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第14号 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部

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第14号 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部
地 方 公 共 団 体 金 融 機 構 寄 付 講 座 ニ ュ ー ズ レ タ ー
第 14 号
第13回フォーラム
日 時
2012年10月2日(火)
16:30∼18:30
「地方公共団体における減債基金の収益性向上の取組み」
場 所
東京大学本郷キャンパス
東京大学大学院経済学研究科学術交流棟
(小島ホール)2階 小島コンファレンスルーム
内 容
● 報 告
堀 久万男
(元福岡市財政局資金運用課長)
● 討 論
2012年10月 2 日(火)、小島コンファレンスルームにおい
て地方公共団体金融機構寄付講座第13回フォーラム「地方
公共団体における減債基金の収益性向上の取組み」が開催
河村 小百合
(日本総合研究所調査部主任研究員)
され、元福岡市財政局資金運用課長の堀久万男氏より、地
瀬崎 陵
(三井住友銀行公共・金融法人部部長代理補)
きました。具体的には、市場公募団体による基金運用の現
● 報告者リプライ
方公共団体による減債基金の運用をテーマとしてご報告頂
状、堀氏が福岡市で実際に携わっていた基金運用の取組内
容、運用収益を向上させるにあたっての課題とそれを克服
するための提言などについて、豊富な資料を用いつつご報
● 質疑応答
告頂きました。これに対して二人の討論者からは、今後金
利状況が変化した場合の対応策や、積極的な基金運用の取
組が多くの地方公共団体に広がっていかない理由など、報
告内容を掘り下げる質問がなされ、さらにフロアからも質
問が出るなど、議論が展開されました。
※当日の報告・討論資料は寄付講座のホームページでご覧頂けます。
( URL:http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html )
主催/東京大学大学院経済学研究科寄付講座、
地方公共団体金融機構 December.2012 No.14
1
報告
元福岡市財政局資金運用課長
堀 久万男
今回の報告について
私は以前、地方債の発行と基金運用業務に携
わったこともあり、地方公共団体金融機構寄
付講座のホームページに掲載されるニューズ
レターを毎回拝読していますが、特に、第 5 回
フォーラムにおける減債基金の報告・討論につ
いては興味深く拝見しました。
地方債の発行は、この10数年で大きく変革し
ていますが、減債基金の運用にあっては、率直
に申し上げて旧態依然とした運用が続いている
といわざるを得ないと考えています。このため、
昨年11月、フォーラム運営委員会に対し、「市場
公募団体における減債基金の運用のあり方」を
本寄付講座の研究テーマとして取り上げられる
よう個人的な見解を付して提案していたところ、
本年 5 月に事務局から報告者としての打診が
あったものでございます。
本日の報告は、前半部分ではこれまでの取り
組みの内容を、また、後半部分では、債券売却
を活用した運用の提案と債券運用に対する問題
提起を行っています。なお、意見や感想にわた
る部分並びに後半の部分は、個人的な見解であ
ることをあらかじめお断りいたします。報告資
料 2 ページの目次は、これまでの取り組みを時
系列に掲げています。
資金運用の取り組み方針と基金運用実績等の推移
次に 3 ページをご覧願います。ここでは「歳
計現金と基金運用の取り組み方針と目標」を掲
げています。まず、福岡市における資金運用の
課題を掲げていますが、歳計現金は一時借入利
2
息の縮減、一方、基金は運用収益の拡大が永年
の課題となっています。
この歳計現金と基金は、資金運用面では表裏
一体の関係にあるといえます。右の欄に、効率
運用の方策を掲げていますが、運用のねらいを
基金運用収益の拡大とするのか、一借利息の軽
減とするかによってその運用が異なってきます。
次に、この資金の運用利率は、バブル経済崩
壊後、高い順に、長期債券、一時借入利率と続
き、最も低いのが預金運用利率という状態が長
く続いています。このため、資金運用の取り組
み方針としては、資金トータルで最も確実かつ
効率的な運用を選択することを基本に取り組ん
できたところです。
最後の取り組みの目標ですが、短期的目標と
しては、基金運用収益と一借利息の収支差の拡
大、長期的には、「基金総額の運用利回りが市債
残高の平均借入利率を上回る運用」を究極の目
標としてきたところです。
報告資料の 4 ページをお開き願います。私は
こ れ ま で 通 算 し て 約10年、 資 金 運 用 業 務 に 携
わってきましたが、その間における資金不足対
応策と基金運用の見直しの概要を掲げています。
平成 4 年度には、基金の基本運用を、それま
での預金運用から一借利息の削減を目的とする
歳計現金への繰替運用に転換しています。平成
12年度には、基金運用収益の拡大を目的として、
基金運用を長期債券運用に転換する抜本的な見
直しを行っています。なお、この実行にあって
は、左の欄にあるように、銀行からの一時借入
利率を従来の短プラから TIBOR の利率に変更す
る一体的な見直しを行っています。また、嘱託
として着任した平成21年度には、それまで満期
保有を原則としていた債券運用について、債券
売却を活用した運用を提案し、さらなる運用収
益の拡大を図っています。
報告資料の 5 ページをご覧願います。こちら
には債券運用転換後の平成12年度以降の基金運
用実績の推移を掲げています。まず、上の表に
は保有債券の推移を掲げていますが、毎年度、
10年地方債と20年地方債を合わせて100億円購入
するラダー運用を基本としており、運用開始か
ら10年目の平成21年度で1000億円の枠組みが完
成しています。
また、平成21年度には、償還年数が10年未満
の債券250億円をすべて売却し、10年債と20年債
を合わせて500億円購入したことに伴い、現在の
保有債券はすべて10年以上の長期債券となって
います。
次に平成13年度以降の債券運用利子と一時借
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
入利息の推移を掲げています。まず、債券運用
利子は、ラダー運用の効果により年々拡大して
いますが、特に21・22年度では、先ほどの債券
売却と新たな長期債券の取得に伴い、大幅に増
加しています。
次の一借利息は、資金不足額や金利の変動等
に伴い年度間でバラツキはありますが、一定額
に抑制できたと考えます。最後の行には、短期
的目標としている「基金運用収益と一借利息の
差」を記載しています。この差額は年々拡大し
ていますが、特に平成21・22年度は、運用利子
が大きく増加したことに伴い、その額が20億円
を上回っています。
このページの最後に、長期目標としている市
債残高の平均借入利率との比較を掲げています
が、債券売却を活用した積極的な取り組みもあ
り、 平 成21年 度 は、 基 金 の 債 券 運 用 利 回 り が
1.94%と大幅にアップし、はじめて市債残高の平
均借入利率1.89%を上回っています。また、22
年度においても、21年度に取得した10・20年地
方債500億円の運用利子の平年度化に伴い、基金
運用利回りが1.83%となり、2 年続けてこの目標
を達成しています。
用が挙げられると思っています。この運用は、
基金運用収益の拡大のみならず地方債市場の底
上げにつながるものであり、発行団体自らが地
方金融機構債を含む地方債による積極的な運用
を行うことが必要であると考えます。
次に、フォーラムで報告された東京都及び神
奈川県並びに福岡市の基金総額の運用実績を参
考として掲げています。この数値はホームペー
ジに公表されているものですが、ここにありま
すように、長期債券の運用割合の違いにより運
用利回りには大きな差が生じています。
最後の枠囲みには、私見ではありますが、地
方自治体において長期債券運用が進展しないと
考える三つの要因を掲げています。一つ目は、
一借利息を削減するため、基金の繰替運用や見
合い預金を優先した運用がなされていることで
す。さらに、二つ目の漠然とした基金減少のリ
スクと三つ目の債券の中途売却による元本割れ
のリスクの不安が相俟って、長期債券運用はリ
スクが大きいという固定観念があることによる
と考えています。なお、福岡市におけるこれら
のリスク要因の回避方策については、後ほどご
説明いたします。
市場公募団体における基金運用の現状と課題
報告資料の 6 ページをお開き願います。こち
らには市場公募団体における満期一括償還積立
金等の運用状況を掲げています。まず満括積立
金ですが、これは平成 4 年度に市場公募債の償
還方法が、それまでの定時償還方式から満期一
括償還方式に変更されたことに伴い創設された
もので、現在の積立ルールは、30年償還を前提
として毎年度発行額の3.3%を積み立てることに
なっています。
この積立金の役割は、将来の元金償還に充て
るための財源の確保にありますが、併せて、こ
の運用利子は償還の利払いに充てる財源にもな
ります。したがって、30年償還を前提として積
み立てているこの積立金は、長期運用が可能で
あり、ALM の観点からも、有利な長期地方債に
よる運用を行うことが望ましいと言えます。
次に、市場公募団体における満括積立金の平
成22年度末の運用状況を掲げています。この積
立金総額は、49団体で約 6 兆円に積み上がって
おり、このうち、47%の 2 兆 8 千億円が債券で
運用されています。しかしながら、収益性の高
い10年以上の長期債券の基金総額に占める割合
はわずか15%にとどまっています。
私見ではありますが、市場公募団体における
課題として、長期地方債による満括積立金の運
金利状況等の変化に対応した基金運用の見直し
報告資料の 7 ∼14ページには、係長、課長の
現役時の取り組みの内容を掲げていますが、こ
れは、補足資料 6 (「福岡市による減債基金等の
一括運用について」
『地方債月報』2009年 9 月号)
に詳しく掲載されていますので、本日は当時の
背景や見直しの視点について簡単にご説明いた
します。
7 ページをご覧願います。平成 3 ∼ 6 年度の
係長在職時における取り組みですが、当時の金
利状況とそれを踏まえた効率的な資金運用を掲
げています。昭和54年から平成元年までは、預
金運用利率が一時借入利率や10年国債利率を上
回る異常ともいえる金利体系が10年以上続いて
いましたが、私が着任した平成 3 年は、バブル
経済が終焉し、運用利率が低下し始めた時期に
あたります。
8 ページをお開き願います。こちらには平成
3 年度に行った財産区基金の管理・運用の見直
しを掲げています。この見直しが、その後の「基
金の一元管理」や「基金の一括運用」導入のベー
スになっていますので、その要点をご説明いた
します。
従前の運用は、41財産区の基金が186口もの預
金に分散し、管財課と会計課の管理運用事務が
膨大化していたため、事務の集約化・簡素化を
December.2012 No.14
3
ねらいとして、財産区基金をひとつの基金とし
て一括運用するとともに、基金の積み立て、取
り崩しを年 2 回に集約する運用に改めています。
この効果としては、財産区基金の管理運用事務
の大幅な削減と預金ロットの拡大による運用利
子の増加につながっています。
9 ページをご覧願います。平成 4 年度の基金
の基本運用の見直しです。平成 3 年以降、預金
運用利率が一借利率を下回る非効率な運用と
なってきたことから、基金の基本運用を歳計現
金への繰替運用に改めるとともに、各局が所管
する基金については、運用事務の集約化を図る
ため、資金課の一元管理に改めています。
この効果ですが、短期的目標としている基金
運用収益と一借利息の収支差額について、平成
6 年度の資金運用実績で試算した場合、仮に、
従前の運用を継続していた場合の収支差額4.5億
円と比較すると、その実績額は12.7億円に拡大
し、差し引き 8 億円の効率運用につながってい
ます。
報告資料の10ページをお開き願います。こち
らには平成12∼16年度の課長在職時における取
り組みを掲げています。平成 7 年度に資金課を
転出し、 6 年ぶりに課長として戻ってきました
が、この10ページには、当時の金利状況と環境
の変化及びそれを踏まえた効率的な資金運用を
掲げています。
まず金利の推移ですが、景気低迷の長期化に
より運用利率が続落し、特に預金運用利率は下
落幅が大きく、着任した平成12年 4 月の時点で
は、一借利率及び10年国債利率の10分の 1 にま
で低下しています。また、地方債制度や金融を
取り巻く環境の変化、具体的には長期運用が可
能な満期一括償還積立金の増加や短期金融市場
の変化等に伴い、資金運用の手法が大きな転換
期を迎えたといえます。
報告資料の11ページをご覧願います。資金課
着任時、取り組むべき課題であると考えた項目
を掲げています。まず、短期的目標としている
基金運用収入と一借利息の収支差額では、平成
11年度実績がわずか8000万円と、 5 年前から12
億円も激減していることがあります。一方、長
期的目標である基金運用収益にあっては、満括
積立金の累増により、基金総額は長期にわたり
1000億円を超えることが確実であり、ALM の視
点からも運用収益の拡大が喫緊の課題となって
いることです。
その他の課題としては、 2 年後のペイオフ解
禁による基金の保全や、基金の管理運用事務が
煩雑化していること、また、指定金融機関との
4
関係が希薄化していることが挙げられます。
一時借入金と基金運用(長期債券運用の導入)の抜本的見直し
報告資料の12ページをお開き願います。こち
らには課題解決に向けた資金運用の一体的な見
直しを掲げています。見直しの視点としては、
資金不足分は指定金融機関から短期市場金利で
借り入れ、基金を長期債券運用することで、こ
れらの課題は解決するという確信があり、その
一体的な見直しを行っています。
まず、 1 の「一時借入金に関する覚書」の見
直しですが、一時借入利率を実効性のある利率
にすることで、本市は基金の長期債券運用が可
能となり運用収益が大幅に拡大する一方、指定
金融機関は市に対する一時貸付利息が大幅に増
加するなど、双方にとって大きなメリットがあ
ると考え、覚書の見直しを提案したものです。
この提案の内容ですが、ポイントとなる借入
利率は、市場の実勢金利を反映する TIBOR を基
準とする利率に見直すとともに、基金運用の基
本としている繰替運用は、今後は、原則として
行わないというものです。銀行にとっては、こ
れまで前例のない内容であり、内部では相当議
論があったと聞き及んでいますが、最終的には
指定金融機関として本市提案を真摯にお受け止
めいただき、平成13年 3 月 1 日施行とする覚書
の見直しを行っています。
な お、 先 日、 国 際 的 指 標 で あ る LIBOR を 公
的管理に移行する改革案が発表されましたが、
TIBOR への影響も考えられ、今後その動向を見
守る必要があるのではないかと考えています。
また、一借利息の軽減方策としては、企業会計
や市の外郭団体から TIBOR の利率で借入れるグ
ループファイナンス的手法を平成16年度に導入
しています。
報告資料の13ページをお願いします。 2 の基
金運用の見直しでございます。それまでの一借
利息の削減を図る守りの運用から、運用収益の
拡大を図る攻めの運用に転換し、その基本運用
を債券運用に見直しています。表には一括運用
基金の運用の概要を掲げています。
まず、見直しの視点ですが、基金運用のねら
いが運用収益の拡大であることを明確にすると
ともに、一定のルールに基づくシンプルな運用
を確立し誰にでもできる運用にすることを基本
としています。その具体的な内容ですが、基金
の管理・運用については、すべての基金を財政
局で一元管理のうえ、ひとつの基金として一括
運用しています。また、運用債券は、10年と20
年の長期地方債による運用を基本としています。
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次の「債券運用留保分」は、不測の事態に備
え、100億円程度の債券運用を留保するもので、
当該基金は、歳計現金化して資金不足額の縮減
を図っています。なお、見直しの施行日は、最
後の行にあるとおり、前ページの覚書の見直し
と同一日の平成13年 3 月 1 日付けとしています。
次の「運用区分」については、補足資料 1 (別
表①「一括運用基金の債券運用実績推移(平成
13∼22年度)」)をご覧願います。この表は、平
成12年度以降の債券運用実績を掲げていますが、
簡単にその記載項目をご説明します。
まず、一番左の列は債券運用区分を記載して
います。その右の列は、債券の購入年度、満期
償還年月、額面金額、表面利率の平均、利回り
の平均、購入単価を掲げ、その右側には、平成
13年度以降の年度別の債券運用利子額の推移と、
10年間の合計額を億円単位で掲げています。
運用区分の上段が「基本運用分の1000億円」
ですが、これは基金総額が長期にわたり1000億
円を超えることが確実であることを勘案しこの
枠を設定したもので、毎年度、10年債と20年債
を合わせて100億円取得するラダー運用としてい
ます。
下段が「その他運用分」ですが、これは、基
本運用分を超える運用分で、運用可能期間に応
じた償還年限の債券で運用することにしていま
したが、平成21年度、10年債と20年債を半分ず
つ取得する具体的でシンプルな運用に見直し、
下の 2 行にあるように、当年度に各175億円の計
350億円を取得しています。
平成13年度は、ラダー運用構築の原資とする
ため、二重線で囲っているように償還年限が 2
∼ 7 年の国債や政府保証債900億円を取得してい
ますが、当時、仮に、地方公共団体金融機構が
発行する FLIP 債があったとした場合、より有利
でかつ容易にラダー運用を構築することができ
たと思っています。
なお、ラダー運用の構築にあっては、当時は
この手法がベストだと思っていましたが、現在
では、より有利で効率的な手法があると思って
いますので、その内容については後半の部分で
ご説明いたします。下 6 行には、債券運用利子
の合計額、債券運用額、債券運用利回りのほか、
一借利息などを参考として掲げています。
報告資料に戻り、14ページをお開き願います。
こちらは不測の基金減少リスクへの対応につい
てでございます。長期債券運用の導入にあたり、
最も慎重に検討したのが「基金減少リスクの対
応策」であり、漠然とした不安を払拭するため、
「基金の債券運用指針」において、具体的かつ現
実的な 4 つの対応策を定めています。
まず⑴は、100億円程度の債券運用の留保です
が、債券運用導入から10数年が経過し、想定外
の基金取り崩しもありましたが、これまでこの
方策の範囲内で対応しています。⑶の保有債券
の売却は、現在では、平成21年度の実績を踏ま
え優先順位 2 位に位置づけていますが、その具
体的な内容は16ページでご説明いたします。
⑵の基金の積み立ては、市場公募団体特有の
満期一括償還積立金及び公会計の出納整理期間
を活用した方策ですが、不測の事態が生じたと
しても、これにより400億円程度は対応可能であ
り、基金の長期債券運用を可能ならしめる究極
のセーフティネットであると考えています。最
後に、参考として平成17年に発生した福岡県西
方沖地震の災害復旧費の財源内訳を掲げていま
す。今後、仮に、多額の基金の取り崩しを要す
る事態が生じたとしても、これらの方策により、
万全の措置がとれると考えています。
以上が、係長・課長として現職時代に取り組
んだ内容でございます。
基金の効率運用の徹底
続きまして、報告資料の15ページをご覧願い
ます。平成21・22年度における資金調達・運用
指導員としての取り組みですが、この嘱託員は
平成21年 3 月末の定年退職にあたり、当該ポス
トの新設とその就任を要請し、翌 4 月 1 日から
2 年間この職に就いています。これは、平成16
年11月に突然の異動で税務部長に転出しました
が、その後もやり残したと思うことがあり、そ
の実現に向け取り組んでみたいという強い思い
があったことによるものです。
その一つは「基金の効率運用の徹底」です。
まず、⑴の「その他の運用分のルール化」ですが、
平成17年度以降、満期償還を迎えた債券運用分
が預金運用となり、年間数億円の運用利子を逸
失する結果になっています。これは、「漠然とし
た将来の基金減少に対する不安」と「その他の
運用分で明確な運用のルールを決めていなかっ
たこと」に起因すると考えられることから、下
記①の基金総額の長期見通しを策定のうえ、②
の「その他の運用分」の運用ルールを定めてい
ます。
このルールは、向こう20年以上基金総額が減
少することはないという見通しを踏まえ、基本
運用分の1000億円を超える額については、10年
と20年の長期地方債を1/2ずつ取得するというも
のです。平成21年度は、これに基づき350億円の
長期債券を取得しましたが、これにより22年度
December.2012 No.14
5
は6.5億円の運用利子が増加し、これが、21年度
に引き続いて基金運用利回りが市債残高の平均
借入利率を上回った最大の要因となっています。
次の⑵は、資金全体の効率運用を徹底するた
め、
「債券運用指針 6 」の規定を追加しています。
まず、①の購入債券の規定ですが、これは非効
率な利回りの低い短・中期債券は取得しないこ
とを明確にしたものです。次の②の基金の取り
崩し及び③の基金の積み立て時期の規定につい
ては、歳計現金が年間を通じた資金不足となっ
ている現状に鑑み、債券運用以外の基金を歳計
現金化することにより一借利息の軽減を図るも
のですが、基金にあっては、非効率な預金運用
が生じないよう運用額の調整を行っています。
⑶は、これらの運用を適切に管理するため、
新たに「財政局一括運用基金の運用状況」の管
理表を作成したものですが、これについては補
足資料 2 (別表②「平成21年度財政局一括運用
基金の運用状況(平成21年 8 月20日現在)」)を
ご覧願います。この原表は円単位となっていま
すが、この別表は便宜上、100万円単位に置き換
えています。
これは、平成21年 8 月20日現在の一括運用基
金の運用状況を示したものですが、26基金ごと
の積立・取崩の状況及び基金現在高とその運用
の内訳を一覧で管理できるようにしています。
なお、今回のフォーラムのタイトル名の減債基
金は、一番上の①の市債管理基金を指すもので
すが、運用額の調整は、この中の満期一括償還
分で行っていますので、この積立額と取崩額の
欄をご覧願います。
まず、積立額において、 5 月29日付で平成20
年度最終分として268億円余を執行しています
が、取崩額では、その対角にあるように、同日
付で平成21年度分として同額の268億円余を執行
し、基金現在額に変更が生じないよう調整して
います。
また、積立額では、6 月22日∼ 7 月21日までの
6 日間で170億円を執行していますが、これは運
用内訳の債券運用欄にあるように、同日付けで
債券を購入する原資とするための措置です。一
方、取崩額においては、7 月23日∼29日までの 3
日間で104億円を執行していますが、これは運用
内訳の債券運用欄にあるように、同日付けで保
有債券が満期償還を迎えたことに伴う措置です。
この時点の基金現在高は、一番下の行の合計
欄の中ほどにあるように1,565億円となっていま
すが、この運用内訳は、債券運用額が1,563億円
と共同発行債の預入額が 2 億円で、繰替運用と
預金運用はゼロになるように調整を行っていま
6
す。
次に、欄外の注記事項をご覧願います。上の
行には、本年度の債券取得計画額と取得額を掲
げていますが、この時点で計画額どおり250億
円を取得しています。最後の行は、一括運用基
金の運用可能残高の見込みで約98億円となって
いますが、これが債券運用の留保額です。なお、
この額は、出納整理期間の 5 月末に平成21年度
分として積み立てますが、先ほどと同様、基金
現在高に変更が生じないよう、平成22年度分の
満括積立金において同日付で同額の取り崩しを
行うこととなります。
なお、市場公募団体特有の満括積立金は、基
金の一括運用や不測の基金減少対応策の活用の
ほか、基金運用額の調整など、効率的な基金運
用を図るうえで極めて大きな役割を担っていま
すが、本市が積極的な債券運用に踏み込めた要
因の一つがこの満括積立金の創設にあったと言
えます。
保有債券の売却を活用したさらなる運用収益の拡大
次に報告資料の16ページをお開き願います。
「債券の売却」を活用したさらなる運用収益の拡
大です。これは、保有債券を取得替えすること
で運用益が拡大する確信があったことから、平
成21年度嘱託員として復職した後、具体的な検
討を行い提案したものです。なお、21年度に実
施した「債券の取得替え」は、財源を確保する
ための特例措置として実施したものですが、は
じめて基金総額の運用利回りが市債残高の平均
借入利率を上回った最大の要因となっています。
平成21年度実績はここに掲げているとおりで
すが、その内容を補足資料 1 によりご説明しま
すのでご覧願います。上段の基本運用分では、
10年債の上から 4 行目にある平成15年度に購入
し た 表 面 利 率 が0.6% の50億 円、 下 段 の そ の 他
の運用分では、中ほどの購入金額を網掛けした
カッコ書きの 4 銘柄200億円の計250億円を売却
しています。
これにより、右側の年度別債券運用利子の平
成21年度分の合計欄にあるように、8.6億円の売
却益を得ています。なお、この売却した基金元
金で10年と20年地方債を250億円再取得したこと
に伴い、22年度以降も運用利子が1.3億円増加す
る成果も上がっています。
また、平成22年度には、上段の基本運用分の
上 2 つの銘柄214億円を売却しましたが、これは
当該債券の残存利回りが一時借入利率を下回る
ことから、売却後の基金元金を歳計現金化して
一借利息の軽減を図ったものです。
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
報告資料の16ページにお戻り願います。次に
「債券の売却」及び「債券の取得替え」について
掲げていますが、これは、組織としてオーソラ
イズされたものではなく、本日の報告にあたり、
満期保有に固執する運用に一石を投じるため個
人的にまとめたものですので、私案としていま
すが、今後、地方公共団体の債券運用が進展し、
さらなる運用収益の拡大を目指すうえで大きな
ポイントになると考えています。
まず「債券の売却」ですが、これは、補足資
料 3(別表③「『債券売却』及び『債券の取得替え』
の金利体系の変動による影響」)をご覧願います。
この図表は、表面利率が1.3%の債券10億円を残
存 7 年で売却した場合における売却益の額を表
したものです。
まず、①の債券購入者が受取る残存 7 年の運
用利子は、表面利率1.3%分の91,000千円になり
ますが、②の実質運用利子は、 7 年の運用利回
り0.87%相当の60,900千円になります。したがっ
て、③の売却益は、①と②の差の30,100千円と
なりますが、これは売却債券の表面利率aと売
却債券の残存年数の利回りbの差に相当する金
額となります。なお、売却時の金利が上昇し、
7 年の利回りbが売却債券の表面利率aを上回
る場合は、売却損が生じ元本割れすることにな
ります。
次に、報告資料の17ページをご覧願います。
「債券の売却」と「債券の取得替え」の効果額は、
債券発行時と債券売却時の金利体系の変動によ
り大きく異なりますので、過去の実績を勘案し、
平均的な金利体系をaとして、金利が低下した
場合のbのケース及び金利が上昇した場合のc
∼eの 4 ケースの計 6 パターンの金利体系を設
定してその影響を私算しています。
中段の⑴の表では、10年債は残存 7 年、20年
債 は 残 存12年 で10億 円 の 債 券 を 売 却 し た 場 合
の売却益と売却債券の実質運用利回りの私算を
行っています。金利変動がない場合のaは、先
ほどの図表のケースですが、売却益が3000万円
となるので、売却までの運用利子3900万円を加
えた運用収益は6900万円となり、運用期間 3 年
の実質利回りは2.3%と大きく上昇します。
次に、bからdの金利体系別の影響額を私算
していますが、売却時の金利が低下するほど売
却益の額が大きくなり、逆に金利が上昇するに
つれ少なくなりますが、通常の金利体系で売却
した場合、相当の売却益が得られ、結果的に売
却債券の実質運用利回りが大幅に上昇すること
になります。しかしながら、金利が大幅に上昇
した局面で売却した場合、売却損が生じ元本割
れすることとなります。なお、右の欄には、20
年債を残存12年で売却した運用期間が 8 年の実
質運用利回りを掲げています。
報告資料の16ページにお戻り願います。債券
売却の活用のメリットですが、一時的な財源不
足時や不測の基金処分時における有効な対応策
であるといえます。課題としては、金利が大幅
に変動した局面では元本割れすることがあり、
この場合、現行では、債券の売却ができないと
解釈されていることです。
次に、第 5 回フォーラムで議論になっていた
「自団体債の買入消却」ですが、これは「債券売
却」と相対する運用であり、通常では、実質借
入利回りが大幅に上昇するとともに、流通市場
でまとまった額の自団体債を調達するのは困難
であること等から、現実的な運用ではないと考
えられます。私見ではありますが、起債残高の
削減を目的とするのであれば、財源に余裕があ
る限り、借換債の発行を取りやめるのが最も効
果的な方法であると考えます。
次の「債券の取得替え」についてご説明いた
します。債券の取得替えを行う場合、長期的な
スパンでその効果を判断する必要がありますが、
下表にはその算式を掲げています。債券の取得
替えは、売却損益の額Aと債券の取得替えに伴
う運用利子の増減額Bを合算した運用益トータ
ルの額がプラスになることが条件といえます。
報告資料17ページの下段の⑵では、金利変動
パターン別の具体的な運用益トータルの私算を
していますので、ご覧願います。金利変動がな
い場合のaは、上の⑴にあったように売却益の
額が3000万円で、運用利子の増減がないので、
運用益トータルは3000万円となります。金利が
低下したbのケースでは、運用利子はマイナス
になるものの、売却益がそれを上回ることから、
運用益トータルはプラスとなります。
一方、金利が上昇したcのケースでは、売却
益と運用利子ともにプラスとなります。なお、
金利が大幅もしくは極端に上昇したd、eの
ケースでは、売却損が生じますが、運用利子の
増加額がそれを上回ることから、運用益トータ
ルはプラスとなります。
この試算は、欄外の注意書きのとおり、満期
保有との比較上、再取得後 7 年保有を前提とし
ていますが、3 年ごとに取得替えを行うことに
より、上記⑴のように実質利回りが大幅にアッ
プすることになります。ただし、金利カーブが
逆イールドになった場合、売却損が運用利子の
増加額を上回るため、運用益トータルがマイナ
スとなり、取得替えを見送る必要があります。
December.2012 No.14
7
なお、この私算をもって、順イールドである
限り、運用益トータルは必ずプラスになると断
言できるのかという疑問があるかと思いますの
で、これについては、補足資料 3 の下の表をご
覧願います。
これは、表面利率が1.3%の10年債を残存 7 年
で売却し、10年の新発債を再取得した場合の金
利カーブと運用益トータルの関係を図示したも
ので、左の 7 年の軸は、売却債券の表面利率と
残存利回りの差、すなわち売却損益額を、右の
10年の軸は、再取得債券と売却債券の表面利率
の差、すなわち運用利子の増減額を示し、これ
を比較したものです。
まず、下 2 つが通常の順イールドのケースで
すが、一番下の金利が低下したbの場合は、右
軸の運用利子はマイナスになるものの、左軸の
売却益のプラスがそれを上回り、逆に金利が上
昇したdの場合は、左軸の売却損のマイナスを
右軸の運用利子のプラスがそれを上回ることか
ら、運用益トータルはプラスになります。
一番上が逆イールドのケースですが、右軸の
運用利子は大きく増加しますが、左軸の売却損
のマイナスがこれを上回ることから、運用益
トータルはマイナスになります。このように、
債券の取得替えは、売却債券の残存期間を前提
として満期保有の運用と比較した場合、順イー
ルドである限り、必ず運用益トータルがプラス
になる有利な運用手法であると考えています。
報告資料の16ページにお戻り願います。あら
ためて算式をご覧願います。債券の取得替えは、
この算式にあるとおり、将来の金利予測が不要
であり、かつその効果額を容易に把握できるシ
ンプルな運用であると考えます。
次の活用のメリットですが、毎年度「債券の
取得替え」をルール化して計画的に実施するこ
とで、基金運用収益が大幅に拡大し、起債残高
の平均借入利率を上回る運用の達成が容易にな
ると考えます。また、この運用は、金利の大幅
な変動の影響を緩和し、運用益の増加額を平準
化できる効果もあると言えます。
なお、課題としては、右頁の⑵の私算表のd、
eのように売却損が生じる場合、長期的には運
用益トータルが確実に増加する場合にあっても、
現行では、この運用を見送らざるを得ないこと
にあると考えています。
元本割れする債券の売却について(問題提起)
報告資料の18ページをお開き願います。元本
割れする債券の売却についての問題提起でござ
います。地方自治体の会計制度は現金主義であ
8
るため、
「元本割れする債券の売却はできない」
と解釈され、これが長期債券運用の進展を阻む
大きな原因となっています。また、この解釈が
債券運用の選択肢を狭めるとともに運用収益拡
大の機会を逸失する要因にもなっていると考え
ています。
次の枠囲みに、これまでの経験を踏まえた率
直な意見を掲げています。自律的な財政運営が
求められ、かつ地方自治体の債券運用が一般的
となっている現状において、「元本割れする債券
の売却も、基金の効率運用を図るための一つの
手段」とする柔軟な発想への転換が必要である
と考えます。
この効果としては、債券運用の選択肢が拡が
るとともに、運用収益の大幅な拡大が可能にな
ること、また、地方自治体が保有する基金の地
方債運用が進展し、地方債市場の底上げにもつ
ながる大きな効果があると考えております。
なお、参考として、運用収益拡大の機会を見
送った具体的な事例を掲げていますので簡単に
ご説明いたします。 1 つ目の事例は、極めて低
い利回りが続いている15年変動国債200億円を取
得替えし、年間で 3 億円余の運用利子の増加を
図る運用で、2 つ目の事例は、
「債券の取得替え」
を毎年度継続的に実施し、年間で10億円程度の
運用益の拡大を図る運用です。
なお、これはいずれも債券売却を活用した運
用であり、元本割れの解消方策案についても併
せて提案し、これを含めた検討を行っています。
当時の結論としては、
「現行の解釈を逸脱すべき
ではない」という方針の下、いずれもその実施
を見送った経緯があります。
最後に、私の率直な感想を掲げています。基
金は長期的な視点で運用すべきものであり、目
先の損失を回避するために、将来得られる多額
の利益を放棄するのは本末転倒と言わざるを得
ないと考えます。問題の本質は、売却損が生じ
ること以上に、非効率な運用を続けることにあ
ると思っています。財政状況が厳しい中、地方
自治体は自律的な判断・工夫により積極的に財
源の確保を図るべきであると考えます。
なお、現在、福岡市では変化等に柔軟に対応
した新たな発想による「行財政改革プラン」を
策定中であり、大胆かつ抜本的な見直しが行わ
れるものと期待しています。
報告資料の19ページをご覧願います。こちら
には「債券取得替えによるラダー運用」につい
て私案を掲げています。これは、仮に私が現段
階で福岡市規模の基金運用を任され、かつ初年
度から運用収益の最大化を求められたとした場
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
合における、具体的な運用方法の一例とその運
用収益の試算表を掲げたものです。
1 にはこの前提条件を掲げていますが、まず、
⑴の運用債券は、暫定数値として10年地方債750
億円と20年地方債800億円としています。また、
この表面利率は、⑵の運用年数別利回りにある
とおり、10年債は0.85%、20年債は1.64%として
算定しています。
債券の取得替えは、毎年度、10年債は残存年
数 7 年で250億円、20年債は残存12年で100億円
の取得替えを行っていくラダー運用としていま
すが、これは、欄外の注記に記載しているよう
に金利体系別・残存年数別のシミュレーション
の結果を勘案したものです。
なお、この運用は、ラダー運用の構築まで 8
年を要しますが、初年度に運用全額の長期債券
を取得し、 2 年度目以降、順次、ラダー運用の
額の取得替えを行っていくことにより、運用開
始から高い利回りを確保することが可能となり
ます。次の⑵は、売却益の基数となる運用年数
別利回りですが、 8 月17日現在の金利水準とし
ています。
2 は、これらの条件を前提とした年度別の運
用収益の試算表です。この表は、上段に債券運
用利子、中段に債券の売却益、下段に取得替え
の運用益トータルの額とその運用利回りを掲げ
ています。
欄外にこのポイントを掲げていますが、
「債券
の取得替え」を継続実施することにより、現下の
低金利が続いたとしても、債券の運用利回りは、
3 年目には20年債の利率を上回り、7 年目以降は
2%を上回るなど運用益が大幅に増加します。
なお、この試算は算定を容易にするため、金
利変動がない設定としていますが、金利が変動
したとしても、先ほどご説明したように逆イー
ルドにならない限り、確実に運用益が増加する
有利な運用であると考えます。また、不測の基
金取り崩しに備え、毎年度、売却益の一定割合
を「償還損等基金引当金」に積み立てることに
より、流動性リスクにも柔軟に対応できる運用
が可能になると考えています。
な お、 こ の 報 告 資 料 は 8 月 末 に 寄 付 講 座 の
ホームページにアップされ、その後証券会社を
はじめとする複数の方からご意見をいただいて
いますが、そのほとんどが16∼19ページの「債
券の取得替え」に関するものです。その内容は、
債券取得替えの運用戦略は理論的には正しいと
思うが、これまでの経験を踏まえると、実際に
この運用を実施する自治体があっても、どの段
階まで踏み込んだものになるかは予測がつかな
いという趣旨の意見がほとんどです。
今回の「債券の取得替え」に関する私案は、
満期保有を原則とする地方公共団体の債券運用
に一石を投じる意味も込め、敢えて基金運用収
益の最大化をめざす運用手法を例示したもので
すが、今後、債券運用の導入やその見直しが検
討される際の参考資料として活用いただければ
幸いであると思っています。
なお、本日の報告資料は、 8 月末にアップさ
れた分を一部変更していますが、これは皆様か
らいただいたご意見を踏まえ、修正を加えてい
るものです。
基金の効率運用について(提言:報告のまとめ)
報告資料の20ページをお開き願います。最後
に僭越ではありますが、これまでの経験を踏ま
えた基金の効率運用についての提言をもって、
報告のまとめとさせていただきます。一つ目は
「財政担当部署による基金の一元管理と一括運
用」、二つ目は「自治体の資金トータルで最も確
実かつ有利な運用の選択」、三つ目は「長期債
券によるポジティブかつ柔軟な運用」、四つ目は
「地方債による運用」です。
これについては、補足資料 4 (「当面する地方
債問題を語る―地方債計画と当面の諸問題」『地
方債月報』2002年 3 月号)の26ページをご覧願
います。これは、平成14年 2 月に開催された座
談会において同席されていた当時の総務省椎川
地方債課長が、基金運用に関して語られた内容
です。その要旨は、「地方団体自らが地方債で運
用するという行動を示すことで一般の投資家も
それについてくるし、また、地方債はディフォ
ルトするはずがなく、外郭団体等のペイオフ対
策についても地方債の運用を働きかけるなど自
らが需要を出していかなければならない」とい
う内容になっています。
これを受け、福岡市では、基金の 9 割を債券
運用しているが、将来的にはその全額を地方債
に切り替える旨報告しましたが、座談会終了後、
椎川課長から、「今後も地方債市場の活性化を図
るため頑張ってください」と声をかけられたの
を今でも鮮明に覚えています。発行団体自らが
地方金融機構債を含む地方債で積極的な運用を
行うとともに、住民や機関投資家に対し地方債
の運用商品としての有利性をアピールしていく
ことが重要であると考えます。
また、報告資料の21ページには、補足資料 6
のインタビュー記事の項目を掲げていますので、
あわせてご参照いただければと思います。
December.2012 No.14
9
討論
日本総合研究所調査部主任研究員
河村小百合
初めに、今後の金融環境の変化をいかに踏ま
えていけばいいかということで、コメントさせ
ていただければと思います。堀様のご報告で述
べられた長期的な目標というのは、減債基金の
総額の運用利回りが、調達の方、つまり市債残
高の平均借入利率を上回ることだと伺っていま
す。堀様は長い間この分野に携わっていらした
と思うのですが、振り返ってみますとその間、
金利水準は総じて言えば順イールド状態でした。
その中で、金利水準は上がったり下がったりし
ましたが、基本的には順イールド状態が維持さ
れていたのではないのかと思います。そういう
状況下において、ここで掲げられている長期的
な目標を達成するために、途中売却等の手法も
活用してこられたのだと思います。
ただ、これからがどうなのかなということを、
頭の体操として少し一緒にお考えいただきたい
と思います。今回のお話は、主として順イール
ド下でのご検討のお話だったと思います。今日
実際に堀様のお話を伺っていて、「基金の運用利
回りが平均借入利率を上回ること」というのを
長期的な目標として掲げていらっしゃいますが、
実際には、この目標よりももう少し身近な目標
として、「基金の運用収益の最大化」という目標
でやっていらしたのではないかというような印
象も持ちました。それでは、どのような金融環
境の下で実現させるのかということを、ご一緒
に考えられればと思います。
地方公共団体も、何か信用リスクを取って運
用していけば、もしかしたらもっと稼げるかも
しれません。もちろん色々法令上の制約もある
10
と思いますので、やらないという前提でクレ
ジットが同じ商品を用いる。大体同じものとい
うことで、地方債として調達して、運用するも
のには国債なども入ってくると思いますが、パ
ブリックのクレジットでやるという前提で考え
たいと思います。
それで、まず一番単純に考えて、イールド・
カーブが順イールド状態で動かない場合につい
て、運用が調達を上回るようにするにはどのよ
うにしたらいいかということをまず、考えたい
と思います。順イールドということは、縦軸に
金利水準を取って、横軸に期間を取れば、
「右肩
上がりのグラフの形」です(会場ではホワイト・
ボード上に図示)。イールド・カーブの形は色々
あろうかと思います。それで、運用の利回りが
調達を上回るようにするということは、本当に
単純ですけれども、運用の方に期間を長くとっ
て、調達の方を短くとれば、その分の金利差が
稼げるということになろうか思います。
ですから、もしも余りにこの目標にとらわれ
過ぎてやってしまうと、つまり、何が何でも調
達の平均借入利率を運用の平均利回りが上回る
ようにしようということでやってしまうと、結
局金利のカーブがこの形で動かない場合ですが、
借りる方はできるだけ短く、運用する方はでき
るだけ長くしようということになってしまう
のではないかと思います。これは要するに、わ
れわれマーケット関係者が言うところの「キャ
リー・トレード」です。これは通貨を使った取
引について、よく言われる用語ですが、金利の
安い円で借りて高い他の通貨で運用する、とい
うのと同じことです。
しかし、このままで金利が動かなければいい
ですが、今後動かないという前提で果たしてい
いのかという気がいたします。それでは、金利
が動く時はどのように考えたらいいのかという
ことについて、堀様の資料の中でも、長い期間
の ご 経 験 に 即 し て、20年 ぐ ら い 前 の 日 本 の 逆
イールドの状況など含めて試算されています。
私のように経済を見ている人間の見方からす
ると、これからについて、日本の過去の金利体
系で考えるのは一つの見方ではありますが、こ
れから先は違う、通用しないのではないかと思
います。この国が現在抱えている最大のリスク
は、財政のリスクだと思います。それでは、そ
れが今後金利に跳ね返ってきた場合、どのよう
になるのかを考えると、日本の過去の状況、特
に逆イールド状態などは、平成に入って間もな
い頃、日本でバブル経済が崩壊して、日銀が引
き締めをした時期に現れましたが、そうした状
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
況にこれからこの国がなるかというと、その可
能性は限りなく低いと思います。
そうではなく、財政リスクが現実のものと
なってきた場合にどのような形になるのか、そ
の時に経済成長率がどのぐらいになっているの
か、それから物価はどうか、デフレから脱却で
きているのかどうかといったあたりも関係して
きますが、そういったことをあわせてお考えい
ただくのもいいかと思います。
それでは、他の国はどのようなイールド・カー
ブに現在なっているのでしょうか。金利水準が
一番低いのは日本です(討論資料 4 ページ)
。最
近特に、その傾きが「寝た」ような感じにフラッ
トになってきています。それに対して、他の国
も今の時点ではすべて順イールドですし、現在
のマーケットの状況などがあって、短期のとこ
ろがマイナスになっているドイツのような国も
あります。
それではこれからどういうふうに変わること
があり得るのか。他の国で金利が上がっている、
特にヨーロッパの国の金利が高い、でも日本は
そんなことはない、少し別の話なんじゃないか
と思われる方がいるかもしれませんが、決して
そういうことではないと思います。
日本の財政の持続可能性を考えるには、色々
な見方がありますが、よく見る政府債務残高や
毎年の財政赤字の残高だけではなく、その国の
パブリック・セクターが毎年どれだけのお金を
調達しなければいけないかというのが重要な指
標です(討論資料 8 ページ)。対 GDP 比で見ま
すと、日本は本当に突出して悪いんです。それ
でよくこんな低金利で済んでいるなというよう
な状況になっていまして、やはりこうしたこと
から考えると、今のように金利のカーブが「寝
ている」状況がずっと続くという前提で、あま
り物事を考えない方がいいと思います。あと何
年かは続くのかもしれませんが、この状態が10
年続くということはちょっと考えにくいのでは
ないかと思っています。
ご参考までに、ヨーロッパの国の金利が、財
政危機に際して、どのように変化したのかを見
てみますと、極めて短期間で変化が急です。イ
タリアのイールド・カーブを見てみますと(討
論資料 5 ページ)、2011年10月には10年債で大
体 5 %強くらいの金利で調達していました。こ
の国は割と長期で安定的に調達する国ですが、
マーケットの方に危機感が非常に高まってくる
と、一時期の極端な例ですが、このグラフの11
月のように、わずか 1 か月で短期が中期や長期
を上回るような金利カーブに急激に変化するこ
ともあります。
イタリアの場合は政権交代があったりして、
こういう形はほどなく元に戻り、ECB(欧州中
央銀行)の色々なオペの影響もあり、順イール
ドになっていますが、今の段階で10年債の金利
がどれぐらいかと言うと、やはり 5 %程度が付
いているような段階です。
その他の国を見ると、例えばポルトガルは金
利水準はもっと高いんです(討論資料 6 ページ)
。
やはり逆イールドとなった期間は、
「逆イールド」
と言いますか、むしろ「財政危機型の変則的な
イールド・カーブ」です。期間 2 、 3 年といっ
た中期のゾーンの金利が最も高くなっています。
こういう経験をしている期間が一瞬ではなくて、
ずっと続いているような状況にあります。
ですから、日本が近い将来にこうなるという
ことではないのですが、こういう形もあり得ま
す。これ(討論資料 7 ページ)はスペインの場
合ですが、現在、足元では中期のゾーンが最も
金利が上がってそのまま横ばいのような状況に
なっています。中央銀行の政策にもよりますが、
従来の金融論の教科書には出てこなかったよう
なイールド・カーブの形を、先進国として、今、
初めて経験しているような状況だと思います。
最初の問いに戻りますが、それでは運用と調
達の目標ということで、金利が動かなければ、
つまり順イールドで動かなければ話は割と簡単
です。では、パラレル・シフトの時にどうする
か。堀様のご報告資料ですと、「右肩上がりのグ
ラフが上方に平行移動する」形で上がる(会場
ではホワイト・ボード上に図示)というような
感じで計算されていましたが、パラレル・シフ
トには色々な形があろうかと思います。極端な
話ですと、現在、日本のイールド・カーブは「寝
ている」感じで、長期の金利水準もかなり低い。
それがある程度平行移動で上がってくる時、短
期が長期の水準を上回るような形で平行移動し
てくることもあり得るかと思います。そういう
場合のパラレル・シフトはどのようになるか。
それから、堀様が想定されているのは逆イー
ルドです。ですが、今の段階では金融引き締め
の時の逆イールドよりも、
「財政危機型のイール
ド・カーブ」なども想定しておいた方がいいの
かもしれません。それでは、その時にどのよう
な運用の目標を掲げれば良いのか。何をもって
考えたら良いのかということを考えることがで
きればと思います。
次に、調達と運用をあわせて考えるのが良い
のか、あるいは別々に考えるのが良いのかとい
うことがあろうかと思います。それから、減債
December.2012 No.14
11
基金でも財政調整基金などであれば、それこそ
やはり不測の事態に備えた取り崩しのことなど
も考えておかなければいけませんし、そうした
時にどういうことを運用の目標に立てるべきか、
あるいは流動性のことを考えなくていいのかと
いうこともあろうかと思います。
それから、これは少し難題かと思いますが、
私も地方公共団体の方とお話しさせていただく
機会があるのですが、やはり皆さんのお悩みは、
組織である以上、 2 ∼ 3 年で異動されるわけで
すが、異動された時に、その団体として継続的
な視点で運用をしていくためにはどうしたら良
いかということです。特に、先ほど堀様がご報
告して下さったような、途中売却を考えていく
ときに、何をもってそれを判断したらいいのか
ということです。
ご報告資料ですと、運用の 1 本 1 本について、
この債券はこの年に買い、 7 年たったところで
売却して、売却益をこの間全部オールインコス
トで入れて計算すると、いくらの利回りが出る
ということで示されていますが、果たして、こ
のような運用 1 本 1 本の評価で良いのでしょう
か。しかし、 7 年目に売却するとして、その時
点で確定ということになるわけですが、それ
を売却するのは 7 年目がベストでしょうか。 8
年目、あるいは 6 年目で売却した方が良くない
か。そこはどのように考えたら良いでしょうか。
じゃあ、 7 年目で今売却しようかと考えたとき
に、来年売却するのと今売却するのとどっちが
いいのか。それから、 1 本 1 本の運用について
評価するということで良いのか、それとも、担
当者が替わることを考えるのであれば、やはり
運用のポートフォリオ全体として、先行きの金
利変動リスクを考えながらどのように評価して
いったら良いかといった課題があるのではない
のかと思います。
12
三井住友銀行公共・金融法人部部長代理補
瀬崎 陵
私の方からは、銀行の立場からの見方と、一
人の市民がどのような考え方をするかというこ
とも少し踏まえながら、 3 点の意見と、 1 点の
質問を申し上げたいと思います。
まず、意見の 1 つ目です。
「歳計現金の不足
について」です。ご報告の中で、歳計現金の不
足をどのように手当てしてきたか、さらに言う
と、一時借入の利息をいかに削減してきたかと
いう大きなポイントがあったと思います。しか
し、ここで銀行の立場から気になるのは、そも
そも 1 年を通して歳計現金が不足し続けている、
しかも不足の平均が1,000億円を超えているとい
う点です。そういう状態は正常ではないと感じ
ざるを得ません。これは地方自治体だから良い
のですが、これが民間企業だと、そもそも銀行
が融資に応じないというリスクもありますので、
そうした点も踏まえると少し考えづらいところ
があります。
さらに言いますと、資金不足の最大の要因は
制度融資預託金だということですが、中小企業
の振興施策として、一つは制度融資取扱金融機
関に預託金を預託する、もう一つは、制度融資
に利子補給を行うという、大きく二つがあると
思います。制度融資の預託金というのは、いわ
ゆる財政上は出て入ってのプラスマイナスゼロ
なので、負担がないように見えますが、実際に
は福岡市のように、一時借入に係る利息という
形でコストが発生します。
そうしたことを考えると、利子補給というや
り方で、例えば商工費で予算を取れば、「わが市
の中小企業対策費というのはこれくらいかかっ
ているんだな」と、住民の方が見てすぐ分かる
のですが、一時借入利息の中にそれが紛れ込ん
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
でしまうと、利息のうちいくらが中小企業対策
費なのか分からなくなってしまいます。そうし
たサンクコスト(埋没コスト)と言いますか、
政策コストが一時借入金の利息に混入してしま
うのではないだろうかということで、「妥当性を
検証しづらい」と申し上げています。そうした
視点で、制度融資の預託金方式というのはそも
そもどうなのだろうかというのが、私の一つ目
の意見です。
二つ目の意見ですが、基金運用の取り組みと
いうのは非常に重要な観点でして、地方自治体
のホームページや IR 資料などで積極的に情報発
信すべきだと考えています。しかし、残念なが
らと申しますか、ここ 2 年くらいの福岡市の IR
資料を見ておりましても、この取り組みについ
ては全く触れられておらず、少し残念だなと考
えています。減債基金をどのように運用してい
るのかという情報は、地方債の投資家にとって
非常に重要だと思いますので、ぜひ積極的な情
報発信をしていただきたいと思います。
三つ目の意見は「市場との一層の対話」につ
いてです。地方債は現在、投資家のニーズが非
常に高く、なかなか手に入らない状態にありま
す。 こ う し た 状 況 を 踏 ま え て、 ご 報 告 の 中 で
FLIP 債を活用しようとおっしゃっている点があ
り、非常に合理的なやり方だと思いますが、一
般債の取得についても、従来どおりの画一的な
やり方を継続するのではなく、例えば、単純な
競争入札に頼らないで、複数の証券会社を運用
主幹事という形で選定して、運用ニーズを積極
的に発信することで、有利な債券取得につなげ
る動きをされている地方自治体もあるので、そ
うした取り組みもご検討いただくべきではない
かと考えております。
最後に質問です。ご報告の内容は市場公募団
体に共通する課題だと思っています。ですので、
速やかに取り組むべきものだと思うのですが、
ただ、私が見ている範囲では、福岡市以外のと
ころにここまで積極的なやり方は広がってない
のではないかと見受けられる点があります。堀
様に伺いたいのは、これを福岡市だけができた
理由、あるいは、他の地方公共団体ができない、
もしくはやらない理由は何なのか、あらためて
率直なご意見・お考えをお聞かせ願えればと思
います。
報告者リプライ
まず、河村様の一番目のご質問である「調達
と運用の目標はどのように掲げるべきか」につ
いてですが、長期的な財政運営の視点において
調達と運用ををあわせて考える場合、ご指摘の
ような調達は短く借りて長く運用するいわゆる
キャリートレードの考え方が望ましいと思って
います。なお、運用面の具体的な目標は、先ほ
ど述べたとおりですが、調達面の目標としては、
借入利率が地方税や交付税などの一般財源の伸
び率と同程度か、あるいはそれを下回るのが望
ましいと考えています。
しかしながら、現実的には運用期間は地方自
治体の都合で長くできますが、資金調達はあく
までも投資家あっての話ですから、期間の短い
債券だけを発行しても受け入れられない可能性
があり、自らがその受け皿を開拓していく必要
があると考えています。
平成16年度に、この一方策として、個人消化
率拡大を目標に掲げた取り組みを行っています
が、補足資料 5 (「市場公募地方債の個人消化率
向上への取り組み」
『地方債月報』2004年11月号)
にその詳細が掲載されていますので簡単にその
内容をご説明いたします。市債の安定消化と利
払いの軽減を図るには、全国で1,400兆円を越え
るといわれる個人金融資産をターゲットとする
のが有効であると考え、個人消化率を 1 年で倍
増させる目標を掲げ、福岡市として初めての地
元 IR 説明会の開催や市政だよりタブロイド版一
面を使った PR など様々な取り組みを積極的に展
開しています。
その結果、 7 月発行の 5 年債は、募集開始ま
での 8 日間で500件を超える市民からの問い合わ
せが殺到するなど大きな反響があり、 7 月と 9
月に発行した 5 年債は、前年度に11%だった個
人消化率が30%と大幅にアップしています。ま
た、 3 年もののミニ公募債を平成14年から毎年
度20億円発行していますが、 7 月の個人販売実
績を踏まえ10月には倍額の40億円を発行しまし
たが、6 日間で完売するなど大きな成果が上がっ
ています。
私は11月の異動で転出しましたが、その後発
行した10年債も目標を達成したと聞いておりま
す。なお、この個人消化率拡大の取り組みは、
この年度だけの一過性のもので終わっています
が、福岡市程度の発行規模であれば、市債の安
定消化を図るうえでも個人すなわち地元密着型
の市債発行に積極的に取り組むことが重要では
ないかと考えています。
次の「減債基金以外の基金の運用目標はいか
にあるべきか」というご質問ですが、基金は確
実かつ効率的に運用しなければならないと地方
December.2012 No.14
13
自治法で定められているように、流動性リスク
にも配慮しながら、その積立て目的に応じて効
率的な運用をするのが基本であると言えます。
しかしながら、福岡市では冒頭でご説明したよ
うに、長期運用が可能な満期一括償還積立金が
基金総額の大半を占めることから、これを活用
して全ての基金を一つの基金として一括運用し
ていますので、基金総額を対象とする目標設定
としています。
なお、運用利子の配分にあっては、公債費コ
ストの軽減と実質公債費比率をできるだけ低減
させることを目的として、満括積立金に重点配
分する方針を定めています。この具体的な配分
方法は補足資料 6 の26ページに掲げていますが、
満括積立金以外の基金は、基金総額の実績利回
りに0.6を乗じた利回り相当分を配分し、残りを
満括積立金に配分しています。なお、平成21・
22年度の配分実績は、満括積立金以外の基金
は 1 %程度、満括積立金は 2 %を上回る配分に
なっていますが、満括積立金以外の基金を個別
に運用した場合、 1 %を確保するのは困難であ
り、満括積立金と一括運用することにより有利
な運用が可能になっていると考えます。
次に、「職員が 2 ∼ 3 年で異動しても継続的な
運用を行うにはどうすればよいか」という最後
のご質問ですが、これは非常に難しい課題であ
ると思っています。福岡市では 1 人の職員が基
金運用と他の業務を掛け持ちで担当し 3 年程度
で異動しますが、このような状況で継続的な運
用を行っていくためには、やはり係長、課長を
含めた組織として基金運用の必要性を十分認識
するとともに、その目標を共有することが大事
だと思っています。
また、運用にあっては、一定のルールによる
シンプルな運用方法を確立することが不可欠で
あると思っています。福岡市の運用方法は、先
ほど報告資料によりご説明したとおりで、一見
複雑そうに見えるかもしれませんが、基本的に
はシンプルな運用だと思っています。すべての
基金の管理・運用を財政局で一括して行うとと
もに、基金ごとの利子配分については 3 月末に
集約するなど可能な限りシンプルな運用を目指
しています。
それから、債券の中途売却時期に関するご意
見についてですが、確かに金利やイールドカー
ブの変動によって、何年目で売却するのがベス
トかというのは異なってきます。しかしながら、
よほど専門的に、かつある程度長年携わってき
た者でない限り、それをその都度判断するのは
極めて困難であると思っています。このため、
14
様々な金利体系のケースを想定したシミュレー
ションの結果、平均的には10年債は運用 3 年、
20年債は 8 年で売却するのが効率性が高くなる
ことから、シンプル化したルールを提案してい
るものです。
次に瀬崎様の 3 点のご意見に対するコメント
です。まず、 1 点目の「歳計現金の資金不足の
最大の要因となっている制度融資預託金を利子
補給方式に見直す方法もあるのではないか」と
いうご意見ですが、資金不足額の解消を図るに
はまさにそのとおりだと思います。実は、平成
14年のペイオフ解禁にあたり、制度融資預託金
の保全が最大のリスクとなることから、平成13
年度に利子補給方式の検討を行っています。な
お、ペイオフ対応方策については、補足資料 4
の27ページ以降にその詳細が掲載されています
が、制度融資預託金に関する部分について簡単
にご説明いたします。
福岡市では、当時850億円の預託金があり、こ
れを利子補給方式に変更した場合には年間で約
10億円の負担増になること、また変更した場合、
今度は逆に歳計現金が黒になり、そのペイオフ
対策が新たに必要になること等を総合勘案し、
制度融資については預託金方式の継続を決定し
た経緯があります。
この預託金をはじめとする預金のペイオフ対
策については、平成14年度にペイオフ対応市債
を創設し、公金預金の万全の保護を図っていま
すが、簡単にその内容をご説明いたします。な
お、ペイオフ対応にあっては、公金預金につい
ては万全の保護を図ること、また、本市が地域
金融機関の選別を行った場合、風評被害により
金融機関の破綻を招く虞があることから金融機
関の選別は行わないという本市の方針を明確に
示したうえで、平成13年 6 月以降、制度融資を
はじめとする預金対象金融機関約20行と協議を
重ね、ペイオフ対応市債を創設しています。こ
れは金融機関から預金と相殺可能な借入を行う
ものですが、この証書借入は従前の 5 年、10年
の固定金利に加え、金融機関の要望が強い 5 年
の変動金利を導入するとともに、その選択は金
融機関にお任せするというものです。
この合意に伴い、すべての預金対象金融機関
と平成14年 4 月 1 日付けで所要額の証書借入契
約を締結し、仮に、ペイオフが実施されたとし
ても、すべての預金について相殺方式による保
護を可能としています。
次に 2 点目の「基金運用の取り組み等の情報
発信」についてのご意見ですが、従前は、IR 資
料に満期一括償還分はルールどおりの積み立て
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
を行うとともに、その運用は有利な地方債で運
用している旨の掲載をしていましたが、瀬崎さ
んご指摘のとおり、最近はその記載がなく残念
に思っていましたが、先月の 9 月議会の一般質
問において、資金の調達金利や基金運用の実績
などについて積極的に情報開示を行うと答弁さ
れており、今後は基金の運用状況も公表される
のではないかと思っています。
3 点目については、「市場との一層の対話」に
関する一例として、債券の取得にあたり複数の
運用主幹事を選定し、運用ニーズを積極的に発
信することで有利な債券取得につなげる検討も
必要ではないかとの意見をいただいております
が、これについては、まず、福岡市のこれまで
の債券取得方法についてご説明いたします。こ
れまで、20年債は主幹事との相対交渉により取
得し、それ以外の債券は、福岡市債引き受けシ
ンジケート団の構成員を中心とする金融機関の
競争入札により取得しています。これにより平
成13年度には900億円を競争入札で取得し、その
後は、年度当初に金融機関に対して債券の取得
時期と取得計画額を周知し、できるだけその時
期に合わせた玉(ぎょく)の確保を依頼したう
えで入札を行い、計画額を確保してきたところ
です。しかしながら、現在地方債の取得が非常
に厳しいという状況を踏まえますと、ご指摘の
運用主幹事の導入は、大いに検討の価値がある
のではないかと考えます。
最後に、
「福岡市が長期債券運用をできた理由」
についてのご質問ですが、敢えて挙げるとする
と次の三つが考えられると思います。一つ目は、
会計部門との役割分担が明確化していたことで
す。地方自治法で基金の管理運用は長の権限と
されており、従前から基金の繰替運用や預金運
用の金額と期間は財政局が決定し、会計部門は
財政局からの依頼に基づき運用及び現金や債券
の保管を行う明確な役割分担ができていたこと。
二つ目は、資金運用課に効率運用の目的意識
と債券運用を行う下地があったことです。資金
運用課は満期一括償還積立金の所管課であり、
この積立金の役割と ALM の視点を意識した効率
的な運用を行う必要性を認識していたことに併
せ、債券の仕組みを理解していることから、債
券運用の導入に抵抗感がなかったこと。
三つ目は、指定金融機関と良好なパートナー
関係を築いていたことにあると考えています。
TIBOR を基準とする一時借入利率の見直しがで
きたのは、この良好な関係に基づくものであり、
この見直しがなかったら、基金の長期債券運用
の本格導入はできなかったと思っています。
なお、他の地方自治体で長期債券運用が進展
しない理由としては、それぞれ特殊事情がある
と思いますが、報告資料の 6 ページに掲げてい
る三つの要因のいずれかが大きなネックになっ
ているのではないかと考えています。
質疑応答
○質問者 私は証券会社に勤務しており、色々
な地方公共団体ともお仕事をさせて頂いており
ますが、今回ご報告頂いた福岡市のような取り
組みは、現在では決して福岡市だけではなく、
非常に幅広く行われていると認識しています。
それから、福岡市の特殊性として、政令指定
都市で人口が増加していますので、非常に税収
構造が安定しているということがあります。と
ころが、他の都道府県になると法人事業税の関
係で、いきなり円高などになると税収が落ちる
ことがあります。ですので、やはり政令指定都
市の方が長期運用に取り組みやすいのではない
かという感じがします。
また、制度資金関係については私なども携
わっているのですが、地方公共団体は諸収入が
あるものですから、これを一般財源に使わない
で、非常に気軽に円高対策などにつかってしま
うことがあります。それが結果として一時借入
金に及んでいるというのは事実ではないかと思
います。
堀様のお話は非常によく分かるのですが、一
般の方にお話すると、特に売却益というのは非
常に危険そうに聞こえるような気がします。た
だ、理論的には正におっしゃる通りです。例え
ば、20年債の利回りが1.6%で、10年債は0.8%で
あるとしましょう。そうすると、イールドカー
ブが変わらないとすれば、20年債の残存期間が
10年になった時には、当然キャピタルゲインが
あり、理論的には必ず売却益が出ます。これを
証券用語ではロールダウンと言いますが、決し
ておかしな話ではなく、通常はそうなんです。
ただし、ロールダウンしたとしても、その時
に同じ年次のもの、つまり、20年債を10年で売
却して、また10年債を買ってしまったら、結局
これは利息の先取りに過ぎないと言われている
んです。だから、あとはオファー・ビット差や
発行手数料を考慮しないと、必ずしも有利とは
言えないというのが一般的な理論だと思います。
ただ私は、先ほどの河村様のお話のように、
本来は全体的にポートフォリオとしてやらない
と、例えば地方債を全部 2 年債にして運用を20
December.2012 No.14
15
年にしたら、これは必ずプラスになりますが、
これは 2 年物国債の借換リスク、つまり借換時
における金利上昇リスクをもろにかぶってしま
うわけです。多くの公募団体は超長期債を発行
して、借換リスクの軽減をある程度バランスを
もって行っていると思いますが、今の目標のま
まだとそれができなくなってしまうと思います。
現在のようにデフレが長期化して、今後も日
銀が金融緩和を行うという条件の下では、むし
ろご提案のように売却できるものは売却して、
そこで将来の金利上昇を先取り、つまり確定さ
せる方が良く、それが現状においては非常に有
望な運用方法だと思います。今申し上げました
ように、 2 年で調達して20年で運用するという
のは、地方債は耐用年数に応じて発行しなけれ
ばいけないという法律上の制限もありますので、
基本的にはできませんよね。このあたりについ
てもしも何かご意見があればお願いします。
○堀 まず、債券の売却益は、「利息の先取りに
過ぎず、必ずしも有利とはいえないのではない
か」というご意見ですが、ご指摘のように再取
得する債券の償還年数が売却債券の残存年数に
合わせて短くなる場合は利益の先取りといえま
すが、提案している債券の取得替えは、報告資
料の算式表にもあるように、再取得債券の償還
年数は売却債券と同じ年限を前提とするもので
あり、この場合、順イールドカーブである限り、
満期運用よりも必ず運用益が多くなる有利な運
用であると思っています。
それから、「 2 年で調達して20年で運用する」
ことに関する私の意見ですが、この方法は、借
換債を活用することで法律上、理論的には可能
であると考えますが、調達にあっては、投資家
のニーズに応じた債券を発行する必要があるこ
とから、ご指摘のとおり 2 年の調達は現実的な
ものではないと考えます。公債費のコスト軽減
を図るには、短・中期債の投資家層を開拓して
いく努力を続ける必要があると考えています。
寄付講座の組織・機構
◆ 東京大学大学院経済学研究科寄付講座運営委員会
伊藤 正直
(東京大学大学院経済学研究科教授)
井堀 利宏
(東京大学大学院経済学研究科教授)
神谷 和也
(東京大学大学院経済学研究科教授)
持田 信樹
(東京大学大学院経済学研究科教授)
◆ 地方公共団体金融機構寄付講座フォーラム運営委員会
相田 佳子
(東京都財務局主計部公債課長)
稲生 信男
(東洋大学国際地域学部教授)
江夏 あかね
(株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)
緒方 俊則
(地方公共団体金融機構総括主任研究員)
小西 砂千夫
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
三富 吉浩
(川崎市財政局財政部担当部長)
持田 信樹
(東京大学大学院経済学研究科教授)
16
◆ フォーラム運営委員会事務局(※は事務局長)
青木 世一
(財団法人地方債協会企画調査部副参事)
※天羽 正継
(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
鵜飼 陽介
(地方公共団体金融機構経営企画部地方支援課主査)
東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部
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tel 03-5841-5598 fax 03-5841-5521
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