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音楽を共有するための言葉を育む授業
音楽科(中学校第3学年) 音楽を共有するための言葉を育む授業 本事例の言語活動のポイント ① 感じたことや思いを言葉で表現させることで、生徒の意見から音楽を形づくっている 要素や雰囲気、特徴を表す言葉などを明らかにし、音楽を共有するための言葉として捉 えさせる。 ② アンサンブルでの器楽表現や合唱曲の鑑賞時に、ワークシートに意見を書かせ、グル ープや学級で意見交換をさせることで、授業で明らかになった音楽を共有するための言 葉を自分の言葉として活用させる。 題材名 【A表現】リコーダーアンサンブルに挑戦しよう 【B鑑賞】合唱の名曲から自分たちの合唱に生かせる特徴を聴き取ろう 題材目標 【音楽への関心・意欲・態度】 A 演奏のよさを生み出す音楽の要素に関心をもち、それらを自分たちの演奏に生かそ うとする。 B 音色、リズム、速度、旋律、強弱、形式など、音楽が生み出す特徴に関心をもち、 詩や曲の背景と関連付けて鑑賞しようとする。 【音楽表現の創意工夫】 A 演奏のよさを生み出す音楽の要素を知覚し、その働きを生かして表現を工夫するこ とができる。 【音楽表現の技能】 A 工夫を生かした音楽表現をするための技能を身に付けて、演奏することができる。 【鑑賞の能力】 A 演奏のよさを生み出す音楽の要素を基に、根拠をもって批評することができる。 B 声の響き、声と管弦楽の音色、リズム、速度、旋律、強弱、形式など、音楽を形づ くっている要素を知覚し、それらの働きが生み出す、声による芸術のよさや美しさ、 特質や雰囲気を感受することができる。 題材を扱うに当たって ○ 教材曲について 【A 表現】では、ソプラニーノ、ソプラノ、アルト、テナー、バスリコーダーを用い たアンサンブル曲で、追いかけやハーモニー、声部の役割の入れ替わりなど、聴き合うこ とが大切な教材を選曲した。 【B 鑑賞】では、アカペラの響きや声部の重なりなど、声でつくられる表現の美しさ - 131 - を味わうことに適した曲と、生徒に親しみがあり、オーケストラの楽器と組み合わさった 時の音色、速度や強弱の変化による効果など、合唱のよさを味わうことに適した曲を取り 上げた。 ○ 言語活動について 音楽科の授業で表現や鑑賞の能力を高めるために、音楽を共有するための言葉を用いて 「感じたことや思いを言葉で思考・判断する」必要がある。そこで、音楽を共有するため の言葉として、 「音楽の諸要素を表す言葉」 「雰囲気や特徴を表す言葉」 「音楽に関する用語・ 記号」 「表現技術を表す言葉」などに着目し、それらの言葉を育むために、以下の手立てを 講じる。 ・ 楽器の種類や音楽の諸要素が演奏に及ぼす効果を体験させて考えをもたせる。 ・ 合唱や器楽アンサンブルのよさを感じる根拠を考えながら鑑賞させる。 ・ アンサンブルでの器楽表現や合唱曲の鑑賞時に、グループや学級全体での意見交換の 場を取り入れる。 ・ 「A表現」及び「B鑑賞」の指導において、ワークシートの記述やグループ・学級の 意見内容から、音楽を形づくっている要素を明確にする。 指導計画(全5時間) A 太枠囲みの部分を「指導の実際」として紹介 リコーダーアンサンブル B 合唱の名曲 教 二重奏「小さな世界」 「泉の水を求める鹿のように」 材 三重奏「エーデルワイス」 『メサイア』より「ハレルヤ」 曲 四重奏「木星」 『カルミナブラーナ』から「おお運命よ」 五重奏「アメイジンググレイス」 学習活動 第 〇アンサンブルについて知り、グループのメ 〇合唱の形態や、種類を表す言葉を知る。 1 ンバー、演奏曲、楽器を決める。 時 第 〇各自のパートの練習、グループで合わせる 〇「泉の水を求める鹿のように」を、ア 2 練習をして、出だしの合図、他声部とそろ カペラの音色や、混声四部合唱の響き、 時 えるポイント、声部の組み合わさり方、演 各声部の動きの絡み合い、声部の重な 奏の終わり方などを話し合う。 り、ハーモニーなどに注目して聴き、 〇演奏を試し、上手くいった工夫を意見交換 声の表現力や合唱の特徴について他の 音楽芸術と比較してまとめる。 し、他のグループと共有する。 第 〇音楽の用語や記号については、その効果や 〇「ハレルヤ」を聴き、合唱とオーケス 3 それが生み出す曲想の違いを話し合いな トラが組み合わさったよさをまとめ 時 がら演奏曲にまとめる。 る。 〇各声部の音色の違い、管弦楽の音色、 強弱の変化、混声四部合唱と管弦楽が つくるハーモニーの多彩さなどに言及 した意見を学級全体で共有する。 - 132 - 学習活動 第 〇他のグループの演奏を聴いて、速度、旋律、 〇「おお運命よ」を聴き、楽器の音色、 4 リズム、追いかけ、ハーモニー、声部の役 リズム、速度、強弱、形式などが生み 時 割の入れ替わり、楽器の組み合わせによる 出す効果や雰囲気の変化を考え、グル 音色の変化などの要素が、演奏曲のよさに ープで意見交換する。 どう関連しているのかを考え、ワークシー 〇歌詞の日本語訳が字幕で流れるビデオ を鑑賞し、音楽の特徴を詩や曲の背景 トにまとめる。 と関連付けて理解する。 第 〇前時に出された意見を参考に、グループで 〇これまでにワークシートに記入した音 5 意見交換し、よりよい演奏を目指して、発 楽の特徴を表す言葉や聴く視点などを 時 表会を行う。 使って、クラス合唱曲を選曲する。 指導の実際 リコーダーアンサンブルの活動で、教材曲を生徒に聴かせたとき、「よかった」「きれいな 曲だ」と一言で終えてしまったり、限られた要素だけで曲を捉えたりする生徒がいた。そこ で、何を聴き取るのか、何を聴き合うのかなど、具体的にポイントを示して、曲に対する思 いや考えを自分の言葉で表現させてきた。 リコーダーアンサンブルの第4時では中間発表会を開き、お互いの演奏を聴き合う場を設 定した。演奏に対する意見は「○○が○○だったからよかった」、「○○を○○したらもっと よくなる」というように、発表したグループにアドバイスを送る型を用いてワークシートに 記述させた。これにより、生徒に自らの意見に根拠をもたせるように意識させた。 以下は、生徒がワークシートに記述した主な内容である。 ○ 高い音の楽器は高音に適したメロディを吹いていて、全体のまとまりがよい。 ○ 伴奏の人たちがいいリズムで刻んでいた。リズムが一定に保たれていたので、他の 音がきれいで透き通っているように感じた。 ○ 楽器の使い分けが考えられていたので、伸ばすところのハーモニーがきれいになっ ていた。低い音の楽器と高い音の楽器の違いで曲の雰囲気がまるで違ってくる。 全てのグループの演奏後、ワークシートに書いた意見をグループごとに集約し、それを基 に意見交換をさせた。そして、学級全体の場で、グループの代表に今回の発表のよかった点 や改善点などを発表させ、その内容を全て黒板に書き出した。意見発表が終了した後、音楽 が多くの要素からつくられていることを伝え、 「友達の演奏の中で何に注目したか明らかにし てみよう」と発問し、生徒の意見に含まれる音楽を形づくっている要素を明らかにしていっ た。生徒は、「リズム」「ハーモニー」など普段からよく使っている言葉は要素として捉えて いたが、音の強弱を音の大小と発言する生徒もいた。生徒の意見の中にある言葉を用いて要 素に集約したため、要素の意味も生徒は自らの言葉で理解することができた。中間発表会で は、生徒の意見の根拠は、「速度」「リズム」「旋律」「追いかけ」「ハーモニー」「アーティキ ュレーション」 「強弱」 「楽器の音色」の八つの要素に分類された。 合唱曲の鑑賞においても、同様の方法で合唱曲を形づくっている要素を、生徒が記述した ワークシートの意見を基に明らかにしていった。アンサンブル曲で明らかにした要素を踏ま - 133 - えて、生徒には「アンサンブル曲にはない新たな要素はないだろうか」と投げかけた。以下 は、生徒がワークシートに記述した内容である。これらの内容により、混声四部合唱の「響 き」 「声部の音色」「声部の重なり」などを新たな要素として捉えさせた。 ○ ピアノ一つでできてしまうメロディも、たくさんの人の声でつくられていると立体 的になる。 ○ 四つのパートがあったと思う。主役が入れ替わりながら、とてもきれいなハーモニ ーを保っている。 ○ 声だけの音楽は透明感があって、楽器の音とは違った神秘的な感じがした。 鑑賞の第5時では、文化祭の合唱コンクールに向けて、クラス合唱曲の選曲を行った。こ れまでの学習を生かし、曲について「○○が○○だから歌いたい(選びたくない) 」など、根 拠を明確にする型を示し、音楽を形づくっている要素を意識して聴かせ、意見をワークシー トに記述させた。以下、生徒が記述した主な内容である。 ○ 流れるようなクレッシェンドやデクレシェンドが、歌詞の時間の流れみたいで好き だった。 ○ 台詞のように歌うところを、はっきり区切って歌っているから迫力がある。 ○ ユニゾンが多い曲は圧倒的にパワーと響きの厚みがある。 ○ 歌詞によっていろんなパターンのリズムがあるので、合唱するときには一人一人が 場面を考えて歌いたい。 ○ すごい速さの追いかけがあって、たくさんの花が豪華に咲いたのがよく分かる。 ○ もし自分が歌うならテンポの変化を大きくして、雰囲気をがらりと変えたい。 ○ 男子の低い声で入るところがスローテンポなので、温かさを感じる。 これらの内容には、音楽の要素を捉え、それらが生み出す働きや雰囲気をつかんだ記述が 見られ、音楽を共有するための言葉が育まれたと判断できる。 考 ○ 察 本実践では、生徒に演奏や合唱曲に対する意見を自分の言葉で表現させ、その言葉を用 いて音楽を形づくっている要素を明確にしていった。要素を生徒に一方的に与えるのでは なく、生徒に自らの言葉の中に要素が含まれていることに気付かせたことは、要素の意味 だけでなく、要素を用いた多様な表現方法を獲得させ、生徒の音楽に対する相互理解をさ せることにつながった。 ○ 音楽を共有するための言葉を豊かにするためには、日常的に感じたことや考えたことな どを自らの言葉を用いて表現することも重要になる。そのためには、音楽科の授業に限ら ず、他教科・領域との関連を図って、生徒の語彙を増やす取組が必要である。 ○ 音楽を形づくっている要素とそれらの働きを表す記号や用語の関連を深めることができ れば、生徒の音楽を表現する言葉はさらに豊かになるであろう。この記号や用語を定着さ せる工夫も図っていきたい。 - 134 -