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Topics 製薬協が欧米における産学官連携の 調査団
No127_Topics_製薬協が欧米 08.8.25 7:22 PM ページ20 Topics 製薬協が欧米における産学官連携の 調査団を派遣 トピックス 製薬協研究開発委員会は、官民対話で課題に挙げられている産学官連携推進とベンチャ ー育成への対応を図るため欧米での官民協力の実情を調査しました。春山英幸委員長を 含め12名が参加、5月26日から6月3日までドイツ、オランダ、ベルギー、デンマーク、 イギリス、アメリカを歴訪し、各国の産学連携機関や業界団体の責任者と意見交換を行 いました。 製薬企業は、医薬品の安全性要件の厳格化、高品 質な創薬シーズの枯渇等により研究開発生産性の 低下に直面しており、革新的創薬のための技術開 発のスピードアップが望まれています。そのため には産学官連携の強化やベンチャーからの技術や 製品の導入などが重要な課題となっています。欧 米では、創薬にかかわる課題解決の一手段として 産学官連携が成果を挙げていますが、日本におい ては連携の体制が未熟であるといわざるを得ない 状況です。 2007年からは新たに革新的創薬のための官民対 話が始まり、官民協力体制の強化が望まれてきてい ます。この官民対話において、製薬協としては創薬 関連予算の充実、ベンチャー育成、橋渡し研究環境 の整備などをあげて行政の対応を求めています。こ れらの活動によって省庁連携の流れはできつつあり ますが、さらなる推進を図るためには、研究開発委 員会から有効かつ具体的な提言を行うことが重要で あると考えています。 欧米での産学官連携の現状を調査し、そこにある 優位性や課題を見出し、製薬協として何をすべきか を考え関係方面に提言していくことは、当委員会の 重要な命題の一つであると捉えています。 今回、研究開発専門委員会では、欧米の産学官連 携の基盤整備に向けた方策とその成果を確認するた めに調査団派遣を企画しました。 1.欧米の産学官連携体制の調査 2.欧米のベンチャー育成支援策の現状調査 3.PhRMAやEFPIAなど海外製薬団体との意見交 換を通じ、同団体や会員企業が関与している Critical Path Initiative (C-Path)と Innovative Medicines Initiative (IMI)におけ るトキシコゲノミクス、PGx、バイオマーカー 関連プロジェクトの進捗状況の把握 調査結果について、欧米と日本の創薬に関係する 産学官連携制度の相違を分析し、各社における今後 の産学官連携活動に活かすとともに、我が国のベン チャー育成を含む産学官連携制度の整備改善に関す る行政への提言に反映させたいと考えています。 今回の調査日程と訪問先は以下のとおりです。 5月26日(月) 1. Fraunhofer-Gesellschaft (FhG)/ミュンヘン・ドイツ 5月27日(火) 2. The Netherlands Organization (TNO)/ライデン・オランダ 5月28日(水) 3. The European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations (EFPIA)/ブリュッセ ル・ベルギー 5月29日(木) 4. JETRO Copenhagen/コペンハーゲン・デンマーク 5. Copenhagen Capacity/コペンハーゲン・デンマーク 5月30日(金) 6. The Association of the British Pharmaceutical Industry (ABPI)/ロンドン・イギリス 7. Cambridge Enterprise/ケンブリッジ・イギリス 6月 2日(月) 8. Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA)/ワシントンDC・アメリカ 9. Biotechnology Industry Organization (BIO)/ワシントンDC・アメリカ 6月 3日(火) 10. U.S. Food and Drug Administration (FDA) /ロックビル・アメリカ 11. Critical Path Institute/ロックビル・アメリカ 12. Science Center/フィラデルフィア・アメリカ JPMA News Letter No.127(2008/09) 20 製薬協が欧米における産学官連携の調査団を派遣 No127_Topics_製薬協が欧米 08.8.25 7:22 PM ページ21 以下に各訪問先での調査の内容について報告し ます。 1. Fraunhofer-Gesellschaft (FhG) FhGは非営利機関でドイツ・ミュンヘンに本部を 置き、応用科学研究組織としては世界第2位の規模 を誇っています。第2次世界大戦後の1949年に設 立され、戦後のドイツ経済復興を目的とし、民間企 業等を主な顧客として応用と実用化研究を行ってい ます。年間予算は約13億ユーロ、56研究所、従事 者12,770名を擁しています。収入の2/3は企業 からの受託研究と公的な研究プロジェクトから得て おり、残りを連邦および15の州政府資金でまかなっ ています。今年の企業からの受託研究費は650億円 を越えており、良好な連携が形成されています。研 究所が7つの分野(情報通信工業、生命科学、材料 と部品、マイクロエレクトロニクス、生産、表面技 術と光子科学技術、防衛)において連携して研究を 行っています。その中で生命科学は新しい分野で、 今はまだ予算規模と研究数が少ない状況です。ベン チャー企業も多く設立していますが大きく成功した 例は少ないようです。 用化レベルまでレベルアップし、企業が実施可能な 状態に達した時点で技術移転を行っています。TNO は政府から毎年約2億ユーロの融資(TNO収入の 33%)を受けていますが、2007年収入の67%を 企業(33%がオランダ以外の企業)からの受託研究 で稼いでおり、ビジネスとして成功し自立している との印象です。また、TNOはベンチャー立ち上げ (年間約80社) に熱心で、約15社のバイオベンチャ ーを立ち上げた実績があります。さらに、スピンオ フ企業(約50社)を輩出し、インキュベーション機 能も果たしています。 3. The European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations (EFPIA) EFPIA(欧州製薬団体連合会)とは、欧州で研究 開発に取り組んでいる製薬企業を代表する団体です。 1978年に設立され、32カ国の協会および欧州に おける医薬品の研究開発・製造に携わる43の製薬企 業で構成されています。 今回の訪問では、現在EFPIAが取り組んでいるワ クチンプログラム(EVM)および欧州バイオ企業連 合(EBE)について説明を受けました。EVMには8 社が参加しています。EBEには、大企業から小企業 まで全64社が参加しており、特に、小企業について ビジネスを支援する組織となっています。 また、現在EUでも産学官連携の成功例といわれて いるIMI(The Innovative Medicines Initiative; HP www.imi-europe.org )について情報のアップ デートを受けました。IMIは、2004年よりEFPIA およびECで構想され立ち上げられたイニシアティブ で、革新的新薬開発に取り組みEUの優位性につなげ ることを目的としています。 4. JETRO Copenhagen Fraunhofer-Gesellschaft正面玄関にて 2. The Netherlands Organization (TNO) TNO(オランダ応用科学研究機構)はオランダ議 会によって1932年に設立され、欧州では最大規模 を誇る中立の総合受託試験研究機関です。特に国内 外からの前臨床試験の受託に注力していますが、創 薬(探索)、非(前)臨床試験、および臨床第二相試 験までのコントラクトリサーチ、パートナー企業と の共同研究開発、コンサルティングサービス、IPラ イセンシング等を包括的に取り扱っています。さら に、TNOは大学と企業の中間に位置する実用化機関 として、大企業にも中小企業にもそれぞれバランス よく技術移転機能を果たしつつ、産学連携を促進す る橋渡し機関として存在価値を十分発揮しています。 すなわち、企業ではリスクが高い基礎的な技術を実 製薬協が欧米における産学官連携の調査団を派遣 JETRO作成の資料を基にデンマークの経済全般 の状況と医療を取り巻く環境や直面する課題等につ いて、日本との比較を交えながら説明を受け、短時 間ながら非常に興味深い話を聞くことができました。 現在、デンマークは有効適切な政府施策が実施され、 堅調な経済発展を続けています。また医療に関して は医療費の個人負担がないなど高福祉を実現してい ますが、これは非常に高率な消費税、所得税等に支 えられていることがよくわかりました。その一方で 企業の法人税率を抑えて海外企業の投資の促進を図 るなどの経済振興策を進めていました。 創薬関連では、製薬業を主要産業の一つに位置づ け各種施策を行うとともに、メディコンバレーのよ うな世界有数のバイオクラスターを構築するなど、 積極的な姿勢には目を見張るものがありました。 JPMA News Letter No.127(2008/09) 21 No127_Topics_製薬協が欧米 08.8.25 7:22 PM ページ22 5. Copenhagen Capacity デンマーク コペンハーゲン地区への外国企業の誘 致を目的とし、ここに投資を考えている企業に対し て必要な地元の情報を提供するとともに、各種コン サルテーションなどのサービスを無償で行っている Copenhagen Capacityのような組織の存在が、デ ンマークの経済発展を支えていることが理解できま した。今回、Copenhagen Capacityの活動内容だ けでなくメディコンバレーの概要についての情報も 入手することができ、多くのアカデミア(14の大学) や研究所、充実した医療施設(11の大学病院を含む 32の病院)と巨大製薬会社と多数のベンチャー企業、 CRO、CMOがクラスターを形成し密接に連携する ことにより、研究開発における強みを形成している ことがわかりました。また、これらを促進するファ ンドやインキュベーターのシステムの整備も進めら れており、サポート体制も充実していることも魅力 の一つとなっていることもわかりました。 6. The Association of the British Pharmaceutical Industry (ABPI) 英国製薬産業協会(ABPI)はイギリス製薬産業の団 体 です。イギリスでは 、Stem Cells for Safer Medicines (SC4SM) 、Centre for Drug Safety Science(CDSS)、Safety Biomarker Working Group、IMI、Experimental Medicine Initiativesなど 驚くほど広範に数多くの創薬・医療体制に関わる産学 官連携プロジェクトが行われています。さらに、2007 年に設立されたOSCHR(Office for Strategic Coordination of Health Research:医学研究戦略 連携局)のTranslational Medicine Boardでは、 ABPIの参加のもと、2007年からPatient Research Cohorts、Models of Disease、Biomarkersについ ての施策も行われています。このように、製薬産業界 と行政が良好な関係を保ちつつ、製薬産業の立場が反 映されている背景には、政府機関の委員会に製薬産業 界のメンバーが数多く参加し、官民の対話が広く行わ れている環境があるものと考えられました。 8. Pharmaceutical Research and Manufacturers of America (PhRMA) 1980年に制定されたバイドール法によって、大 学が知的財産を独自に保有することが可能になり、 企業へのライセンスが一気に促進されるとともに、 大学発のベンチャー企業が続々と生まれました。大 企業もその恩恵を受けています。ベンチャー支援につ いては、米国研究製薬工業協会はファンドなど全体で の支援は行わず、各社が独自の判断で連携しています。 米国研究製薬工業協会(PhRMA)はC-Path関連 でコンソーシアムや共同プロジェクトの立ち上げに かかわっていますが、研究資金などは各企業が個別 に行い、マネージメントには関与しません。米国製 薬協は、多数の製薬企業にとって共通する領域につ いてのみコンソーシアムや共同プロジェクトとして 関与しています。 PhRMA会議室にて 7. Cambridge Enterprise 9. Biotechnology Industry Organization (BIO) Cambridge大学は1209年に設立され、現在、教 員・研究スタッフ4,000名以上、学部学生約 12,000名、大学院生約6,000名を有する総合大学 です 。 産 業 界 との 連 携 では 、 大 学 の R e s e a r c h Services Division(RSD)と、大学の子会社である Cambridge Enterprise(CE)とが分担しています。 RSD では、分野ごとの専門家による契約、ライセン シング、奨学金管理などの業務を、CEでは主に技術 移転、コンサルタント、資金・新規企業支援の各サー ビスを担当しています。CEの2006∼2007年の年 BIOは1993年に設立され、現在では世界中に 1,250以上の法人会員を有し、バイオベンチャー企 業から巨大企業までのあらゆるバイオ関連企業のた めに、企業、州や政府への提言やビジネス展開およ びコミュニケーションサービスなどの支援を行って います。BIOではアメリカ、中国、インド、日本の 産学連携およびベンチャー企業育成などについて、 意見交換を行いました。中国やインドでは政府の強 力な後押しもあり、バイオテクノロジーの発展には 目を見張るものがあります。BIOでも、中国やイン JPMA News Letter No.127(2008/09) 22 間活動状況は、特許出願44件、ライセンス契約60件、 コンサルタント契約95件、株式保有企業72社、売却 企業4社、ライセンス収入約400万ポンド、コンサル タント収入約200万ポンドなどです。研究の初期から、 大学発ベンチャー起業に向けての段階ごとの支援・基 金の体制構築や、国内外の研究機関・企業に対する研 究情報の公開・イベント開催など、ビジネスチャンス を積極的に展開しています。 製薬協が欧米における産学官連携の調査団を派遣 No127_Topics_製薬協が欧米 08.8.25 7:23 PM ページ23 ドとのパートナリングに力を入れており、日本も彼 らから学ぶべきものが多いのではと思えました。 BIO受付にて 10. U.S. Food and Drug Administration (FDA) 「個人の遺伝情報に応じた医療(Personalized Medicine、以下PM)」のマイルストーンと最終ゴ ールについて、FDAと製薬協の間で考え方を共有し、 患者に有益なPMの実現やグローバルな医薬品開発 の効率化をはかる政策提言につなげる目的でFDAを 訪問しました。新しいコンセプトペーパー/ドラフ トガイダンス(New Concept Paper/Guidance on Clinical Pharmacogenetics)の案を発行した いとのことです。そのドラフトガイダンスの注目す べき点は、新薬開発のプロセスに遺伝子研究を組み 入れるためのデジションツリーを示したことです。 11. Critical Path Institute Critical Path Instituteは、FDAのCritical Path Initiativeの推進のため、FDAやアリゾナ大学 などにより2005年に設立された非営利研究教育機 関です。企業からは資金を受けない中立性を活かし、 新規バイオマーカーの検証など、医薬品開発過程革 新のための規制当局、アカデミア、製薬/診断会社 などの間のさまざまな連携プログラムを運営してい ます。FDAとの良好な連携が本機関の特徴ですが、 今回の訪問では、大手製薬企業など17社が5領域の 安全性バイオマーカーを検証するコンソーシアム (PSTC)について特に詳しい説明を受けました。今 年5、6月にはEMEA、FDAから7つの新規腎毒性 バイオマーカーの前臨床での適格性が認定されるな ど、順調に連携の成果があがっています。 12. Science Center フィラデルフィアのScience Centerは、研究開 発、臨床試験、FDA承認申請を見据えた企業にとっ て魅力的な研究テクノパーク(ウェットラボ付バイ オインキュベーター)です。アメリカで最初のテク ノパークとして誕生したScience Centerは、ワシ 製薬協が欧米における産学官連携の調査団を派遣 ントンとニューヨークに挟まれた立地条件を活かし て、世界屈指のテクノパークへと発展しています。 その成功要因は、5つの医科大学、約120の病院な どとの円滑なネットワークが確立していることです。 さらに、製薬企業11社の本社が存在するフィラデル フィアでは臨床試験などの知見を有する人材が豊富 であり、各種専門家からのアドバイスが受けやすい ことも魅力です。これまで4社の日本企業受け入れ 実績があり、2008年5月末時点で、Science Centerは150以上の会社を支援しています。 以上、欧米における産学官連携体制の調査結果に ついて記しましたが、実際に担当者と話をすることに より何が課題なのかを肌で感じることができました。 欧米のベンチャー育成支援策の現状調査では、ス タートアップ時のベンチャーは公的な研究費を獲得 して成長をする仕組みがあり、EFPIA・PhRMA・ ABPIといった業界団体からファンドを出すことは ありません。業界として資金援助を行うのは奨学金 付与など人の育成だけでした。これは製薬協におい ても日本臨床薬理学会海外研修員制度や医療経済学 講座開設などの援助をしており同じスタンスでした。 PhRMAやEFPIAなど海外製薬団体との意見交換 を通じ、両団体とも産学官連携で行う研究と個別企 業で行う研究とをはっきりと分けて考えていました。 安全性や疾患バイオマーカーなど規制に関係する共 通の課題はコンソーシアムを組んで一部公的資金を 受けながら取り組んでいます。 今後、制度や環境因子を分析し産学官連携推進を どう実行するか、具体的な提言に結び付けられるよ うまとめていきたいと考えております。 今回の調査準備に当たって、海外の研究機関との ネットワークが必ずしも十分でないことがわかりま した。今回の成果をベースに、研究関連の分野でも いっそうの国際連携を進めていくことが必要です。 またBIOで、今やアジアは中国とインドだという 認識ができつつあったことは、国内医薬品市場が 年々縮小していることとあいまって非常な衝撃を感 じました。 最後にアジアをはじめ世界に貢献できる日本の医 薬品産業を目指し、より良い研究開発環境を作り出 せるように行政とも連携してこの調査結果を活かし ていきたいと考えています。 なお、訪問先で入手した資料を添付した報告書を 作成する予定です。さらには、来年3月横浜で開か れる日本薬理学会年会シンポジウム「創薬研究活性 化と産官学連携」で本報告を行う予定です。 (研究開発委員会 制度研究部会長 川上 善之) JPMA News Letter No.127(2008/09) 23