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復興支援の最前線 ~水資源機構からの応援職員に密着 東北農政局

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復興支援の最前線 ~水資源機構からの応援職員に密着 東北農政局
特集
復興支援の最前線
∼水資源機構からの応援職員に密着∼
河原田 一州
秋山 健
Kazukuni Kawaharada
Takeshi Akiyama
水資源機構は、国内の 7 つの水系(利根川、荒川、豊
川、木曽川、淀川、吉野川、筑後川)でダムや水路など
の施設を時代の要請に応じて建設・管理し、大切な「水」
を安定供給することを通じて、日本の発展に貢献して
きた。
この目的のために、水資源機構には現在、約 1,400
名の職員が在籍しているが、中には、様々な背景から
国や地方公共団体などに出向する職員もいる。
水資源機構は平成 24 年 4 月、宮城県仙台市に位置
する「東北農政局 仙台東土地改良建設事業所」管内に、
新たに 5 名の職員を派遣した。彼らを派遣する目的は
ただ一つ。東日本大震災により壊滅的被害を受けた、
仙台市から山元町にかけての沿岸部の復興支援だ。
この重大プロジェクトに携わる河原田と秋山の二人
に現況を聞いた。
応援職員が派遣されている 3 地区
4
●
水とともに 水がささえる豊かな社会
復興支援の最前線~水資源機構からの応援職員に密着~
河原田は今
河原田が技術専門官として、仙台東土地改良建設事業
所に赴任してから 1 年半の月日が流れた。懸案であった
仙台市沿岸部の復旧は、計画通りの進捗を見せてはいる
ものの、依然として気の抜けない状況が続いている。
「私の仕事は、あの津波によって壊滅的な被害を受
けた、沿岸部の排水機場や排水路をはじめとする農業
用施設を復旧し、今なお営農が困難となっている状況
荒浜地区に奉られる慰霊碑と観音像
を打開することを目的としています。また、海水に浸っ
工事を続けていく中で、今まで以上に的確かつ迅速な
た田んぼの除塩や区画整理も仕事の一つです。沿岸部
対応が求められると思っています。」
から比較的離れた箇所の農地復旧は概ね完了しました
だが、工程管理だけに気を取られると、思わぬ出来
が、今年度中に沿岸部に近い箇所の農地復旧を終えな
事に遭遇する。河原田には、心に残っているエピソー
ければなりません。農家の方々のためにも、引き続き
ドがある。
スピード感を持った業務遂行が求められています。」
「赴任して間もない頃、ある工事を実施する予定の
敷地内で、私の膝位の樹木が生えているのを見つけま
した。私は雑草と勘違いし、その樹木を何気なく撤去
したのです。ところが、しばらくすると、震災前に家
族で植樹した大事な樹木が無くなったと、おばあちゃ
んが泣きながら苦情を申し立ててきました。配慮が足
りなかったと、私は深く反省したものです。」
そして続ける。
「特に沿岸部では、農地だけではなく、大切なご家族
を失い、家屋を奪われ、今でも仮設住宅での生活を余
儀なくされている方が大勢います。彼らは、営農の再
河原田に連れられ案内されたのは、市内沿岸部に位置
開だけでなく、住宅の再建等、様々な難題を抱えてい
する荒浜地区。高さ 10m もの巨大な津波に流され、多く
るのです。このことを常に念頭に置き、事業を進めて
の尊い生命が失われた場所だ。河原田は、海岸沿いに設
いかなければなりません。物と心の両方を癒してこそ、
けられた慰霊碑、そして観音像にそっと手を合わせる。
真の復興支援だと思います。」
「こちらに赴任してきた当初、この地区をはじめと
そんな河原田は、岩手県から単身赴任中。妻や娘の
する海岸付近には、震災の爪痕が生々しく残っていま
住む東北の復興プロジェクトに携わっていることに誇
した。草木一本生えていない、虫一匹すらいない、砂
りを感じているそうだ。
「子供が大きくなったら、この
漠のような光景が広がっていたのです。」
経験を伝えたい」と、照れながら話してくれた。
そして、当時の状況を振り返る。
「こうした場所に農地を復旧していくわけですが、
当時、被災地では工事が集中しており、生コンやダン
プトラック等の工事用資機材や労務者の手配が難航
し、非常に厳しい工程管理を迫られました。工事関係
者との連携を密に取り、工程管理の徹底を図るわけで
すが、予期せぬ事態も多々あります。引き続き、復旧
特集
●
5
特集
秋山は今
の光景も依然として残っています。」
秋山の勤務する名取川土地改良建設事業建設所は、仙
台東土地改良建設事業所の出先事務所である。同建設所
の位置する名取市は、仙台市の南に隣接する市で、市内
には仙台空港があり、宮城県の空の玄関口となっている。
「この建設所は、東日本大震災によって被災した名取
市、岩沼市沿岸部の復旧のために、急遽発足しました。
17 名の職員が在籍していますが、そのうちの 5 名が、私
排水機場の復旧工事現場。早急な復旧が求められている。
のように外部組織から応援で派遣された職員です。実は、
ゆりあげ
応援職員の皆さんは、自ら志願して東北の地に赴いたそ
秋山に案内されたのは、名取市内の閖上地区。秋山
うです。赴任当初にそれを聞いた時、深く感動したこと
が担当する復旧工事の現場から車で数分の距離だ。名
を今でも覚えています」
と、秋山の説明に熱がこもる。
取市を襲った津波の第 1 波は、地震発生から 1 時間 6
「我々の仕事は、津波によって被災した沿岸部の排水路
や排水機場の復旧を行い、一日も早く、排水路に隣接する
農地が復旧し、営農再開にこぎつけることを目的として
分後の 15 時 52 分、この地区の閖上港に到達した。
「この閖上地区は、津波により、とりわけ甚大な被害
を受けました。」
います。私自身は、これらの復旧工事が適切かつ迅速に施
秋山は小高い山を登る。「日和山」と呼ばれる高さ
工されるよう、監督する立場にあります。
当然、地元の方々
数 m 程の頂上には、慰霊のための小さな社が設けら
は、排水機場等の早期復旧を望んでおられるので、スピー
れている。頂上から沿岸部を臨むと、海までの平坦な
ド感を持った業務の執行が求められています。
」
大地に 1 棟、建設中の何らかの施設の建物が見える
ばかりだ。
「復旧工事は計画通りに進捗しています。しかし、こ
うした被災地の光景を見るにつけ、正直なところ、仕
事に対する達成感のようなものはありません。地元に
は、大切なご家族を亡くされた方がたくさんおり、未
だ行方の分からないご家族を毎日身を粉にして探して
おられる方もいます。今実施している復旧工事が、そ
んな方々の生活の一助となり、実際に施設を使ってい
ただき『ありがとう』というお言葉をいただいた時、初
めて達成感というものを感じることができるのかも
仙台市と同様に、名取市周辺においても、震災被害
は甚大であった。特に沿岸部における被害はすさまじ
しれません。」そう言い残して、秋山は現場へと戻って
いった。
く、高さ 10m もの巨大な津波が、家屋や車両、船舶、そ
して人々を容赦なく飲み込み、海岸からの浸水距離は
5km にも達した。海水が仙台空港に流れ込む映像をテ
レビでご覧になった方も多いのではないだろうか。
「震災当時のことについて、私は当事者ではなくお
話できることはありません。しかし、あの震災から 2
年以上が経過した今、仙台空港は営業を再開しており
ますし、街の風景も震災前の状況に戻りつつあると思
います。ですが、海岸付近に行けば、震災直後のまま
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水とともに 水がささえる豊かな社会
↑
頂上の社の隣には、数々の絵馬が飾られてい
る。絵馬には「震災復興」を祈る文字が並ぶ。
←
日和山頂上から沿岸部を臨む。
復興支援の最前線~水資源機構からの応援職員に密着~
これまでを振り返って
一日も早い事業の進捗が求められる復興支援の現場に
ているんだなと実感します。
」
もちろん、復興支援に対する使命感を抱くのと同時
に、不安を抱くこともある。
派遣されるからには、彼らには、いかなる困難な状況に
「『前任がいない』という点に、強い不安を感じたの
おかれても対応できる、高い技術力、そして経験が求め
を覚えています。特殊な現場であるということは承知
られる。秋山と河原田は、水資源機構でのキャリアの中
していましたが、前任がいない、また前例がないとい
で、これらを培ってきた。しかし、二人の口からは意外
うことで、とりわけスピードが求められる復興支援の
な言葉がこぼれた。
現場で、一から試行錯誤しなければならないこともあ
「外部の組織に派遣されるわけですから、やはり初め
て経験することばかりです。更に言えば、仙台東土地改
良建設事業所にしても、名取川土地改良建設事業建設所
りました。」
他方で、こうした経験もまた、彼らの力になってい
るという。
にしても、我々と同じような応援職員の方々が大勢いま
「このような経験をしたからか、自分が今携わっ
す。皆それぞれ、所属してきた組織の文化を持っている
ている業務の記録、例えば管理施設台帳といった財
わけです。報告の仕方、連絡の取り方、資料の作り方、ど
産管理書類や施設の構造等を詳細に示した書類等を
れ一つとっても千差万別です。我々が最初にやるべきこ
しっかりと整理し、継承していくことの重要性を再
とは、職場でのコミュニケーションを密にとり、こうし
認識することができました。我々もいつかは今の業
た個々人の違いについて、一つ一つ擦り合わせを行うこ
務を後任に託すことになります。その時に、後任者が
とでした。
」
安心して復興支援に従事できるよう、しっかりと引
それでもやはり、水資源機構で培った経験が活きる場
面も多い。
「復興支援の現場では、他の複数の事業者が、我々と同
時期に事業を開始し、そして一斉に工事を始めました。
こうした他の事業者との調整、それから地権者の方々や
地元の方々からの多種多様な要望にお応えする必要もあ
継を行う。これも大事なことだと思っています。」
いつが完全な復興だと分からない復興支援の現場。
今日も河原田と秋山の奮闘の日々は続いている。
河原田と秋山の他に、仙台東土地改良建設事業所には、以下
の 3 名の職員が水資源機構から出向しています。
椋 忠太(仙台東土地改良建設事業所 工事第 2 係長)
ります。このような複雑な調整を迫られ、それに柔軟に
佐々木 亭(亘理・山元土地改良建設事業建設所 技術専門官)
対処できたと感じた時、水資源機構で養った経験が活き
福田 暁(亘理・山元土地改良建設事業建設所 工事第 2 係長)
Profile 河原田 一州
Profile 秋山 健
東北農政局 仙台東土地改良建設事業所 技術専門
官。平成 2 年に農用地整備公団(後に緑資源機構
に組織名称変更)入社。その後、森林総合研究所を
経て、平成 21 年に水資源機構へ入社。豊川用水総
合事業部、霞ヶ浦用水管理所を経て、平成 24 年 4
月より現職。
東北農政局 仙台東土地改良建設事業所 名取川土
地改良建設事業建設所 工事第二課 工事第二係長。
平成 8 年に水資源開発公団(現水資源機構)入社。
房総導水路建設所、霞ヶ浦用水管理所、利根導水総
合管理所、中部支社建設部、豊川用水総合事業部を
経て、平成 24 年 4 月より現職。
特集
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