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第Ⅱ部 地震・津波(自然災害)から命を守るために!
第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 第Ⅱ部 地震・津波(自然災害)から命を守るために! @平成 24 年(2012 年)広島地方気象台 気象庁マスコットキャラクター はれるん ○はじめに 自然災害の現状と防災(危機管理)とは? 自然災害による犠牲者は減っているのか? 我が国においては、戦後の荒廃期・復興期には、犠牲者は甚大であったが、我が国最大級の自然災害で ある昭和 34 年(1959 年)伊勢湾台風(死者 5,101 名)を契機に災害対策基本法が制定(昭和 36 年)され て以降、総合的な防災施策が推進され、犠牲者は減少。 一方、ここ 20 年程度において、自然災害による犠牲者は、減っているわけでもない。 何故犠牲者が減少しない?例えば・・・頻発する集中豪雨 近年温暖化などの影響もあり、短時間に大雨の降る回数が増えている。(多雨と少雨が極端に表れてい る。)その結果、今までの災害を基準に整備してきた防御機能を超える想定外の災害が起こってきている。 いつ、どこで起こるかわからない地震。日本は世界有数の「地震国」 地震が何よりおそろしいのは、とつぜん起こること。残念ながら現在の技術では、地震がいつ、 どこで起こるか、予知できる可能性があるのは「東海地震」だけ。また海底で大きな地震が発生す ればするほど大きな津波が発生し、東日本大震災のように大きな被害をもたらす。 日本は、世界の面積の1%にもならない国なのに、日本列島とその周辺では、世界の地震の約10% が発生左下図)。体に感じない小さな地震まで含めると、例えば平成20年(2008年)では、年間 約12万回も発生しているように、いつもどこかで地震が起こっている(右下図)。 このように日本は世界で有数の地震国であり、地震や津波に対しては、日本に住 んでいる限り、安全な場所はありません。 ◆世界の地震分布 ◆日本列島とその周辺の地震活動(2008年) 昭和63年∼平成19年(1988年∼2007年) 点はマグニチュード5.0以上 深さ100kmより浅い地震が起こった場所 丸はマグニチュード0以上 深さ90㎞より浅い地震が起こった場所 *USGS(米国地質調査所)のデータをもとに、気象庁が作成 広島地方気象台作成 上図出典:地震調査研究推進本部パンフレット「地震を知ろう」 -1- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 では、自然災害で命を落とすのは運命なのか? 突然襲ってくる地震や津波などの自然災害で命を落とすのはその人の運命なのでしょうか? 次の内閣府が公表している平成16年に発生した風水害教訓情報資料集より考えてみましょう。 平成 16 年台風第 16 号による主な人的被害 51 歳女性が突風にあおられ屋根から転落し死亡 脚立から転落したとみられる 82 歳男性が死亡 71 歳男性が屋根から転落し死亡 自転車で走行中に飛んできた木が腹部に当たる等して 58 歳男性が死亡 残念ながら御高齢の方が多いですね。台風が近づいて雨風が強くなってから、屋根が飛びそうに なって屋外で応急措置を始めたり、先祖伝来の大切な田畑で丹精込めて育てた作物が気になって見 に行って、増水した側溝などで溺れるというケースですね。 でも、よく考えて見て下さい。この方々は、正しい防災知識があって、災害に会う前 に正しい行動をしていたら、助かっています。すなわち自然災害で命を落とすのはその人 の運命では決してないということです。 自然災害で命を落とすのはその人の運命では決してない一例としては、第Ⅰ部でも紹介したよう に、東日本大震災のあった東北地方三陸沿岸では、何度も大きな津波に襲われていることから、個々 の命だけは守るために大変非情ですが、 「津波てんでんこ(人にかまわずてんでばらばらに逃げろ)」 という教えが根付いており、今回もこの教訓を守って助かった方がいらっしゃいます。 では、人間はなぜ、こんな行動をしてしまうのでしょうか? それは、人間誰でも持っている心理に「正常化の偏見」、すなわち「自分だけは 大丈夫!(自分だけ!は助かるさ)」というものがあるのが一つ大きな原因です。 これは自分の都合の悪い情報は無視したり、過小評価してしまう人間誰も持っている特性で、その結果、避 難指示・勧告や警報の無視・軽視、避難の遅れを招くものです。 一つの例ですが、皆さんは気象台が例えば皆さんの市町に対して「大雨警報」が出た時は、どの 位重大な事だと思ってらっしゃいますか?実はこんな質問をしたのは、皆さんは「な~んだ、また 警報が出ている。どうせ外れるし、先祖代々この家は安全だったって聞いているし、家には関係な いよ!」という、そこまでひどくはないですけれど、そんなに大変な事だと思ってない方が多いの ではないでしょうか。 でも、気象台が「大雨警報」を発表するということは、「発表した地域のどこかで、大雨で浸水 したり、崖崩れが起こったりして、家が土砂で埋まって、亡くなる人が出るかもしれない。」とい うことの警告なのです。この重みを理解していざという時に大切な皆さんの命を守っていただくた めに、わたくしたちは予測精度の向上とともに、警報の利用の仕方を周知・広報していく、日々努 力をしているのですが、「今日もまた警報が出ている」位な方もいらっしゃると思います。 そんな個々の認識の違いもあると思いますが、いよいよ自分のところに土砂降りの雨が降ってき たりしてから、先に御紹介したような命を落とす不適切な行動に繋がってしまうのです(想起でき ない自らの被災)。 警報など自分の身が危ないなどという嫌な情報が入ってきた時、人間は「自分だけは大丈夫」の 心理と「逃げなくてはならない」という心理が葛藤します。これを心理学では「認知不協和」とい います。自分の中で2つの違う行動を起こさなければならない心理があるととても気持ち悪いので、 -2- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 多くは逃げなくてもいい理由をさがして安定させます。それが例えば「気象台の予報、警報はいつ も外れる」、「先祖代々この家は大雨の被害はない!」、「周囲が逃げていない」などなんでもい いから理由を見つけて、逃げない自分を正当化させてしまうのです。 もう一つに被災体験があっても適切な回避行動ができない(経験の逆機能) これは以前被災した災害のシナリオと違うことが起こると不適切な行動を執ることがあります。 例えば次のようなケースです。 1896 年 6 月 15 日明治三陸地震大津波では、最大震度3以下の揺れの後大津波に襲われ、約 22,000 人方々犠牲となった。この時助かった方々の中に「強い揺れがなかった」をはじめ「あの 時は雨がいかにも降りそうだった」「津波が来る前にこの井戸が枯れた」などの体験談が継承され た。1933 年 3 月 3 日昭和三陸地震大津波では、前回の経験も活かされ犠牲者は 3,000 人強であっ たが、前述の体験談を聞いて育った子どもたちが、その状況にならなかった(天気は晴れ、その井 戸枯れていない、最大震度5の強いゆれに襲われた)ので命を落とされた方がおられた。 さらに、一度災害が発生すると「異常化への偏見」という心理がはたらきます。 これは災害への「異常な」関心が、全てのことをこれからもっとすごい災害が発生するなどの 情報へと結びつける心理的傾向へ導き、情報の誤解やひずみもたらし、現在は特にインターネット や携帯電話の普及によるチェーンメールにより「流言飛語」が拡大し、結果として無用な買い出し 等過剰な行動、混乱が発生します。 今回お話する内容 自然災害への防災=危機管理(兵法として) まず「敵」と「己」を知ること!(情報収集、共有) ~平素から正しい知識を持って、正しく怖れる~ 己:人間の持っている心理特性。 敵:どのような災害を起こすのか? 己、敵:どのような災害の危険性がある環境に居るのか?危険箇所の把握。 ↓ PDCAサイクル ↑ 平素からの備え:防災計画(戦略) → 訓練→ 検証 → 改善 ↓ 自然災害発生!(作戦遂行) でも、想定外の災害が起こることもありうる! 正しい情報を入手し、先手先手を読み、迅 速なかつ的確な意思決定! -3- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 すなわち、まず「居安思危」の実践を行っていただくことが「備えあれば患い無し」へ繋がる! 日本では防災(危機管理)と言えば「備えあれば患いなし(有備無患)。」しかし、有備無患とは三段論法の最後であり、最も 大事なのは一段目の「居安思危」である。 余談:これは「釜石の奇跡」の片田教授より重要であると伝授されたもの。 こ あ ん し き し そ く ゆ う び ゆ う び む か ん 居安思危 思則有備 有備無患 安きに居りて危きを思う 思えばすなわち備えあり 備えあれば患い無し 出典:「春秋」の注釈書「春秋左氏伝」 左丘明の作と伝えられる 春秋:孔子※の編集史書。前 480 年の編集と伝えられる年代記 ※孔子らは儒学の思想家であるが、春秋・戦国時代の群雄割拠する中、国を如何に守るのかなど「兵法」「危機管理」等を説いた者でもある。 まず大事なのは、平穏な日々だからこそ、自分の命が危ない事を不用意に怖れるのではなく、想像力を最 大限働かし、災害経験や正しい知識を共有すること! そうすれば、学校、家庭、ご近所など地域で「絆」や「連帯」を深め、防災訓練の実施・参加など、自ずと 「できるところから」災害に対する備えができてくる。 そして、いざという時は日頃の学習や訓練等を活かし正しい情報を入手して、初めて避難などの迅速かつ 適切な大切な「命を守る」ための行動ができるということ! ○「敵の正体を知る」 地震や津波とは?~発生の仕組みから何が脅威なのか?~ ○地震への日頃の準備 中国地方は、被害地震に関して、比較的恵まれている地域。でも・・・ 活断層などの陸域の浅い地震(M7クラスの地震)は、残念ながらいつどこで発生してもおかしくない! 芸予地震は、約 50 年に一度(平均発生周期約 67 年)に発生! 南海地震は、今から約 30 年後以内に発生する確率が非常に高い! ↓ 芸予地震などの経験・教訓を「忘れず」、 不用意に「怖れず」でも「侮らず」、 そして「繰り返し」訓練等実施し、「できるところから備え」を! 費用が係らない順に備えの例を掲載 1 危険及び安全な場所の把握と周知徹底 2 いざという時の連絡方法 3 最低3日間は命を繋ぐための水・食糧等の準備 4 ガラスなどの落下や飛散防止・家具等の固定 5 緊急地震速報受信装置整備 6 建物の耐震補強 -4- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 いざ大地震!そのときの心得 周囲の状況に応じて、あわてずに、周りの人にも声をかけながら、 まず身の安全を確保! 緊急地震速報を見聞きしたら!しなくても! ○丈夫なテーブルや机の下に身を隠す等身の安全を確保し、あわてて外へ飛び出すな! 屋内で近くに丈夫なテーブルや机がない場合には、ガラスや落下物のない場所で身を低くして頭をおお いましょう。特に大きな地震が発生すると余震がしばらく続く場合があるので注意しながら、大きな地震のゆれ が収まってから落ち着いて、やけどしないように火の始末、ブレーカーを落とし、安全な場所に避難しましょう。 ○近づくな!自動販売機やビルのそば 屋外で大きな揺れを感じたら、看板やビルの窓から割れたガラスの落下、ブッロク塀、自動販売機の倒 壊に注意しましょう。 ○気をつけよ!山崩れと崖崩れ 切り立った崖のそばや軟弱な傾斜地の近くで大きなゆれを感じたら、山崖崩れに注意しましょう。 ○テレビ、ラジオなどから、正しい地震の情報を入手し、デマに惑わされず、あわてず正しい 行動を 大きな地震が起きたら、気象台等公の機関が発表する津波警報・注意報、地震や津波に関する情報な ど正しい情報を入手しましょう。ょう。また、災害発生時には、あいまいや未確認の情報がデマとなって混乱を 招く場合があるので、必ず正しい情報を入手して、落ち着いて正しい行動するようにしましょう! -5- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 ○津波に対する心得 ~津波に対してはまず避難!~ 1 海水浴や釣りに出かけるときは、携帯ラジオ等(津波警報等取得の情報 源)を持っていく。 2 避難場所(高台や高いビル)を決めておく。 3 強い地震(震度4程度以上)を感じたとき、弱い地震であっても長い時間 ゆっくりとした揺れを感じたときは、すぐ海浜から離れ、急いで安全な場所に 避難する。 4 地震を感じなくても、津波警報が発表されたときは、 すぐ海浜から離れ、急いで安全な場所に避難する 。 5 正しい情報をラジオ、テレビ、広報車などを通じて入手する。 6 津波注意報であっても、海水浴、磯釣りや潮干狩りは、危険なので行わ ない。 7 津波は繰り返し襲ってくるので、警報、注意報が解除されるまで気をゆる めない。 ○最後に 自然災害に備えて 災害を完全に防ぐのは不可能?! 自然災害は人間の力をはるかに超えた脅威! 想定外※の自然災害の発生! 防御(ハード対策)には莫大な費用と時間が係る! 1「想定内」とは、過去の災害に基づき調査・研究から 想定し対策してきた範囲。でも自然はそれ超える 「想定外」の脅威も当然ある!(なんでもあり!)。 2 想定内災害には、煩雑に起こる災害を防御でき、想定外の災害であっても一定の軽減もある。 だから、「ハード防災」を推進していくことも必要。 3 一方、想定外の災害には「ハード防災」だけでは防御の限界があり、莫大な費用と時間が係る。よって、 費用と即時的な効果が得られる「ソフト防災」(気象庁では、「防災知識(情報)の啓発・普及、助言等」「リア ルタイム防災情報の高度化」)が重要視されてきている。 4 いついつまで犠牲者や被害をどこまで軽減する数値目標を立てて、「ハード防災」対策と「ソフト防災」対 策の車両を作り、これらを列車として走らせる、災害0を目指して「減災」という考え方が、危機管理も含め現 在の国の防災対策である。 -6- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 いざという時は、「自分の命は自分で守る」(自助) 「地域で協力して助け合う」(共助) ・阪神・淡路大震災の例 ・東日本大震災の例 生き埋め者の約8割の人は、家族や近隣住民によって救出 防災教育の徹底のおかげ、率先避難者 平成 16 年台風第16号高潮被害で的確な防災活動ができたある自主防災組織のお話 キーワード:絆づくり、連帯と連携、平時の活動から災害時の活動へ 私どもは、10 年ほど前から自主防災会を結成し、いろいろな防災活動を行ってきた。これは私会長 個人だけでなく、防災会の役員さんの協力があってやって来られたもの。もちろん連合町内会や学区 内の他の団体さんの協力もあった。やはり日頃からみなさん方といろいろな活動(特に「お祭り」とか地 域の楽しい行事など有効)を通じて「絆づくり」がしっかりできていたからこそ、ここまでやって来られた。 連携は、例えば、災害対策本部とか、市消防局とか、あるいは地元消防団とか警察、海上保安庁、 国土交通省などの行政と、我々地域住民の自主防災の団体が連携するということ。もちろん報道機 関も含めてである。一方、連帯は、学区内の企業とか、町内会とか各種団体が、災害に遭って、助け を求めている側と、同じ災害地にありながらも、助けることができる立場にある者を、うまく調整して防 災活動をやっていくこと。 自主防災というとまず災害時の活動で、災害時以外には防災マップを作ったり、防災訓練などの活動 であるが、これらはもちろん大切。でも重要なのは、日頃の防災活動。これは、単に自主防災組織の 問題だけではなく、その地域の交通防犯組織であったり、町内会であったり、社会福祉協議会であっ たり、そういう人たちと、地域住民とが日常的な連携をして活動していることが必要。そういう活動をし ておれば、災害時にその組織、仕組みが立ち上がって十分やっていけると思っている。 いきなり訓練をするとか、非日常的な自然災害を考える事は、「正常 化の偏見」や災害経験等の地域特性があることなどから大変しんどい もの!だから、日頃の交通安全(通学路に立って「おはよう!」)とか 防犯パトロール、又地域のお祭りや学校の運動会など楽しい行事を 通じて、保護者や地域の皆さんと「絆」を強めて行くことで、初めて訓 練の実施をはじめ防災(地域から犠牲者0)に繋がっていくということ。 -7- 第Ⅱ部 平成 23 年度広島県学校安全指導者講習会 ● 突然襲ってくる地震・津波をはじめとする自然災害に対しては、被災 体験を「忘れず!」でも不必要に「怖れず!」「繰り返し」訓練等を行い、 学校内はもちろん!保護者の皆さんや地域と「絆」を深めて、地域の皆 さん(保護者、自治会や自主防災組織、消防署、自治体など)とともに 話し合って「できるところから」※1,2備えていきましょう! ※1 児童生徒は学校にいる時間より、家庭をはじめとする他の場所で過ごしている時間の方がはるかに多 い。 ※2 気象台(庁)では防災知識及び気象台(庁)発表防災情報の利活用の普及など行っているが、他に学 校内だけでは解決できない課題として、学校の耐震化、避難所として学校のあり方(避難所指定されていなく て過去地域住民が避難してくるケースもある)、保護者への引き渡しも含め非常時の対処方法など沢山あ る。 すなわち、自治体、消防署、自主防災組織や自治会、保護者など地域で連携して「できるところから」備 えていくことが重要。 【保護者等とも考える地震・津波災害に対する点検のポイント一例】 ~P4~6 で紹介した「地震・津波に対する備え、心得」と併せて参考にして下さい~ 学校や家に危ない場所(タンス、食器棚など倒壊物や落下物)はないか? ⇔ちゃんと倒れないように、落ちてこないようにしているか? 学校ではケースバイケースの複数避難方法、経路を準備しているか? 通学路をはじめとする児童生徒がよく通る場所に、危険な場所はないか? 家族(学校では保護者)と離れ離れになった時、連絡はとれるか? ⇔いざというときの集合場所や連絡方法などを話し合っているか? 場所、場所に応じて、どうしたら命を守れるか、教育しているか? 最低3日間は命を繋ぐために!食べ物、飲み物、衣類などの、非常持ち出し用品は準備 をしているか? -8-