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保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン第3版 - API

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保健所等におけるHIV即日検査のガイドライン第3版 - API
2
1.
HIV 即日検査導入の背景
■ H I V 感染者およびエイズ患者の
増加
な時期に適切な治療を受けることにより良
好な長期予後が見込めるようになってき
た。特に、早期における治療開始は予後の
エイズが発見されてから30年が経った。世
改善に強く関わっており、なるべく早期に
界的にはHIVによる新たな感染は減少傾向に転
診断することは HIV 感染症の治療において
じたが、東アジア地域では流行の拡大が依然
極めて重要である。
として続いている。日本においても、これま
での国、自治体、保健所、NGO/NPO等の啓発
■ 保健所等における H I V 検査の現況
活動にも関わらず、HIV感染者報告数は増加傾
向にある(図1)
。また、エイズ発症後に発見
わが国では 1987 年から保健所において匿
される患者数も増加が続いており、保健所等
名の HIV 抗体検査が行われるようになり、
でのHIV検査による早期発見が充分に機能して
1993 年からは無料化され、国民に HIV 検査
いないことに一因があると考えられる。これ
の機会を広く提供してきた。しかし、この
はHIV感染者本人の予後にも関わる重大な問題
保健所等における HIV 検査の受検者数は、
である。
2008 年まで増加傾向にあったが、新型イン
自分がHIVに感染していることを知ること
フルエンザ流行のあった 2009 年から低迷し
によって、感染者の多くは、自らの感染を知
ている(図 2)。また、年間500万件にのぼる
らない人に比べて、自分の行動により留意す
献血において、HIV陽性数は他の先進国に比
るようになるとされている。また、抗HIV治療
べて感染者数が少ないにも関わらず、その陽
を受けることによって、体内のHIV量が減少し、
性率は相対的に高い状況にある。献血血液の
二次感染が起こりにくくなることも分かって
安全性確保のため、抗体検査の感度向上や遺
きた。すなわち、自らの感染を知ることは本
伝子検査の導入などの努力が払われてきた
人の早期の治療につながり、またパートナー
が、ウインドウ期の献血による輸血後感染の
に対する感染リスクの減少をもたらすメリッ
リスクは検査法の改善によってのみでは避け
トがある。さらに、検査は“感染予防の働き
ることができない問題である。
かけになり、その後のリスクを減らす機会”
以上のように、わが国では HIV 感染者、
ととらえられ、相談につなげることが重要で
エイズ患者の増加が続いており、その対策
ある。
の一つとして、早期検査・早期治療と感染
予防への働きかけを行う場としての自発的
■ 最近の HIV 感染症の治療法の進歩
検査の機会をさらに拡大するための戦略
(土日検査、夜間検査、即日検査等の利便
HIV 感染症の治療は抗 HIV 薬の開発およ
び多剤併用療法により大きく進歩し、適切
性の高い HIV 検査の導入)をより一層充実
させる必要がある。
1.H I V 即日検査導入の背景
1
■ より受けやすい H I V 検査の必要性
査等に加え、H I V 迅速検査キットによる即
日検査の導入を検討することも選択肢の一
わが国の保健所等における 2010 年の HIV
つと考えられる。しかし、迅速検査キットで
検査の状況を見ると、保健所間の年間検査
は、偽陽性(感染していないのに迅速検査
実施数の差は大きく、年間 500 件を超える
で陽性になる)が最近の調査において 0.2
施設が 42 箇所(9 %)ある一方、年間 50 件
∼ 0.5 %程度にみられ、その導入にあたっ
*
未満の保健所も 171 箇所(35 %)ある 。
ては次のことに配慮する必要がある。すな
保健所職員に対する意向調査では、求めら
わち、受検者に対して、検査の説明を十分
れている機能として、「性感染症(STI)を
に行うこと、相談体制を十分に備えること、
含む検査相談体制」、「普及・啓発、予防情
保健所以外の社会資源(電話相談、医療機
報の発信」を挙げている施設がそれぞれ約
関等)との連携を十分にとることなどが必
半数と多く、HIV 即日検査についても「実
要である。このため、即日検査の導入は全
施すべき」あるいは「どちらかといえば実
保健所一律でなく、それぞれの地域の実状
施した方がよい」とする保健所が半数にの
に合わせて検討することが妥当であろう。
ぼるなど、その必要性への認識は高い
**
。
その一方で、今後自らの保健所で重視すべ
■ ガイドラインの役割
きこととしては、「普及・啓発、予防情報
の発信」は 3 分の 1、「STI を含む検査相談
本ガイドライン(第 3 版)では、HIV 即
体制」は 6 分の 1 など、その実施について
日検査の導入がより円滑に、また効果的に
の意向には乖離がみられる。
実施されるよう、考慮すべき項目とその留
* 今井光信 他、HIV 検査相談に関する全国保健所ア
意点の概要を示す。また、目的の項でもふ
ンケート調査(H22 年)、厚生労働科学研究費補助金
れたように、本ガイドラインは、新しく認
エイズ対策研究事業「HIV 検査相談体制の充実と活
用に関する研究」報告書、平成 22 年度.
可された迅速検査キットの情報を追加する
** 河原和夫 他、行政におけるエイズ対策としての
とともに、平成 24 年 3 月現在までに得られ
HIV 検査体制のあり方に関する研究、厚生労働科学
た研究成果や情報に基づき内容の見直しも
研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV の検査法と
検査体制を確立するための研究」報告書、平成 12 −
行った。今後も、即日検査実施機関等の実
14 年度.
状と経験に基づく意見等を反映させ、また
参考資料の補充を行い、改訂版ガイドライ
■ H I V 即日検査の導入に向けて
こうした保健所の状況は、現行の無料匿
名検査には改善の余地があることを示唆し
ており、保健所によっては、休日・夜間検
2
1.H I V 即日検査導入の背景
ンを随時公表する予定である。
1.H I V 即日検査導入の背景
3
2.保健所の HIV 即日検査導入の利点と留意点
■ 利点
HIV 即日検査は、受検者にとっては、そ
HIV即日検査の実施に際しては、結果の即日
の日のうちに結果を知ることができるとい
通知や利用者の増加を想定し、それに充分対応
う利便性と結果を知るまでの不安な時間が
できるよう、相談に対応する人員体制や相談
短くなるなどの利点がある。(一方で、検
室の整備などが必要である。
査の意義を自ら考える時間が短くなる可能
HIV検査は、受検者本人の健康管理上、非
性がある。)実施する側にとっては、受検
常に重要な意味を持つ。また、検査実施者は、
者のほとんどを占める陰性者に対する告知
受検者の極めて不安な心理状態を十分に理解
を当日のうちに確実にできるため、結果を
し、それに配慮して対応する必要がある。さ
聞きに来ない受検者数を減らせる等の利点
らに、感染不安の要因(例えば性的指向に関
がある。このため、HIV 即日検査の導入は、
すること、セックスワークに関すること、性
受検者の増加を促し、感染者の早期発見に
的虐待や未成年であること等)について、他
寄与することが期待できる。また、HIV 検
人に話すことには抵抗があり、本当のことを話
査の実施に際しては、受検者の要望・人権
すことに躊躇する場合も多いと考えられる。感
へ配慮しつつ、
染に対する不安とともにこれらの不安や抵抗
◆HIV感染状態を知る機会の提供
感に対しても、受検者の立場に立って対応す
◆HIV 感染の早期発見と受診への適切な支援
ることが望まれる。
◆HIV/STI(性感染症)感染リスク低減の
機会の提供
◆他の事業と連動したHIV対策の進展
等、HIV検査相談事業をより有効に活かし
ていくことが望まれる。
保健所における HIV 検査の特性として、
4
■ 留意点
また、HIV即日検査に用いられる迅速検査
キットは前述のとおり、偽陽性が0.2∼0.5%
ほど出現するため、検査前の説明と迅速検査
で陽性(以下、要確認検査)となった受検者
への説明は非常に重要である。すなわち、結
果の意味に関する十分な説明、確認検査後の
他の公衆衛生施策(HIV/STI 対策等)と連
結果を聞くことの大切さ、確認検査結果を聞
動したサービスやエイズ予防財団、
くまでの間に利用できる相談機関の紹介、確
NGO/NPO 等の関係機関・団体と連携した
認検査で感染が判明した場合の医療機関の紹
サービスを提供しやすいことがある。した
介等について充分な説明が必要である。HIV
がって、HIV 即日検査導入においても、こ
即日検査で要確認検査となった受検者への対
れらの特性を充分活用し、さらに充実強化
応の実際については「4.HIV即日検査業務
していくことが求められる。
の概要」に詳しく記載した。
2.保健所の H I V 即日検査導入の利点と留意点
■ 保健所で実施する性感染症対策等 の事業への影響
中高年男性等では、STI については医療機
関等でも比較的受検しやすいため、STI より
HIVの迅速検査への要望がより高いと推測さ
平成 22 年度では HIV 検査実施保健所の
れる。一方、若年者では一部のSTI 罹患率が
77 %が HIV 検査以外の性感染症(STI)検
高いにもかかわらず、その基本的知識や認識
査を実施している。また、実施施設のうち
が少なく、また、これらの性感染症の検査や
81 %がクラミジア検査、85 %が梅毒検査を
治療を受けることへの障壁が高い(例えば、
行っており、保健所において STI 対策が積
保険証を自分で持っていない、受診料が払え
極的に進めていることが伺われる。このよ
ない、STI への認識が低い)等の点から、保
うな HIV と STI 対策との連携は、国の示す
健所において、HIV検査とともにSTI 検査を
「後天性免疫不全症候群に関する特定感染
受けられることは、早期治療や感染予防の意
症予防指針」および「性感染症に関する特
義が非常に大きいものと考えられる。検査結
定感染症予防指針」の双方に合致するもの
果を早く知りたいという受検者の要望に答え
で望ましい方向である。これらの性感染症
るHIV 即日検査と、エイズを含むSTI の早期
の検査には、HIV迅速検査のように即日で実
検査と予防に重点を置いた性感染症対策事業
施できないものもあり、HIV 即日検査導入
との連携・分担に関しては、それぞれの地
によってこれらの事業が後退しないように
域特性を考慮して計画することが重要であ
工夫することが望まれる。
る。
2.保健所の H I V 即日検査導入の利点と留意点
5
3.HIV 迅速検査キットの特徴
◆迅速検査キット
血液を検体とするHIVスクリーニング検査
結果判定者はあらかじめ、各地の衛生研
用キットで、イムノクロマト法を原理として
究所等における研修でバンドの目視判定を
いる。検査開始後 15 分で目視により結果を
標準化しておくことが望ましい。また陽性
判定でき、1検体ずつの検査が可能である。
の場合には、複数人でバンドの有無を確認
平成 24 年 3 月現在、日本で認可されてい
する。
る迅速検査キットには、ダイナスクリー
(一般的に、見落としをおそれるあまり、
ン・HIV-1/2とエスプラインHIV Ag/Abの 2
非常に見えにくいラインまで陽性と判定す
種 類 が あ る( 表 2 )。 ダ イ ナ ス ク リ ー ン ・
ると、偽陽性が多めになる傾向がある。
HIV-1/2 は抗体検査法(HIV-1 抗体、HIV-2
偽陽性が1%を越えることが続く場合に
抗 体 が 検 出 可 能 )、 エ ス プ ラ イ ン H I V
は、キット製造上の問題か読みとりの問題
Ag/Ab は抗原抗体同時検査法(HIV-1 抗体、
が考えられるため、メーカーと相談するな
HIV-2 抗体、HIV-1 p24 抗原が検出可能)で
どの対処が必要である。)
ある。
◆検査結果と偽陰性
◆検体
迅速検査キットで陽性の場合は、この陽
ダイナスクリーン・HIV-1/2 は血清、血漿あ
性反応が本当の陽性であるか交差反応等の
るいは全血を50μl使用する。エスプラインHIV
偽陽性反応によるものかの判別が必要とな
Ag/Abは血清あるいは血漿を25μl使用する。
る。迅速検査キットでは偽陽性率はおよそ
◆判定
0.2 ∼ 0.5 % (HIV に感染していなくても
迅速検査キットの判定は、コントロール
6
ンドが確認できなければ陰性と判定する。
*
1000 人検査すると 2 ∼ 5 人が陽性を示す)
ラインおよび判定ラインに出現するバンド
存在する。即日検査で受検者に要確認結果
を目視で判定する。最初に、コントロール
を伝えることは、少なからず精神的不安を
ラインにバンドが出現したことを確認する。
与えるため、検査前にあらかじめ即日検査
(出現が見られない場合は検査不能である
が陽性であった場合の説明をしておくとと
ため、別のストリップで再検査を実施す
もに、迅速に確認検査が実施できる体制を
る。)次に判定ラインのバンドの出現を判
整えておく必要がある。
定する。ダイナスクリーン・ HIV-1/2 の場
* 以前のダイナスクリーン・ HIV-1/2 の偽陽性
合は判定ラインに赤いバンドが出現してい
率はおよそ 1.0 %であったが、最近の調査では、
れば陽性、赤いバンドが確認できなければ
0.3∼0.5%となっている。
陰性と判定する。エスプライン HIV Ag/Ab
◆追加検査
は判定ラインが 2 本あり(抗原判定ライン
迅速検査キットで陽性の場合、その場で
(G)と抗体判定ライン(B))、各ラインで
引き続き他の検査法による追加検査を行う
青いバンドが出現していれば陽性、青いバ
ことで偽陽性判定を減らすことが可能であ
3.H I V 迅速検査キットの特徴
る。追加検査は、迅速検査キットよりも検
の迅速検査キットで測定した結果、すべて
出感度の高い検査法を用いて実施する。
の検体ではっきりとした陽性のバンドが目
(注:追加検査を行う場合には、各検査法
視で観察され、スクリーニング検査に使用
の検出感度に注意して、真の弱陽性結果を
するために十分な検出感度を有することが
偽陽性と判定することがないようにするこ
確認されている。
と。特に、抗原陽性の場合、感染初期の可
能性があり、注意が必要である。)
感染初期の抗原、抗体の上昇期において
は、使用する検査キットの検出感度により、
偽陽性の頻度が高く、即日検査の結果返
陽性となる時期に多少の時間差が生じる可
しに追加検査の結果が反映できる施設で
能性がある。しかし、いずれの検査キット
は、偽陽性による受検者の負担を軽減する
においてもウインドウ期は存在する。この
方法として追加検査は有効である。(詳細
ため、受検者にはウインドウ期についての
は14ページ参照)
説明と、検査日がウインドウ期内にあり、
◆検出感度
検査結果が陰性であった場合には、ウイン
通常の抗体検査キットで陽性となった感
染者の検体 100 例について、前述の 2 種類
ドウ期後に再検査が必要となることについ
て十分な説明が必要である。
3.H I V 迅速検査キットの特徴
7
8
3.H I V 迅速検査キットの特徴
3.H I V 迅速検査キットの特徴
9
4.HIV 即日検査・相談業務の概要
■ 電話受付と事前説明
相談は後の検査前相談で行う。
●
相談前のアンケート調査によって、受
◆HIV即日検査の予約や問い合わせなどの電
検者の性・年代、心配している感染経
話受付では、感染の可能性が考えられる時
路、感染の可能性に関する情報、H I V
期の確認を行い、ウインドウ期および要確
即日検査に対する理解等を把握するこ
認検査に関する必要な説明を行った後に、
とができれば、利用者一人一人のニー
HIV即日検査・相談の検査受付を行う。
ズに応じた説明を容易に行うことがで
きる。これは説明時間の短縮にも役立
■ 当日受付
つし、今後の事業評価にも活用できる。
●
アンケート調査の項目としては、受検者
◆ HIV 即日検査・相談の流れをパンフレッ
の基本属性(性別・年齢)
、受検のきっ
ト・掲示物などを用いて説明する。相談前
かけ、心配している感染経路(性感染・
アンケート調査を実施する場合は、調査票
針刺し・輸血・その他)
、性感染の場合
(アンケート用紙)を渡し、記入を依頼する。
はセックスの相手(男性・女性・両方)
や行為(膣性交、アナル性交、オーラル
●
10
パンフレット・掲示物などを用いて
セックス等)
、また、感染機会と考えて
H I V 即日検査・相談の流れを説明し、
いる時から受検までの期間とウインドウ
その中にプライバシーの保護について
期間との関係や要確認検査に関する理解
も明記する。この場面では、流れの説
なども確認できるようにする。(53 ペー
明と調査の依頼に留め、理解の確認や
ジ資料3 様式6 参照)
4.H I V 即日検査業務の概要
4.H I V 即日検査業務の概要
11
学や生活をできることや、陽性の場合
H I V 即日検査・相談の流れ等に関する
に放置した場合には命に関わることが
パンフレット・掲示物・調査票(アン
あることなどを確実に伝えることが重
ケート用紙)、記入用のカウンターデ
要である。
スクまたはバインダー・筆記用具等を
●
必要に応じて知識の補足・修正と簡単
な相談を主に実施する。
準備しておくことが望ましい。
●
■ 検査前説明と理解の確認および相談
即日検査では、感染していなくても“要
確認検査”(迅速検査で陽性)となり、
確認検査が必要になる場合があるこ
と、またその場合は 1 週間後(地域に
よっては 2 週間後)に結果がわかると
いう点を検査前に説明し、理解を得て
おくことが重要である。
◆ HIV 即日検査・相談の流れ(採血→結果説
明待機→検査後の結果説明と相談)やそ
●
不安の非常に強い受検者への対応は、
の意味を理解しているか確認し、必要な
精神保健相談担当者等が別枠で対応す
知識の補足・修正と相談を手短に行う。
る。必要に応じて「NGO/NPO を含め
◆ HIV 即日検査に関する充分な理解に基づ
た地元の電話相談」の紹介など利用者
にあった種々の対応策を予め用意して
いた受検意思の確認を行う。
おき、他の受検者の相談時間にずれ込
●
●
12
HIV 即日検査・相談の流れは、受付時
まないよう留意する。神経症などが疑
に説明し、ここでは主にその確認を行
われる場合(例えば、検査のきっかけ
うとともに、一人で来たのか、配偶者
となる感染の可能性がない、陰性結果
や恋人、友人などと一緒に来たのかも
を何度得ても納得できない、不眠など
確認することも重要である。またその
身体症状が強い、などの受検者)は、
際、一緒に来た人に検査結果を知られ
精神科医療機関等への紹介等について
たくないかどうかも確認しておき、万
も考慮する。このような受検者につい
が一陽性だった場合には希望に添った
ては通常の検査の流れに必ずしも戻す
配慮が必要となる。
必要はない。
HIV 即日検査について検査前の調査票
●
受検意思の確認:“確認検査が必要と
等を用いて、HIV/エイズや HIV 即日検
なることがありうる”等の即日検査の
査・相談に関する基本的な理解を確認
特性を理解していることを確認し、受
する。特に HIV 陽性でも治療を受けれ
検に関する本人の意思を表明してもら
ばエイズを発症することなく仕事や勉
う。受検者が検査結果に対して心の準
4.H I V 即日検査業務の概要
●
備を整え、もし、確認検査が必要とな
できない。)また、針刺し事故を防げるよ
った場合にも、その結果をスムーズに
うに採血針の廃棄・保管方法を定めてお
受け入れられるように、検査前の段階
く。また、針刺し事故に備えた手順書と事
での充分な理解と受検意思の確認は極
故時の説明文書を整えておく。
めて重要である。そのため、HIV 陽性
指先穿刺による検査は、より簡便である
後の治療状況や治療費のおおよその目
が、採血量が少ないため、迅速検査の再検
安、NGO/NPO などのサポートもある
査や迅速検査陽性時には確認検査のために
こと、プライバシーが守られることな
再採血が必要となる。これは受検者への精
どを、印刷媒体も活用し伝えておくこ
神的負担を増強させるため、最初から静脈
とが重要である。
採血を行うことが望ましい。
相談事業の評価のための調査を行う場
合には、この場で趣旨説明と調査の依
■ 検査
頼を行う。
◆迅速検査(イムノクロマト法)
紹介機関のリスト(精神科医療機関の
平成 24 年 3 月現在、迅速検査キットとし
リストや性被害者、静注麻薬およびそ
て日本で認可されているキットとしては、
の他の薬物使用者に対する紹介先リス
ダイナスクリーン・ HIV-1/2 およびエスプ
ト等)も検討しておくことが望ましい。
ライン HIV Ag/Abがある。
検体量はダイナスクリーン・HIV-1/2 は
■ 採血等検体採取 50μl、エスプライン HIV Ag/Abは25μlを使
用する。マイクロピペットを用いて検体滴下
本検査は、静脈採血(血清、血漿または
部位に血清、血漿または全血(全血はダイナ
全血)および指先穿刺(全血)により採血
スクリーン・HIV-1/2のみ)を滴下する。検
された血液が使用可能である。
(全血はダイナ
査開始から判定までに15分を要する。血漿を
スクリーン・ HIV-1/2 のみ検査に使用でき
用いる場合は遠心分離の時間、また血清を用
る。)静脈採血を行う場合には滅菌済採血
いる場合は血餅凝固までの時間と遠心分離の
管を用いることとし、血管への逆流を防止
時間がこれに加わる。判定は目視で行うため
する手順を取る。採血管は、使用する検体
標準化を図る必要があり、判定者はキットの
が血清の場合は短時間凝固用分離剤入りタ
使用と判定のための技術研修を受けることが
イプ(採血から凝固まで 5 ∼ 10 分)、血漿ま
望ましい。また陽性例の判断にあたっては複
たは全血の場合は抗凝固剤が E D T A 液また
数人で判断できる体制が望ましい。偽陽性率
は C P D 液を使用する。
(ヘパリン液は確認
は約0.2∼0.5 %である。受検者に迅速検査の
検査での核酸増幅検査を阻害するため使用
陽性(要確認検査)結果を伝えることは、
4.H I V 即日検査業務の概要
13
少なからず精神的不安を与えるため、迅速
能である。迅速検査キットにダイナスクリ
に実施できる確認検査体制を整えておく必
ーン・ HIV-1/2 を用いた場合の検討結果で
要がある。また、偽陽性の頻度が高く、即
は、バイダスアッセイキット HIV デュオ II
日検査の結果返しに追加検査の結果が反映
では迅速検査の偽陽性例の多くを除外で
できる施設では、偽陽性による受検者の負
き、要確認検査例を大幅に減少させること
担を軽減する方法として、以下に述べる追
が可能であった。(40 ページ参照)
加検査の導入の検討を勧める。
◆スクリーニング検査段階で、迅速検査の
でに時間的な余裕があり、迅速検査陽性例
偽陽性を減少させるための追加検査(抗
に追加検査として抗原抗体同時検査をすぐ
原抗体同時検査法、抗体検査等)
に実施可能な施設においては、検討に値す
検査件数の多い施設では、迅速検査の陽性
る対策の一つである。
(要確認検査)事例への対策が特に重要とな
◆確認検査
る。迅速検査で陽性となった場合は確認検査
● 迅速検査はスクリーニング検査であ
が必要となるが、検査当日に別のスクリーニ
り、迅速検査で陽性の場合には確認検
ング検査キットを用いて追加検査を行うこと
査が必要となる。(迅速検査陽性であ
で、スクリーニング検査段階での陽性(要確
っても、抗原抗体同時検査等の追加検
認検査)事例を減少させることが可能である。
査で陰性の場合には、スクリーニング
迅速検査で抗体陽性の場合は、より抗体検
検査「陰性」と判定されるため、確認
出の感度が高い抗原抗体同時検査キットある
14
検査件数が多く、即日検査の結果返しま
検査は不要となる。
)
いは抗体検査キットを用いて追加検査を実施
●確認検査にはウエスタンブロット(WB)
する(図8)
。また、迅速検査で抗原陽性の場
法(抗体検査)および必要に応じて核
合には、
より抗原検出感度の高い抗原抗体同時
酸増幅検査(NAT)法(ウイルス検査)
検査キットあるいは抗原検査キットを用いる。
を使用する。
追加検査で陰性であれば、スクリーニン
●確認検査では、HIV-1 のみならず HIV-2
グ検査段階での迅速検査の陽性結果は偽陽
の感染の可能性も考慮する。また、感
性であったと判断できる。迅速検査の抗体
染初期のウインドウ期での見逃しを極
陽性例、抗原陽性例のどちらの場合の追加
力少なくする検査の選択が必要である。
検査にも使用できる抗原抗体同時検査キッ
●迅速検査陽性例の確認検査を迅速にか
トは現在 6 種類が発売されている。その中
つ精度高く行うため、抗原抗体同時検
の一つであるバイダスアッセイキットH I V
査等の活用も含め、広域的な相互協力
デュオ II(シスメックス・ビオメリュー社)
(保健所間や衛生研究所間の協力体制)
の場合、中型専用機器が必要であるが、1
や搬送体制を事前に整備しておくこと
検体ずつ検査可能で、80 分で結果判定が可
が望ましい。
4.H I V 即日検査業務の概要
4.H I V 即日検査業務の概要
15
■ 結果説明までの待機
味を理解し、それを受け入れるための支
援を行う。検査結果が陰性の場合と要確
◆結果説明までの待機時間を利用して、感
認検査の場合とに分けて下記に説明する。
染の可能性のある行動への理解や感染予
防のための行動変容を支援するための資
●
う保健所全体の環境整備を行っておく。
料提供(パンフレット・掲示物・ビデオ
視聴・コンドームの使用方法説明書の配
守秘について受検者が不安を持たないよ
●
結果説明時には、受検者の気持ちに十
布)等を行うことが望ましい。また、
分配慮した説明を行い、受検者に結果
HIV 感染症そのものについての情報(感
の意味を理解し、受け入れてもらうこ
染していても治療を受けることで元気に
とがまず大切である。
生活ができることなど)も提供できるこ
●
とが望ましい。
受検者との信頼関係を構築しやすくする
ために、検査前にかかわった担当者が引
き続き対応することが望ましい。(特に
要確認検査や確認検査で陽性の場合)
HIV 感染予防に関しては、行動変容に有
用な配布用パンフレット・掲示物・ビデ
●
陽性の受検者の相談用に、声が他に聞
オ・コンドームの使用方法説明書を準備
こえないような個室を準備する。また、
する。その他の提供資料として、性感染
相談に充分な時間を割くことが大切で
症の情報や MSM、セックスワーカー、
ある。また、待合で待機中の人に、検
外国人、性被害、静注麻薬およびその他
査結果を伝える時間の長短と検査結果
の薬物使用に関する資料も準備してお
が関連しているように感じられぬよ
く。身近で利用できるサービスについて
う、人の誘導、空間配置を工夫する。
の情報が含まれていることが望ましい。
特に、夫婦・恋人や友人と一緒に来た
また、予防に関しての情報と共に、仮に
場合には、検査結果を伝える時間の長
HIV 陽性であった場合でも、治療により、
さによってお互いの結果を推測するよ
生活や仕事が継続可能なこと、治療費に
うなこともあるため、一方のみ陽性の
関しても社会制度を利用可能なことなど
場合には両者に同じくらいの時間をか
も伝えられる資料を準備しておくことが
けるなどの配慮も必要となる。
望ましい。
■ 検査後の結果説明と相談
◆検査結果を伝え、受検者の理解度に合わ
せた説明を行う中で、受検者が結果の意
16
4.H I V 即日検査業務の概要
5分∼30分(目安)
◆結果が陰性であったことを明確に伝え、
その意味の理解を確認するとともに、今
後の感染予防行動につながるよう支援を
ことや治療費の目安、これまでの生活が
行う。
治療により可能なこと、確認検査の結果
が出るまでの間にも利用可能な相談窓口
●
理解を確認し補足修正すべき項目:ウ
があることなどを伝える。
インドウ期(検査の 3 ヶ月以内に感染
可能性があった場合には即日検査で陰
●
●
確認検査が必要となるケース(要確認
性になることがありうるので、確認す
検査)があり得ることについては検査
るには再受検が必要なこと)、陰性結
前に十分説明し、理解を得ておくこと
果がこれまでの行動の安全性を保証す
が結果をスムーズに理解してもらうた
るものではないこと、即ち今後の行動
めに極めて重要である。
によっては感染の可能性が生まれるこ
●
不安の強い受検者には別枠で相談を行う。
と等。
●
説明者は要確認検査の内容と意味とを
相談項目:コンドームの使用やその他
十分理解した上で、受検者の理解度に
実践している感染予防行動、セックス
合わせて必要な説明を行い、確認検査
パートナーへの検査結果説明、セック
の必要性と結果を聞きに来ることの重
スパートナー等への H I V 検査・相談利
要性を理解してもらう。
用の薦め。
●
理解を確認し補足修正する項目
再来が必要なこと:確認検査結果を聞
くための再来所の意思確認、結果を伝
える日の予約を行う。
10分∼30分(目安)
再来所までの支援:確認検査の結果を
(不安の強い受検者や MSM など陽性の可能
聞くため再来所するまでの間に連絡や
性の高い受検者には、時間を延長するか別
相談が必要となった場合の連絡先や他
枠で対応する。)
の相談窓口(保健所等実施機関やエイ
◆今回の検査では結果が確定できなかった
ズ予防財団、NGO/NPO の電話相談や
派遣カウンセラー等)の紹介を行う。
ため、別の検査法による確認検査が必要
なことと、結果を聞くために再度の来所
が必要なことを伝える。
◆再度来所する日時と手順の確認、次回来
●
確認検査で結果が陽性となった場合に
ついて質問があれば、H I V 感染症は早
期発見による治療が有用で、現在長期
所するまでの相談先の案内を行う。
に発症を防げる疾患となりつつあるこ
また、万が一 HIV 陽性だった場合への準
と、医療費補助や社会保障制度の活用
備のための情報提供をする。具体的には
が可能であること、希望により受診先
HIV 感染とエイズの違い、治療が可能な
の紹介ができること等を説明する。
4.H I V 即日検査業務の概要
17
●
要確認検査を陽性と受け止めている様
子が見られる場合には、今回の検査で
は感染を確定できないことを再度説明
するとともに、受検者の様子と希望に
よって、上記のように早期発見治療の
有用性や H I V 医療の進歩、社会保障制
◆陽性結果を明確に伝え、陽性の意味(H I V
度等に関しても説明する。(受検者の
に感染している)を説明する。感染の受容が
中には、他の施設で陽性の結果を得て
促されるよう、受検者の反応や状況に合
いるケースもあり得ることも想定して
わせて下記の確認や補足説明等を行う。
おくことが必要である。)
●
迅速検査陽性で要確認検査となった受
疾患についての説明
検者には、感染していないのに迅速検
H I V 感染とエイズ発症の違い、治療法
査で陽性(偽陽性)となる偽陽性者が
の進歩について説明を行う。
含まれるので、確認検査をせずに直ち
(要確認の結果通知時に充分な説明が
に医療機関を紹介するのは通常は望ま
してあればその内容の復習で済む。)
しくない。
受診についての情報
早期受診の意義と初回受診までの具体
受検者から要望のあった時のために、
的流れを説明し、希望に合わせて紹介
医療機関リスト、病院の地図、エイズ
状作成や受診医師への連絡などの手続
担当診療科と医師名、紹介状書式、エ
きを行う。医療機関のリストを示すと
イズ専門派遣カウンセラーやその他の
ともに選択肢の多い場合には、各医療
利用可能なサービスや相談先のリス
機関の特徴(場所、病院かクリニック
ト、感染者向けパンフレットなどを準
か、診療日等)をできるだけ具体的に
備しておくことが望ましい。
分かるように提示し選択しやすい支援
を行う。
今後についての確認
5分∼30分(目安)
帰宅の手段、帰宅後の相談可能な相手
の有無、希望者にはエイズ専門派遣カ
◆確認検査の結果、陰性であることが確認
できたことを明確に伝える。
◆後は、迅速検査での陰性結果の説明と相
談に準じる。
18
4.H I V 即日検査業務の概要
ウンセラーや NPO の陽性者向け相談の
紹介や次回面談の希望と日取りを決め
る。
資料の提供
ットなどで必要な情報が、後で確認で
きるように、読める形のものを手渡す。
感染者に有用な情報が記載されたパン
フレット、紹介状など
●
受検者の状況、希望により医療費補助
や各種福祉制度・エイズ治療の概要、
受検者自身とセックスパートナーへの
●
受検者の動揺が激しい場合、感情的反
今後の感染予防等に関する説明や相
応への対応に充分な時間をかけ、精神
談、感染者支援 N G O/N P O 紹介、な
状態が安定するまで見守ることが望ま
ども行う。
しい。また、同時に治療すれば今まで
●
●
他のサービスなどの紹介:神経症、性
の生活が続けられるというメッセージ
被害、性依存症、アルコール依存症、
を明確に伝えることも必要であり、担
静注麻薬やその他の薬物使用、HIV 以
当者が冷静に対処することも重要であ
外の性感染症など他のサービスが必要
る。
な場合、専門家や専門機関を紹介す
受検者が陽性結果を受容し、心理的な
る。
危機を減らすために、一方的に説明す
●
●
るのでなく、受検者の反応に合わせ充
事前にエイズ診療拠点病院の担当医師
分な時間をかけて対応することが重要
やエイズ NGO/NPO、エイズ専門派遣
である。(動揺・不安が特に強い受検
カウンセラーなどと協力を確認し、医
者の場合には、当日帰宅時および帰宅
療機関リスト、初診の流れや担当医師
後の対応について特別な配慮が必要で
名、病院の地図、紹介状、エイズ専門
ある。)
派遣カウンセラーリスト、利用可能な
結果の明確な伝達、受検者が感染とい
サービスや NGO/NPO の電話相談所の
う新たな状況に対応することへの援
リスト、感染者向けパンフレット、他
助、受診へのつながり等の内容などに
の陽性者の置かれている状況が分かる
ついて、医師、保健師、エイズ専門派
感染者の手記や語り、陽性者向けホー
遣カウンセラーなどでそれぞれ分担し
ムページのアドレスなどの資料を予め
て行ってもよい。
準備しておくことが望ましい。
心理的な整理などに時間がかかり、す
ぐに受診しないような受検者には、受
診するまでの相談窓口を提案・紹介
し、受検者とのつながりを確保してお
くことが重要である。
●
紹介状、受診日時・連絡先、パンフレ
4.H I V 即日検査業務の概要
19
HIV 陽性告知担当者に求められる態度について
HIV の検査や HIV 陽性告知をされた人を
■ HIV 告知担当者の対応への印象を
対象とした調査結果 * によれば、陽性告知
プラスにする態度
をされる側は HIV 陽性告知担当者の対応に
ついて、下記に示す告知担当者の人柄や印
●
落ち着いていた
象をもとにその良し悪しを判断している。
●
信頼できる感じがした
すなわち、告知担当者の人柄や対応への印
●
私の気持ちを配慮してくれた
象は、告知をされる側からすると、対応へ
●
親身に接してくれた
の評価を決定的に左右することになる。ま
●
私の事情に合わせて対応してくれた
た、こうした告知担当者の対応への印象の
●
質問や話がしやすい態度だった
良し悪しによって、感染経路にかかわるこ
●
セクシュアリティについて理解があるよ
とを告知担当者に率直に伝え感染予防にか
うに思えた
かわる話をすることができたり、あるいは
できなかったりという結果につながること
■ HIV 告知担当者の対応への印象を
マイナスにする態度
になる。
よって、告知担当者は、こうした事項に
ついて十分自覚しておく必要がある。事前
●
自信がなさそうだった
の準備としては、ロールプレイなどを通じ
●
かかわりたくなさそうな感じだった
て観察者やクライアント役の人などに問題
●
ずかずか踏み込んでくる感じがした
点を指摘してもらい、振り返りの場を設け
●
高圧的な感じがした
るというのが良い方法であろう。
●
責められている感じだった
*井上洋士他、239 人の HIV 陽性者が体験した検査
と告知、特定非営利活動法人ぷれいす東京、日本
HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス、2011.
20
4.H I V 即日検査業務の概要
5.人員・体制
■ 担当者と分担業務
■ 精神保健専門職等による支援体制 ◆採血と検査が可能な保健医療職(医師、
◆即日検査の導入にあたり受検者増への対
保健師、看護師、臨床検査技師等)が必要
応とともに、不安神経症など専門的相談を
である。また、迅速検査は目視による判定
必要とする利用者への対応にも備えておく
であるため、判定の標準化のために複数人
ことが重要である。また、当日の別枠での
が地域の衛生研究所等で研修・訓練を受け
相談体制や専門的機関の紹介体制を整えて
ておくことが望ましい。
おくことが望ましい。このため、保健所で
◆検査前相談および結果説明の良否は、事
実施する場合は精神保健相談での対応や、
業の有効性を左右するものであり、個々の
紹介できる精神科医療機関等を事前に確保
受検者のニーズに合わせた説明・相談がで
しておく必要がある。別枠の相談体制が取
きるように訓練を受けた人員が必要であ
れない場合は、精神保健相談を行える担当
る。この際、検査・相談担当者がすべての
者が対応することになるが、他の受検者の
相談を受け持つのではなく、精神保健相談
相談時間が圧迫されないよう配慮すること
との連携や適切な紹介先の確保によって、
も重要である。また、薬物濫用やレイプな
相談者の必要に合わせた相談体制を整える
どの性被害相談など専門的な対応を要する
ことが望ましい。職種としては各種保健所
受検者への対応窓口も事前に確認しておく
専門職員(医師、保健師、看護師、精神保
ことが望ましい。
健福祉士、臨床心理士、臨床検査技師、診
◆担当者間同士で相談内容や困難事例につ
療放射線技師等)およびエイズ専門派遣カ
いて話し合い、相談事例を振り返る機会を
ウンセラーが考えられる。現在 H I V 検査実
設けることは、お互いに体験を共有化する
施施設の多くで、これらの多職種の関係者
とともに、担当者の精神的ストレスを軽減
がHIV検査・相談事業を担当している。
する機会ともなる。
◆即日検査の導入による検査希望者の増加
◆相談技能を向上させるため、相談担当者
に対応する方法として、多職種の担当者に
に対する精神保健専門家による相談・支援
よる対応の他に、ボランティア等、実施施
の体制を整え、通常のエイズ研修に加え、
設外の人的資源の活用も検討課題である。
精神保健専門家による継続的な指導や研修
(なお、米国では、研修を受け認定された
等を受けられることが望ましい。精神保健
ボランティアが検査前後のカウンセリング
専門家による相談担当者への指導や相談援
の基本を担当している。資格更新のために
助のためには、エイズ専門派遣カウンセラ
年 1 回の研修受講の義務付け等サービスと
ー制度の活用や、
県精神保健福祉センターや
担当者技能の維持向上のための研修・認定
県臨床心理士会等との連携が有効である。
プログラムが整っている。)
5.人員・体制
21
■ 検査・相談担当者への研修等
向上への努力が求められる。エイズ関連
NGO/NPO は H I V 感染者や MSM(男性と
H I V 即日検査を実施する場合、検査・相
22
の性交渉を行う男性)などとの関連が深く、
談の質を保証するために、担当職員等に対
それぞれの活動の特徴を活かした研修を提
して表 2 に示すような内容の研修を行うこ
供している。国・都道府県等の行政機関が
とが望ましい。
行う研修に加え、エイズ NGO/NPO の提供
HIV 検査においては、受検前から長く悩
する研修の活用も有用である。また、当研
んでいたり、男性間の性交渉について尋ね
究班では、保健所、特設検査機関、医療機
られることを気にしていたり、コンドーム
関における HIV 検査相談の担当者を対象と
を使いたいがうまく言えないなどの悩みを
した「HIV 検査相談研修ガイドライン」を作
もっているなど、様々な不安を抱えている
成したので参考とされたい。
(58 ページ参照)
受検者が多い。担当者間でのロールプレイ
H I V 即日検査をエイズ性感染症対策の一
による研修はこのような心理状況の理解に
環として実施するためには、H I V 即日検
役立つ。また、受検者の満足度アンケート
査・相談に直接従事しない職員も、必要に
等も活用し、説明および相談技術の維持・
応じて研修を受けることが望ましい。
5.人員・体制
6.時 間 配 分
保健所での HIV 検査相談における説明相
に応じてその段取りを考えておくことが望
談に要すると思われる時間配分について
ましい。下記に参考までにその時間配分の
は、予めそれぞれの保健所等における実情
一例を示す。
採血・検査担当を 2 人とし、相談につい
て 3 名で対応する場合、最大 15 人を 13 時∼
の時間枠は平均30 分となる。
予約制とした場合、4 人が相談に対応し、
15 時半までの 150 分間に 3 人で並行して対
1 人あたり 30 分の枠を取ると、13 時∼ 16 時
応すると、受検者 1 人当たりの説明・相談
までの3 時間で24 人の枠ができる。
7.保健所等における検査相談の実施例
実際に保健所や特設検査機関で行っているHIV検査相談の実施例を示す。
6.時間配分 7.保健所等における検査相談の実施例 23
24
7.保健所等における検査相談の実施例
7.保健所等における検査相談の実施例
25
26
7.保健所等における検査相談の実施例
7.保健所等における検査相談の実施例
27
8.構造・設備
個人情報やプライバシー保護のため、相
談内容が他の受検者等に分からないような
構造が必要である。また地域特性や必要に
応じて、受検者同士が顔を合わせることの
ないように、検査・相談実施場所における
人移動の行程を考慮することが望ましい。
陽性者には相談の時間が充分とれる部屋
を用意しておく。
9.リスク管理
本事業は、医療事故の可能性がある採血
を含み、受検者への精神的負担が大きい検
く番号等により結果を扱うため本人確認、
査である。採血時の血液漏れによる痛み等
検体との一致や結果の渡し間違いがないよ
の事故、従事者等の針刺し事故、採血機器
うなチェック体制を整える。また、高度の
の汚染等による感染事故、検査結果の取り
機密性が要求される HIV 検査結果の保管・
違え、検査結果の流出、陽性通知後のショ
管理を定めておくとともに相談内容の守秘
ックによる交通事故や自殺等が、本事業に
性を確保するため、医療職以外の従事者へ
関連する主なリスクと考えられる。
も十分な説明を行うとともに誓約書等によ
感染事故、医療廃棄物管理、針刺し事故
る確認を行う。これら相談・検査のリスク
等を未然に防止することを目的とした教育
管理と質の維持・評価のために事業の責任
および推進体制を整え、これらが発生した
者を明確にしておく。
場合の緊急対応等の体制も事前に決めてお
28
く必要がある。匿名検査であり、氏名でな
8.構造・設備 9.リスク管理
10.事業広報(プロモーション)
HIV 即日検査は、エイズ対策の一環であ
医療の進歩、国及び地域における HIV /エ
り、また STI 対策の一環でもある。従って、
イズの発生動向、地域で行っているエイ
これらの事業との相乗的効果を念頭におい
ズ・性感染症対策の情報等がある。
て実施することが望まれる。また、HIV 即
日検査を適切にかつより効果的に行うため
■ 電話等による受付
には HIV 即日検査実施の管理体制を整備し
ておくことが必要である。当日に実施する
予約制の場合には電話等による受付を行
業務以外の関連業務については、HIV 診療
い、予約表等を作成し、重複が生じないよ
機関や精神保健専門機関等の関連機関と連
うにする。エイズ性感染症の相談に備え、
携し、事前の調整を行っておくことが望ま
Q&A を準備する。また、電話受付に関して
しい。特に、本事業の目標を踏まえ、効果
も、広報に具体的に分かりやすい記述で案
的な広報を行うことは重要であり、他の事
内する必要がある。
業や関連機関との連携でより有効な広報を
実施することが望まれる。
■ 事業の広報
ホームページ、電話帳、広報誌あるいは
マスメディアによる広報を積極的に行うこ
とで利用者の増加をはかる。これらの広報
はエイズに関する啓発ともなるので、エイ
ズ・性感染症検査受検に肯定的なイメージ
を付与するために、「HIV 検査受検は、自ら
の早期発見・治療とともに、知らない間に
誰かに感染を広げてしまうことを避けられ
る、心ある決断です」等のメッセージを加
える。広報には、即日検査の特徴として、
無料・匿名であること、プライバシーを守
ること、検査当日に HIV 検査結果が判明す
ること、陰性の場合は保健所に再来所の必
要性がないこと、陽性の場合には確認検査
後に正確な結果を 1 ∼ 2 週間後に知らせるこ
と、等を挙げる。また関連した情報として、
10.事業広報(プロモーション)
29
11.評価と活用
■ HIV 即日検査・相談事業評価の基本
的考え方
表3
HIV即日検査・相談事業における評価
本事業は、即日検査という利便性の高い
方法を導入することで、今まで HIV 検査を
受けにくかった潜在的な希望者にも検査・
相談の機会を提供し、エイズ対策に寄与し
ようとするものである。そこで、検査・相
談の質を確保するとともに、導入した検査
相談がどの程度効果があったのか、導入前
に想定した目標に一致しているのか、効率
的に提供されているかを点検し、改善して
いくことが重要となる。
このために必要となる基礎的な統計数値
は、常時作成する業務の記録に組み込んで
■ 検査結果
おくと継続的に把握でき、また容易に点検
ができる。例として、検査記録、相談記録
検査は目視による判定であるため、検査技
の他に、受検者の検査前の説明・相談の際
術に加え判定についても精度の保証が求めら
に得たアンケート結果を利用することがで
れる。このため、技術的な正確さの精度管理
きる。基本的項目を表 3 に、質問票の例を
に加え検査実績による検査精度の点検も重要
53 ページ(資料 3 様式 6)の 「検査前の質
である。検査件数および、迅速検査の陽性数
問票の例」に示した。実際に用いる質問票
と陽性率、確認検査の陽性数と陽性率を把握
は、利用者や地域の状況に合わせて項目を
し、これら検査結果の数値からも検査精度の
検討し、保健所等の実施機関が作成する。
妥当性を評価することが重要である。
受検者への質問票には、個人情報保護の
現在使用されている迅速検査キットの偽陽
観点から、①検査前後のアンケート結果は
性率はおよそ0.2∼0.5%であり、これを大きく
事業改善のために集計・分析し用いる場合
上回る(1%以上の)場合は、検査試薬のロッ
があること、②回答したくない場合は回答
トに問題があるか検査技術や目視の判定に問
しなくてもよいこと、③個人が特定される
題がある可能性があるので検討が必要である。
形では用いられないこと、を示した上で必
確認検査陽性数と陽性率は受検者の中にどれ
要に応じて説明を補足し協力への同意を求
だけHIV感染者が存在するかにより大きく異な
める。
る。
(保健所等のHIV 検査(確認検査)での平
均陽性率はおよそ0.3%である。39ページ参照)
30
11.評価と活用
■ 利用状況
るため、アンケート回収箱の設置場所を工
夫するとともに、落ち着いてアンケートを
H I V 即日検査を導入することによって利
記入できる場所を設けることが望ましい。
用者が増加する場合が多く、利用者増は事
業評価の重要な数値でもあるが、さらには
■ 事業の効果
導入に当たって想定している利用者と実際
の受検者がどの程度一致しているかについ
自発的 H I V 検査・相談事業の主な目的
ても、受検者へのアンケート結果を定期的
は、感染の早期確認による早期受診、H I V
に調査し、その結果を検査体制や広報の方
感染予防のための行動変容への働きかけで
法の改善に活かすことが望まれる。
あり、広い意味では検査・相談事業を通じ
現在の日本での感染者報告の過半数は同
性間の性的接触による感染であり、若年者
て受検者と国民にエイズそのものへの理解
を広く促すことである。
での報告も増加しているが、かなりの地域
H I V 検査・相談事業の効果の一環とし
差がみられる。それぞれの地域における特
て、陽性者が医療を早期に受診出来たかど
性を考慮した上で、受検者の来所理由、年
うかを把握することは重要である。また、
齢や居住地域に関する情報、事業に関する
感染がわかってもすぐには受診できない陽
情報の入手先等のアンケート項目を定期的
性者については、相談の継続と、それら相
に集計・検討し、その結果を、準備資料や
談継続者数の把握が重要である。さらに、
担当者の予備知識、広報の方法にも反映さ
精神医療など各種医療機関等への紹介数と
せることで、その後の事業を改善すること
実際の利用実績も把握しておく。これらの
ができる。
事業実績を記録するとともに、その内容を
さらに、エイズや性感染症対策の一環と
しては、エイズや性感染症への理解の浸透
度を知るための目安としてもアンケート結
果を役立てることが可能である。
総合的に検討して紹介体制や準備資料の改
善に活かす。
予防への働きかけの効果は、受検者の予
防行動変容の程度で評価されるが、日常的
なアンケート調査でこれを評価するのには
■ 利用者の満足度
限界があるので、目的を明確にした調査・
研究で補うことが望ましい。通常行うアン
説明終了後にアンケート調査を行い、説
ケート調査の予防行動に関するデータを用
明の理解度、相談のしやすさ、プライバシ
いて、2 回目より複数回受検者で改善して
ーの守秘等に関する受検者の満足度を尋
いるかどうかを調べることができる。また、
ね、説明相談や待合方法などの改善にその
検査・相談の前後の質問票に同一項目を入
結果を活かす。アンケートの回収率を上げ
れて知識の変化を評価することができる。
11.評価と活用
31
32
検査・相談やエイズの理解促進への効果
対象としたアンケート調査の機会があれ
は、エイズの医療や社会支援など一般知識
ば、検査相談の利用経験、事業の周知度や
の増加、受検経験者から紹介された受検者
エイズの一般的知識・意識を調査項目に加
数などで計れる。また、広く県民、市民を
え、事業効果を調査することもできる。
11.評価と活用
資 料
33
34
資 料 1
資 料 1
35
36
資 料 1
資 料 1
37
38
資 料 1
資 料 1
39
40
資 料 1
資 料 1
41
42
資 料 1
資 料 1
43
44
資 料 2
資 料 2
45
46
資 料 3
資 料 3
47
48
資 料 3
迅速スクリーニング検査では、検査試薬の非特異な反応により、1000人に2∼5人くらいの割合
で、感染していなくても陽性となることがあります(これを偽陽性と呼びます)。このため、
この偽陽性
かHIV感染による本当の陽性かを確定するためには、
さらに精密な検査(確認検査:ウエスタンブ
ロット検査等)
を行う必要があります。この確認検査は専門の検査・研究機関で行います。
資 料 3
49
50
資 料 3
即日検査の結果が陽性であったため、慎重に精密な検査を行った結果、確認検査でも
陽性であること(HIVに感染していること)が確認されました。
現在は、治療法の開発がすすみ、感染していても健康を回復・維持することができる
ようになりました。現在の体調に問題がない方も、専門的な治療を提供できる医療機関・
医師のもとで、まず「現在の健康状態の把握」を行い、「今後の健康管理と治療の相談」
をしてください。受診する病院や医師は自由に選ぶことができます(後で変更もできます)。
保健所でもそのような専門病院の紹介を行っています。また、都合で紹介病院と異な
る病院に行くことになっても問題はありません。
最新の医療情報に基づき適切なアドバイスを受けることができます。治療の主な内容は、
定期的な血液検査と内服薬の服用です。薬の処方は、血液検査の結果や個人の生活スタ
イルを考慮してその内容や服薬時期が決められます。
高額医療費・障害認定・更生医療など、検査や治療にかかった費用を補助する制度が
あります。保健所職員あるいは専門病院の医療相談員やナースにおたずねください。
医療における個人情報は保護されています。あなたに無断でご家族やパートナーに知
らせることはありません。安心して医療機関や各種サービスをご利用ください。
この分野の医療は日進月歩です。新しい情報、正確な情報を主治医や医療スタッフか
らあるいは信頼できる情報源からお聞きください。また、インターネットからも数多く
の情報を得ることができますが、その情報が正しいものか、最新のものかについては主
治医や医療スタッフに必ず確認してみましょう。
食事・入浴・施設の共用など日常生活で感染することはありません(感染力をもつもの
は血液・精液・膣分泌液・母乳等の体液だけです)。したがって、日常生活で特に制限の
必要はありません。多くのHIV陽性者が仕事や勉学についてもこれまでと同様な生活を継
続しています。ただ、あなたの体調によってはいろいろな感染症にかかりやすくなってい
る場合もありますので、体調維持のため衛生的で規則正しい生活を心がけてください。
セックスでは相手に感染させるおそれがあります。コンドームを使用するなど予防を
確実に行うよう十分気をつけて下さい。また、既に感染の可能性のあるパートナーがい
る場合には、できることなら検査を受けることをすすめてください。そして、予防を確
実に行うことで恋愛や結婚も可能です。
資 料 3
51
52
資 料 3
資 料 3
53
54
資 料 3
資 料 4
55
56
資 料 5
資 料 6
57
58
資 料 7
資 料 8
59
60
資 料 8
資 料 8
61
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