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民間開発の新技術の紹介 新しい構造の軽量・高断熱型局舎
ISSN 1340-7813 Agricultural and Rural Development Information Center A R I C 枝下用水は明治10年、当時干ばつに悩む農民たちの手によっ 昭和39年から県営かんがい排水事業として、用水不足の解 て始められ、明治17年には矢作川を水源とした一部が開鑿され 消、配水管理の合理化、維持管理費の削減などを目的に実施さ A RIC情報 た。その後明治20年から延長工事が開始され、東用水、中用水、 れ昭和62年に完成した。 し だれ よう すい 枝 下 用 水 (疏水百選) 西用水が順次通水を始め明治27年に完成している。山野を巡る しかし、近年用水流域の開発等により水質汚濁が進行し営農 上多大な被害が発生する様になり、平成元年から県営水質障害 などに見舞われるなど膨大な費用を費やして農民の長年の夢が 対策事業として、用排兼用水路であった枝下用水をパイプライ 叶えられた。この工事の完成には、私財を投げ打って工事の指 ン化することによって分離し水質汚濁による被害を軽減し、農 揮に当たった西澤眞藏(滋賀県出身の豪商)を抜きにして語る 業経営の安定が図られ、上部を緑道として整備することによっ ことはできない。現在も祭神大水上祖神 西澤眞藏命として枝 て、市民の憩いの場を提供している。 受 益 地 愛知県豊田市、知立市、みよし市 発電ダム)の完成とともに合口され同じ矢作川から取水してい 受益面積 2,031ha る明治用水との調整が図られた。昭和12年から34年には県営か 最大取水量 8.694m3/s んがい排水事業により、本格的な水路の護岸工事を実施したが、 水質保全対策で実施された水路延長 18,756m 戦中戦後の資材不足時の工事で有ったため老朽化が進み再び改 文 責 ARIC情報編集委員 吉井 徳一 修が望まれていた。 資料提供 愛知県 豊田土地改良区 分水池と水位調整ゲート 枝下緑道 平成24年3月 発行 枝下用水 太鼓橋付近 編集・発行/(社)農業農村整備情報総合センター (社)農業農村整備情報総合センター 越戸ダムから取水(発電と同時取水)中部電力 ARIC情報 第105号 105 下神社に祭られている。昭和4年中部電力の越戸ダム(水路式 第 号 長大な疏水工事は困難を極め、加えて洪水や地震(濃尾大地震) 社団法人 農業農村整備情報総合センター 第105号 P.28 〜 34 新しい構造の軽量・高断熱型局舎 明るく快適な室内 軽量・高断熱型局舎 【 農業農村整備事業における施工実績例 】 東北農政局 寒河江川下流農業水利事業所 近畿農政局 第二十津川紀の川農業水利事業建設所 犬川黒川上流分水工 操作室 津風呂ダム警報・観測局舎改修工事 入野水位観測局(景観対応型局舎) 北陸農政局 常願寺川沿岸農地防災事業所 東北農政局 和賀中部農業水利事業所 両岸分水工局舎(景観対応型局舎) 流量計測設備用水管理局(鳥谷脇子局) 民間開発の新技術の紹介 新しい構造の軽量・高断熱型局舎 牧野 浩幸 山際 秀幸 株式会社北村製作所 壁面、屋根部などにアルミサンドイッチパネルを採用することにより、軽量かつ高気密・高断熱な構 造で、あらゆる環境、気象条件から大切な機器を守る局舎をご紹介させていただきます。 1.はじめに 弊社は、1945年の創業以来、バスボデーの製造に始 まり、冷凍車、保冷車、超音波洗浄装置など、業種にと らわれない独創的な技術を生かし、警報装置、テレメー タ装置、雨量観測装置、測定機器…などの各種機器を収 納する局舎の開発をいたしました。 あらゆる環境下でも、機器を保管し安定稼働させる堅 牢性と同時に、気密性・断熱性を向上させることにより、 外部からの日射の影響による内部温度上昇を防ぎエアコ ンの消費電力を抑えたり、自然換気を効率良く行う省エ ネ性を兼ね備えております。 (写真-1)軽量・高断熱型局舎 2.概要・構造・特長 (1)開発の背景 結露して湿気が多い、虫が入ってくる、ドアが腐食し てボロボロ、安価でもっと自由にレイアウト設計したい …など、従来の局舎の弱点を克服した新しい構造の局舎 を開発いたしました。 (2)主な用途 主な用途としては、雨量・水位等の観測用機器、放流 警報設備、監視設備、水管理システム、ポンプ制御盤、 (写真-2)明るく快適な室内 水門開閉操作用機器などの各種機器装置の収納用局舎と なっております。 2)結露が生じない 水分工操作室、テレメータ局舎、通信・中継用局舎な 室内をクリーンで快適に保ち、設置する機器への湿害 どでご使用いただいております。 が少なくなっております。 (3)特長 3)気密性、耐水性に優れている 1)断熱性が極めて良い 屋根・壁面などのパネルは、専用の幅広材を局舎サイ 屋根、壁、扉から伝わる熱量が非常に小さく、床部分 ズに合わせ、可能な限り継ぎ目のない板取でカットして の底面も発泡ポリウレタン吹きつけ施工により、断熱性 製作します。また、ドア部は2重パッキン構造を採用し を保っています。 て気密性を向上させております。 エアコン選定の際は、小型のものですむため、電気の ランニングコスト軽減にもなります。 28︱ARIC情報№105 ー2012 ■民間開発の新技術の紹介 4)軽量である アルミパネルを標準としており、非常に軽量で、耐震 性にも優れています。地盤に負担を掛けず基礎が小さく て済みます。 5)腐食に強い 6)局舎の設置が簡単で早い 工場で一括生産し、完成品を運搬・搬入できるため現 地据付工事が数時間で完了できます(工場組立一体型: 約2時間程度で設置完了)。 現地組立型の場合でも、簡単で素早い設置が可能で す。 (写真-4)e-KSP 局舎断面 ◎断熱材:押出法ポリスチレンフォーム(JIS A 9511) ・高断熱(熱伝導率 0.028W/mK) 断熱性能は、グラスウール(10K)の約2倍、ALC パネルの約6倍、コンクリートの約58倍。 ・独立した気泡からなる難燃性断熱ボード。 水分の吸収や水蒸気の透過を防ぎ、結露・カビの発 生もなく、断熱性能の低下がほとんどない。 吸水率は100cm2で0.01g以下、つまり水に浸漬して (写真-3)工場組立一体型の設置風景 (4)局舎の構造(e-KSP局舎) も水を吸収せず、膨張・軟化・変形・変質なし。 2)扉 1)パネル構造 基本構造は、屋根・壁面と同じサンドイッチパネル構 芯材である高断熱ボードをアルミニウムやステンレス 造となっております。 の板でサンドイッチした接着パネルを製作し、壁面、扉 片開き扉、観音扉の他、引き戸、跳ね上げタイプなど に採用しています(サンドイッチパネル構造)。 バリエーションも豊富です。 ご指定の錠に対応。電気錠の取付も可能です。 【e-KSP局舎】 e : economy・ecology K: 軽量・高断熱・Kitamura S : サンドイッチ 3)床(土台、ベース) ・補強鉄骨(カチオン電着塗装処理)+ベースフレー ム(溶融亜鉛メッキ処理)。 P : パネル ・床板(亜鉛メッキ鋼板)+帯電防止フロアリューム 【パネル構成品】 ・アルミ製床も可能。 貼付。 ◎板材:アルミニウム(JIS A 5052相当品) ・アルミニウム+マグネシウムのアルミ合金(純アル ミと違い丈夫)。 ・錆に強く、海洋気象環境に対して優れているため主 に船舶関係で多くの用途を持つ。 4)外面塗装 標準品のウレタン塗料を基本として、塩害対策用はフ ッ素樹脂系塗料、その他、赤外線反射塗料・光触媒塗料・ 不燃性塗料など設置場所の条件に合わせて選択可能で す。 29 5)内面(室内)塗装 白色カラーアルミ板を基本としております(ご指定色 塗装も可能です)。 6)床面強度 等分布荷重4900N/m2(500㎏/m2)。 自立型制御盤などの重量物据付部は、相応の強度を確 保いたします。 7)壁面強度 1960N/m2(200㎏/m2)までの重量物を壁面に取付可 能です。 (写真-6)耐震試験 8)耐積雪荷重(写真-5) 標準仕様(補強無し):耐積雪1m(300㎏/m2)。 天井部の補強追加により耐積雪6m(1800㎏/m2)ま で対応可能、換気フードは、防雪型フードで対応してい ます。 (写真-7)ステンレス製特別重耐塩仕様局舎 11)耐塩害性(写真-7) 外面は、アルミを主体とし、鋼材は溶融亜鉛メッキ、 または、カチオン電着塗装+塗装としているため標準仕 (写真-5)耐積雪6m 仕様局舎 様でも高い耐塩害性能を有しています。 離島や沿岸地域、冬季の塩カリに対しては、「塩害対 策仕様」とすることで、より防錆効果を上げた局舎の製 9)耐震性 作をいたします。 入力加速度0.5G。 外板や扉門構をステンレス仕様に変更することも可能 自重の軽さと、弊社のトラックコンテナ製造技術を応 です。 用した構造で、振動などの外力に非常に強い構造となっ ています。 (5)搬入形態の例 耐震試験(写真-6)において震度7の基準値をクリ 1)工場組立一体型 アしています。 工場完成品をトラック運搬 → クレーンで据付(写真 -8)→基礎にアンカー固定(写真-9)。 10)気密性 約2時間で設置完了となります。 組立精度が高く、高気密。扉部分は、クレモン錠と2 重パッキン構造により気密性、防水性に優れます。 換気口部分は、防虫網・フィルタ・シャッター取付に より、虫などの侵入を防ぎます。 (写真-8)クレーン作業 30︱ARIC情報№105 ー2012 ■民間開発の新技術の紹介 (写真- 12)分割一体型出荷前(3分割一体型) (写真-9)アンカー固定作業 2)現地組立型 ①面体パネル分割方式 (写真- 13)分割一体型組立完了(3分割一体型) (写真- 10)面体パネル運搬例(キャリアダンプ使用) (6)各種試験 1)漏水試験(シャワーテスト)(写真-14) 出荷する局舎、すべてに「漏水試験 JIS-C-0920保護等 級3(防雨形)」を実施(現地組立型、分割タイプは除く) しています。 2)熱実験(写真-15) 空調機や換気性能、熱分布などの検証を行う熱実験室 を工場に併設しております。 (写真- 11)現地組立作業風景 ②分割一体型 大型局舎を分割構造とすることにより、4トントラッ クで運搬可能になり、現地では分割面をボルトで結合す るだけですので、現地での組み立て作業時間が大幅に短 縮できます(局舎の大きさ、現地状況に応じた分割で製 作可能)。 (写真- 14)漏水試験(シャワーテスト) 31 (写真- 15)熱実験室 3)その他各種試験 (写真- 17)YT-01 型局舎 (9)農業農村整備事業における施工実績例 パネル強度試験(曲げ、せん断、引っ張り)、耐震試 1)施工実績一覧 験などを実証済みです。 農業農村整備事業における施工実績を多数有しており ます。 (7)設計条件、施工範囲 局舎内に設置・収納する機器や、現地の敷地面積、状 主な施工実績は(図-2)のとおりです。 農政局名 都道府県 国営(都道府県出先) 事業所名 工事名 施工 年度 況に合わせて自由に設計・製作が可能です。 東北農政局 福島県 会津農業水利事業所 不明(新宮川ダム警報局、中継局) 2002年 現場の状況や進入路に合わせて、工場組立一体型、現 北陸農政局 新潟県 阿賀野川右岸 農業水利事業所 不明(百津局) 2003年 地組立型の設計が可能です(1mm単位での寸法設定・ 東北農政局 山形県 寒河江川下流 農業水利事業所 用水管理施設局舎設置工事 2003年 設計が可能)。 東北農政局 宮城県 迫川上流 農業水利事業所 不明(小田ダム放流警報局) 2004年 局舎本体はもちろん、それに附随する鉄骨架台の製作 東北農政局 青森県 相坂川左岸 農業水利事業所 相坂川左岸地区用水系システム工事 2005年 や地盤調査、基礎の設計・施工も行い、あらゆる設置条 近畿農政局 奈良県 第二十津川紀の川 農業水利事業建設所 津風呂ダム警報・観測局舎改修工事 2005年 件に対応いたします。 新潟県 新潟県新発田地域振興局 大和排水機場第3次工事 2006年 設置後の保守点検、メンテナンス、修繕、改造工事も 東北農政局 秋田県 男鹿東部農地防災事業所 不明(雨量水位観測所) 2006年 お任せください。 東北農政局 宮城県 大崎農業水利事業所 二つ石ダム管理設備建設工事 2007年 東北農政局 宮城県 大崎農業水利事業所 不明(岩堂沢ダム警報局No.1-10・アンテナ局) 2007年 北陸農政局 常願寺川沿岸 農地防災事業所 左岸連絡水路橋関連設備工事 2008年 東海農政局 新濃尾農地防災事業所 不明(合瀬川局) 2009年 東北農政局 岩手県 和賀中部農業水利事業所 流量計測設備用水管理局(鳥谷脇子局) 2011年 新潟県新発田地域振興局 県営ほ場整備事業 川口工区及び東側工区揚水機製作据付工事 2011年 新潟県 (図-2)施工実績 (写真- 16)基礎工事、保守・点検作業 (8)寸法、諸元表(参考 一例) (図-1)YT シリーズ局舎 諸元表 32︱ARIC情報№105 ー2012 2)施工事例写真 ①東北農政局 寒河江川下流農業水利事業所 (写真- 18)犬川黒川上流分水工 操作室 ■民間開発の新技術の紹介 ②東北農政局 寒河江川下流農業水利事業所 ⑤近畿農政局 第二十津川紀の川農業水利事業建設所 局舎設置前 局舎設置後 (基礎は既存の ものを使用) (写真- 22)津風呂ダム警報 ・ 観測局舎改修工事 入野水位観測局(景観対応型局舎) ⑥新潟県新発田地域振興局 (写真- 19)松原分水工 他 ③東北農政局 迫川上流農業水利事業所 (写真- 23)大和排水機場第3次工事 ⑦新潟県新発田地域振興局 (写真- 20)小田ダム放流警報局 ④東北農政局 相坂川左岸農業水利事業所 (写真- 24)県営ほ場整備事業 川口工区及び東側工区 揚水機製作据付工事 (写真- 21)相坂川左岸地区用水系システム工事 33 ⑧東北農政局 男鹿東部農地防災事業所 (写真- 25)雨量水位観測所 ⑨東北農政局 大崎農業水利事業所 ⑪東海農政局 新濃尾農地防災事業所 (写真- 28)合瀬川局 ⑫東北農政局 和賀中部農業水利事業所 ベース(床面)設置後に、 機器を据付し、上箱を 設置しました。 (写真- 26)岩堂沢ダム警報局 ⑩北陸農政局 常願寺川沿岸農地防災事業所 (写真- 29)流量計測設備用水管理局(鳥谷脇子局) 【お問い合わせ先】 (写真- 27)両岸分水工局舎(景観対応型局舎) 株式会社 北村製作所 本社・通信事業部 〒950 − 0322 新潟県新潟市江南区両川1丁目3604-12 TEL.025-280-7139 / FAX.025-280-7145 東京支店 〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2-3-13 M&Cビル6F TEL.03-3518-8860 / FAX.03-5281-1020 http://www.kitamurass.co.jp 札幌・仙台・金沢・名古屋・大阪・広島・高松・ 福岡・熊本 34︱ARIC情報№105 ー2012 A R I C 情報 第 105 号 平成 24 年 3 月発行 編 集 社団法人農業農村整備情報総合センター 発 行 〒 103-0006 東京都中央区日本橋富沢町 10-16 TEL 03-5695-7170 印刷所 共立速記印刷株式会社 ISSN 1340-7813