施用しないと環境 負荷を増大させることになる。ここでは有機物長期連用試験における肥料成分の蓄積状況 について検討する。 土壌中の全窒素は全炭素と同様に推移し、深さ 0-10cm ではバーク堆肥区>堆肥区≒草生 区>稲わら区>清耕区の順に全窒素量が多かった(図 5)。深さ 10-20cm ではバーク堆肥区 と堆肥区では試験開始時より増加したが、他の区ではほとんど変わらず、深さ 20-30cm で は、どの区も増加する傾向は見られなかった。可給態リン酸については、特にバーク堆肥 区で表層への蓄積が見られ、深さ 10-20cm でもリン酸の蓄積傾向が見られたが、深さ 20 -30cm ではあまり蓄積していない。交換性カリウムについては、有機物の施用により清耕 区に比べ増加し、有機物の蓄積が顕著でない稲わら区でも堆肥区、バーク堆肥区と同等に 蓄積していた。交換性カルシウムでは、バーク堆肥区で顕著に増加していた。 -6- (年) 図5 有機物長期連用ほ場における土壌全窒素の推移 深さ 0-10cm その傾向は、深さ 10-20cm、20-30cm でも見られた。カルシウムは土壌中で溶脱しやすい元 素なので、表層に供給されたカルシウムが下層へも流れたため、深さ 20-30cm でも表層と 類似の傾向が見られたのであろう。交換性マグネシウムについては、処理区間の違いより も年次間の変動が大きい。これは苦土石灰施用の影響である。すなわち苦土石灰を施用し ているときは交換性マグネシウムの値が増加し、施用をやめると、カルシウムと同様に溶 脱しやすいマグネシウムは溶脱とブドウによる吸収のため、値が低下した。 以上のように、有機物の施用による養分の蓄積は資材の種類、元素の違いによってまち まちで、有機物の蓄積が多い資材では各養分の蓄積も同様に蓄積する訳ではない。そのた め、有機物を施用する場合には、資材中に含まれる養分を考慮に入れ、特定の養分が蓄積 しないように(塩基バランスを崩さないように)施用量を決定する必要がある。 各種元素の土壌への蓄積は、果樹に様々な影響を及ぼす。窒素の過剰は樹体の過繁茂、 リン酸過剰は鉄欠乏、カリウム過剰はマグネシウム欠乏、カルシウム過剰は pH 上昇に伴う マンガン欠乏の危険性が高く、その他の微量要素の欠乏等も引き起こされる。そのため、 有機物の施用は養分の含有量から施用量を計算し必要量に応じて施用するべきで、土作り のためだからといって 10a 当たり数トン単位で施用するのは環境負荷を増加する原因にも なるので止めるべきである。有機物施用の考え方には様々あり、まだ正解は一つではない が、園地と地域の状況を加味し、できるだけ環境負荷を軽減できるような施用法が望まし い。土壌への塩類蓄積を避けるような有機物の施用法が、環境負荷を低減しつつ長期連用 が可能な有機物施用法になると考えている。 -7- 文献 志賀一一(1985)農耕地における有機物施用技術、8-28、農林水産技術情報協会 杉浦裕義ら(2011)ブドウ園における有機物等の長期連用が土壌の物理性に及ぼす影響、 日本土壌肥料学会講演要旨集 57、127 井上博道ら(2011)有機物長期連用ブドウ園における土壌中全炭素および全窒素の経年変 化、園芸学研究 10(別 2) (発表予定) -8- 2.環状はく皮による着色改良技術 農研機構果樹研究所 品種育成・病害虫研究領域 主任研究員 山根崇嘉 -9- ブドウ 安芸クイーン の着色に関する研究 ブドウ‘安芸クイーン’の着色に関する研究 農 機 農研機構 果樹研究所 樹 所 主任研究員 山根崇嘉 ‘安芸クイーン’ 着色不良果の発生 表 ブドウの等級と価格(円/kg,広島県‘安芸クイーン’) 秀品 優品 並品 A品 1,650 1,150 530 341 -10- : 9.1℃以上11.2℃未満 :11.2℃以上13.3℃未満 :13.3℃以上15.4℃未満 :15.4℃以上17.5℃未満 :17.5℃以上19.4℃以下 : ~1.0 :1.1~2.0 広 島 市 :2.1~3.0 :3.1~4.0 :4.1~5.0 図 広島県における年平均気温の分布と‘安芸ク イーン’の着色 Y園 着色指数 (カラーチャート値 三重‘安芸クイーン’ 専用チャート使用) N園 瀬戸内沿岸部暖地 着色 実態 瀬戸内沿岸部暖地の着色の実態 -11- O園 研究の内容 1 気温と着色との関係の解明 1.気温と着色との関係の解明 2.高温条件下での着色向上技術の確立(環状剥皮) 生育ステージ別の温度感受性の解明 着色 以前 着色 開始 収穫 各時期において 20℃区,30℃区,自然温区を設定 2週間毎に処理 1.着色開始前 2.着色開始期 3.着色開始後 4.収穫前 -12- 高温区 低温区 -13- 着色 以前 着色開始 着色後 1週目~ 収穫 直前 処理期間2週間 20℃ 30℃ 時期別の温度処理における収穫時の果皮の着色(2003年) より詳細に時期を検討 着色開始 収穫 着色開始後 44-11日 11日, 11 11-18日 18日, 18 18-25日 25日, 25 25-32日 32日 の計4回,1週間処理 低温区: 昼温23℃ 夜温18℃ 高温区: 昼温33℃ 夜温28℃ -14- 3.5 カラーチャ ャート値 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 着色開始後8~21日 4-11日 対照区 低温区 高温区 11-18日 18-25日 25-32日 処理期間(着色開始後日数) 012357 012357 012357 各処理区の処理後日数 012357 図 時期別の温度処理と果皮の着色との関係 着色好適温度について -15- 温度勾配培養器による温度処理 (2004年) 処理期間5日間 (7/16から7/21) 着色開始後10日から処理 各区5反復 -16- 0.3 (O.D.520nnm) アントシアニン ン含量 好適温度:18~24℃ 02 0.2 0.1 0 12℃ 15℃ 18℃ 21℃ 温度 24℃ 27℃ 図 ブドウ‘安芸クイーン’における果粒へ 温度処理が果皮のアントシアニン含量に及ぼす影響 (縦棒は標準誤差n=5) 着色適地の予測 -17- 20~25℃の遭遇時間 (1日当たり時間数) 日最低気温(℃) 14 12 10 8 6 24 23 22 21 20 19 R = 0.82* R = -0.75 カラーチャート値 図 現地園におけるカラーチャート値と気温との関係 日最低気温 21℃以下の 出現日数 最低気温からみたブドウ「安芸クイーン」の着色適地図 (7月15日から8月13日(30日間)に最低気温が21℃以下となる日数から推定) -18- 日最低気温 23℃以上の 出現日数 図 7月15日から8月3日(20日間)に 最低気温が23℃以上となる日数 34 32 30 28 ℃ 26 24 22 20 18 16 34 32 30 28 26 ℃ 24 22 20 18 16 11 広島県南部(沼隈) 12h/day 7h/day 広島県中北部(三良坂) 11h/day 17 23 6月 29 5 11 17 23 7月 29 4 図 現地の気温の推移(2005年) -19- 10 16日 8月 作型の前進方法 トンネル雨よけ栽培 ト ネ 雨よけ栽培 8月下旬収穫 簡易保温方法(2月から園を被覆) 簡易保温方法( 月から園を被覆) 7月下旬収穫 利点:安価に設置可能,盆前出荷 欠点:防霜対策が必要→暖地向き 日最低気温21℃以下 広島県果樹振興計画で栽培を推進 日最低気温21℃以上 最低気温 以 環状剥皮処理の実施 熟期を前進 日最低気温23℃以上 着色適地と栽培戦略 -20- 高温条件下での 着色向上技術 着果量と環状剥皮との関係 着果量標準区 8結果枝/樹 2.50t/10a 着果量1/2区 4結果枝+4空枝/樹 1.25t/10a × 環状剥皮 処理の有無 =4処理区 (各区5樹) 満開後35日に 剥皮処理 80Lボックス -21- アン ントシアニン含量 (O.D. at 520nm) 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 無処理 剥皮 着果量標準 無処理 剥皮 着果量1/2 図 着果負担の違う樹における環状剥皮処理と果皮のアントシアニン含量との関係 -22- 糖含量(°Brix) 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 0 無処理 剥皮 着果量標準 無処理 剥皮 着果量1/2 図 着果負担の違う樹における環状剥皮処理と糖含量との関係 -23- 累積新根発生量 量 (cm) 1000 800 600 着果標準 着果標準 着果1/2 着果1/2 剥皮なし 剥皮あり 剥皮なし 剥皮あり 着果調節(6/6) 400 収穫(8/10) 200 環状剥皮処理(6/23) 0 6/2 6/16 6/30 7/14 7/28 8/11 8/25 図 着果負担の違う樹における環状剥皮処理と根の伸長 縦線は標準誤差 (n = 5) 現地における環状剥皮効果の実証試験 -24- 現地園(沼隈町) この園では果房へ光を あてるため,副梢葉を切 除している。 -25- N園の現状 1. 果房に光をあてるため,基部の副梢を切除していた 2. かん水の不足により早期落葉を引き起こしていた 3. 環状剥皮を行っても着色はほとんど改善しなかった 対策 1. 基部の副梢を各節1枚残すとともに,12節での摘心後に伸びた 副梢を5~6残した 2. かん水頻度を増やし,pF2.2(25cm深地点)以下に保った 3. その上で環状剥皮を行った 4. 着果量は2t/10aで,対照区と同じ 処理 処 糖度18.0 対照 糖度16.6 N園での主幹への剥皮処理(2004年) -26- 03.7.17 2004年 2003年 収穫期の樹の状態(N園) : 9.1℃以上11.2℃未満 :11.2℃以上13.3℃未満 :13.3℃以上15.4℃未満 :15.4℃以上17.5℃未満 :17.5℃以上19.4℃以下 : ~1.0 :1.1~2.0 :2.1~3.0 広島市街地 平均日最低気温:24 2℃ 平均日最低気温:24.2℃ 沼隈町 23.3℃ 図 広島県における年平均気温の分布と‘安芸ク イーン’の着色 -27- :3.1~4.0 :4.1~5.0 着色指数 (カラーチャート値 三重‘安芸クイー ン’専用チャート使 用) 1.8t 2.2t 2.6t 剥皮 剥皮なし 広島市街地(2005年) 環状剥皮と着果量の軽減の収益性の評価 表 10aあたりの粗収入の試算 剥皮 処理 あり あり なし カラーチャート値(分布割合%) 粗収入 労働時間 着果量 (千円 (剥皮処 (t/10 a) 1未満 1~2 2~3 3~4 4以上 含む /10a) 理含む) 1.8 0.0 0.0 61.0 36.2 2.8 2,263 417 ( △78 ) 2.2 0.0 42.1 43.4 14.5 0.0 1,968 469 ( △26 ) 1,264 495 2.6 22.2 68.9 8.9 0.0 0.0 外品 並品 優品 341 530 1115 図 秀品 1650 円/kg 0 1 2 3 4 5 「安芸クイーン」カラーチャート(Kondouら, 1998) -28- : 9.1℃以上11.2℃未満 :11.2℃以上13.3℃未満 :13.3℃以上15.4℃未満 :15.4℃以上17.5℃未満 :17.5℃以上19.4℃以下 : ~1.0 :1.1~2.0 :2.1~3.0 広島市街地 平均日最低気温:24 2℃ 平均日最低気温:24.2℃ 沼隈町 23.3℃ 図 広島県における年平均気温の分布と‘安芸ク イーン’の着色 1.2t 1.5t 剥皮 1.8t 沼隈町Y園 -29- 露地 :3.1~4.0 :4.1~5.0 着色指数 (カラーチャート値 三重‘安芸クイー ン’専用チャート使 用) 1.9t 剥皮なし 広島市街地 沼隈町 (根域制限栽培) 表 広島市街地と沼隈町の生育の違い 果房重1粒重 糖度 葉面積 葉色 新梢長 結果枝 葉面積 (g) (g) (°Brix) 指数 (cm) (m2) 広島市街地 466 13.7 18.4 2.3 43.7 109 0.42 沼隈町 587 14.5 17.7 2.5 46.8 128 環状剥皮と樹の衰弱について -30- 0.45 剥皮部のゆ合不良 2~5cm幅 10mm 5mm 3mm 1週間後 2週間後 -31- 3週間後 アントシアニン含量(mg/g skin FW) 0.3 剥皮適期満開後30~35日,剥皮幅3~5mm 0.2 0.1 0 (着色,週)-2 -1 0 +1 +2 -2 -1 0 +1 +2 -2 -1 0 +1 +2 -2 -1 0 +1 +2Cont. Cont 3mm 5mm 10mm 20mm 剥皮時期 剥皮幅 図 剥皮時期および剥皮幅がブドウ‘安芸クイーン’の 果皮のアントシアニン含量に及ぼす影響 環状剥皮方法について ・剥皮部のビニルテープによる被覆の影響 ・師部組織の除去程度の影響 -32- 剥皮部のビニルテープによる被覆の影響 ビニル被覆区 露出区 ビニル被覆区 剥皮5日後 露出区 剥皮7日後 Callus Bridge 図 ビニル被覆した場合の剥皮後2週間目における 剥皮部の様子 -33- 師部組織の除去程度とビニール被覆の影響 薄皮状の師部組織 結果枝で実験 師部組織の除去の有無 × ビニルテープ被覆の有無 師部除去 師部残存 師部除去 露出 師部残存 ビニルテープ被覆 図 剥皮部のビニル被覆,師部組織の除去程度が 着色に及ぼす影響 -34- Pi Ca Ne 10mm (師部組織)除去 露出 (剥皮部) 残存 除去 残存 ビニルテープ被覆 図 剥皮部のビニル被覆 剥皮部のビニル被覆,師部組織の除去程度が 師部組織の除去程度が 剥皮部のゆ合に及ぼす影響 -師部組織を完全に除去する必要がある。 -その後剥皮部をビニルテープで保護する。 剥皮部の被覆によるカルス発生過程の観察 ビニル被覆区 露出区 剥皮7日後 -35- 被覆2日後 被覆3日後 露出7日後 100 生率(%) ブリッジ発生 y = 1.4594x - 98.619 80 R2= 0.72 600 40 20 0 60 70 80 90 100 110 120 各樹の平均新梢長(cm) 各樹の新梢長と剥皮1週間後のブリッジ発生率との関係 新梢長80cm(太さが鉛筆大)以下の樹勢の樹には 剥皮をしてはいけない。 -36- ゆ合良 ゆ合不良 樹勢の弱い樹に環状剥皮処理した場合,ゆ合不良が 発生することがある。 コズマパール「ブドウ栽培の基礎理論」,1969より -37- まとめ:環状はく皮の手順と注意点 [手順] 1.処理時期は満開後30~35日。 2.剥皮処理は主幹に幅5mmでおこなう。 3.剥皮は内側の薄皮もきれいに取るように行う。 薄皮は時間が経つと褐変するので確認できる。 4.剥皮部の木片のなどのごみはきれいに取り除く。 5.剥皮部は幅の広いビニールテープなどで保護する。 6.約1ヶ月たったらテープを取る。 [注意点] 1.着果過多の樹に剥皮処理を行っても効果はほとんどない。 2.剥皮後は極端な乾燥を避け,かん水を適宜行う必要がある。 3.コウモリガ,クビアカスカシバの食害に注意。 4.結果枝径が7mm(鉛筆大)以下の弱樹勢樹には処理しない。 薄皮もきれいに取る -38- これまで環状剥皮が行われていない理由 -39- 我が国の環状剥皮に関する主な記述 -----------------戦前-----------------1930年 「葡萄之研究」 大井上康著 (8頁) 1933年 「葡萄全書」 川上善兵衛著 (26頁) 1954年 1955年 1960年 1970年 1971年 ------------------戦後-----------------「果樹園芸総説」 小林章著 「葡萄栽培新説」 土屋長男著 「葡萄」 中川昌一著 (各1~3頁) 「ブドウ園芸」 ブドウ園芸」 小林章著 「巨峰ブドウ栽培の新技術」 恒屋棟介著 ------------------現在----------------1996年 「日本ブドウ学」 堀内昭作編著 (0頁) -40- (神田)善太郎の技術で特筆すべきものの一つが環 状剥皮であった…大正の末から昭和の初めにかけ て和歌山県のデラ,広島・岡山・大阪のキャンベ ルおよび山形の欧州種には幹の環状剥皮がかなり 広く行われた… 神田善太郎伝より抜粋 環状剥皮が行われていない(行われなくなった) 原因として考えられることとその対策 -早期出荷を狙ったため,酸含量が高いブドウとなる 熟期の促進を目的としない →熟期の促進を目的としない -広い幅の剥皮処理によりゆ合不良となり樹が衰弱する →3~5mmの狭い剥皮幅,テープ被覆 -不完全な剥皮により効果がでない →薄皮を完全に除去する -着果過多により効果が出ない →着果量の適正化 -41- まとめ アントシアニン含量 糖蓄積による着色 成熟に伴う着色 (剥皮適期)ベレゾーン (低温感受期) (果粒軟化期) -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4 +5 +6 (着色開始前後○週) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 (満開後○週) -42- 5 Collor index 4 HCL-NG HCL-G LCL-NG LCL-G Harvest 着果少+剥皮 3 着果少+剥皮 着果多-剥皮 着果多-剥皮 2 1 0 23 Jun 30 Jun 7 Jul 14 Jul 21 Jul 28 Jul 4 Augg 10 Augg ・高温条件下での着色向上には, -着色開始以前に同化産物を果実に集中させ, -着色開始を早め,初速度を上げることが, -有効。 -43- -44- 3.ブドウの高品質栽培に向けた取組みと現地視察 茨城県農業総合センター 園芸研究所果樹研究室 室長 多比良和生 -45- 茨城県におけるブドウ栽培 茨城県農業総合センター園芸研究所 1.はじめに 茨城県のブドウ栽培面積は 277ha( H21)で全国 16 位であり(表1)、収穫量は 2,310t(H22)、 産出額は 16 億円(H22、全国 13 位)となっています。品種構成は「巨峰」が 85%、その他ブ ドウ(欧州系品種中心)が 15%となっています。 本県のブドウは県内各地で栽培され(表2)、観光直売型の経営が多く、「巨峰」は約 1,000 円/kg、「欧州系品種」は 2,000~3,000 円/kg で販売されています。20~40 歳代の若い生 産者が多く、彼らを中心に販売価格の高い欧州系品種の導入が進んでいて、多品種(50 品 種以上)が栽培されています。 順位 県名 面積 1 山梨県 4,050ha 順位 市町村名 面積 表 1 県別のブドウ栽培面積(H21) 2 3 4 5 長野県 山形県 岡山県 北海道 2,300ha 1,690ha 1,110ha 1,070ha 表2 県内のブドウ栽培面積(H18) 1 2 3 常陸太田市 石岡市 かすみがうら市 68ha 26ha 21ha ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ 4 坂東市 14ha 16 茨城県 277ha 5 笠間市 12ha 2.施設による安定栽培 欧州系品種は病害が発生しやすいため、降雨をカットして病害を軽減する施設栽培(雨 よけ栽培を含む、70ha、H21)が主流となっています。また、「巨峰」でも、雨よけ栽培が増 加し、防除回数の削減を図っています(表3)。 表3 ブドウ晩腐病に対する防除効果(供試品種:巨峰) 試験区 防除回数 発病果房率(%) H16 H17 H16 H17 雨よけ 殺菌剤削減 7 7 8.9 11.9 露地 県防除暦 11 9 35.0 34.9 露地 無散布 0 0 84.1 55.4 3.摘心栽培 旺盛な枝葉の先端を摘心して養水分を 果房に集中させ、高品質ブドウを生産し ます。摘心方法は、新梢本葉は房先5枚、 房元の副梢は5枚、房先の副梢は1枚で 行うことを基本としています(図1)。 摘心栽培により、果粒肥大が促進しま す(表4)。 -46- 表4 摘心方法が果実品質に及ぼす影響(供試品種:マリオ) 年 摘心位置 H10 H12 房先 8 葉摘心 房先 5 葉摘心 房先 5 葉摘心 房先 3 葉摘心 着果位置摘心 無摘心 果房重 g 975 1,169 951 955 1,080 681 一粒重 g 18.3 19.8 18.7 21.0 21.5 14.7 着色 7.5 7.5 8.3 8.2 8.4 8.2 糖度 Brix% 16.4 16.7 16.9 15.6 17.0 17.3 4.短梢せん定・平行整枝栽培 欧州系品種及び「巨峰」の無核栽培では、だれにでもせん定できる短梢せん定、新梢の管 理やジベレリン処理がしやすい平行整枝を取り入れることで、栽培を単純化しています。 5.根域制限(栽培)による多品種栽培 遮根シート上に盛土をして栽培する「根域制限」栽培により、樹をコンパクト化(小形 化)して多品種が栽培できます。遮根シートを用いた根域制限栽培は、土量を変えること で 25~100 樹/10a(慣行栽培:4~6樹/10a)の植栽が維持でき、小規模ハウス(間口 5.4m の普及型パイプハウス)でも多品種栽培が可能になります(表5)。 表5 根域制限栽培による樹冠面積と収量 品種 樹齢 H16 H17 (H18年)根域(㎡) 3 4 ルーベル 樹冠(㎡) 28 31 9 マスカット 収量(kg/㎡) 1.9 2.2 瀬戸 樹冠(㎡) 27 31 10 ジャイアンツ 収量(kg/㎡) 1.3 1.9 樹冠(㎡) 25 28 ハイベリー 10 収量(kg/㎡) 1.1 1.5 H18 4 28 1.7 29 2.5 29 2.2 6.おわりに 茨城県農業総合センター園芸研究所では、神奈川県農業技術センターを中核とする果樹 類の樹体ジョイント試験に参加し、ブドウの樹体ジョイントによる省力・早期成園化、高 品質安定栽培技術の開発(H21~24)に取り組んでいます。また、全国的に普及が進んでい る「シャインマスカット」については、ブドウ「シャインマスカット」高品質安定生産技術 の開発(H21~23)に取り組んでいます。 参考資料 1.寺門 巌・江橋賢治(2005)欧州系ブドウに対する根域制限と新梢に対する摘心が生 育および果実品質に及ぼす影響.茨城農総セ園研報.13:1-10 2.田中舘志都・寺門 巌・江橋賢治・多比良和生(2011)根域制限による欧州系ブドウ 施設栽培の低コスト化と摘蕾による果房管理の省力化技術 .茨城農総セ園研報.18:1-8 -47- 茨城県農業総合センター園芸研究所 果樹研究室 ブドウの品種は、米国種・欧州種・欧米雑種(巨峰など)に大きく分類されます。この中で欧州種は最も品 種数が多く、粒の形や大きさ・色・香り・食味など非常に変化に富んでいます。欧州種のうち生食用品種の原 産地は、カスピ海沿岸地方から南部寡雨地帯に多く分布しています。 原産地の気候は温暖で雨が少ないため、日本のような多雨・多湿の気象風土では生育が旺盛となって枝葉が 繁茂し、降雨で果粒が割れたり病害にかかりやすいなど栽培は非常に困難です。園芸研究所では、多様化する 消費者のニーズに対応してバラエティに富んだブドウを提供できるよう「欧州系ブドウの栽培試験」を行って います。 ハウスによる安定栽培 摘 芯 栽 培 降雨をカットして病害を軽減。安定栽培と 減農薬による安全安心なブドウを生産します。 旺盛な枝葉の先端を摘芯して養水分を果房 に集中させ、高品質ブドウを生産します。 摘芯 根 域 制 限 栽 培 短梢せん定・平行整枝 植木鉢のように根域を制限して、必要なだけの水 簡単な短梢せん定と新梢の管理、またジベレリン や肥料を与えます。根域量を変えて樹の大きさを決 処理がしやすい平行整枝を取り入れることで、栽培 めることができます。肥料の無駄を防げます。 を単純化します。 施肥 潅水 遮根シート -48- 茨城県農業総合センター園芸研究所 果樹研究室 園芸研究所では、多様化する消費者ニーズに応えるため、粒の大きさや形・色・香り・食味が変化に富んでいる 欧州系ブドウについて、本県に適した品種の選定と栽培技術の確立を図るため、試験を実施しています。 欧州系ブドウの生育特性 欧州系ブドウの原産地では、生育期にほとんど雨が降らないため、棒仕立てや垣根仕立 てで栽培できますが、日本のような多雨・多湿の気象風土で栽培すると、枝葉がいつまで も旺盛に伸長して軟弱徒長となり、病気にかかりやすく耐寒性が劣って枯死する場合 もあります。 鉢植え 根域制限栽培 強勢な生育を抑制するには、植木鉢栽培のように根の生育範囲を制限する「根域制限栽培」が有効です。 用土 完熟堆肥と土を1:1で混和します。 空気を多く含むため、養水分を吸収する細 根が多くなり、コントロールしやすくなります。 根域面積 根域面積は、樹冠面積(棚の面積)の 1/5を標準とし、樹勢に応じて増減。 樹冠面積 80 ㎡、根域面積6㎡ 樹冠面積 30 ㎡、根域面積 4 ㎡ 樹冠面積 10 ㎡、根域面積 2 ㎡ -49- -50- 4.ブドウの育種動向と新品種の特性 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域 上席研究員 佐藤明彦 -51- ブドウの育種動向と新品種の特性 農研機構果樹研究所 ブドウ・カキ研究領域(品種育成担当) 佐藤明彦 世界と日本におけるブドウ生産の特徴 世界のブドウ生産は、中国、北アメリカ西岸、南米の乾燥地帯、オセアニア、アジアの 乾燥地域、南アフリカなど、ブドウの生育シーズンに降雨が少ない地域が中心である。そ のような地域に栽培されているブドウの多くは欧州ブドウ(Vitis vinifera L.)であり、欧 州ブドウの生産量は、世界のブドウ生産の9割以上を占 める。欧州ブドウは、黒海、カスピ海の沿岸地域を発祥 とする種であり、生食用品種では、大粒で、噛み切りや すい(崩壊性の)肉質を持ち、品種によってはマスカット 香があるなど、品質が優れている。なかでも、崩壊性で 硬い欧州ブドウの肉質は評価が高い。その一方、果皮が 薄く、生育期の降雨による裂果の発生、べと病や黒とう 病といった病害に弱いことなどもあり、夏秋期に降雨が 多い地域での栽培は難しい。欧州ブドウには、 「マスカ ットオブアレキサンドリア」、 「トムソンシードレス」と いった著名な生食用・レーズン用品種や、「カベルネソ 欧州ブドウ:マスカット ーヴィニヨン」、 「メルロー」、 「シャルドネ」といった優 オブアレキサンドリア れた醸造用品種が含まれる。欧州ブドウの栽培の歴史は 極めて古い。 アメリカ大陸が発見された後、ヨーロッパからの入植 者が欧州ブドウをアメリカ東海岸に持ち込んだが、低温 や夏秋期の降雨、病害虫の発生などで、この地域には欧 州ブドウは定着できなかった。そのため、アメリカ原産 の野生種である Vitis labrusca L. を基本種として、欧州 ブドウやそれ以外のアメリカ在来種を交雑させて育成 されたのが米国ブドウ(Vitis labruscana Bailey)であ る。米国ブドウは、欧州ブドウに比べてべと病や黒とう 病に強い品種が多く、裂果もしにくい一方、噛み切れに くい(塊状の)肉質とフォクシー香という香気を持つ。品 質的には欧州ブドウに比べると劣る。 我が国においては、明治時代に欧米各国からブドウ品 種が導入され、各地で試作が行われたが、降雨が多いた 米国ブドウ:キャンベルア ーリー -52- め欧州ブドウは一部を除いて定着せず、「キャンベルアーリー」、「デラウェア」、 「ナイヤガ ラ」といった米国ブドウが選抜・栽培されてきた。これらの品種は現在でも我が国のブド ウ生産において大きな栽培面積を占めている。 我が国におけるブドウ育種は、民間の育種家によって 明治時代には開始されており、それ以降,多くの育種家 は「欧州ブドウの品質と米国ブドウの栽培のしやすさを 組み合わせる」ことを目標に育種を行ってきた。「マス カットベーリーA 」は、このような目標で育成された品 種である。これまでには欧州ブドウ品種同士の交雑も行 われ、「ネオマスカット」 、「甲斐路」 、 「瀬戸ジャイアン ツ」、 「ロザリオビアンコ」等の、大粒で崩壊性の肉質を 持つ欧州ブドウ品種も育成され、降雨が比較的少ない地 域や、降雨を遮断した雨よけ栽培などで生産されている。 また、我が国のブドウ栽培は四倍体品種が多いという 特徴がある。その先駆けとなったのは「巨峰」であり、 四倍体品種:巨峰 米国ブドウ「キャンベルアーリー」の大粒枝変わりであ る「石原早生」と、欧州ブドウ「ロザキ」の大粒枝変わ りである「センテニアル」の交雑により生じた。「巨峰」は、大粒で、米国ブドウの塊状の 肉質と欧州ブドウの崩壊性の肉質の中間の肉質を持ち、品質の高い欧州ブドウにより近づ いた。一方、花振い性や脱粒性という欠点があった。発表直後の昭和 20 年代には、栽培技 術が十分ではなく、花振い性や脱粒性を克服することが困難であったが、その後の生産努 力により栽培技術が確立し、栽培面積が増加した。果粒が大粒であることや、品質が米国 ブドウに比べて優れることなどから生産面積を伸ばし、「巨峰」を中心と交雑も盛んに行わ れてきた。四倍体品種は欧米ではほとんど活用されておらず、日本独自の「巨峰群」と呼 ばれる大粒の品種群を形成してきた。 我が国のブドウの生産の推移と現状 我が国におけるここ 30 年のブドウ生産面積の推移を見ると、中・小粒の米国ブドウ品種 である「デラウェア」、 「キャンベルアーリー」等の減少が著しい。一方、大粒品種の「ピ オーネ」の増加が顕著であり、「巨峰」と「ピオーネ」をあわせるとブドウの生産面積の半 分を占めるようになった。3 大品種である「巨峰」、 「デラウェア」、 「ピオーネ」のトータル の割合は約7割であり、残りの3割には多様な品種が占めている。3 大品種以外においては、 極大粒の「藤稔」といった巨峰群品種や、「甲斐路」、「赤嶺」、「ロザリオビアンコ」といっ た崩壊性で硬い肉質をもった欧州ブドウ品種が増えてきた。これらの欧州ブドウ品種は、 雨よけなどの施設を用いた栽培や、夏秋期の降雨が比較的少ない地域で主に栽培されてい る。 -53- さらに、近年では、種 なしブドウに対する需 要が高く、「ピオーネ」 や「デラウェア」をはじ めとして、「巨峰」、「マ スカットベーリーA」等、 多くの品種でジベレリ ンを用いた種なし果実 が生産されている。ジベ レリン処理による種な し化がブドウの需要の 支えてきたと考えられ る。 これらのことから、大 粒化、ジベレリン処理に よる種なし化、高品質化、 特に米国ブドウの塊状の肉質から崩壊性で硬い欧州ブドウの肉質に近づいたことが、この 30 年間のブドウ品種の変遷から言える。 日本におけるブドウ新品種の育成 農林水産省品種登録ホー ムページによれば、2011 年 5 月までに、登録が消滅し た品種も含めて約 150 品種 が品種登録された。 このうち、個人および農 業団体がもっとも大きな割 合を占める。個人および団 体により登録された品種は、 交雑により生じた巨峰群の 交雑品種、欧州ブドウ同士 の交雑品種、既存品種の枝 変わり品種などがある。地 方公共団体により育成され た品種には、山梨県および 北海道池田町により品種登録された醸造用品種、岩手県による果汁用ヤマブドウ品種等を -54- 除き、多くは生食用品種である。企業により育成された品種の多くは、ワイン製造会社に よる醸造用品種になっている。大学による新品種も 3%(4 件)品種登録されている。ブドウ においては、官民にかかわらず、交雑育種が盛んに行われているという特徴がある。 新品種の特性―「シャインマスカット」と「クイーンニーナ」 ここでは、近年(独)農研機構果樹研究所によって育成された「シャインマスカット」 と「クイーンニーナ」の特性の概要を紹介する。 「シャインマスカット」の特性 「シャインマスカット」は、1988 年に果樹試験場安芸津支場(現 農研機構果樹研究所 ブドウ・カキ研究拠点)でブドウ安芸津 21 号(「スチューベン」×「マスカットオブアレ キサンドリア」)に「白南」を交雑して得られた 実生から選抜した品種である。1988 年に交配を 行い、1989 年に播種・育苗し、選抜圃場に定植 した。1999 年に開始されたブドウ第 9 回系統適 応性検定試験にブドウ安芸津 23 号の系統名で 供試され、28 都府県 31 カ所の国公立果樹関係 試験研究機関において特性が検討された。その 結果、2002 年度に新品種候補として選抜され、 2003 年 9 月に「シャインマスカット」と命名、 2006 年 3 月に種苗法に基づく品種登録(登録番 号 13891 号)された。 「シャインマスカット」は、 「巨峰」とほぼ同 時期に熟する黄緑色ブドウで、育成地(広島県 東広島市安芸津町)での収穫期は 8 月中下旬で シャインマスカットの無核果房 ある。ジベレリン 25ppm を満開期と満開 10~ 15 日後に行う種なし栽培においては、「巨峰」 並みの果粒が得られる。 果肉は崩壊性で硬く、マスカット香がある。このように、崩壊性で硬い肉質を持つこと とマスカット香があることが、我が国の主要品種である「巨峰」、「デラウェア」、「ピオー ネ」と品質的に大きく異なる点である。糖度は育成地では 19%程度になり、巨峰と同程度 である。一方、酸は「巨峰」よりも低く、育成地では 0.4g/100ml 程度またはそれ以下で、 酸抜けがよい品種と言える。 裂果性は非常に小さく、渋みもほとんど発生しない。果皮はヨーロッパブドウよりはや や厚いが、皮ごと食べられる。樹勢は強く、幼木では果粒が小さくなりやすい傾向がある が、樹齢が進んでくると果粒が大きくなる。より早い時期に果粒を大きくするためには、 -55- 若木のうちの強剪定を避け、早く樹間を拡大することが必要である。 試作栽培と耐病性検定の結果から、べと病抵抗性は「甲斐路」や「ネオマスカット」等 より強く、 「巨峰」並みと見込まれている。晩腐病は 2 種類の病原菌によって起こるが、そ のうちの 1 種の菌を接種した試験の結果では、 「ピオーネ」、 「デラウェア」等より強く、 「巨 峰」、「スチューベン」並みであった。しかしながら、黒とう病抵抗性は「巨峰」より弱い ので、雨量の多い地域においては、ビニール被覆や防除などの対策が必要である。「シャイ ンマスカット」の適正な収量は、概ね 1.8 トン/10a 程度と見込まれる。 「クイーンニーナ」の特性 「クイーンニーナ」は、1992 年に果樹試験場安芸津支場(現(独)農研機構果樹研究所ブ ドウ・カキ研究拠点)において、ブドウ安芸津 20 号(「紅瑞宝」×「白峰」)に、「安芸 クイーン」を交雑して得られた実生から選抜した品種である。1993 年に播種、選抜圃場に 定植した。2003 年に一次選抜し、2004 年からブドウ第 11 回系統適応性検定試験にブドウ 安芸津 27 号の系統名で供試された。33 都道府県 34 カ所の公立試験研究機関と果樹研究所 において特性が検討された。その結果、 2008 年度に新品種候補として選抜され、 同年9月に「クイーンニーナ」として品種 登録出願公表、2011 年 3 月に種苗法に基 づく品種登録(登録番号 20733 号)された。 「クイーンニーナ」は、育成地において 「巨峰」よりやや遅く8月下旬から9月上 旬に成熟する赤色のブドウである。なお、 系適試験における全国平均値では、「クイ ーンニーナ」の成熟期は「巨峰」より7日、 「ピオーネ」より3日程度遅い。食味は優 れ、糖度は 21%程度、酸含量は 0.4g /100ml 程度となり、「巨峰」、「ピオー ネ」より高糖・低酸である。肉質は、崩壊 性で硬く、優れた生食用欧州ブドウの肉質 クイーンニーナの無核果房 に近い。渋みはなく、香りは弱いフォクシ ーである。日持ちは「巨峰」、「ピオーネ」 と同程度である。 満開時と満開 10~15 日後の 25ppm ジベレリン処理により、果実重は 15g以上の無核粒 となり、「巨峰」、「ピオーネ」より大きくなる。果皮は鮮やかな赤色で外観は良好であ る。年と場所によりわずかに裂果が発生することがある。「クイーンニーナ」の裂果は、 収穫の遅れにより発生するものが多い。したがって、裂果の発生を抑制するためには、適 -56- 度な灌水により果粒のスムーズな肥大を促すとともに、収穫の遅延を防ぐために、収量過 多や大房により着色不良にならないように心がける。 樹勢は強く、発芽期および開花期は、「巨峰」、「ピオーネ」よりやや遅い。満開期と 満開 10~15 日後のジベレリン処理により、容易に種なし・大果生産が可能である。種なし 栽培した場合の花穂整形労力および摘粒労力は「巨峰」、「ピオーネ」と同程度である。 系統適応性検定試験においては、特に目立った病害は発生していない。 着果過多や大房な房管理、過度の果粒の肥大により、鮮やかな赤色が得られないことが ある。一方、果房に光が当たっていた方が良好な着色が得られる。果樹研究所ブドウ・カ キ研究拠点における試作栽培の結果では、着色の良好な果房を得るためには、収量を 1.2 ト ン/10 アール程度とし、果房重を 500g 程度またはそれ以下に抑えるとともに、樹冠をやや 拡大気味にして棚面をやや明るめに保つようにするのがよい。 -57- -58- 5.ブドウの着色機構 農研機構果樹研究所 栽培・流通利用研究領域 主任研究員 児下佳子 -59- 「ブドウの着色機構」 ―着色期における温度がブドウの着色に及ぼす影響について― 農業・食品産業技術総合研究機構 栽培・流通利用研究領域 果樹研究所 温暖化ユニット 児下 佳子 日本で栽培されているブドウと着色不良について 日本で栽培されるブドウの品種は、栽培面積が多い順「巨峰」(35.4%)、「デラウェア」 (20.2%)、「ピオーネ」(14.3%)、「キャンベルアーリー」(4.6%)、「マスカットベーリーA」 (3.1%)であり(平成 20 年度特産果樹生産動態等調査、農林水産省生産局生産流通振興課)、 上位 5 品種で 8 割近くを占める。これらに共通するのは果皮にアントシアニンを蓄積して 紫あるいは黒といった果皮色を呈する点である。 ブドウの主要な産地は山梨、長野、山形、岡山などであるが、それ以外にも日本のあら ゆる地域で産地が形成されている。比較的冷涼な長野や山形などを除けば、上記の着色す る品種の栽培において良好な着色が得られず着色不良果が発生し、問題となることがある。 着色不良は一般的に気温が高く、特に夜間の気温が下がらない地域で起こるとされている。 したがって温暖化がさらに進むと、着色不良はますます多発することが懸念される。 紫黒色ブドウの「巨峰」や「ピオーネ」などの着色不良は、本来紫黒色を呈するべき果皮 が十分黒くならず赤色を呈した状態で着色が進まなくなった状態を言う。紫黒色品種の着 色不良を特に「赤熟れ」と呼び、商品価値を低下させる。また赤色ブドウでも着色不良は 発生する。赤色ブドウの場合本来の理想的な赤色に仕上げることが難しいとされ、果皮に 緑色が残るものや、逆に極端に着色が過ぎるものは着色不良果として敬遠される。 着色する品種の栽培面積が広いことと、温暖化により高温となる地域が増える可能性が あることを考慮すると、着色不良対策を早急に確立する必要があり、これとあわせてブド ウの着色不良機構を解明する必要がある。これは、対策技術の根拠を示すことで、より説 得力のある技術とするためでもある。 ブドウの成熟特性について ブドウの成熟は極めて特徴的である。ブドウ果粒の成長過程において第2期から第3期 に入る頃、急激な軟化、糖度の上昇、有機酸含量の減少、着色などが観察される。果肉は 水がまわったように透明感がでてくるが、この時期をベレゾン、あるいは水まわり期とよ ぶ。ベレゾン期は生理学的にもダイナミックな変化が起こる時期であり、ベレゾン前後の 変化に関しては数々の生理学的な研究が積み重ねられている。例えばブドウ果皮における 生理活性物質含量の変化や果肉の細胞壁組成の変化、糖度や有機酸、アントシアニン含量 -60- の変化などについて調べられており、有機化学的あるいは分子生物学的手法等を用いた研 究が展開されている。 ブドウの着色に影響を及ぼす要因 ブドウの着色に直接影響を及ぼす主な要因として、1)着色期の温度、2)着果量、3) 樹体へのウイルス感染の有無などがあげられる。着色不良果はこれらの要因のうち一つで も該当すると発生する可能性があるが、実際はこれらの要因が複雑に絡み合って発生して いると思われる。 個々の要因が着色に与える影響について簡単に説明すると、着色期の温度が高いと着色 は不良となり、逆に低いと着色が良好となる。また適正着果量を超えて着果させると着色 が不良となる。着果量が少ないと着色は良好となるが、着色しすぎることもある。ウイル ス感染による着色不良は、ブドウリーフロールウイルス等への感染が原因で起こるとされ ている。 着色が良好な果実を生産するためにはこれら個々の要因を回避することが不可欠であり、 不利な要因が少ないほど着色が良好な果実の生産が可能となるため市場価値も上昇する。 しかし生産者は良品を生産するためのコストや手間と実際の販売価格とのバランスを取り ながら樹体を管理しており、どの価格帯の果実をどれくらい生産するかは個々の生産者の 判断に委ねられている。 ブドウの着色とアブシシン酸(ABA)との関連について ブドウの着色はベレゾン期に入ると急激に起こり、果皮ではアントシアニンが蓄積し、 ABA 含量が急激に上昇する(Coombe and Hale, 1973) 。また、ブドウの果房に ABA を散 布すると着色が促進する(松島ら、1989; Ban et al., 2003)。これらのことからブドウの着 色には ABA が深く関与していると考えられている。Ban ら(2003)は ABA を散布するとア ントシアニン生合成に関連する酵素遺伝子の発現が上昇し、その結果アントシアニン含量 が高くなることを確認している。したがって、ABA がブドウの着色に関連した酵素遺伝子 の発現を上昇させ、その結果着色が促進すると考えられている。 温度がブドウの着色と ABA 含量に及ぼす影響 ブドウの着色は低温で促進し、高温で抑制される。ブドウの着色が ABA で促進すること を考慮すると、低温による着色の促進は ABA 含量 (a) (b) の上昇を伴うことが予想される。 筆者らは赤色品種の中でも特に良好な着色が難し いと言われている「安芸クイーン」を材料とし、果 房を温度処理し(図 1)、温度が着色と ABA 含量に 及ぼす影響を調査した(Koshita et al., 2007)。 -61- 図1 果房への低温(a)および高温(b)処理の様子 その の結果、着色 色開始約 2 週間前から収 週 収穫まで夜間 間 (18:00~6:00)低温(自然 然温-5℃)処 処理すると着 着 色が改 改善し、自然 然温区より良 良好となるこ こと、また夜 夜 間高温 温(自然温+ +5℃)処理 理すると、自然温区より着 着 色が悪 悪くなること とが確認され れた(図 2)。 果皮 皮の ABA 含量 量は、着色が が改善した低 低夜温区では は 着色開 開始期~着色 色開始 10 日後にかけて 日 て自然温区より も高く推移し、高 高夜温区では は自然温区よ より低く推移 移 図2 することが明らか かとなった(図 3)。 着色 色に及ぼす影響 響 温度 度同様、果粒 粒糖度も着色 色に影響する る。 果房への温 温度処理が 180 160 ABA含量(ng/g FW) そこで で、「安芸ク クイーン」を を材料として着 色開始 始 2 週間前に に果粒糖度を を上昇させる る ために に環状剥皮処 処理を、低下 下させるため めに 葉の遮 遮光処理をそ それぞれ行い い、これらを を着 140 自然温 自 低 低夜温(自然温-5℃) 高 高夜温(自然温+5℃) 120 100 80 60 40 20 色開始 始 1 週間前の の 7 月 14 日に低温(20 日 0℃) 0 7 7/1 7/14 7/24 8/7 温度処 処理 (着色開始期) (収穫期) 開始 始 と高温 温(30℃)に に設定した人 人工気象室に に搬 入し、 、糖度と着色 色、果皮の ABA A 含量を を調べ た(Koshita et al., 2011)。 図3 への温度処理が「安芸クイーン」 果房へ 果皮の ABA 含量に及ぼす影響 含 響 環状剥皮および び葉の遮光処 処理後 1 週間 間目 ですで でに環状剥皮 皮区の果粒糖 糖度は無処理 理区 表 1 環状剥皮および遮光処理 理 7 日後の果粒糖 糖度 処理 対照区 環状剥皮区 区 葉遮光区 より約 約 2 度高く、 、遮光処理区 区で約 2 度低 低か った(表1) 。表 表2に温度処 処理開始から 14 日経過 過した、着色 色初期の糖度 度、アントシ シア z 糖度 (ºBrix) 9.2 bz 11.5 a 6.9 c 異なる文字間で Tuukey-Kramer の HSD 検 検定で 5%レベルで有 有意差あり ニン含 含量、ABA 含量を示した。同一温度 度 処理区内では剥皮 皮区の糖度が が他の処理区 区より有意に に高かった。ABA 含量は は剥皮処理区 区で葉 遮光区より有意に に高かった。アントシア アニン含量は は 20℃剥皮処 処理区で他の の処理区より り有意 に高く、このことから低温処 処理による着 着色促進効果 果が顕著にあ あらわれたの のは環状剥皮 皮区で あることが確認さ された。 表2 温度 度処理開始後 144 日目の果粒糖度 度、アントシアニンおよび ABA 含量 処理 ℃) 対照区(20℃ 環状剥皮区(20 0℃) 葉遮光区(20℃ ℃) 対照区(30℃ ℃) 環状剥皮区(30 0℃) 葉遮光区(30℃ ℃) z 糖度 度 (ºBrix) z 12.7 bc 1 15.6 a 7.3 d 12.4 c 15.5 ab 8.7 d BA含量(ng/g. FW W) アントシアニン含量 ア 量(μg/cm2) AB 3.9 b 265.6 ab 12.5 a 352.4 a 103.4 b 0.5 b 310.7 ab 0.9 b 419.4 a 2.0 b 129.5 b 0.8 b 異 異なる文字間で Tukey-Kramer の HSD 検定 定で 5%レベルで有意差 差あり これ れらの試験よ より、「安芸 芸クイーン」の着色にも低 低温が有利に に働くことが がわかる。ま また果 -62- 粒糖度は着色のための重要な因子であり、ABA 含量に有意差が認められない場合もアント シアニン含量は糖度が 2~3 度高い果房で高くなることから、「安芸クイーン」の着色は糖 と温度、ABA が複雑に影響して起こることが考えられる。 筆者らは一連の試験を「安芸クイーン」を用いて行ってきたが、苫名ら(1979)は「巨峰」を 材料として 7 月 13 日から 9 月 7 日まで樹体温を 20℃と 30℃に、果房周辺温度を 15℃、20℃、 25℃、30℃に設定し、これらの温度を組み合わせてアントシアニン含量と収穫時の ABA 含 量に及ぼす影響を調査した。その結果温度が低いほどアントシアニン含量と収穫時の ABA が高くなるという結論を得ている。筆者らが「安芸クイーン」を用いた試験のうち、果房周 囲の温度を着色開始前~収穫期まで夜間低くすると、着色期の ABA 含量が高くなったが、 収穫期はほとんど差が無かった(図 3)。また樹全体を着色初期から収穫まで終日 20℃と 30℃で育成すると、20℃区で着色が優れるものの、ABA 含量は温度による有意な差が認め られない。このように用いる品種や処理方法の違いによって反応が異なると考えられる。 ブドウの着色改善に対する ABA の利用について ブドウの着色は ABA 処理で改善させられることが、過去の知見から明らかである。ブド ウの果粒糖度が十分高いことは良好な着色のための必要条件であるが、Kataoka ら(1982) は摘葉処理により、糖度が低下した「巨峰」に ABA を処理しても着色が促進することを確認 している。この研究結果は ABA がブドウの着色に大きく関与していることを示すものであ り、非常に興味深い。ブドウの着色を向上させるための植物成長調節剤は現段階では登録 がないが、仮に ABA をブドウの着色改善に利用した場合、糖度が低くても着色が良いブド ウは、外観と味が一致しないため、消費者からの信頼を勝ち取ることができないと思われ る。 また、ブドウは一般的に袋をかけて栽培するため、果房への ABA 処理は非常に手間がか かることが予想され、果房への処理が実用的とは言い難く、ABA によるブドウの着色改善 技術を提示するには更なる検討を要する。 引用文献 Coombe, B.G., Hale, C.R., (1973) Plant Phisiol. 51. 629-634. 松島ら, (1989) 園学雑 58. 551-555. Ban et al., (2003) J. Hortic. Sci. Biotechnol. 78, 586–589. Koshita et al., (2007) Vitis 46. 208-209. Koshita et al., (2011) Scientia Hort. 129. 98-101. 苫名ら, (1979) 園学雑 48. 261-266. Kataoka et al., (1982). Vitis 21. 325-332. -63- -64- 6.ブドウの省力栽培化技術 農研機構果樹研究所ブドウ・カキ研究領域 上席研究員 薬師寺博 -65- ブドウの省力栽培化技術 -花穂整形器、花冠取り器および袋状ネットの技術紹介- (独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 ブドウ・カキ研究領域 薬師寺 博 1.はじめに ブドウは主要果樹の中でも 10a 当たりの年間労働時間が 455 時間(平成 19 年)と最も長 い。特に、商品性の高い房を作るために、花穂整形、摘房、摘粒など結果調整に多くの時 間をかける。開花期は結実を確保する重要な時期であると同時に大果生産に不可欠な結果 調整の時期でもある。しかし、開花期の作業は、期間が限定されている上に新梢管理や薬 剤防除などが重なるため、繁忙期の一つである。ブドウの花穂整形は、結実安定や高品質 果実生産の必須作業である。花かす落としも灰色かび病の軽減、さび果防止に効果の高い 作業であるが、概して遅れがちになりやすい。一方、ブドウも例外ではなく作業従事者の 高齢化・婦女子化が進む中、鳥獣害対策は重要な課題である。本研修では、これらの省力 栽培技術として当研究所で開発した花穂整形器、花冠取り器および袋状ネットについて技 術紹介する。 2.ブドウ花穂整形器 (1)開発の背景 ブドウの花穂整形(房つくり)は種なし・種あり栽培問わず多くの栽培品種において必 須作業である。その目的は、花振るい防止と 商品性の高い房型を作ることである。基本的 にはハサミを使用し、1 花穂につき 10~20 数 回刃先を小刻みに動かして、岐肩(副穂)や 主穂にある所定の支梗(小花穂)を切除して 花を間引く作業である。「巨峰」など多く四倍 体大粒系品種の作業適期は開花初期であり、7 ~10 日以内に多数の花穂に対して作業を完 了させる必要がある。加えて、ブドウ栽培の 多くは棚栽培であるため、長時間両腕を上げ た状態で作業を続ける必要があり、かなりの 第1図 花穂整形器(ラクカット) (片刃,押し刃付きタイプ) 重労働になる。 (2)花穂整形器について 花穂整形の省力法として、簡便な操作で短時間に花穂整形できる道具「花穂整形器」を 開発した(特許第4631017号)。本器は、挟んで下ろす(あるいは上げる)」という簡単な操 作で、種あり・種なし栽培を問わず花穂整形できる手の平サイズの道具である。花穂整形 器は、一対の半円形の切り刃(内径:5mm、7mm)を取り付けた開閉式の道具である(第1、 -66- 2図))。 刃 刃先は外向き であり、作業中に穂軸を傷つけない い工夫もこら らしている。基本的な使 使用法 は、一 一対の切り刃 刃の間に穂軸 軸を挟み、本 本体部の左右 右が上下にず ずれないよう うに連結板で で固定 し、穂 穂軸に沿って て下方あるい いは上方に動 動かして、不 不要な支梗(小花穂)を を切除する(第3 図)。慣行のハサ サミと比べて て6~7割作業 業時間を短縮 縮で きる。 。種なし・種 種あり栽培と ともに慣行栽 栽培と同様の の花 穂整形 形ができるた ため、ジベレ レリン処理な など管理作業 業も 慣行通 通りでき、果 果実品質への の影響はない い。 第2図 花 花穂整形器( サボテン社製 製) 第3図 図 花穂整形 形器の使用例 (両刃タイプ:替え刃: :5mm と 7m mm) 3.ブドウの花冠 冠取り器 (1) )開発の背景 景 ブドウの花弁は は合着型で、 、帽子のよう うな形状から ら花 冠やキャップと呼 呼ばれる(第 第4図)。花 花冠は満開後 後も 花 冠 花 糸 すぐには取れない いため、灰色 色かび病菌(病原菌: Botryytis cinerea Persoon)の 二次感染源になる。ブド P ウの場 場合、開花期 期の花穂の穂 穂軸や果梗の の一部が淡褐 褐色 に腐敗 敗し、湿度が が高い場合に に灰色のかび びを生じる。ひ どい場 場合は支梗(小花穂)単 単位で枯死す する。多発す する と1果 果房当たりの の果粒数が確 確保できず、直接収量に に影 響する。幼果に花 花かすが付着 着したままで であると本菌 菌が 第4図 図 満開期の のブドウの花 花 それらに寄生して て新たな感染 染源となり、果粒のさび び 果(第 第5図)、成 成熟果の裂果 果や貯蔵中の の腐敗の原因 因 になる。基本的に には、開花期 期前後の薬剤 剤防除で対応 応 するが が、耕種的防 防除法として て早期の「花 花かす(主と と して花 花冠)落とし し」が奨励さ されている。しかし、ブ ブ ドウの の開花期は多 多く作業が重 重なる農繁期 期であり、花 かす落 落としは概して遅れがち ちになる。慣 慣行法ではコ コ ンプレッサーやブ ブロアーを使 使用して花か かすを風圧 で吹き飛ばす場合 合もあるが、 、運搬車や動 動力源の確保 保 -67- 第5図 ブドウのさび果 が必要になる。そこで、第1回ジベレリン処理と花かす落としを同時に行うことを目的と した「花冠取り器」を考案した(実用新案登録第3129972号)。 (2)花冠取り器について 「巨峰」系ブドウの場合、第 1 回ジベレリン処理は満開~満開 3 日後に行う。この時期の 花冠は褐変し、花糸に引っかかった状態である(第4図)。そこで、ジベレリン浸漬用の カップ上部に花穂整形後の花穂が通過できる大きさの円形ブラシを取り付け(第6図左)、 花穂をジベレリン溶液に浸漬する際にブラシで花冠がこすり落とせるよう工夫した道具で ある(第6図右)。試作器はカップとブラシ部から成り、ブラシ部はプラスチック板の中 央部に直径 40mm の穴を開け、その穴に沿って円形に曲げたブラシ(山羊白毛、毛体長 9 mm、 毛体太さ 0.1 mm)を表裏に一つずつ固定して作成した。 使用法は、ジベレリン溶液をジベレリン浸漬用カップ(400 ml、協和発酵バイオ(株) 社製)に満たした後、プラスチック板をカップ上部にはめ込み、花穂整形した花房をブラ シで3~4回往復させながら、ジベレリン溶液に花房を浸漬する。作業が進むにつれて、 カップ内に花冠や花糸が貯まってくるが、気になる場合は、ブラシ部をカップから取り外 し、ジベレリン溶液を茶こしなどで花かすをろ過し、ジベレリン溶液を再利用すると良い。 第6図 花冠取り器(試作器)の構成(左)および作業例(右) (4)花かす落としの効果 四倍体ブドウの主要品種である「巨峰」と「ピオーネ」を用いて花かす落としの効果を調査 した結果、ブラシの通過に伴う花の損傷や落花が、数個認められたが、実栽培上ほとんど 問題にならない程度であった(第1表)。花かすを落とす効果は、対照区(カップのみ) のようにジベレリン溶液に花穂を浸漬しただけでは、花冠を取り除く効果は数%と低い。 これに対して、花冠取り器区は処理直後に 46~53%の花冠を取り除けた。処理2日後では、 対照区(カップのみ)の花冠除去率が 38%であったのに対して、花冠取り器区で 70%であ った。同様に、「ピオーネ」も花冠取り器で花冠除去効果が高かった。開花期の天候にもよ るが、花冠取り器で一度花冠が花糸から外れると、その後は花糸の離脱や花冠の乾燥が進 -68- んで、花冠が自然に脱落しやすくなると考えられる。このことからも、花冠取り器は第1 回ジベレリン処理直後から花かすを落とす効果は高いと考えられる。なお、幼果や収穫果 においてブラシに起因する傷は、肉眼上観察されていない。また、両品種ともに果粒肥大 や 糖 度 を 含 め 、 果 実 品 質 へ の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 第1表 ‘巨峰’(種なし)における花冠取り器の花冠除去効果の比較 (薬師寺ら,2009年) 処 理 区 花穂下部径 花穂長 花数 (mm) (mm) (mm) (個) 処理直後 2日後 処理直後の 落花数(個) 31.6 24.8 55.7 60.2 46.1 70.0 0.4 29.0 22.8 53.0 61.3 3.9 38.0 0.0 NS NS NS NS ** ** NS 花冠取り器 対照(カップのみ) 有意差 z 花穂上部径 y 花冠除去率(%) 注 z: (処理前の花冠数-処理後の花冠数)/(処理前の花冠数)×100 y:**は t- 検定により1%水準で有意差あり,またNS は有意差のないことを示す(n=10) (5)今後の課題 花冠除去率は 100%に至らなかったが、処理2日後には7~8割の花冠を取り除くこと ができた。結実後に仕上げの花かす落としをする場合でも、1 花穂当たりの作業時間を大 幅に短縮できる。開花期に花かすを落とせるため、灰色かび病の二次感染やさび果の軽減 に寄与できると考えている。また、花冠取り器は簡単に持ち運びできるため、コンプレッ サー等の大きな機械が不要になることも長所の一つである。試作器の問題点として、毛体 の長さがやや短かったため、穂軸が斜めに曲がった花穂や大きめの花穂の場合、ブラシに 通しづらい面があった。花穂下部に着生した小花は下方に向いているため、花穂下部の花 冠除去が不十分な場合がある。より効果的に花冠を取り除くためには、水に濡れても反発 性があり、細くて長い素材を使用する必要がある。現在、市販品の普及を目指してメーカ ーと協議中であり、早期の普及品提供に努めているところである。 4.ブドウ短梢せん定栽培の鳥獣害対策省力化を目的とした「袋状ネット」 (1)開発の背景 鳥獣害の対策として、物理的防除法(侵入防止柵、電気柵、防鳥ネット)、聴覚的防除法 (爆音機、鳥の悲鳴や警戒音)、視覚的防除法(かかしや目玉模様のバルーン)、嗅覚的防 除法(忌避剤)などが利用されている。しかし、聴覚的、視覚的、嗅覚的防除法の場合、 鳥獣の学習によって効果が持続しない事例が多い。一方、物理的防除法では、侵入防止柵 や電柵の設置に多額の費用を要する。一般的に、ブドウの棚上や周囲への防鳥ネットおよ び電気柵の設置などが用いられている。防鳥ネットを棚上に被覆する場合、脚立を用いた 危険な作業が伴うとともに、少人数での設置が困難であり多くの労力を要している。設置 が不完全であると十分な鳥獣害効果が得られず、また、ネットや電気柵によって栽培管理 の作業性が低下する場合もある。そこで、ブドウ短梢せん定栽培を対象にして、着脱が容 易で鳥獣害を効果的に防ぐことを目的とした「袋状ネット」を考案した(特開 2010-227090)。 (2)袋状ネットの構造と取付け手順 袋状ネットの特徴は、耐久性があり網目の細かいネットをブドウ果房のみが覆われるよ う袋状にすることで、短時間で多数の果房が保護できる点である(第 7 図)。また、棚下に ネットを吊るすためのフックがあり、着脱時に脚立は不要である。さらに、接合部には面 -69- ファス スナー(マジ ジックテープ プ)を用いる ることで袋の の開閉を容易 易とし、果房 房の管理と収 収穫が どの位 位置からでも もできるように配慮した た。 接 接合部(面ファス スナー) 短辺:約50 cm フック 棚線 棚線 20~40 cm フック ク ネ ネット 接合 合部 ネッ ット 袋状ネ ネット(展開図 図) 取付け時の の状態 第7図 袋状ネット トの模式図 袋 袋状ネットの の取付け手順 順は、最初にネ ネットに装着 着されたフッ ックを一列に に並んだ果房 房に沿 って棚 棚線に引っ掛 掛け、ネットを棚下に固 固定する。次 次に、果房に に近接して垂 垂れ下がった た状態 となったネットの の下方を持ち ち上げ、果房 房を包み込む む。最後に、ネットの外 外周に装着さ された 接合部 部で果房上部 部の穂軸を挟 挟んで、相互 互に接合する ることでネッ ットは袋状と となり果房が がネッ ト内に保護される る(第8図) )。 第 第8図 袋状 状ネットで保 保護された果 果房(左),取り付け完了時 時(右) (3) )袋状ネットの省力効果 果ならびに作 作業性 露地 地植えした短 短梢せん定栽 栽培「ピオー ーネ」(一文字 字型整枝法)を用い、袋 袋状ネット設 設置に 要する作業時間の の省力効果を を検討した。市販の防鳥 鳥ネットを樹 樹全体の棚上 上に被覆する る防鳥 ネット区を対照とし、両処理 理間の作業時 時間を比較し した。その結 結果、防鳥ネ ネット区では は一樹 -70- 当たり約 16 分を要したのに対し、袋状ネッ 20 短縮した(第9図)。防鳥ネット区では、脚 立上でのネットの展開や棚線への固定など、 熟練を要する煩雑な作業が多かったのに対 し、袋状ネット区では全ての作業を棚下で 容易に行えた(第 10 図)。短梢せん定栽培 であれば、様々な樹形や傾斜地などの立地 取り付け時間(分) ト区では約 5 分であり、作業時間が大幅に 15 10 5 条件の悪い園地でも設置可能と考えている。 ネットは棚下につり下がった状態で固定さ 0 れるため、慣行通りにSSや草刈り機など 袋状ネット区 防鳥ネット区 支障なく作業できた。ネット接合部は、面 ファスナーであり、果房の栽培管理や収穫の際 第9図 には、対象となる果房近傍の接合部のみを開く ことで作業を実施できた。収穫後の取り外しは、 袋状ネットと防鳥ネット (慣行)の作業時間の比較 (東ら,2011) 防鳥ネットのようにネットの引っかかりによる枝葉の損傷もなく、容易に完了できた。取 り外し後は折り畳んで、連年の使用が可能である。 第 10 図 防鳥ネット(慣行)(左)と袋状ネット(右)の取り付け作業 (4)袋状ネットの防鳥獣害効果 当研究所ブドウ・カキ研究領域(広島県東広島市)で植栽中の短梢せん定栽培「安芸クイ ーン」ならびに「ピオーネ」成木を用い、試作品による防鳥獣害効果を試験した。「安芸クイ ーン」の無被覆区の場合、着色開始期(7月下旬)から被害が見られ始め、8月 25 日(収 穫日)の被害果房率は約 50%であった。一方、袋状ネット区の収穫日の被害果房率は約 6% に抑えられた。「ピオーネ」も無処理区では着色開始期から被害が見られ始め、収穫日の被 害果房率は約 20%であったのに対し、袋状ネット区では被害果房はなかった。試作品の袋 状ネット区と無被覆区の収穫時の果実品質を比較した結果、両品種とも着色等果実品質へ の影響は認められなかった。 -71- 約6%の被害 約50%の被害 被害果房の割合(%) 100% 100 80% 80 無 (被害なし) 無 60 60% 小 (数粒の被害) 小 中 (房の半分程度) 中 40 40% 大 (残粒皆無) 大 20 20% 袋状ネット区 第2表 8月25日 8月12日 7月29日 7月15日 8月25日 8月12日 7月29日 7月15日 0 0% 無被覆区 防鳥ネット(慣行)と袋状ネットの鳥獣害の比較(東ら,2011) (5)今後の課題 袋状ネットの長所は上記に紹介した通りであり、鳥害はほぼ防ぐことができると考えて いる。しかし、獣害を完全に防ぐにはさらに改善が必要である。試作品の場合、ネットと 果房が密着した場所で獣による傷果など被害が多く発生した。対策として、設置時にネッ トと果房間が密着しないようネット全体もしくは一部に適当な剛性を有する資材を組み込 むなどの改良が必要である。本年の夏、当領域のブドウ圃場において獣によって試作品の ファスナーがこじ開けられ、大きな食害を受けた。このため、開閉部位について防獣害に も十分適用できるようさらなる改良が必要である。甚大な鳥獣害は、減収だけでなく労働 意欲の減退、さらには園地の荒廃にもつながる深刻な問題となる。簡便でかつ多様な鳥獣 害に対応できる技術の確立が急務である。現在、試作品を用いた現地試験を実施中であり、 早期の市販化を目指している。 (参考文献) 日園連.2009.平成 21 年度版果樹統計. 薬師寺博ら.2010.花穂整形器.特許 4631017 号. 薬師寺博ら.2008.新規道具を利用したブドウ花穂整形の省力化.園芸学研究.7: 81-86 . 薬師寺博・上野俊人. .花冠取り器.実用新案登録第 3129972 号. 薬師寺博ら.2009.ジベレリンとブドウ花冠取り器の同時処理による花冠取りの省力効果. 園芸学研究.8: 209-213. 東 暁史ら.2010.果房や果実の保護方法、果房や果実の保護ネット、特開 2010-227090. 東 暁史ら.2011.袋状ネットの利用による短梢せん定栽培ブドウの鳥獣害対策の省力化、 園芸学研究.10: 55~60 -72-