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第24号 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部

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第24号 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部
地 方 公 共 団 体 金 融 機 構 寄 付 講 座 ニ ュ ー ズ レ タ ー
第 24 号
日 時
2014年5月27日(火)
16:00∼18:30
第 3 回フォーラム
「アメリカ合衆国における州・地方政府の財政状況と資金調達
−デトロイト市の破たんを受けての直近の状況」
場 所
東京大学本郷キャンパス
東京大学大学院経済学研究科学術交流棟
(小島ホール)2階 小島コンファレンスルーム
内 容
● 報 告
小西 砂千夫
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
江夏 あかね
(野村資本市場研究所主任研究員)
● 討 論
稲生 信男
(東洋大学国際地域学部教授)
天羽 正継
(高崎経済大学経済学部専任講師)
● 報告者リプライ
● 質疑応答
2014年 5 月27日(火)、小島コンファレンスルームにおい
て、地方公共団体金融機構寄付講座第 3 回フォーラム「ア
メリカ合衆国における州・地方政府の財政状況と資金調達
−デトロイト市の破たんを受けての直近の状況」が開催さ
れ、同寄付講座が 2 月にアメリカ合衆国ニューヨーク州お
よびカリフォルニア州で実施した調査事業をもとに報告が
行われました。関西学院大学教授の小西氏からは、連邦破
産法第 9 章に基づくデトロイト市の破産申請とその後の経
緯や、アメリカの債務調整の仕組みと日本の地方債制度と
の対照について、野村資本市場研究所主任研究員の江夏氏
からは、金融危機後の米国地方債市場の状況、デトロイト
市やプエルトリコの財政危機、財政破綻したバレホ市とス
トックトン市の地方公共団体のその後の資金調達について
ご報告いただきました。これに対して二人の討論者からは、
デトロイト市の財政破綻が公会計改革に与える影響や連邦
政府の地方債に対する関与の動き、財政破綻した地方公共
団体の抱えていた財政上の制約など、報告内容を掘り下げ
る論点が提示されました。また、フロアからも質問がなさ
れ、活発な議論が交わされました。
※当日の報告資料は寄付講座のホームページでご覧頂けます。
( URL:http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html )
主催/東京大学大学院経済学研究科寄付講座、
地方公共団体金融機構 August. 2014 No.24
1
報告
関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授
小西 砂千夫
関西学院の小西でございます。寄付講座から
アメリカに派遣させていただきまして、調査の
機会をいただいて、大変ありがたく思っていま
す。今日の報告は、一緒に行きました江夏さん
のご報告と、2 つが補完関係になっております。
今回の調査は、討論者のお二方が 2 年前に調
査に行かれた、バレホ市やストックトン市の状況
の、いわばフォローアップという側面もありまし
た。アメリカの地方債マーケットが縮小気味なこ
ともあり、ストックトン市やバレホ市については、
いろいろ難しい問題はあるものの、それなりに前
へ進んでいるということで、全体としては粛々と
進んでいるといった調査結果となっています。
詳しくは江夏さんから丁寧にご説明をいただ
きますが、ニューヨークでいろいろな金融関係者
の話を伺いますと、みなさん、デトロイトのこと
が念頭にあるようです。今からご報告を申し上げ
ます、デトロイトの破綻申請の処理が進んでいる
ことは、アメリカの地方債マーケットの関係者に
意識されていて、端々にそのことを念頭に置いた
ご説明が出てくることに気がつきました。
それから、江夏さんのご報告で特に強調され
るのはプエルトリコの話です。これはあまり日
本国内では話題になりませんが、関係者の話に
はデトロイトとプエルトリコが同じ頻度で出て
きます。要するに、デトロイトとプエルトリコ
が大きな課題としてあって、それを除けばそこ
そこですね、という感じなのです。
私はまずデトロイトの話を丁寧にご説明申し
上げます。そのあとで江夏さんのご報告を聞い
ていただきますと、私たちの調査の、一種の追
2
体験をしていただけるのではないかと思います。
ただし、デトロイトの調査内容は聞き取りだけ
ではまとめられませんでした。自治体国際化協
会のニューヨーク事務所の上席調査役犬丸淳氏
が、ニューヨークを拠点にしてデトロイトの破産
申請の状況をフォローしておられます。今回の調
査では、西海岸も含めて全日程同行いただいて、
その間にいろいろとお教えいただいたり、取りま
とめておられる非公表の論文なども頂戴したり
しましたので、今回の報告資料はそれをもとに
作っております。内容については犬丸氏に確認
をいただいています。犬丸氏が雑誌『地方財務』
と地方債協会の雑誌に論文を掲載される予定で
すので、そちらもどうぞご参照ください。
私の報告の趣旨ですが、特にこの問題が日本
の地方債マーケットの運営とどういう関係があ
るのかを申し上げまして、江夏さんのご報告と
セットでアメリカの地方債マーケットの状況を
包括的にご理解いただきたいと思います。
まず、連邦破産法第 9 章の考え方ですが(報
告資料 p.2)、これは 2 年前に稲生先生と天羽先
生が調査に行かれた時の資料が寄付講座のホー
ムページにありますが(第一期第10回および第
11回フォーラム)、それをご参照いただいてもほ
ぼ同じ内容のものが出てきます。
破産法を連邦の法律で裁くようにしたのは憲
法の規定ですが、箇条書きの2 点目にありますよ
うに、州の主権を尊重する形で改正をしていま
すので、結局第 9 章が適用される、されないも含
めて、州によって違いますし、その際の州知事の
役割とか、州と自治体との間の関係も、州の法律
によって違います。それが微妙に効いてきてい
まして、デトロイト市の場合も、年金債務に対し
て保証があるとかないという点にミシガン州の
法律が非常に効いてくるところがあります。
ですから、アメリカの場合、ある市の財政状
況が悪くなったとしても、州の法律が違うとすれ
ば、クレジットリスクという意味では微妙に違っ
てくる場合もあります。それが良いか悪いかは別
として、そういう建て付けになっているのです。
資料には英語を引用して「第 9 章の破産手続
きの目的は、財政危機に陥った地方自治体に対
して、債務調整の計画を策定・交渉している間
に債権者からそれを保護することにある」と書
いていますように、債務調整をすることができ
ます。その債務調整をするための法的な枠組み
が第 9 章です。ですから、「債務調整をするとい
うことが極めて厳しいので、日本のように債務
調整を前提としない仕組みは甘やかし」という
感覚は、できればもう捨てていただきたいとい
うのが私のお願いです。
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
債務調整の話になると、ガチガチな法律の世
界が入ってきます。連邦破産法第 9 章は、債務
調整の手続きを遂行するための法的手続きです
ので、債務調整しようと思うと、こんなに大変
な法律的な手続きの下で一歩一歩進んで行かざ
るを得ないのですよ、ということです。資料を
見ていただくと、債務調整によってマーケット
に委ねているという感覚は持ち得ないのではな
いかと思います。このことは、私自身もあらた
めて大きく感じた点です。
資料の箇条書きの 5 点目には、破産手続きを
進める、つまり債務調整を認めてもらうために
は「保護を受ける適格性を有することを証明し
なければならない」とあって、適格性の要件を
ここでは①から⑤として挙げています。要件は
4 つと紹介されているものや 5 つと書いてある
ものもありますが、基本的には同じ内容です。
これは 2 年前の資料にもあった内容です。その
要件を満たして初めて、債権の減免なり、リス
ケジュールなりが認められるということです。
要件を満たしていなければ、借りた金はきちん
と返せということになります。
デトロイト市が破産申請をしたのは2013年 7
月で、大きく報道されましたが、デトロイト市
がいずれ行き詰まることは、すでに織り込み済
みであったと言われます。その日までは誰も警
戒していなかったけれども、 7 月18日に突然出
てきた、ということではなくて、デトロイトの
市債の格付け、デトロイトの発行体としての格
付けは全くジャンク債の扱いであったので、そ
ういう意味では織り込み済みでした。いよいよ
破産申請をすることになったのが 7 月18日です。
それまでにも、ミシガン州の法律の中にある、
連邦破産法第 9 章以外の枠組みでやろうとした
けれども、うまくいきませんでした。
報告資料 3 ページの箇条書きの 2 点目にあり
ますように、債務調整計画を連邦破産裁判所が
適正であると認めるということが、破産申請が
終了する条件です。要は、債務調整をするにあ
たっての計画が、誠実にバランス良く目配りの
利いた内容になっていれば、裁判所としては
オーケーということです。その状況に従って債
務調整をした上で、後はそれぞれ粛々とやって
下さいとなります。今年の10月までにすべての
合意をしたいというスケジュールになっている
のですが、 5 月末の段階では、合意した箇所が
少しずつ積み上がっている状況です。
日本と違って、アメリカでは自治体は退職年
金を払い続けます。日本の場合、退職金は一時
金で払うか、あるいは退職組合に入っていて、
いずれにしても退職した時点で一時金を支払っ
て切れてしまいます。ところがデトロイト市には
退職年金の支払い義務がずっと生じるという形
になっており、その年金債務がいわゆる地方債
や税金で償還する事業債よりも非常に大きい状
況にあります。これは日本と全然違う状況です。
退職年金のための基金への支払手段に関連し
て、 2 つの銀行との間で金利スワップを結んで
いましたが、リーマンショックの後、金利の大
きな変動があったため、これを解約せざるを得
ません。解約にも手数料が必要ですが、この手
数料を満額は払えないので、いったんカジノ収
益を担保に差し出した上で、今は解約手数料を
どこまで引き下げられるかの交渉をしています。
市側としては解約手数料を値切って、担保に入
れたカジノ収益を取り戻して、この収益を償
還財源に地方債を新たに発行して、これをデト
ロイトの再生の財源に使いたいですので、どう
やってこの金利スワップの決着をつけるかが非
常に大きな問題になっています。
また、箇条書きの下から 2 点目のデトロイト
美術館に関する記述ですが、この美術館は大変
良いものを持っているそうです。所蔵品がデト
ロイト市の破産処理のために売却されないよう、
支援する話がありますが、支援したお金が回り
回って別の用途に使われては困ります。ですか
ら、デトロイト美術館の救済のための寄付は美
術館のためだけに使われるために、全体の債務
調整計画が固まる必要があります。
報告資料の 4 ページは主な登場人物を描いた
図です。連邦破産法第 9 章の申請はミシガン州
が行います。それを受けて、連邦破産裁判所の
ローズ判事が、地方裁判所のローゼン判事を調
停役に委任します。ローゼン判事はスワップ保
有銀行との間の調停交渉をします。また、緊急
事態管理官のオア氏は、州から任命された、こ
の問題の危機管理の担当者です。デトロイト市
がまとめた債務調整計画では、年金債務をカッ
トする話が出てきますので、これに対して年金
基金・労働組合は反対をし、権利を守るよう提
訴しています。
債務調整では、これだけの関係者の間のバラ
ンスを見ながら、持っている権利義務関係に照
らしてそれぞれ応分の負担をすることになりま
す。保証がはっきりとしている場合やあいまいな
場合がありますが、調停案として全部をならし
ていくことになりますから、ここで訴訟がたくさ
ん出てきます。基本的に訴訟社会の中で、弁護
士がいろいろなところで交渉を行い、どこが公
平かという線を引いていくことになりますから、
日本とはやり方も感覚も相当違うと思います。
職員の年金と医療給付にかかる債務、いわゆ
August. 2014 No.24
3
るレガシーコストは、日本で言えば将来負担比
率に入る部分ですが、この部分が実は相当大き
くて、いわゆる地方債の残高よりもはるかに大
きいです。数字は江夏さんのご報告でご覧いた
だけると思います。また、デトロイト市は自動
車産業そのものが衰退して、人口が特に周辺の
自治体に逃げています。
先の図に上下水道局も描かれていましたが、
上下水道はデトロイト市周辺の自治体も含めて、
公営事業として運営しています。狭い意味での
デトロイト市からは高所得者が逃げてしまって
いる状態ですが、その人たちが周辺にいるので
上下水道のビジネスはそんなに悪くなく、この部
分をいかに独立させるかという話も出ています。
報告資料 5 ページの箇条書きの最後にあるよ
うに、退職公務員の年金と地方債の劣後関係が
どうなるかという問題があります。日本の感覚か
らすると、公務員に泣いてもらえ、という話にな
りそうですが、州憲法にもとづいて保護されてい
る以上、どうかという議論があります。結論とし
ては、年金が地方債よりも保全される率は高く
なっています。オア緊急事態管理官は、当初は 2
つを同列に扱おうとしたのだけれども、直近の少
しずつ進んでいる状況を見ますと、年金の方が
保護されている割合が高いことになっています。
金融機関としては、年金も債務調整の対象と
なって100%保護されるのでないならば、破産申
請を一応は認めるけれども、地方債があまり簡
単にデフォルトするのは認めがたいと批判して
います。それも当然でありますし、そもそもデ
トロイト市が破産適格なのかどうかという根本
についても争われています。
報告資料の 6 ページに、連邦破産裁判所が示
した、適格性の要件を満たしている根拠につい
て示していますが、箇条書きの 5 点目にあるよ
うに、債権者が 1 万人以上いる中で、誠実な交
渉を果たしているかどうか等、判事は大変だな
と思うようなことですが、一つ一つ理屈を積み
上げていっている印象です。
途中経過の話が続いて、報告資料は 7 ページ
に移りますが、箇条書きの 3 点目に、 3 月 3 日
に 3 度目の合意に達したと記述しています。市
がスワップ保有銀行に対してどれだけ違約金を
値切るかの話ですが、市側としては違約金は低
い方が良いけれど、当然、保有銀行は困ります。
合意の 1 回目と 2 回目は、当事者同士では合意
したけれども、連邦破産裁判所が不承認の判断
をしたという経緯があります。交渉が進むなか
で違約金を値切ることになり、資料作成時点で
は合意が承認されるかは不確定と書きましたが、
直近の情報によると、この 3 度目でようやく合意
4
に達したようです。このように、当事者同士は合
意するけれど、連邦破産裁判所は全体のバラン
スからみて金額が高すぎると判断もしています。
このスワップ契約がなぜ重要かと言うと、この
スワップ契約をできるだけ値切ることで、市の
再生に向けての新しい事業ができるからです。
話が単調になってきたかもしれませんが、要
は大変だということです。報告資料の 8 ページ
に、フォード財団のデトロイト美術館に対する
支援について書いていますが、債務調整計画
案がきちんと承認されることが条件で、それ
があるかないかで断然数字が変わってきます。
フォード財団の拠出は3.3億ドル、他の財団と合
わせて3.7億ドルで、このお金が入ってくるかど
うかでも、後の状況が違ってくるところです。
次が重要だと思いますが、報告資料の 9 ペー
ジです。デトロイト市にもレベニュー債があり
ます。レベニュー債と、いわゆる一般財源保証
債、税を償還財源とする通常の地方債では、当
然レベニュー債の方が少し信用が低いのが通常
ですが、デトロイト市では、地方債が満額返っ
てくることが全く期待できない状況ですので、
レベニュー債の方が圧倒的に信用力があります。
箇条書きの下から 2 点目ですが、一般財源保
証債でも担保付のものとそうでないものがあ
ります。州政府からの売上税分配金を償還財
源としているものは、担保が付いている債権な
ので問題ないのですが、無担保の債権もありま
す。さらに、無担保債権には無制限の一般財源
保証債と制限付きの一般財源保証債があります
が、報告資料を書いた段階では、一般財源保証
債は無制限のもの、制限付きのものも含めて債
務をカットするという案になっていました。し
かし、直近の状況では、やはりそれはおかしい
のではないかという話になっています。ですか
ら、結局地方債が 4 段階に分かれています。レ
ベニュー債と一般財源保証債、一般財源保証債
について担保のあるもの、担保のないもの、担
保のないもののうち、無制限のものと制限付き
のものの 4 段階です。
直近の話を速報として申し上げますと、債務
調整計画案は第 5 版になっています。大分固まっ
てきました。これを連邦破産裁判所が承認すれ
ばゴールですが、今のところは10月に承認される
ことが目標と設定されています。債務調整計画
案はこうやって、調停や交渉を繰り返しながらレ
ビューしていくものというわけです。最初のうち
は非公開なのですが、多くの関係者にそれを見
てもらって、これで良いですか、と合意をとるよ
うな段階に今はなっています。この第 5 版で確定
するかどうかは、まだ分からないようです。
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
それから、先ほど述べましたが、直近では無
制限一般財源保証債はやはり担保付債権として
取り扱うべきだと合意をしました。当初計画で
は、一般財源保証債は制限付きのもの、無制限
のものも含めて、元本の20%分しか返済しないと
していたのですが、無制限一般財源保証債につ
いては担保付債権として扱うことに変えました。
無制限一般財源保証債の返済は74%で、これだ
け返すことになると、制限付きの一般財源保証
債はほとんど返ってこないことになりそうです。
また、金利スワップの解約は、先ほど説明し
た 3 度目の合意で連邦破産裁判所の承認がとれ
ました。デトロイト市は一部の退職者組合とは
年金の取り扱いについて合意ができていますが、
認めないと言っている組合もあります。
制限付き一般財源保証債が他の無担保債権よ
りも優先権が与えられていることについて、つ
まり地方債について安易に債務調整でカットし
てしまうことに対して、当然証券会社などの債
権者は反対の意向を示しています。
デトロイト市の話は以上ですが、私はここで日
本との対照の話をして締めくくりたいと思いま
す(報告資料 p.10)
。まず、以前のフォーラムで
も申し上げましたが、このフォーラムは日本の地
方債のコンセンサスを作る貴重な場だと思って
おりますので、特に私は力を込めて申し上げた
いのですが、暗黙の政府保証があるという理解
はもう止めていただきたいのです。そんなもの
はないと、私は前から思っておりますが、肩代
わりはしないにもかかわらずデフォルトしない、
それはつまり暗黙の政府保証があるのだ、とい
う一種の解釈がまかり通っています。そうでは
なくて、債務調整しなくても返済が可能な範囲
で再建計画を強制的に発動させているのです。
アメリカの場合は、行くところまで行ってし
まって、ジャンク債に陥るところまで放ってお
いて、後は法律と司法の世界の中で関係者の利
害調整をしているという世界です。絶対に返せ
ないところまで行った上で、最後は残った取り
分の主張を司法の場でやりますということです
が、日本の場合は、自力再建ができる範囲で強
制再建プログラムをかけるということです。ア
メリカの場合は、申しましたような債務調整の
ルールの枠組みがあります。連邦破産裁判所が
いて最終的な判断をしますが、調停人を選んだ
りという、司法的な仕組みの中に適用して、地
方債はこのルールでやって下さい、それは民間
の債権、企業の債務の場合とは違います、とい
うことになっています。
そういう意味では、地方債が特別な法律の枠
組みにある点は同じだと思いますが、日本の場
合は、うんと早めに自力再建ができる範囲で止
めてしまうことであり、そこが本質だと思いま
す。そういう意味では、日本の場合の方がパター
ナリスティックであるとは言えるわけです。し
かし、何か日本は国がべったりで、アメリカは
ほったらかしという感じではありません。行け
るところまで行ってしまってから、後は司法で
決着をつければよいというのは、パワーゲーム
が好きな国柄という感じがします。みなさん関
係者の中で、デトロイト市のようになったら良
いと思っている方は、多分いらっしゃらないだ
ろうと私は思います。
報 告 資 料11ペ ー ジ の グ ラ フ の よ う な イ メ ー
ジを持っていただければと思うのですが、財政
逼迫をすると返済できなくなる確率は上がるの
ですけれど、これが点線のように上がっていく
か、ある種の閾値を持って上がっていくかとい
う問題があります。点線のように上がっていく
イメージを持つと、これがいわば需要・供給曲
線の片方であって、これに対してリスクをいか
に負うかという曲線があると、その交点で金利
が決まることになります。それに対して、デフォ
ルトリスクの度合いに応じて金利を決めるのが
マーケットだ、という理解があります。しかし、
もしも実線のように推移するのであれば、デ
フォルトリスクの差によって金利差を設けるこ
とは、ほとんど意味がありません。いわゆるゼ
ロイチの世界なので、リスクはあるところまで
はないし、あるところからは無限大になります。
結局、財政状況に応じたデフォルトリスクが
あるところまでは変わらないとすると、財政状
況に応じた金利差を設けることは、必ずしも適
切ではないことになります。これが、金融機関
の方も含めて投げかけられている問題ではない
かと思います。日本の健全化法は、図示した垂
直線のところでゲームオーバーにしてしまいま
すから、財政状況に応じて金利差を設けること
に合理性があるかどうか、せっかくの場ですの
で、みなさんに是非ディスカッションしていた
だきたいと思います。
最後に、アメリカの地方債市場の動向につい
て、江夏さんのご報告でも説明していただける
と思いますので簡単に触れますが、金融関係者
と話していると、自治体を考えるときに年金等
のレガシーコストのことが端々に出てきます。
レガシーコストと一般財源保証債の優先劣後関
係はどうなのかという問題です。
デトロイト市のような自治体は、他にたくさ
んはないと言われます。しかし、プエルトリコ
の問題はデトロイト市に匹敵する、という話も
出てきます。関係者の頭の中には、まずデトロ
August. 2014 No.24
5
イト市とプエルトリコのことが大きくあって、
その余波が常にあると聞きます。ただ、全体的
にはやはり例外的な団体ですし、市場はすでに
織り込み済みということです。
これが現在のアメリカの地方債市場を理解す
る上での背景ではないかと思います。以上で江
夏さんにバトンタッチしたいと思います。
野村資本市場研究所主任研究員
江夏 あかね
このたびは、米国調査及び発表の機会をいただ
きまして、ありがとうございます。小西先生に続
きまして、私からも米国地方債市場の状況と、デ
トロイト市をはじめとしていくつか米国地方債市
場で抱えております喫緊のテーマについて、取材
にもとづいた論点の紹介をさせていただきます。
具体的には、連邦破産法第 9 章という大きな
テーマがございまして、デトロイト市とプエル
トリコについて触れたいと思っております。加
えまして、前回の2012年春に行った米国調査で
訪問した団体も含まれますが、財政破綻した地
方公共団体がその後どうなったのかといった点
に焦点を当てたいと考えております。
まず、米国の地方債市場についてですが、「ギ
リシャの次はカリフォルニアか」と言われるほ
ど、昨今の金融危機を受けた金融市場でした。
しかし、2010年から現在までの金利の推移を見
ますと、基本的には金融危機以降、金利が低下
して落ち着くタイミングが比較的早かったと言
えます。その理由ですが、2 年前の第10回フォー
ラムでの稲生先生のご発表にもございましたと
おり、2009年 4 月から2010年末にかけてビルド・
アメリカ債( BAB )という新たな地方債が時限
措置で発行可能となっていたことが一因と考え
6
られます。米国の地方債は、基本的には利子に
係る連邦所得税が免税になる仕組みとなってお
りますが、BAB はあえて地方公共団体が課税債
として発行し、その一方で利子分の一部を連邦
政府が補助するといったスキームでした。この
ような地方債にも支えられ、地方公共団体は資
金調達をしやすくなったこともあり、市場が大
分落ち着いてきたこともございますし、後程ご
紹介いたします、新しい金融保証保険会社(モ
ノライン保険会社)が設立されたことも、市場
が落ち着きを取り戻すのに一定程度寄与してき
たのではないかとみられます。
一方で、2013年の春夏頃に地方債の金利が急
激に上昇しております。これは、米連邦準備制
度理事会( FRB )のベン・バーナンキ議長(当
時)が金融緩和政策縮小(テーパリング)の可
能性を示唆したことを契機に、金利が不安定に
なり、ファンドを中心に資金流出が続いたこと
が背景です。米国地方債市場は約 3 割がファン
ドによって保有されており、資金流出が市場全
体の金利上昇につながりました。次に、地方債
の発行額の推移ですが、小西先生のご発表で、
新発債が低迷しているというご指摘があったと
思いますが、金融危機を経て、2009∼2010年は
BAB の存在もあり、新発債の発行額が比較的順
調に伸びていったものの、その後、発行額は落
ち込み、基本的には借換債が中心になっており
ます。ただし、借換債に関しても、2013年の春
夏頃からの金利上昇がございましたので、発行
体も、起債で資金調達をするよりは内部留保を
活用するとか、例えば連邦の補助金で何か使え
るメニューがないか探すなど、できるだけ金利
上昇の影響を受けないような財政運営上の努力
をされていると取材で伺っております。
一方、地方債保証の状況につきまして、ビル
ド・アメリカ・ミューチュアル( BAM )という
新しいモノライン保険会社が2012年 7 月に設立
されたことが注目されます。モノライン保険会
社は、昨今の金融危機を経まして、証券化商品
を始めとしたストラクチャード・プロダクトに
も保証を付与していたこともあり、会社によっ
ては大きな損失が発生し、破綻をしたケースも
ございました。モノライン保険というのは、実
質的に、AAA の格付けがベースとなったビジネ
ス・モデルです。つまり、AAA のモノライン保
険会社が、例えば低格付けの地方債を保証する
ので、発行体は低格付けでも比較的低金利で発
行が可能という仕組みでしたが、金融危機で多
くのモノライン保険会社の格付けが引き下げら
れ、ビジネス・モデル自体が崩壊してしまいま
した。現時点ではアシュアード・ギャランティ
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
(かつての大手 4 社のうちの 1 社である FSA を
承継)と新しい保険会社である BAM が寡占して
いる状況です。
ところで、BAM は大変興味深い成り立ちで、
保証を受ける地方公共団体が会員となる相互会
社であり、保証を受ける地方公共団体は被保険
者及び所有者(会員)として会員資本拠出と保
証を付与する地方債のリスクに応じたリスク・
プレミアムを支払う仕組みとなっています。保
証の対象といたしましては、長期・固定金利で、
信用リスクが比較的高いとされる債券で、例え
ば一般財源保証債や、レベニュー債の中でも、
水道のような生活に不可欠なサービスに充当す
るものとなっております。このような仕組みを
通じて、低コストでの保証提供が可能となるた
め、地方債市場に順調に根付いてきています。
現在の地方債保証のシェアを見ると、 3 割強が
ビルド・アメリカ・ミューチュアルで、残りが
アシュアード・ギャランティによって占められ
ています。
ただし、アシュアード・ギャランティも BAM
も格付水準は現在、A ∼ AA 格です。そのため、
それよりも低い格付水準の発行体でないと、そ
もそもモノラインを利用するメリットがない状
況です。地方債の発行額に占める保証付債の割
合は大きく減少しておりますが、実際に地方債
保証が利用されているのは、特殊なリスクがあ
る銘柄や、財政規模が小さくて知名度があまり
ないような団体が中心だということをお伺いし
ました。
次に金融危機後の主要投資家層の変化をお話
しします。アメリカの地方債の投資家層にも大
分変化の兆しが見られます。日本の場合、地方
債の 7 割位を金融機関が保有している状態で、
家計は約 1 %強となっております。米国の場合
は、先ほどご紹介いたしました免税措置の存在
もあり、家計が 4 割強を保有しています。さら
に、米国の場合、日本に比して確定拠出型年金
( DC )が浸透していることもあり、家計がファ
ンドに対して投資をし、そのファンドが地方債
に投資していることもございますので、家計の
資金は実質的には 7 割以上という構図になって
おります。
ただ、この構図も少し変わってきております。
2 年前に米国調査をしたとき、家計は 5 割程度
保有しておりましたが、最近は少し低迷してき
ております。その背景の 1 つは景気回復です。
日本ではあまり想定しづらい傾向ですが、米国
では個人が地方債から株式へと投資資金をシフ
トすることもあるようです。
さらに、米国の最近の研究でも発表されてい
ることですが、金融危機以降の地方債市場で、
特に家計がネガティブ・ヘッドラインに対して
過敏に反応する、想定以上のリスクを感じるこ
とが起きていることもあり、デトロイト市の財政
破綻等を経て、家計の保有率が低迷してきてい
ます。ファンドにつきましては、先ほどご紹介し
ましたとおり、2013年の夏頃から資金流出が続
いています。
一方、投資家層としてプレゼンスが増してい
るのが銀行セクターです。この理由ですが、日
本と同じように民間セクターの貸出が伸び悩ん
でいるため、地方債が選好されるといった背景
もあるようですが、他の要因もあるようです。
銀行はかつて、変動金利要求払い債( VRDO、
長期債として発行されるものの、定期的に設定
される時期に、発行体に額面価格に経過利子を
上乗せした金額で発行体に買い取りを請求する
権限が付されている地方債)にしばしば投資を
しておりました。しかし、金融危機等を経て、
VRDO 市場が大幅に縮小し、銀行は他に投資先
を見つけなければならず、地方債、とりわけ変
動利付債( FRN )を金利リスクの管理等の観点
からも選好するようになったというわけです。
さらに、最近は私募債形式の地方債が比較的
発行されている傾向にございます。私募債は,
証券会社を通じ広く一般に募集される公募債と
は異なり、少数の投資家や銀行が直接引き受け
る地方債です。銀行の立場からは、相対で条件
面などについて発行体と交渉ができるため、か
つて銀行が投資を望んでいた VRDO の形態に近
い条件を組成可能ということもあり、私募債を
選好するケースが増えているようです。加えて、
地方公共団体にとっても、開示要件が公募債に
比して緩やかなので、私募債を選好するといっ
たこともございます。
最後に証券会社ですが、金融危機の震源地で
あった米国ですから、金融規制は大変厳格化され
ています。具体的には、ボルカー・ルールやドッ
ド・フランク法、バーゼル規制などですが、これ
らを通じて証券ビジネス全体のモメンタムが悪化
してしまったということを取材でお伺いしました。
米国地方債を巡る規制の厳格化に焦点を当て
ると、米国地方債の一種でテンダー・オプショ
ン・ボンドという、長期債を発行して調達した
資金を信託に拠出して、その上で短期の変動金
利債を発行するというスキームのものがあるの
ですが、ボルカー・ルールを通じて信託がファ
ンドとしてみなされ、証券化扱いになる可能性
があるため、仮にこのような取扱いが決定した
場合、テンダー・オプション・ボンドの発行が
困難になる可能性があるとのことを伺いました。
August. 2014 No.24
7
広く知られているとおり、証券化商品は今回の
金融危機で一番問題になったものですので、昨
今の金融危機以降、規制が最も厳格化されてい
る分野となります。一方、ドッド・フランク法
に関しては、特に地方債のアドバイザー、引受
業者、発行体に対して厳格な規制が導入されま
した。他方、バーゼルⅢに関しては、仮に地方
債が適格流動資産(HQLA)として認定されれば、
金融機関としては担保にもなるという意味で保
有しやすい金融商品になるのですが、バーゼル
規制の中では各国の裁量で地方債の取扱いを決
定できる中、米国では地方債を適格流動資産と
して認めないという提案がされているとのこと
です。仮に、そのような取扱いが決定した場合、
地方債は金融機関にとって取り扱いづらい商品
になりかねないといったお話を伺いました。
これまで、地方債市場を概観しましたが、こ
こから地方債市場のテーマについて紹介をいた
します。小西先生のご発表にあった部分もござ
いますので、一部割愛させていただきます。
連邦破産法第 9 章は、地方公共団体を対象と
した再生型の破綻法制です。米国では、企業で
あれば第11章が再生型、第7章が清算型の破綻法
制となっておりますが、第 9 章は、いわば第11章
の地方公共団体版といったイメージになります。
第 9 章の目的といたしましては、債務調整計
画を策定することになります。 1 つの特徴とい
たしまして、連邦破産法第 9 章の下では、地方
債の取扱いが種類によって分別されていくこ
と に な り ま す。 一 般 財 源 保 証 債 は、 基 本 的 に
は担保がないものが中心になるため、一般債
権として取り扱われて、第 9 章のプロセスで債
務調整計画を策定しているときは自動的停止
( automatic stay )
、つまり元利払いが停止い
たします。一方、レベニュー債は償還財源とな
る担保(料金収入等)がある債権ですので、元
利払いは第 9 章のプロセスの中でも継続すると
いった特徴がございます。
もう 1 つ興味深い特徴が、連邦破産法第 9 章
における年金債務の取り扱いです。米国の企業
を分析されたことのある方は良くご存じだと思
いますが、第11章の下では、給料や年金債務に
は先取特権が付与されているので削減すること
はできないのですが、連邦破産法第 9 章にはそ
のような仕組みがないため、基本的には他の無
担保債権と同じ優先劣後関係になる可能性がご
ざいます。ただし、米国は日本と異なり連邦制
国家ですので、各州が憲法や法律を持っており
まして、ミシガン州のように年金債務の削減を
禁止したり、制限したりする事例もございます。
連邦破産法第 9 章の適用傾向ですが、この法
8
律が制定された1930年代から2012年半ばまで、
約640の地方公共団体が適用しています。この約
640という数が多いか少ないかですが、日本の地
方公共団体数は1,800弱です。一方で、米国の場
合は大体 9 万団体ですから、約 9 万のうちの約
640は結構小さいのではないか、という見方もで
きると思います。
足元の傾向ですが、昨今の金融危機を経まし
て、連邦破産法第 9 章を適用する団体は増えて
きています。また、適用団体の傾向ですが、過
去の経緯を見ると、適用事例のほとんどは学校
区や公営企業区、その他徴税能力を持った特別
区です。これは日本にはない地方公共団体の仕
組みですが、そういった団体が適用しています。
最近に関しては、今回訪問したストックトン市
やバレホ市のように、金融危機以降は普通地方
公共団体が適用している事例も散見されます。
それでは、これから連邦破産法第 9 章を適用
する団体がもっと増えるかどうかについてです
が、取材の結果、見込みはそれほど高くないの
ではないかと多くの方たちがご指摘されており
ました。連邦破産法第 9 章については、州は適
用できず、基本的には傘下の地方政府等が一定
の要件を満たせば適用できることになっており
ます。ここで、州と州の傘下の地方政府のクレ
ジットの状況を考えてみますと、州のクレジッ
トは最近、比較的安定化してきています。これ
は、州の税収の中心が個人所得税であるのが一
因と考えられます。米国では、株価と州の歳入
には一定の相関が観察されるそうなのですが、
キャピタルゲインが発生すると、それが税収に
つながります。つまり、株式市場が活性化すれ
ば州の財政は安定化に向くという傾向もあるよ
うで、比較的に早期に回復基調にあるようです。
一方で、地方政府は、財産税が税収の中心で
ある上、州からの財政移転が縮小してきたこと
もあり、州と比べると、景気の回復を享受する
のが遅行してしまっています。ただ、いろいろ
な地方公共団体の方の話を聞いていると、財政
健全化に対して以前に増して注力してきている
といったこともございますので、デトロイト市
のようなケースが今後も頻発する可能性は低い
見込みと考えられます。
ところで、地方公共団体が危機的な財政状況
に陥る典型的な要因を挙げますと、小西先生の
ご指摘にもありましたし、デトロイト市もそう
ですが、最近の連邦破産法第 9 章の傾向では、
レガシーコスト、特に年金債務の負担の重さが
注目を集めております。デトロイト市のように
破綻にまでは至っていないのですが、年金債務
で悩む団体は多いと伺っています。
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Faculty of Economics
The University of Tokyo
ちなみに、米国の年金の方式ですが、民間は
DC が主流ですが、地方公務員年金は確定給付型
( DB )と DC が併用されており、現在は DB が中
心となっております。米国の地方公務員の年金債
務の残高は約3兆ドルと言われております。米国
の地方債市場の残高が約 4 兆ドルですので、残
高がいかに大きいかは感じていただけると思いま
す。
こ れ に 関 し て、 米 国 地 方 公 務 員 年 金 の 積 立
比率は 7 割程度という統計が発表されておりま
す。なぜそのようなことになるかと言うと、日
本の場合は、地方公務員年金は各地方公共団体
が運用するのではなく、地方公務員共済年金と
いう国が法律で定めた一本の制度で運営されて
います。そして、 5 年に 1 度財政検証されてい
るため、理論的に積立不足といった概念はない
と解釈されております。一方、米国の地方公務
員年金の場合、各地方公共団体が年金を運用し
たり、例えばカリフォルニアの一部の地方公共
団体であればカリフォルニア州職員退職年金基
金( CalPERS )に年金運用を委託をしているケー
スもございますが、場合によって年金の割引率
を楽観的に見積もっていた事例もあるようです。
ただ、こちらに関しては、このままレガシー
コストを膨らませていき、実態が正確に把握で
きないのは問題ですので、公会計の基準も政府
会計基準審議会( GASB )により見直されてお
ります。例えば、2014年 6 月16日以降開始の会
計年度から適用される変更点には、純年金債務
をプラン・スポンサーである地方政府の財務諸
表に計上することや財務諸表の脚注における開
示の強化等が盛り込まれました。なお、今回の
米国調査では、格付会社のムーディーズと S&P
にも訪問させていただきましたが、ムーディー
ズは格付手法を近年変更して、年金債務の割引
率は地方公共団体が採用しているものではなく、
現実的なものに割り戻して分析するという方針
にしているようです。
ところで、連邦破産法第 9 章と地方債の債務
不履行(デフォルト)の状況ですが、第 9 章を
適用すれば必ずデフォルトするというわけでは
ないですし、第 9 章を適用しなくてもデフォル
トすることがある、という関係にあります。
デフォルト時の回収率の傾向ですが、一般財
源保証債は日本の地方債と基本的には同じ概念
で、課税権が実質的な担保になっている地方債
ですので、こちらは理論的には税率を上げれば
返せると解釈されるため、回収率は高い傾向に
あります。一方で、例えば住宅やヘルスケアの
レベニュー債は回収率が低い傾向にあります。
というのは、基本的にはプロジェクトから創出
される収益が償還原資となりますので、リスク
が高いと認識されるようなプロジェクトは回収
率が下がってきます。ただ、金融危機を経て、
一般財源保証債の回収率にもばらつきが見えて
きたこともございます。ここまで連邦破産法第
9 章の話をさせていただきました。
デトロイト市の話に移りますが、小西先生が
取り上げられなかったところを中心に触れたい
と思います。デトロイト市は約60年にわたって
衰退が進んだ自動車産業都市です。私自身は、
1990年代に入る頃にデトロイト市の隣の郡に住
んでおりましたが、当時もデトロイト市は大変荒
廃が進んでいて、車を降りるのが困難なほど治
安が悪化しておりました。ですから、逆に、よく
今まで持ったなあというのが個人的な感想です。
先ほど小西先生のご指摘にあったとおり、日
本の地方公共団体の財政の健全化に関する法
律(地方公共団体財政健全化法)のようなもの
は米国にはございません。各州が類似の仕組み
を設けているケースもございますが、日本のよ
うにいわゆるイエローカード、レッドカードの
ステージがあって、とにかくイエローカードの
ところで自主再建しなさい、でも駄目だったら
レッドカードの段階で着実に再生していきます、
といった仕組みは存在しないようです。
ミ シ ガ ン 州 には、 地 方 公 共 団 体 財 政 責 任 法
(現・地方財政の安定と選択に関する法律)が
あって、端的には、地方公共団体の財政悪化が
進んだ場合、最初は当該団体が自主再建に取組
み、それでも解決されない場合、ミシガン州か
ら緊急財政担当官が送られてきて、財政再建で
きるかどうか道筋を見るという仕組みになって
おります。デトロイト市の場合、あまりに財政
状況が悪化してしまって収拾がつかず、本当は
連邦破産法第 9 章の適用申請の回避を目指して
いたけれどもできなかった経緯がございます。
デ ト ロ イ ト 市の 財 政 状 況 を 巡 っ て は、 レ ガ
シーコスト(公債費、年金拠出及び医療給付等
の過去にまつわる歳出)が歳入に占める割合が
約 4 割に達してしまって、債務削減ができない
と、2017年には 6 割強に上昇して大変財政硬直
化が進むとの見込みとなっておりました。その
ような中、連邦破産法第 9 章を適用申請する前
の2013年 6 月に、債務削減策が検討されたので
すが、債権者もなかなか応じなかった、という
経緯が挙げられます。
ところで、デトロイト市の財政破綻につきま
しては、米国の地方債市場では織り込み済みだっ
たようです。というのは、デトロイト市の格付
けは、リーマンショックがあった頃の2009会計
年度にすでに投機的等級に落ちていた上、デト
August. 2014 No.24
9
ロイト市がすでに2013年 6 月14日にリース購入
契約参加証書( COP )に関するデフォルトを起
こしていたということがあり、デトロイト市の
財政破綻は周知の事実だったようです。あと、
デトロイト市債の 8 割がモノライン保険会社に
よって保証されていたこともあり、テーパリン
グの可能性が示唆されて地方債市場のパフォー
マンスが悪化している中でのデトロイト市の連
邦破産法第 9 章適用申請とのニュースではあり
ましたが、大きな混乱にはならなかったようで
す。
次に、最新の債務調整計画案を紹介させてい
ただきます。先ほど小西先生から、第 5 版と紹
介がありましたが、最初の案(2014年 2 月21日
公表)を第 1 版として数えるかどうかで表現が
変わってまいりますので、私の発表では第 4 修
正案という形で述べてまいります。
第 4 修正案において、最も注目されるのは、
レベニュー債と一般財源保証債の地方債の取扱
いが異なり、さらに一般財源保証債も担保付・
無担保、制限付・無制限で異なる取扱いとなっ
たことです。レベニュー債には、デトロイト市
上下水道局や駐車場の料金収入を背景としたも
の等がございましたが、一部債務交換が実施さ
れるものはございますが、それでも、基本的に
は想定回収率100%ということが示されました。
担保付一般財源保証債は、配分可能州政府交付
金の先取特権が付与されたものです。配分可能
州政府交付金は、州の財務官がデトロイト市を
介せずに当該債券の受託銀行に対して交付金(売
上税の一部)を直接配分するというスキームで、
元利払いの決済プロセスでデトロイト市へのエ
クスポージャーが基本的に回避される仕組みで
あることもあり、格付けもデトロイト市の他の
債券に比して高い水準を維持しておりました。
このような特殊な背景もあり、担保付一般財源
保証債は、想定回収率が100%で償還される旨が
示されました。スワップ債権に関しては、COP
に付随するものですが、結局スワップ契約解約
料の想定回収率は 3 割との取扱いになりました。
他に、制限付一般財源保証債と無制限一般財
源保証債がございます。両方とも財産税等が償
還原資になりますが、制限付一般財源保証債
は、税率の上限が設けてあるもので、無制限は
設けていないものです。無制限に関しては、モ
ノラインの 2 社が、財産税は無制限一般財源保
証債の償還のために課されており、デトロイト
市が他の税と区分して取り扱うよう、連邦破産
裁判所に対して宣言的判決及び命令を行うこと
を求めていたこともあり、最後には想定回収率
が74%に引き上げられました。一方で、制限付
10
一般財源保証債は、反対意見が出ておりますが、
1 割程度の想定回収率と示されております。
注目点ですが、先ほども述べましたとおり、
一般財源保証債はこれまで多くが100%で償還さ
れてきたものが、デトロイト市の場合、債務調
整計画案で異なる想定回収率が示されていたの
と、さらに一般財源保証債の中でも多くの種類
があり、想定回収率もバラバラの状態になって
いることです。
従来の一般財源保証債の信用分析では、一般
的に域内の経済や債務、行財政運営の質、予算
パフォーマンス及び柔軟性、流動性といった、
発行体の状況に焦点が当てられていました。た
だ、今回のケースを踏まえると、それぞれの一
般財源保証債についても、担保等の条件やリス
クを、投資家がこれから大変詳細に渡って分析
していく可能性があると考えています。特に日
本の場合、地方債は金融商品取引法の開示免除
になっていますが、米国の場合、開示免除では
なく、目論見書が発行されており、電子地方債
市場情報アクセスシステム( EMMA )を通じて
インターネットでも比較的容易に閲覧できます
し、8 割以上の銘柄に格付けが付与されておりま
すので、こういったものを投資家が注意深く見
ながら投資をしていくのではないかと思います。
次に、プエルトリコに関してご紹介させていた
だきます。プエルトリコはあまり日本にはなじみ
がないところですが、カリブ海の北東に位置しま
す。1989年12月にスペインから米国に移譲され
ました。米国領土の中で合衆国を構成する州で
はない自治地域(コモンウェルス)という扱いで、
日本語では準州と訳されることもございます。準
州とも訳されるだけあって、他の州とは異なる税
制や連邦政府からの財政移転の仕組みを有して
おります。例えば、プエルトリコの住民は、米国
の市民権を有するのですが、基本的に連邦所得
税が免除されている一方で、米国の社会保障制
度の管轄となっております。また、アメリカの大
統領選挙の投票を行わない、連邦議会の議員の
選出を行わないという面もあります。
プエルトリコの経済は、米国本土の経済と密接
に結びついておりますが、2000年代の半ばから
大変悪化してまいりました。なぜかと言うと、プ
エルトリコでは元々、プエルトリコ政府による優
遇税制に合わせて、連邦法人税の優遇措置があっ
たため、多くの多国籍企業が参入していたとい
う経緯がございます。しかし、連邦政府の優遇
措置が財政悪化の中で1996年から10年間に渡っ
て段階的に縮小・廃止されたため、企業が撤退
するケースが散見されるようになってまいりまし
た。さらに、エネルギー価格の高騰等も相まっ
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
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て、産業競争力が相対的に弱まり、プエルトリコ
の経済状況が大きく悪化していったということ
がございます。その中で、プエルトリコ政府の財
政赤字は大きく膨らんでいったというわけです。
ところで、日本は基本的に建設公債原則に基
づく地方債の仕組みですから、理論上は赤字地
方債はないこととされております。米国の地方
債に関しても、やはり建設公債原則が広く根付
いているようです。しかしながら、プエルトリ
コの場合、赤字地方債を発行してとにかく財政
赤字を埋めない限り、財政運営が立ち行かなく
なってしまったこともあり、赤字地方債への依
存度が高まってまいりました。さらに、プエル
ト リ コ 売 上 税 金 融 公 社( COFINA ) に よ る 売
上税レベニュー債(売上税及び使用税の一定部
分が償還原資になる地方債)といった新しい仕
組みの地方債や短期債といった資金調達の多様
化を進めた結果、債務残高が膨らんでいってし
まったということがございます。
また、プエルトリコの地方債に関して留意す
る点といたしましては、基本的に、Triple Tax
Exemption「三税免除」という、特殊な扱いを
されていることが挙げられます。先ほどご紹介
いたしましたとおり、米国の地方債は、原則と
して免税債とされ、その利子について連邦所得
税を課税されません。また、州によっては、自
州内で発行された債券の利子も非課税となる
ケースもございます。プエルトリコ債の場合、
さらに地方政府の所得税が免除になる形なので、
三税免除と呼ばれています。これが適用される
のは、プエルトリコ、グアム、北マリアナ諸島、
バージン諸島といった特殊な場所の自治体です
ので、そういう銘柄は希少です。ですから、個
人を含めた投資家にとって、プエルトリコ債の
三税免除は大変魅力的に映っているようです。
プエルトリコの財政赤字は長く知られていた
ことで、もともとプエルトリコ債の金利水準は
比較的高い状況にございました。ファンドに
とって、最近まで米国債券市場の金利が低下す
る中で、プエルトリコ債のような金利水準が高
い銘柄もファンドに組み入れないと一定の運用
パフォーマンスを確保するのが困難な場合も
あったという経緯もあり、実に 7 割のファンド
がプエルトリコ債を組み込んでおりました。そ
のような状況の下、2014年 2 月に各格付会社が
プエルトリコの格付けを投機的等級に引き下げ
たため、市場で大きく注目を集めました。
プエルトリコの場合、地方債の規模が大変大
きく(2013年末で約1,000億ドル、長期債・短期
債を含む)
、デトロイト市債の残高の約16倍です
し、仮にプエルトリコを州に含めた場合、州の
地方債発行残高のランキングでは 7 番目になっ
ています。このために地方債市場で大きな注目
が集まっておりました。
もう 1 つ、プエルトリコは特殊な事情を抱え
ています。デトロイト市の場合、連邦破産法第
9 章を適用して、債務調整をした上で再生する
ことを目指しております。しかし、連邦破産法
第 9 章自体、州は適用対象外ですし、プエルト
リコに関しては、コモンウェルスという特別な
位置付けとなっていますが、基本的には州に準
ずる扱いとなり、適用対象外です。では、本当
に財政破綻をした場合にどのように取り扱われ
るかは、過去の事例がありません。今回の調査
で、格付会社の方に伺うと、国(ソブリン)が
参考になるかもしれませんということでした。
一方、過去を見ると、1840年代から1930年代に
かけてアメリカの州でデフォルト例が結構あり
ましたが、金融市場の状況などもあまりに違い
ますし、債務の取り扱いや回収率も全く違うの
で、参照しづらい面がございます。
諸外国のソブリンを見ても、これも同じよう
な話で、回収率や取り扱いも全く異なります。
ムーディーズの統計によると、デフォルト時も
しくは救済目的の債務交換時の取引価格に基づ
いて算出した発行体ベースのデフォルトを起こ
したソブリン債の回収率は、全体の平均(1983
∼2013年 の 発 行 体 ベ ー ス 加 重 平 均、 平 均 売 買
価格)では49%となっていますが、サンプル数
も少ない上、ロシアやコートジボワールの回収
率は18%というところから、ドミニカ共和国は
95%と、大変ばらつきが大きいので、どのよう
に参照すれば良いのか分からないといった意味
で投資家を悩ませているようです。
最後に、財政破綻した地方公共団体とその後
の資金調達をご紹介させていただきます。今回、
バレホ市とストックトン市を訪問しました。バ
レホ市の概要に関しては、当寄付講座のウェブ
ページにございます、 2 年前の天羽先生の発表
資料に細かく掲載されていますが、2008年 5 月
に連邦破産法第 9 章を適用申請して、その後、
2011年11月に適用解除となっております。今回
初めて訪問したストックトン市は、2012年 6 月
に連邦破産法第 9 章を適用申請しており、現時
点では適用解除となっておりません。
2 つの市には共通点があって、バレホ市は適
用解除から約 2 年後に起債を行っています。ス
トックトン市は、先ほども述べましたとおり、
まだ連邦破産法第 9 章を適用解除していないの
ですが、起債に踏み切っています。両市とも、
偶然かもしれませんが、水道レベニュー債を発
行しています。なぜこのように財政破綻後に早
August. 2014 No.24
11
期の資本市場への復帰が可能だったかにつきま
しては、比較的再生期間が早いことが一因かも
しれません。例えばバレホ市の場合、 3 年程度
で連邦破産法第 9 章から脱却したのですが、日
本の場合、北海道夕張市の再建が大体20年です。
その前に財政再建を行った福岡県赤池町(現・
福智町)に関しては10年で再生していました。
日本の場合、債務調整の仕組みがないので、自
分のところの歳出削減と歳入確保をして、地方
債の償還原資を捻出した上で、再建をしなけれ
ばいけないために、時間を要してしまう可能性
があるとも考えられます。一方で、米国の場合、
連邦破産法第 9 章は債務調整の選択肢がござい
ます。債務削減をした上で、市の再生等の必要
な投資を行うこともあり、比較的早期に立ち
直っています。投資家はこのような傾向を見て、
財政破綻しても再生することが十分に想定され
るとのことで、投資をしやすいということがあ
るかもしれません。
もう 1 つ、例えば日本では社債市場は、ほぼ
投資的等級の銘柄で占められていますけれども、
米国の場合、ハイ・イールド市場やディストレス
ト市場も十分に大きく、リスク許容度が比較的
高い投資家層もおります。2 つの市のどちらの銘
柄かは記憶していませんが、実際起債を扱った
投資銀行に今回の調査で伺ったところ、大変利
回りが魅力的だったこともあり、ヘッジファンド
も多くを購入したとのことです。やはりリスク許
容度がある投資家層が存在する米国の金融市場
だからこそ、こういった財政破綻に一旦陥った
市が資金調達できるという環境もあるようです。
また、収益が創出されて償還原資が確保可能
な水道事業に充当すべく、起債を行ったのも、
成功につながった可能性があると思います。
他に興味深かったのは、同じくバレホ市とス
トックトン市の共通点です。具体的には、財政健
全化のプロセスの中で、職員で財政問題を明確に
把握・共有化し、歳出削減を進めることや、財務
管理の強化とともに予算の統制や説明責任(アカ
ウンタビリティ)の確保を意識すること、といっ
た教訓を得たことが挙げられます。また、財政健
全化の他に、必ず市の経済再生、どういったとこ
ろを産業誘致しようかといった、前向きな話によ
り強く注力をしているイメージがありました。
私の発表に関しては、マーケット関連の状況
をご報告させていただいた後、連邦破産法第 9
章のこと、デトロイト市やプエルトリコといっ
た米国地方債市場で注目されているトピック、
バレホ市、ストックトン市といった財政破綻し
た地方公共団体とその後の資金調達に焦点を当
ててご紹介させていただきました。こちらで終
12
了させていただきます。ご清聴ありがとうござ
いました。
討論
東洋大学国際地域学部教授
稲生 信男
東洋大学の稲生です。お二人の素晴らしいご
報告を聞くことができまして、ありがとうござ
いました。 2 年前と随分違っていると感じる部
分もありましたけれども、アメリカらしい処理
が続いていると思いました。
このフォーラムがコンセンサスの場であると
いうことで、私のコメントがやや刺激的な部分
もあるものですから、少し心配はしております
けれども、せっかくの発表でございますので議
論をさせていただきたいと思います。
2 年前に、カリフォルニア州ほか、いくつか
の団体を訪問しました。当時は、地域の経済状
況が回復へ踏み出したという感じでしたが、そ
の中でもカリフォルニア州は財政状況が厳しく
て、バレホ市が苦しくても支援もままならない
という、ある種心配な状況でした。また、ストッ
クトン市についても破綻がささやかれていて、
その年の 6 月にはいよいよ破綻しましたけれど
も、全米への広がりについては「懸念はなかっ
た」という印象を持って帰りました。
今回のご報告の意義ですが、まず両氏からご
説明がありました、連邦破産法第 9 章の体系的
な紹介と、その具体的なケーススタディは、本
当に勉強する良いチャンスになったと思います。
それから、一般財源保証債( GO )について
は後で私からもコメントしますが、キャッシュ
フローを上手に切り分けた結果、どういうこと
が起こるのか、また、担保の有無が、債務調整
の中で何が見えてくるのかという点についても、
Graduate school of Economics,
Faculty of Economics
The University of Tokyo
お二人の報告や、江夏さんのご報告中の実際の
数字を拝見して勉強になりました。特に江夏さ
んの、投資家がキャッシュフローと担保にもと
づいて銘柄を選別する動きが出るのではないか
というご指摘は、重要な発見だと考えています。
また、プエルトリコについては、おそらく地方
債なのだろうという程度の認識は、ここにいらっ
しゃるみなさんもお持ちかもしれませんけれど
も、実際の状況について、ここまで細かくご紹介
いただいたことはないのではないかと思います。
最後に、デトロイト市の破産処理を契機に、さ
らにこれは大きな見方をすると、中央・地方関係
も違うものが見えてきますので、お二方のご報
告が大きな示唆を与えてくれたと考えています。
さて、 2 年ほど前にブルームバーグが出した
アメリカ地方債の教科書による地方債の類型が
あります。Doty 氏という、非常に有名なアナリ
ストが記した、大変参考になるテキストです。
地方債にたくさんの種類があるのはもちろんで
すが、今までのテキストでは、一般財源保証債
とレベニュー債で大体アメリカの地方債を説明
するのが一般的でした。ところが 2 年前に出た
この教科書では、キャッシュフローや担保に注
目して、新しい複雑な分類をしているものを目
の当たりにしました。2 年前の視察に行く前に、
なぜこんなごちゃごちゃした類型を作ったのだ
ろうかと考えていましたが、まさに今回、この
とおりに区分けが行われ、債務調整が行われた
という意味で、非常に興味深く思っています。
これは今回は一般財源保証債の中でも、無制限
のものと制限付きのもの、さらに無制限の中で
も、担保のあるなしによってこれだけ差が出る
ことが、ある意味では驚きを持って迎えられた
ということかと思います。
ちなみに、レベニュー債のキャッシュフロー
ですが、全体の収入、総収入( gross revenue )
がありますと、運営費を差し引いてネットの収
入が出てきます。これからさらに元利金の支払
いなどをして、実際の償還準備のお金が用意さ
れるのですが、アメリカにおいては、それぞれ
のキャッシュフローに注目して、複数の種類の
レベニュー債があります。それが先ほどご紹介
があった目論見書に記載されているのです。私
が言いたいのは、キャッシュフローに注目して
商品設計をすることが、アメリカは非常に進ん
でいて、それに対して投資家がさまざまなリス
クなどを勘案して、担保の状況を見ながら、多
様な商品設計を求めているということです。つ
まり、売り出す側もいろんなキャッシュフロー
を作って売りたいという気持ちがあるし、買い
たい側もついてきているという、そういう市場
の複雑な構造や厚みがあることを、まずみなさ
んにご理解いただきたいと思います。
そ れ か ら も う 1 つ、 こ れ は 今 回 報 告 に は な
かったのですが、デトロイトの破綻がもたらし
たものとして、2 点紹介をしたいと思います。
1 つ目ですが、小西先生からもご紹介があっ
たレガシーコストについて、GASB が公会計の
基準を作っているところで、「見える化」が進ん
でいます。江夏さんの報告では、主に年金債務
についての規定の改正の話が出ておりましたけ
れども、GASB はより一歩踏み込んで、デトロ
イト市の破綻の状況も見ながら、健康保険やそ
の他のフリンジ・ベネフィットの部分も含めて、
より細かく財務諸表に反映させる新しいルール
をすでに作っています。デトロイト市の破綻が
もたらした影響はいろいろあるのですが、そう
いう意味では公会計にもさらに大きな波風を立
てていると思います。
もう 1 点はやや政治学的ですが、面白い動き
が出てきています。今回登場した連邦破産裁判
所のローズ判事は、言ってみれば債務調整の主
役ですが、実は少し癖がある人物と言いますか、
イデオロギー色が強い人だと言われていまして、
いわゆる伝統的な連邦主義、つまり強いアメリ
カを志向する人物と一部で言われております。
例えば、今回のポイントであった年金債務の削
減ですが、本来であれば年金債務の削減はミシ
ガン州憲法では禁じられています。ところが、年
金債務も 1 つの契約の債務なのだから連邦法の
通常の処理で調整可能という、ある意味ではウル
トラCのようなことをローズ判事は主張していま
す。これは逆に返してみると、仮にローズ判事が
連邦主義者だとすれば、今回の処理はローズ判
事流の思考の表れかもしれないということです。
さらにローズ判事のネットワーク関係も面白
く て、 彼 の 顧 問的 な 存 在 で あ る、 ラ ビ ッ チ 前
ニューヨーク州副知事は、米国証券取引委員会
( SEC )の権限を強化して、地方債の発行に対し
て起債許可をする権限をもう一度与えようとい
う運動をしています。
このあたりの動きをまとめますと、まずロー
ズ判事は連邦破産法を優先した破産手続きを
行っています。一方で、ローズ判事に影響を及
ぼしているラビッチ氏は、SEC の権限の拡大を
画策しています。言ってみれば、伝統的な連邦
主義の復活を図ろうとしているのではないかと
いう動きも垣間見られます。
私が言いたいのは、こういう政治学的な動き
を強調したいわけではなくて、結局アメリカ地
方債はどこへ向かうのだろうか、ということで
す。つまり、今回の大きな破綻をベースにして、
August. 2014 No.24
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もしかすると連邦政府のサイドは地方債に対し
て関与を強めてくる可能性もあるという大きな
流れを強調しておきたいと思います。
さて、以上を踏まえて質問があります。まず
1 つ目ですが、小西先生にお願いします。美術
館救済に対してフォード財団が拠出した資金の
一部が年金債務に回る可能性があるように、報
告資料に記載がありました。先生の説明は少し
違ったものですから、私の勘違いかもしれませ
んし、間違っていたら結構ですが、なぜそうな
るのかお答えいただければと思います。
2 つ目がよりお聞きしたいことですが、結局
多様な人がみんな泣くような形の処理が債務調
整であって、その結果、早期の再生というもの
が図られるのではないかと江夏さんも言及され
ていましたが、とすれば、こういう債務調整の
仕組みはアメリカだけの話なのか、あるいは日
本も将来こういう制度を導入する、必要とは言
いませんが可能性があるのでしょうか。
私の問題意識は、みなさんご存じのように、
今いろいろと老朽した社会資本の問題にどのよ
うに対応するか、というものです。その対応に
は、これから何兆円、何十兆円という金が要る
かもしれない。そうすると、もっと投資家を厚
くして、いろんなニーズに応えた地方債を発行
する必要が出てこないのだろうか。本当に、今
の地方財政の枠組みの中で処理ができるのだろ
うか、というようなことです。
つまり、債務調整を織り込んだような特別な
こういう地方債、それがレベニュー債みたいな
タイプか分かりませんけれども、言ってみれば
地方財政計画の枠外で、そういうニーズで発行
して投資家をつかまえて資金調達をしていくと
いう、こういった枠組みは必要ないのだろうか。
あくまでも今のシステムで安定的にしていくの
が日本のスタイルなのか、という質問です。
続いては江夏さんへの質問ですが、まず、米
国地方債は新発債が減少して歳入の減少がある
との言及がありましたが、そうであるとすると、
地方政府全般のサービス水準は今は低下してい
るのか、という質問です。
2 つ目の質問ですが、先ほどアメリカの地方
債マーケットでは銀行セクターの存在感が増し
ているという話がありました。言ってみれば、
家計や証券セクターのプレゼンスが、ある意味
では今は下がっています。この動きは中長期的・
構造的なものなのか、あるいは短期的なものな
のでしょうか。
それから 3 つ目ですが、これはご存じであれ
ばご教示下さい。 2 年前の報告の際に私が調べ
ていましたら、私募債は確かに増えたのだけれ
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ども、これは私募債だから当たり前なのですが、
コベナンツと言われる、情報開示に関する情報
が甘いものですから、一部の格付機関からそれ
で良いのかという疑義が出されました。これに
ついて、その後見直しの動きがあったのかどう
かについて、個人的な質問で恐縮ですが、教え
ていただければと思います。
最後に、プエルトリコの問題は大変興味深い
話でしたが、連邦破産法第 9 章の適用がない場
合に、実際にもし破綻したら、一体誰が責任を
持って調整するのかという点について、よろし
ければお考えをお聞きしたいと思います。長く
なりましたが、以上です。
高崎経済大学経済学部専任講師
天羽 正継
ご紹介いただきましたように私は今から 2 年
前、本日ご報告いただいた江夏さん、そしてた
だいまご討論いただいた稲生先生とともにアメ
リカのカリフォルニア州に調査にまいりまして、
バレホ市政府、サンフランシスコ市政府、カリ
フォルニア州政府、それから二つの格付会社を
訪問しました。そこで私の方からはまず、その
時の訪問先の一つであるバレホ市政府の財政破
綻の経緯について簡単にご説明した後に、それ
を踏まえた上でお二方のご報告に対して質問さ
せていただきたいと思います。
バレホ市政府は2008年 5 月に連邦破産法第 9
章への適用申請を行い、同年11月から適用され
ました。そして、 3 年後の2011年11月に適用解
除となっております。
財政破綻の要因はいくつかありますが、中で
も大きな要因は、不況による不動産価格の下落
によって、主要な税収である財産税収入が減少
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したことです。また、信用収縮と景気停滞によ
る売上税収入の伸び悩みもありました。それか
ら、アメリカでは地方政府は州政府の被造物と
されており、州政府に対して財政的に大きく依
存しています。当時は州政府も非常に財政が悪
化していましたので、州政府からの補助金や税
収分与が減少していったということも、やはり財
政破綻の要因の一つです。さらに、本日ご報告い
ただいたデトロイト市政府と同様に、職員の年金
や健康保険といった人件費が歳出面で大きなプ
レッシャーになっていたということもあります。
しかし、財政危機に陥ったのであれば、増税
などをして歳入を増やせば良いではないかとお
考えになるかもしれません。ところが、カリフォ
ルニア州憲法では、税や手数料に関する地方政
府の権限は大きく制限されています。例えば、
ご存じの方も多いと思いますが、同憲法の「プ
ロポジション13」は、財産税を引き上げる際に
は住民投票で有効票の 3 分の 2 以上の承認を得
なければならないとし、さらに不動産関係の新
税を設けることは認めないというように、増税
に対して非常に厳しい制約を課しています。こ
のように、地方政府が簡単に歳入を増やせない
背景があるわけです。
こうした歳入・歳出両面にわたる制約によっ
て、バレホ市政府は財政破綻に至りました。財
政破綻によって当然のことながら、市政府は公
共サービスの大幅な削減を余儀なくされました。
具体的には、警察・消防サービスや、道路・建
物等の維持管理費の削減などです。これによっ
て街のインフラが劣化するとともに、治安も悪
化しました。
連邦破産法第 9 章適用を受けて、2010年11月
にバレホ市議会は「財政再建 5 か年計画」を策
定し、それが連邦破産裁判所から承認されると
ともに、売上税の増税も住民投票によって可決
されました。こうしたプロセスを経て、適用解
除となった現在においても、バレホ市政府は財
政再建の途上にあるのだと思います。以上を踏
まえた上で、お二方のご報告に対して私からお
伺いしたいことは主に 3 点あります。
1 点目は、バレホ市政府とデトロイト市政府
における、財政危機の発生から破綻に至る経緯
の共通点および相違点です。私の直感では、両
市には相違点よりも共通点の方が多いのではな
いかと思います。つまり、先ほど申し上げたよ
うな、バレホ市政府が直面した歳入・歳出両面
にわたる制約は、デトロイト市政府にも同じよう
にかなり効いており、それが財政破綻につながっ
た大きな要因なのではないかということです。
それと合わせまして、バレホ市政府とデトロ
イト市政府、さらにストックトン市政府の 3 市
の財政破綻は、アメリカにおける典型的な財政
破綻のケースと言えるのかということについて
もお聞きしたいと思います。さらに小西先生の
ご報告資料の12ページには、デトロイト市政府
の財政破綻は「あくまで例外的な事例として受
け止められている」という記述がありましたが、
そのように受け止められている理由についても
お伺いできれば幸いです。
2 点目ですが、お二方のご報告の中で、市場
においてデトロイト市の財政破綻は織り込み済
みだったという記述がありました。この「織り
込み済み」というのは、具体的にはどのように
理解すればよろしいのでしょうか。これは例え
ば、格付会社が通常行っている情報収集活動を
通じてデトロイト市政府が危ないという情報を
得たことで、金融市場がその事実を徐々に織り
込んでいったということなのでしょうか。ある
いは、何か突発的な情報が漏れて、金融市場に
織り込まれたのでしょうか。
さ ら に、 こ の よ う に 事 前 に 織 り 込 み 済 み で
あったことによって、金融市場がデトロイト市
政府の財政破綻に対して特に混乱することもな
く対処できたのであれば、これも広い意味にお
けるアメリカ独自の地方債制度、すなわち、実
際に破綻が起きてもそれによる混乱を最小限に
抑えることを可能にする制度と捉えても良いの
でしょうか。この点についてもお二方のお考え
をお聞きしたいと思います。
最後に 3 点目ですが、小西先生のご報告資料
の 9 ページに、一般財源保証債のおおむね半分
は担保付債権だが、残りは無担保債権で、財政
破綻によって元金の約80%がカットされたため
に、金融機関が強く反発したとあります。同様
の記述は 3 ページにもあります。
一般財源保証債はその名の通り、一般財源を
償還の担保にしているわけですが、先ほど申し
上げましたように、アメリカの地方政府は財政
面で州政府に大きく依存しています。そうしま
すと、一般財源を担保とする一般財源保証債に
地方政府が頼ることは、難しい側面があるので
はないでしょうか。本日の江夏さんのご報告に
よれば、一般財源保証債がデフォルトした際の
の回収率は、金融危機以前はほぼ100%であった
が、金融危機以降は100%でないケースも現れて
おり、ばらつきが出てきたということです。そ
ういうことも考慮すると、地方政府には一般財
源保証債よりもむしろレベニュー債の方が適し
ていると考えることも可能なのではないでしょ
うか。この点についてお二方はどのようにお考
えになるか、お聞かせいただけければ幸いです。
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報告者リプライ
〇小西 まず稲生先生、大変面白いご指摘をい
ただきました。アメリカには確かに連邦主義な
どの側面があると思います。ただ、今のオバマ
政権の下で連邦主義が前面に出ているというこ
とはおそらくなくて、この局面ではそうなのだ
と思います。それが、ローズ判事の属人的な部
分として見えるのではないかと思います。
美術館・年金救済基金の造成の目的は、まさ
に美術館の救済と年金の救済が目的とされてい
まして、民間団体が美術館に今後、寄附を行う
前提として、デトロイト美術館の所蔵品が売却
を防ぐだけでなく、美術館が、市の財政状況や
政治状況からの影響を将来的にも受けないよう
に、市から独立したNPO法人に移行すること
が重要な前提条件とされています。また、基金
の使途は、退職した市の職員の年金に充てられ
ることが条件となっています。
後半の部分は、非常に大きな問いかけだと考
えていましたが、まずこれにお答えするにあ
たって、江夏さんのご報告を少しだけ修正させ
ていただきたいと思います。日本の場合、赤池
町は、夕張市の手前の旧再建法の団体は、確か
に終了まで10年かけています。債務調整してい
ないから10年かかっているかもしれない、とい
うのは、確かに債務調整していない分だけ大変
なのですが、私はむしろ自力再建できる範囲で
止めるのですと申し上げましたので、その点を
どう考えるかを、私なりに釈明しますと、赤池
町については、赤池町の当時の財政課長に対す
るインタビューがブックレットになっています。
このブックレットを読むと、実は事実上、 2 、
3 年で赤字は消せていて、それを10年引っ張っ
ているのです。要は、現金主義で見た赤字です
ので、繰越金がマイナスになっているというこ
とです。この前借りを消さないで引っ張ること
は簡単なのです。使ってしまうとか、基金に積
むとかすると、前借りの部分を消しません。で
すから10年かけて計画的に前借り部分を消して
いくのですが、前借りを消すだけならば、事実
上 2 年プラスアルファで抜けているようです。
要するに、旧再建法の 2 割という赤字は、大
体それぐらいのことです。10年の間に庁舎建設
までやっていて、満を持して抜けています。私
が申し上げるように、とことん行ってしまうア
メリカと、自力再建で余裕がある範囲でゲーム
オーバーにしてしまう日本の違いだと見ていた
だきたいです。
ですから、ある種の制度の経路依存性とか、
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国民性とか、アメリカの連邦制国家の形成とか、
あるいは今日の最初のご指摘にありましたよう
に、連邦は伝統的に地方自治体には本来は手を
出せないとか、そういう仕組みの中でアメリカ
はこうやっているということですし、日本の場
合は地方交付税の存在もかなり大きいですが、
健全化法等でやっているというのは、歴史的必
然の中で出てきた制度に対して、健全化の仕組
みや地方債の仕組みがあるというふうにしか整
理できない気がします。
ただ、おっしゃるように、もっと多様な資金
調達の手段があるのではないかという指摘もあ
ります。日本の場合は、公営企業に対するレベ
ニュー債というのは、何かもう 1 つ中途半端で
す。公営企業に対するレベニュー債を検討する
代わりに、今何を検討しているかと言うと、公
営企業への繰出基準の明確化を言っています。
つまり、公営企業にどれだけ税金を入れるか
についてディシプリンをはっきりさせましょう
という議論が、レベニュー債ということのオル
タナティブになっています。それから第三セク
ターの発行に対して、茨城県ではレベニュー債
的なものをやっていますが、調達金利が高くな
るという問題があります。ですから、公営企業
に対する繰出基準とか、第三セクターが起債を
するとか、そういう世界から言うと、先生がおっ
しゃるようなことはあると思いますが、健全化
法できれいにやれているのであればこれで良い
のではないかとも思います。
それから、アメリカでは公会計基準を見直し
たと、これも今回勉強になりましたが、このあ
たりは将来負担比率で織り込み済みで、日本の
場合、別途対応しています。アメリカはこうい
う仕組みだからこう対応している、ということ
ではないでしょうか。やはりアメリカの真似を
したいとはあまり思わないというのが、大きな
意味での感想です。
それから天羽先生の質問ですが、例外的とい
うのは、夕張市が日本では例外的ということと、
ほぼ私は同じ意味で使っています。バレホ市と
デトロイト市は、債務のけたが違います。債務
の大きさが違う、赤字の大きさが違うという意
味では例外的ですが、ボリュームという意味で
は例外的なので、内容的には同じなのではない
かと言われれば、それはそうかもしれないとい
う感じがあります。
織り込み済みというのも、確かにあいまいな
言葉です。例えばデトロイト市の問題が出たと
きに、他の地方公共団体の地方債の金利が一
斉に上がるというようなマーケットの動きは、
リーマンショックの時にはありましたが、今回
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はしていないという意味では織り込み済みです
が、私が今日紹介させていただいたような、事
業のうちの、一般保証債のうちのどの部分がど
の程度保全されるかは、司法手続きが進まない
と結論が出ないという意味では、全然織り込ん
ではいないわけです。マーケットが動揺しな
かったという意味では織り込んでいますが、実
際どうなるかはやってみないと分からないとい
う世界で言うと、全然織り込んではいません。
これもアメリカ独自の地方債制度の一環と考え
るかという点は、まさにそのとおりです。
最後の質問は、どうお答えして良いかよく分
からないところがありますが、無制限の一般財
源保証債が10%程度しか保証されないというの
は、やはり異常な事態だと思います。それはデ
トロイト市のまさにボリューム感からくる異常
さであって、デトロイト市の問題だろうと思い
ますので、レベニュー債がメインではないかと
いう主張は、そこまで極端なことは言えないの
ではないかという印象です。
〇江夏 稲生先生、天羽先生、大変核心を突く
ご指摘をいただきまして、ありがとうございま
した。私なりにお答えできる部分を対応させて
いただきたいと思います。
まず、稲生先生のご質問ですが、新発債が減
少して歳入が減少したという点について、確か
に金融危機前の水準までは戻っておりません。
ただ、2009年、2010年は、リーマンショック後
にオバマ大統領の下で地方公共団体に対して雇
用創出とインフラ投資を促す目的で時限措置と
して創設された BAB の仕組みがあったので、新
発債が伸びております。BAB といった一過性の
要因を除くと、逆に正常レベルに戻ったとも考
えられそうです。もう 1 つは、具体的な数字は
拝見しておりませんが、取材を通じて、税収が
州よりは遅行しているとはいえ、少し回復基調
にあり、歳入が確保されてきたかもしれないと
いう感触を受けました。
サービス水準の低下に関して、割と州政府の
財政の状況が良くなってきているので、今後教
育に力を入れる州が増えるのではないかという
格付会社からの指摘もございました。サービス
水準というのをどのように測るのかは難しいと
思いますが、今後さらに調査してみたいと思っ
ております。
2 点目の、銀行セクターの存在の表れを中長
期的・構造的な変化と考えるかという質問です
が、個人的にはそうはならないのではないかと
思っております。
米国の地方債市場の投資家層を見ると、1980
年代半ばまで、銀行が中核的な投資家でした。
ただ、その理由は、地方債関連の連邦所得税の
課税の仕組みで銀行に有利に働く要件(支払利
息〔預金に対する利払い〕の損金参入)があっ
たことが大きかったようですが、レーガン政権の
中でその仕組みが縮小・廃止されてから、銀行
セクターの保有率が低迷していました。それが、
近年再び銀行による地方債投資が伸びているの
は、確かにリーマンショック以降に民間セクター
の貸し出しが低迷していたとか、変動金利債や
私募債といった魅力的なものが発行されている
ということがあると思います。しかし、やはり米
国経済が足元で回復してきていることがありま
すので、民間セクターへの需要もそのうち旺盛
になり、地方債への投資需要も徐々に落ち着い
てくるのではないかという気がしております。
また、金融危機に伴う金融規制の厳格化が強
く進捗する可能性が、今回の取材でも示唆され
ました。ですから、中長期的に銀行セクターが
さらに地方債市場の位置付けを強めていくかど
うかについては、様子を見極めるまで時間を要
するのではないかと思っています。
次の、コベナンツの見直しがあって開示が改
善されたかというご質問ですが、コベナンツに
関しては今回の調査で特に何か情報として伺っ
たということはございませんでした。ただし、
米国地方債の新発債の約 6 割を占めているレベ
ニュー債は、コベナンツが前提の地方債ですが、
いろいろと規則が変わったことも歴史的に観察
されております。
具体的には、米国で1960年代の半ばに、レベ
ニュー債のコベナンツの要件が厳格化が進めら
れた時期がありました。これはどうして進めら
れたかと言うと、戦時中に行政サービスが抑制
され、戦後になって住民から行政サービスの拡
充を求める声が高くなる中、地方公共団体の資
金調達手段の 1 つであるレベニュー債の発行も
活発化いたしました。レベニュー債の対象事業
の拡大もある中で、制度もしっかりしなければ
いけないということでコベナンツの要件も厳格
化されました。このようなレベニュー債の歴史
を踏まえると、仮に私募債の増加が今後も続く
ようであれば、1960年代半ばのレベニュー債を
巡る動きのようにコベナンツの要件が厳格化す
る可能性はあるかと思います。
今回の取材で唯一、開示という面でお伺いし
たことがあります。アメリカでは1989年から地
方債が開示対象になっています。その後、各種
見直しがあったのですが、直近では金融危機以
降 の2012年 7 月 に、SEC が 地 方 債 に 関 す る レ
ポートを出しています。その中で提案されてい
たのが、開示の適時性及び内容のさらなる拡充
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(中間財務書類等)などですが、今回訪問した米
国証券業金融市場協会( SIFMA )で伺ったとこ
ろによると、開示に関して特にその後の具体的
な進展はないそうです。
ただ、先ほど稲生先生のご指摘にもございま
したとおり、SEC が地方債に関してより厳格に
規制を行う可能性は示唆されています。という
のは、米国は連邦制国家なので、連邦政府は長
らく、地方債規則制定委員会( MSRB )を通じ
て間接的に関与してきたのですけれども、地方
債専門のオフィスが1990年代に SEC に設立され
ており、地方債市場への関与を強めている傾向
が見られます。そのため、今後も SEC による規
制の厳格化は十分にあるのではないかと考えて
おります。
次にプエルトリコについて、仮に破綻した場
合ですが、これはまさにおっしゃるとおりで、
誰が、どこで、どのようにという前例がないの
で、地方債市場で注目を集めているところです
が、基本的には市町村ではなくコモンウェルス
という扱いなので、先ほども述べましたとおり、
今回の取材で専門家の方々にお伺いすると、お
そらくソブリンを参照することになるとの意見
がほとんどでした。
一例ですが、ギリシャが財政破綻した際のこ
とを紹介させていただきますと、財務省や公的
債務管理庁( PDMA )が、国債をどのように取
り扱うかを検討・対応していたと記憶をしてお
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ります。プエルトリコの場合、プエルトリコ政
府開発銀行という機関が、実際プエルトリコ政
府の一部としてギリシャの場合の PDM、つまり
デット・マネジメント・オフィスのような役割
を担っているようです。このような組織が市場
関係者なり、利害関係者と調整をしていくので
はないかと思います。
三税免除があるにせよ、なぜ市場は依然とし
て制度で不確実性を抱えるプエルトリコ債を買
うのか、という点ですが、米国の場合、もとも
とリスク許容度がある投資化が債券市場に十分
に存在するというのが、大きな要因だろうと思
います。もう 1 つ、そのリスク許容度の大きさ
を可能にしているのが、デフォルト関係の統計
が比較的整備されていることです。ソブリンに
ついては各国について統計が存在しますが、米
国の場合、地方債のデフォルト時の回収率や社
債などに関しても、投資家がアクセスしやすい
ところに存在しています。日本の場合は、確か
に、会社更正法や民事再生法などを適用した事
例に関して、裁判所等で弁済率を調べるという
ことは理論的には可能で、一部、民間調査機関
も平均弁済率等を公表しておりますが、米国の
ように充実した情報に容易にアクセスすること
はなかなかできない状況です。そうすると、投
資家は情報が必ずしも十分でないため、なかな
か投資判断ができないということがございます。
おそらく、逆説的なアプローチですが、米国で
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は情報が十分に確保可能であるため、プエルト
リコのようにリスクがありそうな銘柄でも、投
資家がリスクを把握し、投資妙味があれば、投
資に踏み切れるのではないかという気がしてお
ります。
天羽先生のご質問に移ります。バレホ市とデ
トロイト市の財政破綻のプロセスの共通点と相
違点ですけれども、基本的にはおそらく同じパ
ターンであって、レガシーコストが大変重いと
いうのが近年型の財政破綻のパターンで、バレ
ホ市にしてもデトロイト市にしても、それは共
通しているだろうと思います。
ですけれども、おそらくバレホ市とデトロイ
ト市、ストックトン市の 3 つを比べた時に、バ
レホ市やストックトン市に関しては、破綻のト
リガーを引いたのが、サブプライムローンの問
題から不動産価格が大きく下落して財産税が回
収できなかったところにございます。また、今
回の取材では、今は失業率は大変高いのですが、
2 市とも産業誘致の可能性として具体的な企業
名を挙げていたりして、回復が比較的早そうな
イメージがございました。デトロイト市の場合、
各種報道を見ているといろいろ企業誘致をして
いるとは出てきているのですけれども、産業構
造等の地域性を踏まえると、カリフォルニアと
は素地が違うかと思います。
あと、人口の規模も違います。デトロイト市
は70万人弱ですが、バレホ市もストックトン市
も各々約12万、約30万と、デトロイト市と比べ
ると小さいです。これを反映し、財政規模も違
います。やはり、バレホ市やストックトン市は財
政規模が小さい分、早く回復ができることはあ
るのかもしれません。
金融市場においてデトロイト市の財政破綻が
織り込み済みだったというのが、どういうこと
だったかですが、先ほどもご紹介させていただ
きましたとおり、すでにリーマン・ショック以
降にデトロイト市の格付けが投機的等級に引き
下げられておりました。また、ミシガン州の法
律では、実際連邦破産法第 9 章に手を挙げる前
に、法律にもとづいて州から財務調査をする人
たちが送られて、本当に申請をしなければいけ
ないのかが2013年春頃から検証されて、すでに
広く報道されていたということがあります。さ
らに、格付けの情報に関しても、やはり2012∼
2013年頃から格付会社によるリリースの頻度が
上がってきておりました。このような情報を踏
まえますと、市場では比較的織り込みやすかっ
たのかと思います。
もう 1 つ、米国の地方債の場合、EMMA とい
う電子地方債市場情報アクセスシステムがあっ
て、価格などをインターネットで比較的容易に
参照することができます。明日突然、大幅に下
落するようなことではなく、徐々にパフォーマ
ンスが悪化していったでしょうから、価格に透
明性があったのも早く織り込めた背景ではない
かと思います。
米国の地方政府が一般財源保証債に依存する
のは困難な面があるのではないか、というご質
問ですけれども、経済が成熟化して税収が大き
く伸びないことを考えると、課税権が実質的な
担保になった地方債は発行しづらいかもしれま
せんが、ただ、レベニュー債のように、いわゆ
る受益者からの料金収入で運営がなされる事業
と、納税者から広く負担してもらう必要のある
事業があるので、事業の特性に応じて適宜一般
財源保証債とレベニュー債が発行されるのでは
ないかと思っています。
足元でレベニュー債の発行がピークに達した
のは1980年代前半で、新発債の約 8 割までレベ
ニュー債によって占められました。その後、金
融危機前頃までは約 7 割がレベニュー債で、足
元では 6 割強に落ちていますので、おそらくレベ
ニュー債関連の制度が大きく変更されない限り、
これから大きくバランスが変わる、レベニュー
債の発行が大きく伸びていくということは、あま
り想定できないかと思います。以上です。
質疑応答
〇質問者 連邦破産法第 9 章の適格性の判断に
ついてお伺いしたいと思います。私はお話を
伺って、破産法にはある種のリスクがあること
をあらためて感じました。それは、債務調整が
あるので、自治体が申請を乱発すると市場が縮
んでしまうというリスクです。そこで、乱発を
避けるチェックとして、適格性のハードルをあ
る程度高くしているというのが私の理解です。
ところが、今日のご報告を聞いていると、判定
が相当緩いというのが正直な印象です。
具体的に 2 つお伺いしますが、支払不能(イ
ンソルベンシー)について、過去の判例と比較
して、今回のデトロイト市の判例は標準的なの
かどうか、というのが第 1 点です。
もう 1 つは、債権者の過半数同意についてみ
なし規定のような判断をしていますが、これは
先ほど稲生先生が述べたようにローズ判事の特
殊な判断なのか、それともこういうケースは多
いのかについてです。以上の 2 点をお伺いした
August. 2014 No.24
19
いと思います。
〇江夏 ありがとうございます。 2 点目に関し
てはお答えができなくて申し訳ないのですが、
1 点目に関しまして、過去の例と比べてどうか
という点は、デトロイト市が適用を認定された
のが去年の12月でした。その時に、17万人と言
われていますが、あまりに債権者が多すぎて収
拾がつかないという問題がございました。市が
債権者と申請前に「誠実に」交渉したとの条件
を、市は満たせなかったのですが、交渉は「(債
権者が多過ぎるため)実行不可能」と判断し、
「支
払不能」にあると認定したのだと思います。
他の団体や過去の事例を見ると、デトロイト
市の場合、財政の硬直化が進みすぎてしまって、
特に退職者等の組合が非常に強いオピニオンを
持っていて、なかなか交渉が進められなかった
ため、連邦破産裁判所が適用を認めざるを得な
かったということがあるかもしれないと感じま
した。以上です。
〇小西 デトロイトの例が、日本でいうと夕張
市程度の、異常な規模の債務であることまでは
言えるのですが、過去の事例に比べてインソル
ベンシーの判断、あるいは債権者の過半数に対
して理解を求めているという点についての判断
が甘くなっているのではないのかというご質問
は、非常に重要な問題意識をいただけたと思っ
ております。印象としては、デトロイト市の財
政状況の悪化は空前の規模であって、まさに異
常な事態であるということかと思います。
寄付講座の組織・機構
◆ 東京大学大学院経済学研究科寄付講座運営委員会
井堀 利宏
(東京大学大学院経済学研究科教授)
田渕 隆俊
(東京大学大学院経済学研究科教授)
林 正義
(東京大学大学院経済学研究科教授)
持田 信樹
(東京大学大学院経済学研究科教授)
◆ 地方公共団体金融機構寄付講座フォーラム運営委員会
稲垣 敦子
(東京都財務局主計部公債課長)
稲生 信男
(東洋大学国際地域学部教授)
江夏 あかね
(株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員)
小西 砂千夫
(関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授)
田中 敦仁
(地方公共団体金融機構地方支援部長・総括主任研究員)
田中 俊次
(川崎市財政局担当理事・財政部長)
中里 透
(上智大学経済学部准教授)
林 正義
(東京大学大学院経済学研究科教授)
20
持田 信樹
(東京大学大学院経済学研究科教授)
◆ フォーラム運営委員会事務局(※は事務局長)
青木 世一
(一般財団法人地方債協会企画調査部調査課長)
石橋 美秀
(地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課主査)
※橋都 由加子
(東京大学大学院経済学研究科特任助教)
村川 勝司
(地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課長)
東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部
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tel 03-5841-5628 fax 03-5841-5521
ነઃ⻠ᐳࡎ࡯ࡓࡍ࡯ࠫ http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html
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