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中古住宅市場拡大の中で伸び悩む 中古住宅ローン

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中古住宅市場拡大の中で伸び悩む 中古住宅ローン
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
中古住宅市場拡大の中で伸び悩む
中古住宅ローン
中古住宅市場の規模が拡大しているのにもかかわらず、中古住宅ローンの
利用は低調だ。
新規貸出額は 2002 年以降減少が続いており、貸出残高ベースでみても 03
年をピークに徐々に縮小している。
こうした奇妙な事態が生じている背景としては、①住宅購入資金が不足し
ている中低所得層は、ローンは利用するものの借入金額を抑えて低∼中価格
帯の中古住宅を購入し、資金が豊富な高所得・高貯蓄層は、ローンを利用せ
ずに優良高価格帯の中古住宅を購入するという「中古住宅購入者の二層化」
や、②個人が主役だった中古住宅市場に、REIT や私募ファンド等の法人が投
資目的での積極参入を開始したことによる「法人の中古住宅購入の活発化」
---などが考えられるのではないか。
1.首都圏・マンション中心に拡大が続く中古住宅市場
中古住宅の売買成約件数に平均売買価格を乗じて中古住宅の市場規模を試
算すると、2001 年度=1兆 2073 億円→06 年度=1 兆 2919 億円と 5 年間で
7.0%拡大している(図 1)。
地域別にみると、首都圏では 01 年度=9227 億円→06 年度=9968 億円(5
年間の伸び率は 8.0%)、近畿圏では同 2846 億円→2951 億円(同 3.7%)と
なっており、首都圏中古住宅市場は、近畿圏市場の 3 倍強の規模を持ち、近
年の成長性でも近畿圏を上回っていることがわかる。
また、建築構造別にみると、中古マンション市場は、売買件数・平均価格
ともに伸びて 01 年度=6324 億円→06 年度=7712 億円(5 年間の伸び率は
21.9%)と大きく成長しているのに対し、中古一戸建て市場は、売買件数は
やや増えたものの平均価格が 1 割以上下落した結果、同じ期間に 5748 億円
→5206 億円(5 年間の伸び率は▲9.4%)と 1 割弱減少している(表 1)。
近年の中古住宅市場は、首都圏を中心に拡大しており、マンションの取引
が活発化している反面、一戸建て取引は縮小していると言えよう。
1
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
(億円)
15,000
12,000
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
近畿圏
図1
中古住宅市場規模
首都圏
12,887
12,919
2,935
2,951
9,420
9,952
9,968
2004
2005
2006 (年度)
12,073
11,943
12,317
12,222
2,846
2,778
2,864
2,802
9,227
9,165
9,453
2001
2002
2003
9,000
6,000
3,000
0
(注)2006年度値は06年4月∼07年2月のデータを元に当部で推計。
(資料)財団法人不動産流通近代化センター「指定流通機構の物件動向」
表1 建築構造別中古住宅市場規模
36,086
1,861
6,715
18,150
3,087
5,602
35,924
1,899
6,823
18,144
2,976
5,399
38,070
1,979
7,535
18,282
2,928
5,353
39,226
1,966
7,712
18,748
2,777
5,206
01→06
伸び率(%)
16.4
4.7
21.9
4.1
-13.0
-9.4
(件)
51,687
52,155
54,236
マンション・ 売買件数
戸建て 平均価格
(万円)
2,336
2,290
2,271
合計 市場規模
(億円)
12,073
11,943
12,317
(注)2006年度値は06年4月∼07年2月のデータを元に当部で推計。
(資料)財団法人不動産流通近代化センター「指定流通機構の物件動向」
54,068
2,260
12,222
56,352
2,287
12,887
57,974
2,228
12,919
12.2
-4.6
7.0
年度
売買件数
マン
ション 平均価格
市場規模
売買件数
一戸建
平均価格
て
市場規模
(件)
(万円)
(億円)
(件)
(万円)
(億円)
2001
33,686
1,877
6,324
18,001
3,193
5,748
2002
2003
34,302
1,859
6,377
17,853
3,118
5,566
2004
2005
2006
2.新規貸出・残高ともに縮小する中古住宅ローン
このように中古住宅の市場規模が拡大しているのにもかかわらず、個人向
けの中古住宅購入用ローン(以後「中古住宅ローン」)の利用は伸び悩んでい
る。
国土交通省「民間住宅ローンの実態に関する調査(民間金融機関向け)」に
よると、新規貸出額は、2001 年度=1996 億円→05 年度=1256 億円と 2/3
以下に縮小、貸出残高ベースでは、03 年度末の 5312 億円がピークで、05 年
9 月末時点では 4669 億円と、01 年度末と同水準まで減少している 1(図 2)。
1
金融機関に対するアンケート調査の結果であり、未回答の金融機関もかなりあるため、規模につい
ては必ずしも実態を反映していない(例えば、この数値を用いて「中古住宅ローン市場は中古住宅市
場規模の○○%程度」といった言い方はできない)が、変化のトレンドをつかむことはできる。
2
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
参考までに、新築住宅市場の動きを見ておくと、市場規模が 01 年度=4 兆
8087 億円→06 年度=3 兆 9405 億円と縮小(5 年間で▲18.1%) 2 している
のを受け、新築住宅購入用ローンの新規貸出額は 02 年の 1 兆 4865 億円をピ
ークに横ばいないし微減となっている。
貸出残高は、新規貸出額の方が返済額より大きいため引き続き増加が続い
ているが、増加率は、新規貸出が鈍ったことを反映して 03 年以降低下してい
る(05 年度=4 兆 6157 億円)。
新築住宅については、中古住宅の場合と異なり、市場規模が縮小し→ロー
ン新規貸出が鈍り→ローン残高の伸びが鈍化---という理解しやすい動きにな
っていると言える。
(億円)
図2
中古住宅ローンの新規貸出額と貸出残高
6,000
5,312
5,151
5,000
新規貸出額
貸出残高
5,270
4,669
4,622
4,000
3,000
2,000
1,996
1,962
1,762
1,433
1,256
1,000
0
2001
2002
2003
2004
2005 (年度)
(注)2005年度については、新規貸出額は05年4月∼9月データを元に当部で推計、
貸出残高は2005年9月末値。
(資料)国土交通省「民間住宅ローンの実態に関する調査(民間金融機関向け)」
2
新築住宅の市場規模は、不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」「近畿圏マンション市場動
向」のデータを基に、「新築マンション売却戸数×平均価格」で当部算出。
3
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
3.中古住宅ローン縮小の背景
「中古住宅市場が拡大しているのに中古住宅ローン市場は縮小している」
という、ある意味特殊な状況が発生しているのはなぜか。
単純に考えれば、「住宅ローンを利用しない中古住宅購入の規模が拡大し
ている(ローンを利用しない購入者の増加、彼らの購入物件の高額化)」とい
うことだろう。そしてその背景には、以下のような中古住宅市場における変
化があると考えられる。
① 中古住宅購入者の二層化
第 1 に、住宅購入資金不足の人は、背伸びをせずに(あまり高望みせず返
済負担を抑えることに重きをおいて)低∼中価格帯の中古住宅を購入する一
方、資金が潤沢な人は住宅ローンを利用せずに高額の優良中古住宅を購入す
るという「中古住宅購入者の二層化」が進んでいる可能性がある。
表 2 は住宅金融公庫の中古住宅ローン利用者像をまとめたものである。世
帯主年齢は横ばいから若干上がっているが、年収は 01 年∼04 年の間に 85
万円∼95 万円ほど低下、購入する中古住宅価格もマンションで 02 年=2095
万円→04 年=1899 万円、一戸建てで 01 年=2209 万円→04 年=1937 万円
とどちらも低下している。
それ以上に大きく低下しているのが住宅ローン借入金額で、中古マンショ
ン購入者では 01 年=1481 万円→04 年=1302 万円と 3 年間で約 179 万円、
中古一戸建て購入者では同 1574 万円→1292 万円と 282 万円も平均借入金額
が下がっている。これに伴い返済負担率(1ヶ月あたり返済予定額/世帯月
収)も、中古マンション購入者で 16.7%→15.8%、中古一戸建て購入者で
17.0%→16.2%と低下している。
つまり、中古住宅ローン利用者に限定すると、より年収の低い世帯が、無
理をせず借入金額を抑えて(=ローン返済負担を軽くして)、より低価格の中
古住宅を購入するようになってきているわけで、中古住宅ローン市場が縮小
するのは当然であろう。
その一方で、図 1 や表 1 で示したように、中古住宅市場全体(ローン利用
の有無を問わない)としての規模が拡大しているということは、手持ち資金
が潤沢で住宅ローンを利用しない中古住宅購入者(個人)の増加、および、
その購入物件価格の上昇---が考えられる。
4
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
購入者の増加については裏付ける統計がないが、購入物件価格の上昇につ
いては、ローン利用者が購入した中古マンションの平均価格は低下している
(表 2)が、中古マンション全体の平均価格はむしろ上がっている(表 1)こ
とから、住宅ローンを利用しない人が優良高価格帯の中古物件を購入してい
ると推測できる 3 。
表2 中古住宅ローン利用者の平均像の移り変わり
2001年
2002年
2003年
世帯主年齢(歳)
41.2
40.3
40.1
世帯年収(万円)
617.1
572.5
537.8
中古
購入価額(万円)
1,941.4 2,095.0 2,036.0
マンション
借入金額(万円)*
1,481.0
1,472.6 1,411.4
購入者
1ヶ月あたり返済予定額(千円)
75.5
73.9
66.0
返済負担率(%)**
16.7
16.2
15.3
世帯主年齢(歳)
40.4
39.8
40.1
世帯年収(万円)
610.3
569.4
534.6
中古
購入価額(万円)
2,209.3 2,187.4 2,172.5
一戸建
借入金額(万円)*
1,573.9
1,460.9 1,421.0
購入者
1ヶ月あたり返済予定額(千円)
84.3
79
69.6
返済負担率(%)**
17
17.1
16.4
*借入金額は公庫・民間の合計(=購入価額−手持ち資金)
**返済負担率=1ヶ月あたり返済予定額/世帯月収
(資料)住宅金融公庫「公庫融資利用者調査」
2005年以降はデータなし。
2004年
42.2
521.3
1,898.7
1,301.7
65.7
15.8
42.2
525.4
1,936.5
1,291.9
68.3
16.2
② 法人による優良中古住宅購入の活発化
中古住宅市場の拡大と中古住宅ローン利用の縮小が同時に起こっている 2
番目の背景としては、個人が主役だった中古住宅市場への、不動産投資ファ
ンドや REIT など法人の参入が活発化してきたことが考えられる。
不動産投資信託(J-REIT)の急成長にも表れているように、日本の不動
産証券化市場は年々膨らんでおり、とりわけ近年は、マンションなどの住宅
を投資対象としたタイプの伸びが目立つ。
そのしくみは、投資ファンドなどの法人が、投資家からお金を集めて優良
住宅(主としてマンション)を購入、これを賃貸住宅として管理運営し、賃
料収入などから投資家への配当を支払う---というものであり、当然、この住
宅購入は住宅ローン利用を伴わない 4 。
3 中古の一戸建てについては、住宅ローン利用者の購入物件の平均価格も中古一戸建て全体の平均価
格も下がっており、必ずしもローンを利用しない購入者の購入物件価格が上がっているとはいえない。
4
仮に、投資ファンド等が優良高額中古住宅の購入にローンを利用したとしても、事業性ローンなの
でP 3 の(図 2)に示した「個人用」中古住宅ローンのデータには入ってこない。
5
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
図 3 は、不動産証券化金額の用途別実績を示したものだが、「住宅」の不動
産証券化金額は、2001 年度=2670 億円→05 年=1 兆 2980 億円と 4 年間で
約 5 倍に増加している。
用途が「その他」の物件には「住宅と商業施設」あるいは「住宅とオフィ
ス」という複合ビルが多く、こちらの証券化金額も 01 年度=5120 億円→05
年=1 兆 6730 億円と 3 倍以上に増加しており、「住宅」を対象とした証券化
は不動産証券化市場の中でも大きく増加していると言える。
また、不動産投資家に対するアンケート調査を見ても、ファミリー向けや
単身者向け(ワンルーム)の賃貸マンションを中心に、投資対象としての住
宅購入が進んでいることがわかる(図 4)。同じ調査で、賃貸マンションの期
待利回り(不動産から得られる収益/不動産価格)が 04 年=6%台→05 年=
5%台半ば→06 年 5%前後と下がってきていることも、投資ファンドや REIT
の賃貸用住宅取得が活発化(過熱)していることの表れであろう。
そして、各 REIT の開示情報などを見ると、これら賃貸用住宅の中には中
古物件も相当数含まれていることがわかる(利便性の高い都心の優良物件で
あれば新築/中古を問わず、投資対象として積極的に購入されている)。
こうした法人による賃貸目的の中古住宅購入が、中古住宅市場拡大(ロー
ン利用は伴わない)の一因となっている可能性は高い。
(10億円)
7,000
6,000
5,000
図3
不動産証券化の用途別実績(上位のみ抜粋)
オフィス
住宅
商業施設
ホテル
1,673
その他*
902
3,000
2,000
1,000
263
783
1,472
4,000
267
1,611
512
161
805
552
686
61
61
122
77
404
835
1,298
808
1,516
1,728
2003
2004
2,279
710
0
2001
2002
2005 (年度)
*「その他」は用途が複数の建物など。「住宅と商業施設」「住宅とオフィス」が多く含まれる。
(資料)国土交通省「不動産の証券化実態調査」
6
住友信託銀行 調査月報 2007 年 4 月号
(%)
80
図4
経済の動き∼中古住宅市場拡大の中で伸び悩む中古住宅ローン
不動産投資家の対象物件別購入比率(複数回答)
賃貸住宅
2005年10月調査
60
49.051.0
40
46.0
37.0
38.0
34.0
20
34.031.0 33.037.0
24.0 23.021.0
20.0
23.0
19.0 20.018.0
宿泊型ビジネスホテル
物流施設、倉庫
郊外型ショッピングセ
ンター
都心型専門店ビル
オ フ ィ ス ビ ル ︵ Aク ラ
ス以外︶
オ フ ィ ス ビ ル ︵ Aク ラ
ス︶
高級賃貸住宅︵超高層
型︶
高級賃貸住宅︵低層
型︶
単身者向け賃貸住宅
︵ワンルーム︶
ファミリー向け賃貸住
宅
0
2006年10月調査
57.0
50.0
(資料)財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」
一見奇妙に思える「住宅ローン利用が減少する中での中古住宅市場の拡大」
も、中古住宅を購入する個人の間での二層化の進展や、個人中心だった中古
住宅市場への法人の参入の活発化といった中古住宅市場の構造変化を念頭に
おくと、違和感なく受け入れられよう。
(青木: [email protected] )
※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を
目的としたものではありません。
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