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自分たちの作品のよさや美しさを主体的に感じ取る能力を育てる図画工作科
自分たちの作品のよさや美しさを主体的に感じ取る能力を育てる図画工作科「鑑賞」の題材についての研究 ~表現者の思いや意図に着目させる導入法の提案~ 新潟大学大学院 教育学研究科 教科教育専攻 美術教育専修 堀 和宏(平成23年度入学) 現代は,様々な事象に対しての児童の興味・関心が低くなっている。図画工作科の鑑賞の授業にお いても同様の傾向が見られ,自ら鑑賞の視点に気付き,主体的によさや美しさを感じ取ろうとする姿 はあまり見られないのが現状である。そこで,本論文では,授業の導入場面において,形や色などの 造形的特徴をもとに表現者の思いや意図に着目させる働き掛けを行い, 「自分たちの作品」のよさや美 しさを主体的に感じ取る能力を育てるための要件を明らかにしたいと考える。 「第1章 研究主題について」では,小学校における鑑賞指導の実態を把握するために行った調査 をもとに,自分たちの作品のよさや美しさを主体的に感じ取らせるために,現場の教職員が積極的に 取り組むことのできる鑑賞の授業モデルを提示することの必要性について述べる。また,学習指導要 領の〔共通事項〕,M.J.パーソンズの美的経験の認知発達理論をもとに,鑑賞の際の児童の姿を捉え る手掛かりとして 10 のキーワードを示す。 「第2章 研究計画」では,研究主題に迫るために,授業の導入において行う 2 つの手立てを示し た後,その手立てが有効であったかを検証するために,よさや美しさを主体的に感じ取っている児童 の姿を定義する。 「第3章 実践と考察」では,小学校4・5・6年生における 3 つの実践について報告する。小学 校 5 年生における実践 1 では,よさや美しさを感じ取るための視点に気付かせるために,自分たちの 作品を活用したワークシートを用いる導入法を提案する。小学校 6 年生における実践 2 では,よさや 美しさを感じ取るための視点に気付かせるために,同じテーマで描いた2枚の作品を比較させる導入 法を提案する。小学校 4 年生における実践 3 では,色や形,人物の動きなどの造形的な特徴に着目し て絵をみるという視点に気付かせるために,シャガールの4部作とアルチンボルドの4部作の順番を 決め,造形的な特徴をもとに絵の題名と説明を考えさせる導入法を提案する。 各実践において,感じ取った友だちの作品のよさや美しさについて記述した児童のワークシートを, 鑑賞の際の児童の姿を捉える 10 のキーワードをもとに分析し,考察を行った。どの実践においても, 多様なキーワードが児童の記述の中に見られ,見た目の巧みさだけに偏らず,多様な視点でよさや美 しさを感じ取ろうとしていること,複数の視点に気付き,主体的によさや美しさを感じ取ろうとして いることが分かった。 「第4章 研究の成果と課題」では,第 3 章における 3 つの実践の成果と課題を明らかにした。本 研究の成果は,次の2点に集約される。一つは,授業の導入において,対話型鑑賞活動を行い,鑑賞 の視点に気付かせる活動を行ってから学習課題を提示したことにより,主体的に絵をみて,よさや美 しさを具体的に感じ取ろうとするようになったことである。もう一つは,授業の導入において,作品 と作者のコメントをつないだり,絵の題名や説明を考えたり,複数の絵の順番を考えて並べたりする 活動を行ったことにより,造形的特徴を根拠にして,表現者の思いや意図に着目するようになったこ とである。研究仮説に基づいて検証した結果が立証されたことから,本実践によって,児童の主体的 によさや美しさを感じ取る能力を育てることができたと言える。 今後の課題は,次の2点である。一つは,学年の発達段階に応じた作品の提示を行うことである。 表現者の思いや意図に着目させるために,どのような作品を提示すればよいか,さらなる検討が必要 である。もう一つは,活動の精選である。自分たちの作品のよさや美しさ,思いや意図を感じ取れる ように,対話型鑑賞活動,または,ゲーム的活動の後,自分たちの作品のよさについて話し合うなど, ねらいに合わせて学習活動を仕組む必要がある。 本研究では,これまで,漠然と絵をみて「○○がうまい(リアル)」と,考えの根拠を示さずに見た 目の巧みさだけに着目することの多かった児童が, 目的意識をもって主体的に絵をみるようになった。 さらに,児童が必要感をもって,自ら造形的特徴を根拠に鑑賞するよう,研究を継続していきたい。