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吾妻硫黄鉱山跡地における煙害と植生変化

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吾妻硫黄鉱山跡地における煙害と植生変化
造園雑誌 53(5):151-156,1990
吾妻硫黄鉱 山跡地 にお け る煙害 と植 生 変化
和 貞
内 岡
武 高
俊 俊
黒 川
大 今
* ・
哉
** ・
明
*
彦
*摯
*
夫
Vegetation Changes Caused by Smoke]Damage in the Agatsuma Sulfur卜
任
ine,
Gunma Prefecture,Central」
apan
Toshiya OHKURO ・
Kazuhiko TAKEUCHI
Toshiaki IMAGAWA°
Sadao TAKAOKA
摘要 :吾 妻硫黄鉱山跡地周辺で,地 形 ・土壌 ,植 生調査を行 い,煙 害 による植生変化 の過程を分析 した。 鉱 山周辺 で
は ヒメスゲ優 占型 とササ優 占型の荒原植生が成立す るが,激 害地 では侵食裸地が出現す る。また,草 津 白根火 山山頂
の荒廃地 と比較 した結果,両 者 はほぼ同様 の退行 ・進行過程を呈す るが,侵 食裸地 の形成過程 は大 き く異 な る ことが
明 らかにな った。 また分析結果をふまえて,荒 廃地 における保全 ◆修復 と開発 の方向性が示唆 された。
1.は じめに
2.調 査地 の概要
わが国 の山地 ・丘陵地 には,多 様 な成因 による荒廃景
観 が分布 している。北上山地 の シバ草地,足 尾 ・松尾 な
吾妻硫黄鉱山 (群馬県吾妻郡嬬恋村)は ,草 津 自根山
の南西約 4 km,標 高 1,400m前後 に位置す る。 この地 域
どの鉱山周辺 の煙害 による森林荒廃地,瀬 戸内の花同岩
は,草 津 白根火山活動初期 に流 出 したと考 え られ る太子
火砕流面上 に立地す る。また,鉱 山の背後 には,数 十万
年前 に,本 白根山付近か ら南西∼南 に流下 した ものと考
え られて い る米無溶岩流 6)がせまる。溶岩流 の周縁 は急
崖 で限 られ るが,標 高 1,850∼1,100mにか けて の表面 は
幅 1∼ 2 kmの緩やかな地形面を形成 し,冬 季 はスキ ー場
山地 のハ ゲ山,活 動火山帯 の火山荒原,山 火事跡地など
である。最近 は,地 熱発電 による植生破壊 や,草 地開発
などにともな う侵食など,あ らたな原因 による荒廃景観
の形成 もみ られ る。荒廃景観 は,現 在 の気候 。生態環境
とは不調和 な 「
疑似乾燥∼半乾燥景観」 または 「
疑似寒
ことが
い
を呈す
多 。
冷景観」
このよ うな荒廃景観 の形成過程 と年代,そ の維持 と修
復 のプロセスを明 らかにする ことは, リゾー ト開発 など,
近年盛んに な りつつ ある山地 ・丘陵地 の開発 にと もな う
環境変化を予測 。評価す る際 に役立 つ ばか りでな く,荒
廃地 における緑化対策 の基礎資料 として も有効 である。
今回事例地域 とした吾妻硫黄鉱山は,草 津白根山山麓
に点在す る硫黄鉱山の ひとつである。 この周辺 では鉱山
操業 にと もな う森林 の伐採 と煙害 の影響 により,荒 廃地
が広が ってい る1)。一方,山 頂 (湯釜)周 辺 では火山活
に利用 されて い る。植生帯か らみるとこの地 域 は,冷 温
帯落葉広葉樹林域 の上部 に位置す る。
草津 白根山一帯 には硫黄鉱床 ・露頭 が豊富 にあ り,大
正∼ 昭和期 に入 ると,多 くの硫黄鉱山が開発 された。吾
妻鉱山 もそのひとつで,明 治41年に露頭 が発見 されて以
5)。その
来,昭 和46年の閉山まで操業 が続 けられた
結果,
燃料 としての樹木 の伐採や,操 業 に伴 う亜硫酸 ガスの影
響 で,周 辺地域 には森林荒廃地 が広が った。開山後 は,
外縁部 で本来 の落葉広葉樹林 へ と回復 が進 んでるが,中
心部 になお,荒 原植生 が残存する1)。
動 によって,自 然条件下 で植生 の発達 が抑制 され,広 範
囲 に荒原植生 がみ られる。 このよ うに,同 地域 には人為
3.調 査方法 および結果
起源 と自然起源 の両方 に由来す る荒廃地 が出現 し,両 者
(D 植 物社会学的群落調査
は非常 に似 かよった景観 を形成 している。
筆者 らは, これまで草津白根山の山頂付近 に分布す る
荒原植生を事例 に,火 山活動が植生 の構造 ・動態 におよ
ぼす影響を調査 して きた4)。本稿 では,鉱 山跡地周辺 で
の調査結果 を もとに,同 地域 の植生変化を分析 し,山 頂
周辺 の荒原植生 との比較 を通 じて,煙 害 によ つて生 じた
荒廃地 の特性 を明 らかにす る。
東京大学農学部緑地学研究室
まず,鉱 山跡 地を中心 とす る半径約500mの 範 囲 で,
植物社会学的群落調査 を行 った。26ケ所を調査 した結果,
組成的 に 4つ の群落 に区分 された (表-1)。
鉱山 の中心部 に近 い所 は, ヒメスゲ,ス スキなどの草
本種中心 の植生 がみ られる。荒廃が最 も進行 した部分は,
コメススキ ー クロマメノキ群落 (Al)に 区分 した。 ま
た, リ ョウブなどの低木 が優 占す る地域 は リョウブ典型
**農 林水産省農業環境技術研究所
-151-
***東 京都立大学大学院理学研究科
群落 (A2)に
表 -1 吾
区分 した。林床 にササが優 占 し,A10
A2の 区分種群 が出現 しな くなる所 はクマイザサ ー ミズ
ナラ群落 (A3)に まとめた。一方,マ イヅルソウー ミ
A4
Ⅳ Ⅲ
Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
+
H
H
Ⅱ
+
Ⅱ
+
H
Ⅱ
+
I
Ⅱ
I
ズナラ, リ ョウブなどの木本性樹種 も増加する。群落高
は14∼16mに 達 し,プ ロフ ァイルか らも,階 層構造 の発
た, リ ョウブ, ド ゥダ ンツツジなどもみ られる。 この付
近か ら,直 径分布 も徐 々にL型 分布 に近づ く。 ミズナラ
も大径木 とともに小径木 もみ られるようになる。
達 が認 め られる。
G)草 本 0低 木群落 におけるベル トトランセ ク ト調査
40∼60mで はササの被度 が減少す る。それにつれて ミ
つ ぎに,土 壌侵食 がすすむ荒廃裸地を中心に,幅 20m o
の方形区を設定 し,植 生 0
斜面長45m o平 均傾斜16.5°
0表
地形
層物質調査を行 った。 そ
れ らの結果を もとに,斜 面 の縦断
離 図 1/20鐵 瞬鋼路図 ホ
断=。
コロニー投影図を作成 した。同時
に,方 形区内 に発達する樋状 (U
状 )の ガ リーを正確 に図化 した
(図 -3)。
調査区は全体的 に浅 い凹型斜面
であ り,斜 面下方 か ら5∼ 10mと
40∼45m(以 下,斜 面 の位置は下
方 か らの距離 で示す)に 比較的平
坦な部分が存在す る。斜面形を中
央 の縦断面 で詳細 にみると,以 下
のよ うに区分 される。
亜 高 山帯植生
慈゛ヽヨ ササ革地 ( 自然植生 ) 1 : メ : : : :: ∴
彩笏% タ ササ草地 ( 代償植生 ) = = = : : 1 1 冷 温帯植 生
‖葺‖‖ 裸地, 荒 原 ・風衝植生 │
1 植 林地
0
500
1000
図 -1 草 津白根山周辺の硫黄鉱山と植生の分布
(現存植生図 :群馬県 ・草津 (環境庁,1981)を 一部改変)
一-152-―
+
A:38∼ 45mの 上部平坦面
B:28∼ 38mの 直線型斜面 (34
m付 近 に小崖を挟む)
C:10∼ 28mの 中部凹型斜面
(28m地 点 の比高80cmの 遷
+ + I Ⅳ V I I Ⅱ Ⅱ + Ⅱ
+
Ⅲ H + Ⅳ + Ⅲ Ⅳ Ⅱ H
+
30m付 近 には,倒 木やササの欠落 した空所 があ り,カ
エデ類 やチ ゴユ リなどの草本 も出現す るようになる。ま
Ⅱ HⅢ Ⅱ ⅡH Ⅱ ⅡⅣ Ⅱ +Ⅱ Ⅱ
Ⅱ
随伴種
シ
ラカン
,ド
゛
スミ
゛
ナナカマト
゛ ゛
モミシイ
チコ
゛
ヒメノカリヤ
ス
゛ ゛゛
コサ
ヘヒ ノ
ネ
コケ
モモ
゛
ノ
キ ラン
゛
タケカン
,1゛
アキノキ
リン
ソウ
ウド
゛
サク
マメ
ラ
゛ ゛
ミ
ツ
ハツ
チク リ
゛
゛
ハ ッコ
ナキ
ヤ
゛
イワ
オト
キリ
゛
ニシ
ツ
キウ
キ
゛
ニカ
ヤマ
ナ
アカ
マツ
゛
イワ
カカミ
・゛
シ
ホコケ
ッ
゛
ツリ
ハナ
ウルシ
ヤマ
゛ ゛
レ
ン
ケツ
ツシ
゛
ハリ
キリ
シ
モ
ツケ
ヤマナラシ
ノ
ヤマハン
キ
゛
オオ
│ヽ
スノキ
゛
ミ
ヤ
マイ
ホタ
Ⅳ
ず,他 の植物 が侵入 しに くいようだ。20∼30m付 近では
イヽ
径木 も多 くなるが, シ ラカ ンバ などがほとんどである。
コ
メススキ
゛
シン
ミ
ヤマニン
゛
タニウツキ
ラマツ
カ
゛
ミ
ネヤナキ
゛
イタトリ
゛
シ
ケシ
タ
゛
ク
マイサ サ
゛
ソウ
マイツ ル
゛
ネシキ
゛
ヨウラクツ
ツシ
ムシカ
リ
゛
エテ
ハウチワカ
゛ ゛
ウ
リハタ カエテ
゛
ユ
キサ サ
゛
ショ
ウシ ョ
ウ
,lカ
マ
゛
ヨフ シ
゛
アス キナシ
゛
ヤマモミシ
゛
メ
ス
ケ
ヒ
゛
ミ
ス ナラ
゛
リョ
ウフ
ススキ
A3
+
0∼ 30mに かけては,サ サが1。
Om前 後 の高 さで優 占
ミズナ
の
が
る
ラ 大木 点在す るが,後 継稚樹 はみ られ
す 。
群落 区分種
クロ
マメノ
キ
ヤ
マハハコ
A2
Ⅱ
トトランセク トを設定 し,毎 木調査 と地形測量を行 った。
これ らの調査資料か らまず,地 形断面 に沿 うプ ロファ
イルを作成 した。つ ぎに,10× 10mご との胸高直径分布
図を作成 し,群 落構造を比較 した (図 -2)。
4 8
V
ると考 え られる。そこで, これ らの群落 の構造 ・動態を
詳細 に把握するため,ベ ル トトラ ンセ クト調査を行 った。
唸)サ サ群落 におけるベル トトランセク ト調査
一部 に樹林 を含 むササ群落 において,10× 60mの ベル
Al
V
し,サ サ群落 はA3,樹 林域 はA4に 対応する。
煙害 の影響 によって出現する植生 は,鉱 山の中心部周
辺 の人為裸地 に連なる草本 0低 木群落 と,サ サ群落 であ
群落区分
V
白根山山麓 に点在す る鉱山跡地では,人 為裸地周辺 に
ササ草地 が広 が り,そ れをと り囲 んで樹林域 が分布する
(図 -1)。 吾妻鉱山では,人 為裸地 はAl∼ A2に 対応
・
舵 :リョ
ウ
フ典型群落
゛
・
ーミ
A4:マイツル
ソ
ウ
スナ
ラ
群落
A l : コメ
キ
ス
ス
キリロメノ
群落
・ー ・
A 3 : クマ
ラ
ササ
ミ
スナ
イ
群落
4 3 3 3 2 2 + + + + + + + 2 + + + +
ズナラ群落 (A4)は , ミ ズナラが優 占 し,ハ ウチヮカ
エデなどのブナクラス構成種 で区分 される。
妻鉱山現存植生常在度表
樹
b起
1
6ぶ
高
4ら
の
2高
度
。
DBH. (Cm)
図 -2 サ
サ群落 の トランセク ト (上
急点 (ガ リー頭部)で Bと 境)
D:5∼ 10mの 下部平坦面
E:0∼ 5mの 下部凹型斜面。
ガ リーは方形区左端で,上 部平坦面まで達 し,や や屈
曲 しなが ら幅 1∼ 2mで 斜面 を下 る。溶岩流 の肩 (30∼
35m)に あたるガ リー底 の一部 に溶岩 が露出す る。方形
区中央部 には最大幅 5mの 明瞭 なガ リーが発達す る。ま
た,方 形区下部 に もガ リーが形成 されている。中央 のガ
リァは高 さ80cm(最 大 ガ リー深)の 壁をなすガ リー頭部
を もつが, ガ リー底 に溶岩 が露出す るほどではない。
表層物質 はガ リー頭部 の壁を模式断面 (図-3の 柱状
7)と してその特徴 を記載する。
表層 か ら10cm程は植物根を主体 とした未分解 の植物遺
体 と,ほ ぼ同 じ厚 さの茶褐色 の砂質 ロームが厚 さ20cm程
度 の腐植層 を覆 う。その下方 には30cm厚の茶褐色∼ 暗褐
色 の粘土化 した火山 ローム (下部 に軽石を含 む)が 堆積
す る。その下方 には, 5こm厚 の褐色軽石層 と2 cm厚の灰
褐色火山灰 が存在す る。 この軽石 はその層準 と層相から,
この地域 に広 く分布す る熊石軽石 の可能性 が強 い。 この
:プ ロファイル,下 :胸 高直径分布図)
考 え られる)こ とか ら,そ れほど激 しい侵食 を受 けて い
ないと推察 される。す なわち, このガ リーは煙害 を受 け
る前 か ら存在 し,煙 害 を被 った後 は少 な くとも柱状 6よ
り上部で ガ リー頭部 の後退 があったと推定 される。なお,
柱状 1の 表層 の軽石混 じりのローム層 はガ リー侵食 の拡
大 に伴 う再堆積 であろう。
つ ぎに, こ こでの種 の分布範囲 の特性 をみる。土壌侵
食 を うけた裸地 にはシッポ ゴケやススキがわずかにみ ら
れるだけで,植 物 はほとんど侵入 して いない。裸地を囲
む部分 では, ヒメスゲ,ス スキなどが表面 を覆 い,ク ロ
マメノキなどの矮性低木 も生育す る。
木本性樹種 は侵食裸地付近にはほとんどみ られず,そ
の周辺部 に分布す る。 とくに,上 部 の侵食 を受 けて いな
い部分 には ミズナラの成木 がみ られ,ま た,斜 面下部 の
再堆積部分 には, リ ョウブなどの稚樹 が生育 して いる。
ガ リー と種 の分布 の関係 をみると, ク ロマメノキなど
は裸地を囲 むように分布 して いる。また,侵 食面上部 で
はササ群落 と接 しているの も特徴である。
下方 には軽石混 じりの埋没腐植層 が存在す る。
この断面上 の表層物質 の変化 は,以 下 のよ うである。
ガ リー頭部 よ り上方 では埋没腐植層 は観察 で きなか っ
(1)煙 害地 における植生 タイプとその動態
植物社会学的調査 と トラ ンセ ク ト調査 の結果 を整理す
たが, ほぼ同 じ構成 の表層物質 が観察 された。 これはこ
の部分 がそれほど乱 されて いないことを示す。すなわち,
ると,煙 害 による植生 タイプは以下 のように区分できる。
煙害 の影響 を最 も強 く受 けて いる所 では, ヒ メスゲ,
過去 に煙害 で植生 が破壊 されたとして も表層物質を動 か
す ほどのイ ンパ ク トは加わ らなか ったと考 え られる。そ
して,表 層 の茶褐色 の砂質 ロームがその当時形成 された
裸地 か ら移動 一堆積 した物質と考えられる。二方,ガ リー
頭部 より下方では柱状 6で 観察 されたように,上 部 の腐
植以上 の層 が完全 に削剥 されている。
ススキを中心 とした草本性群落 が成立 し,矮 性低木 も団
ー
塊状 に分布す る (Al。 ヒメスゲ クロマ メノキ型 )。
土壌侵食が起 っていない所 では, リ ョウブ, シ ラカ ンバ
などが低木林 を形成す る (A2.ヒ メスゲ ー リョウブ型)。
また, A2の なかには, ミズナラが優 占す る植分がある。
これは, ヒメスゲ ー リョウブ型 のやや発達 した段階 と考
また,そ れより下方 では,柱 状 1を 除 き,表 層 に腐植
層 が残 っている (腐植 の一部 は表面を流れた再堆積物 と
え られる (ヒメスゲ ー ミズナラ型)。
また,サ サの分布域 では,他 の種 はほとんど侵入でき
造園雑誌 53(5),1990
-
4 。考 察
153-
現在 の状況 とは若干異 なるが,林
床 はそれほど変化 していない。跡
地周辺 の樹林域 では,林 床 にササ
を含 む植分 と含まない植分 がモザ
イク状 に分布す るのがわかる。植
生回復 のプロセスを考える場合 に
は,サ サ優 占型 とそうでない型 の
囲
霜易 雲体 囲
樹林を分 けて考える必要がある。
分析 の結果 か ら同地域 における
軽石
植生 の退行 と回復 の動態をまとめ
ると,以 下 のよ うである。
圧コ砂質ローム匡ヨ火山灰
新 しい腐植 皿
■
古 い腐植
り 溶
岩
囲警
Ξ
fじEI∃
まず,被 害を最 も著 しく受 けた
場合 は,植 生がすべて削剥 され,
侵食が誘発 されて,表 層物質 が流
出す る。 ガ リー内部 にはほとんど
植物 がみ られず,植 生 の回復 は,
長期間困難 と考え られる。
しか し,裸 地 の周囲 にはクロマ
メノキなどの矮性低木種や, ヒメ
スゲなどの草本種 が,土 壌侵食を
抑えつつ生育 している。 と くに矮
性低木 は土壌保持能力 が大 きいた
めに,侵 食 はそこでス トップ して
いると考え られる。侵食 を うけな
か った所や,侵 食 によって斜面を
移動 した物質 が再堆積 した所では,
リョウブ, シラカ ンバ のよ うな木
本種 が低木林を形成す る。 ところ
°
° (D 30
によっては ミズナラも侵入するた
林床 は依然 として ヒメスゲ優 占で
躙
囲
クロマメノキ,ルL
知ハ
モ
ケモ
コ
圃
,圃
シラ
シ
ラタ
タマ
ノキ
マノ
キ
゛
クマイサ サ
サ鍼
欠げ
ある。
一方,サ サ草地 は,裸 地化 した
の ちにササが新 たに侵入 してきた
悔3 L t t M ゛
お
‐
゛
゛
゛
゛
゛
ニン
Af:ミ
ヤ
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゛
゛
スナ
ラ,Sr:ミネ
Om:ミ
ヤ
ナ
キ ,Wh:タニ
ツ
ウ
キ 。 BG:侵食裸地
図 -3 低
木 ・草木群落 の トラ ンセ ク ト (上 :地 形 0土 壌 断面図,
中 :地形 の概略とガ リーの分布,下 :樹 冠 0コ ロニー投影図 )
か,あ るいはササ優 占型 の樹林 の
上層木が煙害 によって破壊 されて
しまったために出現 したか,の ど
ちらかである。 いずれ にせよ, こ
こでは木本種 の侵入 が抑制 され,
ササ群落 が長期間持続する。
ず,植 生 の発達 が抑え られて いる (ササ型)。
一方,被 害をあまりうけて いない所 は, ブナクラスの
構成種 を含 む ミズナラの樹林 (マイヅルソウー ミズナラ
群落)が 成立す る。 この群落はササ群落 の トラ ンセ ク ト
上部で もみ られた。金井 ・荒井 (1976)1)は,無 害地 の
ミズナラ林 ではササが林床 を優占す るとしている。 しか
し,本 調査 ではそのような林分 は見いだせなか った。
そこで,空 中写真判読 によ り,サ サと樹林域 の分布 を
図化 した (図丁 4)。 使用写真 は昭和50年撮影 の もので,
上述 の 2つ の タイプとも,今 後 は徐 々にブナクラス構
成種 が侵入 し,本 来 の植生 に回復 してい くだろう。 しか
し, ヒメスゲ優占型では,す でに高木性樹種 が侵入 し,
単層林 に近 い構造 なが ら,樹 林 の形態をとっているので,
よ り速やかに安定相に向か うと思われ る。
9)自 然荒廃地 との比較
煙害荒廃地 の北東約 4 kmにある草津 自根山の山頂付近
には,火 山活動 の影響 で荒原植生 が分布 し,類 似 の景観
を呈 しているg
154-―
た植生区分 を対応 させたのが,図 -5で ある。
まず,侵 食活動 は両者 とも I帯 で明瞭 だが,そ の様式
はかな り異 なる。山頂付近 では活発 な火山活動 により現
在 も激 しい侵食が続 き,火 山か ら供給 された物質が面的
に流出 して いる。 これに対 し,鉱 山では局地的 にガ リー
が発達 し,侵 食裸地 がパ ッチ状に広がる。両者 の侵食 の
差異を もた らす のは,攪 乱 の規模 (物理的鞠艶 影響度)
や頻度 3)の違 いと考 え られる。
すなわち,山 頂 では大面積 にわたって一斉 に強度 の攪
乱を受 けるために大規模 な侵食 が起 こるが,鉱 山での,
伐採 や煙害 などの攪乱 による荒廃地 の拡大 はそれよりも
時間 を要 し,規 模 も小さいために,面 的 な侵食 は起 こり
に くい。 む しろ,鉱 山の侵食過程 は地形 の起伏や,局 地
的 な人為的 イ ンパ ク トの強弱 などにより大 きく左右 され
ると考え られる。その結果,荒 廃裸地 は,モ ザイク状 の
不規則 な分布 を示す (図 -3)。
11ミ ズナラ林 (林床ササ優占)
「 :I‡
人工裸地
げ」
「
∫
:I翅
輻… TT 5q4
・
閣報輔田 草本 低 木群 落
図 -4 吾
ズナ ラ林 ( 林床 ササな し)
n////mミ
こ うした侵食形態 の違 いは, I帯 での植被 の分布パ ター
ンに も影響す る。火山では植被が裸地上 に塊状分布す る
が,鉱 山では裸地 を取 り囲む ように分布す る。また,植
妻鉱山周辺の植生分布図
生 タイプの差異 は土壌侵食 の強度 を規定すると考え られ
る。すなわち ヒメスゲ型 は,土 壌保持力 が高 いササ型 に
白根火山山頂 では,火 口を取 り巻 くように荒原植生 が
比 べて,侵 食 されやす いといえる。
つ ぎに,植 生か らみた特性を考察す る。 I帯 の荒原植
生には,ク ロマメノキは じめ,ス ノキ属 の矮性低木 が特
徴的 に出現す る。 これ らは本来,高 山帯 (ハイ マツー コ
巨離を隔てるに したがい,チ シ
分布す るが,火 口か らの足
マザサ草原や シラ ビソーオオ シラ ビソ林 のよ うな,よ り
4)。それ
発達 した段階 におきかわる植生配列がみ られる
と吾妻硫黄鉱山跡地 は植生帯 が異 なっているので,出 現
する種 に若干違 いが認 め られるが,植 生配列の規則性 は,
一見 して非常 に類似 して い る。
ケモモ群団域)に 生育する種 であるが,山 頂付近 では火
山活動 による,吾 妻鉱山では鉱山操業 によるイ ンパ ク ト
がそれぞれ分布域 の下降 を もた らした。
そこで,人 為起源 による吾妻鉱山の荒廃地 を 自然起源
である山頂付近 の荒廃地 と比較 し,侵 食活動 を中心 とす
これ らの種 は,荒 廃化 を示す指標 として有効 である。
しか し, Ⅱ帯付近 になると,山 頂付近 ではこれ らの矮性
る地表面 の状態 と植生 の構造 か ら,煙 害 によって生 じた
低本 が高被度 で分布す るのに対 し,鉱 山ではほとんど出
現 しな くなる。鉱山が ブナクラス域 に位置 しているので,
コケモモー トウ ヒクラス域 の山頂部 よりも早 い時期 に矮
荒廃地 の特性 を明 らか に した。
4。(1)で
述 べ た植生 タイプをその発達の程度 にしたがっ
て模式化 し,そ れに大黒 ほか (1989)4)山
頂付近 で行 っ
ー
―
ー
ー
ー
ト
ト
ー
一
ー
: l ―
一
ー
」
ト
ー
一
∼
Ⅲ
V 一
一
―
十
< 吾 妻鉱 山周 辺 >
BG
゛
Am:オオシ
ラヒ ソ, Bp:シラカン,ド
・
・
Sc:ナナカマト , Sk:チ シマサ サ,
・
・
Cb:リョ
ラ,
スナ
ウフ , Q皿:ミ
゛
SS:ク
マ
イササ (その他 は図 -3参 照 )
図 -5 草
造園雑誌 53(5),1990
津白根山山頂周辺 と吾妻鉱山周辺の植生分布模式図
一-155-一
一
‐
V
性低木が消失 して しまうと考 え られる。
一方, Ⅱ∼ Ⅲ帯付近 では,ナ ナカマ ドや リョウブなど
の木本性先駆種 が侵入す る。 この場合,鉱 山の方 がよ り
高被度 で分布 している。 その原因 としては,鉱 山操業と
い うイ ンパ ク トがすで に除去 されてお り,木 本種 の侵入
がよ り容易 になっていることが考 え られ る。 また,以 前
に土壌生成 が行 われて いること もその一 因 だろ う。
Ⅲ帯以降 は,両 者 とも類似 した発達段階を示す。す な
わち,Ⅲ 帯 になると優 占種 が侵入 し,そ の被度 が徐 々に
増加 して,安 定相 へ と移行す る (Ⅳ∼ V帯 )。
5.ま
とめ
吾妻硫黄鉱山 は落葉広葉樹林帯,山 頂周辺 は針葉樹林
帯 に位置す るが, これ らの荒廃地 はいず れ も,自 然状態
では高山風衝地 のよ うな,本 来 よ り寒冷 な気候下 でみ ら
れ る景観 である。す なわち,両 地域 で は,そ れぞれ 自然
的 ・人為的イ ンパ ク トによ つて,類 似 の 「
疑似寒冷景観」
が 出現 したといえる。 また,植 生 の退行 と進行 もほぼ同
様 の過程を示す など,共 通点 は多 い。 しか し,荒 廃地 を
形成 したイ ンパ ク トの性質 は全 く異 なってお り, この差
のため,造 成時 には,あ らか じめ侵食防止 を考慮 した植
生保全方策を考える必要 がある2)。ここでは,地 表をサ
サが優 占す る状態 に維持 すれば土壌 の流出をある程度抑
制 で き,ス キー場 として の利用 が可能 である。 しか し,
昨今 の リゾー ト開発 ブームともあいまって,近 年 のスキー
場造成 は,大 規模 な地形改変 をともな うことが多 い。そ
の場合, ここでみ られるスポ ッ ト状 の裸地 が面的 に拡大
する恐れが ある。一度裸地化 が進 むと,そ の回復 は長期
間困難 である。山頂付近 の火山荒廃地 では,サ サ草原か
ら針葉樹林 べ は50年ほどで移行す るが,裸 地か らの植生
発達は;ま ず土壌生成から始まることもあって,そ れ以
上の時間を要する4)。こぅした場所での緑化修復は,土
壌の復元を必要とするため,そ のコストも膨大になる。
以上述 べて きたように,荒 廃地を修復 ・保全す る場合
は,人 為 のイ ンパ ク トによる環境変化をあらか じめ予測 ・
評価 した うえで,不 可逆的 な植生退行を起 こさぬよ う,
適正 な方策を講 じて い く必要 が ある。
なお,本 研究 を進 め るにあた り,文 部省科学研究費
(研究代表者 :東 京都立大学教授 ・門村浩,課 題番号633
02068)を 使用 した。また現地調査 に際 して は,東 京大
異 が 2つ の荒廃地 の特性 を強 く規定 している。
と くにし イ ンパ ク トの規模 ・頻度 は,侵 食裸地 の形成
学農学部井手久登教授 ほかに多大 なご協力をいただいた。
過程 に違 いを もた らす。すなわち,山 頂付近 では火山の
大噴火 で大規模 な面状 の侵食 が卓越す るのに対 し,鉱 山
周辺 では煙害 による裸地化の影響 をうけて小規模なガリー
参考文献
1)金 井春雄 ・荒井隆幸 (1976):煙 害跡 地 にお ける植
生 の変化 と適地 判定 :前橋営林局林業技研集 19,13-
侵食 が顕著 にみ られ る。 その結果,鉱 山 の荒廃地では,
15.
2)中 村 徹 ・石井秀樹 ・山田孝雄 ・雨宮礼一 (1985):
新潟県長岡市営 スキ ー場 の植生 と土壌お よび今後 の
侵食 によって植生 の回復 が著 しく抑制 された部分 と,植
被 によって土壌 が保護 され,植 生 の回復 が進 んでいる部
分 が モザイ ク状 に分布す る。後者 はさらに ヒメスゲ型 と
ササ型 に分 けられ る。 ヒメスゲ型では土壌侵食 が誘発 さ
れ る恐れがあるが,回 復 は比較的 はや い。一方,サ サ型
では土壌 の流出は抑え られ るが,他 の種の侵入が困難で,
長期 にわたってササ群落 が持続す る可能性 が高 い。
したが って, こ こでの植生修復 に際 しては,侵 食 の程
度や種 の分布特性 など,植 生 タイプ ごとの性質 を考慮 し
て,対 策を講 じる必要 が ある。
また,開 発 を行 う場合 に も同様 の ことがいえる。 たと
えば この地域では,ス キ ー場 が各所 に造成 されてお り,
煙害跡地以外 に も人工草地や裸地 が広が りつつ ある。そ
植生管理 :造 園雑誌 48(5),181-186.
3)中 静 透 ・山本進― (1987):自 然攪乱 と森林群集
の安定性 :日生態会誌 37,19-30.
4)大 黒俊哉 ・武内和彦 ・井手久登 ・吉田直隆 ・今川俊
明 ・梶浦一郎 (1989):草 津白根 山 にお ける森林破
壊 が野生果樹 クロマ メノキ 自生地 の分布 に及 ぼす影
響 について :造園雑誌 52(4),245-254.
5)下 谷昌幸 (1985):白 根火山 :上毛新聞社 ,214 pp.
6)宇 都浩三 ・早川由起夫 ・荒巻重雄 ・小坂丈予 (1983)
:火山地質図3,草 津 白根 山地質図 :地 質調査所 ,
10 pp.
Summary : Around the Agatsuma sulfur mine in Gunma Prefecture, degraded landscapes
caused by smoke damages have been formed. Landform, soils and vegetation and the
vegetation changing processesa.resurveyed and analyzed.
Degraded plant communities of Sasa and Carextypes are distributed in moderately
damaged area,and patches of eroded bare grounds have been formed in heavily damaged
area.
Degradation and restoration processes of degraded landscapes are similar to those of
volcanic desert landscapes around the crater of Mt. KusatsuSirane, but distribution
patterns of degraded lands are quite different.
The resuit of analysis suggests that landscape conservation treatments based on ecological evaluation are neededto minimizethe appearanceof man-induced land and vegetation
degradation.
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