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5.6. プラントメンテナンス業 1. 現状認識 (1) 業界の特徴 ① サービス分野

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5.6. プラントメンテナンス業 1. 現状認識 (1) 業界の特徴 ① サービス分野
5.6.
プラントメンテナンス業
1. 現状認識
(1) 業界の特徴
① サービス分野におけるプラントメンテナンス業の位置づけ
プラントメンテナンス業は、主として、石油精製、化学、製鉄、発電等のプ
ラントの性能を維持・改善することを目的に、プラントを構成する設備・装
置・機器の設備管理、保全、整備、改善などの業務を請負っている(図1)。
これらのサービスを提供することで、製造現場における安全・安定操業の実
現に寄与しており、我が国製造業の生産性の維持向上に重要な役割を担って
いる。プラントメンテナンス業は、サービス業としての側面を持ちながら、
製造業とも深く関係し、その生産性向上に深く寄与する、まさにサービス業
と製造業のつなぎ役的な存在となっている。
(図1)プラントメンテナンス業の位置付け
操業・製造
設備投資
製造業 設備・整備部門
一括して外注
外注
プラントエンジニアリング業
企画
設計
調達
施工
性能
(内製) (内製) 検収
管理
保証
材料、機器等
卸売業、製造業
維持・改善
製造業
プラントメンテナンス業
設備管理
保全
整備
施工
建設業
改善
② プラントメンテナンス業の生産性を向上させる必要性
プラントメンテナンス業は、プラントを構成する設備・装置・機器の設備
管理、保全、整備、改善など適切な保全による製造現場における安全・安定
操業の維持に寄与しており、我が国製造業のプラントの生産性向上に重要な
役割を担っている。
また、我が国プラントメンテナンス業は、定期修理の季節集中に伴い、メ
ンテナンス需要も非常に大きく変動するという問題を抱えていることや業務
の品質の可視化が現状ではさほど進んでいないこと、また、海外展開を通じ
た需要の顕在化を図っていくことが可能と考えられること、等により、今後
の取組次第では、生産性向上の余地が大きい。さらに、その波及効果は製造
業全体に及ぶことになることから、プラントメンテナンス業の生産性向上は、
経済全体にとって相乗的に影響するものである。このように、サービス産業
の一角を占めるプラントメンテナンス業は、生産性向上の余地が大きいこと、
また、その生産性向上の効果が、我が国製造業全体に波及し、相乗効果を持
って経済の中長期的な発展に寄与することが期待される。
(2) 業界の現状
① 市場環境
日本メンテナンス工業会の調べ(工業会会員を主体とした各企業へのアン
ケート結果)によると、2006 年度の売上高は約 8,600 億円で、 2003 年度の
122
約 6,200 億円から増加傾向にある。この背景としては、我が国素材型産業製
造設備は欧米と比較しても老朽化が進んでいることから、この数年間の堅調
な景気動向とも相まって、製造業を中心として設備の修繕や更新が積極的に
行われていることにある。そうした中、更新投資を含むメンテナンス需要は、
足下においては増加傾向にあるものの、中長期的に見れば、他産業の動向や
国の施策等に影響される面も多く、現在のような増加傾向が当然のように継
続するわけではないと見込まれる。
また、ユーザーの海外展開により、海外でのメンテナンス需要が増加して
いるが、その対応は、現地法人の設置等により取組を進めている企業もあれ
ば、海外における体制がまだ整っていない企業もあり、各企業によってバラ
ツキが見られる。
② 産業構造
一部の大規模から中堅企業を頂点に地域の中小企業が階層構造をなすいわ
ゆるピラミッド型の産業構造となっている(図2)。
なお、プラントメンテナンス業の形態としては、プラントのユーザーから
派生した「ユーザー系」、ユーザーに設備を納入するメーカーから派生した「メ
ーカー系」、どちらにも属さない「独立系企業」が存在しており、売上高のシェ
アは、それぞれ約1/3ずつの構成になっている(図3)。ただし、プラント
メンテナンスのみ業としている企業は少なく、1企業に占めるプラントメン
テナンスの平均的な売上高比率は、約5割程度である。ただし最近は、その
比率が以前よりも増加傾向にある。
(図2)業界の構造
メンテナンス売上高
19 125億円∼
23 30∼125億円
26 ∼30億円
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
多くの地場企業
*数字は工業会アンケート対象の企業数
(図3)業態別メンテナンス売上高シェア(2006 年)
独立系
33%
メンテナンス
売上高
8,574億円
ユーザー
系
40%
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
メーカー
系
27%
123
③ 雇用環境
我が国のプラントメンテナンス業に従事する国内従業者数は、日本メンテ
ナンス工業会が 2007 年 3 月末時点を調査し回答のあった 68 社ベースで、約
2 万人であり、ここ数年は、メンテナンス需要の増加に伴い、従業者数も増
加傾向にある(図4)。
しかしながら、定期修理が主に春秋に集中するため、年間を通じてメンテナ
ンス需要が増減すること、長期的にはメンテナンス需要は現在のような増加
傾向が当然のように継続するわけではないと見込まれることから、正規雇用
は増やさず、外部への発注等で対応している。
(図4)直接雇用者平均年齢と雇用者数の推移
45
25,000
44
22,500
43
20,000
17,500
42
42.2
41
40
人
直接雇用者平均年齢(左軸)と雇用者数推移(右軸)
15,000
41.3
40.8
40.5
39
1997
2000
2003
2006
(出所)日本メンテナンス工業会調査
2006 年・68 社
(3) 生産性の現状
① プラントメンテナンス業における生産性計測指標
外注比率が高く、従業者1人あたり付加価値額((売上高−外注費)/従業
者数)で計測される。
② プラントメンテナンス業における生産性の現状
「日本メンテナンス工業会の加盟企業アンケート」によると、従業者1人
あたり付加価値額は 2001 年には 1,316 万円、2006 年には 1,435 万円と増加し
ている。
(4) ユーザーからの評価
規制緩和により高圧ガス保安法適用の設備などで、定期点検修理周期が各年
から2年毎、4年毎などと延びる中、定期点検修理時に必要な外注技術・技能
者が確保できるかが懸念されている。さらに今後団塊世代の退職を迎えること
より、技術・技能の継承に不安がある。
一方メンテナンスに係る技術や技能を伴う作業(サービス)を客観的に評価
できる指標がないため契約に反映することが困難な状況である。ユーザーとし
ても上記指標が統一化されていないため、人工単価に基づき契約することとな
り、支払った対価の適正性を評価することも困難な状況にある。
124
2. 生産性向上に向けての課題
(1) 総論
今後、プラントメンテナンス業界が持続的に成長していくためには、メンテ
ナンス業務の季節集中の平準化、人材育成・確保、メンテナンス業務の品質の
可視化、高付加価値サービスの提供、海外展開に向けた検討があげられる (図
5)。
図5
課題の全体像
課
課題
題
阻
阻害
害要
要因・問
因・問題
題点
点
定 修 時 期の 分 散、年 間稼 動の安 定 化
定 修 時 期の 集 中化
地 方 中 小零 細 企業との協 業 の必 要
外
外部
部要
要因
因
プ ラ ン トメン テナ ンス業 の明 確 化
プ ラ ン トメ ンテナ ンス業 の位 置 付け が
不明確
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る化の 推 進
人 工 契 約に よる契 約 金額の 低迷
下 請 け 体質 の 存在
業
業界
界要
要因
因
メン テナ ン ス基 盤 技術の 探索 (診断 、
高 寿 命 化技 術 、自 動 化技 術な ど )
プ ラ ント稼 働 中 の作 業 の必 要 性
マーケティン
マーケティン
グ
グ
個
個
別
別
企
企
業
業
要
要
因
因
国 内 市 場の 縮 小
国 内 外 パ ー トナ ー リング の 必要
海 外 案 件対 応が不 十 分
グ ロー バル 市 場環 境 の把 握
サ ー ビス の質が 不 明
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る化の 推 進
サ ー ビス 高 付加 価 値化が 不十 分
新 規 技 術開 発 の必 要
高 付 加 価値 サ ービ スの 提 案
プロダクト
プロダクト
プロセス
プロセス
契 約 仕 様、形 態の 整 備
業 務 プ ロ セスの 分 析、見 直し
業 務 の 見え る 化の 推 進
メン テナ ン ス プ ロ セスが不 明
プ ロ ジ ェク トマ ネジ メン ト人 材の 不 足
組
組織
織
現 場 監 督者 、熟練 技 術者の 確保
若 年 技 術・技能 者 の不 足
外 国 人 技術 ・技 能 者の 採 用
(2) 外部要因
我が国製造業のプラントについては、その定期修理の時期が主に製品の不需
要期などに合わせて春秋に集中することに伴い、メンテナンス需要も非常に大
きく変動する(図6)
。そのため、定期修理の際に必要となる雇用については、
その多くを地域の中小企業への外注で対応している。この結果として、定期修
理の時期はそもそも外注先の確保が困難である上、外注先への系統だった研修
等を実施することもできず、効果的な人材育成が困難な状況となっている。こ
のため、季節集中が生じるメンテナンス業務の平準化に向けた取組が課題とな
っている。
また、プラントメンテナンス業は「日本標準産業分類」において「その他の
技術サービス業」に内容例示されたが、今後、事業所の定義方法、事業所数の
把握などを推進する必要がある。
125
(図6)定期修理変動事例イメージ(石油精製、化学設備)
100
75
50
25
0
2004
2005
2006
2007
(出所)日本メンテナンス工業会調べ
(3) 業界要因
現在、メンテナンスに係る技術や技能を伴う作業(サービス)の質を客観的
に判断できる指標が存在しないことから、技術料等を契約に反映することがで
きていない状況となっている。同様に、ユーザーとしてもメンテナンス業務の
品質を客観的に判断できる指標が存在しないため、支払うべき対価の適正性を
評価できず、結果的に単純な人工単価に基づく契約となっている。このため、
メンテナンス業務の品質の可視化に向けた取組が課題となっている。
また、設備の老朽化が進む中、設備稼動中に実施できる診断などについてニ
ーズが高い。高度技術の開発と開発資金の確保が課題である。
(4) 個別企業要因
① マーケット
メンテナンス業務は、人の技術、技能に頼る業界であるが、国内労働人口
の減少で人材の確保が困難になることが予想される。このため、企業間の共
同化、ネットワーク化が課題である。
一方、ユーザーのグローバル化は今後一層推進されることが予想される。
そのため、海外におけるメンテナンス需要が顕在化することが推測される。
しかし、現状では業界における海外展開に向けた取組にはバラツキが見られ、
各社の状況は千差万別となっている。今後、人材確保など国内の調整に止ま
らず、グローバルな連携を視野に入れた取組が課題となっている。
② プロダクト
業界要因にあげたように、サービスの質を明示化し、技術評価等を含めた
総合評価方式等の契約等を推進することが課題である。
国内のメンテナンス需要は、現在のような増加傾向が継続するわけではな
いことから、技術力、プロジェクトマネジメント力を活かして、①アウトソ
ーシングの拡大、②高寿命化メンテナンスや診断と一体化したサービスなど
提案力の強化、等により、ユーザーの満足度向上に資する高付加価値化を図
ることが課題である。
③ プロセス
メンテナンス業務は機械系、電気系、計測系などの複合的な業務で構成さ
れており、業務プロセスが明確になっていない。メンテナンス業務の標準化
126
が課題である。
④ 組織
日本メンテナンス工業会による、これまでのアンケート結果によれば、従
業者の平均年齢は上昇傾向にあり、2006 年の従業者平均年齢は約 42.2 歳で
ある。これは 2000 年と比較すると 1.7 歳増加している。更に、今後団塊の
世代の退職の本格化が想定される中、技術・技能の円滑な継承のための人材
育成を進めていくとともに、プラントメンテナンス業の認知度を向上などに
よる若手人材の確保に向けた取組が課題となっている。
また、外国人技術者の活用を検討することも課題となっている。
3. 生産性向上に関する基本的方向性
(1) 総論
プラントメンテナンス業における生産性向上の方策は、プラントメンテナン
ス業務の季節変動の平準化に向けた企業間の共同化・ネットワーク化、品質の
可視化に向けたプラントメンテナンス業務の標準化(含む資格制度の創設及び
契約標準の普及)、基盤技術の共同開発、グローバル展開と相互連携などが取
組の方向性として示される。
(2) 政策として取組むべき方向性
① プラントメンテナンス業務の季節変動の平準化の促進
我が国製造業のプラントについては、その定期修理の時期が主に製品の不
需要期などに合わせて春秋に集中することに伴い、メンテナンス需要も非常
に大きく変動する。そのため、定期修理の際に必要となる雇用については、
その多くを地域の中小企業に外注せざるを得ず、定期修理の時期はそもそも
雇用の確保が困難であり、また、専門人材の育成の観点からも弊害となって
いる。これらのことから、ユーザー等との協議会の設置し、認識の共有を図
ることなどにより、季節変動の状況などを調査しつつ、プラントが集積する
地域ごとに企業間の共同化・ネットワーク化に向けて検討を行うことが重要
である。
(3) 業界として取組むべき方向性
① 品質の可視化に向けたプラントメンテナンス業務の標準化(含む資格制度
の創設及び契約標準の普及)
メンテナンス業務の品質の向上を図るためには、プラントメンテナンスに
係る技術・技能の内容を客観的な指標で示し、ユーザーとも認識を共有する
ことが重要である。その上で、専門人材を育成し、専門人材の育成に応じた
契約方法を定める必要がある。このため、プラントメンテナンス業の定義に
沿ったメンテナンス業務の標準化、メンテナンス資格制度の創設、メンテナ
ンス人材育成プログラム、技術・技能を加味した契約仕様の検討と普及を行
うことが重要である。
② 基盤技術の共同開発
今後、メンテナンス業がさらに成長していくためには、高付加価値サービ
127
スを提供し、ライフサイクルコストの低減又は最適化、メンテナンス業務の
効率化を進める必要がある。このため、業界共同で取り組むべきメンテナン
ス基盤技術の調査や診断手法などの開発の行うことが重要である。
③ グローバル展開と相互連携
ユーザーのグローバル化は今後一層推進されることが予想される。それに
応じてメンテナンスに対するニーズも顕在化するものと考えられる。現状で
は、海外に進出している企業は少ないものの、長期的には国内のメンテナン
ス需要は、現在のような増加傾向が当然のように継続するわけではないと見
込まれており、海外展開について検討を進めていく必要がある。
また、プラントの安全・安定操業の実現には、タイムリーなメンテナンス
が求められるが、一方で、今後は労働人口が減少することから、海外技術・
技能者との効果的な相互乗り入れの在り方について検討することが重要で
ある。
(4) 個別企業として取組むべき方向性
① 企業間の共同化、ネットワーク化の推進
稼働の季節集中など非効率な部分もあるため、中小地場企業への外注も多
く稼働率向上を目的に企業間の共同化、ネットワーク化を図る。
② 高付加価値化の推進
今後、国内のメンテナンス需要は現在のような増加傾向が当然のように継
続することが必ずしも見込めないことから、技術力、プロジェクトマネジメ
ント力を活かして、①アウトソーシングの拡大、②高寿命化メンテナンスや
診断と一体化したサービスなど提案力の強化、等により、ユーザーの満足度
向上に資する高付加価値化を図る。
③ 人材の確保・育成
団塊の世代の退職に備えて、技術技能の継承や若手人材の確保を推進する。
④ グローバル化の検討
海外展開について国内外のユーザーニーズ把握を行い、方向性を検討する。
128
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