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レーザ溶接H形鋼の開発
レーザ溶接 H 形鋼の開発 91 技術資料 レーザ溶接 H 形鋼の開発 家 成 徹 * 桜 田 康 弘 ** 仲 子 武 文 *** 温 品 誠 二 **** 川 口 洋 充 ***** 朝 田 博 ****** Development of Laser Welded H Steel 様式 4 Toru Ienari, Yasuhiro Sakurada, Takefumi Nakako, Seiji Nukushina, Hiromitsu Kawaguchi, Hiroshi Asada Synopsis: Welded light gauge H steel is widely used in the architectural field because it has a good cross-sectional performance. However, small size welded light gauge H steel cannot be manufactured with the conventional production facility. For such reason, we developed small size welded light gauge H steel using laser welding as a new production method. In this report, performance of laser welded H steel was investigated. The results are as follows: 1)Full penetration welding can be obtained by one-side, one-pass laser welding in the production of welded light gauge H steel, which has T-shape weld joint. The tensile strength of laser welded H steel satisfies JIS, in the proper welding conditions range. 2)The results of structural test show that laser welded H steel has sufficient performance as an architectural member. 3)Since the weld zone by laser welding has good corrosion resistance, laser welded H steel of ZAM can be expected to omit the repair coating process. 4)Since laser welded H steel has sufficient performance as an architectural member, we obtained a grade of The Building Center of Japan (BCJ). 鋼帯に給電するための電極を支持する電極ホルダーが鋼 1.緒 言 帯に干渉することから小型サイズの製造が困難となる。 製造が困難なサイズについては,図 2 に示すような 2 つ 近年,建築物に対するニーズとして,耐震のための部 幅 材軽量化,設計自由度向上や建築物の長寿命化への対応 など要求スペックが高度化している。また,コスト低減 干渉 高さ に対する要望も大きい。このような中,単位質量当たり の断面性能が優れている溶接軽量 H 形鋼は,軽量化に 対し理想的な断面形状 1) を有することから,工業化住 宅の柱や梁などの構造部材や屋根材などの二次部材に広 く使われている。また,溶接軽量H形鋼の開口部に断熱 材や壁パネルが設置できるため,空間を有効活用したフ レーム枠材などにも適用されている。 溶接軽量 H 形鋼は一般的に鋼帯から連続的に高周波 抵抗溶接を用いて製造されている。しかし,図 1 に示 干渉 H 形鋼 電極チップ 電極ホルダー 図 1 高周波抵抗溶接の問題点 in high frequency resistance welding of Fig.1図 Problem 1 高周波抵抗溶接の問題点 すように,溶接軽量 H 形鋼のサイズが小さくなると, small size weldedinlight gauge H steel. resistance welding of Fig.1 Problem high frequency *加工技術研究部 **加工技術研究部 加工第一研究チーム 主任研究員 ***加工技術研究部 加工第一研究チーム 主任研究員 ****大阪支社商品開発部 住宅・建材開発チーム サブリーダー *****建材総合開発室 住宅鋼材総合開発チーム 主任部員 ******加工技術研究部 加工第一研究チーム チームリーダー size welded light gauge H steel. 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 92 レーザ溶接 H 形鋼の開発 溝形鋼 アーク溶接(2 パス/1 箇所) レーザ光 アーク溶接 溝形鋼による溶接軽量 H 形鋼 アーク溶接による溶接軽量 H 形鋼 ウェブ フランジ 図 2 小型サイズの溶接軽量H形鋼の適用例 図 2 小型サイズの溶接軽量H形鋼の適用例 Fig.2 Examples of small size light welded gauge H steel. Fig.2 Examples of small size welded gaugelight H steel. 溶接部 図 3 レーザ溶接 H 形鋼の溶接方法 Fig.3 Welding of laser H welded H steel. 図method 3 レーザ溶接 形鋼の溶接方法 の溝形鋼のウェブ同士を重ね合わせて H 形状に組み立 てて溶接した H 形鋼やアーク溶接を用いて製造された Fig.3 Welding method of laser welded H steel. H 形鋼が使用されている。アーク溶接を用いた場合,高 込み溶接が可能なレーザ光を片側から照射して,1 パス 周波抵抗溶接に比べて溶接回数が増加することによる生 による溶接で製造できることが大きな特徴である。 産性の低下や熱変形により生じる歪みの矯正などの問題 また,建築用途に適用するためには長尺のレーザ溶接 が生ずる。また,浸漬めっきの代替としてめっき鋼板を H 形鋼が必要となる。そこで,レーザ溶接による片側 1 番使用すると,溶接時の入熱により溶接部周辺のめっきが 号 表( ) 図(2 ) (写真は図に含める) パス溶接を用いて,長尺レーザ溶接 H 形鋼の製造技術 同時にコストアップに繋がる。これらの問題点を改善す 本設備は,長尺の 3 枚の鋼板を H 形状にセットし,駆 る溶接方法としてレーザ溶接が挙げられる。 動装置により溶接位置に連続的に供給する設備である。 を検討した。図 4 に長尺品を製造する設備の外観を示す。 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 家成 徹 損傷して補修塗装作業が必要となるため手間がかかると レーザ溶接は一般的な溶接方法であるアーク溶接に比 図 5 に示すように,溶接位置は駆動側(DS)と操作側 べて高速溶接でも深い溶け込み形状が得られ,鋼板の熱 (WS)に 2 箇所あり,それぞれフランジとウェブの継 変形が小さく薄板への適用が可能である。 また, 溶接ビー 手に隙間が生じないよう両フランジの外面からスクイズ ド幅が狭いため,めっき鋼板に適用した場合でもめっき ロールで挟み込み,T 字隅肉継手を形成する。試験体の 損傷を最小限に抑えることができる。 製造条件は,ウェブの板厚に応じてレーザ光の出力と溶 番 号 表( 刷り上り希望大きさ ) 図(3 80mm ) (写真は図に含める) 幅 170mm 幅 執筆者名 家成 徹 接速度を制御した。試作を行った H 形鋼の素材は,建 そこで,筆者らは溶接軽量 H 形鋼の新たな溶接方法 としてレーザ溶接を適用し,小型サイズも作製すること が可能なレーザ溶接 H 形鋼の製造技術を開発した。こ れにより,従来使用できなかった部材に対しても,優れ た断面性能をもつ H 形鋼が適用できる可能性があり,H 形鋼の適用範囲が拡大するものと期待される。 また,開発したレーザ溶接 H 形鋼について構造試験 を実施し,得られた結果をもとに,公的評価機関である 一般財団法人日本建築センターの評定申請を行い,部材 評定を取得した。 本報では,優れた耐食性を有する溶融 Zn-6% Al-3% Mg 合金めっき鋼板 2)(以下,ZAM と記す)を用いて, 図 44 レーザ溶接 レーザ溶接 H 形鋼の製造設備 図 H 形鋼の製造設備 レーザ溶接 H 形鋼を作製し,H 形鋼としての性能につ Fig.4 Production facility of laser welded H steel. Fig.4 Production facility of laser welded H steel. いて検討した結果を報告する。 溶接方向 2.レーザ溶接による溶接軽量 H 形鋼の製造方法 レーザ光 DS WS 溶接軽量 H 形鋼は 2 枚のフランジと 1 枚のウェブの 計 3 枚の鋼板から構成される形鋼であり,接合箇所はフ ランジとウェブから成る T 字隅肉継手である。通常,T 字隅肉継手を溶接する場合,隅肉部の両側から 2 パスに より接合される。これに対して,開発したレーザ溶接 H 形鋼は,図 3 に示すように T 字隅肉継手部に深い溶け 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) スクイズロール 図 5 製造方法の概要 図 5 製造方法の概要 Fig.5 Outline of)production method. 表( 図(4 ) (写真は図に含める) of幅 170mm production method. Fig.5 Outline 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 執筆者名 家成 徹 番 号 レーザ溶接 H 形鋼の開発 93 母材破断(ウェブ) H 形鋼 治具 図 6 溶接軽量 H 形鋼の引張試験 図 6 溶接軽量 H 形鋼の引張試験 Fig.6 Appearance of tensile test for welded light gauge H steel. Fig.6 Appearance of tensile test for welded light gauge H steel. 図 7 引張試験サンプルの外観 図 7 引張試験サンプルの外観 Fig.7 Appearance of specimen after tensile test. Fig.7 Appearance of specimen after tensile test. 表 1 曲げ耐力試験体の寸法 築用途を想定し ZAM の 400N/㎟級鋼材とし,片面の Table1 Dimension of specimens for bending test めっき付着量が 90g/㎡のものを用いた。製品寸法は高 試験体 さ 60mm,幅 80mm,フランジおよびウェブともに板厚 A B 1.6mm と 2.3mm の 2 種類とした。 番 号 表( 刷り上り希望大きさ ) 図(6 80mm ) 幅 170mm 幅 (写真は図に含める) 執筆者名 寸法(mm) 高さ×幅×ウェブ厚×フランジ厚 H - 60 × 80 × 1.6 × 1.6 H - 60 × 80 × 2.3 × 2.3 長さ(mm) 2,900 2,900 家成 徹 3.レーザ溶接 H 形鋼の性能評価方法 3.1 引張試験 支持 レーザ溶接H形鋼を用いて引張試験を実施し,レーザ δ5 試験体 溶接 H 形鋼の引張強度を評価した。試験方法は「一般 構造用溶接軽量H形鋼(JIS G 3353)」に準拠し,図 6 に H 形鋼の引張試験の状況を示す。図 7 に試験後の溶 接軽量 H 形鋼の破断形態の外観を示す。JIS では,溶接 軽量 H 形鋼の引張試験時の破断形態について,フラン 番 号 表( 加圧体 ) 図(7 ジまたはウェブの母材破断として規定されるため,試験 変位計 幅 170mm 幅 80mm 片の破断形態を調査した。 ) δ3 (写真は図に含める 100 家成 徹 9 執筆者名 P 3.2 曲げ耐力試験 図 8 曲げ耐力試験 長尺のレーザ溶接 H 形鋼を用いて曲げ耐力試験を実 Fig.8 施し,弾性域における変形量および最大荷重を計測する 側面 Appearance of bending test. ことにより断面性能を評価した。また,破壊状況を観察 することにより溶接部の健全性を評価した。試験体の寸 試験体 法を表 1 に示す。試験方法は 「金属製折板屋根構成材(JIS 加圧体 支持板 」の評価方法に準拠し,図 8 に試験概要を示す。 A 6514) 試験体 図 9 に載荷手順および各サイクルの載荷荷重を示す。載 δ5 上面 δ2 δ6 δ1 δ4 900 荷モデルは図 10 に示すように 3 等分 2 点集中荷重とし, 弾性域内で段階的に載荷,除荷を繰返し,その後,試験 体が破壊するまで荷重を載荷した。変形量の計測を 6加圧体 箇 所で計測し,次式にて算出したたわみ量により試験結果 変位計 を整理した。 δ ={( δ 1-( δ 3+ δ 4)/2)+( δ 2-( δ 5+ δ 6) /2)}/2 δ 1,δ 2,δ 3,δ 4,δ 5,δ 6:各測定位置におけ る変位量 図 8 曲げ耐力試験 Fig.8 Appearance of bending test. δ3 100 900 図 8 曲げ耐力試験 番 号 900 表( 900 Fig.8 Appearance of bending test. 刷り上り希望大きさ 100 ) 図(8 80mm 幅 170mm 幅 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) ) 番 号 レーザ溶接 H 形鋼の開発 載荷荷重(kN) 94 破壊まで ② ① 1 ③ 載荷 ④ 試験体 除荷 載荷荷重 (kN) ① ② ③ ④ A 0.6 1.2 1.8 2.4 B 1.4 2.8 4.2 5.7 4 3 2 サイクル数 図 9 載荷手順 図 9 載荷手順 Fig.9 Bending test procedure. Fig.9 Bending test procedure. 図 11 短柱圧縮試験 図 11 短柱圧縮試験 P/2 試験体 P/4 Fig.11 Appearance of stub compression test. test. Fig.11 Appearance ofcolumn stub column compression P/4 フランジ外面の熱影響部に対し,補修塗装有り,無しの 2 水準とした。補修塗装には水溶性エポキシエステル樹 脂を主成分とした塗料を用い,厚み 40 μ m 塗布した。 900 900 図 10 載荷モデル 図 10 載荷モデル Fig.10 Bending model. 表( )test 図(9 ) Fig.10 Bending test model. 刷り上り希望大きさ 80mm 比較材として,ZAM を素材とした高周波抵抗溶接で製 900 幅 170mm 幅 造された市販の溶接軽量 H 形鋼を使用した。溶接部の (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 3.3 短柱圧縮試験 耐食性を評価するため,試験体の鋼板端面は全てシーリ ング材により保護し,切断端面からの錆を防止した。 CCT 試験は 200 サイクル実施し,図 12 に示す試験体の 溶接部およびフランジ外面の熱影響部について評価し レーザ溶接 H 形鋼に圧縮載荷を実施し,軸方向圧縮 力を受けて局部座屈が生じる場合の強度を評価した。試 験体の寸法を表 2 に示す。試験方法は社団法人鋼材倶 楽部(現一般社団法人日本鉄鋼連盟)が規定した鋼構造 た。 表 3 試験体の明細 Table3 Specimens for combined cyclic corrosion test ウェブ厚×フランジ厚 表((mm) ) 刷り上り希望大きさ 1.6 × 1.6 80mm 図 11 に試験概要を示す。試験体の圧縮変形を 2 点の変 号 表( ) 図(10 ) (写真は図に含める) 2.3 × 2.3 位計で計測するとともに,試験体のフランジ,ウェブ中 3.2 × 3.2 り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 家成 徹 央に歪ゲージを貼付し,局部座屈の発生を推定した。 3.2 × 4.5 番 号 物の耐震性能評価のための標準試験方法 3) に準拠し, 表 2 短柱圧縮試験体の寸法 フランジ外面の熱影響部 Table2 D i m e n s i o n o f s p e c i m e n s f o r s t u b c o l u m n compression test 試験体 A B 寸法(mm) 高さ×幅×ウェブ厚×フランジ厚 H - 60 × 80 × 1.6 × 1.6 H - 60 × 80 × 2.3 × 2.3 長さ(mm) 180 180 図 12 耐食性評価位置 3.4 耐食試験 レーザ溶接の特徴の一つに入熱範囲が非常に狭いこと が挙げられる。めっき損傷範囲が狭いため,レーザ溶接 部においても犠牲防食効果 レーザ溶接 H 形鋼 高周波抵抗溶接 H 形鋼 図(11 (写真は図に含める) 補修無 補修有) 補修無 補修有 ○ 170mm 幅 ○ - - 徹 幅 執筆者名 家成 ○ ○ - - ○ ○ - - - - ○ ○ 4) Fig.12 Surveyed図areas of combined cyclic corrosion test. 12 耐食性評価位置 4.実験結果 Fig.12 Surveyed areas of combined cyclic corrosion test が期待され,溶接部およ び熱影響部の補修塗装が省略できる可能性がある。そこ で,JASO M609-91 に規定される複合サイクル腐食試験 (以下,CCT 試験と記す)により,ZAM を用いたレー ザ溶接 H 形鋼の耐食性を調査した。 表 3 に試験体の明細を示す。試験体は溶接部および 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 溶接部 4.1 長尺レーザ溶接 H 形鋼の試作結果 片側 1 パス溶接でのレーザ溶接部が,ウェブ厚に対し て完全な溶け込みとなるように,溶接可能な範囲を調査 した。図 13 に各板厚におけるレーザ出力 4kW の場合 レーザ溶接 H 形鋼の開発 ウェブ厚 × フランジ厚 (mm) 2.3×2.3 1.6×1.6 95 溶接速度 (m/min) 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 3,500mm :スパッタ大 :適正 :溶込み不良 図 13 適正溶接条件範囲(レーザ出力:4kW) 図 13 適正溶接条件範囲(レーザ出力:4kW) Fig.13 Laser welding condition range. Fig.13 Laser welding condition range. WS DS 80mm の適正な溶接条件範囲を示す。いずれの板厚に対しても 良好な溶接が行える溶接速度の範囲は十分に広く,ウェ ブ厚に応じて溶接速度を調整することにより安定した溶 接が可能であった。図 14 に図 4 の製造設備で試作した (H - 60 × 80 × 1.6 × 1.6の外観(H-60×80×1.6×1.6×3,500) × 3,500) 図 14 レーザ溶接 H 形鋼 長尺レーザ溶接 H 形鋼の外観を示す。また,図 15 に溶 Fig.14 Appearance of laser H steel. H steel. Fig.14 Appearance ofwelded laser welded 接開始点から 1,000mm 毎の位置での溶接部の断面観察 溶接開始点からの距離(mm) 1,000 2,000 3,000 0 60mm 図 14 レーザ溶接 H 形鋼 の外観 3,500 DS 号 表( 刷り上り希望大きさ ) 図(13 80mm 幅 170mm 幅 ) (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 WS 2mm 図 15 溶接部の断面 図 15 溶接部の断面 of weld zone. Fig.15 Cross-section Fig.15 Cross-section of weld zone. 番 号 500 表( ) 図(14 結果を示す。試作品 3,500mm の全長にわたって溶接部 刷り上り希望大きさ 400 引張強度 ( N/mm2) 番 の断面形状に変化はなく,めっき鋼板に多く見られるブ ローホールなどの溶接欠陥も認められなかった。 4.2 引張試験結果 図 16 に試作した長尺レーザ溶接 H 形鋼の 1,000mm 毎の位置での引張試験結果を示す。破断形態は全てウェ れず,強度も母材強度である 400N/㎟を超えていた。こ の結果は JIS の規格を満足しており,連続的にレーザ溶 接を行った長尺の H 形鋼の溶接部は健全であると判断 幅 170mm 幅 (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 300 200 100 0 ブでの母材破断であり,溶接部での割れや破断は認めら 80mm ) 0 1,000 2,000 3,000 3,500 溶接開始点からの距離 (mm) 図図 16 引張試験結果 16 引張試験結果 Fig.16 Results of Fig.16 Results of tensile tensiletest. test. される。 4.3 曲げ耐力試験結果 荷,除荷の繰り返しにより生じるたわみ量の変化に差異 は認められず,弾性変形を示した。 図 17 に試験後の試験体の外観を示す。いずれの板厚 また,断面性能について評価するために,以下の手順 番 号 表( ) 図(15 の試験体も圧縮側フランジで座屈したが,レーザ溶接部 ) (写真は図に含める) で設計の基準となる計算値を算出し,実験結果と比較し 5) 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 た。試験体 執筆者名 家成 徹 での割れや破断は認められなかった。図 18 に試験体の A は薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き , たわみ量と荷重の関係を示す。両試験体とも段階的な載 試験体 B は鋼構造設計規準 6) に従って,強軸まわりに 番 号 表( 刷り上り希望大きさ ) 図(16 80mm ) 幅 170mm 幅 (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 96 レーザ溶接 H 形鋼の開発 座屈部 H-60×80×1.6×1.6 試験状況 H-60×80×2.3×2.3 フランジで座屈 フランジで座屈 17 曲げ耐力試験後の試験体の外観 図図 17 曲げ耐力試験後の試験体の外観 12 12 10 番 10号 表( 8 刷り上り希望大きさ 8 4 2 6 4 2 0 0 80mm 0 100 ④ ③ ② ① 4 )3 3 幅 170mm 幅 荷重 6 ) 図(17 4 ( kN ) 14 5 ④ ③ ② ① 2010 3020 4030 5040 6050 7060 2 荷重 14 5 ( kN ) 16 ( kN ) 16 荷重 荷重 ( kN ) Fig.17 Appearanceofofspecimens specimensafter after bending test. Fig.17 Appearance bending test. (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 ④ ④ ③ ③ ② ② ① ① 2 1 1 0 700 0 0 5 5 10 10 15 15 20 20 たわみδ (mm) たわみδ (mm) たわみδ (mm) たわみδ (mm) 12 10 8 6 4 2 10 8 6 ④ ④ 4 ③ ③ ② ② ① ① 2 0 0 0 100 10 8 8 2010 3020 4030 5040 6050 7060 たわみδ たわみδ (mm) (mm) (b) (b) H-60×80×2.3×2.3 H-60×80×2.3×2.3 図 18 たわみ―荷重曲線 図 18 図たわみ―荷重曲線 18 たわみ―荷重曲線 Fig.18 Deflection-load curves. Fig.18Fig.18 Deflection-load Deflection-load curves. curves. 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 6 4 ( kN ) 12 10 荷重 14 ( kN ) 14 荷重 16 ( kN ) 16 荷重 荷重 ( kN ) (a) (a) H-60×80×1.6×1.6 H-60×80×1.6×1.6 6 4 2 2 0 70 0 0 0 10 10 ④ ④ ③ ③ ② ② ① ① 20 20 たわみδ たわみδ (mm) (mm) 30 30 レーザ溶接 H 形鋼の開発 曲げを受ける部材として規定された幅厚比制限値(規定 97 H-60×80×1.6×1.6 された幅厚比から設計時に必要な有効幅を求めるための H-60×80×2.3×2.3 制限値)に基づき,それぞれ有効断面積を算出した。さ らに算出した有効断面積を用いて,荷重載荷モデルの最 大曲げモーメントから設計の基準となる計算値を求め た。表 4 に計算値と実験により得られた最大荷重を示す。 試験による最大荷重は幅厚比制限値から求めた計算値と ほぼ同等であり,レーザ溶接 H 形鋼は強軸まわりに曲 げを受ける部材において,所定の断面性能を有している ことを確認した。 図 20 短柱圧縮試験体の破壊状況 図 20 短柱圧縮試験体の破壊状況 表 4 曲げを受ける部材の幅厚比制限値による計算値と実験 値の比較 Table4 Comparison between calculated values using the width-thickness ratio restrictions rule of flexural member and experimental results かった。また,曲げ耐力試験と同様に断面性能について 降伏応力度 (N/㎟) 354 330 試験体 A B 有効断面積 (㎟) 220.2 407.1 計算値 (kN) 7.1 13.0 実験最大荷重 (kN) 8.3 15.0 Fig.20 Appearance of specimens stub column compression Appearance Fig.20 of specimens afterafter stub column compression test. 評価するために,以下の手順で計算値を算出した。各試 験体に対し圧縮応力下における幅厚比制限値 5)6)に基づ き有効断面積を算出した。算出した有効断面積を用いて 設計の基準となる計算値を求めた。表 5 に計算値と実 験により得られた最大荷重を示す。試験による最大荷重 は幅厚比制限値から求めた計算値と大きな差異はなく, レーザ溶接 H 形鋼は圧縮応力下において,所定の断面 4.4 短柱圧縮試験結果 性能を有していることを確認した。 表( ) 図(20 図 19 に変位計の測定結果から求めた応力度-歪度の 番 号 ) (写真は図に含める) 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 家成 徹 関係,図 20 に試験体の破壊状況を示す。いずれの板厚 刷り上り希望大きさ 表 5 圧縮を受ける部材の幅厚比制限値による計算値と実験 の試験体も最大荷重付近で試験体中央にて局部座屈が発 生したが,レーザ溶接部での割れや破断は認められな 応力度 ( N/mm2) 400 試験体 200 A B 100 応力度 ( N/mm 2) (a) 降伏応力度 (N/㎟) 354 330 有効断面積 (㎟) 220.2 407.1 計算値 (kN) 77.9 143.3 実験最大荷重 (kN) 74.4 128.8 4.5 耐食試験結果 0 2 歪度 (%) 4 6 H-60×80×1.6×1.6 図 21 に CCT 試験 200 サイクル後の溶接部周辺およ びフランジ外面の熱影響部の外観を示す。レーザ溶接に 400 よる試験体では,補修の有無に関わらず溶接部周辺およ 300 られず,良好な耐食性を示した。一方,高周波抵抗溶接 びフランジ外面の熱影響部のいずれも赤錆の発生は認め を用いて製造された試験体では,補修無しの場合は溶接 200 部の全面に赤錆が発生し,補修有りの場合でも軽度な赤 100 ランジ部の断面観察結果を示す。レーザ溶接部周辺にて 錆が確認された。図 22 にレーザ溶接の溶接止端部とフ 良好な耐食性を示したのは,溶接ビート幅が約 1mm と 0 0 (b) 2 歪度 (%) 4 6 H-60×80×2.3×2.3 表( ) 図(19 80mm 幅 170mm 幅 の領域までめっき層が残存しているため,切断端面の防 ことにより 7) 赤錆の発生が抑制されたと考えられる。 Fig.19 Stress-strain curves. 刷り上り希望大きさ 狭いことに加えて,溶接金属に非常に近い 50 μ m 程度 食機構と同様に Mg を含む安定な腐食生成物で覆われる 図 19 応力度-歪度曲線 19 応力度-歪度曲線 Fig.19 Stress-strain curves. 番 号 Table5 Comparison between calculated values using the width-thickness ratio restrictions rule of compression member and experimental results 300 0 図 値の比較 ) (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 98 レーザ溶接 H 形鋼の開発 ウェブ厚× フランジ厚 (mm) 溶接 方法 補修 有無 溶接部 フランジ外面の熱影響部 無 1.6×1.6 有 レーザ 溶接 無 2.3×2.3 有 ― 無 3.2×3.2 様式 4 有 高周波 抵抗溶接 ― 無 ― 有 ― 3.2×4.5 21 複合サイクル腐食試験 200 サイクル後の外観 図図21 複合サイクル腐食試験 200 サイクル後の外観 Fig.21 Appearanaceofofspecimens specimensafter after 200cycles of combined cyclic corrosion Fig.21 Appearanace 200cycles of combined cyclic corrosion test. test. ②定常部 B 高さH 溶接金属 ② ③ t2 ① t1 めっき層 t2 H 母材 番 号 表( ) 図(21 50µm ①溶接止端部刷り上り希望大きさ ③フランジ外面の熱影響部 80mm 50mm 以上 100mm 以下 幅B 50mm 以上 100mm 以下 ウェブ厚 t1 0.8mm 以上 2.3mm 未満 フランジ厚 t2 0.8mm 以上 2.3mm 未満 長さ L 12m 以下 (写真は図に含める) 図) 23 日本建築センター評定の取得範囲 図 23 執筆者名 日本建築センター評定の取得範囲 幅 170mm 幅 Fig.23 家成 徹 of The Building Center of Japan Acquisition range Fig.23 Acquisition range of a grade of The Building Center of Japan (BCJ). grade. 図 22 溶接止端部およびフランジ部の断面 図 22 溶接止端部およびフランジ部の断面 Fig.22 Cross-sections of weld edge zone and heat affected zone in flange part. Fig.22 Cross-sections of weld edge zone and heat affected zone in flange part. 公的な評定として,日本建築センターにレーザ溶接によ る溶接軽量 H 形鋼の評定申請を行った。 また,フランジ外面の熱影響部は,溶接時の入熱の影響 その結果,建築部材として十分な性能を有していると を受けていない定常部と同程度のめっき層が保たれてお 評価され,平成 23 年 1 月 14 日に部材評定を取得した。 り,レーザ溶接の入熱によるフランジ外面のめっきの損 図 23 に取得した溶接軽量 H 形鋼の適用範囲を示す。 傷は小さいと言える。 以上の結果から,高耐食性を有する ZAM を素材に用 5.今後の展開 いることで,レーザ溶接 H 形鋼の溶接部周辺およびフ ランジ外面の熱影響部とも,補修塗装を省略しても溶接 図 24 に 2 つの溝形鋼のウェブ同士を重ね合わせて H 部に補修を施した高周波抵抗溶接による溶接軽量 H 形 形状に組み立てて溶接した H 形鋼と同じ寸法のレーザ 鋼と同等以上の耐食性を有しており,補修塗装の省略が 溶接 H 形鋼の比較の一例を示す。レーザ溶接H形鋼は 期待できる。 溝形鋼の組み合せに比べて約 20%の軽量化が可能であ 番 号 4.6 日本建築センター評定の取得 表( ) 図(22 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 ) る。また,溝形鋼の組み合せの場合,溝形鋼を製造する 表( ) 図(23 ) (写真は図に含める) (写真は図に含める)番 号 ために必要なロール成形などの成形工程とそれらをH形 刷り上り希望大きさ 80mm 幅 170mm 幅 執筆者名 家成 徹 執筆者名 家成 徹 レーザ溶接 H 形鋼は建築部材として十分な特性を有 していることを確認できたことから,構造性能に関する 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011) 状に組み立てる溶接工程の 2 工程が必要となる。一方, レーザ溶接H形鋼は溶接工程のみであり,溝形鋼の組み 図 24 溶接軽量H形鋼の比較 レーザ溶接 H 形鋼の開発 99 Fig.24 Comparison of welded light gauge H steel. 寸法 (mm) あった。また,試験後の試験体に溶接部の割れや破 単位質量 (kg/m) 断が認められなかったことから,レーザ溶接 H 形鋼 は溶接軽量 H 形鋼としての所定の断面性能を有す 溝形鋼の組み合せ る。 3)レーザ溶接は入熱範囲が狭いために溶接金属近傍に 80 めっきが残存しており,溶接部は犠牲防食効果が得 3.42 板厚 1.6 られる。素材に ZAM 鋼板を用いることで,レーザ 60 溶接 H 形鋼の溶接部周辺およびフランジ外面の熱影 響部とも補修塗装を省略しても溶接部に補修を施し レーザ溶接 H 形鋼 た高周波抵抗溶接による溶接軽量 H 形鋼と同等以上 の耐食性を有し,補修塗装の省略が期待できる。 80 2.76 板厚 1.6 4)試作品の各種評価をもとに,日本建築センターの評 (約 20%減) 60 定申請を行い,建築部材として十分な性能を有して いると評価され,部材評定を取得した。 図 24 溶接軽量H形鋼の比較 参考文献 Fig.24 Comparison of welded light gauge H steel. 1) 建築のテキスト編集委員会:初めての建築一般構造,学芸出 版社,(1996),102. 合せに比べて省工程が図れるため,製造コストの削減が 期待でき,ユーザーのコスト削減に繋がる。さらに, CCT 試験結果より,優れた耐食性を有する ZAM を素 法と評価基準の提案(標準化研究会研究報告書), 建設省建築 できる。 研究所(1994), 45. それ以外に,本製造方法の特徴として材料,形状や寸 法の制約が少ないことが挙げられる。 使用目的に応じて, とが可能であるため,これまでにない設計自由度の向上 が期待できる。 今後は,各種住宅部材だけでなく,太陽電池用の架台 や農業・道路・土木資材のような非住宅分野への適用の 可能性があるものと考え,ユーザーのニーズに合致する 部材の開発を進めていく。 番 号 表( 6.結 言 刷り上り希望大きさ ) 図( 24 80mm ) 幅 170mm 幅 No.81(2001),10. 鋼材倶楽部 : 鋼構造物の耐震保有性能評価のための標準試験方 3) 材にした場合,補修塗装の省略によるコスト削減も期待 形状,強度および表面処理などを自由に組み合わせるこ 2) 小 松 厚 志, 泉 谷 秀 房, 辻 村 太 佳 夫, 安 藤 敦 司: 日 新 技 報, 4) 日新製鋼株式会社:ZAM 商品カタログ,日新製鋼株式会社 (2007),12. 5) 社団法人日本鉄鋼連盟薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き編 集委員会編:薄板軽量形鋼造建築物設計の手引き,技報堂出版, (2002),62. 社団法人日本建築学会編:鋼構造設計規準-許容応力度設計 6) 法-,(2005),68. 7) 山本郷史,公文史城,峠本敏江,矢野宏和:日新技報,No.89 (2008),1. (写真は図に含める) 執筆者名 家成 徹 筆者らは小型・軽量化を目的にレーザ溶接 H 形鋼の 製造技術を開発した。本報告は開発したレーザ溶接 H 形鋼の諸性能について検討を行うため,素材に ZAM を 用いてレーザ溶接により溶接軽量H形鋼を作製し,強度 試験,構造試験および耐食試験を行った。以下に得られ た結果を示す。 1)適正な溶接条件にて,貫通溶接が形成されたレーザ 溶接H形鋼の引張強さは 400N/㎟を超え,破断形態 もウェブの母材破断となり JIS で定められた基準を 満足する。 2)曲げ耐力試験および短柱圧縮試験を行った結果,そ れぞれに規定される幅厚比制限値に基づき求められ る計算値と実験により得られた最大荷重は同程度で 日 新 製 鋼 技 報 No.92(2011)