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PZT 薄膜部材の引張り試験
平成15年度卒業論文 水熱合成法により作製した純チタン-PZT 薄膜部材の引張り試験 知能機械システム工学科 学籍番号 1040093 氏名 石川 陽司 目次 1. 緒言 1 2. 小型材料試験機 2−1.試験機の概要 2−2.性能検定 2 3. 試験片の作成 7 4. 実験方法 9 5. 実験結果及び考察 9 6. 結言 16 7. 謝辞 16 8. 参考文献 16 9. 付録 9−1.試験機部品図面 17 1 1. 緒言 近年、構造用部材にセンサ機能やアクチュエータ機能を有する材料を組み込み、一体化して外部情報 に対して自ら応答するような「スマート構造」に関する研究が盛んに行われるようになってきた。この ようなシステムの機能を担う知能材料として、比較的発生する力が大きいことや応答性に優れていると いった理由でPZT(圧電セラミックス)に大きな期待がかけられている。これらスマート構造の実用的 かつ具体的応用として変形、振動制御および応力集中部での応力緩和のためのシステム構築等が検討さ れているが、その使用形態としては、バイモルフ型(二枚の圧電セラミックスを用いて構成されるアク チュエータの総称)を典型とする圧電体薄膜と金属基板との接合材が多く見受けられる。 このような圧電体薄膜をスマート構造の基本材料として使用する際、信頼性の高いシステムを構築す るには重要なポイントがいくつか挙げられる。これらの中で、薄膜作製プロセスに起因するような圧電 特性の信頼性はもちろん、機械的強度という点も重要である。 しかしながら、実際の材料の強度評価問題に対した研究は極めて少ない。そこで本研究では、ボール ねじ、ステッピングモータを用いた小型の引張り型材料試験機を製作し、その試験機の性能を検討する とともに、知能材料として使用される純チタン基板上にPZT薄膜を成膜させた部材の強度特性を調べ、 今後の圧電材料の知能化システムへの実用化に向けての強度評価方法を確立することを目的としてい る。 今回使用する試験片には、水熱合成法によりPZTを純チタン基板に合成させた。水熱合成とは、高温 高圧下、水の存在下で物質を合成させたり結晶を成長させたりする方法である。常圧では水が気体とな る温度でも高圧下では水が液相で存在するため、常圧下では実現できない反応が生じる。地球内部では、 水熱合成により鉱物が生成されている。 このように水熱合成法は高温高圧下で金属の表面に無機化合物の膜を成膜させる方法であり、この水 熱法を用いて圧電体であるPZT薄膜を成膜することができる。水熱合成法によるPZT薄膜の成膜法は以 下の点で、他の方法に比べて優れている。 第一に水溶液中での製膜反応のため、複雑な三次元形状の芯材の表面でもPZT薄膜を成膜させること が可能である。また、PZTの膜はチタン上にしか成膜されないので、異種の材料の表面にあらかじめチ タンをパターニングしておくことにより任意のパターンのPZTを得ることができる。次に、成膜後、分 極処理をする必要がない。一般にPZTは、生成されたままの状態では多結晶で細かい分域構造となって おり、それぞれの分域の自発分極の方向は一定していない。圧電材料として用いるためには、高電圧を かけて粗大な分域構造に変えて分極の方向を揃える分極処理が必要となる。しかし、水熱合成法で得ら れるPZTの分極方向は、薄膜の厚さ方向にそろっており分極処理の工程を必要としない。さらに、現在 一般的に行われているバルクのPZTの製法と比較して、焼成の工程がいらない。このことは、熱膨張係 数の大きな金属上に成膜しても残留応力が小さく、クラックが生じにくいことを示す。したがって、成 膜回数を増やすことができ、水熱合成法では数μm以上と比較的厚い膜を得ることができる。アクチュ エータなどでは高電圧をかけるためより厚い膜を得ることが必要となる。 1 2.小型材料試験機 2−1 試験機の概要 今回製作した試験機を図1に示す。図1は、三次元CAD(Pro/ENGINEER)を用いて製図したものである。 試験機本体の寸法を図2に,駆動図を図3に示す。本試験機の駆動源には、ディジタル信号での制御が容 易であり、立ち上がり、立ち下がりの動作が他のモータに比べて小さいなどの理由からハイブリッド型 ステッピングモータ(KT42KM1-551,日本サーボ製)を用いた。モータのトルクはカップリングにより連 結されたボールねじのねじ軸を回転させる。ボールねじは、おねじの回転に従いめねじがねじ軸上を移 動することによって、回転運動を直線運動に変換させることができる。それによりナットに固定したク ロスヘッドを連動させ、チャック部分に装着された試験片に引張りの負荷をかける。また、ナットとク ロスヘッドが回転しないようにクロスヘッドの両端下部にシャフトをガイドとして取り付けた。 これらを制御するプログラムにはVisual Basicを用い、DIOボードによりパーソナルコンピュータか らドライバ(FTD3S2P11-01,日本サーボ製)を介してステッピングモータにパルス波を出力する。引張り 試験による荷重は固定側のチャックに取り付けたロードセル(TU-BR,TEAC製)を用いて、移動量はスタン ドに固定した変位計(DTH-A-30,kyowa製)をクロスヘッドの側面に当てて(図4)、それぞれアンプを介 してADボードによりパーソナルコンピュータに取り込む。Visual Basicで作成したコントロールパネル を図5に示す。また試験機の性能を表1に示す。 試験片 ロードセル ステッピング モータ ボールねじ クロスヘッド Fig.1 材料試験機 2 Fig.2 試験機の寸法(㎜) 3 (上)平面図 (下)正面図 パソコン A/Dボード Visual Basic制御プログラム アンプ 電圧 増幅 DIOボード 電圧 パルス波 ドライバ パルス波 電圧 変位計 ステッピング モータ 回転運動 アンプ 移動量 増幅 ボールねじ 直線運動 クロスヘッド・ チャック 電圧 荷重 荷重 試験片 ロードセル Fig.3 試験機の駆動図 Fig.4 変位計設置図 4 Fig.5 試験機のコントロールパネル Table.1 材料試験機の性能 最大荷重 150 最大クロスヘッドスピード N 1.8 ㎜/min ロードセル容量 500 変位分解能 N 1.67 μm 最大移動量 30 ㎜ 荷重精度 50 mN 変位精度 0.8 μm 5 2−2 性能検定 本試験機で使用するロードセルにかかる荷重とそれに対するロードセルの出力電圧の関係、変位計の 変位と変位計の出力電圧の関係を調べた。 ロードセルをインストロン型万能試験機(島津オートグラフAG-100KG,島津製作所)で引張り荷重を0N から50Nずつ500Nまでかけ、その時の出力電圧をデータロガーで記録した。アンプの校正値は3000とし た。図6にロードセル検定の結果を示す。荷重に比例して出力電圧が増加しているのがわかる。最小二 乗法により関係式 Load=50.178×Output が得られる。 500 Load(N) 400 Load=50.178×Output 300 200 100 0 2 4 6 8 10 Output(V) Fig.6 ロードセル性能検定 変位計は読み取り顕微鏡に固定し0.5mmずつ前後に5mm動かして、テスターにて出力電圧を読み取 った。アンプの校正値は100とした。図7に変位計の検定結果を示す。ロードセル検定同様変位量に比例 して出力電圧が増加しているのがわかる。最小二乗法により関係式 Displacement=0.1667×Output が得られた。 6 Displacement(mm) 6 4 Displacement=0.1667×Output 2 0 -2 -4 -6 -1 -0.5 0 0.5 1 Output(V) Fig.7 変位計性能検定 3.試験片の作成 試験片は基板材料である純チタンとそれにPZT薄膜を成膜させたものを使用した。PZT薄膜の成膜には 神田ら(2)により報告された水熱合成法を用いて成膜した。45×16×0.05mmの純チタン板を所定の出発 材料を含む水溶液と共に容量40mlの反応容器に入れ、炉で反応容器を回転させながら反応させた。成膜 反応は三回行った。表2にその成膜条件を示す。成膜条件は、一回目の成膜反応と二回目以降で異なる。 これは、一回目の反応では、基板上にPZTを生成する核生成反応であるのに対し、二回目、三回目はす でに生成しているPZTの結晶を成長させる反応となるためである。図8にSEM(走査型電子顕微鏡)によ るPZTの表面写真を示す。表面には立方体の結晶が生成、成長していることが確認できる。結晶のサイ ズにはバラつきがあるが、結晶の一辺の長さはおよそ3μmであった。 その後、純チタン基板と成膜させた純チタン基板をワイヤカット放電加工機(SX10,MITSUBISHI製) で図9に示す形状に加工した。なお、PZT薄膜を成膜させた薄膜材は観察しやすくするために表面をダイ ヤモンド研磨シートで軽く研磨して仕上げた。 7 Table.2 成膜条件 基本条件 一回目 二回目以降 ZrCl2O 0.507g を水 2ml に溶かす 0.761g を水 2ml に溶かす Pb(NO3)2 1.204g を水 7ml に溶かす 1.806g を水 7ml に溶かす TiCl4 水溶液 0.35ml 0.53ml KOH 2.693g を水 11ml に溶かす 2.693g を水 11ml に溶かす 反応温度 140℃ 120℃ 圧力 3.6atm 1.96atm 24h 24h 水溶液 反応時間 Fig.8 SEMによるPZTの結晶写真 Fig.9 試験片の形状及び寸法(㎜) 8 4.実験方法 前節の検定結果を元に、純チタン試験片とPZT薄膜部材の引張り試験を行った。試験条件は引張り速 度0.1mm/min一定で行い、破断するまで引張った。荷重及び変位のデータはパーソナルコンピュータに 1sec毎に記録した。引張り試験中の試験片表面を実体顕微鏡により連続的に観察することで、PZT薄膜 の損傷挙動について調べた。観察間隔としては60Nまでは3μm毎、それ以降は1μm毎で行った。またよ り詳細な観察を行うために、所定の荷重ごとに試験を止め、表面のプラスチックレプリカを採取した。 これをプレパラートに張り付け、イオンスパッターを用いて金パラジウムを蒸着させ、金属顕微鏡で観 察した。このレプリカ法と呼ばれる方法はアセチルセルロースフィルムをアセトンに浸すことにより軟 化させ、その軟化したアセチルロースを試験片上に貼り付け、硬化したところではがし、き裂などの凹 凸の形を採取する方法である。また、引張り試験後の試験片をレーザ顕微鏡、SEMなどを用いての損傷 挙動観察も行った。その後、純チタン部材について、ムライトセラミックスの針を用いて表面に幅1.6 μmの細線をけがいて、試験片の引張り試験を行い、上記と同様にレプリカ法を用いて試験片表面の観 察を行った。その他レーザ顕微鏡、SEMを用いて試験片の損傷挙動についても調べた。 5.実験結果及び考察 純チタン試験片とPZT薄膜部材の引張り試験の結果をそれぞれ図10、11に示す。共に縦軸を荷重、横 軸をクロスヘッドの変位量とした。いずれも最大荷重は100Nであり、平行部の断面積0.125mm2で割った 引張り強さは800MPaであった。また、ほぼ最大荷重に達した時点で破断しており、破断伸びは13.8μm であった。破断面は、応力軸に対して約54°の角度を持っており、薄膜材に典型的な破断形態であった。 PZT薄膜部材の破断前後の実体顕微鏡による観察写真を図12に示す。純チタンのすべり変形に沿って PZT膜が損傷を受け、図中A、Bで示すような白く変色した部分が観察された。破断時の写真を見ると損 傷は、幅が約40μ、間隔は100∼250μmで応力軸に対し破断面と同様に54°で格子状に入っていた。こ の損傷は、引張り荷重の増加率がかなり減少する約97Nから現れ、引張りが進むにつれて明瞭に見える ようになった。図からわかるようにこの荷重の値はほとんど最大荷重に近い値であり、基板である純チ タン材はすでにかなりの塑性変形をした状態である。図13にSEMによるPZT薄膜部材の破断後の試験片 の拡大写真を示す。立方体状のPZTの結晶がなくなり、基板であるチタンが露出しているのが観察され た。PZT薄膜自体は非常に延性が低いと考えられるが、その損傷挙動を明らかにするにはより詳細な観 察手段を講じる必要がある。また図14に荷重97Nでのレプリカ法による観察写真を示す。 最後に、ムライトセラミックスの針を用いて表面に幅1.6μmの細線をけがいた純チタン試験片の引張 り試験を行い、すべりによるせん断変形量を測定した。レーザ顕微鏡で観察した結果を図15に示す。図 のA地点において、76.5Nをかけた時に、けがき線のズレが確認できた。B地点では、すべりから求めた せん断ひずみは0.27であり、このような塑性変形量でPZT膜が剥離することがわかった。 9 120 100 Load(N) 80 60 40 20 0 5 10 15 20 Displacement(μm) Fig.10 純チタン材における荷重と変位の関係 10 120 100 Load(N) 80 60 40 20 0 5 10 15 20 Displacement(μm) Fig.11 PZT薄膜部材の荷重と変位の関係 11 (a) 開始前 (b) 98.9N 10.3μm (c) 99.5N 14.3μm 12 (d) 98.7N 13.2μm (e) 97.8N 14.0μm (f) 破断後 Fig.12 PZT薄膜部材の引張り試験中の観察写真 13 Fig.13 SEMによるPZT薄膜の破損写真 Fig.14 レプリカ法による観察 14 A (a)95.9N A B (b)97.25N Fig.15 レーザ顕微鏡での破断直前のレプリカ観察 15 6 結言 ・ 小型薄膜部材のための材料試験機を作成した。本試験機はアクチュエータとしてステッピング モータを使用し、ボールねじを介してクロスヘッドを動かす機構を有する。またVisual Basic で開発した制御プログラムにより満足のいく小型試験片の引張り試験を行うことができた。 ・ 純チタン部材とPZT薄膜部材の引張り試験を行った。両者に強度的な違いは見られず典型的な薄 膜材の破断であった。またPZT薄膜が基板である純チタン部材のすべりに沿って損傷することが 観察された。巨視的な損傷は、基板がかなり塑性変形を受けてから生じることがわかった。 7 謝辞 本研究を行うにあたり、終始にわたりご指導くださいました楠川量啓助教授に深く感謝致します。 8 参考文献 (1) 圧電/電歪アクチュエータ 内野研二 森北出版株式会社 (2) 水熱合成法PZT薄膜を用いた縦振動プローブセンサ 神田岳文 平成13年度博士論文(東京大学) (3) JISにもとづく機械設計製図便覧 大西清 理工学社 (4) 理系のためのVisualBasic6.0実践入門 山住富也、森博、小池愼一 技術評論社 (5) 新Visual Basic入門 ビギナー編 林晴比古 ソフトバンク株式会社 (6) Visual Basic 言語リファレンス Black Book Steven Holzner 株式会社インプレス 16 9 付録 9−1 試験機部品図面 Fig.16 ベース Fig.17 モータブラッケト 17 Fig.18 ステッピングモータ Fig.19 カップリング 18 Fig.20 ボールねじ Fig.21 ボールねじ固定側サポート 19 Fig.22 スペーサー(ボールねじ固定側サポート) Fig.23 リニアブッシュハウジング 20 Fig.24 ボールねじ支持側サポート Fig.25 スペーサー(ボールねじ支持側サポート) 21 Fig.26 コネクトプレート Fig.27 クロスヘッド 22 Fig.28 シャフトホルダー Fig.29 スペーサー(シャフトホルダー) 23 Fig.30 シャフト Fig.31 チャック 24 Fig.32 ロードセル Fig.33 リブ 25 Fig.34 スペーサー(リブ) 26