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慢性頭痛の症状 - 成和脳神経内科医院

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慢性頭痛の症状 - 成和脳神経内科医院
慢性頭痛の症状
片頭痛の症状を理解するために
Migraine
成和脳神経内科医院
第1章
慢性頭痛の症状
以下は、頭痛専門医の立岡 良久先生の著書「頭痛退治読本
頭痛に悩む人
々と医師への提言」から、抜粋したものです。
まず、頭痛の総論の意味合いで拝借させて戴くことにします。
頭痛とは
頭痛で悩む患者さんたちには、大きく分けて3つのグループがあります。
1つは、頭が痛いのは脳の病気(くも膜下出血など)だろうか、と心配して
いるグループ。例えば、身近な人が脳卒中で倒れたりしたときに、ふと自分の
頭痛は大丈夫かしら?と不安になったりします。二つめは、頭痛そのものが苦
しい、痛くてたまらない、というグループ。そして三つ目は、頭が痛いので市
販の鎮痛薬を飲み続けているけれど、このままで大丈夫だろうか、というグル
ープ。
頭痛には、一次性頭痛と二次性頭痛があります。
-1-
一次性頭痛は、脳の中には何も病気がなく、頭の痛みだけが病気である、と
いう頭痛です。二次性頭痛は、脳の中にくも膜下出血、脳腫瘍、髄膜炎などの
病気があり、その症状の1つとして頭が痛む場合、または風邪やお酒の飲み過
ぎ、薬の乱用など、頭痛が起きる原因が何か別にある場合の頭痛のことを言い
ます。
頭痛診断ではまず初めに、一次性頭痛と二次性頭痛をきっちりと分けて診断
する必要があります。もし脳の中に何か病気がある場合の二次性頭痛を見逃す
と、患者さんの命に関わることも少なくありません。そのためにも、典型的な
一次性頭痛だと思った場合でも必ず初めにCTやMRIなどの検査を行いま
す。
検査で脳の中に何も異常がなかった場合には、頭痛そのものが病気であると
いう一次性頭痛と考えて、患者さんに適した治療法を行っていきます。
一次性頭痛で、頭が痛いことそのものが辛い、という患者さんの場合は、そ
のほとんどが片頭痛といってよく、また薬の飲み過ぎが心配というグループは、
要するに頭が痛いから鎮痛薬を飲むわけですが、その頭痛はほとんどが片頭痛
なので、結局は片頭痛の範疇に入ることになります。
このため、まず、脳に異常がないかどうか見極めるために頭部CTもしくはM
RIの画像検査が行われます。このようにして、命に関わる頭痛を除外してい
ます。このような命に関わる頭痛には、突然の頭痛、今まで経験したことがな
い頭痛、いつもと様子の異なる頭痛、頻度と程度が次第に増していく頭痛とい
ったような極めて特徴があります。こういったことから、最初に画像検査を受
けて心配ないと言われ、一次性頭痛(慢性頭痛)として経過をみている間に、
このような特徴的な頭痛が起きないとも限りませんので、当然、このことを念
頭に置かなくてはなりません。
生活に支障が出る片頭痛の痛み
-2-
日常生活で時々頭が痛くなるという慢性頭痛には、緊張型頭痛、片頭痛、群
発頭痛などの種類があります。
北里大学医学部の坂井文彦先生による頭痛に関する大規模な調査によれば、
慢性頭痛を持つ日本人は約3000万人と報告しています。
このうち最も多いのは緊張型頭痛で2200万人(15 歳以上の人口の 22 %)
次が片頭痛で840万人( 15 歳以上の人口の 8.4 %)という結果が出ていま
す。
片頭痛の840万人という数字は、糖尿病や喘息の患者数より多いものです。
群発頭痛は1万人に1人程度と比較的少ないので、日本人の慢性頭痛のほとん
どが緊張型頭痛と片頭痛、ということになります。
それぞれの頭痛の特徴については、次章以降で詳しくお話しますが、緊張型
頭痛と片頭痛の最も大きな違いは、痛みの程度です。
緊張型頭痛の場合は痛みが軽く、ちょっと散歩やストレッチをして体をほぐ
したりひと眠りしたりすれば、治ってしまうことがほとんどです。痛みは主観
-3-
的なもので一概には言えませんが、忙しい中、無理に時間を作って医者に行く、
というほどではない程度と言えるかもしれません。
医院に来られる多くの患者さんのように、仕事も家事も手につかないほど痛
くて日常生活に支障が出るという場合は、ほとんどが片頭痛と考えられます。
緊張型頭痛が体を動かすことによって軽くなるのに比べ、片頭痛は体を動かす
ことでよりひどくなります。少しでも体を動かすとズキズキと痛み、階段を上
ったり体に力を入れたりするとガンガンする、ただひたすらに静かに横になっ
ていたい。このような痛みが片頭痛の特徴です。
片頭痛は人によって、また同じ人でも、そのときの体調などによって、とて
もひどいときとそうでもないときがありますが、多かれ少なかれ生活に支障が
出ます。ひどいときには会社や学校を休まなければならなかったり、寝込んで
しまうこともあり、その生活支障度の高さは、狭心症や高血圧に匹敵するほど
です。
アメリカでは、片頭痛は喘息と同じように重要な病気と認識されています。
頭痛で会社や学校を休むということは、喘息の発作が起きたから休む、とい
うのと同じ程度に認識され、休むということへの市民権を得ていると言えます
が、日本の場合はそうではありません。気まずさを感じながら、それでも休ま
ざるを得なかったり、鎮痛薬を何度も飲んで無理をしつつ、やっと通っている
という方も大勢います。このような場合には、仕事はもちろん学生生活や職場
での人間関係、受験、テストなどの勉強など、さまざまなところに影響が出て
きます。
日本では、「頭が痛い」という「病状」そのものが精神論で語られることも
多く、たるんでいるから頭が痛いんだ、とか、心の弱さが頭痛の原因だ、など
と周囲から冷たい目で見られることも少なくありません。頭痛がある人は自分
が悪いのだと精神的に落ち込み、片頭痛がある子供の親は自分の育て方が悪か
ったのだと悩み、中学生や高校生の子供たちは先生や親の理解が得られず、そ
のストレスから状態をさらに悪くしている場合も多いのです。このように頭痛
で苦しんでいる患者さんが大勢いるということは、ただ単にその患者さん個人
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のQOLの問題に留まらず、学校や会社、家庭でのコストパーフォーマンスを
含めた、大きな社会問題であるとも言えます。
片頭痛は社会的損失も大
日本ではまだ、片頭痛という病気に対して社会的にあまり注意が払われてい
ませんが、さまざまな事柄を金額に換算することの多いアメリカでは、片頭痛
は非常に社会的損失の大きい病気として位置づけられています。
医学雑誌ニューロロジー(Neurology)では昨年、アメリカにおける片頭痛の
患者数や片頭痛による社会的損失度をレポートしています。それによりますと、
アメリカの片頭痛患者数は2800万人。その生活支障度から換算して、片頭
痛患者が会社を休んだことによる企業の損失は、年間130億ドルと試算して
います。これは片頭痛の患者さん1人が会社を1日休んだ際、その患者さんが
行うはずだった会社の仕事をすべてお金に換算すると、この金額になるという
ことです。
また片頭痛患者さんの年間の医療費は20億ドルに上ります。
これは、WHOがランキングしている、その病気が患者さんの生活の質をど
のくらい障害するかという病気の支障度、障害度から見て、20位以内に入る
数字です。
これらはすべて欧米のデータですが、片頭痛という病気に関する調査である
限り、840万人の患者さんがいると言われる日本でも、患者さんの生活が障
害されることによる社会的な損失があるのは同様だと思われます。
片頭痛は、もっと社会的に認知され、また患者さんのQOLがもっと尊重さ
れてしかるべき病気だと考えます。
正確に診断されない片頭痛
片頭痛で悩む日本人は、15 歳以上の人口の実に 8.4 % 840 万人もいます。
-5-
これらの片頭痛患者さんたちの多くは長い間頭痛に悩み、さまざまな医療機
関を訪ね歩いています。一つの医療機関で正しい診断がされず、適切な治療が
行われないため、結果として痛みが治らず、また別の医者に行く、ということ
を繰り返しています。
医院で片頭痛と診断した患者さんのうち、前の医療機関で正しく片頭痛と診
断されていた患者さんは 25 %ほどです。それ以外の患者さんたちは、ただの
頭痛、疲れ、ストレス、自律神経失調症、緊張型頭痛などの診断を受けていま
す。中にはちゃんとした病名がついていないケースもありました。
アメリカのニューイングランド頭痛研究センター所長、テッパー先生の論文
では、プライマリケア医(開業医のこと)が片頭痛と診断した患者さんでは、
その 90 %以上が正しく片頭痛ですが、片頭痛ではないと診断した患者さんで
も、その 80 %が実は片頭痛だったという結果が出ています。
このようなデータを見ると、その患者さんたちは専門以外のお医者さんに行
ったのでは?と思われるかもしれませんが、この診断のほとんどが専門の脳外
科医によるものです。それほど片頭痛というのは、今まで正しく診断されてい
ない、専門医さえもが見逃している病気であると言えます。
また片頭痛が正しく認識されないのは、名前にも罪があります。
片頭痛は片側の頭痛と書くため、片頭痛は右か左のどちらかが痛むのだ、と
いう一般的な思いこみがあります。医師であっても例外ではありません。さら
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によく言われる、
心臓の鼓動に合わ
せてズキンズキン
する、というのも、
誤った診断の元に
なります。
片頭痛は必ずし
も片側だけが痛む
とは限らず、また
心臓の鼓動に合わ
せてズキンズキン
とは痛まない場合
もあります。
さらに間違えや
すいのが、肩や首
の凝りです。
緊張型頭痛は、同じ姿勢を続けたり根を詰めて何かをしたときに、肩が凝っ
て起きることが多い頭痛です。ところが片頭痛でも痛くなる前に、肩や首、側
頭部などが凝ってきて、それから頭が痛くなることがよくあります。医者に行
ったとき、まず肩が凝って、と症状を説明し始めると、もうその時点で緊張型
頭痛と診断されてしまうことも少なくありません。
片頭痛はまた、睡眠不足やストレス、緊張感などが原因で起きることがあり
ます。そういった説明をすると、実際には存在しない「ストレス性頭痛」など
という診断名を適当につけられてしまうこともあるのです。
慢性頭痛の一つである群発頭痛は、片頭痛よりさらに痛みが激しく、日常生
活に著しく支障を来します。一定期間続いて起きる片頭痛では、たまに群発頭
痛と間違えられることがありますが、群発頭痛と片頭痛では症状が異なるので
比較的簡単に区別をすることができます。
-7-
また、片頭痛は、単に頭が痛いというだけではなく、痛くなりそうなとき(予
兆)、痛くなる前の症状(前兆)、痛い最中、痛みが引いたあと、とその時々で
さまざまな症状が現れることがあります。それだけに緊張型頭痛やほかに原因
がある頭痛と区別し、正しく片頭痛という診断をつけるためには、頭痛の起き
る仕組みやその流れをきちんと把握しておくことが大切です。
一次性頭痛(慢性頭痛)とは・・片頭痛と緊張型頭痛との違い
日本人の一次性頭痛(慢性頭痛)のほとんどが緊張型頭痛と片頭痛です。こ
れ以外に群発頭痛がありますが、極めて稀です。
緊張型頭痛と片頭痛の最も大きな違いは、痛みの程度です。
医療機関に受診される頭痛患者さんは、仕事も家事も手につかないほど痛く
て日常生活に支障が出るという場合は、ほとんどが片頭痛と考えられます。
緊張型頭痛が体を動かすことによって軽くなるのに比べ、片頭痛は体を動か
すことでよりひどくなります。少しでも体を動かすとズキズキと痛み、階段を
上ったり体に力を入れたりするとガンガンする、ただひたすらに静かに横にな
っていたい。このような痛みが片頭痛の特徴です。
片頭痛は人によって、また同じ人でも、そのときの体調などによって、とて
もひどいときとそうでもないときがありますが、多かれ少なかれ生活に支障が
出ます。ひどいときには会社や学校を休まなければならなかったり、寝込んで
しまうこともあり、その生活支障度が高いのが片頭痛の特徴です。
片頭痛は必ずしも片側だけが痛むとは限らず、また心臓の鼓動に合わせてズ
キンズキンとは痛まない場合もあります。
さらに間違えやすいのが、肩や首の凝りです。
緊張型頭痛は、同じ姿勢を続けたり根を詰めて何かをしたときに、肩が凝っ
て起きることが多い頭痛です。ところが片頭痛でも痛くなる前に、肩や首、側
頭部などが凝ってきて、それから頭が痛くなることがよくあります。
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緊張型頭痛では、頭の両側が重かったり、圧迫されたり、締め付けられるよ
うな痛みがありますが、痛みの程度は軽く、仕事や家事、学校の勉強などは普
通にできます。日常の動作によって悪化することはありません。むしろ体を動
かして凝りがほぐれれば、痛みは和らぎます。マッサージを受けたり、肩を揉
んだりするのも気持ちが良いものです。
片頭痛は今までにも述べているとおり、痛みは中程度からかなり強いものま
であり、その痛みは日常生活に支障を来たします。歩いたり階段を上ったり首
を振ったりすると悪化し、鎮痛薬を飲まなければ4時間から 72 時間続きます。
痛みがひどいときには吐き気を感じ、また実際に吐くこともあり、いつもは何
でもない光や音が、眩しかったりうるさく感じられたりすることもあります。
緊張型頭痛と異なり、肩などを揉んで良くなることはありません。
●薬物乱用頭痛
一次性頭痛ではこの3つが代表的なものですが、もう一つ、忘れてならない
のが薬物乱用頭痛です。
薬物乱用頭痛は、鎮痛薬の飲み過ぎによって脳での痛みのコントロールがう
まくできなくなり、頭痛が引き起こされるもので、片頭痛の患者さんに多く見
られます。
片頭痛の患者さんの中には、毎日のように頭が痛いけれども、仕事に行かな
ければならない、家事をしなければならないので鎮痛薬を飲む、少しするとま
た痛くなるのでまた飲む、ということを繰り返して、毎日、または1日に何度
も鎮痛薬を飲み続ける方がいます。さらに鎮痛薬を飲まないでいると、また頭
が痛くなって仕事ができなくなるのではないかという不安で、次々と飲んでし
まう場合もあります。
こういう場合、鎮痛薬を飲むことによって、結果的にさらに頭痛が引き起こ
されることがあり、これを薬物乱用頭痛と呼んでいます。
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痛みという感覚はある程度脳の中でコントロールできるものです。
例えばラグビーの選手が試合中に相手とぶつかって怪我をしても、試合中は
痛みを感じず平気で最後まで試合を続け、あとで検査したら骨折していたのが
判明し、急に痛くなった、などということがよくありますが、こういう場合は、
脳の中の痛みを抑制するセンターが痛みを押さえ込んでいます。
体の中からはさまざまな刺激が脳に伝わっていますが、その刺激がある一定
値を超えると、脳は「痛み」として認識します。しかし無害な刺激であればセ
ンター はその痛みを抑制します。頭痛の場合も同じことです。
ところが鎮痛薬を絶えず飲んでいますと、伝わってくる痛みを鎮痛薬が取っ
てくれるので、脳の痛み抑制センターが仕事をしなくなり、ちょっとした痛み
でも、痛い、と感じるようになります。するとまたすぐに鎮痛薬を飲む、セン
ターはますます仕事をしなくなる、また痛みを感じる、また薬を飲む、という
悪循環に陥ります。
さらに鎮痛薬にはカフェインが含まれているものが多くあります。カフェイ
ンには血管収縮作用がありますので、血管が拡張して痛みが出る片頭痛には効
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果があり、軽い片頭痛ならば治ります。
ところが鎮痛薬にはかなり大量のカフェインが入っていますので、急激に血
管が収縮する代わりに効き目が切れたときには急激に拡張し、その反動でまた
痛くなります。痛くなれば薬を飲む、一瞬は良くなっても、また反動で痛くな
る、また飲む、と、これも悪循環です。これが鎮痛薬の乱用による頭痛のメカ
ニズムです。鎮痛薬はただ痛みを取るだけではなく、脳のさまざまなところに
作用しています。時々飲むのはかまいませんが、月に 10 回以上飲むようであ
れば、大元の片頭痛の正しい治療を受けるべきだと考えます。
来院される患者さんに話を聞きますと、月に 10 回程度鎮痛薬を飲む方はか
なりの数に上ります。薬局に行って鎮痛薬をまとめて買い、毎日5,6回飲む
などという極端な方もいました。
私はこういう場合、まず初めに鎮痛薬を飲むのを全て止めて戴きます。そう
しないと、脳の痛みのセンターが活動するようにならないからです。
鎮痛薬を飲むのをやめますと、服用期間の長さにも依りますが、短期間の連
用であれば、だいたい2,3日で痛みがなくなる方もおられますが、ほとんど
の方は1年以上も連用されておられ、このような人は、1カ月前後要すること
も多くあります。
鎮痛薬をやめてしばらくすると、痛みの抑制センターが仕事を始め、大した
ことのない痛みは抑制されるようになります。それから初めて、片頭痛そのも
のの治療に取りかかります。薬物乱用頭痛になってしまっている場合には、鎮
痛薬を飲むのを止めることが、まず第一の治療です。
最近では、タバコの箱に「タバコの吸い過ぎに注意しましょう」と書かれる
ようになりましたが、どういう訳か「お薬の飲み過ぎは頭痛を起こすので注意
しましょう」とは書かれてはないのです。鎮痛薬を売らんがための方策なので
しょうか・・・
- 11 -
あなたは片頭痛?
日本で片頭痛に悩む患者さんは約 800 万人にものぼります。女性に多く、15
歳以上の日本人対象の調査では、 女性の有病率は男性の 3.6 倍であるとされて
います。しかも、20 ~ 50 代の仕事や子育てまっただ中という年代に多い頭痛
なのです。
なかでも、30 代に多く、5 人に 1 人は片頭痛を持っている計算になります。
(図 1 参照)なぜ、女性に多いのかという理由はセロトニン不足との関係が指
摘され、さらにストレートネックとの関連も、多くの方々の所見から明確にな
ってきています。
では、あなたを長年悩ませているのは本当に片頭痛なのでしょうか。
まず、いちばんの基準となるのは、あなたの頭痛が日常生活に支障をきたすほ
どの痛みなのかどうか、ということです。「日常生活におよぼす影響」のグラ
フ(図 2)を見ますと、
- 12 -
「いつも寝込む」、「ときどき寝込
む」、「寝込まないが支障大」 という
回答があわせて 74%を占めています。
頭痛が始まると、歩くことさえつら
い、動けば痛みが増してくるし、気
持ちが悪くて吐きそうになるので仕
事や家事ができず、 寝込んでしまう
…。そんなつらい痛みがある場合は、
片頭痛の可能性が大きいと言えるで
しょう。
片頭痛の診断基準
それでは片頭痛の具体的な診断基準を見てみましょう。
図3は、国際頭痛学会
が定めている片頭痛の診
断基準です。頭痛の回数
が5回以上というのは、
おなじような頭痛が過去
に5回以上起きたかどう
か、ということです。
鎮痛薬を飲まないと
き、または飲んでも効か
ないときの痛みの持続時間は、だいたい4時間から 72 時間程度。治ってしま
えばケロッとしています。
痛みの特徴としては、片側性(頭の左右どちらか一方が痛い)、拍動性(心
- 13 -
臓の鼓動に合わせてズキズキ痛む)、痛みの程度は中等度から強度(日常生活
に支障が出る)、階段を上がったり頭を動かすなどの日常的な動作によって悪
化する、などがあります。
大切なのは、このうちの「二項目以上」に当てはまれば片頭痛と診断するこ
とができる、ということです。必ずしも、この特徴が全部当てはまらなければ
ならない、ということではありません。片側性ではなく両側が痛む場合もあり、
また拍動性の痛みでないこともあります。
片頭痛が起きている間は、ひどいときには吐き気があったり、実際に気持ち
が悪くて吐いたりします。また光や音に敏感になって、静かな暗いところでじ
っとしていたい、という症状もあります。
これが基本的な診断基準です。
この中で、私が最も重要視するのは、頭が痛いときに仕事や学校、家事など、
自分がそのときにしなければならないことを、やむを得ず休むことがあるかど
うか、という点です。会社員なら会社を休んでしまう、学生なら学校に行けな
い、主婦なら例えば掃除や料理の手を止めて座り込んだり横になったりするか
どうか。
これが「イエス」であれば、その患者さんはまず間違いなく緊張型頭痛では
なく片頭痛だと言ってよいと思います。
また片頭痛は、遺伝子が原因の病気です。片頭痛がある人は、ご両親のどち
らか、また両方に片頭痛があります。男親から遺伝することもありますが、女
親からの遺伝の方がずっと多く、また片頭痛の患者さんも女性の方が圧倒的に
多数です。
頭痛の患者さんに、あなたのお母さんは時々頭が痛いと言って家事を休んで
寝ていませんか?
と尋ねますと、かなりの割合で「時々、休んでいます」と
いう答えが返ってきます。これもまた片頭痛診断の助けになります。
この場合、あなたのご両親に片頭痛はありませんか?
という尋ねかたをす
ると、なかなか「あります」という答えは返ってきません。
昔から頭痛持ちは大勢いますが、それを片頭痛だとは思っていないし、また
- 14 -
頭痛が病気であるとは考えていないため、患者として表には出ないことが多い
のです。頭痛くらいで医者に行っても仕方がない、鎮痛薬を飲んで静かにして
いるしかない、と考え、母親がそうしていたから娘も、またその子供も、と延
々続いているような気がします。
痛みだけではない片頭痛の症状
片頭痛の診断は、診断基準に照らして判断すればそれほど難しいものではあ
りませんが、注意が必要なのは、痛みだけが片頭痛の症状ではなく、また痛ん
でいる時だけが片頭痛なのではない、ということです。
片頭痛の患者さんはよく、痛みがくるのがわかる、と言います。
背中が凝ってきた、凝りが肩にきた、上に上がってくる、ズキズキする、き
た!というように、痛みがくる過程が感じられるのが片頭痛の1つの特徴で、
片頭痛の予兆と呼ばれています。
片頭痛の診断基準の中にも、痛みの最中の吐き気や音・光への敏感さなど痛
み以外の症状が含まれていますが、片頭痛は頭の痛みだけが症状ではありませ
- 15 -
ん。
何となく痛くなりそうな時期から痛みが引いていく時期に至るまで、予兆期、
前兆期、頭痛期、緩解期、回復期という5つの過程があり、特徴的なさまざま
な症状が見られることがあります。
1.予兆期
多くの患者さんが感じる肩や背中、
首の凝り、あくびなどの症状は予兆期
に現れるものです。予兆期にはこのほ
か、疲労感や、集中力の低下、精神的
な落ち込み、抑うつ感などが見られる
場合があり、また人によっては、お腹
がすいて過食をしてしまったり、痛み
などの感覚が過敏になったりという症状が出ることもあります。
予兆は、長い人では2,3日間、続くことがあります。
2.前兆期
頭痛の起きる直前に特徴的な前兆が
現れることがあり、これを前兆期と呼
んでいます。
前兆は患者さんによってある場合と
ない場合があり、片頭痛の分類でも「前
兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭
痛」に分けられています。
前兆には、視覚性前兆、感覚性前兆、言語性前兆の3種類ありますが、ほと
- 16 -
んどが視覚性前兆で、感覚性・言語性前兆はあまりみられません。前兆は、頭
痛の始まる前に 10 分から 20 分程度続く一過性の症状で、長くても1時間以
上続くことはありません。
視覚性前兆はいわゆる「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれるもので、
初めに視野の中心付近にチカチカ光るものが現れます。チカチカするものは次
第に右または左の視野に広がっていき、やがてその部分の視力がなくなります
(視野欠損)
。20 分程度経つと視力が元に戻り、このあと、頭痛が起きます。
感覚性前兆では、顔面や腕、足などにピリピリ、チクチクした感覚が現れ、
また言語性前兆では一時的に言葉が話せなくなる状態になりますが、これらが
現れるのは極めて稀です。
3.頭痛期
頭痛期は、実際に痛みを感じている
状態で、痛みの程度も軽度から中等度、
重度とさまざまです。この期間には、
吐き気や嘔吐、音・光(眩しさ)・臭
いなどに対する過敏、食欲の減退など
の症状があります。
鎮痛薬を飲まずにいた場合、あるい
は鎮痛薬を飲んでも効き目がなかった場合、頭痛は4時間から 72 時間続きま
す。
4.寛解期
頭痛が回復に向かう時期で、少しずつ痛みが引いていきます。この時期、眠
気を感じたり、実際寝込んでしまう場合もあります。
- 17 -
5.回復期
頭痛がなくなった後も、しばらくは疲労感を感じたり食欲が低下するなどの
症状が見られることがあります。また精神的にうつ状態になったり、逆に躁状
態になったりすることもあります。この症状は半日から3日程度、続くことが
あります。
このような片頭痛の症状は、患者さんによって多く現れる場合、少なく現れ
る場合、また全くない場合それぞれですが、全体としてこのような経過を辿る
ことがほとんどです。
そのため片頭痛の診断には、基本的な診断基準で判断するとともに、痛みの前
後の精神的、身体的な状態を含めた包括的な診断を行うことが必要です。
例えば、片頭痛の予兆期に見られる肩や首の凝りは、緊張型頭痛でも見られ
ます。緊張型頭痛では肩の凝りが原因になって頭痛が起きますが、片頭痛の場
合、肩の凝りは頭痛の予兆にすぎません。そのことを把握していないと、「肩
が凝って」という患者さんの言葉を聞いただけで、他の診断基準を無視して「こ
れは緊張型頭痛」と間違って診断してしまうことになります。
片頭痛の患者さんで、診断基準から言えば典型的な片頭痛であり、また経過
各期の症状をかなり多く持っているにも関わらず、あるいはさまざまな症状を
持っていたが故に、いつまでたっても片頭痛という診断が受けられず、20 年間
も苦しむ人もいます。
そのケースを、ご紹介します。
〈20 年間病院に行くたび違う診断〉
患者さんは 40 歳の男性で、20 歳くらいから月に1回から3回くらい頭が痛
くなるようになったと言います。
- 18 -
頭痛は片側だけの拍動性の痛みで、日常的な動作で痛みが増大し、光に対し
て敏感になり、痛みがひどいときは悪心嘔吐がある、ということで、診断基準
に照らせば典型的な片頭痛です。それに加えてこの患者さんの特徴は、予兆期、
回復期の症状が強く、また期間が長いということでした。この患者さんの症状
全体を大きく見てみると、まず頭痛がくる前の2,3日間は集中力の低下や疲
労感、精神的な落ち込みなどがあり、その後、半日か1日程度の激しい頭痛が
きて、さらに頭痛が治まったあとも、多少、抑うつ感や疲労感が残る、という
流れです。これは一度の頭痛に対して、予兆期、回復期の症状を合わせれば
ほぼ1週間ほどかかることになり、月に3度も頭痛がくれば、患者さんは1カ
月の大半はこのような状態にあることになります。
もちろん患者さんは、長い間頭痛の症状だけが問題だと思っており、何度も
医療機関を訪ねましたが、その度に片頭痛以外のさまざまな診断が下されてい
ます。ドラマの三部作と言ったところでしょうか。
まず第一部は、ペンタジンという薬の中毒に間違えられた話です。
今から2年ほど前、あまりにも頭痛が激しく、市販の鎮痛薬も効かず痛くて
たまらないので、近くの病院の救急室に行ったそうです。救急医が脳のさまざ
まな検査をしたのですが異常はなく、原因はわからないけど痛がっている、と
いうので、ペンタジンという薬を注射しました。ペンタジンというのは、麻薬
であるモルヒネに準じる薬で、腹痛などの痛みを止めるのに使用されますが、
繰り返すと依存症、中毒になることがあります。
頭痛はペンタジンの注射で良くなり、患者さんは喜んで帰りました。一度良
くなったので、次に痛くなったときも患者さんはその病院の救急室に行きまし
た。するとカルテにペンタジンが効いたと記載されているので、またペンタジ
ンを注射します。
数回目に行ったとき、突然「あなたはペンタジン中毒だから、もう注射はで
きません」と言われました。ペンタジンの中毒になった患者さんの中には、痛
みがなくても注射を打ってもらいたくて病院に来る、というケースがあります。
- 19 -
しかしこの患者さんの場合は中毒ではなく、本当に頭が痛いので治してほしく
て行ったのですが、病院の方では何度か注射が行われていることが記載された
カルテだけを見て判断したものと思われます。
患者さんにしてみれば、痛いフリをしているのでも何でもなく本当に痛いの
で、なぜ打てば治る注射を拒否されるのか、よくわからなかったと思います。
病院の医師に中毒の説明をされ、医者が言うことだから正しいのかな、と半信
半疑で病院を出たそうですが、頭の痛みはそのままでした。
結果として、この医療機関は患者さんの頭痛を何も解決しなかった、という
ことになります。
さて次は第二部、あやうく手術されそうになった話です。
ペンタジン中毒と間違えられたあと、やはり頭痛が激しいので今度は脳外科
病院の救急室に行きました。出てきた脳外科の先生は頭が痛いという話を聞く
なり「くも膜下出血です。すぐに緊急入院をし、血管造影をして手術をしまし
ょう」と言いました。
周囲が慌ただしくなり、すぐに緊急入院の準備が始まったのですが、患者さ
んは、痛みの中でも「待てよ」と思うだけの理性が働いていました。
この頭痛は 20 歳の頃からもうずっと毎月何度か繰り返している、確かくも
膜下出血というのは、突然起きて命にかかわる病気だ、そんな病気が毎月起き
ていて、今、オレが生きているわけないじゃないか!というわけです。
もちろん片頭痛で慢性的に頭痛がある人が、たまたまくも膜下出血を起こす
ということも、ないではありません。でもこの患者さんの場合は、いつもと同
じ頭痛なのに、というご本人の判断が正しかったことになります。
この患者さんは「手術はイヤです」と抵抗し、緊急入院を拒否して開頭され
ずに済みました。
最後の第三部は、慢性疲労症候群と診断された話です。
第一部の病院に見放され、第二部の病院を逃げ出したあとも、患者さんはず
- 20 -
っと頭痛と精神的な落ち込みや疲労感に悩んでいました。あるとき、あまりに
疲労感がひどいので隣の県の大学病院の内科に行ってみました。このときは頭
痛期ではなく、予兆期または回復期だったと思われます。
その病院で、疲労感、抑うつ感、頭痛の痛みなど今までの経過を全て話した
ところ、慢性疲労症候群と診断され漢方薬を処方されました。頭痛もストレス
や疲労からきている、と判断されたようです。
1年ほどその病院で薬をもらっていましたが、疲労感は抜けず、また頭痛も
相変わらずひどいため、はじめて医院へ来院されました。
患者さんの話を聞いた私の診断は、典型的な片頭痛です。抑うつ感や疲労感
なども片頭痛に伴う予兆期、回復期の症状だと考えました。しかし患者さんは
大学病院の診断を大切にし、慢性疲労症候群の薬を飲みます、というので、そ
の漢方薬を続けてもらいながら、片頭痛の治療を行なうことにしました。
この患者さんの場合、頭痛が起きる頻度が高かったので、鼻から吸入する薬
を使ったり、時には救急で飛び込んできて皮下注射を打ったりして痛みをとり、
また薬の種類や量を変えたりした結果、最近では頭痛はほとんど起きなくなり、
頓服も必要ないほどになりました。
患者さんの最近の話では、頭痛が消えると同時に、ずっと続いていた慢性疲
労症候群の症状もすっかりなくなったので、大学病院に行くのはやめました、
ということでした。
このケースの場合、患者さんは頭痛と慢性疲労症候群という別々の2つの病
気、と思っていたようですが、これはあくまでも片頭痛の経過の流れだと思わ
れます。片頭痛がなくなれば、それに付随する予兆期、回復期の疲労感、抑う
つなどの症状も消えるのは当然と言えます。
このように片頭痛は痛み以外にもいろいろな症状があり、また一連の経過が
あります。
私は片頭痛というものは、1つの大きな交響曲やピアノ協奏曲のようなもの
だと考えています。
- 21 -
片頭痛の症状には個人差があります
片頭痛の症状には個人差があることも多いのです。
典型的なタイプの片頭痛の人でも、状況によっては症状が変化してしまうこ
- 22 -
ともあるのです。さらに、特殊なタイプの片頭痛の人では、かなり違った症状
があらわれます。
自分の症状を再確認してもらう意味で、まず「典型的な片頭痛の症状」とは
どのようなものかを名古屋の片頭痛診療の世界の重鎮とされる寺本純先生に解
説して頂くことに致します。
片頭痛は上記のような予兆期、前兆期、頭痛期、寛解期、回復期の5段階が
一連の片頭痛発作になっていて、それぞれ特徴的な症状があります。
典型的な片頭痛の症状とは?
1.突然、発作性に頭痛がおこる
2.頭痛が起こる前になんらかの前ぶれがある
3.頭の片側が痛むことが多く、両側が痛む場合でも左右差がある
4.頭痛がピークに達するまでには拍動感のある痛みを感じる
5.頭痛の最中に食欲低下、吐き気、嘔吐をおこすことがある
6.頭痛の最中には、音、光、匂い、振動が嫌になる
7.血管が拡張しやすい状況になると頭痛がおこりやすい
8.遅くとも 25 歳までには発症する
9.祖父母、両親、兄弟姉妹にも同じような頭痛がある
10.妊娠中や授乳期には頭痛が軽くなる
11.中年になると頭痛は軽くなるが、頭痛の回数が増えたり時間が延びる
12.60 歳を過ぎると頭痛は軽くなり、70 歳以上ではほぼ消えてしまう
突然、発作的に頭痛が起こります
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片頭痛というと、頭の片側にズキンズキンとした拍動性の痛みが起こる病気
だということはよく知られています。しかし、片頭痛でもっとも特徴的なこと
は、このような痛みが突然、発作的に起こってくるということです。
突然、発作的に痛みが起こるということは、言葉を換えれば、いつもいつも
痛いわけではない、ということです。1カ月に1回だけ痛い日がある、1週間
に3回ほど痛い日があるという具合に、片頭痛の場合には痛みのある日とない
日がはっきり分かれるのです。
頭痛がおこる回数は、多い人もあれば、なかには1年間に1~2回くらいし
かない人もいます。回数が多い場合、毎日痛むという人もいますが、それでも、
1日中まったく同じ程度のいたみがつづくわけでなく、朝よかったが午後にな
って急に痛みが強くなってきたというふうな調子です。
このような頭痛のおこり方を「発作性の出現様式」と言います。これは、私
が片頭痛の診断をするときに、もっとも重視する所見です。
だらだらと同じような強さの頭痛がつづく場合には、発作的な出現様式では
ありませんから、ほかの頭痛である可能性を考えなければならないのです。
頭痛がおこる前になんらかの前ぶれがあります
片頭痛のほとんどは、「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の2種
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類で占められています。「前兆のある片頭痛」は全体の 20 % 弱、「前兆のない
片頭痛」は全体の 80 %くらいです。
「前兆のある片頭痛」にはその名の通り前ぶれがあるのですが、この前ぶれは、
ほとんどの場合、目の前に星が飛ぶ、ギラギラとまぶしく感じる、目がみえに
くくなる、などという視覚の異常です。星のようなものがあらわれ、それがだ
んだん広がっていき、やがて消えていく症状は、閃輝暗点と呼ばれ、よく知ら
れた症状です。
この「前兆のある片頭痛」の前ぶれは、日本人ではほとんどが視覚症状なの
ですが、欧米人では視覚症状は 40 % ほどで、残りは、言葉がうまく出なくな
るといった言語障害であったり、体の半身がしびれるといった感覚異常が占め
ています。
また、それらが交互に変化しながら現れることも多いようです。
日本人でも言語障害や半身のしびれが現れる人がいますが、これは非常にま
れです。
「前兆のある片頭痛」の場合には、これらの前ぶれ症状がだんだんと消えてい
き、それに代わって頭痛が起こってくるというパターンをたどります。
これに対して、片頭痛の大半を占める「前兆のない片頭痛」は、その名称か
らいかにも前ぶれがないように思われますが、じつは違います。
「前兆のない片頭痛」もほとんどの場合、なんらかの前ぶれがあるのです。た
だ、「前兆のある片頭痛」のようにはっきりした症状ではないために、「前兆の
ない片頭痛」と命名されているのにすぎません。
では、
「前兆のない片頭痛」の場合には、どんな前ぶれが出るのでしょうか?
その症状はさまざまですが、多いものとしては、首すじや肩の張り、生あく
び、具体的な症状は出ないが何となく予知感(頭痛がおこりそうな感じ)があ
る、軽い頭痛がする、といったものです。
また、それほど多くはないのですが、腹部にも症状があらわれる人もいます。
膨満感、排便感、吐き気(悪心)逆に食欲亢進など、胃腸の蠕動運動の乱れに
よる症状があらわれます。
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「前兆のない片頭痛」の場合には、「前兆のある片頭痛」のパターンとは異な
り、なんらかの前ぶれの症状がつづいたまま、頭痛がおこってきます。
頭の片側が痛むことが多く、両側が痛む場合でも左右差があります
片頭痛は、頭のどちらか片
側が痛む病気と思われがちで
すが、それは違います。あく
まで「片頭痛」という固有名
詞であり、症状を表している
病名ではないということを理
解しておいて下さい。
ですから、決して多くはな
いのですが、頭の両側が痛む
片頭痛の患者さんもいます。
外国の医学統計をみると、片
側性は 50 % とする医学文献
もありますから、そう片側とばかり決めつけるものでもないのです。
また、頭の片側といっても、さまざまな状況があります。右側だけにしか痛
みが出ない、あるいは左側だけ、といった患者さんはかなり少数派です。
と
きによって痛みが右側に出たり、左側に出たりする、といった変動を示す患者
さんが最も多いのです。
さらに、頭の両側とも痛くなるが、その痛みの程度には左右差がある、とい
った患者さんも少なくありません。頭痛がおこっている間は両側とも痛いが、
その最中に右側と左側の痛みの程度が違っているのを感じることがある、とい
う患者さんもときどきいます。
それでは、頭の左右でなく、前後についてはどうでしょうか?
片頭痛は、血液によって血管が押し広げられるときに痛みがおこる血管性頭
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痛です。
一般に、片頭痛は側頭部の痛みであるとさ
まざまな医学書に書かれていますが、これは
側頭動脈の領域で痛みがおこった場合です。
しかし実際には、前頭動脈や後頭動脈の領域
で痛みがおこることも少なくありません。
側頭動脈の領域で痛みがおこりやすいの
は、日本人でも欧米人でも同じなのですが、次におこりやすいのは、欧米人で
は前頭動脈であるのに対して、日本人では後頭動脈のことが多いのです。
ちなみに、痛みの最中の自己診断法として、痛みの出ている血管を指で強く
頭蓋骨に押しつけてみるとよいでしょう。押しつけている間はひろがった血管
が収縮しますので、痛みが軽くなるのがわかるはずです。
もっともこのことを知らなくても、頭痛が起こっているときには、本能的に
こういう動作をする人は多いようです。
頭痛がピークに達するまでは拍動感のある痛みを感じます
片頭痛に特徴的な症状の一つとしてよく知られているのは、脈拍に一致して
ズキンズキン、ドクンドクンとする痛みがあることです。
しかし、この特徴的な痛みは、頭痛の最中にいつでも現れているわけではあ
りません。
一般的には、頭痛の出はじめから頭痛がピークに達するまでの間だけで、せ
いぜい1~3時間くらいのことが多いのです。それ以降は、ドーン、ガーンと
した拍動感のない痛みに変わっていきます。
この拍動感のある痛みは、心臓が拍動して血液を送り出すたびに血管の内圧
が変化し、血管が「ほどよく」ひろがったときに起こるものです。ですから、
血管芽とても柔らかい小児や、逆に硬くなった高齢者では、拍動感ははっきり
しないのが普通です。
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そのほかの年代の人たちでも、血管の拡張が大きく、パンパンにひろがって
強烈な頭痛がおこったときや、逆に血管の拡張がたいして大きくないときには、
拍動感がはっきりしないことも少なくありません。
この拍動感を、ほかの病気のものと間違える場合があります。
脳の周囲を満たす髄液の圧が低下しておこる低髄液圧性頭痛でも、拍動感を
感じることがあります。この場合は、髄液圧が低いために脳の周囲の静脈が広
げられ、動脈の血圧の上下動が静脈に影響するためではないかと考えられてい
ます。
低髄液圧性頭痛の拍動感は片頭痛の拍動感よりももっと鈍いドワンドワンと
する痛みで、両側性です。体を横にすると痛みは和らぎますので、このことを
知っていれば簡単に見分けることができます。
頭痛の最中に食欲低下、吐き気、嘔吐をおこすことがあります
吐き気(悪心)や嘔吐は片頭痛につきものの随伴症状である、と医学書など
に書かれています。また、欧米の医学データをみると、片頭痛のときには 80 %
くらいの割合で吐き気や嘔吐を伴うと書かれています。
ところが日本人では、これらの症状が必ずしも毎回現れるとは限りません。
「いまままでは、そんなことはなかったのに、先日の頭痛のときには吐いてし
まった。大丈夫でしょうか」と心配して受診する患者さんも多いのですが、欧
米人に比べると、吐き気や嘔吐の出現率は低いようです。
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それでも、
「ときには吐き気を感じることがありますか?」と聞いてみると、
大多数の患者さんがイエスと答えます。嘔吐は吐き気よりも少なく、私のクリ
ニックを受診する片頭痛の患者さんのうち、半数の人にあるかないかですが、
毎回嘔吐するという人は極めてまれです。
また吐き気も嘔吐も経験がないという人もいます。もっともこのような患者
さんは、片頭痛がおこっても市販薬を飲むだけで済むことが多いので、私もあ
まり診る機会はないのですが、それでも「痛い最中に食欲は落ちますか?」と
聞くと、ほとんどの人がイエスと答えます。
小児では、成人に比べると、吐き気や嘔吐をおこす割合が高いと言われてい
ます。実際に私が診た片頭痛の小児でも、成人に比べると吐き気や嘔吐を起こ
す割合が高いような気がします。欧米の医学データと比べると、小児では日本
人のほうが吐き気や嘔吐をおこす割合がいくらか低いような気がします。
頭痛の最中には音、光、匂い、振動が嫌になります
頭痛の最中には、暗くて静かでひんやりとした場所で過ごしたいと思う患者
さんがほとんどです。さまざまな外界からの刺激が頭痛を強めるように感じら
れるからです。実際には、頭痛が強まるわけではないのですが、できるだけそ
れらの刺激を避けようとします。
明るい光、大きな音、強烈な匂いは勿論ですが、車の振動ばかりでなく、首
を振る程度の振動でも嫌なようです。欧米人では、わずかな光、小さな音、階
段をゆっくり昇る程度の振動でも嫌がることが多いようですが、日本人ではそ
こまでの人はかなり少数派といえるでしょう。
また、欧米人では、とくに頭痛を起こしていないときでも、それらの刺激に
よって頭痛が誘発されてしまうこともよくあることです。しかし、日本人では、
やはりそこまでの患者さんはごくまれです。
なお、匂いについては、興味ある行動をする人がみられます。
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それは、片頭痛もちで喫煙者の人は、頭痛が出そうなときにはいっしょけん
めい一生懸命タベコを吸うことです。おそらく、タバコには頭痛がおこるのを
抑える血管収縮作用があることを経験的に知っているのでしょう。
ところが、どんなに愛煙家であっても、いったん頭痛が始まるとタバコの匂
いを嫌がります。これは、頭痛がおこったことによって、匂いに対する過敏症
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状があらわれてきたことを示すものだと思います。
血管を拡張しやすい状況になると頭痛がおこりやすい
片頭痛は、さきほど述べたように、頭部の動脈の一部が「勝手に」拡張する
ために、心臓から血液が送られるたびに血管が押しひろげられ、ズキンズキン
とした痛みを起こす病気なのですが、外界から血管を広げるような条件が加わ
ったときには、それがきっかけとなって頭痛がおこりやすくなります。
たとえば、混雑した映画館やデパートのような酸素の少ないところにいると、
脳の血管がたくさん酸素を取り込もうとしてひろがります。熱が出たとき、暑
いところにいるとき、運動をしたときなどにも血管が広がります。
また、週末や仕事の終了後など、緊張から解放されたときには、交感神経の
刺激が弱まって血管の緊張が解け、血管が広がります。月経のときにも血管が
拡張しますので、頭痛がおこりやすくなります。
寝過ぎや寝不足も誘発条件になります。とくに、日曜日の朝などにだらだら
と寝過ぎると、起床したあとで頭痛がおこります。これは、緊張がゆるみすぎ
て交感神経が作用せず、血管がひろがったためと考えられます。ほどよい睡眠
は片頭痛を軽くする効果がありますが、逆に睡眠リズムの乱れは片頭痛を誘発
することがあります。ですから、中途半端な昼寝も誘発要因になることがあり
ます。
さらに、食事性片頭痛といって、食べ物によっても頭痛が引き起こされるこ
とがあります。アルコールはかなりの割合で誘発要因となりますが、どれくら
いの飲酒量によって片頭痛がひきおこされるかには個人差があります。
よく家庭用の健康書などに、赤ワイン、チーズ、チョコレートなどが片頭痛
を誘発すると書いてありますが、赤ワインの場合にはアルコールではなく、チ
ラミンという物質が血管の拡張を起こすことがあります。
しかし、これらの食べ物によって誘発される片頭痛は、アルコールを除けば
日本人では欧米人に比べるとかなり少ないといえます。
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食べ物によって片頭痛が誘発されることがあるとはいえ、すべての食べ物に
神経質になる必要はありません。片頭痛の患者さん自身もそれまでの経験から、
何がよくないかをなんとなく気づいていることが多いようです。
一応、食事性片頭痛を起こす可能性があると指摘されているのは、各種発酵
食品、各種の油、オレンジ、チョコレート、各種豆類、肉類、イチジク、過量
の塩や砂糖などです。
また最近は健康食品のなかにビタミンEが入っていることも多いようです。
ビタミンEは血管を広げるので、冷え性やしもやけに悩む人が愛用するよう
ですが、片頭痛がおこりやすくなってしまう人もときどきいます。
ビタミンEは、成分表示ではトコフェロールと記載されていますので、気に
なる人は健康食品を利用する前に成分を確認してください。
遅くとも 25 歳までに発症します
片頭痛の発症年齢は若いという特徴があります。欧米人でも日本人でもだい
たい 20 歳くらいが平均発症年齢です。
もっとも、発症年齢を確認するのがなかなか難しい場合もあります。片頭痛
は一般的に 25 歳を過ぎてから強くなってきますが、それ以前では頭痛があっ
ても軽いことが多く、それが片頭痛であることに気づく人はあまりいないから
です。
私はこのような場合、さきほど述べた誘発要因について患者さんに聞いてみ
ます。「中学生や高校生の頃、人混みから帰ったときや、日曜日寝過ぎたあと
に頭痛が出たことはありませんか?」と問診すると、ほとんどの患者さんがそ
うした経験を思い出してくれます。
なかには、「30 歳を過ぎてから片頭痛が始まった」と主張する人がときどき
いますが、これは、若い時には頭痛が軽かったために記憶に残っていないから
だと思われます。片頭痛は 25 歳くらいから痛みが強くなってきて、30 代では
痛みがもっとも強くなるので、30 歳を過ぎてから頭痛が始まったように感じる
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こともあるのでしょう。
また、50 歳や 60 歳を過ぎて初めて頭痛が現れ、医療機関を受診した結果、
片頭痛だと診断されたという患者さんもときどきいます。このような場合は、
若い時のことを見事に忘れてしまっているからだとはあまり考えられません。
むしろ、そのような診断のほとんどが誤診であるといってよいでしょう。そ
んな場合には、改めてほかの医療機関に診断を求めるのがよいでしょう。
祖父母、両親、兄弟姉妹にも同じような頭痛があります
片頭痛は遺伝的な病気であるといわれています。遺伝といわずに遺伝的とい
われるのは、確実な遺伝様式がわかっていないからです。
一般的には、私が調べた国内での統計結果では、母親に片頭痛があると、子
供の 40 ~ 50% は片頭痛をもらいます。一方、父親に片頭痛がある場合には、
子供の 10 ~ 20 % が片頭痛を受け継ぎます。
ところが、一卵性双生児のケースでは、2人のうち1人には明らかに片頭痛
があるのに、もう1人にはまったく片頭痛がない、ということがよくあります。
一卵性双生児は同じ遺伝子をもつクローンのはずですから、片頭痛の発症を左
右するのが遺伝だけであるなら、2人ともに片頭痛があらわれてもよいはずで
す。このようなケースが、遺伝ではなく、遺伝的といわざるを得ない理由の一
つです。
また、祖母にはあきらかに片頭痛があるのに、親にはなくて、孫にあるとい
うケースもよく経験します。このようなケースを隔世遺伝といいます。
このように、片頭痛の発症には遺伝的な要因がかなり強く認められるのですが、
それだけで説明することができない場合があるために、発症には何らかの後天
的な要因も関係しているのではないかと言われています。しかし、この「なん
らかの」というのはまったく不明であるといわざるを得ません。
妊娠中や授乳期には頭痛が軽くなります
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女性の片頭痛の患者さんでは、妊娠すると約 80 % の人で頭痛が軽くなるこ
とが知られています。
どのように軽くなるかというと、頭痛の程度が軽くなる場合と、頭痛の回数
が少なくなる場合がありますが、80 % のうち過半数の人では、妊娠中にはま
ったく頭痛が出なくなってしまいます。妊娠のごく初期にはいくらか頭痛が残
ることがありますが、中期以降になると非常によい状態がつづきます。
しかし、つわりが強い人の場合には、よい状態になったのはつわりが治まっ
たせいなのか、頭痛が治まったからなのかよくわからないと答える人もいます。
出産を終えると、早い場合には、出産のあとすぐに激しい頭痛が出てしまう
こともあります。約半数の人では、出産をきっかけにして頭痛が復活します。
この場合、一般的には妊娠前に比べていくらか頭痛が強くなります。
残りの半数の人では、授乳期の間は頭痛が軽い状態がつづきます。しかし、
妊娠前よりはよいのですが、妊娠中に比べるといくらか強い頭痛が出る傾向が
あるようです。そして授乳期を終えると、また頭痛が復活します。この場合も、
出産直後から復活する場合と同様に、妊娠前と比べると頭痛が強くなることが
多いようです。
中年になると頭痛は軽くなるが、頭痛の回数が増えたり時間が延びます
一般に片頭痛は、20 ~ 30 代では鋭い頭痛がときどきおこるという経過をた
どりますが、これが年代とともに変化してきます。40 歳を過ぎると、頭痛の鋭
さはいくらか和らいでくるので、頭痛がピークに達したときの痛みも少しずつ
ましになってきます。
それに対して、頭痛がおこる回数が増えたり、頭痛がおこってから消えてい
くまでの時間がだんだん長くなってきます。また、随伴症状である吐き気や嘔
吐も、若い時に比べるとおこりにくくなってきます。
要するに、全体的にみると、くっきりしていた症状が次第にぼけてくるので
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す。そして、なかには慢性連日性頭痛(変容性片頭痛)と呼ばれるように、毎
日、頭痛がおこるようになってしまうこともあります。
頭痛が毎日おこるようになったとしても、片頭痛の特徴である「発作性の出
現様式」は残っておいますから、一日中同じような痛みがつづくわけではなく、
頭痛が強くなったり、いくらか落ち着いたりして、症状に浮き沈みがあるよう
になります。
60 歳を過ぎると頭痛は軽くなり、70 歳以上ではほぼ消えてしまいます
さらに年齢を重ねると、片頭痛はだんだんと起こりにくくなってきます。60
歳までに約 80 % の人では頭痛がもう起こらなくなるか、かりに起こったとし
ても、大して困らない程度の軽い頭痛になります。
70 歳を過ぎると、ほとんどの人で頭痛は起こらなくなってしまいます。さき
ほど述べた誘発要因がある場合には軽い頭痛が残ることもありますが、誘発要
因があったとしても、たいていの人では頭痛は起こらなくなります。
どうして軽くなるのかについては詳しいことは分かっていませんが、もっと
もよく言われるのは、若い時に比べると動脈が硬くなっているために血管が広
がりにくくなるからではないか、という説です。
この説の出典がわからなくなってしまったのですが、古い医学論文に、70 歳
で片頭痛がつづいている人には脳梗塞が少ないと書いてあったのを読んだ記憶
があります。片頭痛の軽減や消失に動脈硬化が関係するならば、これは理にか
なったことだと思います。
もう一つの説は、てんかんなども高齢化によって起こりにくくなりますが、
それと同様に、さまざまな命令系統が「鈍く」なるためではないか、とする考
え方です。
いずれにしても、厳密にはわかっていません。最近では年齢とともに薬物乱
用になるとする説が唱えられていますが、そんなことはありません。年齢が高
くなると頭痛が軽くなってくることは確かなのです。
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特殊なタイプの片頭痛の症状とは?
いままで述べたのは、典型的な片頭痛の症状です。一言に片頭痛といっても、
なかには特殊なタイプの片頭痛もありますし、通常の片頭痛であっても様々な
状況によって症状が変化してしまうことがあります。
このような場合には、単にトリプタンを処方するだけではうまくいかないこ
とが多いのです。片頭痛の治療を受けているのにうまくいっていない人たちは、
たいていは次の1~7のいずいれかの片頭痛にあてはまります。
1.前兆だけの片頭痛
2.脳底型片頭痛
3.小児片頭痛
4.片麻痺型片頭痛
5.片頭痛に伴う脳梗塞
6.片頭痛重責発作
7.変容性片頭痛
このように典型的な片頭痛の症状があるとされています。
一筋縄でいかない片頭痛の症状
片頭痛は、一回の発作においても段階によって症状の変化がみられる頭痛で
す。大きく分けると、予兆(前ぶれ症状)、前兆、頭痛発作、後症状になりま
す。前兆(閃輝暗点:せんきあんてん)の有無には個人差がありますが、予兆
は大抵の方にあります。予兆の症状の中で、一番多いのが「肩こり」です。
「生
あくび」や「空腹感」が現れる方もいらっしゃいます。
この予兆は、頭痛をよく知っている医師にとってはごく当たり前のことなの
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ですが、国際頭痛学会による「片頭痛診断基準」では、触れられていません。
ですから、一般の医師の中には、予兆を知らない方も多いようです。患者さん
自身が誤解していらっしゃることも多く、初診で来たときに、「肩こりから起
こる頭痛だと思うのですが・・・」とおっしゃる方がよくいらっしゃいます。
私はその後の頭痛の経過を詳しく聞きますが、もし予兆を知らない医師であれ
ば、「肩こり」だから「緊張型頭痛」と診断してしまうことになります。
肩こりを訴えて首のレントゲンを撮った結果、首に異常が見つかり、「緊張
型頭痛」と診断される方も多いようです。片頭痛は女性に多い病気ですが、首
がきゃしゃな人で 40 歳以上であれば、首のちょっとした異常は多少なりとも
あります。肩こりや首の異常を理由に、片頭痛の人が緊張型頭痛と診断されて
薬を出されても、その薬はほとんど効果がありません。そこで、病医院に行く
のをあきらめて自分で市販薬を買って対処しているうちに今度は薬剤誘発性頭
痛になって、毎日のようにつらい頭痛に悩まされる患者さんが非常に多いわけ
です。私のところにいらっしゃる患者さんでは、以前他の病院で緊張型頭痛と
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診断された方の 8 割以上は片頭痛であることが判明しています。まず、医師も
患者さんも、片頭痛の予兆に「肩こり」があることを知っておくことが大切な
のです。
片頭痛の痛み方そのものも、発作の過程や時期によって変化します。最初は、
ドクンドクンとした拍動性(脈に合わせて痛むこと)であっても、市販薬を乱
用して薬剤誘発性頭痛を引き起こしていれば、痛みはドーンとしたものに変わ
ってきます。また、片頭痛は女性ホルモンと関係が深い頭痛ですから、女性ホ
ルモンの年齢的な変動によっても痛みは変化し、更年期になるとやはりドーン
とした痛みに変わるようです。拍動性の痛みでないからと言って、片頭痛を否
定することはできません。
片頭痛だから片側が痛む、と思いこんでいる方も少なくないのですが、これも
間違いです。片頭痛でも、左右どちらかの痛みを強く感じる場合はあるにせよ、
基本的には両側が痛むことが稀ならずあるのです。
このように予兆の「肩こり」だけでなく、「拍動性」「片側が痛む」という症状
も、片頭痛と緊張型頭痛の診断にはあまりあてにはなりません。
それではどのように見分けるかというと、片頭痛に特徴的な随伴症状で判断
します。例えば、「動くとガンガン響いてつらい」「吐き気がする、吐いてしま
う」「光、音、匂いに過敏になる」がそうです。これらは、痛みが拍動性では
なくても、肩こりを伴う場合でも、片頭痛であればみられる特徴的な症状で、
国際頭痛学会による「片頭痛診断基準」でも取り上げられています。このよう
な随伴症状があれば、片頭痛と思って間違いはありません。自分で頭痛を見分
ける際にも、頭を振るなど体を動かしてみて、頭痛がひどくなるかどうかをみ
るのが有効です。「動くとガンガン響いてつらい」症状は、片頭痛であれば予
兆のような比較的早い段階からみられますが、緊張型頭痛の場合は動いてひど
くなることはあまりありません。
- 38 -
頭痛が起こり始めた時、この頭痛がどこへ行くかはミステリーなのです。緊
張型で終わるのか、緊張型頭痛経由片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。これは
患者さんにも分かりませんし、医者にはもっとわかりません。
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合
は、飲み慣れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30 分後に頭痛が悪化してく
るようならトリプタン系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛
と考えられますし、ご自分の経験上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリ
プタン系薬剤を服用して下さい。
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、ストレートネックを高頻度
に認めるわけですので、このように臨床症状には、重複するものが多いという
ことです。
「片頭痛」 と「緊張型頭痛」の相違点
- 39 -
片頭痛とは、頭痛が起こる直前には肩こりが
出ることもあり、こめかみから目のあたりがズ
キンズキンと心臓の拍動に合わせるように痛み
ます。
頭の片側だけが痛いとは限らず両側が痛むこ
ともあり、日常生活に支障が出ることもある発
作性の頭痛です。
「片頭痛」の特徴は体を動かして頭の位置を変
えると痛みが増幅することです。また頭痛以外
に吐き気、嘔吐、下痢などの随伴症状があり、
光、音、におい、気圧や温度の変化に対し敏感
になることも特徴です。
いったん痛み出すと 2 ~ 3 日間は続き、1 ヶ月
に 1、2 度、多い人では 1 週間に 1 回と周期的に
頭痛を繰り返します。
一方、午後から夕方にかけて、目の疲れや倦
怠感などとともに痛みが現れやすいのが「緊張
型頭痛」です。後頭部から首筋を中心に頭全体
がギューッとしめつけられるように痛みます。
吐き気や嘔吐などといった頭痛以外の症状は
現れず、日常生活への支障も片頭痛ほどではあ
りませんが、数時間で治まる場合や、頭痛が数ヶ月以上も続くなど、慢性化す
るケースもあるようです。
このように、片頭痛と緊張型頭痛は厳然と区別されるとされています。
- 40 -
しかし、皆さんは、頭痛発作が起きたときに果たして、この頭痛が片頭痛な
のか、肩こりによる緊張型頭痛なのかを的確に判断できる自信はおありでしょ
うか?
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まず、以下のようなご経験はないでしょうか?
緊張型頭痛がひどくなると片頭痛になる?
「日常的に肩こりを自覚していて,疲れたり睡眠不足になると肩から後頭部に
重い感じの痛みが上がってきます。後頭部の鈍痛で終わるときもありますが,
我慢していると頭仝体がガンガン痛んで吐き気も出現し,ひどいと嘔吐する。
ガンガン痛いときには,家族の話し声もうるさく感じて,静かな部屋で暗く
して横になると少し楽になる」といったことはなかったでしょうか。
ひどい頭痛はおそらく片頭痛と診断して問題はないでしょう。後頭部の鈍痛
に関しては、緊張型頭痛と診断される場合が多いと思われます。
このように緊張型頭痛で始まり、程度が強くなると拍動性の頭痛を伴うもの
を、オーストリアのランス Lance は緊張・血管性頭痛 tension-vascular headache
と命名しました。
片頭痛が緊張型頭痛に化ける?
- 42 -
「20 歳ころから時々片頭痛発作を起こし、結婚後片頭痛発作が頻繁になりまし
たが、40 歳ころから緊張型頭痛が加わってきて、50 歳を過ぎると寝込むよう
なひどい頭痛発作は起こらない代わりに、だらだらと重く締め付ける感じの頭
痛が続くようになった。」このような経験はありませんか。
国際頭痛学会分類では、以前のものは片頭痛で、中年以降の頭痛は緊張型頭
痛と診断されるでしょう。このようなパターンを片頭痛が加齢とともに変化し
たということで、米国の Mathew は変容性片頭痛という概念を提唱しています。
ただ国祭頭痛学会分類の範疇としては現在のところ認められていません。
一方、片頭痛の治療に市販の鎮痛薬・トリプタン製剤などを乱用しています
と頭痛が発作性の型から、連日性になっていくことがあります。いわゆる薬物
乱用による「慢性連日性頭痛」ですが、これも 変容した片頭痛の一種と考え
られています。
片頭痛と緊張型頭痛の多くは症状は重複
このように、片頭痛と緊張型頭痛の症状の多くは重複していて、個々の症状
のみで診断することは困難です。たとえば、軽度~重度の頭痛、両側性および
片側性の頭痛は両者に認められます。
また、片頭痛、緊張型頭痛ともに拍動性でないことが多く、さらに、緊張型
頭痛の特徴と認識されることの多い「肩こり」も多くの片頭痛で随伴していま
す。
片頭痛因子(血管症状)
拍動痛
片側性
- 43 -
高度頭痛
悪心・嘔吐
緊張型頭痛因子(筋症状)
締め付け感
圧迫感・頭重
後頭部の頭痛
肩こり
こうしたことから、これまで
以下のように考える頭痛研究者
もおられます。
片頭痛の本質は「エスカレーシヨン」(Cady )
まず神経系の変調があると予兆を、神経活性物質変化で前兆を、さらに、三
叉神経が刺激・感作されますと(軽度の頭痛)緊張型頭痛が引き起こされます。
血管が活発化・賦活されますと神経血管系感作を引き起こし(中等度~重度
の頭痛)片頭痛へ、中枢感作(再刺激に感じやすい状態)が起きますと、ひど
い片頭痛(重度の頭痛)が起きてきます。
すなわち、片頭痛は三叉神経の抑制が効かなくなった状態により緊張型頭痛
が起こり、さらに神経血管系が活性化されて初めて片頭痛が起こってきます。
エスカレーシヨンの程度によって、緊張型頭痛~強弱さまざまな片頭痛が出
現することが理解されることと思います。このように一連したものということ
です。
天気に喩えますと、片頭痛は「雨」、緊張型頭痛は「曇り」に相当し、両者
- 44 -
には明瞭な差があります。雨は曇り空から降り出します。つまり、緊張型頭痛
が先行します。雨の降り方もさまざまであり、片頭痛の臨床症状の”多彩さ”
と一致します。
Cady は片頭痛と緊張型頭痛は”共通の病態生理”を持つと考えられるとして,
一次性頭痛一元説について述べています。
片頭痛の発生過程は,まず患者の”遺伝素因”にホルモン状況の変化や睡眠
時間の変化,アルコール摂取などの”環境因子”が加わることで,片頭痛が起
こりやすくなること,すなわち脳の感受性が高まることから始まります。
次いで,気分や食欲の変調,肩こり,感覚や意識の変化,疲労などの前駆症
状があり,症例によっては眼がチカチカするなどの前兆を伴って頭痛が出現し
ます。ここまでが前駆期で,次の頭痛期は一般的に軽度の頭痛で始まり,病状
が進行すると中等度〜重度となり,光過敏や音過敏が増強,悪心・嘔吐などを
伴って国祭頭痛学会分類診断基準を満たすことになります。そして頭痛が頂点
- 45 -
に達すると,中枢性のアロディニア(異痛症)を呈することになります。
つまり,一次性頭痛一元説では,頭痛が軽度の段階でおさまる場合は緊張型
頭痛とみなしています。ひどくなれば片頭痛へ移行するということです。
片頭痛と診断された患者と緊張型頭痛と診断された患者の頭痛は,性状・質
の差ではなく,頻度・程度の差であり,その病態は連続した「境界不明瞭な」「連
続体」であると考えられています。
片頭痛患者さんは,頭痛発作が始まったが,それほどひどくならずに済んだ
という経験をすることがあります。ひどくならない発作は,片頭痛の診断基準
を満たさないことが多く,緊張型頭痛と診断せざるを得ませんが,これを上手
に説明したものが一次性頭痛(機能性頭痛)一元論です。1回1回の片頭痛発作
に注目し,スタートは同しでも、軽く済めば緊張型頭痛,エスカレートしてひ
どくなれば片頭痛発作になるという考え方です。
緊張型頭痛と片頭痛はまったく別の頭痛???
ところが、片頭痛医療の世界にトリプタン製剤が導入された段階で、トリプ
タン製薬メーカーは、トリプタン製剤の販売促進目的のために、私達一般の方
々に向けて、新聞・テレビ・ネットを通じて、「片頭痛の啓蒙活動」を行い、
医師には、こうした「片頭痛の知識」をパンフレット・冊子にして啓蒙活動を
盛んに行ってきました。
こうした啓蒙活動のなかで常に示されるのは、「片頭痛が緊張型頭痛とは明
確に区別される」とされてきました。これは、医師に対しては片頭痛であれば、
トリプタン製剤を処方させるためであり、一般の方々には「片頭痛であれば、
片頭痛の”特効薬”がある」ということを宣伝する目的で、明確に区別してい
ました。これが、いつしか専門家の間ですら片頭痛と緊張型頭痛は明確に区別
されると”錯覚”される原因にもなっています。
- 46 -
以上のように、緊張型頭痛と片頭痛が別の頭痛であるといった考え方は、2000
年に、日本にトリプタン製剤が導入された時点で、トリプタン製薬メーカーが、
洗脳した”愚かな”専門医を介して、大々的にあたかも片頭痛と緊張型頭痛が
”全く別の頭痛”と啓蒙活動を行ってきたことにその由来があります。
現在では、ネット上では、片頭痛と緊張型頭痛が全く別の頭痛とされるのが
一般常識とされます。こうしたことは、専門医にまで波及させるほど徹底して
います。こうしたことから、片頭痛が緊張型頭痛と連続したものでありながら、
片頭痛と緊張型頭痛は全く別の頭痛であるとの考え方が専門家のなかまで浸透
し、片頭痛と緊張型頭痛は全く別の頭痛であるとの”神話”を作り上げてしま
ったことを忘れてはなりません。
このようにして、慢性頭痛の起点ともなる日常的に感じる極く軽い頭痛・緊
張型頭痛を取るに足らない頭痛と考えさせることによって、片頭痛の病態解明
を”闇へと葬むる”ことにしてしまいました。
片頭痛と緊張型頭痛が全く別の頭痛といった論点は、あくまでもトリプタン
製薬メーカーの論理であり、慢性頭痛とくに片頭痛の本態解明を阻害してきた
最大の原因があると考えなくてはなりません。このような事実を専門家ですら
認識できていないことが、まさに憂うべきこととしか言えないはずです。
ところで、緊張型頭痛と
片頭痛が連続したものであ
るとしても、現実に、頭痛
発作が起きた際にどのよう
に区別するのかが大切にな
ってきます。それは、片頭
痛であれば鎮痛効果の優れ
たトリプタン製剤を服用す
るために必要になってくる
からです。
- 47 -
東京脳神経センターの松井孝嘉先生は、以下のように指摘されます。
緊張型頭痛では、デスクワーク、特にパソコンを使って仕事をすることによ
り、うつむき姿勢を長時間とると、首の後ろ側の頭半棘筋が緊張し、その筋肉
を貫くように走っている「大後頭神経」が圧迫され頭痛が起こり、緊張型頭痛
は明らかに首疲労からもたらされる病気で、”首疲労”を治療することによっ
て、痛みがきれいに消えてしまいます。
ところが、明らかに片頭痛と考えられる予兆や前兆を持っていて、片頭痛に
有効なイミグランなどのトリプタン製剤を飲んだら、頭痛がぴたりと止まるこ
とから、典型的な片頭痛と他院で診断された患者さんに対して、”頸筋の異常
を治療”したら、片頭痛が起きなくなるものが、片頭痛の一部に存在します。
こうなると、片頭痛と緊張型頭痛という分類自体が怪しくなってきます。
頭半棘筋にこりが出ると、それが大後頭神経を刺激し、その刺激が三叉神経
に伝わります。大後頭神経は、頭痛をもたらす神経です。大後頭神経と三叉神
経は脳のなかで繋がっていますので、大後頭神経の刺激は、三叉神経にも伝わ
ります。
大後頭神経と三叉神経が同時に痛くなる現象は、よく知られています。
「体の歪み(ストレートネック)」が長期間、放置されて引き起こされる病態
が東京脳神経センターの松井孝嘉先生の提唱される「頸性神経筋症候群」です。
”頭痛の専門家”で重鎮とされる神経内科学の岩田誠先生は、さらに以下の
ように指摘されます。
”頸性神経筋症候群”(ストレートネックが長期間持続したために生じる病態
です)という病態が片頭痛患者に生じますと、片頭痛発作の頻度の増加や程度
の悪化、トリプタンの効果減弱につながると思っております。従って、明らか
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に片頭痛患者であると思われる方で、”頸性神経筋症候群”がある場合には、
片頭痛への治療と同時に”頸性神経筋症候群”に対する積極的な治療を行うよ
うにしています。これにより発作頻度の減少、発作時の症状の軽減、トリプタ
ンの効果の改善が認められる患者が少なくありません。
この説明では、片頭痛に”頸性神経筋症候群”を合併した場合とされていま
すが、果たして、これをどのように考えるべきでしょうか?
逆に、”頸性神経筋症候群”の延長線上に片頭痛が存在するとは考えられな
いでしょうか。
これまでの当医院の調査では、体の歪み(ストレートネック)の確認率は、
男性で 52 %、女性では 68 %と圧倒的に多く、緊張型頭痛では 84 %、片頭痛
では 95 %に、群発頭痛では全例に、ストレートネックが確認されています。
このように、緊張型頭痛でも片頭痛にも共通して「体の歪み(ストレートネ
ック)」を認め、片頭痛では緊張型頭痛以上の頻度でみられるということは、
緊張型頭痛と片頭痛は連続したものと考えるのが妥当のように思われます。す
なわち、緊張型頭痛に片頭痛が重なってきていると考えるべきです。このため
に片頭痛での頻度が高いと考えるべきです。
さらに、次のような興味あるデータがあります。
片頭痛の”緊張型頭痛”は small migraine
片頭痛
big(true)migraine
連続体
緊張型頭痛
緊張型頭痛
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small migraine
(脳内セロトニンの関与)
ということは、片頭痛での緊張型頭痛は small migraine で、本格的な片頭痛
は big(true ) migraine で、これが連続しているということです。
緊張型頭痛はこれとは別に、独立して、存在するということです。
この差異は、「片頭痛素因」の有無で決まるとされています。
片頭痛患者さんは片頭痛、片頭痛様、緊張型頭痛を経験します。各頭痛に対
するスマトリプタンの効果を 249 患者に対して 1,576 回の中~高度頭痛につい
て分析した結果、投与後4時間目に、すべてのタイプの頭痛においてトリプタ
ンはプラセボに勝りました。つまり、片頭痛の前の緊張型頭痛(仮面片頭痛)
にもトリプタンが有効ということになります。症候的には緊張型頭痛でも、本
態的には片頭痛 small migraine ということです。
このような結果からは、起こり始めの緊張型頭痛の段階でもトリプタン製剤
が有効ということのようです。
このことは、本来、「緊張型頭痛も片頭痛も一連のものである」ということ
を明らかにしているものと思われます。
Lipton RB et al. Sumatriptan for the Range of Headaches in Migraine Sufferers:
Results of the Spectrum Study. Headache 2000;40(10):783-791
Spierings ELH: Migraine, Big and Small. Headache 2001;41:918-9
以上のように、緊張型頭痛も片頭痛も共通して、体の歪み(ストレートネッ
ク)を高頻度に認めるわけですので、このように臨床症状には、重複するもの
が多いということです。
片頭痛としての、特徴的な症状を把握しておくことが極めて大切なのです。
発作時の、おくすりの服用の仕方を考える際の重要な点になります。
- 50 -
以上の点は、片頭痛も緊張型頭痛も、ともにストレートネックを基盤として、
頭痛が引き起こされ、これらの頭痛がどのような”形”になるかは、その時、
その時に、誘因(引き金)が、いくつ重なるかで決定されるのではないでしょ
うか?
少ない”引き金”では軽い緊張型頭痛で終わり、複数の”引き金”が重なれ
ば、重度の片頭痛発作が引き起こされるものと思われます。
その程度も、さまざまだろうと思われます。
結局、片頭痛は緊張型頭痛の上に乗っかった形になっています。
そして、体の歪み(ストレートネック)を緊張型頭痛・片頭痛ともに基本骨
格としており、緊張型頭痛では 84 %に、片頭痛では 95 %の高頻度で、体の歪
み(ストレートネック)が認められることになっています。
頭痛が起こり始めた時、この頭痛が
どこへ行くかはミステリーなのです。
緊張型で終わるのか、緊張型頭痛経由
片頭痛なのか、片頭痛直行なのか。こ
れは患者さんにも分かりませんし、医
者にはもっとわかりません。(引き金が
どの程度重なるかで左右されます。)
頭痛体操やストレッチ、階段の上り下りをしてみても見極めがつかない場合
は、飲み慣れた使いやすい鎮痛剤を飲んで戴いて、30 分後に頭痛が悪化してく
るようならトリプタン系薬剤を飲んで下さい。また、朝から痛い場合は片頭痛
と考えられますし、ご自分の経験上片頭痛だとわかる場合には、最初からトリ
プタン系薬剤を服用して下さい。
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以上のように、緊張型頭痛も片頭痛は明確には、現実に区別できないという
ことがお分かり頂けたかと思います。その理由は、緊張型頭痛も片頭痛も共通
して、頸椎レントゲン検査で、ストレートネックを高頻度に認めます。このた
め、このように臨床症状には、重複するものが多いということです。
片頭痛は緊張型頭痛と連続したものです。緊張型頭痛から、片頭痛へと移行
して発症してくるということです。
ただ、なかには、ミトコンドリアの働きが極端に悪いような場合は、いきな
り片頭痛のタイプから発症してくる場合も当然あります。この点も重要な点で
す。
このように、片頭痛にしても緊張型頭痛の場合も、どのような”症状”があ
るかということで「国際頭痛分類 第3版β版」という国際頭痛学会が定めた
基準に従って診断されていますが、これまでも述べてきましたように、クリア
カットには区別できません。この理由は緊張型頭痛と片頭痛が連続したもので
あるからに他ならないからです。
単純な表現をすれば、日常生活を送る際に、支障を来す程の激しい頭痛の場
合は、片頭痛であり、支障を来す程でない軽い場合は緊張型頭痛ということに
なります。ということは、この中間に位置するものが当然存在するということ
に他なりません。
こうしたことから、実際に頭痛が起きた場合、今回はどちらの頭痛なのかを、
その都度、自分で判断する必要があります。ここが実際の対処の仕方の難しい
点です。
こうしたなかで、専門家が使う、「国際頭痛分類第3版 β版」の真の目的と
することは、片頭痛を明確に定義することによって”片頭痛と間違いなく診断
”して、この片頭痛に対して”トリプタン製剤を処方する”ためのものです。
このため、”片頭痛と明確に定義された”「国際頭痛分類 第3版β版」の基
- 52 -
準に合致しないものが緊張型頭痛とされ、いわば緊張型頭痛は”ゴミダメ”的
な性格の強い頭痛とされ、専門家の間では、極めて”取るに足らない頭痛”と
されています。
しかし、緊張型頭痛と片頭痛、の境界領域にあるものが存在し、この2つが
明確に区別できません。
そして、現実に、”同一の”一次性頭痛(慢性頭痛)の患者さんを詳しくみ
てみますと、緊張型頭痛の要素、片頭痛の要素、を混在しています。このよう
に考えれば、緊張型頭痛、片頭痛、も一連の連続したものと考えるのが当然と
思われ、こうしたことから、先程のように「機能性頭痛一元論」という考え方
をされる頭痛の専門家もおられることを忘れてはなりません。
単純に言えば、”生活に支障を来せば”片頭痛であり、”生活に支障がなけれ
ば”緊張型頭痛であり、この両者は連続したものであり、そして、緊張型頭痛
であれ片頭痛であれ、共通した病態が存在しているということです。
これに対して専門家は・・・
専門家の行う「頭痛外来」では、多忙を極めるため診療効率を上げるため大
半の施設では「問診表」が利用されています。この問診表では、受診時の”最
も困っている頭痛”に関する質問が中心となり、「国際頭痛分類 第3版β版」
の診断基準に基づいて片頭痛の診断を下すため、過去の”些細な極く軽度”の
緊張型頭痛は無視されることになります。
こういった理由から、多忙を極める頭痛外来を担当される先生方は、緊張型
頭痛と片頭痛は別物であるといった錯覚を”日常的に植え付けられる”ことに
なっています。
しかし、世間一般で頭痛の”名医”とされる先生方は、問診表を使わずに、
時間をかけて腰を据えて、過去の極く些細な緊張型頭痛を含めて聴取され、こ
- 53 -
れが「現在の受診のきっかけとなった頭痛」に至るまでの間の「生活習慣・環
境の変化」を詳細に把握されます。
緊張型頭痛に、生活習慣・環境の変化によって片頭痛へと進展していくもの
と考えておられ、緊張型頭痛も片頭痛も一連のものと考えておられる先生が多
いようです。
このように、専門家の間でも、考え方が2分されていることを忘れてはなり
ません。トリプタン御用学者は、まったく別の頭痛と考えているだけです。
さらに、ネット上では、トリプタン製薬メーカーの影響を受けたHPや患者
集めを目的とした施設のHPでは、緊張型頭痛と片頭痛は明確に区別されると
記載されています。
決して、緊張型頭痛と片頭痛が連続した一連のものであるという記載は全く
眼にすることが出来ないのが現状です。これは、素人が最も理解しやすくする
ためにこのような記載をしているにすぎません。このため、頭痛の専門家です
ら緊張型頭痛と片頭痛がまったく別の範疇の頭痛であると錯覚されるのが実情
です。このため、かえって理解しずらくしているとも言えます。単純に両者が
お互いが連続していると説明すれば、もっと判りやすいはずです。
こうしたことが、自然と、慢性頭痛の本態解明への道筋を閉ざしているよう
です。
するべきことは、問診表を使うことなく、丹念かつ詳細に問診をすれば簡単
にできるはずでありながら、自分で自ら多忙な外来にした結果として、本態解
明の道を自分で閉ざしてしまったことになっています。自業自得ともいうべき
でしょうか。
- 54 -
以下は、片頭痛の発生機序とも関連したことですが、これまで述べて参りま
した「予兆」と「前兆」はどのようにして起きてくるのでしょうか?
予兆はどのようにして起きるのでしょうか?
片頭痛発作時には、前兆のかなり前に予兆と呼ばれる症状があります。
例えば、あくびが出るとか,異常にお腹がすくとか,イライラするとか,眠
くなるなどの症状です。
このような症状があってから前兆が起こり,さらに激しい発作が起こります。
そして、発作が鎮まった後も気分の変調があったり,尿量が増加したりする
など全身の症状を伴うことがあります。
このようなことから、片頭痛は脳の血管,あるいは脳だけの局所的な疾患で
はないのではないかという疑問を専門家は持たれています。
結局のところ、このように頭痛の専門家は、片頭痛を”脳の血管,あるいは
脳だけの局所的な疾患”と考えています。
これを私達はどのように解釈すべきなのでしょうか?
ここでは、この点について考えてみることに致します。
片頭痛とストレスの関係
片頭痛の起こる数時間前から 1 ~ 2 日前に「頭痛が起きるかも」という予兆
を感じる場合があるのが、片頭痛の特徴でもあります。毎回必ず現れる訳では
ありませんが、どんな症状が出るのでしょうか。
この予兆は、精神的に落ち込んだり、イライラしたり、怒りっぽくなる、気
分がすぐれない、情緒不安定になる、生あくびが頻回にでるなどの症状が現れ
- 55 -
ます。片頭痛はストレスと密接な関係があります。
片頭痛は、脳の血管が拡張して起こる頭痛です。神経伝達物質であるセロト
ニンは脳内で作られ、精神活動に大きく影響している物質です。人は強いスト
レスにさらされることで、血圧や心拍数を上昇させる交感神経系の働きが高ま
りますが、心身のストレスを感じている時にこそ脳が刺激を受けてセロトニン
が大量に放出され、脳内の血管が収縮します。
(ここに混乱のもとがあります。ここのセロトニンは生理活性物質のことで、
脳内セロトニンである神経伝達物質とは厳然と区別して考えなくてはなりませ
ん)
このように日ごろからストレスにさらされ、緊張して収縮していた脳の血管
が、週末や休みなどで、ほっとしてストレスから解放された途端に、一気に血
管が拡張し、血管を取り巻く三叉神経が圧迫されることが原因で片頭痛を引き
起こします。
脳内セロトニン(神経伝達物質としての)の働きは以下のようなものがあり
ます。
・覚醒の状態を調整する
・意欲や心のバランスに関係する(鬱病に関係する)
・痛みの調整をする
・自律神経への働きに関係する。緊張への働きで血圧や代謝を上げる
・姿勢筋に緊張を与える
が主な役割となっている物質です。2 ~ 5 つ目が片頭痛に関係していると言
われており、片頭痛は「脳内セロトニン」との関係が大きいとされています。
このように、ネット上では一般的に述べられています。
- 56 -
これを、もっと厳密に考えることが大切になってきます。
慢性頭痛とストレスについては、別の章で詳しく述べますが、ストレスは脳
内セロトニンを枯渇させ、マグネシウム不足を招き、活性酸素を過剰に発生さ
せることになります。
「脳内セロトニン」は、ストレスだけでなく、諸々の生活習慣の問題点から
低下してきますが、この点は章を改めて述べることにします。
予兆と脳内セロトニンの低下
セロトニンは、脳内の様々な神経伝達物質に作用して「精神を安定させる」
役割を持っており、さらに「満腹感」を感じさせ、食欲を抑制する作用も持っ
ています。このため、強いストレスを感じたりイライラする時に甘いものや肉
類などを食べたくなります。
脳内セロトニンは、精神安定作用と食欲コントロール作用を合わせ持ってい
ますので、不足すると「精神的不安定」と「食べたい!」という欲求がよく連
動して現れます。特に甘いものや肉類を食べると一時的にセロトニン分泌が増
え、一時的でも気持ちが落ち着くのでこうしたものへの欲求が強くなると言わ
れています。
女性は男性に比べて元々セロトニンの脳内合成が少ないので、ストレスを感
じるような状況におかれると、脳内セロトニンが枯渇状態になって、情緒不安
定になったり甘いものを中心とした過食へと走る行動が男性よりも強く出る傾
向があります(ですから女性はケーキが大好きなんです!)
。
こうした情緒不安定&食欲亢進状態を落ち着かせて、食べ過ぎを防ぐために
はセロトニン分泌を増やして食欲を抑制することが効果的なのですが、甘いも
のや高カロリーの肉類を食べることで一時的にしのいでいたのでは結局は過食
となり肥満を招いてしまいます。そうしたものを食べることではなく、日常的
な行動でセロトニン分泌増加に効果的、と言われていることを行う必要があり
ます。食べることで気を紛らわせるのではなく、十分に休息し、ストレス解消
- 57 -
&気分転換を上手に行って気持ちを安定・リラックスさせることがセロトニン
分泌増加につながり、過食を防ぐことになるのです。食欲を上手にコントロー
ルするためには気持ちが安定し、充実していることも大切なのです。
これとは別の症状として、片頭痛が起きる前兆として、1 週間前や数時間前に、
”生あくび”が続けて出ることがあります。
なぜ片頭痛の予兆として、生あくびが起きるのかは現在のところまだ詳しく
は解明されていません。あくびは”もともと脳の酸素不足により起こる”とい
う説が有力とされています。酸素不足が起こると、血管は酸素を取り込もうと
拡張します。片頭痛は血管の拡張が原因で起こるので、酸素不足や血流の変化
が、生あくびを発生させ片頭痛のシグナルとなっていることは明らかといえる
でしょう。
セロトニンを分泌する縫線核は、呼吸中枢にセロトニンを送って呼吸量を調
整しています。縫線核は毛細血管中にセンサーを持っていて、血液中の酸素量
などをチェックしているのです。体内の酸素量が不足したときにはセロトニン
の分泌量を増やし、呼吸中枢を刺激します。
したがって、セロトニンが不足すると中枢神経を充分に刺激できなくなりま
す。そうなると酸素不足のままか、より不足した状態におかれることになりま
すので、それならば酸素をたくさん入れなければと、反応して生あくびが出る
のだと考えられています。
あくびの指令は視床下部から出ている
視床下部と言うのは、間脳の一部をなしている部分で、自律神経と内分泌機
能を総合的にコントロールする部分です。脳とは言っても考える脳ではなく、
生命を維持するための脳です。
- 58 -
その一部に室傍核(しつぼうかく)と言う神経細胞の集まりがあります。その
中にある、オキシトシンと言うホルモンを分泌する神経細胞から「あくびをし
なさい」と言う信号が発せられているのです。
ここまでは判っているのですが、その室傍核オキシトシン分泌細胞に信号を
出させるメカニズムがまだ未解明なのです。
オキシトシンは平滑筋の収縮作用がありますので、分娩の際にも働いていま
す。また、心臓や腎臓、膵臓にもオキシトシン受容体があります。
オキシトシンと言うホルモンは別名「幸せホルモン」とも言われています。
中枢神経にも働きかけて幸せな気分をもたらしてくれるのです。ですので、あ
くびをすると言う事はストレスの緩和にも役立つ可能性があります。
酸化ストレス・炎症体質の影響
酸化ストレス・炎症体質になってくると反応性低血糖と言って、食後に血糖
値が上がり過ぎた反動で血糖値が急降下する現象が起こります。
こうした場合、食後であるにもかかわらず空腹感が現れることがあります。
この空腹感に伴ってあくびが出るようであれば、さらに注意が必要です。
あくび・強い空腹感が低血糖の初期症状です。さらに血糖値が下がると、認
識力が落ちて会話が続かなくなったり、無気力になったりします。
急激な血糖値の低下は、体がストレスを感じている状態です。そうなると、
今度はそれを適正なレベルにまで戻そうと体が働き、アドレナリンなどのホル
モンが分泌されます。
すると、体脂肪が分解されて遊離脂肪酸が血液中に放
出されて濃度が高まり、これが活性酸素を発生させて片頭痛の原因となるわけ
です。
もう少し詳しく説明しますと、精神的なストレスによりアドレナリンが分泌
されると、血糖値(血液中のブドウ糖濃度)は上がり、体脂肪も分解され始める
- 59 -
ため体脂肪からの遊離脂肪酸が生成されるようになります。
本来、これらの体の変化は獣(外敵)などに襲われた時に人間が外敵と戦っ
たり逃げたりする時にエネルギー不足を起こさないための緊急的体勢の備えと
して身に付いたものと考えられます。
通常、体脂肪のエネルギーへの利用は空腹時(食事を摂らない時)にエネル
ギーの不足分を補うために生じ、生成した遊離脂肪酸は直ちに体に必要なエネ
ルギーとして使用されます。
しかし、エネルギーとして必要性がほとんどなく、単に精神的なストレスだ
けによる緊張のためだけに生成した遊離脂肪酸は血中の遊離脂肪酸濃度を高め
るだけの結果となります。ストレスから開放されると消費されるあてのない遊
離脂肪酸は一時的に血中の濃度を高めるだけの結果となってしまうのです。
その結果、血小板に直接作用して血小板の凝集を促進することや脳血管壁を
傷つけ活性酸素を発生させるなどの現象を引き起こすと考えられます。
このため、ストレスを受けている時に発症するのではなくストレスから開放
された時に片頭痛を発症しやすくなるのです。
このようにして放出された遊離脂肪酸が血小板に直接作用して血小板の凝集
を引き起こすことにより脳血管内のセロトニン濃度が上昇することで片頭痛を
発症すると考えられます。
または、遊離脂肪酸が脳血管壁を傷つけ活性酸素を発生させ、その活性酸素
が三叉神経や脳細胞を傷つけることにより片頭痛を発症させると考えることも
できます。
「閃輝暗点」の発生機序に関連して
マグネシウム欠乏の観点から
- 60 -
マグネシウム欠乏は、『皮質拡延性抑制』を発生させ、三叉神経刺激へと繋
がり、片頭痛を発生させるといわれています。
米国の研究では、400mg のマグネシウムを毎日補充すれば 3 ~ 4 週間後に片
頭痛の頻度が減るという報告もあります。
マグネシウム欠乏は、細胞の興奮性を増します。その結果、神経の過興奮
不安定が生じ、拡延性抑制を発生させます。片頭痛トリガーが起動します。
現在、この『皮質拡延性抑制』を抑える治療薬は開発されていませんが、片
頭痛患者に非常に効果があり、皮質拡延性抑制を抑制する物質として期待され
ているのが『マグネシウム』です。慢性頭痛を持つ方による、マグネシウムサ
プリメントの摂取例で、劇的に症状が改善したという例も報告されています。
- 61 -
これに対して、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は分子化学の立場から、
以下のように解説されます。
脳神経の刺激伝達はおもにナトリウムの細胞内取り込みにより生じる神経パ
ルス(ナトリウムの取り込みにより、細胞外の陽電荷は瞬時に陰電荷に、内部
に集合している陰電荷は同時に陽電荷に変わるというイオン電荷の逆転が起き
る現象)により行われます。軸索内に於いても髄鞘に生じる放電が伝播され、
その刺激が伝達されます。
神経細胞や筋肉細胞など組織細胞は細胞外にあるナトリウムやカルシウムな
どのミネラルの取り込みと排出によって細胞としての役割を果たします。ナト
リウムは「放電」を起こすことにより神経伝達を可能にし、カルシウムは細胞
を緊張させることによって神経伝達を速め、筋肉に力を与えます。このときマ
グネシウムは細胞の中に居て取り込まれたナトリウムやカルシウムを細胞内か
- 62 -
ら同時にくみ出し、カリウムは同じように細胞内に居て複雑なイオンのバラン
スを整える働きを担っています。
簡潔に、脳の働きいわゆる、情報伝達や脳細胞の緊張や緩慢、興奮や衰弱は
これら神経細胞外にいるナトリウムやカルシウムと細胞内にいるカリウムとマ
グネシウムにより精密にコントロールされています。
このときに、マグネシウムが不足するとどのようなことが起きるでしょうか。
ナトリウムやカルシウムはそれらの取り込み口を開けることで、細胞内外の
イオン濃度差により瞬時に取り込まれます。取り込まれたミネラルは瞬時にナ
トリウムポンプやカルシウムポンプにより排出されることによって正常は働き
が営まれるのですが、ナトリウムやカルシウムの汲み出しはイオン濃度差に逆
らうため大量のエネルギー(ATP)が必要となります。ATPからエネルギ
ーを取り出すために「ATP分解酵素」が必要ですが、このATP分解酵素は
マグネシウムと結びついてはじめて働くことができる「マグネシウム酵素」の
一つであり、マグネシウムが不足するとマグネシウムポンプが充分に働くこと
ができなくなります。そうすると、細胞内のナトリウム濃度が上がり、充分な
放電が起きなる(カルシウムも同様に汲み出されなければ神経細胞の脳過敏が
継続することになる)。脳細胞は疲弊してしまうのです。
また、細胞内のナトリウムイオン濃度が上がると、細胞内の高まった浸透圧
を下げようと体液中の水分が細胞内に移動し、細胞浮腫を引き起こし、さまざ
まな障害を起こすようになります。この状態でさらにナトリウムイオンが取り
込まれますと、水分の移動だけでは細胞内の浸透圧のバランスが取れなくなり、
なんとしてでもナトリウムを細胞内から排出しようとする機能が働き、最終的
には細胞内のカリウムやマグネシウムまで放出されてしまうことになります。
このように必要以上に取り込まれたナトリウムイオンやカルシウムイオンは
細胞の働きや代謝に重大な異常を引き起こすことになるのです。特に血液量が
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制限されやすい海馬近辺で起きれば「てんかん」の発症可能性を増し、後頭葉
で起きれば、「大脳皮質拡延性抑制」を誘引することになります。
このような症状を引き起こす根本的な原因はナトリウムポンプやカルシウム
ポンプの作動不良(ATPからのエネルギー不足)であり、最大の要因はAT
Pの分解酵素に必要なマグネシウム不足ということができます。従って、通常
1日当たり200mg~400mgのマグネシウムを補充することにより、短
時間のうちにこれらの症状はおのずと改善されていきます。
また、マグネシウムを補充せずこの状態を放置していますと、神経細胞内よ
り放出されたマグネシウムは尿とともに排泄されることになりますので、より
脳過敏や片頭痛などを引き起こしやすい状態となります。
脳過敏や閃輝暗点、片頭痛には、その発症要因であるマグネシウムの補充が
先ず優先されるべきなのです。短絡的に、脳過敏に即“てんかん薬”とは、い
かがなものかと言わざるを得ません。
このように、「マグネシウムの関与」から説明されています。
体の歪み(ストレートネック)の観点から
小橋 雄太さんはブログ「イミグラン錠
副作用なしで片頭痛を治しちゃえ」で自ら
の体験を述べておられ、10 年以上、閃輝
暗点を伴う片頭痛に悩まされ、
「体の歪み」
に片頭痛発作の引き金があることに気付い
て、当初は整体師さんの指導を受け、この
指導を毎日忠実に守り・実行することによ
って片頭痛・閃輝暗点を改善されました。
このようにカイロプラクター・整体師・鍼灸師の方々は「体の歪み(ストレ
ートネック)」に対して施術され、閃輝暗点を改善されておられます。
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こうしたことから、カイロプラクター・整体師・鍼灸師の方々からは、トリ
プタン製剤やミグシス・テラナスなどの薬物では治るはずはない、と唾棄され
る現実があるようです。
私は「閃輝暗点」を伴う方々で、頸椎X線検査でストレートネックを呈する
方々に対して、ストレートネックを改善させることによって、閃輝暗点がどの
ようになるのかを検討してきました。
60 歳以上の方で、若い頃、片頭痛の既往のない方で「閃輝暗点」を訴えて
来院された方々を 15 例経験していますが、これらの方々全例にストレートネ
ックを認め、同様に「ストレートネックの改善」のみで、「閃輝暗点」は消失
しています。
これとは別に、若い世代の「閃輝暗点」を伴う片頭痛の場合も、当然「スト
レートネック」を伴っておられる方々に「ストレートネックの改善」を行わせ
ますと、前兆である「閃輝暗点」がまず消失してから片頭痛が改善されていく
という経過をとっています。
このような成績をみますと、頭痛専門医は、閃輝暗点発作時の血流低下の状
態をSPECTもしくはMRIで確認されますが、これは”閃輝暗点発作時”
の結末を観察しているに過ぎないと考えるべきもので、あくまでもその引き金
となるものは、頸部の異常な筋緊張”「体の歪み(ストレートネック)」”にあ
るものと考えるのが妥当のようです。
しかし、頭痛専門医は、頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」はエビデ
ンスなし、とされる以上は、このような論点に至ることはあり得ないようです。
発作後後症状としての”尿量が増加”の発生機序
マグネシウムイオンは細胞内小器官(ミトコンドリア)の膜構造ならびに細
胞膜構造において膜の安定性を保つ役割をしています。
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細胞膜にはミネラルイオンが通過でき
る小さな「穴」があり、これを使って必
要なミネラルを自在に出入りさせること
で細胞内のミネラルイオン濃度の調整し
ています。ミトコンドリアには、細胞内
のカルシウムイオン濃度を適正に調整す
る作用があります。
マグネシウムイオンが不足すると細胞内小器官(ミトコンドリア)の”膜構
造ならびに細胞膜構造”のイオンポンプの力が弱くなり、細胞内小器官である
ミトコンドリア膜の透過性も亢進し、ミトコンドリア内に入り込んだカルシウ
ムイオンは、ミトコンドリア外へ出
ていけません。カルシウムはミトコ
ンドリア内に少しずつ蓄積してきま
す。ミトコンドリア内カルシウムイ
オンの増加が起こります。先程述べ
たように、それを薄めるために細胞
浮腫、つまり水ぶとりの状態になり
ます。
細胞内のカルシウムイオン濃度が
異常に高くなり過ぎますと、ミトコンドリアの調整機能は破壊されてしまいま
す。調整機能が壊れたミトコンドリアは死滅してしまいます。
ミトコンドリアのエネルギー産生やミトコンドリア自体の生死には、ミトコ
ンドリア内のカルシウムイオン濃度が強く関係していて、カルシウムイオン濃
度は片頭痛の発症にも非常に大きな原因となります。
このようになった細胞に、適量のマグネシウムが供給されると、溜まってい
たカルシウムイオンなどが排出され、それにつづき、水分も排出されます。
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このように、発作が治まる段階で、マグネシウムが補填されることによって、
薄めるために生じた細胞浮腫、つまり水ぶとりの状態が改善されることに伴
って尿量が増加することになります。
つまり、発作中にマグネシウムがホメオスターシスという生体の恒常性維持
機能によってマグネシウムが補填され、尿量が増加してきます。
以上のように、片頭痛をミトコンドリアの機能低下による頭痛と考えさえす
れば、すべてが説明がつくことになります。
すなわち、ミトコンドリアの働きが悪ければ、同時にセロトニン神経系の機
能低下が起きています。
基本的に、片頭痛発作時には、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質が減少あ
るいは機能が低下しています。
ここに先程の述べたようなストレスや諸々の生活習慣の問題点が加わること
によって「脳内セロトニンの低下」がもたらされ、このために予兆が引き起こ
されることになります。
この脳内セロトニンの低下は、発作前から既に存在し、発作が治まった後も
しばらくの間は持続し、後症状として気分の変調を残すことになります。
ここに過剰に産生された活性酸素が引き金になって、片頭痛発作が引き起こ
され、発作中にマグネシウムがホメオスターシスという生体の恒常性維持機能
によってマグネシウムが補填され、尿量が増加してきます。
専門家は決して、片頭痛をミトコンドリアの機能低下による頭痛と考えない
がために、冒頭で述べましたように疑問に思われるだけのことです。
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