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安心・安全のデザイン
─「誰もが安心・安全を考えるデザイナー」になれたらすばらしいと思いませんか?─
日時:2013 年 11 月 15 日(金)14:00∼16:45
場所:立命館大学 朱雀キャンパス 1 階 多目的室
主催:立命館大学デザイン科学研究センター
2013 年 11 月 15 日に立命館大学朱雀キャンパスにおいて、立命館大学デザイン科学研究センタ
ー主催によるシンポジウム、
「安心・安全のデザイン−『誰もが安心・安全を考えるデザイナー』に
なれたらすばらしいと思いませんか?−」を開催した。
開催の挨拶として、立命館大学デザイン科学研究センター・善本哲夫センター長から、デザイン
科学研究センターの主旨と本シンポジウム企画意図の説明が行われた。
「現実は可能性の束」という
政治学者である丸山眞男氏の言葉を借りて、産官学地の連携を通して、それぞれの方向性や様々な
一致しない要素を一つのストーリーとして捉え、安心・安全に関わる人々の「誰もが安心・安全の
デザイナー」として結びついていくことの重要性が述べられた。さらに、それぞれの企業の多層的
な技術を用いることで、街の安心・安全をどのように創出することができるのかといった課題がし
めされ、シンポジウムの開催宣言とされた。
シンポジウム第一部として、株式会社ミサワホーム総合研究所の栗原潤一氏(取締役副所長)に
よる基調講演、日産自動車日産自動車株式会社の二見徹氏(電子技術開発本部 IT&ITS 開発部エキ
スパートリーダー、企画・先行技術開発本部 技術企画部 エキスパートリーダー、総合研究所 研究
企画部 エキスパートリーダー)による特別講演が設けられた。続いて、第二部として、善本センタ
ー長がモデレータとなり、栗原氏、二見氏に加え、大阪ガス株式会社の豊田尚吾氏(エネルギー・
文化研究所
主席研究員)
、株式会社東芝の伏屋信宏氏(コミュニティ・ソリューション事業部シン
セシスセンター参事)
、本研究センターの八重樫文(事務局長、立命館大学経営学部准教授)を加え
たラウンドテーブルが開催された。
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基調講演:
「住宅における安心・安全」 株式会社ミサワホーム総合研究所・栗原潤一氏
住宅および住宅業には、平常時では「快適・便利」が求
められ、災害時には「人命を守ること」や「いかに住宅を
維持・復旧するか」が求められる。いずれもその根底には、
日常にある安心・安全が重要な意味を持っている。
ミサワホームは、
「環境、日本の心、暮らし、家族」の 4
つを育むことをビジョンとし、住宅のデザインについて考
えている。そこでは耐震や防火、防水、防蟻、耐久性など
の基本的に住宅に関わる様々な性能に加えて、日本の気候
に合わせた住宅の提案を行なうことが重要である。日本の
住宅内の安全性に関して、
月間死亡率のデータから見ると、
心疾患や溺死といった自宅内で亡くなられるケースが多く、住宅の中はまだまだ安全ではない。手
すりや床の滑りにくさといった視点だけでなく、気温や気候に合わせた住宅の設計が重要になって
くる。日本の住宅はこれまで、全国的に湿気が多い夏に重点を置き、通風を重視したものであった
が、近年では冬期を重視した断熱・気密化が主流となっている。今後は、夏期も冬期も我慢するこ
と無く、健康に配慮した快適な住宅の提案を行なっていかなければならないと考える。ミサワホー
ムでは、南極の昭和基地の建築に携わっており、過酷な地での設計条件を満たした先端技術を日本
の住宅にも応用することで、環境に対応したより快適な住宅の提案を行なっている。
また、エネルギーの視点からいえば、日本の家庭内でのエネルギー消費量は増加の傾向にあり、
その消費を抑えることが課題である。太陽光発電だけでエネルギーを賄うことは難しく、建物でも
様々な工夫を行なわなければならない。ミサワホームでは、断熱・気密性能を高めた建築上の工夫
を行なう「ゼロ・エネルギー住宅」を開発している。そこでは、日中太陽光発電によってつくり出
す電気の内の余剰分を電力会社に買い取ってもらい、夜間や雨天の場合は不足分を電力会社から買
うことで、エネルギーの消費を抑えている。その他にも環境やスマート化、防犯など、ミサワホー
ム総合研究所は様々な視点から、住宅内の安心・安全について、独自の技術をもとに設計を行って
いる。それらは、災害や危険に対しての個々の対応ではなく、住宅およびくらし全体の安心・安全
の提供を行うものである。
特別講演:
「Car and Cloud による安心・安全なまちづくり」日産自動車株式会社・二見徹氏
東日本大震災の影響により、国内の自動車の生産量は大き
く低下し、経済活動に重大な支障をきたすこととなった。そ
の理由として、震災による設備被害に加えて、計画停電の影
響を受け、連続的な電力の供給が行なわれなかったことによ
り、
半導体産業の製造が停滞してしまったことが挙げられる。
工場のラインが壊れて普及に時間がかかったのではなく、近
年の自動車は半導体を多く用いており、東北の大きな半導体
の工場が生産停止になったこと大きな要因である。半導体の
生産においては、温度管理が非常に難しく、安定して製造す
ることが不可能になってしまった。
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また、製品の物流のためのガソリンが供給できないことによって、消費の低迷をもたらした。こ
れらのことから、都市の基盤づくりにおいては、道路や建物以外に、エネルギー供給の重要性を認
識する必要があるものと捉えられる。
その一つのかたちとして、日産自動車株式会社では、モビリティに搭載した蓄電池をエネルギー
供給の手段の一つとして考えている。蓄電池としての EV(電気自動車)の提案として、日産自動
車株式会社では「LEAF to Home」と呼ぶ、EV を蓄電池とした家庭への電力供給の試みを行なっ
ている。停電時のバックアップとしての機能だけでなく、日常生活においても、夜間の電気料金の
低い時間帯には充電を行ない、日中に電気を家庭に供給することで、家庭の電気使用料金を下げる
こともできる。また、今後はこの技術をより広く発展させ、ビルやコミュニティの電源として利用
していくことを目指している。
日常生活におけるモビリティを蓄電池として捉え、生活の中に浸透させることで、災害時だけで
なく日常時でもエネルギーを提供し、エネルギーの供給の観点から、生活の中の安心・安全を創出
することが重要であると考えている。
ラウンドテーブル
パネラー:栗原潤一氏(株式会社ミサワホーム総合研究所)
、二見徹氏(日産自動車株式会社)
、
豊田尚吾氏(大阪ガス株式会社 エネルギー・文化研究所 主席研究員)
、伏屋信宏氏(株式会社東芝
コミュニティ・ソリューション事業部 シンセシスセンター参事)
、八重樫文(本研究センター事務
局長、立命館大学経営学部准教授)
モデレータ:善本センター長
はじめに、善本センター長より、第一部の二つの講演を踏まえて、東日本大震災以降、より重要
な問題として位置づけられるようになった「エネルギー供給と安心・安全」という視点についてパ
ネラーに意見が求められた。
大阪ガス株式会社の豊田氏は、
「我々は、電気の復旧と同じくらいに、ガスの復旧も重要であると
考え、復旧の立ち上がりを早くする試みを行なっている」と述べ、天然ガスを燃料にする自動車や、
バイオ燃料を使用している自動車も開発が進んでいる折、電気とガスのベストミックスを重視して
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いかなければなければならない、と述べた。それと同時に、負荷
平準化を行い、
エネルギーを効率的に使う取組みを行なっている。
エネルギーを途絶させない取組みが、大阪ガス株式会社にとって
の安心・安全ということなのではないかと述べた。
また、株式会社東芝の伏屋氏は、
「安心・安全という観点は、災
害やエネルギー問題といったことだけではなく、日常での危険な
要因は様々であり、人と人との関わりの災害もある。一つの解決
法では解決できない部分が存在し、縦割りでは解決・克服できな
い隙間に存在する課題が社会には多く存在する」ことについて述
べ、様々な人々の知恵を束ね、多様性に柔軟に対応していく必要
性について述べた。
それらを受けて、日産自動車株式会社の二見氏、ミサワホーム
総合研究所の栗原氏から、日常の危険といった部分で、人間では
なく、機械的な安全の担保も必要であることについて述べられ安
心・安全にはモビリティと人間との関係や、コミュニティ、公共
との関係といった視点からも考えていかなければならないことが
述べられた。
次に、善本センター長から、
「誰もが安心・安全を考えるデザイ
ナー」という今回のテーマについての趣旨が再提案された。それ
は「安心・安全の技術・サービスの紹介」ではなく、誰もが安心・
安全のデザイナーとしての気づきを得ることの重要性の認識と共
有であり、コミュニティに参加するそれぞれの企業、大学、地域
などが、それぞれの視点からリーダーシップを取っていくことの
必要性が述べられた。さらにその点について、茨木市での学生の
活動を紹介し、改めて安心・安全なコミュニティやモビリティと
は何なのか、といった問題提起が行われた。
それに対して、二見氏は、カーシェアリングを事例に、個人の周りに今までに無い「共有」とい
った視点が生まれてきていることについて述べ、また今後の車の方向性として、車自体がスマート
フォンのようになり、サイズの小型化にとどまらず、場所に応じた速度の自動調整や自動運転化な
ど機能面でもより安全を担保する技術が進んでいくのではないかと述べた。また、豊田氏は、地域
ごとにオリジナルなモビリティの在り方といった方向性があるのではないかと述べた。
また、八重樫事務局長から、それぞれの企業においてこれから安心・安全のために、さらに改良
していかなければならないことについて、質問が投げかけられた。
伏屋氏は、
「本当に安心・安全なだけの社会が求められているだけではないのではないか。本当の
心の安心とは何か。いかがわしいところがおもしろいといった視点もあると思うので、そのバラン
スを考えていける仕組みを作っていければ良いのではないかと思う」と述べた。栗原氏は、
「家の中
の事故の方が、屋外での事故より死亡数が多く、これをどのように変えていけるのかということが
課題である」と述べた。また、二見氏は、
「機械と人間だけでなく、エネルギーや金銭面といった、
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いろいろな面からの安全の担保といった視点が重要だと思う」と
述べ、豊田氏は「
『融通』というのがひとつの重要な視点になる。
お互い様、譲り合いといったところでは、ハードだけでなく、コ
ミュニティの信頼性といった部分が必要なのではないかと思う。
『リスク』と『オープンに他者と共有すること』のバランスをと
って、ソーシャルキャピタルの形成を行なっていくのが重要であ
る」と述べた。
最後に、八重樫事務局長、善本センター長から、本研究センタ
ーが考える「デザインの定義」について述べられた。八重樫事務
局長は、
「これまでのデザインについての議論を、色やかたちの造形的なものに集中したものから、
人々や社会におけるさまざまな関係を調整するというものに再構成していきたい」と述べた。それ
に続き、善本センター長から、それは「未来のあるべき姿」としての合意形成といった解釈でのデ
ザインであり、様々な要素を一つのストーリーとしてまとめあげていくことがこれからのデザイン
の役割なのではないか、と提起されたところで。立命館大学デザイン科学研究センター主催による
本シンポジウムは閉会した。
第一回のテーマである「スマート・コミュニティのデザイン−スマイルを生み出す地域物語の共
創−」
(2013 年 7 月 20 日開催)から、今回の第二回テーマである「安心・安全のデザイン−『誰
もが安心・安全を考えるデザイナー』になれたらすばらしいと思いませんか?−」を経て、コミュ
ニティやエネルギー、安心・安全や楽しさといった要素が抽出され、これからの社会の「あるべき
姿」を探求するための、今後の新たな可能性が示唆されるものとなった。
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