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トピックス1 不安感が払拭されない欧州債務問題

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トピックス1 不安感が払拭されない欧州債務問題
住友信託銀行 調査月報 2012 年 3 月号
経済の動き~2011・2012 年度の内外経済見通し(トピックス 1)
トピックス1 不安感が払拭されない欧州債務問題
◇ 小康状態を迎えた国債市場
ギリシャを発端とした欧州金融危機は足許では小康状態を迎えているように見
える。ギリシャの債務負担を巡る協議は長期化しており、いまだ結論には至ってい
ないものの、一時は、危険水域とされる 7%を上回っていたイタリアの 10 年国債利
回りは 5%台まで低下してきた(図1)
。
8
(%)
図 1 欧州主要国 10 年国債利回り
(%)
ドイツ(左軸)
7
40
35
イタリア(左軸)
6
30
ギリシャ(右軸)
5
25
4
20
3
15
2
10
1
5
10/01
10/07
11/01
11/07
12/01
(注) 各月末値、ただし 2 月は 2 月 10 日終値を使用。
(資料) Bloomberg より中央三井信託銀行業務部作成
しかしながら過去の金融危機の典型的な局面推移、すなわち①市場に催促された
個別対処、②危機の拡散、③断続的な対処による小康状態、④抜本的な対処と実体
経済改善、という推移からすると現在はまだ抜本的な対策が打たれる前の段階にあ
り、本格的な収束までの道のりは遠い。
今回の欧州発の金融危機の発端は、2009 年 10 月にギリシャの財政収支に粉飾が
あったことが発覚したことに始まった。その後、2010 年 11 月にアイルランド、2011
年 4 月にポルトガルが相次いで金融支援を要請する事態となり、さらに、2011 年 7
月に民間債務者にギリシャ国債の自発的な損失負担を求めたことから、財政に不安
を抱えていたイタリアやスペインなどに対する市場の警戒感が急速に高まり、いわ
ゆる“GIIPS”
(ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペインを表す
造語)へと危機が広がり、更に欧州の金融機関、欧州から投資・融資を受けている
新興国にまで危機が拡散した。
1
住友信託銀行 調査月報 2012 年 3 月号
経済の動き~2011・2012 年度の内外経済見通し(トピックス 1)
市場が安定に向かったきっかけの一つは昨年 11 月 30 日に行われた、主要各国中
銀によるドルスワップ金利の引き下げにより金融機関の資金繰り悪化に一旦歯止
めがかかったことにあるが、大きかったのは、欧州中央銀行(ECB)による金融
機関向けの低利での長期の信用供与にある。
12 月 8 日に開催された ECB 理事会にお
いて、欧州域内の金融機関に対して 36 ヶ月物長期リファイナンス・オペレーショ
ン(LTRO:Long Term Refinancing Operation)の実施が決定されたことにより、
銀行間の資金調達コストは低下し、国債や社債レートの上昇に歯止めがかかること
になった。3年間で1%の低利融資は欧州系銀行にとっては、短期的には資金調達
環境を好転させるのみならず、利回りの高い債券投資により利鞘を確保することが
できる。
◇ 信用収縮と実体経済の悪化のリスクが残る
ただし、欧州の混乱がこのまま収束に向かうかどうかは予断を許さない。
一つは、欧州景気の低迷が長期化する可能性が高いことである。イタリアなど欧
州の大半の国では緊縮財政政策を続けることが見込まれており、今後は雇用環境の
悪化も予想される。企業景況感と成長率の推移をドイツとイタリアで比較すると、
ドイツ経済には回復の兆しが見えてきた一方、イタリアが景気後退から脱する動き
はまだ見えない(図 2)
。
図 2 回復の兆しが見えたドイツ、景気後退が続くイタリア
(ドイツ)
(イタリア)
(前期比%)
65
(前期比%)
3
60
2
55
1
50
0
45
-1
40
-2
35
GDP(右軸)
-3
30
製造業PMI(左軸)
-4
25
08
09
10
11
2
55
1
50
0
45
-1
40
-2
GDP(右軸)
35
製造業PMI(左軸)
30
-5
07
60
-4
07
12
(四半期)
(注) 2012 年 1-3 月期は 1 月の数値を使用。
(資料) EUROSTAT、Markit 資料より中央三井信託銀行業務部作成
2
-3
08
09
10
11
12
(四半期)
住友信託銀行 調査月報 2012 年 3 月号
経済の動き~2011・2012 年度の内外経済見通し(トピックス 1)
加えて、一連の金融危機で傷ついた金融機関の資本増強の動きも遅れており、金
融機関が公的資金などによる資本増強を選べば財政赤字を拡大させ債務問題が悪
化してしまうし、他方でバランスシート調整を選択すると、信用面を媒体として欧
州発の金融危機が再びグローバルに拡散する可能性がある。
図 3 は欧州域内銀行の融資基準を 2007 年 7 月のベアスターンズ・ショックから
リーマン・ショックに至る過程と今回の財政危機と重ねたものである。前回はベア
スターンズ・ショックの影響が一巡した後に、リーマン・ショックが発生し信用収
縮が加速した。前回金融危機と比べると今回の融資基準の厳格化は半分の厳しさと
はいえ、未だピークアウトする兆しは見えていない。
以上を踏まえると、何らかのきっかけにより再び金融危機が広がり、2008 年と同
じような環境を迎える可能性は否定できず、国債利回りは低下するなど一旦は小康
状態を迎えているものの、欧州経済が今後悪化する中では、本格的な収束にはしば
らく時間がかかるだろう。
図 3 欧州金融機関貸出基準調査
40
35
リーマン・ショック
2007/1Q~
30
2011/1Q~
25
20
15
10
ベアスターンズ・ショック
5
0
-5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15 16
(期数)
(注) ECB が 1、4、7、10 月に作成している Bank Lending Survey より下記手法にて作成。
引締め、緩和とも「Considerable(かなり)」を 1 ポイント、「Somewhat(やや)」を 0.5 ポイントとし、
「引き締め」-「緩和」により指数化。
(資料)ECB 資料より中央三井信託銀行業務部作成
(中央三井信託銀行 業務部 経済調査グループ
寺坂 昭弘 [email protected])
※本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を
目的としたものではありません。
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