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ヌートリア被害対策マニュアル

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ヌートリア被害対策マニュアル
ヌートリア被害対策マニュアル
平成 22 年 12 月
岡 山 県
はじめに
西日本を中心に生息地が拡がっている南米原産の外来種ヌートリアは、繁殖能力が高く、農作
物や生活環境への被害を発生させ、平成 17 年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る
被害の防止に関する法律(外来生物法)」において、特定外来生物に指定されています。
岡山県では、県内のほぼ全域に生息し、水生植物等の食害、畦や堤体の損壊など多岐にわたる
被害が確認されており、特に農作物への被害が深刻です。その対策として、県内各市町村で有害
鳥獣駆除班による捕獲活動を実施してきましたが、被害を減少させるには至っていない状況です。
そこで、県では、効果的な被害対策を検討するために、国の緊急雇用創出事業を活用し、平成
21~22 年度にヌートリアの生息実態調査と集中捕獲事業を実施しました。
この事業では、要望のあった県内の 24 市町村において生息・被害状況の調査を行い、22 市町
村で捕獲を行いました。その結果、約 4,600 箇所においてフィールドサインを確認し、約 5,000
頭を捕獲することができました。ヌートリアの生息域は、河川、水路、ため池、休耕田、海水の
混ざる河口域、渓流と広範囲に及んでおり、また地域によっては、エサとなる農作物や植物等の
生育状況に応じて季節毎に活動域が変化することなどがわかりました。
本マニュアルは、今回の調査及び捕獲作業において得られた成果を、生息調査、防護対策、捕
獲方法等に分けてまとめたものです。ヌートリアによる被害の発生する県内各地域の皆様に、被
害の状況に応じた対策を進めるうえでの参考としていただければ幸いに存じます。
終わりに、事業の実施に当たり、
(社)岡山県猟友会、岡山理科大学動物学科小林秀司准教授を
はじめ、各地域の多くの皆様に御協力いただきましたことを心からお礼申し上げます。
平成 22 年 12 月
岡山県環境文化部長
福田
伸子
目
次
は じ め に ....................................................................................... 1
本 マ ニ ュ ア ル の 目 的 と 活 用 方 法 ....................................................... 4
1 . ヌ ー ト リ ア の 特 徴 .................................................................... 6
1-1. 形態 ..................................................................................................................................... 7
1-2. 分布状況.............................................................................................................................. 8
1-3. 生態 ..................................................................................................................................... 9
1-3-1. 生息環境 ....................................................................................................................... 9
1-3-2. 食性 ............................................................................................................................ 10
1-3-3. 行動特性 ..................................................................................................................... 10
1-3-4. 繁殖 ............................................................................................................................ 13
1-3-5. フィールドサイン(生活痕跡) ................................................................................. 14
1-4. これまでの被害対策状況................................................................................................... 15
コラム1 外国でのヌートリア駆除事例 .............................................................................. 16
2 . ヌ ー ト リ ア に よ る 被 害 ............................................................ 17
2-1. 農作物の被害 .................................................................................................................... 17
2-1-1. 被害がみられた作物 ................................................................................................... 17
2-1-2. 食害の状況 ................................................................................................................. 18
2-1-3. 季節による作物被害の変化 ........................................................................................ 19
2-2. その他の被害 .................................................................................................................... 20
2-2-1. 畦や堤防への被害....................................................................................................... 20
2-2-2. 野生動植物への被害 ................................................................................................... 21
2-2-3. 伝染病の媒介 .............................................................................................................. 22
3 . 被 害 対 策 ............................................................................... 23
3-1. 効果的な被害対策手法 ...................................................................................................... 23
3-1-1. 被害対策の基本方針 ................................................................................................... 24
3-1-2. 捕獲駆除の効果と捕獲方針 ........................................................................................ 25
コラム2 地域間の連携 ....................................................................................................... 26
3-1-3. 効果的な被害対策方法の組み合わせ(例) ............................................................... 28
3-1-4. 被害対策の実施体制 ................................................................................................... 30
3-2. 対策方法1;生息状況を把握する .................................................................................... 32
3-2-1. 被害対策に必要な情報 ............................................................................................... 32
3-2-2. 調査方法 ..................................................................................................................... 33
3-3. 対策方法2;ほ場への侵入を防ぐ .................................................................................... 40
3-3-1. 県内の対策状況 .......................................................................................................... 40
3-3-2. 除草が必要な場所....................................................................................................... 41
3-3-3. 経済的かつ効果的な侵入防止柵とは .......................................................................... 42
3-4. 対策方法3;捕獲によって生息数を減らす ...................................................................... 43
3-4-1. ヌートリアの捕獲に必要な手続き.............................................................................. 43
3-4-2. 捕獲駆除の方法 .......................................................................................................... 49
3-4-3. 捕獲時の注意事項....................................................................................................... 58
3-5. 今後の被害対策に向けて................................................................................................... 60
用 語 解 説 ..................................................................................... 62
ヌ ー ト リ ア の 捕 獲 に 係 る 申 請 様 式 お よ び 記 入 例 ............................... 64
1. 鳥獣保護法 ........................................................................................................................... 64
2. 外来生物法 ........................................................................................................................... 66
参 考 文 献 ..................................................................................... 75
関 係 機 関 連 絡 先 ........................................................................... 76
本マニュアルの目的と活用方法
本マニュアルは、岡山県内のヌートリアによる農作物や環境への被害の軽減に資することを目
的に、被害対策の現場に携わられている市町村職員、猟友会員、農業協同組合職員、さらには一
般の農業従事者などに活用していただくことを想定し作成したものである。
本マニュアルでは、平成 21,22 年度に野生鳥獣被害対策事業(緊急雇用創出事業)として実施
された、ヌートリアに関する生息実態調査事業および集中捕獲事業において得られたデータを活
用している。既存の文献による知見の上に、こうした地元の現場から得られた情報を加えること
で、ヌートリアの生態や対策方法について、県内の具体的な最新の状況をふまえた解説を行うこ
とが可能となった。
次項に、本マニュアルの構成をフローで示す。大項目の1.と2.は、ヌートリアに関する基
礎的な内容であり、3.は、実際に被害対策を行うための応用的な内容となっている。3.につ
いては、読み手の立場によって参照したい情報が異なると思われるので、必要に応じて読み分け
て使用されたい。
4
1.ヌートリアの特徴
…ヌートリアはどんな生き物?
6p
…被害の種類と特徴
17p
2.ヌートリアによる被害
3.被害対策
ヌートリアがどこに
いるか調べたい
…農作物被害への対策
23p
ひとまず柵などで
防ぎたい
直接駆除してヌートリア
を減らしたい
3-4.対策3:
捕獲によって生息数を減らす
3-4-1. ヌートリアの捕獲に必要な手続き
3-2.対策1
3-3.対策2
生息状況を
ほ場への侵入
把握する
を防ぐ
・被害対策に必要
な情報とは?
・有害駆除では対応困難
・農家が直接駆除したい
・有害駆除で対応可
1) 鳥獣保護法
・侵入防止柵
43p
2) 外来生物法
43p
46p
3-4-2. 捕獲駆除の方法
49p
・除草
・調査方法
使用する箱わな
49p
季節や地域に応じた捕獲
使用する餌
50p
錯誤捕獲の対応
55p
箱わな設置方法
50p
殺処理方法
56p
箱わな見回・設置期間
最終処分方法
53p
3-4-3. 捕獲時の注意事項
32p
54p
57p
58p
40p
3-1.効果的な被害対策手法
生息状況の把握
3-1-1. 被害対策の基本方針
24p
3-1-2. 捕獲駆除の効果と捕獲方針
被害対策
25p
休耕地の除草
3-1-3. 効果的な被害対策方法の組み合わせ
3-1-4. 被害対策の実施体制
モニタリング
28p
侵入防止柵の設置
捕獲駆除
30p
本書の構成
5
(ヌートリアの
隠れ場所をなくす)
(ヌートリアの
ほ場への侵入を防ぐ)
(加害個体を駆除する)
(地域の生息数を減らす)
1.ヌートリアの特徴
1.ヌートリアの特徴
分類
哺乳類綱 齧歯目 ヌートリア科
学名
Myocastor coypus
別名
沼狸(しょうり)
英名 nutria または coypu
現在、国内には多くの外来生物*1が生息しているが、一般的には、遠く異なる地域から
たどり着いた生物が、新たな環境に定着することは容易ではない。異なる自然環境、在来
種との競合、天敵の存在、近親交配による遺伝的劣化など、さまざまな障害が存在するか
らである。
そのような条件のなかで、南米原産の外来生物ヌートリアは、高い環境適応力と繁殖力
を持っており、有力な競合種や天敵が日本にいなかったこともあいまって、西日本を中心
とした多くの地域で完全に定着している。平成 17 年には、農業や生態系に被害を及ぼすも
のとして、外来生物法に基づく特定外来生物*2 に指定された。
半水棲(水辺の湿潤な環境を好む習性)のヌートリアは、大河川が多い地域、水路網が
発達した地域、ため池が多い地域において、定着しやすいため、そうした地域では同時に
被害を受けやすい。それら条件に一致する岡山県も例外ではなく、生息数は全国一とみら
れ、農業被害も多大となっている。
ヌートリアとはどのような生物なのだろうか。本種の生息数や農地での活動をコントロ
ールし、農業被害を最低限に抑えていくためには、まず、ヌートリアという生物の特徴に
ついて理解しておく必要がある。本節では、体の特徴、分布、生態および日本や海外での
対策状況などについて説明する。
6
1.ヌートリアの特徴
1-1. 形態
ヌートリアの体の大きさ(集中捕獲事業のデータから)
形態
オス♂
メス♀
頭胴長
35.0~63.0cm (47.3)
35.0~62.0cm (46.4)
尾長
25.1~49.5cm (38.5)
26.7~46.4cm (37.6)
体重
0.9~8.8kg (4.3)
1.0~9.4kg (4.1)
(
頭胴長
尾長
)内は平均値
全身は茶色、尾は黒くて長く毛がまばら。前歯(門歯)がオレンジ色で非常に長い。水辺の生
活に適応し、後ろ足に水かきがあるほか、水中でも哺育できように乳頭は脇腹の背中側について
いる。
ヌートリアの体の特徴
全身横面
全身腹面
前歯(門歯)
尻尾
後ろ足
背側面にある乳頭
7
1.ヌートリアの特徴
1-2. 分布状況
【原産地】
南アメリカ(チリ、アルゼンチンからボリビアやブラジル南部)
【人為分布】
北アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、および日本や中国などの極東アジアに広く分布し、アフ
リカの一部にも分布している。
【国内への定着の経緯】
飼育が容易で成長が早く、防寒用の毛皮として最適であったため、多くの国が軍用としてそ
の導入を図った。日本でも 1939 年、フランスから軍用毛皮として 150 頭が輸入され、軍が民間
での飼育を奨励したため、1944 年頃には全国で 4 万頭が養殖されていた。また 1950 年代に起
こった毛皮ブームの時期にも多くが飼育された。
岡山県でも 1955 年ころまで各地で飼育されていたが、終戦やブームの収束とともに需要がな
くなり、毛皮価格が暴落したため、多くの個体は野外へと放たれ、帰化・定着していった。そ
の後、児島湾が締め切られ淡水湖化されたことにともない県南部で生息条件に恵まれ、生息数
が大きく増加したと考えられている。
【国内の分布状況】
過去には、北海道から九州地方にいたる広い範囲から記録がある。現在は、愛知、岐阜、京
都、大阪、兵庫、鳥取、島根、岡山、広島などの各県で生息数が多い。関東以北ではほとんど
生息がみられなくなっている。
【県内の分布状況】
ほぼ全域に生息している。県南部はもちろん、北部の新庄村や真庭市蒜山地区(旧川上村な
ど)にいたるまで分布し、同時に被害も発生している。ただし、津山市阿波地区(旧阿波村)
など、一部の高標高地域では生息数が少ないところもある。
平成 21 年~22 年度の間に実施されたヌートリア集中捕獲事業では、ほぼ県内全域を対象に、
約 1 年間で 5,002 頭のヌートリアが捕獲された。捕獲結果と河川の延長距離やため池の個数を
もとにした大まかな試算により、県内の生息個体数は 90,000 頭以上に上ると推測された。
8
1.ヌートリアの特徴
1-3. 生態
1-3-1. 生息環境
河川、水路、湖沼、ため池などの流れが緩やかな水域の水辺に生息する。県内では、主に河川
やため池に生息するが、海水の混じる河口域や海岸近くの水路、川幅 2m 以下の渓流に至るまで、
極めて広範な水域で生息が確認されている。また、水域ではなく雑草の生い茂った休耕地を住み
かにしている例も多数みられる。
土を掘って巣穴を作ったり水辺の草を食べるため、河川やため池の土羽護岸となっているとこ
ろに好んで生息する。コンクリートなどで護岸整備された水路などでは生息しにくいが、移動ル
ートや水田等とつながる排水管を住みかとして利用することがある。
ヌートリアが生息する多様な水辺環境
汽水水路
海面
河川中・下流域
海岸近くの水路
山間の渓流
ため池
休耕地
コンクリート水路の排水管
9
1.ヌートリアの特徴
1-3-2. 食性
草食性で、イネ科を中心に陸上や水中にある植物の葉や茎、根茎などを好んで食べる。ドブガ
イやザリガニなどを捕食することもある。県内では、50 種あまりの農作物が被害に遭っており、
極めて広範な食性をもつ(詳細は、「2. ヌートリアによる被害」(17 ページ)を参照)。
1-3-3. 行動特性
【泳ぎが得意】
かなりの距離を泳いで移動し、数分間以上も潜水することが知られている。
【夜行性】
基本的には夕方から夜間に活動する。昼間は巣穴で休んでいることが多いもののしばしば活
動しているのが目撃され、とくに冬場は体温を上げるため、陸地で日光浴をしているのがよく
見られる。
ヌートリアの行動の様子
泳いでいる様子
草を食べている様子
日光浴をしている様子
【一夫多妻】
児島湖で行われた研究によると、メスの行動圏は巣穴を中心に形成され、メス同士はすみわ
けている。オスの行動圏はメスの約 3 倍あり、1 頭のオスは 2~3 頭のメスの行動圏にまたがっ
ており、これらのメスと繁殖を行う。すなわち、一夫多妻性である。また、オス同士の行動圏
も重複している。
ただし、様々な水辺環境に生息するので、児島湖とは異なる小規模な河川や山間等の周辺水
域から隔離されたため池などでは生活様式が異なる可能性もある。
10
1.ヌートリアの特徴
【行動範囲】
基本的に水辺を離れることがほとんどなく、危険を察知すると水中へ逃げ込む。ただし、国
内の生息地に有力な天敵(大型の肉食獣や猛禽類)がいないためか、逃げ込める水域がないよ
うな場所にも現れ、前述のように草地を住みかとしたり、細い水路などをつたい生息場所の水
辺から 100m 以上離れた場所で活動することもある。
水辺から離れた環境での確認例
水の涸れた水路
水域から離れた草地
季節によって水辺環境や餌となる植物の生育状況が変わる場合、それに応じて活動場所を変
えていると考えられる。冬場は安定した水域がある河川に集まり、夏場は水田や水路に広く拡
がっているものと推測される。
11
1.ヌートリアの特徴
【運動能力】
水中での巧みな泳ぎに比べると陸上での動きは鈍く、成獣が全力で逃走する速さは、人が十
分に追いつける程度である。しかし、県のヌートリア関連事業における研究(岡山理科大学)
により、力が強く、障害物をよじ登って乗り越えたり地面を掘る能力がかなり高いことや、高
い洞察力と学習能力を備えることも分かった。
以下に示すように、半水棲でありながら陸上で餌を探索し手に入れる能力に長けた動物とい
える。
・ 頭胴長のおよそ 1.4 倍までの高さの直壁を乗り越える(←柵に前足を掛けジャンプすることな
く柵の上まで体を引き上げることができる)
・ 隙間に入り込んでいく力が強い(←柵を押しのけ破壊してでも侵入する)
・ 洞察力が高い(←柵に突破できそうな箇所がないか慎重に探索し、発見すると集中的に攻撃す
る)
・ 学習能力が高い(←数時間かけて突破した柵を、2 回目は数分でクリアした)
室内実験で観察された柵を突破するヌートリアの行動
柵をよじ登る行動
柵の下をくぐり抜ける行動
12
1.ヌートリアの特徴
1-3-4. 繁殖
【繁殖時期】
決まった繁殖期はなく、年に 2~3 回程度出産する。妊娠期間は約 4 ヵ月である。集中捕獲事
業の結果では、5 月ころにメスの妊娠割合が高かったことから、春先に交尾して初夏ころ出産
し、餌の多い夏場に子育てをする場合が多いと推測される。
【産仔数】
平均 5~7 頭。
【発育と年齢】
生後 3~7 ヵ月ほどで性成熟するとされ、頭胴長が 35cm を越えると概ね成獣と考えてよい。
飼育下では、生後 4 ヵ月の体重が 1kg 前後、7 ヵ月ころは 2kg 前後という記録がある。
また、歯の臼歯の発達段階や、前臼歯の表面に形成されるセメント質の年輪によって、年齢
がある程度推測できる。寿命は最長約 10 年とされる。
妊娠したメスと幼獣
妊娠したメス
生後間もない幼獣
13
1.ヌートリアの特徴
1-3-5. フィールドサイン(生活痕跡)
ヌートリアは、足跡、フン、巣穴、通り道、食痕など様々な生活痕跡(フィールドサイン)に
特徴があるため、これらによって生息を確認することができる。
ヌートリアのフィールドサイン
足跡 前足、後ろ足とも 5 本指。
後ろ足は大きく、水かきの跡が残
る。やや似る水鳥の足跡は、3~4
本指。
フン 3~5cm くらいのウインナー
のような形。新しいフンは表面が
つるりとしている。
巣穴 水際付近に直径十数 cm 程の
巣穴を掘る。入口は陸上にあるが
水没する場合もある。新しい穴の
入口は出入りした跡が残る。
通り道 岸を上り下りした跡がよ
く目立つ。草の上を通った後に泥
が残る。高く茂った草地では直径
10~20cm の筒状のトンネルになる
(手足が短く背が低いため、タヌ
キやイノシシに比べて小さく上が
塞がっている)。
食痕 マコモやショウブなどの抽
水植物の根際が食べられ散らかっ
ているのがよくみられる。
14
1.ヌートリアの特徴
1-4. これまでの被害対策状況
【全国】
農業被害等を生じることから問題になっており、2005 年 6 月に「特定外来生物による生態系
等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」において特定外来生物に指定された。平成
22 年 12 月時点で、岐阜県から島根県や香川県にかけての 74 の市町村や各種団体が、同法に基
づく防除の確認や認可を得て捕獲を行っている。
環境省の鳥獣統計をみると、鳥獣保護法*4 に基づく有害鳥獣捕獲*5 および外来生物法に基づ
く防除による駆除頭数は、毎年増加する傾向にある。
平成 16 年度から 20 年度までの国内におけるヌートリア捕獲頭数※1
16 年度
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度※2
捕獲
狩猟
397
466
1,058
1,141
964
頭数
有害鳥獣捕獲
4,067
4,063
4,118
4,687
6,048
207
517
1,600
外来生物法
その他※3
0
8
21
0
0
合計
4,464
4,529
5,404
6,345
8,612
※1 環境省の鳥獣統計による
※2 暫定版(平成 22 年 12 月現在)
※3 学術研究目的など
【岡山県】
岡山県では、昭和 30 年代からヌートリアの駆除が行われており、昭和 48 年以降は狩猟を含
めて概ね 2,000 頭前後が毎年捕獲されている。平成 16~20 年度 5 年間の平均捕獲頭数は、約
2,400 頭であり、全国で最も多い。また、県による集中捕獲事業によって、平成 21・22 年度に
合計 5,002 頭が捕獲されており、これが反映され平成 21 年度の捕獲頭数は 6,000 頭あまりに上
った。
しかし、このように多くの個体が駆除されているにもかかわらず、農作物等の被害額は、近
年は 2,000 万円前後で推移しており、あまり減少していない状況である。
平成 16 年度から 21 年度までの岡山県におけるヌートリア捕獲頭数と被害額
16 年度
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度
21 年度
捕獲
狩猟
694
775
791
510
663
846
頭数
許可※
1,706
1,391
1,648
1,856
1,943
2,709
15
2,527
外来生物法
合計
被害額(千円)
2,400
2,166
2,475
2,366
2,621
6,082
18,618
21,760
19,319
22,424
17,261
17,031
※主に有害鳥獣捕獲による捕獲許可
15
1.ヌートリアの特徴
コラム1 外国でのヌートリア駆除事例
【イタリア】
・6 年間で 15 億 7 千万円の被害
→ 駆除費 18 億 9 千万円を投入し、6 年間で 22 万頭を駆除
→ しかし、分布域の拡大と被害の増加は防げなかった
【イギリス】
・11 年間で 6 億 7 千 5 百万円を投入し、根絶に成功
→ 異常気象による寒波が原因との説もある
なお、国内の分布やイギリスでの例で分かるように、ヌートリアは寒冷な気候では生息
しにくいと考えられる。スカンディナビア半島の諸国では、本種を狩猟対象にした地域も
あったが、いずれも厳冬期を生き残れず、絶滅している。
16
2.ヌートリアによる被害
2.ヌートリアによる被害
県内で毎年発生している 2,000 万円前後の農業被害額が顕著に示しているように、ヌー
トリアが侵入・定着したことによる大きな問題は、農作物被害である。本節では、ヌート
リアがどのような作物に対し、どのように被害を与えているのか、これからの被害対策に
つながる情報を見出す視点で整理し、説明する。また、農作物以外の被害の発生状況につ
いても触れる。
2-1. 農作物の被害
2-1-1. 被害がみられた作物
○ 50 種以上の作物が被害に・・・ヌートリアは何でも食べる
生息実態調査事業によって県内では、穀物 3 種類、野菜 39 種類、果物 6 種類のほか、花卉や牧
草など、50 種類以上の農作物に対する被害が確認された。なかでも、イネの被害がとくに多い。
野菜では、ダイコン、ニンジン、ハクサイ、カボチャなどが多く被害を受けている。また、タマ
ネギはヌートリアは食べないという意見が一部ではあったが、実際には被害が確認されている。
このように、ヌートリアは極めて広範な植物を食べるので、あらゆる作物が被害を受ける可能
性があると考えておいたほうが良さそうである。
ヌートリアによる被害がみられた主な農作物
作物の区分
穀物
野菜※
果物
主な作物名(被害の多い順)
イネ、ムギ、ソバ
果菜類
カボチャ、ナス、スイカ、キュウリ、トマト、ブロッコリー、
イチゴ、トウモロコシ、ダイズ
葉・茎菜類
ハクサイ、キャベツ、ホウレンソウ、レタス、ネギ
根・茎菜類
ダイコン、ニンジン、サツマイモ、ジャガイモ、タマネギ、
レンコン
モモ、カキ
※野菜の区分は、収穫する部位の違いにより行った;果菜類(実),葉菜類(葉),茎(茎),根菜類(根)
17
2.ヌートリアによる被害
2-1-2. 食害の状況
○ 苗や実など、やわらかくおいしい部位が食害を受けやすい
ヌートリアによる被害の状況をみると、作物種による違いはあるものの、植えてまもない苗や
新芽と、収穫まえの実や葉に対する食害の例が多い。
例えば、イネでは、県内の主な田植え時期である 6 月を中心に、株がまだ小さく葉の柔らかい
5~7 月の被害が多く、次いで出穂期の 9 月にも多くの被害がみられる。このような傾向は野菜で
もみられ、サツマイモのような根菜やイチゴのような果菜においても、稔ったイモや実はもちろ
ん、それらがまだ生育していない時期に苗や葉が食害を受けることがある。
このように、作物種を問わず植えて間もない苗や稔りの時期の収穫部位が食害を受けやすい。
ヌートリアが柔らかい新芽や養分が集中する実などを好むためと考えられる。
140
120
被害確認件数
100
80
60
40
20
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
確認時期
月別のイネの被害確認件数
イネの苗の被害状況
収穫部位の被害状況(ダイコン)
18
2.ヌートリアによる被害
2-1-3. 季節による作物被害の変化
○ かんがい期はイネ、非かんがい期は野菜の被害が多い
ヌートリアは、広範な作物に対して、苗や実などいろいろな生長段階を食害するので、その時
々で身近にある食べやすい物、栄養価の高い物が被害を受けやすいと考えられる。また、基本的
には野生の植物を食べているため、作物被害の発生量は自然界の餌の量にも左右される。植物が
枯れてなくなる晩秋から春にかけては、餌を求めて農地に侵入してくることが多くなると思われ
る。
実際に農地では、水田のかんがい期である 5 月から 10 月にかけては、栽培面積が最もに大きい
イネに対する被害が大半を占め、カボチャやナスなどの夏野菜に対する被害も発生する。イネが
収穫され水田に作物のない非かんがい期になると、畑において冬野菜のダイコンやハクサイなど
への被害が増大する。
このような作物の栽培状況やヌートリアの食性をふまえると、栽培面積の大きなイネと、餌の
少ない冬場の野菜とが、本種にとって重要な餌資源であり、被害も大きくなりやすいと考えられ
る。
160
その他
果物
根・茎菜類
葉・茎菜類
果菜類
穀物
140
被害確認件数
120
100
80
60
40
20
0
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
確認時期
季節別の作物被害確認件数
19
9月
10月
11月
12月
2.ヌートリアによる被害
2-2. その他の被害
ヌートリアによる農作物以外の被害については、報告例は少ない。一般住民のなかには、ヌー
トリアがアユなどを食べて漁業被害を与えていると言う人もいるが、主に草食である本種が生き
た魚を捕らえるという正式な記録はなく、そうした状況は考えにくい。そのほかには、構造物な
どに掘られた巣穴や、希少な生物への食害がわずかに知られている。また、衛生上の被害(伝染
病やフンによる被害など)については、今のところ顕在化しておらず、その危険性について調べ
られた例は国内にはほとんどない。
以下に、農作物の食害以外で知られている主な被害例を示す。
2-2-1. 畦や堤防への被害
海外では、ヌートリアが巣穴を掘ることによって河川の堤防などが決壊した事例が存在する。
国内でも河川やため池の至るところに巣穴は掘られているが、治水上の問題が生じるほどの被害
は発生していない。しかし、ヌートリア関連事業において、水田と水路の間の畦がヌートリアに
よって穴だらけになっている状況や、ため池の堤体に作られた巣穴によって漏水が懸念される状
況などが確認されている。これらは、人力で復旧できる範疇を越えた被害になる可能性もあるの
で、程度によっては注意を要する。下に示す写真のような場合には、放置することなく関係機関
に報告し、修復しておくことが望まれる。
水田の畦の破壊状況
ため池の堤体に作られた巣穴
20
2.ヌートリアによる被害
2-2-2. 野生動植物への被害
ヌートリアの侵入・定着によって、広い地域で生態系のバランスに影響が生じたというような
事例はない。しかし、ヌートリアにより貴重な種を含む複数の動植物が被害にあった例がある。
希少な植物としては、ミズアオイ、ミクリ類、オニバスが食害されたという報告がある。また、
水辺の生態系の基盤となるヒシ、マコモ、ガマ、ヨシなどの植物を大量に食べたり、踏み荒らし
たりもするので、希少な水生動物であるベッコウトンボの生息場が劣化した事例もある。その他
の魚介類や水生昆虫類の生息にも影響を与えている可能性があり、より閉鎖的な環境であるため
池や小河川などにおいては、顕著になると考えられる。また、淡水に生息する二枚貝のうち、岡
山県自然保護センターのため池や七区貯水池等ではドブガイが食害を受けた事例もある。
ヌートリアが及ぼす野生動植物への影響の例
被害対象
植物
水生
動物
被害の内容
希少な種
・岡山県希少野生動植物保護条例*6 における指定希少野生動植物であり
岡山県レッドデータブック*7 で絶滅危惧Ⅰ類に記載されているミズア
オイへの食害
・岡山県レッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に記載されているミクリ類
やオニバスへの食害
全般
・ため池で優占していたヒシやマコモの減少
・その他ガマやハスなどの水辺の植物の減少
希少な種
・種の保存法で国内希少野生動植物種*8 に指定されているベッコウトン
ボの生息環境であるヨシ群落が減少
全般
・水生植物の減少による魚介類や水生昆虫類の生息環境の減少
・二枚貝のうち、ドブガイの食害
(ドブガイは、希少な種を多く含むタナゴの産卵母貝であり、間接的な
がら貴重な種へ被害を与えている可能性は否定できない。)
21
2.ヌートリアによる被害
2-2-3. 伝染病の媒介
ヌートリアは、河川や水路からほ場に至る農村環境に多く生息しており、岡山県では野生の中
型哺乳類としては最も身近に生息する種となっている。農業生産をはじめとする多様な場面で人
との接点があることから、ヌートリアが媒介する人獣共通感染症の保有状況が懸念がされる。こ
かんてつ
れまでには、岐阜県で肝蛭*9 が確認された例があるのみで、本種が人獣共通感染症の媒介者とし
て注目されたことはない。
一方、主要な人獣共通感染症の一つであるレプトスピラ Leptospira*10 は、保菌動物の尿などか
ら感染し、河川でのレジャーや農作業中が原因と推測される複数の感染例がある。ヌートリアが
媒介者となりうる病原菌と考えられるため、集中捕獲事業において、捕獲個体を用いてレプトス
ピラの保有状況の調査が行われた。その結果、多くの市町村から感染した形跡のある個体が確認
された。しかし、その割合は他の野生哺乳類と比べると低いものであった。
このことから、県内でもヌートリアが媒介者となりレプトスピラに感染する危険性が、ゼロで
はないことが分かった。ただし、県内でレプト
スピラ症の発症例は近年確認されておらず、ま
野生動物
家畜、伴侶動物
た有効な治療方法もあることから、取り立てて
(齧歯類など)
(ウシ、ブタ、ネコ、イヌなど)
危機的な状況ではないと考えられる。捕獲作業
水圏環境
時などヌートリアに接する際には、伝染病を保有
(河川、沼、水田、下水など)
しているかも知れないという認識を持ったうえ
ヒト
で行動する必要がある。
水辺における人獣共通感染症の感染経路
他の動物とのレプトスピラ保有率の比較
22
3.被害対策
3.被害対策
県内の農業の現場では、ヌートリアによる被害を減らすために、ほ場への侵入を防ぐ障
壁を設けることや、加害個体を駆除することなどが一般的に行われている。また、生息地
周辺で休耕地などを除草することも、隠れ場所をなくし被害を抑制する効果があると認識
されている。こうした「侵入防止柵」、「捕獲駆除」、「除草」などの対策方法は、すでに日
常的に行われており、ヌートリアの被害対策として有効となりうるが、農業従事者等が必
要に応じて個別に行っている小規模な場合がほとんどである。
本節では、県によるヌートリア関連事業の成果をふまえ、各方法の効率的な組み合わせ
や、地域間の連携など、より効果を引き上げるための総合的な被害対策手法について検討
する。次いで、各対策について有効と考えられる具体的な実施方法を解説する。また、こ
れらの対策を効果的に行うためには、ヌートリアの生息実態を事前に把握しておくことが
望ましいため、その調査方法についても説明する。
3-1. 効果的な被害対策手法
ヌートリアに対する侵入防止柵の設置や捕獲作業には、相応の費用や労力が必要である。しか
しヌートリアによる被害発生が多少なりとも予測できれば、事前に対策を行い、最小限の手間で
被害発生を低く抑えることができると考えられる。また、計画的な駆除により個体数調整が可能
になれば、被害が抑えられ、対策にかかる労力が省かれると考えられる。
これまでに、ヌートリアの生息環境や季節的な行動生態、それらを調査し把握する方法、ある
いは侵入防止や捕獲などの対策方法などといっ
■ヌートリアの生態
た、多方面にわたる情報が蓄積されつつある。
知見の収集
これらの知見を整理し、季節的なヌートリアの
■生息状況の把握方法
生息状況に応じて調査と対策を効果的に組み合
わせることで、効率的に被害を抑えられる可能
■被害対策手法
性があり、それを探るのが本マニュアルの目的
侵入防止柵
の一つでもある。
除草
捕獲駆除
効果的な組み合わせ
被害の抑制,対策労力の最小化
効果的な被害対策の実施フロー
23
3.被害対策
3-1-1. 被害対策の基本方針
○ ヌートリアの生息状況を日常的に把握しつつ、除草・侵入防止柵・捕獲駆除を適
切に組み合わせて、被害を最小限に、あるいは未然に防ぐ
被害対策を効率的かつ効果的に行うためには、ヌートリアの生息状況を把握することが重要で
ある。ヌートリアのフィールドサインを見つけることは、慣れれば難しくないので、捕獲作業の
際や被害発生時期だけでなく、普段の農作業や野外を歩く際などにもヌートリアの生息状況に気
を配り、必要に応じて記録しておくことが望ましい。その上で、ヌートリアによる被害の発生に
備えた調査や除草作業を行い、被害が予測される箇所あるいは被害が発生した箇所において、侵
入防止柵の設置や捕獲駆除を行う。また、地域のヌートリア生息数を減らし被害を未然に防ぎた
い場合などには、河川やため池などの生息地を調査し、積極的な捕獲駆除を行う。
生息状況の把握
被害対策
モニタリング
休耕地の除草
侵入防止柵の設置
捕獲駆除
(ヌートリアの
隠れ場所をなくす)
(ヌートリアの
ほ場への侵入を防ぐ)
(加害個体を駆除する)
(地域の生息数を減らす)
生息状況調査をベースにした被害対策の流れ
なお、対策方法の中でも有力な手段である捕獲駆除においては、外来生物法による防除が大き
な効力を発揮しうるので、積極的に取り組んでいくことが望まれる。防除をはじめとした複合的
な活動を進めていくためには、これらの統括・管理が必要となるため、その機能を期待される各
自治体の役割が重要となってくる。
以下に、捕獲駆除の実施方針や、総合的な被害対策を行うための具体的な対策手法の組み合わ
せ、および対策の実施において求められる体制づくりについて解説する。
24
3.被害対策
3-1-2. 捕獲駆除の効果と捕獲方針
1) 捕獲駆除の効果
県による集中捕獲が行われた市町村の一部において、モニタリング調査が実施され、本事業
による捕獲の効果があったことが確かめられている。ただし、効果がさほど得られなかった地
域もあり、大きな効果があっても捕獲後 1 年程度で生息数や被害が増加しつつあるとの意見も
あった。効果を得るには、一定以上の捕獲労力が必要であり、効果を維持するためには継続的
な対策が必要である。
捕獲効果が得られる条件
留意点など
→ 一定以上の捕獲労力が必要(右下図)
→ 根絶させることは、ほぼ不可能
→ 捕獲後、一時的に生息数が増える可能性
がある
捕獲効果の持続性
→ 安定した効果を得るには、広域な地域
の連携と継続的な捕獲が望まれる
1km2当たり設置回数
→ ヌートリアが侵入した初期段階に捕獲
しておくと、増加を抑える効果が大きい
1km2あたり設置回数
減少率(%)
50
→ ため池や水路では、水域が小規模なた
め捕獲効果が大きく、生息数が回復しに
くい
90
45
80
40
70
35
60
30
50
25
40
20
30
15
10
20
5
10
0
フィールドサイン減少率 (%)
→ 生息数や被害は、1 年前後で増加し始め
る
0
1
2
3
4
5
6
捕獲地域(市町村)
7
8
捕獲労力と捕獲効果の関係(モニタリング結果)
2) 捕獲方針
上に示したように、ヌートリアの集中的な捕獲駆除には被害抑制効果があるものの、生息の
多い地域では根絶することはほぼ不可能であり、効果も短期的なものである。また、中途半端
な捕獲はかえって若いヌートリアに生息スペースを提供し、繁殖個体が増加する可能性もある。
さらには、捕獲効果を得るには多大な労力が必要であり、その作業を実施する体制作りも課題
となる。
しかし一方で、ヌートリアがもともと生息していない、あるいはごく少ない地域では、個体
の侵入があった場合でも、捕獲による‘早めの対策’で定着や増殖を未然に防ぐ効果が期待で
きる。また、生息数や被害の多い地域では、周辺地域と連携し、それまで個別に投じていた捕
獲労力を集約し、集中的に発揮することで、大きな被害抑制効果を得られる可能性がある(コ
ラム2)。
このような諸事情をふまえて、以下のような捕獲方針の中から地域の実情に合ったものを選
択し、できるだけ余分な労力をかけず捕獲効果を効率的に得るようにする。
25
3.被害対策
¾ ヌートリアがいない、あるいは少ない地域に侵入した場合は、できるだけ初期に集中的な
捕獲を行い、定着や増殖を防ぐ
¾ すでに多数が生息しており、それらを減らして地域に頻発する被害を予防したい場合は、
集中的な捕獲作業を定期的に行う
¾ ヌートリアによる被害がさほど大きくない場合や、捕獲作業の体制作りが困難な場合は、
除草や侵入防止柵の設置を行い、被害の発生に応じて捕獲駆除を行う
目的・方針
対処方法
・生息数が少ない、いない
・最近侵入、被害は未発生
・捕獲は被害の発生後で
よい
・除草、侵入防止柵
・加害個体の捕獲
・被害を未然に防ぎたい
・地域のヌートリアを減
らしたい
一時的な集中捕獲
・生息数が多い
・被害が頻発する
継続的な集中捕獲
モニタリングし今後に活用
ヌートリアの生息状況
捕獲の実施体制を整える
地域の実情に合わせた捕獲方針の例
コラム2 地域間の連携
○ ひとつの地域だけでは被害抑制に限界、地域間の連携で、有効かつ恒常
的な被害抑制を目指す
一般的な動物種と同様にヌートリアは、種の繁栄のために環境条件の変化などに応じ
て、移動しながら好適な生息環境を見つけそこで生息数を増やしていくものと推測され
る。水辺に生息するヌートリアは、河川や水路を中心に、場合によっては陸上において
も移動を行っていると考えられる。このような生態から、ヌートリアを駆除して生息す
る個体数をうまく調整するには、河川流域単位でヌートリアの生息個体群を考慮した計
画が必要になると考えられる。
関係地域間で打ち合わせ、被害対策を連携して計画的に行うことで、大きな対策効果
を長期的に維持できる可能性があるため、必要に応じて市町村間で連携を取ることが有
効と考えられる。
26
3.被害対策
コラム2 地域間の連携
同じ河川流域にまたがる 3 地域で連携したヌートリア駆除の例
ヌートリアの生息環境が河川によってA,B,Cの 3 地域に連続して分布している場合、
一つの地域で集中的に駆除して生息数を減らしても、連続する隣の地域からヌートリアが侵
入してきてすぐに回復してしまう。
三つの地域が同時に捕獲駆除を行えば、いずれの地域についてもヌートリアの生息が脆弱
となるので、対策効果が長く維持されると考えられる。
A地域のみで集中捕獲した場合
A
3 地域で同時に集中捕獲した場合
A
B
B
河川
河川
C
C
流域の生息数は多くのこり、回復も早い
流域の生息数は大きく減少し、回復に要する
期間もより長い
生息環境が異なる地域間で連携したヌートリア駆除の例
水田と小規模な水路網しかないB地域には、大きな河川のあるA地域に生息していたヌー
トリアが、かんがい期に移動してきて被害を与える。
非かんがい期に、ヌートリアが集まるA地域でB地域も協力して駆除を行えば、両地域に
ついて被害抑制効果が大きいと考えられる。
かんがい期
河川
A
非かんがい期
河川
水田
水田
A
B
B
駆除
駆除
イネのあるB地域には餌やかくれ場所があ B地域からイネのなくなる非かんがい期は、
り、A地域から個体が移動してきて被害が ヌートリアがA地域に集中している
発生する
27
3.被害対策
3-1-3. 効果的な被害対策方法の組み合わせ(例)
より効果的に被害を抑制するため、ヌートリアの生息の現況を把握したうえで、複数の方法を
組み合わせて総合的に被害対策を行う。対策方法の組み合わせは、ヌートリアの活動に大きく関
係するイネの栽培時期をふまえ、
‘かんがい期’と‘非かんがい期’に分けて整理する。また、有
力な対策方法である捕獲については、その目的が‘発生した被害を減らす’ものか、
‘地域の生息
数を減らして被害を未然に防ぐ’ものかによって、実施する場所や対策の順序が異なってくる。
以下のようなパターンが基本的には効率的であろうと考えられる。
○ 非かんがい期 … 河川やため池に集まるヌートリアを集中捕獲して地域の生息数を減らす
○ かんがい期 … 除草や侵入防止柵を施したうえで、なお被害を生じさせる個体を捕獲する
捕獲目的
地域の生息数の調整
(被害発生前の対策)
時期
非かんがい期
かんがい期
加害個体の駆除
(被害発生後の対策)
河川やため池で集中捕獲
畑で侵入防止柵
→(被害発生)→加害個体の捕獲
河川やため池で集中捕獲
水田で侵入防止柵/周辺の除草
→(被害発生)→加害個体の捕獲
このような被害対策の組み合わせ例は、県内に概ね共通する観察結果をもとにして、少ない労
力で高い効果が得られるよう検討したものである。地域によっては作物の作付け状況や水田のか
んがい時期などは異なるので、地域の実情に合わせて実施するとともに、その時々の被害の発生
状況に応じて臨機に対応する必要がある。
また、生息状況調査を継続することによって、被害対策の効果をモニタリングすることができ
る。それによって得られた情報をその後の対策に活かすことで、対策効果をより向上させること
ができる。
12 月
1月
11 月
冬場のすみかを
減らす除草
生息状況調査
捕獲駆除
2月
侵入防止柵
除草
①非かんがい期
10 月
3月
③かんがい期
後期
9月
4月
②かんがい期
稲の登熟時期に
備えた除草
前期
5月
8月
7月
6月
ヌートリアの総合的な被害対策スケジュールの例
28
田植え時期に
備えた除草
3.被害対策
① 非かんがい期における被害対策手法の例
目 的
場 所
実 施 方 法
侵入防止柵
生息状況調査
冬 ~ 春 の野 菜 へ
の被害を防ぐ
冬~春の生息場所を
把握
河川/ため池
/農地(畑)
被害発生箇所を予測
地域の被害全般
を防ぐ
主要な
河川/ため池
地域の主要な生息地
を把握
被害発生
生息状況調査
・被害状況
・侵入ルート
生息状況調査
侵 入 防 止 柵の 効
果を確かめる
生 息 状 況を 捕 獲
前と比較する
捕 獲
フィードバック(改善・応用)
・ 生息状況調査を行い、畑作物に被害を及ぼしそうなヌートリアの生息地やほ場への侵入ルート、
および非かんがい期の河川やため池におけるヌートリアの主要な生息場所を把握する
・ 畑作物への被害を抑制するため、侵入防止柵を設置し、被害発生箇所や被害が想定される箇所周
辺で捕獲を行う
・ 地域のヌートリア生息数を減らし被害全般を抑制するため、非かんがい期に個体が集まる河川や
ため池で集中的に捕獲する
・ 生息状況調査を継続し、対策の効果や課題について確認し、今後に活かす
②,③ かんがい期における被害対策手法の例
※非かんがい期に集中捕獲を実施済みの
設定.未捕獲で生息数が多い場合は、上
目 的
場 所
苗や 収穫前の稲へ
の被害を防ぐ
河川/ため池
/農地(水田)
記と同様に積極的に捕獲する.
実 施 方 法
水田付近の生息場所
を把握
ヌートリアが利用する
草地・休耕地を除草
被害発生箇所を予測
侵入防止柵
被害発生
生息状況調査
生息状況調査
生息状況調査
・被害状況
・侵入ルート
捕 獲
生息 状況を捕獲 前
と比較する
侵入 防止柵の効 果
を確かめる
フィードバック(改善・応用)
・ 生息状況調査を行い、稲に被害を及ぼしそうなヌートリアの生息地やほ場への侵入ルートを把握
する
・ 稲への被害を抑制するため、被害が想定される箇所周辺で休耕地の除草や侵入防止柵の設置を行
う
・ それでも被害が発生した場合は、加害個体の捕獲を行う
・ 生息状況調査を継続し、対策の効果や課題について確認し、今後に活かす
29
3.被害対策
3-1-4. 被害対策の実施体制
○ 市町村による管理のもと、従来の対策方法に加えて外来生物法にもとづく防除
に取り組む
各種の被害対策の実施について現状をみると、侵入防止柵に係る助成金や有害鳥獣の捕獲許可
などを管轄する各市町村が、概ね全体を把握し管理している。
一方で特定外来生物の防除では、市町村だけでなく猟友会等の団体や農業従事者個人に至るま
で、国と直接手続きして捕獲ができるようになる。防除の体制によっては市町村の費用負担は少
なくすみ、かつ防除に従事する人数に比例して大きな対策効果を得られることが期待される。た
だし、捕獲と処分には相応の設備が必要であることなどから、市町村が中心となった防除の申請
や設備面のバックアップが求められる。
したがって各市町村は、国や県の指導・協力のもとで、防除の体制づくりやその他被害対策の
全体管理を行っていくことが望ましい。
県内における被害対策の実施体制の現状と外来生物法による防除との比較
被害対策方法
実施者(捕獲者)
実施方法等
備考
① 侵 入 防 止 柵 農業従事者個別
自費で設置
ヌートリアの詳細な生息状況の
等
農業従事者地域グ 市町村の助成金制度を 把握により、労力を最小化でき
る
ループ
活用して設置
② 有 害 鳥 獣 捕 猟友会駆除班
獲
・市町村長の許可
・被害発生後の対応が基本
・銃、わなで駆除
・駆除人員や助成金の予算の確
・自治体により助成金
保に難あり
あり
③外来生物の
防除
・国の確認、認可
・箱わなで捕獲し安楽
死処分
・助成金なし
県・市町村
猟友会
農業従事者
30
・被害発生以前の捕獲が可能
・農業従事者が自己防衛できる
・市町村の費用負担は少なめ
・処分方法は要検討
3.被害対策
国・県
指導・支援
市町村
柵設置助成金
情報提供等
補助申請
一般農家等
生息状況把握
防止柵の設置
情報提供等
猟友会
グレーは、対策の実施者を示す
①侵入防止柵の設置における生息状況調査を含めた実施体制
国・県
指導・支援
市町村
駆除要望
捕獲結果
生息状況把握
捕獲結果
捕獲許可
助成金
捕獲駆除
一般農家等
猟友会
グレーは、対策の実施者を示す
②有害鳥獣捕獲における生息状況調査を含めた実施体制
国
防除申請
防除申請
防除申請
認定
駆除要望
指導・支援
一般農家等
確認
県・市町村
生息状況把握
捕獲駆除
認定
捕獲指導依頼
協力
捕獲指導
グレーは、対策の実施者を示す
③特定外来生物の防除における実施体制
31
猟友会
3.被害対策
3-2. 対策方法1;生息状況を把握する
ヌートリアの被害対策は、ほ場への侵入を防ぐ侵入防止対策と、加害個体の駆除が主な方法と
なっている。ヌートリアによる被害が発生したとき、あるいは未然に被害を防ぎたい際に、その
地域のヌートリアがどこに生息し、どうやってほ場に侵入し被害を与えているのかが分かれば、
こうした対策がより効果的に行えると考えられる。実際の被害の現場では、農業従事者や猟友会
員がこれらの状況を把握しており、それをもとに対処できる場合が多いと思われるが、現況をさ
らに詳しく把握することでより効果的な対策につなげられると考えられる。
以下に、ヌートリアの生息状況が分からない場合やより現況を詳しく知りたい場合に、効果的
な被害対策ができるよう事前に行う調査の内容について説明する。
3-2-1. 被害対策に必要な情報
○ ヌートリアのほ場への侵入ルートや生息場所を把握する
ほ場への侵入防止を図る場合、ヌートリアの生息場所からほ場への侵入ルートを特定する必要
がある。侵入ルートは、生息場所である河川やため池から堤防や畦を越えている場合が多く、通
り道が確認できる。
また捕獲駆除においては、加害個体を対象とする際は侵入ルート、生息数を減らしたい場合は
河川やため池の生息場所が必要な情報となる。生息場所は、巣穴があったり、草地に通り道が多
数残っていて、ヌートリアの生活の拠点となっていると判断される場所である。
①侵入ルート
・土羽護岸で乗り越えが容易
・護岸や畦に通り道
②生息場所
草地
・護岸等に巣穴
・草地に通り道が多数
河川 →
②
①
水田
水辺に複数の巣穴
①侵入ルート
②生息場所
ヌートリアのほ場への侵入ルートと生息場所(河川における例)
32
3.被害対策
3-2-2. 調査方法
○ 農業従事者などへのヒアリングと現地でのフィールドサイン調査
侵入ルートや生息場所の把握は、被害にあった農業従事者やヌートリアの生息に詳しい猟友会
員などへのヒアリングと、実際に現地を踏査するフィールドサイン調査によって行う。有力な情
報を得るため、2 つの調査を必要に応じて使い分ける。ヒアリングで得られた情報についても、
実際に現地でフィールドサインの状況を確認する。得られた情報を整理し、侵入防止対策や捕獲
を行う場所を検討する。
ヒアリング調査
フィールドサイン調査
結果のまとめ
・対策実施箇所の検討
生息状況調査の流れ
また、得られた情報を地図に記録しておくと、のちに訪れる際や関係者と情報を共有する際に
便利である。地図は、10,000 分の 1 より詳しく、河川、ため池、水田などの地形や土地利用が記
載されているものがよい(市町村の地形図、都市計画図、住宅地図など)。
(位置を番号で記入し、確認内容を別紙に記入)
10,000 分の 1 地形図を用いた調査結果の記入例
33
3.被害対策
1) ヒアリング調査
ヒアリング調査では、ヌートリアの侵入ルートや生息場所など、対策に必要な情報を収集す
る。ヌートリアの生活圏に近い農業従事者をはじめとした地元の住民は、ヌートリアの巣穴や
ほ場までの通り道を普段から目撃している場合が多いので、積極的に複数の住人に対してヒア
リングを行う。ただし、ヒアリングによって得られた情報は古くて現況と異なる場合があるた
め、現場で現在の状況を確認しておく(次項のフィールドサイン調査を参照)。
【ヒアリング内容の例】
・ 侵入ルート
・ 生息場所(巣穴の位置、よく餌を食べている場所、休憩をしている場所など)
・ 被害のあった箇所、作物の種類、時期
ヒアリング結果は、メモ用紙等に記録する。情報量が多くなる場合や、今後の対策に活かす
ことを目的に数種類の情報を収集する場合などは、必要に応じて記録用紙を作成しておくと情
報整理がしやすくなる。
なお、こうした調査は、毎年定期的に実施することで、経年的なヌートリアの生息の動向を
つかむことができ、長期的な被害対策の立案に役立つと考えられる。
ヒアリング調査結果の記録用紙の例
34
3.被害対策
2) フィールドサイン調査
被害の情報が寄せられた箇所やヒアリング調査で情報の得られた箇所においてフィールドサ
インを確認し、ヌートリアの活動状況を把握する。
事前の情報がなく任意で調査を行う場合は、河川沿いやため池周辺などヌートリアの生息環
境から、被害が生じる可能性のある耕作地までのあいだを踏査する。踏査では、ヌートリアが
頻繁に活動する河川やため池の土羽部分、河川敷、河川内の草地化した中州、河川やため池に
隣接したほ場のまわりなどを重点的に調べる。コンクリートや石積みの護岸であっても、崩れ
かけた部分のすき間や排水管、あるいは魚巣ブロックなどに住み着いている場合もあるので注
意して観察する必要がある。
ヌートリアの生息に必要な立地環境とは?
ヌートリアは、海岸付近から山間部、止水域から比較的勾配の大きい流水域、ある
いは大規模な河川から水の乏しい小水路にいたるまで、非常に多様な水域を利用して
いる。このような現地での観察から、本種は水域の形態についての好みは強くないこ
とがわかる。
ヌートリアの生息において重要なのは、むしろ水辺の陸域環境で、巣穴がつくれる
土壌等があるかどうか、近くに餌場があるかどうか、などが重要と考えられる。
35
3.被害対策
生息環境別のヌートリアの活動状況
ヌートリア
の活動※
生息環境
河川
土羽護岸
+++
よく見つかるフィー
ルドサイン
巣 穴 /足 跡・ 通 り道
/フン/食痕
コンクリート等 △
の護岸
巣穴(隙間などに)
河川敷・中州
巣 穴 /足 跡・ 通 り道
/フン/食痕
その他
環境の状況
+++
生息の多い中州
・流れの速い河川では、堰による湛
水域に巣穴、足跡・通り道、フン
が多い
・堰の上によくフンが見つかる
堰の上のフン
湖 沼 ・ 土羽護岸
ため池
++
巣 穴 /足 跡・ 通 り道
/フン/食痕
コンクリート等 △
の護岸
その他
巣穴(隙間などに)
浅場にヨシなどの抽水植物が生育す
るところでは、全てのフィールドサ
インが多く見つかる
ため池の巣穴
児島湖の浅場
水路
幅 1m 程度以上
河川と同じ
小水路
+
足跡・通り道/フン
通り道となる小水路
休耕地
湿った草地
++
巣 穴 /足 跡・ 通 り道
/フン/食痕
休耕地(雑草地)
※
ヌートリア関連事業での観察による所見
+++:非常に多い
++:多い
+:ある
△:あまりない
36
3.被害対策
フィールドサインの観察により侵入ルートや生息場所を把握するが、その際、ヌートリアが
今でもそこで活動しているか否かを判断する。ヌートリアが頻繁に活動している痕跡と、もう
使われていない古い巣穴や通り道などは区別して記録しておき、必要な箇所において効率的に
被害対策ができるよう配慮する。ただし、フィールドサインによるこのような判断はやや難し
いので、猟友会員などの経験者に指導を仰いだほうがよい。
また、フィールドサインのなかでも、生活の拠点である巣穴や、何度も通行することで形成
される通り道のほか、新鮮なフンが多数ある箇所は、利用頻度が高い場所であるため対策を実
施するのに重要な情報と考えられる。
フィールドサインの状況による活動頻度の判断
フィールドサ
インの種類
新しいフィールドサイン
古いフィールドサイン
巣穴
落ち葉やゴミが溜まっていない。土をかき出した跡 落ち葉やゴミが積もり出
や足跡がある。
入りしている形跡がない。
通り道
草が踏み倒された跡が新しい。草の上に泥がついて 使われなくなり草が茂り
いる。
始めている。
フン
みずみずしくつやがある。
乾燥して変色している。
調査結果は、地図等に記録する。ヒアリングと同様に、必要に応じて記録用紙を作成してお
くと情報整理がしやすくなる。
なお、こうした調査は、毎年定期的に実施することで、経年的なヌートリアの生息の動向を
つかむことができ、長期的な被害対策の立案に役立つと考えられる。
37
3.被害対策
フィールドサイン調査結果の記録用紙の例
38
3.被害対策
3) 結果のまとめ方
ヒアリングおよびフィールドサイン調査によって確認した結果から、ヌートリアのほ場等へ
の侵入ルート、生息場所、あるいはこれから被害が発生する可能性のある場所などを特定し、
被害対策の検討に移る。その際、地図にそれらの情報をまとめて記入しておくと、全体の状況
が把握しやすく、判断が容易になる。また、判断結果をうけて対策を実施するのが調査に参加
していない第三者になる場合は、実施箇所の地図や写真を整理した帳票を作成し、現地の状況
を見ていない人でも作業が行えるよう配慮することが望ましい。
対策の実施については、被害の程度や発生件数、確保できる経費や労働力の状況、今後の被
害発生の動向などをふまえて、必要性の高いところから行うよう検討する。
対策実施箇所を示す帳票の例(捕獲器設置箇所)
39
3.被害対策
3-3. 対策方法2;ほ場への侵入を防ぐ
ヌートリアによる農作物への被害に対して、ほ場への侵入を防止することは、駆除とともに重
要な対策方法である。ここでは、県内で行われている一般的な対策の状況とその効果を示す。ま
た、大学との共同研究によるヌートリアの運動能力の試験や侵入防止柵の野外設置試験の結果を
紹介し、これらをふまえた経済的かつ効果的な侵入防止柵について検討する。
3-3-1. 県内の対策状況
○ トタンや金網による侵入防止柵が主流、雑草の除去も効果的
県内では、ヌートリアがほ場に入るのを防ぐために、トタンやネットを用いた柵が一般的によ
く設置されている。ヌートリアが乗り越えられないような障壁を、農業従事者が独自に様々な材
料を使って設置したものであり、ある程度の高さと強度を備えたものは効果をあげている。しか
し、地形条件等で設置が難しい場合もあり、地表との接地面や柵のつなぎ目のすき間から侵入さ
れた例が少なからず確認された。地面を這うように歩き土を掘る習性をもつヌートリアに対して
は、小さなすき間も生じさせないことが重要と考えられる。この他に、イノシシやシカ除けに用
いられる電気柵をヌートリアの体高に合わせて低い位置に設置した例、用排水路から排水管を経
由して侵入する個体に対して、その出入り口を木材や金網で遮断している例や、周辺の雑草地を
管理することでヌートリアをほ場の近くに定着させない例など、状況に応じた対策が各地で行わ
れている。
ヌートリアのほ場への侵入に対する県内の対策例
方法
対策場所
対策の内容
対策の効果など
侵 入 ル ー ト ほ場の畦
を遮断する
板柵 トタン/波板(畦シート) ・60cm 程度の高さと強度があれば
/金属・木・樹脂の種々の板
効果がみられる(ただし 60cm の
柵を越えた例あり)
ネット ナイロンネット/金網
・柵の下部を掘って侵入された例
が多い
電気柵 イノシシ用の電気柵を
・ナイロンネットは破られる
低く設置
・電気柵の効果は不明
用排水路
ほ場への入口を木や金属の棒や ・通水を妨げずにヌートリアの侵
柵でふさぐ
入を防ぐことができる
侵 入 を 忌 避 ほ 場 の 畦 ・畦にトタン板等を敷いて歩き ・いずれも効果は不明で、効力の
させる
や周辺
にくくする
及ぶ範囲が限られる
・殺鼠剤をまく
・殺鼠剤は、他の動物を殺す可能
・コールタールをまく
性があるので望ましくない
・センサーライトを設置する
周辺環境
休耕地などの雑草の除去
40
生息環境を減らすことになるので
効果が期待される
3.被害対策
ヌートリアの侵入防止に効果のある対策
板柵(トタン)
排水路の遮断
休耕地の除草
3-3-2. 除草が必要な場所
○ ほ場に隣接する休耕地や河川内を除草し、ヌートリアの行動を抑制する
ヌートリアによる被害発生箇所では、ほ場に隣接した休耕地や河川内に雑草が茂っている場合
が多く、草地内には多数の通り道がみられる。ヌートリアは、河川やため池などから水路などを
伝い、そうした雑草地を中継ポイントとして隠れ場所に利用しながら、ほ場に侵入していると思
われる。したがって、休耕地や河川内を除草することで、ヌートリアの中継ポイントをなくし、
ほ場への侵入をある程度抑制できると考えられる。
↓ため池
↓休耕雑草地
↓休耕雑草地
↓被害箇所
↑侵入防止柵
↑侵入防止柵
ため池
水田(柵あり)
休耕雑草地
水田(柵なし)
隠れ場
巣穴
被害発生
推測されるヌートリアの行動
雑草地を利用したヌートリアによる水田での被害発生の例
除草作業は、適宜行えばよいが、植物が生育をはじめる 5 月ころや、生育が旺盛な梅雨から夏
場に 2~3 回行うと効果的である。また、冬場の隠れ場所を残さないため、秋にも除草しておく
ことが望ましい。
41
3.被害対策
3-3-3. 経済的かつ効果的な侵入防止柵とは
○ 波板等を用いて高さ 60cm 以上に設置し、ネットを敷いて下からの侵入を防ぐ
ヌートリアは、侵入防止柵を乗り越えて侵入する高い能力を有することが分かっている(12 ペ
ージ参照)。県の事業において、その運動能力をふまえた 2 タイプの柵を試作し、野外における
侵入防止効果や設置性を研究した結果、試作した柵はいずれもヌートリアの侵入を許さなかった
。設置にかかる労力や経済性を抑えつつ、一定の効果が得られる侵入防止柵の条件は、以下のよ
うに考えられる。
・ 柵の高さは、60cm 程度で一定の効果があり、85cm 程度で万全の効果が得られる。
・ 柵板の継ぎ目や接地面に生じた隙間をヌートリアは狙うので、確実に密閉する(柵の下にネッ
トを敷き固定することで、下からの侵入を防ぐ)。
・ 固定杭の強度を上げることで、耐久性を調節することができる。
試験に用いた 2 タイプの侵入防止柵の仕様等
柵のタイプ
仕様等※
一定の効果と経済性を重視 高さ 60cm
したタイプ
材料 金属製・樹脂製の波板等
/ナイロンネット/園芸用
の杭
費用 約 470 円/m
設置労力 2.3 時間/10m/人
最大限の効果と耐久性を重 高さ 約 70cm
視したタイプ
材料 樹脂製の波板等/万能杭
(直径 5.5cm、高さ 120cm)
費用 約 5,900 円/m
設置労力 3.5 時間/10m/人
特徴
・侵入防止効果が高い
・耐久性が低く、台風等に弱い
・耐用年数は 2 年程度
・部分的な修復が困難
・費用が安く入手が容易
・資材の大きさと重さは一般的な
量
・通常の道具で設置可能
・侵入防止効果が非常に高い
・耐久性が非常に高く、耐用年数
は数年以上
・部分的な修復が可能
・費用が高く入手がやや難しい
・資材が大きく重い
・杭打ちに手動の掘削機等が必要
※材料の調達方法や設置する人数と能力でコストは異なるため、表中の費用や設置労力は参考値
42
3.被害対策
3-4. 対策方法3;捕獲によって生息数を減らす
○ ヌートリアは許可なく捕獲したり運んだりしてはいけない
ヌートリアを捕獲し駆除することは、農作物被害の原因を取り除くものであり、局面によって
はとても有効な対策方法である。とくに、侵入防止柵の設置が難しい場合や設置しても被害がな
くならない場合には、必要となってくる。ただし、野生鳥獣であり特定外来生物であるヌートリ
アの捕獲においては、法令上の規制が存在するため、それらに則って適切に行われなければなら
ない。また、野生鳥獣を捕獲するには危険が伴うとともに、一定の技術が必要であり、かつその
処分においては動物愛護や衛生面での注意が必要である。
以下に、捕獲のために必要な手続きの方法と、県によるヌートリア集中捕獲事業の成果をもと
にした、箱わなを用いた安全で効率的な捕獲方法などについて解説する。
3-4-1. ヌートリアの捕獲に必要な手続き
○捕獲に関係する法律は2つある
国内でヌートリアを捕獲する場合、以下の法律が関係する。
①「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」
(以下、鳥獣保護法という)
②「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」
(以下、外来生物法という)
鳥獣保護法では、野生鳥獣を保護する目的でこれらを捕まえることが原則禁止されている。ま
た外来生物法では、特定外来生物による被害の拡大を防ぐ目的で、運搬したり飼育したりするこ
となどが原則禁止されている。したがって、許可を得ることなくヌートリアを捕獲したり運搬し
たりすることは違法であり、違反者は処罰される可能性がある。
両法律は、目的の違いから、捕獲に関わる規制内容が異なっている。特定外来生物であるヌー
トリアに関しては、外来生物法に基づく「防除」の確認・認可が得られれば捕獲する際に必要な
鳥獣保護法に係る許可が免除される点において、同法のほうがより柔軟に対応できる利点がある
。
現在ヌートリアの駆除は、ほとんどが鳥獣保護法に基づき、農林水産業等に被害を及ぼす「有
害鳥獣」の捕獲として行われており、これには都道府県知事(岡山県では市町村へ許可権限を委
譲している)の許可が必要となっている。このほか同法に基づく狩猟鳥獣としても捕獲されてい
る。一方で、外来生物法の活用は県内では始まったばかりであり、今回の緊急雇用事業による一
連の申請が県内 2 例目の活用事例である。同法の活用が普及するには、各自治体での防除の実施
体制をいかに確立していくかが課題となる。
以下に、各法律の概要と捕獲するための手続きについて説明する。
43
3.被害対策
1) 鳥獣保護法
【法律の概要】
鳥獣保護法は、鳥獣保護事業の実施、鳥獣による被害の防止、および狩猟の適正化を図る
ことによって、生物の多様性の確保や生活環境の保全および農林水産業の健全な発展に寄与
することを目的とした法律である。
野生の鳥類と哺乳類のすべてについて、捕獲が原則禁止されており(ドブネズミ、クマネ
ズミ、ハツカネズミ及び一部の海生哺乳類を除く)、ヌートリアも例外ではない。狩猟の場合
は、狩猟登録を行うことで一定の条件に従い捕獲することができる。また、以下の場合に、
許可を得たうえで捕獲することができる。
・ 農林水産業に被害を及ぼす有害鳥獣である場合(この場合ネズミ科とモグラ科は随時捕獲
可能(ヌートリアはヌートリア科))
・ 学術研究を目的とした場合
など
本法律に基づくヌートリアの捕獲についての詳細は、本法律のほか、本法律施行令(政令)、
同施行規則(環境省令)
、および第 10 次岡山県鳥獣保護事業計画などによって確認する必要
がある。いずれも、環境省や岡山県環境文化部自然環境課のホームページから閲覧できる。
分からないことなどについては、各県民局の農林水産事業部森林企画課や各市町村の鳥獣担
当部署に直接問い合わせる。
44
3.被害対策
【有害鳥獣捕獲の申請手続】
岡山県では、農林水産業に被害を及ぼす鳥獣については迅速かつ的確に駆除するため、捕
獲許可権限が県知事から各市町村長に移譲されている。ヌートリアもこれに含まれており、
被害の発生が確認されたら市町村長に対して捕獲許可申請を行う。なお、申請様式およびそ
の記入例を巻末に示す。
鳥獣保護員
⑥報告
⑤調査依頼
⑦捕獲許可通知
①被害届
場合により
②指導
現地調査
②調整
④許可申請
⑦捕獲許可通知
県民局
⑦許可(許可証交付)
市 町 村
⑧駆除実施
駆除従事者・駆除班
被 害 者
③駆除依頼
⑨許可証返納(捕獲報告)
住所等変更届等
⑦捕獲許可通知
警察署
(詳細は各市町村の鳥獣担当課に問い合わせ)
県内における一般的な有害鳥獣捕獲の流れ
45
3.被害対策
2) 外来生物法
【法律の概要】
外来生物法は、生態系、人の生命・身体、及び農
林水産物に被害を及ぼす海外起源の生物(特定外来
生物)について、飼養、栽培、保管、運搬、輸入と
いった取扱いを規制し、同時にこれらの防除等を行
うことで公益の確保を図ることを目的とした法律で
ある。
本法律では、環境省や農林水産省から特定外来生
物の防除をするための「確認・認定」を受けた場合、
特定外来生物の捕獲とそれに関わる運搬等が可能に
なる。また、以下のような他の法律により規制のあ
(環境省のホームページより転載)
る生物種や地域について、各法律の干渉を受けるこ
外来生物法の概要
となく捕獲駆除することが可能となる。
・ 鳥獣保護法により捕獲が規制される種(ヌートリア)
・ 鳥獣保護法により捕獲が規制される鳥獣保護区や特別保護区
・ 自然公園法にもとづく国立公園特別保護地区や同公園特別地域
・ 自然環境保全法にもとづく原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域
このように外来生物法は、特定外来生物による人間社会や生態系への被害の拡大を防ぐこ
とに特化した法律であるため、これを活用することで、より柔軟で効果的な捕獲計画を立案
することが可能となる。
本法律に基づくヌートリアの捕獲についての詳細については、本法律のほか、本法律施行
令(政令)、同施行規則(環境省令)
、および「特定外来生物の防除に関する件」をはじめと
した各告示などによって確認する必要がある。いずれも、環境省のホームページから閲覧で
きる。分からないことなどについては、環境省中国四国地方環境事務所に直接問い合わせる。
46
3.被害対策
【防除の申請手続】
外来生物法では、環境省と農林水産省に対して防除を行う旨を申請し、確認や認定を受ける
ことで、前述のような条件のもと捕獲作業を行うことが可能となる。なお、国や地方自治体の
申請に対する許可は「確認」、それ以外の法人や個人に対する許可は「認定」と呼ばれる。
申請にあたっては、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成十
六年六月二日法律第七十八号)」
、
「特定外来生物の防除に関する件」
(告示)などを確認し申請
方法について把握したうえで、必要に応じ申請先である中国四国地方環境事務所に対し詳細を
問い合わせる。なお、申請様式およびその記入例を巻末に示す。
外来生物法による防除の申請に必要な書類
地方自治体
その他の団体・法人・個人
・特定外来生物の防除の確認申請書
・防除実施計画書(添付書類を含む)
・申請者の略歴を記載した書類
(各 2 部.電子申請システムの利用も可)
市町村、その他の団
体・法人・個人
被害者
被害発生
・特定外来生物の防除の認定申請書
・防除実施計画書(添付書類を含む)
・申請者の略歴を記載した書類
・法人の場合は、業務の概要を記した書類そ
の他(要確認)
(各 2 部.電子申請システムの利用も可)
環境省
農林水産省
地方環境事務所
農政局
対策相談
駆除要望
受理
対応検討
関係機関との調整
確認・認定申請書
提出
(防除実施計画ほか)
(2 部)
受理
送付
(1 部)
審査
審査
結果通知
防除実施
確認・認定
防除の確認・認可手続き
47
受理
3.被害対策
県内のヌートリアの捕獲における鳥獣保護法と外来生物法による手続きや規制内容の比較
項目
規制事項等
捕
獲
の
申
請
手
続
き
許
可
及
び
防
除
計
画
に
基
づ
く
捕
獲
活
動
鳥獣保護法
外来生物法
・野生の鳥類と哺乳類の捕獲
・特定外来生物の飼養、輸入、放逐、
・猟具の使用(狩猟免許制)
譲渡など
・捕獲に係る許可制度(有害鳥獣捕獲、 ・防除に係る許可(確認・認定)制度
学術研究)
捕獲の申請 国,地方自治体,農協等の一部法人, 国,地方自治体,その他の団体や法人
者
個人(狩猟免許所持者)
,個人
捕獲の許可 市町村長(県知事から移譲)
権限者
環境大臣および農林水産大臣
申請様式
鳥獣捕獲許可申請書
・特定外来生物の防除の確認又は認定
申請書
・防除計画書
捕獲実施者
許可を受けた者(狩猟免許所持者(駆除 申請者(狩猟免許所持者およびそれに準
班等)
)
ずる知識と技術を有する者)
捕獲区域の 特別保護区、自然公園法による特別保 とくになし
制限
護地区など
捕獲期間
必要最低限(1~3 ヵ月)
環境省が告示した防除期間内(現時点で
は平成 33 年 3 月 31 日まで可能)
捕獲頭数
申請頭数以内(必要最小限)
無制限(特定外来生物はできるだけ減ら
す必要がある)
猟具の制限
・特定猟具使用禁止(制限)区域の指定 ・鳥獣保護法の規則に従う
・禁止猟法の指定
・とらばさみの使用可(鋸歯がなく内径
12cm 以下のもの)
捕獲個体の 外来生物法の規制により殺処理前の個 殺処理施設までの運搬は可
運搬
体は原則運搬できない
結果の報告
許可証の報告欄に記載し返納
とくになし(防除に関する普及啓発)
その他
-
・捕獲個体はできるだけ苦痛を伴わな
い方法で殺処理する
※鳥獣保護法では、捕獲個体の殺処分について明記されていないが、同法の趣旨からもできる
だけ苦痛を与えない方法を選択することが望ましい。
48
3.被害対策
3-4-2. 捕獲駆除の方法
○ 「箱わな」を使い、簡易に安全に捕獲駆除する
一般に、ヌートリアを狩猟や有害鳥獣として駆除する際には、銃器およびわな(箱わな、とら
ばさみ)が用いられている。銃器は使用できる条件が限られるので、汎用性の高いわなが多く用
いられており、県南部では箱わなととらばさみの両方が、北部ではとらばさみが多く使用される
傾向にある。箱わなは、とらばさみに比べると大きくて値段も高いが、以下に示すように多くの
利点があるため、ヌートリアの捕獲に非常に適している。したがって本書では、ヌートリアの捕
獲方法として箱わなを用いた方法について解説する。
・ 安全に使用でき操作が簡単である
・ ヌートリアを効率よく捕獲することができる(集中捕獲事業では 99.5%の確率でヌートリア
が捕獲され、捕獲効率※は約 30%であり、大きな効果を挙げた)
・ 捕獲した個体が比較的傷つきにくい(外来生物法による防除では、苦痛を与えない処理方法
が求められる)
・ 捕獲した個体は箱の中にいるので、安全かつ容易に殺処理できる
※箱わなの設置回数(個/日)に対して捕獲できた回数
とらばさみは、小型で持ち運びしやすく、製品の値段が安いなどの利点があるが、取り扱
いの際に指を挟まれ怪我をする危険があることや、錯誤捕獲(目的外の動物を誤って捕獲す
ること)の可能性が大きくなる、捕獲個体が傷つく、殺処理に手間がかかる、などの問題点
がある。
1) 使用する箱わな
ヌートリアの体の大きさと作業時の使い勝手を考慮すると、高さ×幅×奥行き=30cm×30cm
×70cm 程度の大きさの箱わながよい。内部に取り付けた餌を取ろうとすると、仕掛けが作動し
扉が閉じる仕組みになっている。餌を取り付けたフックと扉が連動しているタイプ(フック式
)と、餌の下に板がありこれに負荷がかかると板と連動した扉が閉じるタイプ(踏み板式)の
2つが主流である。集中捕獲事業では、構造がシンプルでより安価なフック式の箱わなを使用
した。両者の捕獲効率の違いは不明であり、捕獲する者にとっての使いやすさ、経済性、耐久
性などを考慮して選択すればよいと考えられる。
箱わなの概要
大きさ
材質
値段
概要
30cm × 30cm × 鉄 ま た は フック式
70cm 前後
アルミ
6,000 ~ 15,000 円
/個程度
踏み板式
15,000 円/個前後
内側のフックに餌を
付け、ヌートリアが
餌を食べようとして
フックが動くと扉が
閉まる。
49
3.被害対策
2) 使用する餌
ヌートリアは極めて多様な餌を食べるうえに、季節や地域によって好みが変わるといわれて
いる。集中捕獲事業においては、季節によって安価に入手できるものを中心にさまざまな餌を
使用したが、捕獲効率が高かったのは、キャベツ、ハクサイ、ニンジン、ダイコン、サツマイ
モなどであった。このなかでも根菜類は、堅くて萎れにくいので、フックにしっかり取り付け
られて長い時間使える点で適していた。捕獲する際は、このような事例や現地での被害状況な
ども参考にしながら、その時々で入手しやすいものを使用すればよいと考えられる。
70
捕獲頭数
捕獲率
捕獲頭数
3000
60
2500
50
2000
40
1500
30
1000
20
500
10
ナ
ナ
モ
ン
ゴ
バ
リ
モ
キ
ナ
シ
カ
ナ
ス
ス
キ
ャ
ベ
ツ
ハ
ク
サ
イ
レ
ン
コ
ン
ブ
カ
レ
タ
カ
ボ
チ
ャ
キ
ュ
ウ
リ
タ
ケ
ノコ
ジ
ャ
ガ
イ
モ
サ
ツ
マ
イ
モ
ニ
ン
ジ
ン
ダ
イ
コ
ン
ン
ウ
リ
0
メロ
ス
イ
カ
0
捕獲率(%)
3500
誘引餌
餌の種類による捕獲効率(集中捕獲事業の結果)
3) 箱わなの設置方法
【設置箇所の選定】
・ 生息状況調査のあと日数が経過している場合は、フィールドサインの状況を再度観察しヌー
トリアが現在も頻繁に活動しているかどうかを確認する。
・ 事前に餌をまき、その摂食状況を見ることで、ヌートリアの活動状況を知ることもできるの
で、必要に応じて実施する。なお、餌まきは、野生鳥獣に対する「餌付け」になるおそれが
あることに留意し、最小限にしておく。
・ 巣穴の前と通り道のほかフンの集中する場所など、ヌートリアの活動頻度が高い場所に設置
する(足跡や食痕しかないところでは、捕獲効率がやや低下する)。
50
3.被害対策
捕獲頭数
捕獲率
5,000
4,500
3,500
25
3,000
20
2,500
15
2,000
1,500
捕獲率 (%)
30
4,000
捕獲頭数
35
10
1,000
5
500
0
0
巣穴
通り道
足跡
食痕
フン
水上
フィールドサインのタイプ
フィードサインのタイプによる捕獲効率(集中捕獲事業の結果)
【設置・操作方法(吊り下げフック式)】
・ ヌートリアの活動場所(巣穴や、通り道の中心など)に対して箱わなの入り口を向けるよう
にする。
・ 水辺が急傾斜であるなど地形的に設置しにくい所では、板などを浮かべてイカダ状にしその
上に設置する(その際、流れないようロープで固定する)。
・ 鉄杭等で地面に固定し、わなが流されたりヌートリアが暴れて倒れたりしないようにする(
杭が刺さらない場所では、ロープなどを用いて工夫する)。
・ フックに取り付ける餌のほか、箱わなの中に 1,2 個、外に 1,2 個の誘引餌を置き、ヌートリ
アが入りやすい状況を作る。
・ 扉の前に植物、石、誘引餌などの障害物があると閉じきらないことがあるので注意し、必ず
扉が閉じるか作動確認をする。
・ バネ、留め金の位置が正しくないと扉が閉じにくいこともあるので注意する。
・ 斜面で入口が下になる場合は、フックが傾いて扉が固定できないので、木の棒などでフック
をわなに対し直角になるようにかるく固定する。
・ フックの餌を食べない場合もあるため、捕獲状況をみながら、餌の種類や付け方、誘引餌の
量などを工夫する。
51
3.被害対策
箱わなの設置例
通り道に向けた設置の状況
イカダ方式
誘引餌の設置状況
バネ
○良い例
バネ
×悪い例
留め金
○良い例
留め金
×悪い例
バネ、留め金の位置
下り斜面での餌固定
【標識の装着】
ヌートリアの駆除をしている旨を記載した標識を箱わなに装着し、住民の理解と協力を求
め、わなの破損や中のヌートリアに接触する事で生じる事故などを防ぐよう配慮する。有害
鳥獣捕獲の場合は規定の標識を装着する。外来生物法による防除の場合も標識を装着するこ
とが義務づけられている。外来生物法に基づく防除である旨、捕獲実施者、設置期間、連絡
先などを掲示する。
有害鳥獣捕獲でわなに装着する標識例
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3.被害対策
標識の装着状況
外来生物法による防除における標識の記載例
4) 箱わなの見回り・設置期間
【見回り頻度】
箱わなの設置後は、できるだけ毎朝見回り、ヌートリアの捕獲の有無や異状がないか点検
する。とくに外来生物法による防除の場合は、捕獲した個体にできるだけ苦痛を与えないこ
とが義務づけられており、長時間放置すると以下のような危険が増すので注意する。なお、
見回りの際には必要に応じ、餌を交換したり設置位置の修正などを行う。
・ ヌートリアが中で暴れて負傷したり、衰弱する。
・ とくに夏場や冬場は、高温や低温に耐えきれずに死んでしまう場合が多い。
・ 野犬等に食い殺される場合がある。
・ 箱わなやヌートリアが人に悪戯される。
【設置期間】
有害鳥獣捕獲や外来生物法防除の規定の期間内であれば、捕獲を行う期間にとくに縛りは
ない。ある程度の頭数を捕獲しそれ以上の捕獲が見込めなくなれば、住民の邪魔にならない
よう速やかに撤去する。
ヌートリアは基本的に、設置した翌日や 2 日後までの早い段階によく捕れる。ただし日常
的に地元による捕獲圧が高い地域では、ヌートリアの警戒心が強く、設置して 1 週間前後経
過した後でないと捕れにくい場合もある。
53
3.被害対策
5) 季節や地域に応じた捕獲方法
ヌートリアは、季節に応じて活動域を変化させていると推測される。イネを作付けしている
かんがい期は河川、ため池および被害の生じる水田が、非かんがい期は河川の下流域や水位変
動の少ないため池が主な活動域となっていると推測される。したがって、捕獲する際はこのよ
うな季節的な生息場所を予測して行うとより効果的であると考えられる。
河川と水田における季節的なヌートリアの生息状況の例
かんがい期(5~10 月ころ)
ヌートリア
の生息状況
主要河川
水田地帯
非かんがい期(10~5 月ころ)
主要河川
水田地帯
イネあり
水田地帯の水位高
イネなし
水田地帯の水位低
水田に餌や隠れ場
水田への移動容易
餌や隠れ場所少
水田への移動困難
水田周辺にも多く生息
河川やため池に生息
・河川やため池
捕獲効率の ・河川、ため池、水田等全般
よい環境
・分散して生息していて捕獲しにくい可 ・とくに河川下流には集まって生息して
能性もある
いて集中的に捕獲しやすい
・ため池では水抜きをするといなくなる
場合がある
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3.被害対策
6) 他の動物が捕獲された場合
鳥獣保護法においても外来生物法においても、申請した種しか捕獲は許可されないので、ヌ
ートリア以外の動物は全て放逐する。ただし、以下の場合は放逐する前に県に確認をとり、指
示に従うようにする。
・ 特定外来生物であるアライグマが捕獲された場合
・ 捕獲された動物が傷ついており、放逐してもうまく逃亡しない場合(必要に応じ県の鳥獣保
護センターに搬入する)
ヌートリア以外の動物が捕獲されることは極めて少ないが、ドブネズミ、イタチ、タヌキ、
水鳥、カメ、カエルなどが箱わなに入ることがある。
錯誤捕獲され負傷したフクロウ
錯誤捕獲されたイタチ
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3.被害対策
7) 殺処理方法
【有害鳥獣捕獲の場合】
一般に行われている有害鳥獣捕獲では、箱わなに入ったまま水に浸して窒息死させたり、
銃や鈍器などを用いて殺処理される場合もあるが、人道的観点からもできる限り苦痛を与え
ない配慮が求められる。
【外来生物法による防除の場合】
特定外来生物であるヌートリアを、できる限り苦痛を与えないで殺処理をする方法として、
二酸化炭素(CO2)を用いる方法が以下のような理由から適切と考えられる。
・ ヌートリアに与える苦痛が少ないと考えられ、安楽死に最も近い方法の一つと考えられる
・ CO2は人体に無毒なガスであり、常時扱う際もほぼ安全である
・ 入手が容易で、他県での使用実績もある
・ 個体を傷つけることなく処理できるため、実施者への精神的な影響が少ない
CO2による殺処理には、CO2ボンベ、減圧器(調整器)、チューブ、処理容器等を準備
する。処理容器は、使用する箱わなの数など捕獲作業の規模から一度に処理する頭数を想定
し、必要な大きさを準備する。
CO2による殺処理に必要な器具等
器具名
CO2ボンベ
仕様等
値段
・購入
・液体CO2量が 7kg のものと 30kg のものがある
7kg 高さ:96cm 前後,直径:14cm 前後,重量:11kg 7kg 4 万円前後
(ボンベのみ)
30kg 数~7 万円程度
30kg 高さ:120cm 前後,直径:23cm 前後,
・レンタル
重量:38kg(ボンベのみ)
7kg 4 千円前後/月
・CO2 1.0kg=ガス体 0.506m3(0℃、1atm)/0.534 30kg 1 万円前後/月
m3(15℃、1atm)/0.571m3(25℃、1atm)
・注意事項:横にして使用しない/表面温度を 40℃
以下に保つ/車載運搬時は「高圧ガス」の掲示を
する
減圧器(調整器) ・気体の圧力を調整して排出する器具
3 万円前後
・圧力計(~0.5mpa)と流量計(~25L/min)を装備
・チューブの付属を確認
殺処理容器
・箱わなが入る大きさ(一度に処理する個数により 容器作成費用
調整)
・空気より重いCO 2を充満させるのに適した構造
が必要(蓋が上部にある場合は、密封しなくても
覆う程度でよい)
56
3.被害対策
容器に箱わなごとヌートリアを入れて、シートなどで蓋をする。減圧器により圧力を
0.2MPa に合わせ、流量を 30 秒程度かけて 20L/min まで上昇させる。10 分程度CO2を注入し
たのち、中のヌートリアの様子を確認する。呼吸が停止しているかどうかを確認し、必要に
応じて注入を延長する。停止後も 10 分程度放置し、完全に死亡してから蓋をあける。
殺処理風景
箱わなが 6 個入る処理容器
8) 最終処分方法
殺処理後のヌートリアについては運搬等に関する規制はない。一般的な有害鳥獣捕獲による
駆除では、地域のゴミ焼却場での焼却や土中への埋設などによって適宜処分されており、市町
村や捕獲者の事情によって異なると思われる。
今後外来生物法による防除が普及していくと、駆除数が増加する可能性がある。そうなった
場合は、処分能力の大きさや衛生管理の面から、各地域の関係機関と連携を図り、ゴミ焼却場
における焼却処分をするのが適当と考えられる。
57
3.被害対策
3-4-3. 捕獲時の注意事項
ヌートリアの捕獲駆除には基本的に大きな危険は想定されないが、水田など民地の周りで調査
し箱わなを設置すること、河川やため池など水辺での作業が多いこと、および野生動物を扱うこ
となどから、さまざまなリスクが伴う。作業を安全にトラブルなく遂行し、持続的に対策が行え
るよう配慮すべき点について以下に述べる。
1) 地元への周知
ヌートリアは河川から耕作地にかけての人里に多く生息するため、その調査や捕獲の際は水
田周辺など民地に入って作業する機会が多くなる。有害鳥獣捕獲の場合は、地元からの要望に
応じて行うので、改めて周知や説明する必要のないケースがほとんどと思われるが、外来生物
法による防除活動などでは、その実施体制や規模によっては他地域の作業員が被害とは関係の
ない土地に立ち入る可能性もある。地元トラブル等は説明不足がまねく場合が多く、その後の
作業に支障となる可能性が高いので、住民に配慮した準備を十分にしておく必要がある。
・ 立ち入る可能性のある地域には、あらかじめ、広報誌、行政放送、あるいは地元代表者
(町内会長・自治会長・区長等・土木員・農業委員など)に挨拶し回覧を依頼するなど
して周知しておく
・ 周知する内容は、土地への立ち入りについて、箱わなの設置について、作業期間、およ
び作業員の連絡先など
・ 1 級河川や 2 級河川などでは、管理者(岡山河川事務所、県河川課、市町村担当課)に
説明をしておくことが望ましい
・ 水田の畦で作業をする際は、とくに農繁期において農作業の迷惑にならないよう配慮す
る
・ リーフレット等を作成しておくと、町内会長等に挨拶する際や質問を受けた際などに説
明がしやすい
2) 荒天時の対応
荒天時は、河川・水路・ため池等の増水により、作業時の危険が増大する。また、箱わなが
流失することにより、損害となるだけでなく、河川管理上の障害物として迷惑が生じる可能性
もある。さらに、箱わなが水没することにより、ヌートリアが溺死し安楽死処理が行えなくな
ることも想定される。
・ 気象予報をよく確認し、降水確率が高い場合は、増水の影響が想定される場所の箱わな
を移動あるいは撤収する
・ 万一箱わなが水没あるいは流失した場合は、安全管理を第一に考え、無理せず水位が十
分に下がってから撤収する
・ 鉄杭による固定を確実に行う
58
3.被害対策
3) 衛生面の注意事項
ヌートリアが学術上分類されるネズミ目は、ドブネズミやハツカネズミなど人の生活に密接
な種を中心として、多くの感染症を媒介することが分かっている。今回の事業でヌートリアが
レプトスピラを保菌しうることが明らかになったところであり、個体を扱う際は衛生面につい
て改めて注意する必要がある。
・ 殺処分時や個体計測時など、ヌートリアを扱う際は、必ずゴム手袋を装着する
・ 作業後は、石けんでよく手を洗い、アルコール等で消毒を行う
・ 毎日作業終了時、車両、道具類、ワナ、安楽死容器など、糞尿などの排泄物に触れた可
能性のあるものをアルコール等の薬品や天日干しにより消毒する
・ ヌートリアに噛まれた場合は、なるべく早く水道水で十分傷口を洗い、ヨード系消毒薬
で消毒したあと、病院へ行き抗生物質などを処方してもらう
4) その他の注意事項
・ 捕獲した個体に対しては、乱暴に扱ったり、故意に驚かせて威嚇させたりするなど、虐
待と受け取られるような行為をしない
・ ヌートリアを軽トラ等で運搬する際は、できるだけシートで覆い見えないようにする
・ ヌートリアの殺処理は、人目に付かない場所で行う
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3.被害対策
3-5. 今後の被害対策に向けて
緊急雇用創出事業を活用した今回の野生鳥獣被害対策事業は、平成 22 年 12 月をもって終了
した。しかし、農業の現場では今なお作物被害が発生しており、今回得られた成果をどのように
活かしていくかが、残された課題となる。本マニュアルで取り上げた対策手法には、実際にどの
対策をどのくらい行えば安定した効果が発揮されるのか、また、地形などを含め、どのような条
件で改良が必要かなど、まだまだ効果が不確実な状態のものもある。また、ヌートリアが生息す
る河川においては、流域規模での防除時期や体制の調整など、地域によっては複数の市町村の連
携が重要であることも明らかとなってきた。
こうした課題をクリアするには、市町村や猟友会、地域住民など、地域が一体となって対策手
法を実践し、情報を集積して整理・分析し、現場に応用するという行程を繰り返しながら、被害
対策を進めるのに有効な実施時期・位置・方法や対策後の被害状況などを検討し、各地域の被害
対策マニュアルを作成していくことが必要である。
幸いなことに、すでに捕獲作業を本格化された市町村もある。生息実態調査によりヌートリア
の生息状況を目の当たりにした猟友会の方々が、以前にもまして積極的に駆除を進められている
状況もある。また、一部の市町村では、「防除」を行うための申請手続きを始めらている。こう
した積極的な取り組みについても、それらノウハウや現場の声を集積し、広く県内に普及してい
くことが望まれる。
猟友会(駆除班)
県・市町村
(統括・管理)
一般農家
有害鳥獣捕獲
外来生物法による防除
河川や耕作地の除草/侵入防止柵
新しい知見の
活用
試行錯誤
対策効果についての情報収集,分析
被害対策の効果に関する情報収集とその活用の流れ
60
担当者や地域の連携
被害対策
ヌートリアの生息調査
用語解説
1 外来生物
本来の生息地ではない地域に人為的に入ってきた生物。国内で他地域へ持ち込まれた場合も含
まれる。
2 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法),特定外来生物
外来生物法・・・特定外来生物や要注意外来生物を指定し、特定外来生物の飼養、輸入、譲渡
等の規制について定めた法律。平成 17 年施行。
特定外来生物・・・外来生物であり外来生物法により「生態系、人の生命・身体、農林水産業
へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるもの」として指定された生物。
3 侵略的外来生物ワースト 100
国際自然保護連合 (IUCN) の種の保全委員会が定めた、本来の生育・生息地以外に侵入した外
来種の中で、特に生態系や人間活動への影響が大きい生物のリスト。哺乳類ではヌートリアなど
14 種が指定されている。
4 鳥獣保護法
「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」の略称。野生の鳥類および哺乳類について、そ
の捕獲(卵を含む)や飼養・販売の規制、および狩猟に関する決まり事などを定めた法律。
5 有害鳥獣捕獲
鳥獣による生活環境、農林水産業または生態系に被害が生じているかまたはそのおそれがある
場合に、被害防止および軽減のために許可される捕獲のこと。原則として他の対策によっても被
害が防止できない場合に適用が認められる。
6 岡山県野生生物保護条例,(指定)希少野生動植物
岡山県野生生物保護条例・・・指定希少野生動植物について、捕獲等の規制や保護事業等につ
いて定めた条例。
指定希少野生動植物・・・県内における生息・生育状況が、人為の影響により存続に支障を来
す事情が生じていると推定され、特に保護の必要のある動植物。現在昆虫 1 種、植物 5 種が
指定されている。
7 岡山県レッドデータブック
県内で絶滅などのおそれのある野生生物種をリストアップし、絶滅の危険度に応じてランク分
けして、その生息状況を解説したもの。平成 21 年度に改訂版が発行された。
62
8 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法),国内希少野生動植物
種の保存法・・・希少な動植物や生態系の保全の観点から、国内希少野生動植物を指定し、そ
の捕獲等の規制や生息地保護および保護増殖事業等について定めた法律。平成 5 年施行。
国内希少野生動植物・・・日本に生息・生育するが、人為の影響等により存続に支障を来すよ
うな状況がみられる種で、その保護を図るため種の保存法に基づいて指定された種(亜種ま
たは変種を含む)。
かんてつ
9 肝蛭
蛭状吸虫科に属する吸虫の一種。ウシやヤギなどに寄生し人にも寄生する人畜共通感染症で、
日本では 1990 年までに 65 例の感染が確認されている。成長段階の途中に水田や水辺の野草にお
り、それを触れた手からの経口感染や野草を食べることで感染する。発熱、腹痛、肝機能異常な
どをきたすが、薬の服用で治療できる。
10 レプトスピラ
スピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性好気細菌。ネズミなどの野生動物を自然宿
主とし、人を含めほとんどの哺乳類に感染する。風邪に似た軽症型と黄疸や出血を伴う重症型が
あり、日本では 1970 年代前半までは毎年 50 例以上の死亡例があった。保菌動物の尿に汚染され
た環境(水田や水辺)から経口・経皮感染する。抗生物質等で治療できる。
63
ヌートリアの捕獲に係る申請様式および記入例
1. 鳥獣保護法
鳥獣捕獲許可申請書 記入例
64
従事者名簿 記入例
65
2. 外来生物法
特定外来生物の防除の確認又は認定申請書(様式 10) 記入例 1/2
66
特定外来生物の防除の確認又は認定申請書(様式 10) 記入例 2/2
67
防除実施計画書 記入例 1/6
68
防除実施計画書 記入例 2/6
69
防除実施計画書 記入例 3/6
70
防除実施計画書 記入例 4/6
71
防除実施計画書 記入例 5/6
72
防除実施計画書 記入例 6/6
73
74
参考文献
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然保護センター研究報告 17 1-8.2009.
小林秀司・森生枝.緊急雇用対策事業としてのヌートリア対策をどう考えるか.未発表.2009.
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関係機関連絡先
■岡山県 環境文化部 自然環境課 自然保護班
岡山市北区内山下 2 丁目 4-6
Tel 086-226-7310
Fax 086-224-7572
■備前県民局 農林水産事業部 森林企画課
岡山市北区弓之町 6-1
Tel 086-233-9833
Fax 086-234-9064
■備中県民局 農林水産事業部 森林企画課
倉敷市羽島 1083
Tel 086-434-7052
Fax 086-427-5349
■美作県民局 農林水産事業部 森林企画課
津山市山下 53
Tel 0868-23-1384
Fax 0868-23-2602
■環境省 中国四国地方環境事務所 野生生物課
岡山市北区桑田町 18-28 明治安田生命岡山桑田町ビル 1F
Tel 086-223-1561
Fax 086-224-2081
■岡山県鳥獣保護センター
岡山市北区京山 2-5-5(池田動物園隣り)
Tel 086-252-2131
和気郡和気町田賀 730(岡山県自然保護センター内)
Tel 0869-88-1190
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ヌートリア被害対策マニュアル
平成 22 年 12 月
製作・編集/岡山県 環境文化部 自然環境課
発行/岡山県
※本書の無断転載をお断りします。
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