Comments
Description
Transcript
第19号 - 東京大学大学院経済学研究科・経済学部
Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部 地 方 公 共 団 体 金 融 機 構 寄 付 講 座 ニ ュ ー ズ レ タ ー 第 19 号 第17回フォーラム 日 時 2013年5月28日(火) 16:00∼18:30 「『北欧モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデン・デンマーク調査報告」 場 所 東京大学本郷キャンパス 東京大学大学院経済学研究科学術交流棟 (小島ホール)2階 小島コンファレンスルーム 内 容 ● 報 告 江夏 あかね (株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員) 三宅 裕樹 (京都大学大学院経済学研究科博士後期課程) ● 討 論 2013年 5 月28日(火)、小島コンファレンスルームにおい て地方公共団体金融機構寄付講座第17回フォーラム「『北欧 モデル』から考える地方の資金調達の在り方―スウェーデ ン・デンマーク調査報告」が開催されました。2013年 3 月 の 1 週間にわたる北欧の調査出張をもとに、野村資本市場 緒方 俊則 (地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員) 研究所主任研究員の江夏氏からはデンマークの、京都大学 小西 砂千夫 (関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授) しての組織がそれぞれ紹介され、組織の特徴や地方自治体 ● 報告者リプライ 大学院の三宅氏からはスウェーデンの地方共同調達機関と との関係、地方債市場における位置づけなどについて具体 的にご報告いただき、日本における地方の資金調達の在り 方についての示唆をいただきました。二人の討論者からは、 ● 質疑応答 北欧 4 カ国における地方共同調達機関の地方自治体向け支 援業務の具体的な説明や、フランスにおける事例の紹介な どがなされ、報告内容を掘り下げる論点が提示されました。 また、フロアからも質問がなされ、活発な議論が展開され ました。 ※当日の報告資料は寄付講座のホームページでご覧頂けます。 ( URL:http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html ) 主催/東京大学大学院経済学研究科寄付講座、 地方公共団体金融機構 July.2013 No.19 1 報告 GDP ともに日本の約19分の 1 という比較的規 株式会社野村資本市場研究所主任研究員 の格付けを取得するなど高い信用力を誇ってい 江夏 あかね 模の小さい国です。ただ、この国はトリプルA ます。背景といたしましては、まず、人口 1 人 当たりの GDP が約 5 万6,000ドルで、日本が約 4 万7,000ドルですから、大変富のある国だと いうことがお分かりいただけると思います。ま た、財政上非常に健全な状態だということで す。ソブリン分析においては典型的に、財政収 支(対 GDP 比)や政府債務(対 GDP 比)に着 目するわけですが、財政赤字(対 GDP 比)は比 較的小さい規模でとどまっていますし、政府債 務(対 GDP 比)も、日本は200%を超えるので はないかとも言われていますが、デンマークの 場合、40%台で推移しており、大変健全な財政 状況が維持されております。デンマークの信用 力上の弱みとしては、国の規模が非常に小さい 「北欧モデル」とデンマークの基礎知識 私からはデンマークについてご紹介させてい こともあり、基本的には海外から資金を調達し なければならない構造になっているため、金融 ただきます。最初に、「北欧モデル」の意味や セクターで対外借入ニーズが高いということと、 デンマークの基礎的な情報の確認をさせていた 家計債務の規模が比較的大きいことが挙げられ だいた上で、私どもが訪問いたしましたコペン ます。日本では、約1,200兆円の家計金融資産が ハーゲン市とデンマーク地方金融公庫の地方財 経常収支の黒字に大きく貢献しているとも言わ 政の仕組みや運営、地方債について分析し、最 れていますが、デンマークの場合、高福祉国家 後に今日のフォーラムのタイトルにもなってお で国民の将来に対する不安が比較的大きくない ります、「北欧モデル」から考える地方の資金調 こともあるせいか、貯蓄率がかなり低い状況と 達のあり方ということでまとめさせていただき なっております。地方公共団体を含めた公的セ たいと思います。 クター以外に、比較的大きな借入ニーズがわり まず 3 ページ目をお開き下さい。 「北欧モデル」 とあるというのがこの国の特徴だと思います。 ということで、明確な定義はないのですが、一 5 ページ目をお開き下さい。デンマークの戦 般論としてよく言われるのは高水準の課税とそ 後の歴史について、経済・政治、地方自治・地 れに基づく社会サービスの提供といった特徴が 方財政関連の出来事を基にまとめております。 挙げられます。また、北欧モデルの地方自治の デンマークは戦後、福祉国家の実現ということ 特徴としては、地方自治が強調されているとい で1960年代は比較的安定した状況を謳歌してお うこと、地方財政において地方税が非常に重要 りました。しかし、1970年代に入り北欧諸国の な役割になっているということ、福祉国家とし 経済状況が悪化する中で、デンマークにおいて て地方公共団体がその主体を担っているという も、当時は石油などの資源を多く輸入していた こと、そして地方の政治と行政の一体的な協力 ためにオイルショックの影響を大きく受け、物 体制が確立していること、等が先行研究で指摘 価高騰や失業率の上昇、財政赤字、経常赤字と されております。 いう複数の問題に直面しました。しかし、この 次のページですが、デンマークという国に ような出来事を契機に、デンマーク国民は、福 つ い て 見 て い き ま す。 デ ン マ ー ク は、 人 口 は 祉の良い面と悪い面を認識していったとされて 約560万 人、GDP は 約3,100億 米 ド ル と、 人 口、 おります。一方、同時期には、地方公共団体で 2 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 大きな改革がありました。1970年、19世紀初頭 が、日本も都道府県、市町村という 2 層制になっ から1,300以上あった地方公共団体が、14のアム ております。業務分担や財政の特徴について見 ト(県)と275のコムーネ(市)に再編されました。 ると、実は日本とデンマークの状況は大きく異 他 方、 デ ン マ ー ク は、1973年 に 欧 州 共 同 体 なっています。レジオンは、広域的な行政ニー ( EC )に加盟したということがあります。デン ズを担うといった面は都道府県と共通しており マークは現在でもデンマーク・クローネという ますが、レジオンは日本の都道府県とは異なり 自国通貨を維持しています。EC には加盟した 課税権を有していないという特徴がございます。 のですが、ユーロ参加に関しては否決をしてお 一方、基礎自治体であるコムーネは、福祉や子 ります。当時の分析によると、ユーロ参加で福 育て支援に関しては住民に身近な行政を担って 祉の面を維持することが困難になるのではない おり、歳入では地方税が中心の構造になってい かという国民の不安や、ユーロの相場が当時下 ます。コムーネとレジオンでは歳入の構造が大 落をしていたため、デンマーク・クローネとい きく異なり、歳入の主体はコムーネが地方税、 う通貨を維持すべきという考えが主流だったこ レジオンが包括補助金となっております。 とが否決の背景としてあるようです。ただし、 デンマークは、1982年から当時の欧州通貨単位 ( ECU )に連動させるペッグ制を導入しました。 デンマーク地方財政の仕組み 続いて 7 ページ目、デンマークの地方財政の また、1999年にユーロが導入された際にも、デ 仕組みをご紹介させていただきます。まず、国 ンマークは欧州為替相場メカニズム( ERM2) の関与についてですが、基本的には内務保健省 の参加国として、ユーロとのぺッグ制を維持し の管轄下にあります。特徴的なのは予算プロセ ているという状況になっています。 スで、中央政府が採択した包括的経済政策に基 もう 1 つご留意いただきたい点ですが、北欧 本的に沿って財政運営していくことが義務付け 諸国は各国の状況が割と異なる傾向があるので られており、毎年予算を組成する際に、翌年度 すが、デンマークは1980年代前半に他の国に先 の地方公共団体の予算の枠組みを国と地方が協 駆けて金融の自由化が始まりました。この点が 議を行い決定する予算協調制度といった仕組み 何故重要かということは後にご紹介させていた が導入されています。この中では、歳出規模や だきます。 税率、一般財源の包括補助金の規模などが議論 地方自治に関してですが、2007年には「デン されており、国と地方が協調して財政運営をし マーク版道州制改革」が実地され、地方公共団 ているということがお分かりいただけると思い 体が 5 つのレジオン(州)と98のコムーネに再 ます。 編されました。再編の目的は、住民の生活によ 財政調整の仕組みですが、デンマークは日本 り近い行政単位であるコムーネの権限移譲を進 と同じように国から地方への財政移転というこ めるとともに、福祉社会への発展及び質の高い とで垂直的な仕組みとして包括補助金がありま 福祉サービスを住民に提供することでした。ま すが、日本とは異なる仕組みとして、コムーネ た、もともと人口がそれほど大きくない国であ 間で財政状況の均てん化を図るという水平的な る以上、規模が小さい地方公共団体が多かった 仕組みとして平衡交付金というものが導入され ために、再編を通じて平均5.5万人ほどの人口 ています。 を 1 つの地方公共団体の規模とし、スケールメ 次に地方公共団体の借入の仕組みについて 8 リットを享受するためというのも背景の 1 つで ページ目をお開きください。これも日本と似て した。さらに、重複している行政分野を整理し、 いるところと違うところがあります。日本も、 効率・質の向上ということも再編の背景として 基本的には地方財政法第 5 条を通じて地方債の 挙げられます。 充当目的について規定されていますが、このよ 現在、地方公共団体の中ではレジオンとコ うな建設公債主義というのは、基本的にはデン ムーネという 2 層制の構造となっております マークでも採用されております。デンマークの July.2013 No.19 3 場合は、厳格に適債基準が決められています。 場合、英国やフランス、イタリアの平均は8.9% 現在では、高齢者住宅や省エネ対策等特定目的 ほどで、OECD 加盟国平均が7.0%でしたので、 に限定して借入を起こすことができるように 日本の地方債務残高(対 GDP 比)がいかに高い なっています。借入限度額に関しては、基本的 水準にあるかということが浮き彫りになります。 には毎年の予算協調制度の中で合意を通じて確 それから、デンマークの地方公共団体は債務不 認されるものになっています。地方の借入に関 履行(デフォルト)の仕組みがありません。債 し、日本の場合、外貨地方債の一部で明示的な 務再編や支払い停止が認められないという判決 保証が付与されているものはありますが、ほと も過去に存在しているとのことです。もう一つ、 んどの地方債には保証が付与されておりません。 ソルベンシーの維持のため、365日平均でネット デンマークの地方債についても、中央政府によ ベースの金融資産をプラスの水準で維持するこ る明示的な保証の仕組みはありません。 とや、四半期ベースでの財務報告が義務づけら また、最近の仕組みとしてご紹介したいのが、 れているという規制があります。以上、デンマー 為 替 リ ス ク を 回 避 す る た め、2011年 以 降 の 借 クの基礎的な情報をご紹介させていただきまし 入に関しては、デンマーク・クローネもしくは た。 ユーロ建て以外では禁止されているという点で す。特にヨーロッパで金融危機時に、地方公共 コペンハーゲン市の財政運営 団体が為替リスクに晒された結果、大きな損失 続いてコペンハーゲン市についてご紹介いた を抱えることになり、投資銀行を訴える事例が します。国の経済の中心を担うデンマークの首 あったと思いますが、デンマークでも、スイス 都で人口はデンマークの 1 割強に当たる約70万 フランで借入をしていた団体が為替リスクに伴 人、今でも若年層を中心に人口が増加していま い損失を出したということがあったとのことで、 す。コペンハーゲン都市圏(グレーター・コペ これがこのような規制の背景となっているそう ンハーゲン)では約120万人と、人口の大体 5 分 です。一方、デンマークの地方公共団体の場合、 の 1 以上が集積をしています。こちらの財政状 ほぼすべての公営企業と住宅供給公社のローン 況です。予算の内訳をご覧いただけますでしょ に対して債務保証を付与することができること うか。日本の地方公共団体の場合、基本的には になっています。日本の地方公共団体の場合、 現金主義、単式簿記に基づき予算を示していま 原則として債務保証は禁止されていますが、地 すが、コペンハーゲン市の場合は現金主義のほ 方三公社の中で地方道路公社と土地開発公社に か発生主義でも財政管理をしているとのことで 対しては債務保証を行うことが可能となってい す。歳入においては、地方債という項目が上がっ ます。 ておりませんが、例えば地方公共団体全体の もう一つ、現在のデンマークの地方公共団体 の長期債務残高は、2012年末時点で976億デン 2010年決算では、地方債は歳入の僅か2.4%しか 占めていなかったとのことです。この2.4%とい マ ー ク・ ク ロ ー ネ( 約1.7兆 円 ) で す が、 日 本 う数字がどういう意味を持つのかということで の地方公共団体の債務が公営企業分を合わせて すが、日本の平成25年度の地方財政計画の中で 約228兆円(2013年度末見込み)ということを は、地方債が歳入全体の13.6%を占めているこ 踏まえますと、日本の約0.7%ほどと小さい規 とと比較しますと、デンマークにおいて地方債 模になっています。それから、デンマークの場 が歳入に占める割合が非常に小さいということ 合、地方公共団体の長期債務残高の規模は、名 がお分かりいただけると思います。その他の特 目 GDP の5.4%程度ですが、日本の地方債務の場 徴として、コムーネにおいては、地方所得税が 合、2011年度の統計で46.9%ですので、デンマー 主体ですが、コペンハーゲン市の歳入では固定 クの地方債務残高(対 GDP 比)もかなり低いと 資産税も比較的潤沢といったことが挙げられま いうことが分かります。ちなみに、この GDP に す。 対する地方の債務残高の規模ですが、2011年の 続いて12ページをお開きいただけますでしょ 4 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo うか。コペンハーゲン市の債務状況をご紹介い したが、EU の資本要求指令( CRD )の中の与 たします。資金調達に関しては、かつては債券 信集中規制等の適用免除が撤廃され、金融機関 発行もしていたとのことですが、現在は証書形 として取り扱われるようになったことで、既存 式(ローン)のみで調達をしています。左側の のビジネス・モデルでは運営が困難になったこ 図の借入残高ですが、90年代初頭は人口流出が とが挙げられます。一方、デンマーク地方金融 多く港湾開発を行なっていたため借入が多かっ 公庫は、金融機関ではなく、協同組合であった たのですが、町の整備に伴い人口集積が進み、 ため、そのような金融機関向けの規制の対象外 財政健全化に取り組むにつれて借入規模が縮小 であったという状況です。 していきました。右側の図は債務残高ですが、 法人税に関しては、1980年代から他の民間と 将来にわたって徐々に縮小していくことが見通 同じような税率で課税対象になっています。メ されています。債務を占める大きいものは地下 ンバーはデンマークの地方公共団体に限定され 鉄や土地開発公社ですが、土地開発公社の固定 ています。加盟は任意ですが、現時点ではすべ 利付借入の一部をコペンハーゲン市が負担して ての地方公共団体が加盟をしており、加盟地方 いたのですが、借入条件がコペンハーゲン市の 公共団体はすべてのデンマーク地方金融公庫の 財政運営にとって負担が重いということで、こ 債務に対して連帯責任を負っているということ れを2007年に返済し、後からご紹介しますデン になっています。業務目的は、加盟地方公共団 マーク地方金融公庫の協力によって変動利付債 体に対してコスト効率の高い資金調達を確保す 務に借換えたということがあります。これを通 ることです。貸出先は、日本の地方公共団体金 じて、コペンハーゲン市の金利負担は低下し、 融機構の場合は、地方公共団体のみを対象とし 金利リスクのバランスも図られたとのことです。 ておりますが、デンマーク地方金融公庫は、加 連結ベースで土地開発公社のほかに地下鉄の分 盟地方公共団体に加えて、地方公共団体が全額 の債務が今後増えていくと推計されております 債務保証した公営企業等の外郭団体を対象にし が、地下鉄の債務は国とコペンハーゲン市が折 ています。貸出の他に、ファイナンス・リース 半出資し、連帯債務となっているとのことです。 やデリバティブというサービスも加盟地方公共 団体に対して提供しています。デンマーク地方 デンマーク地方金融公庫 金融公庫は、地方公共団体の負債管理等に関す デンマークの地方共同調達機関であるデン るアドバイザリー業務も実施しています。個別 マーク地方金融公庫をご紹介いたします。19 の借入へ無償で、または要請に基づき有償で財 世紀末に設立された大変古い協同組合で、内務 務アドバイス等を実施するという方法で包括的 保健省の監督下にあります。デンマークでは、 なサービスを提供しています。 1880年代に酪農組合から農業協同組合が誕生し 16ページ目、財務状況ですが、比較的潤沢に ました。酪農組合の場合、協同運営を通じたス 準備金が積み上がっており、配当の仕組みはな ケールメリットが期待されて設立されたわけで いため全部内部留保することができます。2012 すが、そのようなモデルがデンマークでは根付 年の Tier1ソルベンシー比率は56%と大変高い いており、デンマーク地方金融公庫も協同組合 水準です。流動性に関しては、いくつかの地方 という形式で始まりました。デンマーク地方金 金融公社で見られるような中央銀行へのファン 融公庫は、協同組合で金融機関ではないため、 ディング・アクセスはデンマーク地方金融公庫 欧州連合( EU )の金融規制の対象外で、これ の場合ございませんが、貸出のためにプレファ は比較的重要な点です。2011年冬、ノルウェー ンドということで、貸出の少し前に借入を一定 輸出金融公社の格付けが大きく引き下げられた 範囲内で行うことが法律上認められています。 ことは、記憶に新しいと思います。格下げの要 リスク管理体制は厳格に管理をしており、通貨 因の一つとしてノルウェー輸出金融公社は従来、 や金利リスクのエクスポージャーは事実上ゼロ オイルメジャーなど大口の貸出先を有していま だと伺いました。 July.2013 No.19 5 17ページ目、資金調達状況ですが、基本的な 団体へ魅力的な金利水準の貸出を提供すること 資金調達戦略はベンチマーク債や他市場におけ が可能となりました。さらに90年代前半、金融 る公募、私募債、コマーシャル・ペーパー( CP ) 自由化が北欧で浸透し、モーゲージ等で貸出競 などですが、金融危機以降の傾向として流動性 争が熾烈になりました。90年代前半は、一時的 を意識し、私募より公募が選好されるようにな に、金融機関の貸出残高が GDP を超えてしまう りベンチマーク債への需要が高いという状況に ような状況にもなり、厳しい金融環境になりま なっています。また、米ドルの起債が増えてき した。デンマークでは、金融危機が連鎖するよ たということが挙げられます。もちろんベーシ うな状態は阻止できたのですが、90年代初頭と ス・スワップの環境で米ドルの起債が有利と いうのはデンマークの民間金融機関にとっても いう話もあるようですが、米国市場では、金融 厳しい時代だったということがあります。です 危機を通じてファニーメイやフレディマックと から、民間金融機関は、信用力の水準に準じて いった政府支援機関( GSE )が実質的に公的管 資金調達コストもかかるため、より利回りの高 理下に入り、高クレジットの銘柄が資産クラス い融資を求めることになる上、民間市場でモー から剥落したということがあるので、デンマー ゲージ等の分野で厳しい競争を克服しなければ ク地方金融公庫をはじめとした多くの公的機関 いけなかった状況と考えられます。その意味で、 や国際金融機関等が米ドル市場を目指して起債 デンマーク地方金融公庫が低リスク・低リター をしているという傾向にあります。デュレー ンである地方公共団体向けに貸出しを行ってい ションに関しては、金融危機以前は15年や20年 るというのは、ビジネス・モデルが異なる民間 という非常に長い資金調達ができたのですが、 金融機関からすると、あまり妙味がないという 現在は 5 年や 3 年という短いデュレーションが ことで、自然に住み分けがされていったのでは 選好されるようになったとのことです。 ないかとみられます。 18ページ目、貸出状況をご紹介いたします。 最後に、「 『北欧モデル』から考える地方の資 本日のお話の中で重要な点として、デンマーク 金調達の在り方」についてですが、これまで見 地方金融公庫のマーケットシェアが挙げられ てきたなかで日本との共通点もいくつかあると ます。デンマーク地方金融公庫をめぐっては、 いうことを認識できたと思います。例えば、地 1980年代頃には20%から30%台であったシェア が急増し、現在では約95%とほぼシェアを独占 方債制度の仕組みと国の関与という点での建設 しています。残りの 5 %は中央政府が融資をし 融主体という金融市場です。米国では直接金 ているとのことです。マーケットシェアが急激 融が進んでいるわけですが、大陸ヨーロッパは に拡大した背景としては、1970∼80年代にデン 基本的に間接金融主体ですから借入が基本的に マーク経済は厳しい状況にさらされたため、デ は主軸になっております。日本も基本的には間 ンマーク・クローネ建ての貸出金利が一時的に 接金融が現在でも中心ですが、最近では地方分 20%に達するようなこともありました。地方公 権や財政投融資改革の流れを通じて市場公募化 共団体によっては当時、ドイツマルクで調達を が進展してきています。なお、デンマークに関 するようなケースもあったということで、デン しては、デンマーク地方金融公庫の貸出の中で マーク地方金融公庫のシェアは低迷していたの 95%がローン形式、債券発行は 5 %程というこ です。しかし、1980年代前半から始まった金融 とでほとんどが借入という状況になっています。 自由化に伴い、それまでは伝統的な条件であっ もう一つ日本との共通点としては、長らく根付 たローンの条件を多様化させ提供サービスも拡 いた地方公共団体への公的金融の仕組みという 充させていきます。デンマーク地方金融公庫は、 ことで、日本でも財政投融資の仕組みや公営企 民間金融機関とは異なり高水準の格付けを有し 業金融公庫(現在の地方公共団体金融機構)が ているため、低金利の調達が可能であったうえ、 あるように、欧州諸国では地方公共団体向けの 配当の仕組みがないことも功を奏し、地方公共 公的金融の仕組みが100年以上根付いているケー 6 公債主義に基づく借入の厳格化、そして間接金 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo スも散見されます。デンマークにおいても1899 地方公共団体のニーズや外部環境の変化に迅速 年に協同組合として設立されたデンマーク地方 に柔軟に対応できたことであり、日本の地方公 金融公庫が中核的な役割を担ってきました。 共団体金融機構に対する良い教訓になるのでは デンマークの事例から考える地方の資金調達 ないかと思っています。私の発表は以上でござ のあり方についてですが、日本の地方の資金調 います。ご清聴ありがとうございました。 達の仕組みは大変良くできていると思います が、デンマークで画期的だったのは1970∼80年 代に国の経済が厳しい中でも資金提供してきた 結果、デンマーク地方金融公庫の役割が大きく 拡大したということが言えると思います。なお、 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程 三宅 裕樹 マイケル・ポーターの『競争の戦略』では、集 中、コストリーダーシップ及び差別化の三つの 基本戦略を実行することがビジネス上の競争に 勝ち抜く上で重要だと言われていますが、この 三つのポイントにデンマーク地方金融公庫のモ デルを適用すると当てはまっていることが分か ります。まず集中に関しては、従来から加盟団 体である地方公共団体のみを対象にし、海外や 他のセクターに対象を拡大せず集中してきたこ と。コストリーダーシップに関しては、高格付 け、配当のないビジネス・モデル、資金調達多 様化等を通じた有利な資金調達を背景とした低 位で安定した資金の提供。そして差別化に関し ては、地方公共団体向けの専門金融機関として、 地方公共団体のニーズに即したサービスを、有 調査出張の概要 私からは、スウェーデンに関しご報告させて いただきたいと思います。 償、無償のものを含めて提供してきたというと まず初めに、2013年 3 月、 1 週間にわたる北 ころです。デンマーク地方金融公庫の場合、『競 欧の調査出張という非常に貴重な機会を頂戴い 争の戦略』で挙げられた 3 つの基本戦略にも下 たしましたことを深く感謝申し上げます。本日 支えされ、競争に勝ったのだろうと思います。 は、できる限りその内容をこの場でご報告させ ただし、マーケットシェアを多く獲得するこ ていただければと思っております。 とがビジネス・モデルとして成功なのかと言う 今回、スウェーデンとデンマークの 2 カ国を と、普遍的に見てそれは必ずしも成功とは言え 訪問いたしましたが、私の理解では、大きな目 ないと思います。日本の場合、地方公共団体は、 的の一つはこの 2 カ国の地方債制度、市場がど 財政融資資金、地方公共団体金融機構資金、銀 ういった特徴を持っているのかという一般的な 行等引受資金、市場公募資金という 4 つの区分 情報の収集。もう一つは、2008年のリーマン・ から円滑に資金調達を行うことが可能です。地 ショック以降のグローバル金融危機が、この 2 方公共団体金融機構資金のシェアは、2013年度 カ国の地方債市場に影響を与えたのか、与えた 地方債計画上では14%ですが、デンマーク地方 とすればそれによってどのような変化が起きた 金融公庫の市場シェアである95%を目指せばよ のかということについてのインタビュー。この いかというと、個人的にはそうは思っておりま 二つであったと理解しております。 せん。ただし、デンマーク地方金融公庫から学 スウェーデンで、3 つの訪問先にインタビュー べることの一つは、長い歴史に下支えされた強 させていただきました。一つはコミュンインベ 固な業務・財務基盤・ノウハウの蓄積に加えて、 ストという、先ほど江夏様からお話がございま July.2013 No.19 7 したコミュネレジットに相当するスウェーデン ています(報告資料 p4)。 の組織で、地方自治体が出資をして地方債を共 こういったことを見てくると、スウェーデン 同発行するために作られている組織です。現 の地方自治体に金融危機の影響はあったのかと 在は、スウェーデン最大の地方債の保有主体 いうことが疑問として生じます。こういうこと となっています。二つ目は SALAR という、ス をどう理解すればいいのかということをインタ ウェーデンのいわゆる地方自治体協会に当たる ビューを通じて知りたいと考えていました。結 組織です。三つ目は首都ストックホルム市です。 論を申しますと、私の印象からすると、今回の この三つの機関にそれぞれインタビューさせて 金融危機はスウェーデンの地方債市場にはほと いただきました(報告資料 P2) 。 んど影響はなかったと考えてよいのではないか スウェーデンは北欧最大の国ということで知 と思っています。それがなぜなのかという観点 られています。先ほど江夏様からご紹介があり から、以下ご報告させていただきます。 ましたデンマークと比較しますと、経済規模・ 人口規模で大体 2 倍ほどの規模感でイメージし ていただければよいかと思います(報告資料 p3)。 グローバル金融危機とスウェーデン グローバル金融危機がスウェーデンの地方債 市場に与えた影響を考える前に、まずは今回の 個人的に今回のインタビュー調査において一 金融危機がスウェーデンの経済全体・金融市場 番関心があったのは二つ目の調査目的、つまり 全体にどのような影響を与えたのかということ グローバル金融危機の影響がスウェーデンの地 を確認していきます。 方債市場にあったのかどうかということです。 2007年 の サ ブ プ ラ イ ム・ ロ ー ン 問 題 か ら 始 4 ページの左側はスウェーデンの地方債市場の 保有者構造の推移を金融危機前後で見たもので まった今回の一連の危機は、大きく三つの段階 す。ご覧いただきますと、民間の商業銀行が市 流 動 性 危 機 と 呼 ば れ る 状 況 で す。 リ ー マ ン・ 場シェアを落としたのに対して、地方自治体の ショックが発生し、金融市場でパニックが起き 共同発行機関であるコミュンインベストが市場 てしまった結果、金融機関や投資家が一斉に金 シェアを上げていることが見て取れます。この 融市場から資金を引き揚げてしまい、それに 図の一つの理解としては、今回の金融危機がス よって金融機関、投資家の運用に悪影響を与え ウェーデンの金融機関に非常に大きな影響を与 投売りを余儀なくされ、またそれが混乱をさら えて、地方債市場から撤退せざるをえなかった。 に深めるということが起こった段階です。この しかし、そうはいっても地方自治体は借入が必 第 1 段階に関しては、スウェーデンも少なから 要だということで、そのバックアップとして公 ず影響を受けたと言ってよいと思います。6 ペー 的機関であるコミュンインベストが支えたのだ ジの左側が銀行間金利の対政策金利スプレッド という一つの解釈が成り立ちえます。そういっ の推移を見たものですが、2007年前半まではほ た理解に立つと、スウェーデンの地方債市場は ぼ0bp で推移していたものが、サブプライム・ 今回の金融危機から非常に影響を受けたという ローン問題が懸念され始めると開き始め、それ 理解も成り立ちうるわけです。一方で同じペー が一気に引き上がったのがリーマン・ショック ジの右側、これはスウェーデンの市町村に当た の時期だったということがご確認いただけると る自治体のコミューンの財政状況の推移ですが、 思います。スウェーデンの金融市場では、国内 歳入の内訳を示した棒グラフは非常にきれいな 系のユニバーサル・バンクが圧倒的なシェアを 増加基調をたどっており、年を隠すとどこが金 占 め て お り、 銀 行 が 中 心 の 金 融 市 場 で す。 ス 融危機なのか分からないほどです。折れ線グラ ウェーデンの大手金融機関は2000年代に入り、 フは財政収支ですが、年の変動はありますが金 融資主体として国外への進出や、資金調達先と 融危機後に下がったというわけでは必ずしもな してもスウェーデン国外から資金を調達する割 く、また金融危機前後で一貫して黒字を維持し 合を増やしていました。それがこの右側の図で 8 に分けることができると思います。一つ目は、 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 示しているものです。国内系の金融機関が、こ 速な落ち込みはあくまでも輸出の急激な落ち込 のようなかたちで国外との金融取引を積極化さ みに起因するものであって、スウェーデン国内 せていたことが、流動性危機の段階を免れえな の家計の消費や投資という国内の要因に関して かった主要因の一つとして挙げられるのではな は安定していた状況にありました。国内基盤が いかと思います(報告資料 p6)。 しっかりしていたからこそ、翌2010年には急激 一連の金融危機で、第 1 段階が流動性危機と な回復を遂げているわけです。実体経済で深刻 すれば、第 2 段階が銀行危機と言える状況かと な状況が長続きしなかったため、スウェーデン 思います。つまり、市場がパニックに陥った混 の金融機関が抱えているローン債権の多くが貸 乱がある程度落ち着くと、次第に住宅ローン市 倒れてしまうことが避けられたと思います。実 場のバブルが崩壊してしまったことを受けて、 際、先ほどご覧いただいた 7 ページで、今回の 金融機関が持っている住宅ローン債権が不良化 金融危機のところで少し膨らんでいる貸倒れ損 してしまう、あるいは保有していた証券化商品 失についても、これはスウェーデン国内での貸 が格下げされデフォルトしたりして、証券化商 倒れということではなく、スウェーデンの金融 品の評価損・実現損で損失を抱えてしまう、こ 機 関 が2000年 代 か ら 積 極 的 に 進 出 し て い た 東 れによって、金融機関の財務状態の悪化が表面 ヨーロッパの新興諸国での貸倒れが出てきたと 化し、対応に追われる段階です。あるいは、実 いうのが主因で、必ずしも国内の要因ではあり 体経済が悪化してしまった結果、事業会社など ませんでした(報告資料 p8) 。 への融資が貸倒れになってしまい、金融機関、 その結果、不良債権が多額に発生する事態を 投資家が不良債権を抱えてしまう。それによっ 免れたため、スウェーデンの金融機関は現時点 て自己資本が棄損し不足してしまう状況に陥っ でも健全性を維持しています。 9 ページの左側 た段階です。これを私は銀行危機と呼びたいと は、欧州の大手金融機関の自己資本比率のラン 思いますが、この第 2 段階の銀行危機について キングです。青色で示しているのがスウェーデ は、スウェーデンは大きな影響を受けなかった ン国内大手 4 行ですが、総じて上位に位置して と基本的に考えてよいと思います。 いるということは明らかです。トップの UBS は 7 ページの左側は、スウェーデンの金融機関、 スイスの金融機関ですが、これは公的資金の注 銀行の貸倒れ損失の推移をみたものです。ご案 入を受けたからこれだけの水準になっており、 内の通り90年代初めに北欧金融危機があり、ス そういう意味ではスウェーデンの金融機関は、 ウェーデンにおいても住宅バブルが崩壊した結 自力でこれだけ高い水準を達成し、上位を占め 果、不良債権を大量に抱え込んだ金融機関が倒 ています。ですから一連のグローバル金融危機 産していく状況が起きました。そういった時期 の第 2 段階では、スウェーデンは全体としては と比較すると、確かに今回の金融危機を受けて 少なくともそれほど深刻な状況にはならなかっ 貸倒れ損失は膨らんでいるわけですが、90年代 たと捉えてよいのではないかと思います(報告 に比べて事業規模そのものは非常に大きくなっ 資料 p9)。 ているにも関わらず貸倒れ損失は圧倒的に少な 流動性危機、銀行危機と続いて第 3 段階は、 い水準だったということがご確認いただけるか ソブリン危機です。2010年のギリシャ問題に端 と思います(報告資料 p7) 。 を発して、特に欧州の先進諸国の財政問題が懸 なぜなのかというと、スウェーデン国内の実 念される事態が発生しました。その結果、国債 体経済が急速に悪化したもののそれが一時的に の金利が跳ね上がり、政府が債務の返済や新た とどまったということが一つの重要な要因かと な資金調達に苦しんだことは皆さまもご記憶が 思います。 8 ページの左の図は実質 GDP 成長 新しいかと思います。この段階についても、ス 率の推移ですが、2008年にマイナスに陥り2009 ウェーデンはほとんど深刻な状況には至らな 年にはマイナス 5 %と急激に悪化したというこ かったと言ってよいのだろうと思います。金融 とがご確認いただけるかと思いますが、この急 機関がそれほど深刻な状況に陥りませんでした July.2013 No.19 9 ので公的資金を大量に注入する必要はありませ スウェーデン全体として影響があり、それは地 んでした。また、実体経済も一時的に悪化しま 方債市場も免れなかったわけですが、銀行危機 したが長続きすることはなかったため、景気対 の段階、さらにはソブリン危機の段階に関して 策・財政出動の必要もそれほどありませんでし はスウェーデン全体が影響を受けていない。そ た。スウェーデンの政府としても税収の落込み の中で、地方債市場においても概ね影響がな や歳出の急激な膨らみということもそれほど起 かったということを表わしている、という理解 きなかったので、政府の債務残高の対 GDP 比の でよいかと思います。実際、今回のインタビュー 推移を見ても、一貫した減少傾向が基本的には 調査でも、「2008年以降の金融危機の影響はあり 続いているということが見て取れるわけです。 ましたか?」という質問をそれぞれの訪問先に 以上で、非常にざっくりしたかたちで、スウェー しましたが、私の印象としてはほとんどなかっ デン経済・金融市場全体にグローバル金融危機 た、という感じでした。確かにリーマン・ショッ の影響があったのかどうかということについて クから 5 年近く、ギリシャ問題からも 3 年ほど 見てまいりました(報告資料 p10)。 と相当に時間は経っていると言えるわけですが、 その点を割引いても、金融危機の影響はそれほ 地方債市場への影響 次に、今回のテーマである地方債市場に関し どなかったという先方のお答えは、素直に受け 取っていいのではないかと理解しています(報 て見ていきたいと思います。12ページですが、 告資料 p12)。 これは欧州地方自治体協会が欧州各国の地方自 では、そのような理解に立つと、冒頭申し上 治体協会にアンケート調査を行った結果を、ス げた金融危機前後におけるスウェーデンの地方 ウェーデンの地方自治体協会の回答部分につい 債市場の保有者構造の変化をどう考えればいい て抜粋したものです。左側はリーマン・ショッ のかということが改めて問題になってきます。 ク直後の時期と言える2009年 3 月に実施したも つまり、スウェーデンの金融機関はほとんど金 ので、右側はそれから半年後、2009年 8 月に行 融危機の影響を受けていないにも関わらず市場 われたものです。後者は、流動性危機の一時の シェアを落とし、その一方でコミュンインベス パニックが大方収まって、銀行危機という段階 トは上がっています。これが金融危機の影響で が懸念されていた時期と言ってよいかと思いま ないとするならばどう理解すればいいのかとい す。 うことを次に考える必要があります。そういっ 左側の回答をみると、やはり流動性危機の段 たことを考えるために、コミュンインベストの 階においては、スウェーデンの地方債市場にお 組織について少し丁寧にみていきたいと思いま いても深刻な影響があったということが読み取 す。 れます。左側の上にあるように、「2008年秋の リーマン・ショック後、コミューンの中には金 民間金融機関と対等な条件で競争するコミュンインベスト 融機関からの融資を断られ投資事業を一時的に 13ページ左側は、コミュンインベストの組織 中断せざるを得ないところもあり、債券形式で 図を示したものです。コミュンインベストは債 の地方債の発行が不可能になってしまった」と 券を発行して国内外の金融市場から資金を調達 いうことを答えていらっしゃいます。ただ、そ します。調達したお金をスウェーデン国内の地 れから半年経つと答えが大きく変わり、「一連の 方自治体、および地方自治体が債務保証を提供 金融危機の影響は改善に向かっていますか?」 している地方公営企業に融資するという役割を という問いには「改善に向かってます」と、 「翌 担っています。 年2010年は大丈夫ですか?」という問いには「大 ただし、スウェーデンの地方自治体であれば 丈夫です」と答えていらっしゃるわけです。こ コミュンインベストからお金を借りられるのか れは、先ほど見てきたことと概ね一致するかと というと、決してそういうわけではありません。 思います。つまり、確かに流動性危機の段階は 各団体は、コミュンインベストからお金を借り 10 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo ようとする際、コミュンインベストのグループ し ゃ っ て い ま し た。 そ し て 今 の と こ ろ、 今 後 の加盟団体になることが求められます。加盟団 も基本的に入るつもりはないとのことでした。 体は大きく二つの責任を引き受けることになり、 もっとも、共同発行の仕組みの場合にはモラル・ 一つはコミュンインベストに親会社を通じて出 ハザードの問題があり、大規模団体は入りたが 資をすること。もう一つはコミュンインベスト らず中小の団体が入りたくなるということも言 の債務の連帯保証の責任を引き受けること。こ われるわけですが、第 2 の団体であるヨーテボ の二つのコスト負担を引き受けるのであれば、 リ市は加盟団体になっていることなどからも、 このグループの加盟団体となりコミュンインベ 大規模団体だから加盟することは全くないとい ストからお金を借りる権利を得ることができま うことでも決してありません。いずれにせよ申 す。この判断は各団体が自由に自律的に行うこ し上げたいことは、国や地方自治体との関係で とができます。これに関して明示的・暗黙的な 見てもコミュンインベストは特別な優遇を受け 強制はないため、各団体はコミュンインベスト ているわけではなく、民間の金融機関と同等の からお金を借りることが得か損かという経済合 競争条件にあり、その中で頑張っている機関な 理的観点から判断して、コミュンインベストへ のだという点がポイントだということです。 の出資・連帯保証の責任を引き受けるかどうか このことを違う角度からみれば、地方自治体 を判断しています(報告資料 p13)。 との関係が、評価し評価される関係だと言える ですから、地方自治体の共同出資機関と言っ と思います。今申し上げたことをコミュンイン ても、地方自治体との関係は、非常にドライな ベストの立場からすると、自分は決して国から 関係と特徴づけられるかと思います。言い換え 支援を受けているわけでもないし自治体からも れば、コミュンインベストは民間の金融機関と 優遇措置を受けているわけでもない。だから地 ほとんど変わりない組織だと言ってよいだろう 方債市場において民間の金融機関と同じ競争条 と思います。国との関係ということで申し上げ 件で地方自治体からの評価を獲得しなくてはい れば、国から出資や債務保証、補助金の拠出を けない。毎回の地方債の発行においては入札が 受けているわけではありませんし、民間金融機 行われ、民間の金融機関と同じように参加しな 関と同じ規制のもとに置かれています。監督官 ければいけない。その中で選ばれればコミュン 庁も総務省などではなく金融監督庁ですし、法 インベストはお金を貸すことができるし、選ば 人税も支払っています。よって、中央政府から れなければ民間の金融機関が選ばれてしまう、 特別待遇を受けているというわけではないと ということになってしまうわけです。コミュン 言っていいと思います。地方自治体との関係に インベストとしては、当然事業規模を拡大し市 ついても先ほど申し上げましたとおり、地方自 場シェアを獲得することによって自分たちの立 治体はそれぞれ、自分にとって「借りたいな」 「得 場を確立し拡大していきたいということを念頭 だな」と思えば加盟団体になって出資・連帯保 に置いています。ですから地方自治体から評価 証の責任を引き受けるし、 「借りても意味がない」 されると必死になって頑張っているという意味 と思えば出資をしないという判断をしているわ では、地方自治体から評価される立場なわけで けです。 す。 今回のインタビュー先の一つでありましたス 一方で、地方自治体を評価する立場でもあり トックホルム市は依然として加盟しておらず、 ます。市場原理に則ったマーケット・ドミナン コミュンインベストとは経済的な関係が何もあ トな運営を行っているということを、コミュン りません。なぜかと言いますと、コミュンイン インベストの方は繰り返しインタビュー調査で ベストからお金を借りても意味がないからとい おっしゃっていました。どういうことかという うことで、そんなことをしなくても自分たち単 と、自分たちは民間の金融機関と全く同じく市 独で地方債を発行して十分に魅力的な条件を引 場原理に則って運営しているのだということで き付けることができるからだということをおっ す。つまり、ある団体が財政状態の悪化に苦し July.2013 No.19 11 んでいるからといって、通常よりも低い金利で 調達はなかなか難しくコストが高くつきます。 融資をしたり通常よりも多額の資金を貸付ける それに対してコミュンインベストはノンバンク ようなサポートをする組織では全くないのだと ですので、社債を発行して資金調達します。債 いうことです。ですから、地方債市場の最後の 券の発行は、少なくとも預金に比べれば国外か 貸手というわけでは決してなく、コミュンイン らの資金調達に関しては強みを持っていると考 ベスト単独として各地方自治体の財政状態をき えられます。実際コミュンインベストの資金調 ちんとチェックし、貸倒れのリスクはないとい 達先を見ても、確かに国内の資金調達も増加し うことをきちんと確認してから融資を行ってい つつありますが、大陸欧州やアメリカ、オース ます。そういう意味で自治体とは、評価し評価 トラリア、そして何よりも日本からの資金調達 されるというとてもドライな関係にあると言っ を積極的に行っています。こういうかたちで資 てよいのだろうと思います(報告資料 p14)。 金調達を行っているため、調達先に関して一番 このようなことを踏まえて、先ほどの市場 有利な条件のところを選ぶことがより容易にで シェアの推移を改めて見ますと、実は金融危機 きる点に強みを持っているというのが一つの大 以前からコミュンインベストは一貫して市場 きな強みとして挙げられると思います。 シェアを伸ばしているということが重要なのだ より重要なのは二つ目と三つ目です。二つ目 と思います。コミュンインベストが現在のよう は、コミュンインベストが事業の効率化を思う な形態で運営されたのは1993年以降で、15ペー 存分進めることができる仕組みだということで ジの図は95年から地方債市場の状況を見たもの す。一般的に金融機関が事業を効率化させる場 ですが、金融危機に関係なく一貫して市場シェ 合の一つの重要な方法は、事業規模の拡大で アを伸ばしているということがご確認いただけ す。規模・範囲の経済性を追求する。あるいは るかと思います。確かに、市場シェアが大きく 融資先や資金調達先を分散化させ、リスク分散 上がった時期がありますが、これは金融危機後 を追求する。これは、事業規模を拡大すること で は な く 直 前 の2000年 代 前 半 で あ り、 金 融 危 によってより効果を高めることができるわけで 機だから市場シェアが急激に伸びたというわけ す。しかし、いわゆる政府系金融機関というこ ではありません。また、国内銀行の市場シェア とになれば、事業規模を拡大する際に起きてく の低下も決して金融危機の後に起きたわけでは るのが民業圧迫という批判です。優遇措置を受 なく、90年代末から一貫した傾向になっている けている機関が事業規模を拡大すれば金融市場 わけです。これは、コミュンインベストが金融 にゆがみが生じるのでよろしくないということ 危機に関係なく一貫して地方自治体から高い評 です。しかしながら、スウェーデンにおいてコ 価を得続けているということを示している、と ミュンインベストは先ほども見たように、 4 割 理解できるのではないかと思います(報告資料 という非常に大きな市場シェアを占め、銀行を p15)。 駆逐していますが、それに対して民業圧迫とい う批判を私が知る限りは聞いたことがありませ コミュンインベストの強み ん。それは、確かに自治体が出資をしていると では、なぜそれだけコミュンインベストは地 いう意味ではコミュンインベストは政府系金融 方債市場において強いのかを改めて考える必要 機関ではありますが、何度も申し上げました通 があるだろうと思います。次に、コミュンイン り、国からも自治体からも特別な優遇措置を受 ベストの基本的な特徴として私が特に重要だと けているわけではありません。ですから民間の 考えていることを三つご説明します。 金融機関と基本的には同じなわけです。とする 一つ目は、国外の資本市場から資金を調達し と、この市場シェアの増加は健全な競争の結果、 やすい仕組みになっているということです。銀 地方自治体からコミュンインベストが選ばれた 行は預金を通じた資金調達が中心になるわけで と理解でき、別に「ずるい」という話ではない すが、これだと地理的に遠いところからの資金 ので事業規模を制約するという話にはならない 12 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo のです。そうすると、地方自治体からの評価を な視点で手数料を多く取り、出資者への配当を 得た上で事業規模を拡大し効率化を実現し、そ より増やして株価を高めるという動機付けが働 れがさらに自治体からの評価を高め、さらに市 かない仕組みになっています。コミュンインベ 場シェアを高めることができる。そういう好循 ストとしては、相互会社という組織形態になっ 環を彼らは追求し、少なくとも今のところそれ ている以上、地方自治体の利益に反するような が成功しているというのが、二つ目のポイント 行動を取りにくい仕組みになっているわけです。 ではなかろうかと思います。 これは言い換えれば、地方自治体のために金融 三つ目のポイントは、地方自治体のための金 サービスを提供するということが使命づけられ 融サービスの提供が使命づけられた機関だとい た制度設計になっているということで、地方自 うことです。当然民間の金融機関もお客さまの 治体からすると安心してコミュンインベストの ためと言うわけですが、一方で、融資先である 言うことを信用できるのです。これがさらにコ 顧客と金融機関の株主の利害のバランスをどの ミュンインベストの評価を高めることにつな ように取るかということが民間の金融機関の場 がっているのではないかと考えられるわけです。 合には重要になります。これに対しコミュンイ コミュンインベストは経営課題も抱えています ンベストの場合には、お客さまである融資先と が、少なくとも市場シェアの一貫した増加がな して地方自治体がいます。そして、その地方自 ぜ起きているのかといった時には、以上の三つ 治体からの利払いなどの手数料収入を得て、そ が重要なポイントなのではないかと私自身は考 こからの利益を配当として株主に還元していま えています(報告資料 p16)。 す。ここまでは民間の金融機関と同じですが、 最後に、本日のタイトルは「 『北欧モデル』か コミュンインベストの実質的な株主は同時にお ら考える」となっていますが、このコミュンイ 客様・顧客である地方自治体なわけです。その ンベストの仕組みは北欧モデルかどうかという ため、お客さまである地方自治体から、短期的 ことです。確かにスウェーデンの仕組みとして July.2013 No.19 13 は極めて重要な仕組み、特徴を有した機関だと の方々と交流し、お話を直接お伺いする大変貴 認識しております。ただ、先ほど江夏様からご 重な機会となりました。 報告がありましたデンマークと比べても、特 この二つの機関については既にご紹介があっ に地方債制度に関しては相当に違いがありま た と お り で す が、 コ ミ ュ ン イ ン ベ ス ト は1986 す。また、ノルウェーの KBN、フィンランドの 年に設立されました。エレブロという一つの地 Muni Fin という組織があり、別の機会にインタ 域の10の自治体が集まり設立し、周辺の自治体 ビューをさせて頂きましたが、これらはコミュ からも加入要請があり拡大していきました。現 ンインベストとは相当に違うという印象を受け 在は全自治体の約 9 割が利用するまでに拡大 ました。実際の制度設計も、自治体の100%出資 し、地方債市場のシェアは約40%という状況で なのか、国が作っている機関なのか、その混合 す。一方、デンマーク地方金融公庫は100年以上 形態なのか、この点だけを見ても全然違います。 の歴史を持つ機関で、現在では全自治体が利用 ですので、本日お話しさせていただきましたコ し、地方債市場においても90%を超える圧倒的 ミュンインベストという組織は、あくまでもス なシェアを持っています。 ウェーデンの特徴なのだということでご理解い これらの機関は、融資業務のほかに対自治体 ただければと考えている次第です。私からは以 向けのサービスとして財務アドバイザリー業務 上です(報告資料 p17)。 も展開しています。一昨年、私ども機構では、 本日の報告者であります三宅様のご協力をいた だき、北欧 4 カ国における地方自治体向け財務 討論 地方公共団体金融機構地方支援部長兼総括主任研究員 緒方 俊則 アドバイザリー業務の調査を実施しました。こ れまでの報告の中にもありましたが、北欧 4 カ 国には自治体向けの資金を融資する機関があり ます。形態は違いますが、いずれの機関でも融 資業務と併せて自治体の財務アドバイザリー業 務を展開しています。共通した背景には、1990 年代頃から金融商品や資金管理手法の多様化・ 複雑化が進み、それぞれの国の自治体において 専門的で自治体の立場も理解したアドバイスへ のニーズが高まってきたということがあります。 具体的な業務内容は 4 機関とも類似性はあり ますが、ここでは今回の調査対象であった コ ミュンインベストとデンマーク地方金融公庫を 挙げます。共通した業務内容として一つ目は、 地方自治体の借入分野に対する中立的な個別ア ドバイス、二つ目は借入分析などをすることが 今 回、 フ ォ ー ラ ム 運 営 委 員 の 1 人 と し て ス できる便利なウェブサイトツールの提供、三つ ウェーデン、デンマークの調査に参加をさせて 目はニューズレターを通じた経済金融情報の提 いただきました。調査対象機関、調査事項につ 供です。こういった業務の他に、コミュンイン きましては討論資料に書いているとおりです。 ベストについては自治体職員向けの出前講座や 私は地方公共団体金融機構に勤務をしているこ 調査研究の実施も一部見られ、サービスは無償 ともあり、とりわけスウェーデンのコミュンイ で提供しています。このようなサービスは、新 ンベスト、そしてデンマーク地方金融公庫につ しい融資先を開拓していく観点で呼び水的な効 きましては、以前からよく名前を聞いておりま 果を狙って行われています。また、このような した。今回実際に現地に行き、関係機関の幹部 アドバイスを実施することにより、自治体の健 14 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 全な財務状況の維持につながり、ひいてはコ いかと思います。こういう観点で、今後の見通 ミュンインベスト自体の事業リスクの管理にも しについて情報やご知見をお持ちであればご教 なるという狙いもあるということです。 示願えればと思います。 デンマーク地方金融公庫については、上記三 また、江夏様へお尋ねします。デンマーク地 つのサービスは無償で提供しているのですが、 方金融公庫は、コミュンインベストと比べ圧倒 この他に有償サービスとして、自治体への定期 的に自治体からの利用があるという状況がござ 的なアドバイスや重要情報の提供を行っていま います。民間金融機関との住み分けがあるので す。この有償サービスは市町村の約 3 割が利用 はないかという話がありましたが、コペンハー しています。 ゲン市につきましては信用力も非常に高いとい このような業務を通じた特徴を三つまとめま うことですので、住み分けがあるにせよ、やは した。一つ目は、地方自治体の立場に立った中 りデンマーク地方金融公庫は対自治体向けに条 立的なアドバイスを実施し、融資業務とは独立 件のいい融資を提供できているのではないかと しているという特徴です。二つ目ですが、地方 も思われます。もしそうだとすれば、コミュン 自治体の業務内容と経済金融市場情勢の双方に インベストとの対比で、デンマーク地方金融公 通じた専門家を組織の中に抱え、このような専 庫には一定の強みがあるということになると思 門家がアドバイスを提供しています。三つ目と いますが、こういった観点で何かお気づきにな して、自ら提供できるサービス範囲を超える部 る点があれば、教えていただきたいと思います。 分については外部専門家と連携し、地方自治体 を包括的に支援しています。当機構におきまし ても自治体向けの財務アドバイザリー業務(こ れは地方支援業務と呼んでおります)に取り組 み始めて現在 4 年目を迎え、北欧諸国機関の取 関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授 小西 砂千夫 組につきましては引き続き情報収集、情報交換 を進め参考にしていきたいと考えています。 最後に、発表者へご質問をさせていただきた いと思います。今回の調査で訪問しましたス トックホルム市とコペンハーゲン市は、いずれ も強い経済力と高い信用力を持った自治体です が、この 2 都市のインタビューは対象的でした。 デンマークのコペンハーゲン市でデンマーク地 方金融公庫に対する評価を聞きますと、低利で 資金調達ができ非常に役に立つ組織だというお 話でしたが、ストックホルム市にコミュンイン ベストの話を聞きますと、利用しておらず当面 利用する予定もないというお話でした。 今日のお二方のご報告を、側面から補強する このような状況をもとに三宅様へお尋ねしま という観点でお話しさせていただきます。実は す。コミュンインベスト自体は規模の拡大を大 偶然、別件で 4 月にブリュッセルの状況を調査 きな目標にしているというお話がありました。 する機会があり、そこでフランスに少し足を伸 そうであるとすればゆくゆくはストックホルム ばしてバンク・ポスタールと CDC という、地方 市の加盟も視野に入れて取組を進めていくので 債の引受けをしている機関で調査をする機会を はないかと思いますが、そのためにはストック 作り、今日のこととの関係について調査をして ホルム市のような資金調達力が高い自治体でも まいりました。そのことをご報告いたしまして、 加盟したくなるような条件の提供が必要ではな 側面から今日のお二人のご報告を補強するとい July.2013 No.19 15 う役割とさせていただきたいと思います。 雰囲気の中で共同調達機関というのがうまくは まず、デンマークとスウェーデンのご報告の まっているという印象ではないかと思うわけで 中で一番大事なところをもう一度復習しておこ す。 うと思います。共同調達機関ということは間違 一方、フランスですが、2 カ所で聞いた際に、 いないのですが、デンマークとスウェーデンは デクシアが 4 割ほど地方の資金調達を担ってい 形態が全然違うんです。 2 国以外にも、いわゆ たということを言っていました。もちろんその るノルディックカントリーというのは他にもあ デクシアは破たんしてしまって、加えて、外国 りますが違うところへ行けば全然違うんです。 の金融機関がどんどん撤退してフランス国内の 制度は歴史的に形成されているところがあるの 銀行もすごく減ったということですので、資金 で全然違うというところはとても面白い。一方 の出し手がデクシアがいなくなるにもかかわら で、ヨーロッパ債務危機が地方債市場に与える ず、代わりの金融機関がいないので、これはも 影響を相当回避できているのは、共同調達機関 う明らかにフランスはかなり影響を受けたんで があったということが要因の一つとして非常に す。 有効であり、民間の銀行だけに調達が偏ってい そのデクシアなき後、どう対応するかとい れば、当然影響はあったということになるわけ うことで、今はバンク・ポスタルと CDC です。 ですから、危機管理の仕組みとして共同調達機 CDC のほうが老舗でバンク・ポスタルはつい最 関というのは機能すると思ったところでありま 近始めました。民間の金融機関の場合は、短期 す。 で調達し長期で貸付するとすれば、市場が不安 それから、デンマークとスウェーデンそれぞ 定になるとスワップが難しくなるので、そこが れで聞き取りをする中で、共同調達機関から見 非常に大きいわけですが、そこで CDC がようや て自治体が安全な貸付先かどうかという議論に くその肩代わりをして、地方公営企業への融資 おいて、建設公債主義というのが出てくるわけ を拡大する方向らしいのです。それと、デクシ です。これが非常に重要だと思うのですが、私 アに代わる新たな公的金融機関というのを作っ がニューヨークでそのことをお話しした時に てそこが資金調達をするそうですから、フラン は、バックドアの借入があるからそんなのは駄 スは共同発行機関ではなく、財政投融資の代わ 目だと言われました。そうすると、同じ建設公 りのようなものを急ごしらえで作るように対応 債主義でもバックドアボローイングがあるかど したということであります。 うかというのは非常に大きいわけですが、それ CDC というのは、そもそも預金の一部を強制 は基本的にないというご説明をデンマーク、ス 的に供託するような仕組みになっているので、 ウェーデンでは伺っていて、これも非常に大き 財政投融資に匹敵するようなものだと考えれば いところではないかと思うわけです。 いいと思います。そこでの聞き取りの中で、フ それと非常に重要なのですが、そもそもそん ランスの自治体は破綻しないことが前提だとい なに借りているわけではないというところで、 うことを聞いてきまして、やっぱり建設公債主 マーケットとして巨大市場ではないんです。建 義というのが出てくるんです。そこでバックド 設公債主義ですから要は日本で言う投資的経費 アボローイングはどうなのかと聞きましたら、 です。投資的経費に対して借りているわけです 「フランスではルールはあるけれども、フランス が、これがどんどん出ているという感じでもな のルールには必ず例外があるんです」と言われ い。そうすると、地方債マーケットというのは るわけです。 「でもこの件に関しては、私は一度 非常にユニークな存在で手堅いビジネスモデル も聞いたことがない」と、しゃれた言われ方を なわけです。規模はそんなに大きくなくて手堅 されました。建設公債主義を厳格に守っている く儲けていただくにはいいマーケットですけど、 ということで、破綻しない実感があるという答 これから大きく伸びていくというマーケット えが返ってきたので、やっぱり同じだなという ではないという感じを受けています。そういう ふうに思いました。 16 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo 人件費の考え方が日本と異なるということも た際に印象的だったのが、コペンハーゲン市が あります。フランスでは、自治体の支払いの中 デンマーク地方金融公庫に対して感謝をしてい で、 1 に人件費、 2 に公債費は絶対削れないと るというようなスタンスだったことです。特に 言われました。 「フランスでは人件費のほうが先 債務負担のところで、開発公社の固定利付債務 に来るのか」とわざわざ聞いたんですけど、「そ を変動債務に借換えする際に協力してもらった うだ」と言われました。建設公債主義である以 という点が大きいとみられます。デンマーク地 上、公債費が優先的でそこが滞るということは 方金融公庫がそのようなきめ細かなサービスが ないというわけです。 できたので、コペンハーゲン市という大きな地 それから財政状況は、事前に財政悪化を防止 方公共団体のコミットメントをきちんといただ しようという国に関する仕組みがあります。共 けたのだろうということです。 同発行はどうなのかというと、自治体間で連帯 実は、コペンハーゲン市はかつて格付けを取 感が十分ないからそもそも共同発行は馴染まな 得していたのですが、2009年に取り下げていた いというんです。連帯保証も難しい。それで、 ことがわかりました。コペンハーゲン市はかつ いわゆる共同調達機関も、文化的・政治的にそ て債券でも資金調達をしていたとのことですが、 もそも共同発行がまとまるような風土がないと デンマーク地方金融公庫から借りることが財政 言われるわけです。 運営上適しているので、格付けは取り下げて、 ですから今日は、ノルディックモデルは多様 対デンマーク地方金融公庫で借入を実施すると で、これはノルディックモデルと言えるのかど いうのがコペンハーゲン市の財政運営の中に根 うかとおっしゃったんですけど、フランスまで 付いたのだろうと察したとのことです。 行って「やっぱり言えるんじゃないかな」と思っ もう一つ印象的だった話ですが、デンマーク たのは、信頼感です。デンマークで「もともと 地方金融公庫に「どうして95%ものシェアを取 やっぱり農業国なので連帯するんです」という ることができたのですか?」という点でお伺い お話がありました。 をしたところ、地方公共団体が民間金融機関と 日本では発行ロットが大きいので、市場公募 もやり取りを行うことがあるとご教示いただき 債、財投、銀行貸付、共同発行債、もちろん機 ました。しかし、実際は条件が合わず、 「デンマー 構もあり、何種類も全部あるわけですね。発行 ク地方金融公庫のほうに行ってください」とい ロットが小さければ、どこかで収まるというこ うふうに言われるということがほとんどとのこ とではないかと思います。共同発行機関は、基 とです。先ほど三宅様のご発表で、民業圧迫の 本的には市場ルールに基づいているというのは、 ようなお話は聞いたことがないとの御指摘があ 日本でも同じことではないかというふうに思い り、私もハッとしたのですが、確かにデンマー ます。こういうふうに考えてみると、フランス クについて調べていても、そういうことは出て も日本も含めて、背景の違いにそれぞれ制度の こないわけです。ですから、理論的には競争相 違いが微妙に対応しているということではない 手でもあるのですが、少なくともデンマークに のかというふうに印象を持ったということであ 関してはもう住み分けができているということ ります。以上です。 で、民間金融機関がデンマーク地方金融公庫を 競争相手としても見ていないということの裏返 しだろうと感じました。以上でございます。 報告者リプライ ○三宅 ストックホルム市とコミュンインベス トの関係ということでご質問いただきましたが、 ○江夏 私のほうからは、緒方様からいただき 端的に言えば、コミュンインベストはストック ましたデンマーク地方金融公庫の強みというと ホルム市に入ってほしい、逆にストックホルム ころで、若干補足をさせていただければと思い 市はコミュンインベストに入る気はさらさらな ます。コペンハーゲン市に訪問させていただい い、そういうふうな関係です。 July.2013 No.19 17 ストックホルム市はなぜなのかというと、少 とって魅力的な金融機関になろうということを、 なくとも現状では自分でなんとでもなるからだ 金融機関は通常行っています。 ということであります。ではコミュンインベス では、デンマーク地方金融公庫も含めてコ トの立場から見た時にどうなのかというと、彼 ミュンインベストがそれをできるのかと言われ らが発表する資料などでも、今後の事業計画、 ると、これが難しいわけです。実際には、融資 事業目標という中で、すべての団体がゆくゆ 額についてはそれなりの格差を設定するとい くは加盟団体、つまりコミュンインベストのグ うことはやっておりますが、金利格差の設定に ループのメンバーになってほしいということを ついては、コミュンインベストでは市場原理に 目標として常に掲げています。それは言い換え 則った運営を心掛けていると強調しておられま れば、ストックホルム市にも当然入って欲しい したが、やっぱりそれでも難しい。ですので、 ということです。理由は、彼らの事業規模が拡 基本的には格差を設定しないという方針を維持 大でき、それによってさらに効率化を進めるこ せざるを得ないのです。 とができ、地方債市場におけるプレゼンスが高 つまり、コミュンインベストがいくら財政規 まるからだという考えがあるわけです。 模も大きく財政状態がよいストックホルム市に では、具体的にコミュンインベストはどうい 入ってほしいと言っても、民間金融機関であれ う取り組みをしているのかというと、それはな ば低い金利を設定するということで柔軟に対応 かなか難しいというのが、お答えになろうかと できるわけですが、それがコミュンインベスト 思います。共同発行という話になった時に、ど には難しい。これが、ストックホルム市がコミュ うしても大規模団体はあまり参加したがらなく ンインベストのグループに加盟することの一番 て、中小の団体は積極的に参加したい、あるい の障害になっています。また、これを克服する は、財政状態が健全なところは参加したがらな のは少なくとも政治的に大変難しい。これが、 いけれど、財政状態が厳しいところは参加した コミュンインベストがストックホルム市に振ら がる、こういったモラル・ハザードが起こると れ続けている、一番の要因としてあるんだろう いうことが一般論として指摘されています。た というふうに思います。以上でございます。 だ、少なくとも理論的に考えた時には必ずしも そういうことが常に起こるというわけではない ということも、併せて留意する必要があります。 質疑応答 例えば一般の銀行をイメージしていただくと、 銀行というのは大企業にも融資をしていますし、 ○質問者 1 江夏様には、デンマーク地方金融 中小企業にも融資をしています。経営が絶好調 公庫と自治体との関係における、95%の圧倒的 だというところにも融資していれば、そうでも なシェアの中でのドライな側面としての個別融 ないところにも融資をしている。しかし、これ 資 相 手 先 と の 関 係 に つ いて、 三 宅 様 に は、 ス は見方を変えれば、様々な事業会社が銀行を通 ウェーデンの地方財政制度の中でのコミュンイ じ、家計などから預金という形で共同の資金調 ンベストの存在はどういう位置づけなのかとい 達を行っているわけです。それに対してモラル・ う、2 点をお聞きしたいと思います。 ハザードが起きるという事態、あるいはそうし ○江夏 デンマークの地方公共団体とデンマー た批判は起こらないわけです。なぜこれが可能 ク地方金融公庫がドライな関係かウェットな関 になっているかというと、銀行が各融資先にお 係かということで、今回の調査は、デンマーク 金を貸す時の貸付条件に格差を設定することが の地方公共団体についてはコペンハーゲン市と できるからです。その端的な例が金利の格差で、 いう代表的な地方公共団体のみでしたので、仮 それによって融資先のリスク管理を行うのです。 に規模の異なる地方公共団体へ伺っていれば 利用条件に格差を設定することによって、いろ 違ったことを感じていたかもしれないと思って んな融資先に資金を貸し付け、それぞれの先に おります。ただ、私どもの調査で感じたことと 18 Graduate school of Economics, Faculty of Economics The University of Tokyo いうのは、ドライ、ウェットというより別の関 れば貸出の期間を短くしないといけない一方で、 係だろうというところです。私自身は、普段か 地方公共団体は建設公債主義が中心となりなが ら地方公共団体金融機構、地方公共団体とお仕 らも日本では公共施設の耐用年数は償還年限30 事上でかかわらせていただいておりますが、双 年ということになっていますので、この場合貸 方がお互いについてお話をされるそのトーンと し辛くなるということも言えますが、その一つ 比較的似ていると感じました。ですから、ドラ の結果としてこの図にあるように民間金融機関 イかウェットかというよりも、一番近いところ のほうが落ちてコミュンインベストのほうが伸 というのは日本の関係とそれほど変わらないの びているというようなことかと思います。貸出 ではないかという印象を受けたということにな 状況に関して、日本ではJGBスプレッドなどが ります。以上でございます。 ありますが、スウェーデンでも対国債スプレッ ○三宅 スウェーデンの地方財政の運営の中に ドの点で、長期、超長期あたりについてが描か おけるコミュンインベストの位置付けというこ れているのかどうか、聞かせてください。 とですが、国は地方自治体の地方債の発行を助 ○三宅 スウェーデンの地方債市場における銀 けてあげるためにコミュンインベストを創設・ 行のシェアが低下している要因についてのご質 運営しているわけではなく、何かの支援をして 問ですが、もちろんBIS規制の影響がないと申 あげているわけでもなく、それゆえ地方財政の し上げるつもりはございませんが、銀行として 仕組みとはかなり距離を置いてコミュンインベ は基本的に自治体には融資をしたいというのが、 ストは運営されていると、私自身は理解してお BIS規制導入後も一貫してあると言ってよいんだ ります。スウェーデンの地方債の発行の仕組み ろうと思います。スウェーデンに関しましては、 を見ても、ほかの諸国と比べても、相当に起債 地方債の年限は短く 5 年以内の年限が中心に 自主権が幅広く認められています。ですので、 なっております。もっとも、今回の金融危機を 地方債を発行する方法については国がバック 受けてその年限は長期化が図られました。報告 アップしているわけでもありませんし、法律や の中でも、流動性危機が地方債市場にも大きな ルールを作っているわけでも決してなく、地方 影響を与えたと申し上げましたが、その流動性 自治体が自由に好きなように発行することがで 危機によって短期資金の調達が難しくなり、大 きているわけであります。その中で自然発生的 変な状況に陥ってしまったということで年限を に出てきた一つの工夫がコミュンインベストな 長くしようという取り組みが、金融危機を経て のです。ですので、例えばデンマークのように 一つの教訓として行われました。 地方自治体の予算編成と密接にリンクしていた ですので、民間の銀行にとっても、地方自治 り、国と地方との協議の場が毎年設けられてい 体向けの融資が年限を理由にものすごく難しい るというようなことがスウェーデンにはないで ということにはなりにくいと考えられます。銀 すし、当然そういう制度の中にコミュンインベ 行は、地方自治体向け融資は、安全性という意 ストが位置付けられているわけではありません。 味できわめて有望な貸付先だと考えております ということで、冒頭に申し上げましたように地 ので、BIS規制の導入に関係なく貸したいという 方財政の運営とコミュンインベストというのは、 のがあります。でもコミュンインベストに負け 相当の距離感があり、それがスウェーデンの特 てしまうというのが、この図の理解として私が 徴かなというふうに理解しております。以上で 現時点で理解しているところです。スプレッド ございます。 に関しましてはデータがございませんので、ご ○質問者 2 三宅様の資料15ページは非常に興 容赦願えれば幸いです。以上でございます。 味深いグラフだと思いますが、この事情という ○質問者 3 コミュンインベストやデンマーク のは、いわゆるBIS規制が大きく効いてきている 地方金融公庫の貸出シェアが伸び、貸付が差別 ような側面はあるのかどうかということと、仮 化されている要因としてはおそらく、金融機関 にBIS規制が影響している場合、金融機関であ が金利変動リスクを取りたがらない変動金利貸 July.2013 No.19 19 出をしていることと、もう一つは預貸ギャップ 意味では短い期間になりますが、基本的にはそ の大きさが影響しているのではないかと思いま の借換えに応えていくので、そういう意味で長 す。日本の場合は預貸ギャップが大きいため、 期的にコミットしていくという関係にあろうか 無理して自治体など金利リスクを受けるところ と思います。 に貸していこうというようになっていますが、 彼らの資金調達での年限に関して言えば、こ 江夏様のお話では、デンマークは家計部門の貯 れは同じく 5 年より短いかというとそういうわ 蓄率が高くないということなので、預貸ギャッ けではなく、長期の資金調達も彼らは行ってお プがないから金融機関が自治体に無理に貸さな ります。では、彼らのALM上のリスク管理はど くてもいいということがあるのかなと思いまし うなっているのかというと、その年限のギャッ た。スウェーデンにおける預貸ギャップや家計 プは相当に埋められております。というのは、 の資本蓄積はどうなのかということについて言 彼らが調達した資金を様々な金融手法、すなわ 及いただければと思います。 ちデリバティブなどを使ってリスク回避を行っ ○三宅 預 貸 ギ ャ ッ プ の 管 理 に つ い て は、 コ ている結果、少なくとも資産と負債の平均年限 ミュンインベストは相当に頑張っています。貸 はほぼ一致しています。ですので、自分たちに 付期間というのは、先ほども申し上げた通り 5 とって有利な資金調達機会を考えながら、貸出 年ないしそれよりも短いぐらいの期間でやって は短い年限でせざるを得ない、変動金利でやら おりますが、そもそものビジネス・モデルとし ざるを得ないというところのギャップは、こう て地方債市場に専門・特化するというのがあり したかたちで管理しているというふうに見てい ますので、確かに 1 回きりの融資の期間という いのではないかと思います。 寄付講座の組織・機構 ◆ 東京大学大学院経済学研究科寄付講座運営委員会 井堀 利宏 (東京大学大学院経済学研究科教授) 馬場 哲 (東京大学大学院経済学研究科教授) 林 正義 (東京大学大学院経済学研究科准教授) 持田 信樹 (東京大学大学院経済学研究科教授) ◆ 地方公共団体金融機構寄付講座フォーラム運営委員会 稲生 信男 (東洋大学国際地域学部教授) 江夏 あかね (株式会社野村資本市場研究所研究部主任研究員) 緒方 俊則 (地方公共団体金融機構地方支援部長・総括主任研究員) 小西 砂千夫 (関西学院大学大学院経済学研究科・人間福祉学部教授) 遠松 秀将 (東京都財務局主計部公債課長) 三富 吉浩 (川崎市財政局財政部担当部長) 持田 信樹 (東京大学大学院経済学研究科教授) 20 ◆ フォーラム運営委員会事務局(※は事務局長) 青木 世一 (財団法人地方債協会企画調査部副参事) ※天羽 正継 (高崎経済大学経済学部講師) 石橋 美秀 (地方公共団体金融機構地方支援部調査企画課主査) 東 京 大 学 大 学 院 経 済 学 研 究 科 ・ 経 済 学 部 ౷ ༷ ވ౬ ఘ ߄ ဏ ࣒ ັ ܙ ࢹ ܥजȁ Σ ν Ȝ Β τ Η Ȝ ల!2: 2013 ᐕ 7 ٨٨ᣣ⊒ⴕ ޥ113-0033᧲ޓ੩ㇺᢥ੩ᧄㇹ 7-3-1⚻ᷣቇ⎇ⓥ⑼ 7 㓏 709 ภቶ ࡈࠜࡓㆇ༡ᆔຬળോዪޓ tel 03-5841-5598 fax 03-5841-5521 ነઃ⻠ᐳࡎࡓࡍࠫ http://www.e.u-tokyo.ac.jp/kifu/jfm.html