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water-soluble extracellular po
平成25年度 博士学位論文 DBA/2 マウスにおける致死的 CAWS 血管炎の 発症機序に関する研究 研究分野 生化学 紹介教授 大野 尚仁 学位申請者 平田 尚人 !"#$% マウスにおける致死的 &#'( 血管炎の発症機序に関する研究) ) ) ) ) ) ) ) ) 研究分野 生) 化) 学) ) ) ) ) ) ) ) 紹介教授 大野 尚仁) ) ) ) ) ) ) ) 学位申請者 平田 尚人) ) 世界保健機関(WHO)の統計では,2008 年の全世界における死因の上位は,虚血性心疾患(12.8%) と脳血管障害(10.8%)となっており,循環器系疾患は全人類にとっての脅威である.これら循環器系 疾患の病因研究をはじめとして,治療法および新規薬物の開発,治療プロトコールの検討では,基礎 的研究と前臨床段階での優れた動物モデルを用いた解析が不可欠である. 川崎病患者の糞便中から分離された病原性真菌 Candida albicans 菌体抽出成分 (CADS) が川崎病に 類似したマウスの冠状動脈炎を起こすことが 1987 年に報告され,病態モデルとして着目された.さら に,C. albicans の培養上清から得られる可溶性多糖画分 ( Candida albicans water soluble fraction; CAWS) にも類似の活性が見出され(CAWS 血管炎) ,中でも DBA/2 マウスに対して,著しく強い血管炎誘発 作用と致死毒性があることが報告された. CAWS 血管炎は川崎病に代表される血管炎の動物モデルと して解析されてきたが,DAB/2 マウスのみに認められる強力な致死毒性および血管炎の発症機序につ いては未だ十分に解析されておらず,不明な点が多く残されていた. 本研究では,DBA/2 マウスにおける致死的 CAWS 血管炎の病態と発症機序について検討するため, 病理組織学的視点(第 1 章)ならびに,循環器系疾患モデルとしての視点(第 2 章)から解析を行っ た.さらに,CAWS の活性本体であるマンナン構造の特徴,および糖鎖構造と血管炎発症の構造活性 相関(第 3 章)について検討した. 第1章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴 CAWS 投与後 1 週毎に心血管組織の切片を Hematoxylin and Eosin (HE) 染色し,既報の 100%致死量に おける心血管病変の病理組織像の 経時的変化を観察した. そ の 結 果 , DBA/2 マ ウ ス で は CAWS 投与後の初期段階から炎症 性細胞が集積して血管炎が惹起さ れ,3∼4 週間のうちに著しい血管病 変が形成された(Fig. 1).CAWS 血 管炎は単に大動脈病変にとどまら Fig.1 DBA/2 マウスの CAWS 血管炎で大動脈弁周囲及び冠動 ず,重度の冠動脈起始部病変と大動 脈開口部に認められる血管病変の発症および進展の過程 脈弁病変を伴っていた.また,血管 ) 病 変 の 膠 原 線 維 を Elastica Van Gieson (EVG) で染色すると,中膜弾性板が 破壊されており,炎症性細胞の細胞外マト リックス構造への浸潤が観察された.さら に電子顕微鏡を用いた観察によって,顆粒 球系細胞が弾性線維を突破して浸潤する 様子が観察された.血管病変は CAWS 投与 後 4 週程度でその進展はほぼ停止したが, DBA/2 マウスの致死毒性は 5∼6 週目付近 Fig. 2 DBA/2 マウスにおける CAWS 投与後の生存率 (Kaplan-Meier 曲線) から認められ,その後数週間以内に CAWS 投与群の 100%が死亡した(Fig. 2).この ! 致死毒性は,CAWS 血管炎を発症する他の系統(C57Bl/6 や BALB/c など)と比較しても著しく強いた め,DBA/2 マウスに認められる強力な致死毒性は,血管炎のみでは説明が困難であった.マウスが死 亡するまでには,血管病変が完成してから更に数週間を要することから,血管病変のため慢性期に何 らかの循環器疾患を合併し,心機能異常や不整脈によって突然死した可能性が高いと考えられる. 第2章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析 C D Fig. 3 DBA/2 マウスの CAWS 血管炎で認められる左心肥大と大動脈弁病変および左室機能不全! DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では,著しい脾腫とともに心肥大を認める. 特に心肥大は大動脈炎 や冠動脈炎に伴う心疾患の合併を示唆するものと考えられるため,心臓の構造的・機能的変化に着目 した.CAWS 血管炎の大動脈周囲および大動脈弁,および心筋組織の病変部についてさらに詳しく解 析すると,炎症性細胞の浸潤は大動脈弁の弁尖肥厚と大動脈弁口の狭小化を来たしており,さらに炎 症性細胞の集積により左室流出路(LVOT)の高度狭窄を生じていることが判明した(Fig. 3-A,B 矢印) . したがって,CAWS 投与後の心肥大は,大動脈弁狭窄と LVOT 狭窄が主要な原因であり,左室に過 剰かつ持続的な圧負荷をかけ続けた結果,左室の求心性心筋肥大を誘導したと考えられた.一方で, 死亡直前の心臓超音波エコー検査では,遠心性心筋肥大を伴う著しい左室収縮機能の低下が観察され た(Fig. 3-C,D).これは,CAWS 血管炎の冠動脈病変によって,肥大した左室心筋全体が重篤な虚血 に陥り,拡張相様の遠心性左室肥大に移行したと考察される.更に遠心性左室肥大により,急激な左 室機能低下を来たし,心不全死あるいは致死的不整脈による突然死が誘発されたのが致死毒性の主な 要因と考えられる.また,心不全の診断に広く臨床応用されている B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP) の mRNA 発現は,CAWS 投与群の心筋細胞において顕著に亢進しており,血管病変に伴う心臓への過 負荷が心筋細胞レベルでも確認された. 第3章 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構 造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関 に関する検討 CAWS は,樹状細胞やマクロファージの表 面に多く発現している C タイプレクチン様受 容体(CLRs)の dectin-2 に結合し,自然免疫 系を活性化させる. Dectin-2 は CAWS のα マンナン構造をリガンドとして認識するこ とが判明している. マンナン構造は動物の Fig. 4 CAWS の各種レクチンに対する結合活性! ! 結合組織を構成する糖タンパク質にも含ま れているため, CAWS の糖鎖と生体成分の 構造類似性が自然免疫系を撹乱し,自己抗原 に対する反応性が誘導される可能性がある. そこで,CAWS および生体を構成する糖鎖構 造を比較するとともに,CAWS の糖鎖構造と 活性の相関について検討した.糖鎖構造の解 析には,様々な種類のレクチンと糖鎖の結合 性を網羅的に解析するレクチンアレイを応 用した手法を用いた. Fig. 5 標識ラミニンと各種レクチンとの結合に 対する CAWS の競合活性! CAWS の糖鎖プロファイリングでは, PSA, LCA, NPA, ConA, GNA, HHL, 並びに UDA に 強く結合した(Fig. 4).これらは Į マンナンの high-mannose 構造を認識して結合するレクチンであり, CAWS の糖鎖は Į-マンノース(Man)を多く含有していることが確認された.さらに,細胞間マトリ ックスを構成する糖タンパク質であるラミニンに結合した糖鎖と CAWS のレクチン結合における競合 作用について検討した.その結果,主に high-mannose タイプの糖鎖を認識するレクチンとの結合で CAWS はラミニンの糖鎖に競合した(Fig. 5) .これらの結果から,CAWS は炎症応答およびリモデリ ングの過程で,high-mannose タイプの糖鎖を介した相互作用を誘導する可能性があることが示された. 次に, C. albicans を種々の条件で培養し,CAWS 様多糖を調製して活性を比較した結果に基づき,pH 7.0,27℃条件下で得られた多糖 (CAWS727) につい て検討した. その結果,CAWS727 では血管病変が 認められず(Fig 6) ,サイトカイン産生能は弱く,致 死毒性は認められなかった. CAWS と CAWS727 の構造について 2 次元 NMR を用いて解析すると, CAWS727 においてαMan シ グナルの減弱とβ-1,2-Man シグナルの増強が確認さ Fig.6 DBA/2 マウスにおける CAWS および れた.この傾向はレクチンアレイの解析においても CAWS727 投与後の心血管組織の比較! 同様であった. Dectin-2 のリガンドである αMan 構造にβ-1,2-Man 残基が付加された ことより,CAWS と dectin-2 の親和性が減 弱し,活性が低下したと推察される. また,CAWS 刺激による TNF-α産生を CAWS727 は濃度依存的に抑制し,かつ血 管炎を抑制する cytokine である IL-10 の産 生には影響を与えなかった.この結果より Fig.7 DBA/2 マウス脾臓細胞での IL-10 産生と CAWS727 CAWS 727 は CAWS の作用に競合するのみ の CAWS に対する抗炎症活性! でなく,血管炎に対して抗炎症作用を有し ていることが示唆される(Fig.7). 総括 本研究は DBA/2 マウスの CAWS 血管炎モデルが急性期の血管炎モデルである(第 1 章)とともに, 慢性期には心不全を合併する循環器疾患モデルとしても有用である事を示唆している(第 2 章) . 更 に CAWS 血管炎の発症には dectin-2 のリガンドであるαMan の high-mannose 構造が重要であり,結合 組織中の糖タンパク質の high-mannose 構造と交差反応して血管炎が進行する要因になっている可能性 を示した.一方で,βMan の付加により,血管炎誘導活性は著しく減弱し,CAWS の TNF 産生を抑制 して抗炎症作用を示すため,血管炎治療薬の開発にも繋がる可能性がある(第 3 章) . CAWS 血管炎 は容易な手技で作成が可能であり,血管炎と慢性心不全の合併により一定期間を経てから急激に生存 率が低下し,未治療では全例が死亡する.この特徴は血管炎や心不全の治療効果を生存率で比較する 場合に極めて有用で,高精度の判定が可能な優れた循環器疾患の動物モデルであると考えられる. 【研究結果の掲載誌】 1) Yakugaku Zasshi. 126:643±650, 2006. 3) 医学と生物学.157,123-133,2013. 2) Int J Vasc Med., ID: 570297, 2012. DBA/2 マウスにおける致死的 CAWS 血管炎の発症機序に関する研究 平田 尚人 目次 page 1 緒論 第1章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴 6 実験の部 7 第1節 CAWS 血管炎における経時的変化の病理組織学的特徴 9 第2節 血管炎病変における膠原線維の観察と電子顕微鏡による微細構造, 12 および炎症細胞の観察 第3節 第2章 CAWS 血管炎マウスの体重・脾臓重量の変化と生存率の観察 14 考察 16 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析 19 実験の部 20 第1節 CAWS 血管炎完成後の心臓組織・心筋細胞の解剖組織学的特徴 22 第2節 CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査および 26 B 型ナトリウム利尿ペプチドによる心機能の評価 1. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査 26 2. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの B 型ナトリウム利尿ペプチ 29 ドによる心機能の評価 第3章 考察 31 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関 35 に関する検討 37 実験の部 第1節 Cy3 標識した CAWS とラミニン(laminin)の糖鎖プロファイリング 41 とレクチンアレイにおける競合性の検討 1. Cy3 標識 CAWS のレクチンアレイ結合性 41 2. Cy3 標識ラミニン(laminin)のレクチンアレイ結合性 43 3. Cy3 標識ラミニンのレクチンアレイ結合に対する CAWS との競合 45 性 第2節 CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較,および NMR スペクトルの比較検討 47 1. CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較 47 2. CAWS および CAWS727 の NMR スペクトルの比較検討 50 第 3 節 マンナン構造の相違による活性の相関と CAWS727 の炎症抑制メカニズ 51 ムについての解析 1. CAWS および CAWS727 による TNF-Į 産生量の比較 51 2. CAWS および CAWS727 による IL-10 産生量の比較と CAWS727 に 52 よる抗炎症作用の検討 第 4 節 レクチンマイクロアレイを用いた CAWS と CAWS727 のエピトープ構 53 造の分析 考察 56 総括 61 謝辞 66 発表論文 67 引用文献 68 EVG:Elastica Van Gieson 略語 FS:fractional shortening ACC:American College of Cardiology Fuc:fucose ACE:angiotensin converting enzyme HE:Hematoxylin and Eosin ADL:activities of daily livings LCA:left coronary arteries AHA:American Heart Association LCWE /LCCWE:Lactobacillus casei cell wall AMI:acute myocardial infarction extract ANCA LV:left ventricle : anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody LVOT:left ventricular outflow tract ANP:atrial natriuretic peptide LVEF:left ventricular ejection fraction ARB:angiotensin Ⅱ receptor blocker Gal:galactose AS:aortic stenosis Glc:glucose BMDC:bone marrow-derived dendritic cell GlcNAc:N-acetylglucosamine BNP:brain (B type) natriuretic peptide hANP:human atrial natriuretic peptide BSA:bovine serum albumin HCM:hypertrophic cardiomyopathy Ca:calcium HOCM:hypertrophic obstructive cardiomyopathy CADS: C andida albicans -derived substances IL:interleukin cAMP:cyclic adenosine monophosphate KO:knock out CAWS: C andida albicans water soluble Man:mannose CK:creatine kinase MBL:mannose-binding lectin CRP:C-reactive protein MBP:mannose-binding protein DC:dendritic cell mRNA:messenger RNA dHCM:dilated phase of hypertrophic cardiomyopathy NMR:nuclear magnetic resonance fraction OMI:previous (old) myocardial infarction CLR:C-type lectin receptor QOL:quality of life CRD:carbohydrate recognition domain RAA:renin-angiotensin-aldosterone cDNA:complementary DNA RNA:ribonucleic acid CHCC:Chapel Hill Consensus Conference TLR:Toll-like receptor Cy3:Cyanine dyes 3 TNF:tumor necrosis factor Dd:end-diastolic dimension UCG:ultrasonic cardiograp DNA:deoxyribonucleic acid Ds:end-systolic dimension ECG: "#"$%&'$(&)*'+&(, EF:ejection fraction ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay EMCV:encephalomyocarditis virus ! 緒論 世界保健機関(WHO)の統計によると 1) ,2008 年の全世界における死因の上位は,虚 血性心疾患(12.8%)と脳血管障害(10.8%)であり,治療法や予防医学の発展にもかかわ らず,長年にわたり死因の最上位を堅持している(Table1).循環器疾患は全人類にとって の脅威であるとともに,その治療に膨大な医療資源が投入され,医療経済学的にも多大な 影響を与えている.これら循環器疾患の病因研究をはじめとして,治療法や新規薬物の開 発および治療プロトコールの検討では,大規模臨床試験によるエビデンスの集積のみなら ず,基礎的研究と前臨床段階での優れた動物モデルの存在が不可欠である. !"#$%1 世界の死亡原因トップ10& ! 近年の研究成果は,動脈硬化症や心筋梗塞後の心機能低下で,炎症性細胞の活性化や集 積が病変の進行に重要な役割を示し,持続的な慢性炎症に伴って心血管組織のリモデリン グ(remodeling)と称する病的な構造変化が誘導されることを 示している 2) .動脈硬化の 発症と進展では,血管内皮細胞の障害と活性化マクロファージの血管壁浸潤 および酸化 LDL コレステロールの貪食による泡沫化が認められる 3) .また,動脈硬化症の病理学的特 徴として観察される石灰化病変は慢性炎症の終末像の一つであり,臨床でも高感度 CRP (hsCRP)などの炎症マーカーを動脈硬化の指標とすることの有用性が 示唆されている 4) .さ らに心血管系の感染症と免疫応答の関与が示唆されている 疾患として,急性心筋炎や心外 膜炎,そして血管炎(血管炎症候群)があげられる.血管炎の多くは難治性で発症原因が 不明であるが,その中でも特に我が国において世界に先駆けて研究が進んだ血管炎に川崎 病がある 5) . 川崎病は 1967 年,当時日本赤十字社医療センターの小児科医であった川崎富作氏が自 験例の 50 症例を解析・検証し, 「急性熱性皮膚粘膜淋巴(リンパ)腺症症候群」として発 表したのが,最初の文献報告である ! 6) . その後も日本を中心としたアジア諸国での 症例 -! 報告が相次ぎ,後に川崎病(Kawasaki Disease; KD)との名称が定着するに至った.この 疾患は大部分の患者が幼少期に発症し,全身の中小動脈に難治性の炎症性病変を形成する 特徴がある. 報告当時の予後については 1967 年から 1971 年の集計で,1857 例中 26 例が 死亡し,死亡率は 1.4%であった.当時,患児の死亡原因は不明であったが,発症後およ そ 30%の患者で後遺症としての冠動脈拡大や冠動脈瘤を合併するため,冠動脈合併症の有 無が川崎病の予後に大きな影響を与えることが明らかとなった 7) .我が国における川崎病 の罹患数については 1980 年代以降,毎年 5,000∼6,000 名程度が報告され,診断技術の向 上に伴い患者数は増加しており,2004 年以降は 10,000 名を超える症例が毎年報告されて いる 8) . 川崎病の原因については未だ不明であるため,川崎病を含めた血管炎症候群の動物モデ ルの存在は,血管炎の病態解析およびその治療法の開発に有用である.1987 年に川崎病患 者の糞便中から分離された C andida albicans 菌体の抽出成分(CADS)をマウスに投与すると, 川崎病に類似した冠状動脈炎を起こすことが報告された 9) .その後, C . albicans 菌体培養 上清の可溶性多糖画分( C andida albicans water soluble fraction; CAWS)には,DBA/2 マウス 等の高感受性マウスで,強い血管炎誘発作用と致死活性があることが本学 薬学部免疫学教 室との共同研究にて報告された 10, 11) .CAWS を DBA/2 マウスに投与すると大動脈弁周囲 ならびに冠状動脈起始部に血管炎を生じる(CAWS 血管炎)12) . これまでの研究で,CAWS の主成分は Fig. 1 の如く mannoprotein である事が判明しており 13) ,CAWS をマウスに静脈 内投与すると急性致死毒性を示し,腹腔内投与では大動脈基部および大動脈弁周囲,冠動 脈近位部を中心に激しい血管炎を惹起すること,これらの活性にはマウスの系統間で著し い相違が認められることが判明している 10-14) .CAWS 血管炎は川崎病をはじめとする血管 炎症候群の病理組織像と病態をよく反映する動物モデルとして解析されてきた.しかしな がら,DAB/2 系マウスのみに認められる慢性期の強力な致死毒性については不明な点が多 い.DAB/2 マウスの激しい血管病変には何らかの心血管系合併症が潜んでいる可能性があ り,単に血管炎の動物 モデルのみならず,循 環器疾患の動物モデル としても有用である可 能性がある.したがっ て,DBA/2 マウスに発 症する血管病変の形成 過程を詳細に解析し, 血管病変が DBA/2 マウ スの生態に与える影響 を精査する必要がある. '()*&+ ,-./ の基本構造 & ! .! 心血管病変に合併する慢性的で 致死的な病態の代表例としては慢 性心不全があげられる.慢性心不全 は虚血性心疾患や弁膜症,心筋症や 心膜炎など様々な心血管病変を契 機として発症する終末的な病態と 考えられている.慢性心不全は, 慢 性の心筋障害により心臓のポンプ 機能が低下し,末梢主要臓器の酸素 需要量に見合うだけの血液量を絶 対的にまた相対的に拍出できない '()*&0 心不全患者の自然経過と心機能の推移& 12%34)2("5%&67&%8&"$*&-9&:&,"45(3$*&0;;<=>?@ABCC$DE++1F+G1*& 状態であり,肺,体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態 定義されている 15) と .慢性心不全は徐々に進行しながら代償期から非代償期へ移行し,心不 全患者は時に急性増悪のため入退院を繰り返しながら次第に心機能が低下してゆく( Fig. 2). 心不全の分類はその原因や病態,病期,自覚症状などによって様々な分類方法があり, ニューヨーク心臓協会が提唱した NYHA 分類 16) は自覚症状をもとに心不全の重症度を分 類したもので,労作時呼吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大 ,食欲不振等の 症状で分類し,簡便であるため日常臨床でよく用いられている.心不全患者ではこれらの 症状が出現して生活の質的低下(Quality of Life;QOL の低下)が生じ,特に NYHA Ⅲ度 以上では,日常生活に支障をきた すほどに QOL は著しく障害され る.末期心不全では一般に薬物治 療抵抗性を示し,慢性腎臓病や呼 吸不全に伴う低酸素状態がさら に心負担に拍車をかけ,やがては 大量の利尿薬や最終手段の静注 カテコラミン類の投与にも抵抗 性を示すようになる.慢性心不全 の生命予後は極めて悪く,NYHA Fig. 3 心不全患者の予後 CASE-J (Candesartan Antihypertensive Ⅱ度以上の心不全は,進行がんと Survival 同等もしくはそれ以上の予後不 Evaluation in Japan)ホームページより引用 良状態であり,致死的不整脈によ ! る突然死の頻度も高い(Fig. 3). 慢性心不全の薬物治療では,QOL の改善と生命予後の改善を主目的として,レニン -ア ン ギ オ テ ン シ ン -ア ル ド ス テ ロ ン ( RAA) 系 の 抑 制 薬 で あ る ア ン ギ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素 /! (ACE)阻害薬, あるいはアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬( ARB)による血管拡張療法 や利尿薬,β受容体拮抗薬等 を組み合わせながら,ほぼ全 例で複数の薬剤を長期にわ たって継続する必要がある. 米国の循環器関連学会 (AHA/ACC)の心不全治療 ガイドラインでは 17) ,心不 全のステージ分類で予防医 学を重視し,高血圧や糖尿病, 肥満などの心不全危険因子 に着目して,危険因子が 1 つでもあれば,たとえ心機能 が正常,あるいは無症状であ Fig. 4 っても心不全の Stage A と分 AHA/ACC 心不全治療ガイドライン・日本循環 類し,発症前から積極的な医 器学会心不全治療ガイドラインをもとに作成! 心不全のステージ分類と治療薬の関係 学・薬学的介入をすべきとの 指針が作成されている(Fig. 4).心不全患者の予後はこれらの多剤併用療法の適正使用と 治療技術の進歩により確実に延長した.したがって,日常臨床の心不全管理に おいては, 薬剤師の役割は非常に重要であるといえる. 現在,臨床現場で行われている心不全の治療は,多数の前向き大 規模臨床試験を経て, 膨大なエビデンスの集積から効果が立証され,ガイドライン等で推奨された薬物群や治療 プロトコールである. 1 つの試験には数百∼∼数万人規模の患者が参加し, QOL の改善 と生命予後の改善は心不全治療で最も重要なアウトカムと位置づけられている.我が国で も,薬剤師自らが積極的にエビデンスを構築しようとする試みが進行中であるが,実地臨 床のレベルで,薬剤師単独では前向き臨床試験のデザインや実施,臨床データの解析には 障壁があり,法的にも基礎医学知識の点でも,医師の協力がないと試験の継続は極めて困 難である.その点で,優れた循環器疾患の動物モデルは,前臨床段階の基礎研究と臨床の ギャップを埋める橋渡し的な存在として非常に重要な役割を担う. さらに,CAWS 血管炎モデルを前臨床段階での研究に応用する場合,心血管系合併症の 精査とともに血管炎の発症機序についての基礎的検討は不可欠である.CAWS は真菌由来 の PAMPs (pathogen-associated molecular patterns)の一種であり,CAWS の活性中心である mannoprotein は自然免疫受容体の dectin-2 によって認識されることが西城らによって明ら かにされている 18) .しかし,CAWS の活性中心である mannoprotein を構成する糖鎖の構造 は非常に複雑で,その解析はまだ十分でないため,糖鎖構造を推定するために複数の解析 手法を組み合わせる必要がある.さらに,血管病変の進展は主に細胞外マトリックス構造 0! で起きていることから,宿主の結合組織を構成する糖鎖と CAWS の糖鎖の構造を比較し, 構造類似性や糖鎖認識における相互作用を解析することは,血管炎の進展機序の解明に重 要と考えられる.一方で,CAWS の糖鎖構造と血管炎誘導能をはじめとする 生物活性は C . albicans の培養条件によって著しく変化することが判明して いる. C . albicans はヒトの 常在真菌であるとともに,感染症の原因にもなる微生物であるため,微生物由来の成分が 血管炎の原因となりうる生育環境の条件についても,重要な手がかりが得られる可能性が ある. 本研究では,CAWS 血管炎の発症機序を解明し,血管炎および循環器疾患モデル動物と しての特徴を明らかにする目的で,まず病理組織の詳細な解析を行うとともに,DBA/2 マ ウスのみに認められる致死的 CAWS 血管炎の発症過程について経時的に解析した.特に DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では,循環器疾患を合併して心不全の病態に陥るという仮 説を立て,病態の解析と CAWS 血管炎の発症メカニズム解明を目的として実験を計画した. 第 1 章では,CAWS 血管炎における血管病変を病理組織学的に評価し,血管炎の発症 から 経時的な進展過程を詳細に解析した. さらに第 2 章では DBA/2 マウスのみに観察される 強力な致死毒性について,心機能の面から解析を加え,循環器疾患モデルとしての有用性 について検討した. さらに,第 3 章では,CAWS 血管炎の発症機序を解明する目的で, CAWS の 糖 鎖 構 造 を 詳 細 に 解 析 し , 生 物 活 性 と の 相 関 に つ い て も 検 討 し た . CAWS の mannoprotein 構造についてはレクチンアレイを用いた糖鎖プロファイリングの手法および 2 次元 NMR を用いて糖鎖構造の特徴を解析した.また,生体構成糖鎖の相互作用につい て解析する目的で,細胞外マトリックスの機能分子であるラミニン糖鎖と CAWS との構造 類似性について,レクチン結合性を比較し,の糖鎖認識における交差反応性について検討 した.さらに,CAWS の活性本体と推測されている mannoprotein の糖鎖構造におけると活 性の相関についても検討を加えた. ! 1! 第1章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴 CAWS の急性毒性や血管炎惹起の感受性,サイトカイン誘導能や一酸化窒素(NO)等 の産生能には,マウスの系統間で大きな相違が認められ ている 10-14, 19) . DBA/2 マウスは CAWS を静脈内投与しても急性致死毒性を示さないが,腹腔内投与すると激しい血管炎を 惹起し,その後の観察で数週間以内に 100%が死亡する と,CAWS ȝJ 12) . Shinohara らの報告 20) による 5 日間の連続投与から血管炎の惹起活性が認められ,用量依存的に血管 炎の重症化と生存期間の短縮が観察された.約 10 週間の観察期間内に 100%のマウスが死 亡する CAWS の最小投与量は,4 mg 5 日間の連続投与であった.しかし,観察期間を延 長することで,4mg より低用量の投与でも 100%のマウスが死亡する可能性は残されてい た.CAWS 血管炎を循環器疾患モデル動物として応用する場合,その生存期間は重要なパ ラメータとなるため,低用量域での生存期間も再検討する必要がある. CAWS 血管炎の 心血管病変は主に大動脈基部と冠動脈の近位部に限局して認められる特徴があり,本章で は,血管炎の発症から進行に至る過程と病理学的特徴,生存率や致死毒性の特徴について 詳細に解析した. 第 1 節では,CAWS 投与後 1 週毎に心血管組織の切片を Hematoxylin and Eosin (HE)染色し,既報の 100%致死量である 4 mg と低用量の 1 mg における心血管病変の 病理組織像の変化を経時的に観察した.第 2 節では,血管病変における微細構造の特徴を Elastica Van Gieson (EVG)にて膠原線維を染色して観察し,さらに電子顕微鏡による病変部 の観察を加え,CAWS 血管炎における炎症組織の特徴を詳細に解析した.第 3 節では,既 報よりも低用量の 1 mg 5 日間連続投与における体重,臓器の重量変化,および生存期間 を観察した. 2! 第1章 実験の部 実験動物 雄性 DBA/2 は日本 SLC より購入し,東京薬科大学実験動物棟にて Specific Pathogen Free (SPF)環境下で飼育した.実験では 4 週齢以上を使用し,実験動物の取り扱いは東京薬 科大学実験動物取り扱い規約に従った. 菌体 C andida albicans NBRC1385 菌株は NBRC (Biological Resource Center, Japan)から購入し, YPG にて 25℃で保存し,2 ヶ月に一度継代を行った.YPG は 1L 中に Yeast 10 g,Pepton 20 g,Glucose 20 g,Agar 20 g で調製した. CAWS の調製法 C andida albicans NBRC1385 菌体を C-limiting medium ( 45$&'6"! -7! +8! 9:; 0 < . 4=0 ! .! +8! >; .?=0 !.!+8!@(@# . •.; . =!7A71!+8!B+4= 0 •3; . =!7A71!+8!CD4= 0 •3; . =!-!,+8!@54= 0 • 1; . =!-!,+8!E"4= 0 •3; . =!7A7-!+8!(D)!F*'%*D!.1!,+!G!#*%"& )中で,pH 5.2 の酸性条件下 で培養を開始し,27℃,400 rpm の撹拌培養器中で 5L/分の通気下に培養した.得られた培 養液のエタノール不溶かつ水溶性画分を分離し,既報 21) に従い CAWS を得た.本研究に 使用したロットの CAWS は抗カンジダ因子血清との反応性,エンドトキシン含量,ベータ グルカン含量,CHN 含量,マウスへの静脈内投与における急性致死活性 で,既報 21) の CAWS と同等の活性,物性を示すことを確認した. ! CAWS 血管炎の惹起 (Fig. 1-1) 4-5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS 1 mg または 4 mg を 5 日間腹腔内に投与後,1 週間ご とにマウスを屠殺し,臓器を摘出して 10%ホルムアルデヒド液で固定した.心臓組織切片 の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE)染色,および Elastica Van Gieson (EVG)染色 にて染色した(日本 SLC に委託).標本は光学顕微鏡(OLYMPUS, Japan)およびオール インワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan) により観察・撮影した.生存率の観察では CAWS 投与量を 1 mg とし,1 週目の脾臓重量と 12 週目までの生存率,および体重変化を 観察した.全てのマウスは実験終了まで specific pathogen free (SPF)条件下で飼育し,実験 動物の取り扱いは東京薬科大学実験動物取り扱い規約に従った. 3! Fig.1-1 CAWS 血管炎の誘導よよび解析の方法 統計学的処理 脾臓重量,および体重の推移については,未処置群と CAWS 処置群間で数値データを Student の t 検定にて検定し,P < 0.05 を有意差ありとし.有意差のないものについては N.D. (no statistical difference)とした. 生存率に関してはそれぞれのマウス死亡の事象発生時点 で未処置群と CAWS 処置群間で Wilcoxon の順位和検定を実施した. H! 第1節 CAWS 血管炎における経時的変化の病理組織学的特徴 未処置の DBA/2 マウスの大動脈弁およびバルサルバ洞周囲の短軸切片の組織像を Fig. 1-2 に示した. この部位の切片では,大動脈起始部における内膜(血管内皮細胞),中膜 (血管平滑筋および弾性線維),外膜と心室筋組織が同時に観察される.Wild type の DBA/2 マウスの特徴として,心外膜に石灰化が認められ る(Fig. 1-2c).石灰化は心外膜における 炎症の瘢痕である可能性があるが,その他の動脈組織や心筋組織には石灰化像,あるいは 炎症性細胞の浸潤は認められない. DBA/2 マウスに CAWS 4mg を 5 日間連続で腹腔内に投与後,経時的な病理組織像の変 化を Fig. 1-3 に示した.CAWS 投与後 1 週目では,バルサルバ洞から大動脈弁周囲にかけ て炎症性細胞が外膜側から中膜弾性線維へと浸潤する様子が観察された(Fig.1-3 1W). 炎 症組織は多核白血球を主体とする細胞から構成されており,単球や組織球系細胞,リンパ 球系細胞も認められた. 内膜付近にも炎症性細胞が認められるため,内膜炎の存在は否 定できないが,内皮細胞の剥離を示唆する血栓の形成は認めなかった. 2 週目では大動脈弁の弁輪を含む大動脈基部と冠動脈起始部,およびバルサルバ洞のう ち,冠動脈へ分岐する有冠洞を中心に外膜・中膜側から内膜側への炎症性変化が著しく進 み , 弾 性 線 維 に 沿 っ て 多 核 白 血 球 を 中 心 と す る 炎 症 性 細 胞 の 浸 潤 が 観 察 さ れ た (Fig.1-3 2W). この時点で,内膜炎も併発しているが,多核白血球は外膜よりも少なく,組織球様 の細胞が多く認められた. 炎症性組織の内腔では内皮細胞の剥離を示唆する明らかな血 栓の形成は認められない. 3 週目以降は無冠洞を含めて全周性に著しく炎症性病変が拡大し,一部で膿瘍化も認め られ,中膜の弾性線維にはフィブリノイド壊死が認められた(Fig.1-3 3W-B,4W-B). 内膜・ 内膜弾性線維・外膜といった血管としての基本構造が破壊され,内膜の著しい肥厚による 大動脈起始部の高度な狭窄と大動脈弁組織の高度な変形を認めるほどの著しい血管病変 を形成した. 同様の観察を 1 mg 投与群についても行った. CAWS 1 mg 投与群の組織像を Fig.1-4 に 示した.発症初期の 1 週目の組織像,および 2 週目以降の有冠洞を中心とした炎症性細胞 の浸潤による冠動脈病変の進行,3 週目以降に認めるフィブリノイド壊死や血管構造の破 壊像は 4 mg 投与群と全く同様であった. I! Fig.1-2 未処置(コントロール群)の DBA/2 マウスにおける心血管組織の特徴 全ての画像は hematoxylin and eosin(HE)にて染色した.(a): 低倍率での大動脈弁周囲 の組織像. (b): バルサルバ洞から分岐する冠動脈の拡大像. (c): DBA マウスは心外膜に恒 常的な石灰化像(矢印)を認める特徴がある. Fig.1-3 CAWS 4 mg/mouse 投与後の大動脈基部・大動脈弁周囲における血管炎の発症およ び進展の過程 DBA/2 マウスに既報の最低致死量である CAWS (4 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与 し,その病理組織像(HE 染色)の経時変化を 1 週間毎(1w∼4w)に示した.上のパネル (A)は各週における低倍率の病理組織像を示し,2週目 より有冠洞を中心に炎症性細胞 の著しい浸潤を認めた.3週目と 4 週目では全周性に炎症性細胞の浸潤が拡大する過程が 観察された.下のパネル(B)はそれぞれの週における炎症病変の拡大像を示し,3週目 と 4 週目には中膜弾性板にフィブリノイド壊死の特徴(矢印)を認めた. -7! Fig.1-4 CAWS 1 mg/mouse 投与後の大動脈基部・大動脈弁周囲における血管炎の発症およ び進展の過程 DBA/2 マウスに CAWS (1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,その病理組織像(HE 染色)の経時変化を 1 週間毎(1w∼4w)に示した.上のパネル(A)は各週における低倍 率の病理組織像を示し,下のパネル(B)はそれぞれに対応する炎症病変の拡大像を示し た.既報の最低致死量よりも低用量であっても,血管炎の発症過程と重症度は Fig. 1-3 と 同様で,3週目と 4 週目のフィブリノイド壊死の特徴(矢印)も同様 に認められた. --! 第 2 節 血管炎病変における膠原線維の観察と電子顕微鏡による微細構造,および炎症細 胞の観察 CAWS 血管炎における炎症性細胞の特徴と動脈の微細構造に与える影響を詳細に調査 する目的で,EVG 染色法で弾性線維の染色を行うとともに,血管炎組織を透過型電子顕微 鏡によって観察した. Fig 1-5 に示した通り, EVG 染色では中膜弾性版の破壊像を認め, 炎症性細胞の細胞外マトリックス構造に直接浸潤していく様子が観察された.さらに CAWS 投与後 2 週目の血管炎病変の電子顕微鏡像を Fig. 1-6 に示した.血管壁との相互作 用に注目すると,顆粒球系細胞が弾性線維を突破して浸潤する様子が観察された.炎症性 細胞は多種多様で,一部で膿瘍病変を形成し,その細胞内に顆粒を多く含む顆粒球様細胞, 細胞核が充満している組織球,リンパ球系細胞の浸潤を認めた.これらの結果から,DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では様々な炎症性細胞が著しく浸潤して堆積し,動脈の基本的な 3 層構造が破壊されていく過程の詳細が明らかとなった. Fig. 1-5 CAWS血管炎のElastica Van Gieson(EVG)染色による病理組織像 DBA/2 マウスに CAWS (4 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,4 週後の大動脈弁周 囲の病理組織像を EVG にて染色した(EVG 染色では膠原線維が黒く染色される).(a): 大 動脈 弁に おけ る 低倍 率で の病 理組 織像 . (b): 冠動 脈分 岐部 の拡 大 像, 冠動 脈狭 窄を 伴う (矢印). (c): 中膜弾性板に対する炎症性細胞の浸潤像. -.! Fig. 1-6 CAWS 血管炎病変の電顕像 DBA/2 マウスに CAWS (1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,2 週後の大動脈弁周 囲の病理組織像を透過型電子顕微鏡にて観察した. A: 炎症性細胞による中膜弾性版への 直接浸潤(矢印),B: 膿瘍状病変における多様な炎症性細胞の集合. -/! 第3節 CAWS 血管炎マウスの体重・脾臓重量の変化と生存率の観察 CAWS 血管炎高感受性の DBA/2 マウスで,既報 1 mg 20) の 4 mg 5 日間よりも低用量の CAWS 5 日間投与での長期生存率を観察した. CAWS 1 mg を 5 日間腹腔内に連日投与し, 観察期間を 12 週まで延長した. CAWS 投与後 SPF 条件下で観察すると,CAWS 投与群の 体重は投与直後より全観察期間にわたって減少傾向を示し,一方で特に脾臓の臓器重量は 著しく増加した (Fig. 1-7).その後の観察にて 5 週目付近から死亡するマウスを認め,そ の後は急激に死亡率が増加し,12 週までに 100%が死亡した (Fig. 1-8). CAWS 投与群の DBA/2 マウスの外見の特徴として毛並みの悪化を認め,中には体重測定の際,突然の痙攣 様発作を起こして死亡するマウスも認められた. したがって,CAWS の低用量投与(1 mg/mouse)でも,既報とほぼ同様の期間で死亡することが確認 された. Fig.1-7 CAWS投与後の体重変動と脾臓重量の変化 4∼5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS(1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,未処置 のコントロール群と体重の経時的変化を比較した(左).CAWS 投与群では投与2週目以 降は常に体重減少を認めた. CAWS 投与後 1 週間目の脾臓重量を未処置群と CAWS 投与 群で比較した(右). -0! Fig. 1-8 CAWS 血管炎を発症した DBA/2 マウスの Kaplan-Meier 法による生存曲線 4∼5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS(1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,未処置 のコントロール群と生存率の推移を比較した. 各群は未処置群(n=8)および CAWS 投与 群(n=10)で,specific pathogen free (SPF) 条件下で飼育され,生存状況は連日観察された. CAWS 投与群の DBA/2 マウスは 5 週目から 8 週目までの間に全例が死亡し ,6 週目の段階 で有意差 ( P < 0.005 )を認めた. -1! 第1章 考察 血管炎の病名と定義には Fauci らによる分類があったが,1994 年の Chapel Hill Consensus Conference (CHCC)で血管炎の分類が提唱された 22) .それによれば,病変が認められる血 管のサイズにより血管炎を分類した場合,大動脈に代表される大血管に病変が認められる ものとして,巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)や高安動脈炎があり,各臓器や組織へ分岐す る小中動脈に病変が認められるものとしては結節性多発動脈炎,川崎病,Wegener 肉芽腫 症,Churg-Strauss 症候群が分類されている.毛細管の炎症としては Henoch-Schonlein 紫斑 病,過敏性血管炎等があげられており,障害される血管の部位に依存した多彩な臨床症状 を呈する.分類の策定から 20 年近く経過しており,ANCA 関連血管炎の扱いが議論され, 最近では国際的な臨床研究による新分類(DCVAS) 23) や CHCC の改訂版(CHCC 2012) による分類法も提唱されている (Fig. 1-9) 24) .本研究で観察される CAWS 血管炎では,大 動脈起始部と冠動脈近位部に全層性全周性の炎症性病変を認めることから,病変を形成す る部位は川崎病と類似している (Table 1-1).病変の形成過程を時系列で観察すると,最も 初期に認められるのは外膜側への炎症性細胞の集積であり,内皮細胞の剥離や内膜障害を 強く示唆する血栓の形成がほとんど認められないことから,外膜側から発症する巨細胞性 動脈炎や高安動脈炎との類似点が多い. また,CAWS 投与後 3 週目以降には中膜弾性線 維のフィブリノイド壊死と内膜肥厚を認め,基本的な血管構造が破壊されていることから, 組織像としては,壊死性血管炎(necrotizing vasculitis)に分類される 25) . 炎症組織は主 に多核白血球様の細胞で構成されており,外膜に集積した炎症性細胞は vasa vasorum(脈 管栄養血管)から遊走・侵入し,中膜の弾性線維に沿って浸潤することで炎症性病変が拡 大したと考えられる 26) .本研究では他の血管や他臓器病変の検索は十分に行われていない が,直江らの報告では類似物質の CADS によってもたらされる冠動脈炎で,大動脈基部と 冠動脈近位部の病変の他,腎動脈,リンパ節や肝に膿瘍化や壊死像が認められている 27) . 血管病変の限局性については未だ解明されていないものの,高安動脈炎では抗大動脈抗 体(内皮細胞反応性自己抗体),中小血管系の血管炎では免疫複合体や ANCA(抗好中球細 胞質抗体)の関与が示唆されていることから 25) ,自己抗原の種類に依存している可能性が ある.また,動脈硬化などの血管病変が分岐部や湾曲部に形成されることが多いことから, 脈管組織の分岐部におけるずり応力,壁圧や血流量の急激な変化といった物理的刺激が局 所の内皮細胞障害に関係し,病変の限局性に関与している可能性もある 28) . CAWS 血管炎では著しい脾腫を伴う炎症性応答であり,DBA/2 マウス脾細胞を用いた検 討では,in vitro で,CAWS 刺激により,炎症性サイトカイン産生が著しく増強されること が報告されている 12) . CAWS 血管炎の発症頻度と致死毒性,サイトカイン誘導能にはマ ウスの系統間で大きな差が認められる の関連を示唆する報告 29) 10-14, 19) .ヒトでも幾つかの血管炎と HLA アレルと があるが,マウスの H-2 アレルとの関連については十分に検討さ れていない. また,DBA/2 マウスは高頻度に心外膜の石灰化を認める系統であり,栄養 -2! 状態の異常が原因と報告されている 30) .灰化像は炎症反応の終末像でもあるため,DBA/2 マウスが心血管系に慢性炎症を起こしやすい系統である可能性は否定できない. 川崎病類似血管炎の動物モデルとしては,CAWS,CADS といった真菌由来物質のみで なく,細菌由来の Lactobacillus casei cell wall extract (LCWE / LCCWE)でも川崎病に類似し た血管炎が誘発される 31) . 近年,血管炎の原因として微生物感染や微生物抗原の関与を 示唆する報告が多く,ヒト免疫不全症ウイルス,パルボウイルス B19,サイトメガロウイ ルス,水痘帯状疱疹ウイルスなどのウイルス,黄色ブドウ球菌などの細菌感染の関与を示 唆する報告がある 32) .自然免疫の研究の発展に伴い, 微生物由来の免疫活性化物質は PAMPs (pathogen-associated molecular patterns)と総称するようになった 33) .PAMPs は自然 免疫系によって認識され,樹状細胞の活性化を通して T 細胞の分化を制御している 34) .多 くの免疫賦活剤は一般に PAMPs としての特徴を持っており,一般に免疫賦活剤は副作用 が少ないとされるが,CAWS 血管炎は,PAMPs の持つ多彩な免疫応答刺激作用が有害事象 の原因となる可能性を示唆するデータとしても注目される. 動脈硬化病変の動物モデルとして Apo-E KO マウスが汎用されており,Apo-E KO マウ スにおける動脈病変は主に脂質代謝異常に起因する血管内皮細胞の障害を中心としたも のと報告されている 35) . CAWS 血管炎は外膜側から始まり,内膜肥厚は炎症応答の後期 になってから認められるが,Apo-E KO マウスでは初期から中膜弾性線維や外膜にまで病 変が及ぶことは殆どないという点で形成過程が大きく異なっている. 本モデルでは DBA/2 マウスで CAWS 投与群の 100%に血管炎を誘発し,CAWS 投与初期か ら極めて強い炎症応答が惹起され,短期間で著しい血管病変をもたらした. CAWS 血管 炎は単に大動脈病変にとどまらず,高度の冠動脈起始部病変と大動脈弁に病変を伴ってい た. CAWS 血管炎の進行は投与後 4 週程度でほぼ頭打ちとなるが,DBA/2 マウスの致死 毒性は 5∼∼6 週目付近から認められ,さらに数週間の経過観察でほぼ 100%が死亡する. この傾向は高感受性である C57Bl/6 や BALB/c 系統のマウスよりも著しく強い.DBA/2 マ ウスの死亡原因は,重篤な血管炎のみでは説明が困難であり,血管炎の完成後,死亡まで 数週間の観察期間を要することから,DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では,大動脈弁狭窄 や閉鎖不全,虚血性心疾患に起因した心機能異常を合併したり,リモデリングによる伝導 系障害が致死的心室性不整脈を誘発させて突然死した可能性が高いと考えられた.さらに, 急性心不全や心不全末期患者では,末梢循環不全に伴う皮膚の湿潤や四肢の冷感,食意消 失などを認めるため,DBA/2 マウスに認めた毛並みの乱れや食欲低下に伴うとみられる体 重減少は心疾患の合併による症状である可能性があるため,DBA/2 マウスの病態や死因の 解析には,特に心臓を中心とした詳細な検討が必要と考えられた. 本モデルの病態をさらに詳細に解析することで,血管病変形成メカニズムの解明はもと より,前臨床段階における循環器疾患の治療法検討に優れた動物モデルとして利用価値が 高まると考えられる. -3! Fig. 1-9 血 管 の サ イ ズ に 基 づ い た 血 管 炎 の 分 類 方 法 (International Chapel Hill Consensus Conference; CHCC 2012) Table 1-1 CAWS 血管炎の分類上の位置づけ CAWS 血管炎は大血管∼∼中(小)血管に病変を認めるため,いくつかの血管炎と 重複する特徴を示す. -H! 第2章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析 前述したように,CAWS 血管炎は川崎病の動物モデルとして研究が発展してきた背景が あるが,ヒトの川崎病でも全例が単に血管炎のみによる臨床経過をたどることはなく,一 部で冠動脈拡大や冠動脈瘤といった後遺症・合併症を併発し,中には死亡する例もある 6,7) . C57Bl/6 や BALB/c 系統のマウスでも重度の CAWS 血管炎が誘発されるが,DBA/2 マウス 以外の CAWS 高感受性マウスでは,これほどの強力な致死毒性は認めない 19) . また,第 1 章で示したように,CAWS 血管炎の進行は CAWS 投与後 3∼∼4 週間程度でほぼ頭打ち となるのに対し,DBA/2 系マウスの致死毒性は,さらに数週間の観察期間を経た後に認め はじめる.このことから,CAWS 血管炎の致死毒性は,血管炎そのものが主要な 原因では なく,大動脈起始部や冠動脈開口部,および大動脈弁周囲の炎症性変化が弁膜症や虚血性 心疾患を併発し,血管炎が完成した後のインターバル期間に二次的な心機能異常や合併症 を併発して死亡する可能性が高いと考えられた.本章では,DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の合併症について検討し,強力な致死毒性の原因について考察した. DBA/2 マウ スでは,CAWS 投与後の臓器変化として著明な脾腫とともに心肥大を認めており,特に心 肥大は大動脈 炎や冠動脈炎に伴う心疾患の合併を示唆するものであるため ,心臓の構造 的・機能的変化に着目した.第 1 節では,CAWS 血管炎における大動脈周囲と大動脈弁, および心筋組織の病変部について,炎症性病変の形態学的変化について解析するとともに, 心肥大の程度を定量的に評価した.特に心臓弁膜組織の内部構造に注目して解剖・病理組 織学的な解析を加えた. さらに第 2 節では,生体の心機能を心臓超音波エコー検査法で 解析し,併せて心不全の診断や予後に有用なマーカーとして広く臨床応用されている BNP の発現状況を CAWS 投与群と未処置群とで比較した. -I! 第2章 実験の部 CAWS の調製およびマウス(第 1 章参照) CAWS 血管炎の惹起 4-5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS 1 mg を 5 日間腹腔内に投与後,1 週間ごとにマウスを 屠殺し,心臓を摘出して 10%ホルムアルデヒド液で固定した.肉眼的な臓器の形態変化を 低倍率実体顕微鏡下で観察し,心臓組織切片の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE) 染色にて染色した(日本 SLC に委託).標本は光学顕微鏡(OLYMPUS, Japan)およびオ ールインワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan) により観察・撮影した.全てのマウス は実験終了まで specific pathogen free (SPF)条件下で飼育し,実験動物の取り扱いは東京薬 科大学実験動物取り扱い規約に従った. 超音波心臓検査 CAWS 投与後 6 週から 7 週目にかけての DBA/2 マウスは,ペントバルビタール 40 mg/kg を腹腔内投与して麻酔し,暖めたコルク製解剖台にのせ,超音波断層診断装置(ProSound SSD-6500SV; ALOKA Co., Ltd., Japan)にて評価した.探触子(プローブ)には新生児用 linear transducer を用いて心臓の形態評価および心機能の指標を測定した.撮像に際し,プロー ブとマウスの間に最適な距離を保つ目的で,約 1 ㎝の超音波透過性ゼリーの袋を挟んだ. 逆転写 PCR 法(RT-PCR) 屠殺したマウスから心臓を摘出し,速やかに ƕC 以下で専用抽出液(ISOGEN; Nippon GENE Co., Ltd., Japan)中でホモジナイズした.メーカー指定の方法にて total RNA を抽出 し,RNA 濃度と純度を NanoDrop ND-1000 UV Spectrophotometer (Thermo Scientifics, USA) にて測定した.トータル RNA は RT-PCR キット (Takara Bio Co., Ltd., Japan) にて逆転写反 応後,得られた cDNA を PCR 法にて 35-40 サイクルで増幅した.なお,PCR 反応用プラ イマーDNA には以下の配列のオリゴヌクレオチドを用いた. マウスβ-actin (cDNA product size 574 bp) VHQVH¶-GCCATGGATGACGATATCGCT-3¶ antisense 5¶-TCATGAGGTAGTCTGTCAGGT-¶ マウス natriuretic peptide type B; BNP (cDNA product size 241 bp) sense 5¶-ATGGATCTCCTGAAGGTGCTG-3¶ antisense 5¶-GTGCTGCCTTGAGACCGAA-3¶ PCR 生成物は 1% アガロースゲル電気泳動にて展開し,ethidium bromide にて染色し,紫 外線照射にて得られる蛍光強度を蛍光強度計(IRLAS-1000, Fuji Film Co., Ltd. , Japan)を使 用し,デジタルデータを記録した. .7! 統計学的処理 得られた数値データは,未処置群と CAWS 処置群間で Student の t 検定を行い, P < 0.05 を有意差ありとした. .-! 第1節 CAWS 血管炎完成後の心臓組織・心筋細胞の解剖組織学的特徴 第 1 章では,CAWS 血管炎では,冠動脈起始部の炎症性変化とともに大動脈弁周囲に著 明な炎症性変化を伴っていることを述べた. DBA/2 系マウスの CAWS 血管炎後期の心臓 を肉眼∼∼低倍率実体顕微鏡レベルで観察すると,Fig. 2-1 に示したように,CAWS 投与 群に大動脈弁の弁尖肥厚と弁構造の著明な変形を認めた. CAWS 血管炎の病変は単に血 管病変にとどまらず,大動脈弁を中心とした弁膜組織にも重篤な形態学的変化を及ぼす可 能性が示唆された.DBA/2 系マウスの CAWS 血管炎では,著しい脾腫を認めていたが, 心重量も著しく増加し(Fig. 2-2),肉眼的にも著しい心肥大を認めた(Fig. 2-3A).これま での病理組織の検討では,全て短軸切片のみの観察で,心血管組織の全体像が把握し難か ったため,長軸切片を作成して病理組織学的に観察して比較した.長軸切片では,大動脈 から心尖部にかけて,大動脈弁と心室が同時に観察可能になるように作成した.Fig. 2-3B に示したように,心臓組織の長軸切片を HE 染色で観察すると,炎症性病変は大動脈弁と バルサルバ洞周囲に留まらず,大動脈弁直下の心室中隔および,一部の右室および左室心 筋組織まで浸潤していることが判明した.さらに,炎症性細胞の浸潤と堆積により,特に 左室から大動脈弁の弁尖肥厚と弁輪直下の炎症性病変のため,結果として形態的に 左室流 出路(LVOT)から大動脈弁口にかけての高度狭窄を伴っていることが新たに判明した( Fig. 2-4A).また,心筋細胞レベルの観察では,左室心筋細胞の横断面積が未処置群と比して CAWS 投与群で 1.14 倍に増加し,求心性心筋肥大 (concentric hypertrophy) を認めた(Fig. 2-4B). Fig. 2-1 CAWS血管炎における大動脈基部および大動脈弁の炎症性変化の解剖学的所見 未処置群と CAWS 投与群を実体顕微鏡にて観察すると,CAWS 投与群で大動脈弁に著 明な変形と肥厚を認める(矢印). ..! Fig. 2-2 CAWS 血管炎における心重量の変化 CAWS 投与後 6 週目の DBA/2 マウスの心重量を示した.各群は n=8 (未処置群) および n=7 (CAWS 処置群;1 体は計測前に死亡)とし,数値は心重量(HW)と体重(BW)の比(HW/BW) で示した. ./! Fig.2-3 CAWS 血管炎における心肥大と病理組織学的特徴 . CAWS 投与後 6 週目では肉眼的に著明な心肥大を認め(A),それぞれの組織像(HE 染色) では CAWS 投与群で左室の求心性心肥大を認めた (B). .0! Fig.2-4 CAWS 血管炎における大動脈弁と心筋細胞の横断切片の病理組織 学的特徴. CAWS 投与後 6 週目における心臓組織の病理組織像(HE 染色).A:大動脈弁周囲の拡 大像では炎症性細胞は主に大動脈弁とバルサルバ洞周辺に限局していたが,炎症性細胞の 堆積により大動脈弁尖が著明に肥厚し,左室流出路 (LVOT) の狭窄を認めた(矢印). 左 室壁の心筋細胞には広範囲の梗塞を示す壊死像や線維化した瘢痕 組織を認めない.B:左 室心筋細胞の横断面積は 1.14 倍に増加した. .1! 第2節 CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査および B 型ナトリ ウム利尿ペプチドによる心機能の評価 1. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査 生体中で心血管組織はその内腔に血液を充満させることで循環動態を形成しており,屠 殺後の解剖による病理組織のみの観察では,生体中での心血管組織の解剖学的形態変化や 血行動態等の心機能評価ができない.DBA/2 マウスの死因の特定には生体での心血管構造 の観察と心機能の評価が不可欠であり,特に死亡間際の 心機能を生体で評価するために, 低浸襲の評価方法が求められる.心臓超音波 検査法(UCG)は,生体への浸襲が少なく, リアルタイムでの臓器の形態や機能の評価が可能で,臨床でも心疾患の診療に不可欠な存 在であり,多用されている 36) .一般的な UCG では,探触子(プローブ)を胸壁にあて, 心臓の形態(左室,左房,大動脈,僧帽弁,大動脈弁の形態と動き)を観察する.一般的 な心臓断層像は B モードにて得られる画像であり,この断層像をもとに,1 次元的に選択 した部分の構造物の動きを経時的に展開したものが M モードエコー図で,血流はドブラ ーエコーにて計測することが可能である. UCG によって得られる心臓の主なパラメータ には,AoD(大動脈径),LAD(左房径),LVD(左室径:LVDd=拡張末期径,LVDs=収縮 末期径),IVS(心室中隔厚:IVSd=拡張末期径,IVSs=収縮末期径),LVPW(左室後壁厚: LVPWd=拡張末期径,LVPWs=収縮末期径),LVFS(左室内径短縮率(%) : (LVDd‐LVDs) /LVDd 100),LVEF(左室駆出率 :いくつかの算出方法がある), IVC(下大静脈径)な どがあげられる.本節では CAWS 投与後の心機能変化を観察し,特に 6 週から 7 週目にか けての死亡直前の心機能を UCG にて詳細に評価した (Table 2-1). UCG 評価に際し, CAWS 処置群と未処置群で各群 n=10 を準備したが,検査の実施までに CAWS 処置群の 2 体は死亡,残り 8 体が検査可能であった.しかし, CAWS 処置群の 8 体のマウスのうち 2 体は UCG 検査中に高度の徐脈を経て心停止に至り死亡した. この 2 体については死亡直 前の心機能評価が不可能であったが,一方で重篤な心疾患の存在を示唆した. 検査が可 能であった CAWS 処置群 6 体の UCG 検査では,未処置群と比して著明な左室の拡大と左 室収縮能の低下を認めた. 左室の収縮能低下は瀰漫性であり,心筋梗塞に認めるような 特定の心筋壁セグメントに限定された壁運動低下は観察されなかった. また,CAWS 処 置群では血管炎発症後しばらくの間は心機能の明らかな変化は証明されなかった.しかし, 血管炎完成後の大動脈弁流出速度は,未処置群よりも速い傾向があり,LVOT や大動脈弁 の狭窄に伴う圧負荷(圧格差)の増大が示唆された. UCG にて得られるパラメータを Table 2-1 に示した.中でも,LVDd の拡大と LVFS の低下が著しく,心筋壁の 菲薄化を伴って おり, CAWS 血管炎の DBA/2 マウスでは,死亡する直前には遠心性心肥大に伴う左室腔 の拡大と重度の左室収縮能低下を伴っていることが判明した (Fig. 2-5). .2! Table 2-1 心臓超音波検査にて得られる各パラメータの比較. Untreated (n=10) CAWS treatment (n=6*) IVSd (cm) 0.141 ± 0.006 IVSs (cm) 0.202 ± 0.005 LVDd (cm) 0.221 ± 0.008 LVDs (cm) 0.066 ± 0.009 LVPWd (cm) 0.144 ± 0.008 0.126 Á LVPWs (cm) 0.196 ± 0.006 Á LVEF (%) 96.4 ± 0.86 LVFS (%) 71.0 ± 3.76 37.9 ± 4.13 HR (bpm) 318 ± 18.6 319 Á ! * CAWS 投与群のうち 2 体は検査前に死亡,2 体は検査中に心停止したため除外3 Á1' IVSd; Interventricular septal thickness in diastole, IVSs; Interventricular septal thickness in systole, Left Ventricle (LV): LVPWd; LV posterior wall thickness in diastole, LVPWs; LV posterior wall thickness in systole, LVDd; LV end-diastolic diameter, LVDs; LV end-systolic diameter, LVEF; LV ejection fraction, LVFS; LV fractional shortening, HR; heart rate. .3! Fig. 2-4 CAWS 処置群と未処置群の DBA/2 マウスにおける心臓超音波検査によって得ら れる心機能評価項目の比較. CAWS 投与後 6 週目∼∼7週目の DBA/2 マウスの心機能をヒト新生児用のリニアプ ローブにて測定した(未処置群:n=10,CAWS 投与群:n=6).検査台は適度に加温し,プロ ーブとマウスの間には超音波透過性のゼリ ーを挟んだ(右図),左室心筋壁の動的変化 は 2 次元の M モードエコー図で示した(A). 心臓超音波検査によって得られた心機能の 評価項目のうち,心肥大の指標である左室拡 張 末 期 径 (LVDd) と 左 室 収 縮 能 の 指 標 で あ る 左 室 内 径 短 縮 率 (LVFS)を 数 値 化 し て グ ラ フで示した(B). .H! 2. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)による心 機能の評価 心不全のバイオマーカーとして,我が国の臨床で汎用されているものに B-type (Brain) natriuretic peptide (BNP)と N terminal (NT)-proBNP がある 37) .BNP は 1988 年の発見当初 38) , ブタの脳組織から発見されたため脳性(Brain)ナトリウム利尿ペプチドと命名されたが, 既に発見されていた心房性ナトリウム利尿ペプチド Atrial natriuretic peptide (ANP) もに心不全の重症度に比例して心筋細胞から分泌されることが判明した 1990 年に C 型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)も発見されたため 42) 40, 41) 39) とと . その後, ,BNP はナトリウム 利尿ペプチドファミリーの中で,B 型(B-type)ナトリウム利尿ペプチドと呼ばれること も多く,ナトリウム利尿ペプチドファミリーの発見から応用まで,本邦の研究経過が大部 分を占めている. BNP は ANP とともに心筋のストレスマーカーとして位置づけられてお り 43) ,心筋細胞への負荷によって前駆体である proBNP が産生され,蛋白分解酵素により 活性本体の BNP(半減期約 20 分)と活性がない NT-proBNP(半減期 60∼∼120 分)に分 解される 37) .マウスでは,ANP の血中濃度や収縮期血圧をマウスの系統間で比較した報 告があり,これによれば,Wild type の近交系マウスの系統間で有意な血中 ANP 濃度の差 は認められず 44, 45) , 心 機 能 の 指 標 と し て 有 用 で あ る と 結 論 付 け ら れ て い る . BNP や NT-proBNP の測定は,急性および慢性心不全の診断や予後の指標として,診療ガイドライ ンのうえでもエビデンスレベルが高い 46) .心不全発症の病態としては収縮能の低下以外に 拡張能の障害が知られているが,両者は BNP 値では鑑別診断はできない. しかし,UCG など生理学的検査と組み合わせることで,より正確な診断が可能となる の cDNA は小川らによって同定されているが 48) 47) .マウス BNP ,試薬としての抗マウス BNP 抗体は発売 されていないことから,タンパク質レベルでの BNP 測定が困難であったため,本節では CAWS 投与による BNP の誘導について,既報 49) の RNA プライマーを作成して逆転写 PCR 法により mRNA レベルの観察を行った. Fig.2-5 に示した通り,CAWS 投与後 6 週目の CAWS 投与群では著明な BNP mRNA の増加が認められた. ! .I! Fluorescence intensity 20 15 10 5 0 Untreatment CAWS treatment Fig. 2-6 DBA/2 マウス心筋細胞における BNP 発現強度の比較 CAWS 投 与 後 6 週 目 の DBA/2 マ ウ ス の 心 臓 を ホ モ ジ ネ ー ト し , 心 筋 細 胞 に お け る BNPmRNA の発現状況を RT-PCR 法によって解析した. /7! 第2章 考察 本章では,DBA/2 マウスの CAWS 血管炎で,慢性期の病態動物で観察される急激な生 存率の低下について,死因となりうる病態の解明を目的として,心臓の内部構造に与える 炎症性病変の影響と心機能を中心に解析した.心筋障害あるいは心機能低下の原因となり うる代表的な炎症性疾患として,A 型溶血性連鎖球菌の感染によるリウマチ熱後遺症の弁 膜症がある.これは,菌体由来成分と自己抗原との免疫学的交差反応により,弁膜組織の 破壊が進行するものと考えられている 50) .他にも急性疾患としてウイルス性心筋炎 51) , 急性心(外)膜炎や感染性心内膜炎に伴う心臓の内部構造の進行性破壊などがあげられ, これらは感染症や炎症性病変が心臓の内部構造や心機能に重大な障害を与え,患者の予後 に重大な影響を及ぼす 52) .DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では冠動脈起始部の狭窄も高度 であるが,これまでの観察では左室に広範囲梗塞 巣や心筋梗塞後に認める瘢痕化した線維 組織,心筋炎組織への炎症性細胞浸潤や大動脈弁以外の弁膜症 は観察されていない.また, 虚血性心疾患単独では心筋横断面積の増加を伴う求心性心筋肥大を合併しないため, CAWS 血管炎に伴う左室機能低下の発症に関して,虚血性心疾患 が直接の原因でないと考 えられる.本モデルの病理組織像に認める求心性心肥大の要因については,血管炎病変の 進行によって,大動脈弁周囲に炎症性組織を形成することによって,大動脈弁直下の左室 流出路(LVOT)の狭窄および大動脈弁の肥厚と変形を合併するのが最も大きな要因と考 えられる. CAWS 投与後の DBA/2 マウスの心筋細胞では,心臓のストレスマーカーである B 型ナ トリウム利尿ペプチド(BNP)の mRNA 過剰発現を認めた.これは,LVOT の狭窄が特に 左室の圧負荷の原因となり,左室の心筋細胞から BNP が誘導されたものと推察される. BNP はナトリウム利尿ペプチドファミリーに属し,その作用は膜型グアニル酸シクラーゼ (GC)受容体である NPR-A(GC-A),NPR-B(GC-B)と GC 活性を持たない NPR-C を介し て発揮されること判明しており,GC-A と GC-B は細胞内 cyclic GMP(cGMP)濃度を上昇 させ生理活性が発現する 53) . NPR-C は主にナトリウム利尿ペプチドファミリーの不活性 化とクリアランスに関与していると推測されている 54) . GC-A は血管内皮細胞や平滑筋 細胞や間質に広く分布し,中でも腎糸球体毛細血管の内皮・メザンギウム細胞や腎尿細管 上皮細胞に豊富に発現している. ANP や BNP は CG-A 型受容体との親和性が強く,血管 拡張作用に基づく糸球体濾過量の増加と主に腎の髄質内層集合管におけるナトリウム再 吸収抑制に基づく利尿作用を持ち,ANP は主に我が国で,BNP は主に欧米を中心に利尿 薬,急性心不全の治療薬として臨床で使用されている 55) . CAWS 血管炎の病変によって, DBA/2 マウスの心筋細胞に過剰な負荷が生じ,生体反応の一環として過剰な BNP が誘導 されたと考えられる. 臨床における類似病態としては,大動脈弁狭窄症(AS)と閉塞性肥大型心筋症(HOCM) があげられる 56, 57) .大動脈弁狭窄症(AS)は,大動脈弁の退行変性や先天性二尖大動脈 /-! 弁,リウマチ・炎症性変化などによって大動脈弁の狭窄を生じる病態で あり,左室は慢性 的に圧負荷を受け,求心性心筋肥大を呈する. AS 患者を対象とした年齢別の病理組織の 検討では,70 歳以上では退行変性 48%,二尖弁 27%,炎症性 23%に対して,70 歳未満で は二尖弁 50%,炎症性 25%,変性 18%と,比較的若い年齢層で先天的要因の二尖弁が高 い割合を占め,患者の高齢化に伴い,二尖弁や炎症性の AS が減少傾向にあり,退行変性 によるものが増加している 58) .AS では発症初期から左室は圧力過負荷の状態にさらされ るが,しばらくの間は無症状期が続く.この間に代償反応としての左室リモデリングが進 行し,二次的な求心性心肥大が顕著となる.左室機能はしばらくの間,代償によって無症 状で保たれているが左室機能低下は徐々に進行する.やがて代償機構のみでは全身への血 液供給が維持できなくなり,症状が出現する.臨床では,狭心症,失神,心不全などの症 状が出現してからの高度 AS は極めて予後が不良であり可及的早期に弁置換術などの根治 手術を行う.狭心症が出現してからの平均余命は 5 年,失神では 3 年,心不全では 2 年と 報告されており Fig. 2-7 59) ,Fig. 2-7 に示した通り,症状発現後より急激な生存率の低下を認める. 大動脈弁狭窄症(AS)の自然経過と予後の推移 56) ! これは,DBA/2 マウスの CAWS 血管炎モデルにおける生存率の経過と極めて近い傾向を 示している.しかし,AS 単独の自然経過では,求心性肥大の後で遠心性肥大へと転化す るのは稀であり,本モデルでは死亡直前の 末期に遠心性左室肥大に伴う左室機能不全を 認めているため,J4 に伴う圧負荷に加えて冠動脈起始部の狭窄よる心筋虚血が以後 の左室拡張と左室機能低下に関与している可能性がある. /.! HOCM は心室中隔心筋の肥厚により,LVOT に高度狭窄や閉塞が生じる原因不明の疾患 であり,左室の収縮末期に大きな圧較差(負荷)を左室に生じさせるため,放置すると左 室機能が低下する.AS および HOCM の末期に認める左室機能低下は,大動脈弁口 および LVOT の高度狭窄により,左室からの血液流出が機械的に大きく障害されるため,左室に 極めて大きな圧負荷が持続するのが原因である.一般に肥大型心筋症(;@B)では,一 部(-7−-1K)が拡張相肥大型心筋症();@B)に移行し,顕著な左室腔拡大と収縮 能低下を来すことがある 57) .拡張相肥大型心筋症は予後不良であり,その原因として 肥大した心筋への血液供給不足が慢性的な虚血を誘発して,心室壁を菲薄化させると 考えられている(E*+A!.LH)60) .本モデルでは冠動脈病変を伴うことから,肥大心筋へ の血液需要の増大に加え,冠動脈病変がさらに心筋虚血を増悪させた可能性が高いと 考えられた.! Fig. 2-8 心肥大の原因と肥大様式の相違 60) ! ! ! ! //! 本モデルの左室機能低下の機序は以下のようにまとめられる.まず,重度の血管炎 病変が大動脈弁の弁尖肥厚と大動脈弁口の狭小化を誘導し,炎症性細胞の浸潤より MN=O の狭窄を生じる.大動脈弁狭窄と MN=O 狭窄は,左室の過剰かつ持続的な圧負 荷となるため,左室の求心性心筋肥大を誘発する.肥大した心筋は通常よりも多量の 酸素や栄養分を必要とするので,冠動脈血流量の増加が必要になるが,血管炎に伴う 冠動脈病変のため心筋への血液供給が不足し,やがては左室心筋全体が重篤な虚血状 態に陥る.虚血によって肥大心筋は拡張相様の遠心性左室肥大に移行し,急激な左室 機能低下が生じて心不全死または致死的不整脈による突然死が誘発される. 本モデル の左室機能不全では左心不全優位の症状を呈するものと推察される.左心不全では通例, 体重増加や末梢浮腫は認められないかわずかであり,第 1 章で経時的体重変化の観察で認 められた約 10%の体重減少は,心不全症状および炎症反応に伴う食欲の低下が一因である と推測される. ! 慢性心不全の治療では,その予後改善効果が臨床現場における最も重要なアウトカムで ある.生存率の観察が容易なモデル動物は,新規治療薬の開発だけでなく,治療プロトコ ールの検討にも極めて有用と期待される.今のところ,循環器疾患の中でも特に慢性心不 全の優れた動物モデルは少ない. マウス心筋障害のモデルとして汎用されているものに, 外科的処置や遺伝子操作によるモデル ,コクサッキーウイルス B3 心筋炎および EMCV (encephalomyocarditis virus)心筋炎があり,特に EMCV 心筋炎は,心機能低下を伴う拡 張型心筋症類似の心筋病変を形成するため,ヒト心不全や心筋症の動物モデルとして利用 されている 61-63) .しかし,外科的手技や遺伝子操作を伴う心疾患の モデルでは,作成に膨 大な手間や熟練したテクニックを必要とするため,大規模臨床試験に相当するような多数 個体を短期間に同時作成することは困難である.本章では CAWS 血管炎が左室機能低下を 伴う循環器疾患 のモデル動物としても応用が可能なことを示した.さらに,本モデルは CAWS の腹腔内投与という極めて簡易的な手技のみで,多数の個体に 100%の確率で同時 発症させうることができるため,心不全の治療薬開発には極めて有用なモデル動物となる 可能性を示したものである. /0! 第3章 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関に 関する検討 生物界に存在する糖鎖構造 のうち,1,3-ȕ-D -グルカンは真菌細胞壁に存在する が,ヒト を含む哺乳動物の細胞中に存在しないと考えられている.これは哺乳動物が ȕ グルカン合 成酵素を持っていないためであり,キャンディン系 ȕ グルカン合成酵素阻害薬が優れた選 択毒性と安全性を持つ所以でもある 64) .一方で真菌細胞壁を構成する主要な糖鎖であるマ ンナンは,Man の Į または ȕ 結合で構成された複雑な糖鎖構造を持ち,high-mannose 型の 糖鎖構造は主に N 型糖鎖(アスパラギン結合型糖鎖)を有する糖タンパク質としてヒトや マウスの組織中にも存在していて,タンパク質への糖鎖付加は細胞の増殖や伸長,細胞間 接着あるいは細胞のがん化などに重要な役割を担っていると考えられている 65) .ȕ グルカ ンは自然免疫系で,dectin-1 のリガンドであり,dectin-1 下流のシグナル伝達により免疫賦 活化作用を示すものと考えられている 66) .一方で,CAWS を含む Į マンナンの受容体は dectin-2 であることが明らかとなっている 18) .動物種に含まれるレクチンのうち,特に自 然免疫に関わるものは,dectin-1,dectin-2 をはじめとする C 型レクチンレセプター(CLRs) やマンノース結合レクチン(MBL)等が代表的であり,一定の糖鎖構造を認識して相互作 用(結合)する.マンノース(Man)をリガンドとする動物レクチンの生体防御系への関 与は特に強く,補体のレクチン経路は MBL に微生物由来の高分子マンナンが結合するこ とで活性化される.糖鎖は CLRs のうち特定の領域(CRD)によって認識されているが, CRD のアミノ酸配列と認識する糖鎖構造については,まだ十分に解明されたとはいえない. 第 1 章で,CAWS 血管炎における炎症組織では,3 層構造の動脈壁に多様な炎症性細胞 の浸潤像が観察され,細胞外マトリックスで特に著しい浸潤が認められた.さらに,結合 組織の中でも強靭な中膜弾性板構造を突破して侵入する顆粒球系細胞も観察された.これ は,CAWS の投与によって,dectin-2 を介した自然免疫系の活性化が誘導されるとともに, CAWS の成分とマウスの結合組織・細胞外マトリックスとの間で,交差反応や相互作用が 誘発される可能性があることを示唆している.そのリガンドであるマンナンは動物と真菌 に共通して存在する糖鎖構造である.したがって,CAWS の糖鎖と宿主を構成する糖鎖の 構造については,構造類似性を精査し,糖鎖の認識における相互作用や交差反応の可能性 について検討する必要がある. C andida 属は酵母形と菌糸体の二形性真菌であり,その細胞壁構造は周囲の温度や栄養 状態などの環境条件によって著しく変化している. 培養環境と細胞壁の構造変化につい ては,C . albicans や S chizosaccharo m yces po m be で糖鎖の合成酵素や転移酵素の遺伝子発現 レベルまで詳細に調べられており,CAWS 研究では Shinohara らが, C . albicans を種々の 条件で培養し,CAWS の構造と生物活性を比較検討している 20) . その結果,37℃条件で は,いずれの pH 条件で培養しても補体活性化能ならびに血管炎惹起活性を示したにもか かわらず, pH 7.0,27℃条件下で培養したときに生成される多糖 (CAWS 727) では,血管 /1! 炎 の 惹 起 活 性 や 致 死 毒 性 が ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た . CAWS727 で は ȕ-1,2-mannose ȕ-1,2-Man) 残基が著しく増加していたことから,ȕ-1,2-Man 残基の増加は Į マンナンの血 管炎惹起活性に対して抑制的に働く可能性のあることを示唆した. 本章では,CAWS のマンナン構造の解析と血管炎誘発活性との構造活性相関を検討する 目的で,宿主の免疫担当細胞が CLRs を介して CAWS の糖鎖部分と共通する自己の糖鎖 構造を認識し,相互作用や交差反応によって自己抗原への反応性を獲得して血管炎を発 症・進展させる可能性について検討した.糖鎖構造には単糖類の組み合わせや分岐に無数 のパターンがあるため非常に複雑で,巨大な糖鎖構造を完全に同定する事は極めて困難で ある.近年,一定の糖鎖構造を認識して結合する 性質があるタンパク質であるレクチンを 利用し,糖鎖を多種類のレクチンチップ(レクチンアレイ)にアプライして,様々な種類 のレクチンとの結合性を解析する事で,構成される単糖の種類や分岐のパターンから糖鎖 構造をプロファイリングする手法が普及してきた 67, 68) .そこで第 1 節では,CAWS を蛍光 標識し,その糖鎖構造について固定化レクチンを用いたレクチンアレイシステムにてプロ ファイリングした.また,細胞外マトリックスの構成成分に含まれ,細胞間接着の重要な 糖タンパク質の 1 つであるラミニン(laminin)69) に注目し,ラミニンに含まれる糖鎖構造 と CAWS の糖鎖構造のプロファイリングを比較し,レクチンによって認識されるエピトー プの構造類似性について検討した.さらに,蛍光標識したラミニンに CAWS を添加し,レ クチンアレイ結合における競合性およびその強度について検討した. 第 2 節では CAWS のマンナン構造の変化と活性の相関について更に検討を加える目的で,CAWS と CAWS727 の抗原性および糖鎖構造を比較した.臨床でカンジダ感染症の診断に応用されている血清 抗体を用いて,それぞれの抗原性を比較し,1 次元および 2 次元 NMR を用いて糖鎖構造 のスペクトル解析を行った. 第 3 節では構造の相違による活性の相関と,ȕ マンナンの炎 症抑制メカニズムについて,サイトカイン産生能を比較し検討した. 第 4 節では,マン ナン構造をレクチンアレイの手法を用いてプロファイリングし,CAWS と CAWS727 の糖 鎖構造を比較した. /2! 第3章 実験の部 CAWS および CAWS727 の調製 標準の CAWS は第1章と同様の方法で調製した.既報に従い,CAWS のマンナン構造を 修飾する目的で C . albicans NBRC1385 を標準製法と同様に C-limiting medium 中で 27°C で 培養し,徐々に酸性化する培養液の pH を自動的に 7.0 に維持するよう調節した.pH 7.0, 27°C で調製した CAWS を標準 CAWS と区別するため, CAWS727 と命名した.いずれの CAWS も,抗カンジダ因子血清との反応性,エンドトキシン含量,ベータグルカン含量, CHN 含量,マウスへの静脈内投与における急性致死活性では,既報 21) の CAWS と同等の 活性,物性を示すことを確認した. ! @P/ 標識体の調製とレクチンマイクロアレイの測定! @JQ4 または @JQ43.3,および #(,*D*D(マウス由来,RS!R*'6$*"D$"6 , USA )を ?R4 に 17μ+G,# に溶解し8! その .7μ# を @P/!B'D'LT"($%*U"!)P"!V($W!9XY! ;"(#%Z$(&"8![?J./7--<!-77μ+ に混合した.室温,暗所で -Z! 反応後に脱塩ゲルろ過 カラム処理して用いた.@P/ 標識した標準糖鎖は X?Lバイオサイエンス社がレクチン マイクロアレイシステムのために開発したものを用いた.M"$@Z*V™に適宜希釈したサ ンプルをアプライした..7℃8!-1! 時間以上反応させたのち,そのままの状態で エバネ ッセント波励起型蛍光検出法( X#P$'4%(%*'D™! T"()"&!-.77 , Japan )により測定した. 得られた数値は,専用の解析システム(J&&(PL?&'\!JD(#P]"& , Japan )により解析したA! ! M"$@Z*V™ システム アレイにレクチン類(Table 3-1)を結合させ,蛍光標識した糖鎖の結合性を網羅的に解 析する手法である.このシステムでは,エバネッセント蛍光分析の手法を用い,未吸着の リガンドを洗浄することなく糖鎖とレクチンとの反応性を測定することが可能である.糖 鎖は単分子の affinity が弱く,洗浄操作で解離することが多いので,この方法を用いると 弱い親和性の糖鎖の解析もできるところに大きな特徴がある.また,生体内ではリガンド とレクチンの結合は Kd 値で 10 -5 程度の平衡状態で存在するため,単一糖鎖の親和力 (affinity)のみならず,複数分子から生じる親和性(avidity)が重要であるので,生体内 での現象をより正確に反映する. ! /3! Table 3-1 LecChip TM (Ver.1)で使用するレクチンの一覧と認識する糖鎖構造の特異性 ! M"$@Z*V™に搭載されたレクチンの略称と起源を以下に示した! MOM8! レンリソウ8! ロータスマメ! ^マメ科_!`!?4J8エンドウ! ^マメ科_!`!M@J8ヒラマ メ8! レンズマメ! ^マメ科_!`!aYJ!b8! ! ハリエニシダ! ^マメ科_!`!J=M8! 麹菌`JJM8! ヒイロ チャワンタケ! `!BJM!b8! イヌエンジュ! ^マメ科_!`!4:J8! セイヨウニワトコ! ^スイカズ ラ科_!`!44J8! ニワトコ! ^スイカズラ科_!`!OcJLb8! キカラスウリ! ^ウリ科_!`!?;JLM8! イ ンゲンマメ8! サンドマメ! ^マメ科_!`!Y@J8! ホソバデイゴ! ^マメ科_!`!T@J!b8! トウゴマ8! ヒマ! ^トウダイグサ科_!`!?;JLY8! インゲンマメ8! サンドマメ! ^マメ科_!`!S4J8ヨウシ ュチョウセンアサガオ! ^ナス科_!`!X4MLbb8! ! ^マメ_!`!:?J8ラッパズイセン! ^ヒガンバ ナ科_!`!@'DJ8! タチナタマメ! ^マメ科_!`!X:J8! スノードロップ8! ユキノハナ! ^ヒガン /H! バナ科_!`!;;M8! アマリリス! ^ヒガンバナ科_!`!J@X8! ヤナギマツタケ`!OdM@b8! チュー リップ! `!R?M8! ムラサキモクワンジュ! ^マメ科_!`!OcJLbb8! キカラスウリ! ^ウリ科_!`! YYM!8マユミ! ^ニシキギ科_!`!JRJ8! マッシュルーム! `!MYM8! トマト! ^ナス科_!`!4OM8! ジャガイモ! ^ナス科_!`!aSJ8! イラクサ! ^イラクサ科_!`!?QB8! ヨウシュヤマゴボウ! ^ヤマゴボウ科_!`!c($(#*D8! ジャックフルーツ8! パラミツ! ^クワ科_!`!?:J8! ジマメ8! ナ ンキンマメ8! ピーナッツ8! ラッカセイ! ^マメ科_!`!QEJ8! ノダフジ8! フジ! ^マメ科_!`! J@J8! アマランサス8! センニンコク8! ヒモゲイトウ! ^ヒユ科_!`!B?J8! アメリカハリグ ワ! ^クワ科_!`!;?J8! エスカルゴ! `!NNM! ケヤハズエンドウ8! ビロードクサフジ8! ヘア リーベッチ^マメ科_!`!SRJ8!^マメ科_!`!4RJ8! ダイズ! ^マメ科_!`!@(#6"V(8! ! ヒロハヒル ガオ! `?OMLb8! ! シカクマメ^マメ科_!`!BJM!bb8! イヌエンジュ! ^マメ科_!`!QXJ8! パンコ ムギ8! フツウコムギ! ^イネ科_!`!X4ML#!J08! バンデリアマメ! `!X4ML#!R08! バンデリアマ メ! ! マウスおよび CAWS 血管炎の誘発 4-5 週齢の雄の DBA/2 マウスに CAWS または CAWS727 4 mg を 5 日間腹腔内に投与後, 3 週目のマウスを屠殺し,心臓組織切片の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE)にて 染色した(日本 SLC に委託).標本はオールインワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan) により観察・撮影した.実験動物の取り扱いは東京薬科大学実験動物取り扱い規約に従っ た. 1次元および 2 次元 NMR スペクトル分析法 One- or Two-dimensional nuclear magnetic resonance (NMR) spectroscopy 常法に従い CAWS のサンプルを重水(D 2 O)中に溶解し,凍結乾燥によってプロトンを除 去した.NMR スペクトルはそれぞれのサンプルを 10mg/mL の 323 K の重水中で溶解し, NMR 分析器(Bruker Avance 600 MHz NMR Spectrometer, USA)を用い,1 H の検出には TXI xyz-three gradient probe を,13 C の検出には BBO z-gradient probe を使用した.データの解析 には専用の解析ソフト(XWinNMR)を用いた. マウス骨髄由来樹状細胞(BMDCs)および脾臓細胞からのサイトカイン産生測定 マウス脾臓細胞は脾臓を摘出後に細胞懸濁液を調製し,BMDC (Bone Marrow Dendritic Cell)はマウスの骨髄細胞を常法により分離し, 既報 70) に従い IL-4 および GM-CSF 添加し て BMDC に分化させた. BMDCs および脾臓細胞に CAWS, CAWS727 を添加し培養した. 培養後,24,48,72,96 時間で上清を回収し, TNF-α用1次抗体(BioLegend)および IL-10 用 1次抗体 (BD OptEIA)を用いて ELISA 法にて測定した. C andida マンナンの抗原性 /I! カンジダ抗体検出用キット, ユニメディ「カンジダ」モノテスト (Unitika, Amagasaki, Japan)を用い,添付文書に記載された方法にて解析した. 統計学的処理 サイトカイン産生量については,CAWS 未処置群と CAWS727 処置群間で数値データを Student の t 検定にて検定し,P < 0.05 を有意差ありとした. 07! 第1節 Cy3 標識した CAWS とラミニン(laminin)の糖鎖プロファイリングとレクチンア レイにおける競合性の検討 1. Cy3 標識 CAWS のレクチンアレイ結合性 これまでの報告で,CAWS が示す様々な生物活性や毒性には Į マンノース(αMan)の 糖鎖ユニットが重要である事が示唆された.CAWS は自然免疫受容体である dectin-2 のリ ガンドであり,dectin-2 はCタイプレクチン受容体に属する構造を有している 18, 71) .そこ で,種々のレクチンとの反応性を比較検討することで,CAWS の構造上の特性がさらに明 確にできる可能性がある.ここでは,最近開発されたレクチンアレイシステムを用いて CAWS 糖鎖の特徴を明らかにすることとした.まず CAWS を Cy3 標識し,精製した標識 体のレクチンアレイでの反応性を種々の濃度で比較検討した. 代表的な結果を Fig. 3-1 に示した. レクチン反応性はいくつかのパターンに分類するこ とができ,NPA, GNA, HHL, UDA は最も低濃度の CAWS でも強い結合が維持された.これ ら の レ ク チ ン が 認 識 す る 糖 鎖 の 特 異 性 は 以 下 の よ う に 報 告 さ れ て い る ; NPA (High-0DQQRVH0DQĮ-6Man),GNA(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man),HHL(High-Mannose, 0DQĮ-0DQ0DQĮ-6Man),UDA(*OF1$Fȕ-4GlcNAc, Mixture of Man5 to Man9).これら はいずれも,high-mannose タイプの糖鎖を認識するものであり,CAWS の糖鎖構造を反映 した結果といえる. また,LCA, PSA, ConA は広い濃度範囲で CAWS への中等度の結合親和性を示した.各 レクチンは以下の糖鎖構造を認識すると報告されている;LCA()XFĮ-*OF1$FĮ-D-Glc, Į-D-Man ), PSA ( )XFĮ-*OF1$F Į-D-*OF Į-D-Man ), ConA ( High-Mannose, 0DQĮ-0DQĮ-3)Man).これらも Į0DQ もしくは high-mannose 糖鎖を認識するレクチン であった. また ,STL, LEL は 高 濃度で 強く 反応 した が, 低濃度 では 著し く 結 合性 が低下 した. GSL-II, DSA はさらに弱い結合性であった.これらのレクチンの糖鎖結合性の特徴は以下 の通り;LEL(GlcNAc trimers/tetramers),STL(GlcNAc oligomers, oligosaccharide containing GlcNAc and MurNAc),GSL-II(agalactosylated tri/tetra antennary glycans, GlcNAc),DSA (*OF1$Fȕ-Q*DOȕ-4GlcNAc).いずれも GlcNac 構造を認識するタイプであった. 0-! Fig. 3-1 レクチンアレイシステムによる Cy3 標識 CAWS の各種レクチンに対する結合 親和性の比較 Cy3 標識 CAWS を LecChip 上に重層し,反応させたのちに,エバネッセント蛍光を 測定した. 各レクチンの結合親和性(蛍光強度)は CAWS の濃度を横軸に展開して表記 した.NPA, GNA, HHL, UDA は低濃度の CAWS と結合し,高親和性を示した. 0.! 2. Cy3 標識ラミニン(laminin)のレクチンアレイ結合性 CAWS 血管炎の主要な病変部は血管壁であり,強い好中球の浸潤が起き,弾性線維を含 めた血管構造の著しい破壊が起こるとともに,平滑筋の異常増殖を伴う血管のリモデリン グが起きる.CAWS 血管炎の病変部では基底膜や中膜弾性板で著しい炎症性細胞の浸潤を 認める,これは細胞外マトリックスを構成する成分に対する免疫学的な応答が生じている とも考えられ,この過程で結合組織や血管構造のリモデリングに影響している可能性があ る.また,組織再生部位には多くの増殖因子などが局在するなど,様々な分子が高次に制 御された反応が進行する. CAWS がこの過程にも影響を与えるかどうかを知るために, 結合組織における多機能性の糖タンパク質であるラミニン(laminin)をに注目し,ラミニ ンに含まれる糖鎖と CAWS の糖鎖プロファイルを比較した. ラミニンは細胞外マトリッ クスで基底膜を構成する糖タンパク質の一つであり,細胞間の接着や遊走,増殖に深く関 与しており,基本骨格となるタンパクに複数の糖鎖結合部位を持つ.また,その糖鎖構造 は細胞のがん化や転移,ある種の筋ジストロフィーで変化することが知られている 72, 73) . 全分子量の 10−30%に N-結合型糖鎖を含み,糖鎖合成阻害剤を用いた研究から細胞の進展 に重要であるとの報告がある.ラミニンは Į,ȕ,Ȗ 鎖から構成されるヘテロトリマーであ り,基底膜の細胞外に局在する.いずれの鎖もアイソフォームを有し,様々な組み合わせ の高分子構造を構築している. CAWS と同様にラミニンを Cy3 標識し,レクチンアレイにて結合性を解析したところ, アレイ全体の中で 3/4 にも及ぶレクチンと強い結合性を示した.中でも RCA120,ACG, PHAE,UDA,DSA,LTL,MAL は最も低濃度のラミニンとも強く反応し,高親和性を示 した.各レクチンが認識する糖鎖の特異性 は以下の通り ; RCA120(*DOȕ-4GlcNAc), ACG(6LDĮ-*DOȕ-4GlcNAc),PHAE(bi-antennary complex-type N-glycan with outer Gal and bisecting GlcNAc ), UDA ( *OF1$Fȕ-4GlcNAc, Mixture of Man5 to Man9 ), DSA (*OF1$Fȕ-Q*DOȕ-4GlcNAc),LTL()XFĮ-*DOȕ-*OF1$F)XFĮ-*DOȕ-4GlcNAc), MAL(6LDĮ-*DOȕ-4GlcNAc).これらのレクチン類は Gal-GlcNac 配列を部分構造に持つ 複合型糖鎖構造を主に認識するレクチンであった(Fig. 3-2). 0/! Fig. 3-2 レクチンアレイシステムによる Cy3 標識ラミニンの各種レクチンに対する結 合親和性の比較. Cy3 標識 ラミニンを LecChip 上に重層し,反応させたのちに,エバネッセント蛍光 を測定し,各レクチンの結合親和性(蛍光強度)をラミニンの濃度を横軸に展開して表記 した. 00! 3. Cy3 標識ラミニンのレクチンアレイ結合に対する CAWS との競合性 CAWS とラミニンのレクチン結合における競合作用について検討するために,Cy3 標識 ラミニンに高濃度の CAWS を添加した.Fig. 3-3 に全レクチンに対する阻害率を相対強度 で示した..その結果,PSA, LCA, GSL-II, NPA, ConA, GNA, HHL, UDA に対する結合性で CAWS は Cy3 標識ラミニンのレクチンへの結合に競合した. Fig. 3-3 Cy3 標識ラミニンと各種レクチンの結合に対する CAWS の競合反応 Cy3 標識ラミニンと CAWS を混合し,LecChip 上に重層し,反応させたのちに,エ バ ネ ッ セ ン ト 蛍 光 を 測 定 し た . CAWS 濃 度 は 十 分 に 飽 和 さ せ る た め に , 最 大 濃 度 の 1600ng/mL を用いた.値は, CAWS 非添加の場合の蛍光強度を 100%としたときの,CAWS 混合時の蛍光強度の割合(%)で示した. 01! 次に,低濃度の @JQ4 溶液(-77!L!/A-.1!D+G,M)を調製し,相対強度を比較した ところ,特に :?J8!X:J8!;;M では .1!D+G,M 前後の低濃度でも強い抑制効果を示し た. 各レクチンが認識する糖鎖の特異性を以下に示した; NPA(High-Mannose, 0DQĮ-6Man),GNA(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man),HHL(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man, 0DQĮ-6Man).いずれも,high-mannose タイプの糖鎖を認識するレクチンであり,CAWS の活性中心と推測される糖鎖構造とラミニン糖鎖の結合は強く競合した. Fig. 3-4 Cy3 標識ラミニンと 各種レクチンの結合に対する CAWS の競合性比較 Fig. 3-3 にて競合性を認めたレクチンのみを選択し,Cy3 標識ラミニンと異なる濃度の CAWS を混合し,LecChip 上に重層して反応させたのちに,エバネッセント蛍光を測定し た.値はレクチンごとに,CAWS の濃度を横軸に展開して表記した. 02! 第2節 CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較,および NMR スペ クトルの比較検討 1. CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較 C . albicans を種々の条件で培養し,CAWS 様多糖を調製して活性を比較した結果 20) ,pH 7.0,27℃の条件下で得られた多糖 (CAWS727) は CAWS と活性が著しく異なっていたた め,その構造的と活性の関連について検討した.CAWS および CAWS727 の血管炎惹起活 性の相違は,高感受性の DBA/2 系マウスで顕著に認められる. Fig. 3-5 に示した通り, CAWS727 では大動脈弁周囲や冠動脈起始部に炎症性変化がほとんど認められない.この ように活性が大きく異なる両者の構造上の類似点と相違点を解析する目的で,カンジダ感 染症の診断補助を目的として既に応用されているカンジダ・マンナン特異的血清抗体 (Unimedi)を用いて,診断用ポリクローナル抗体に対する抗原性をみた. Umimedi に対 する抗原性は競合サンドイッチ ELISA 法によって評価した.まず,CAWS または CAWS727 を ELISA プレート状に固定し,これに相反するマンナンを可溶性抗原として液相に混合, カンジダ・マンナン特異検出用抗体によって検出した. Fig. 3-6 に示した通り, CAWS と CAWS727 は濃度依存的に競合し,診断用抗体に対しては類似した抗原性を有すること が明らかとなった. この結果から,同じ質量の CAWS と CAWS727 は免疫化学的にもほ ぼ等価の濃度を含んでいると考えられ,基本的なマンナン構造は互いに類似していること を強く示唆した. 03! Fig. 3-5 DBA/2 マウスにおける CAWS および CAWS727 投与後の心血管組織の比較 CAWS または CAWS727(4 mg/mouse)を DBA/2 マウスに投与し,投与後3週目の組 織切片を HE 染色して組織像を比較した. 上図はそれぞれの左冠動脈分岐部の拡大像 を示した.CAWS 投与群では著明な炎症性細胞の浸潤により,大動脈および冠動脈に 顕著な病変が認められるが,CAWS727 投与では炎症性病変が認められない. 0H! Fig. 3-6 診断用抗カンジダマンナン抗体に対する CAWS および CAWS727 の抗原性 CAWS または CAWS727 で ELISA プレートをコートし,抗カンジダマンナン特異的 血清抗体 ³ユニメディ´を用いて ELISA 法にて検出した. (A) CAWS をコートした ELISA プレート(固相 CAWS)に溶解した CAWS または CAWS727 を加え,血清抗体 を加えて反応させた.液相を洗浄除去した後,固相と結合した血清抗体を二次抗体で 検出した.液相に加える CAWS または CAWS727 の濃度を変化させ,横軸に展開した. 0I! 2. CAWS および CAWS727 の NMR スペクトルの比較検討 さらに,より正確なマンナン構造を把握するために,CAWS と CAWS727 の NMR スペ クトルを 1 次元および 2 次元 NMR 法で比較した. Fig. 3-7 に示した通り, 4.4-5.4 ppm のケミカルシフトでは,いくつかのクロスピークが認められた. 特に CAWS727 では,4.84, 4.85 および 5.13 ppm のケミカルシフトの起源については Tada,Shibata らの報告 74, 75) によ れば,ȕ-1,2-mannosyl 結合由来と考えられる. これは,カンジダ抗原の血清因子,第 5 因 子と第 6 因子に対する反応性の変化とともに CAWS727 における ȕ-1,2-mannosyl 結合の有 意な増加を強く示唆している. 一方で 5.05 ppm のシグナルは Į-mannosyl 残基を反映して おり,CAWS727 ではこのシグナル強度の減弱を認めていることから,CAWS727 の構造は CAWS と比して ȕ-1,2-mannosyl 残基が増加するとともに Į-mannosyl 残基が減少すると推測 された. Fig. 3-7 CAWS と CAWS727 の NMR スペクトルの比較 CAWS と CAWS727 の 1 次元および 2 次元 NMR スペクトルを示した. アセチル化し たサンプルを 1 次元 NMR にて解析し, 2D-NMR スペクトルは CH-COSY による解析 によって得られた結果を展開した. ▽ ;β-mannosyl 基に由来するクロスピーク, ▼ ; α-mannosyl 基に由来するクロスピーク. 17! 第 3 節 マンナン構造の相違による活性の相関と CAWS727 の炎症抑制メカニズムについて の解析 1. CAWS および CAWS727 による TNF-Į 産生量の比較 CAWS は自然免疫受容体の 1 種である dectin-2 のリガンドであることは先に述べたが, dectin-2 はおもに樹状細胞やマクロファージに発現しており,FcR-Ȗ との会合でシグナルを 細胞内へ伝達していると考えられている. CAWS および CAWS727 の免疫賦活性を比較す る目的で,DBA/2 マウス骨髄由来の樹状細胞を作製するとともに脾臓細胞の培養液中にそ れぞれのマンナンを加え,これらの細胞から生成されるサイトカイン量を比較した. Fig. 3-8 に示した通り, BMDCs と脾細胞の培養液中では CAWS 刺激によって著しい TNF-Į 濃 度の上昇を認めたが,CAWS727 では TNF-Į 濃度はほとんど上昇しなかった. Fig. 3-8 脾臓細胞および骨髄由来樹状細胞(BMDCs)の CAWS 刺激による TNF-α産生 DBA/2 マ ウ ス の 脾 臓 細 胞 お よ び 骨 髄 由 来 樹 状 細 胞 ( BMDCs ) を CAWS ま た は CAWS727 で刺激し,48 時間後に培養液中の TNF-α産生量を ELISA 法にて測定した. 1-! 2. CAWS および CAWS727 による IL-10 産生量の比較と CAWS727 による抗炎症作用の検 討 これまでの報告で,CBA/J マウスは CAWS 血管炎の誘導に対して強力な抵抗性を示し, CAWS 刺激後に,大量の IL-10 を産生することで,血管炎に対する抵抗性を示すことが示 唆されている. IL-10 は樹状細胞の成熟を抑制し,調節性T細胞が優位となって抗炎症性 を示すと考えられる 76) . 本実験系で,抗炎症性に対する IL-10 の関与を否定する目的で, Fig.3-9A に示した通り,CAWS または CAWS727 刺激はいずれも IL-10 を誘導しないこと が証明された. さらに CAWS727 を CAWS に混合し,脾臓細胞培養液中の TNF-Į 産生を検討したところ, Fig.3-9B に示した通り,加えられた CAWS727 の濃度に比例して CAWS による TNF-Į 生成 が有意に抑制された. これらの結果は,CAWS727 は血管炎の惹起活性が著しく低いとい う事実に加え,CAWS 血管炎に対する抗炎症作用を認めた. J! R! Fig. 3-9 各マンナンによる IL-10 産生と CAWS727 の CAWS に対する抗炎症活性 A; CBA/J マウスでの血管炎に対して抑制効果が報告されている IL-10 の産生を各 CAWS マンナンで検討した. B; DBA/2 マウス脾臓細胞を CAWS (20µg/ml) で刺激し, 誘導される TNF-α産生に対する CAWS727 影響を CAWS727 の濃度を変化させて横軸 に展開した (B), *; P < 0.05, **; P < 0.01 , ***; P < 0.001 1.! 第 4 節 レクチンマイクロアレイを用いた CAWS と CAWS727 のエピトープ構造の分析 CAWS の糖鎖構造の解析にレクチンマイクロアレイを用いたプロファイリングについ て述べた. 本節では,CAWS と CAWS727 のエピトープである糖鎖構造の変化をレクチ ン・アレイシステム(LecChip TM )によって解析し,蛍光強度を比較した. Fig. 3-10 に示 した通り,Cy3 ラベルした標準糖鎖のプローブでは,ほぼ全てのレクチンに対して結合す ることが分かる.さらに,マンナンとレクチン類との結合の競合を試験する目的で,標準 プローブと等しい濃度の 200ng/ml として,CAWS または CAWS727 を混合した. その結 果,Į-マンナンと特異的に結合する PSA,LCA,NPA,ConA,GNA と HHL の蛍光強度は CAWS の混合によって著明に減少した. 対照的に CAWS727 の混合によっても同様のレク チン類で競合を認めたが CAWS よりも,これは有意な減少ではなかった. これらの結果 は CAWS と CAWS727 のレクチン結合親和性に量的な相違があることを示唆した. さら に Į-マンナンに特異的な 6 種類レクチンを抽出し,CAWS と結合性のない 2 種類のレクチ ンを含む 8 種類のレクチンに対して標準糖鎖プローブに CAWS と CAWS727 の濃度勾配を つけて混合した. Fig. 3-11 に示した通り,Į-マンナンと特異的に結合する PSA,LCA, NPA,ConA,GNA と HHL の蛍光強度の阻害では,CAWS が CAWS727 よりも著明に高か った.この事実は,CAWS727 で Į-mannosyl 残基に特異的なレクチンとの結合親和性が著 明に減少していることを示しており,Į-マンナンを認識する dectin-2 と CAWS727 の親和 性も低下している可能性が極めて高いことが 糖鎖プロファイリング による解析でも強く 示唆された. 1/! Fig. 3-10 標準糖鎖とレクチンチップとの結合に対する CAWS および CAWS727 の競合(阻 害活性)の比較 上段は Cy3 標識標準糖鎖( 200 ng/mL )の各種レクチンとの結合性を LecChip 上に重層 し,反応させたのちに,エバネッセント蛍光を測定した.中段および下段は Cy3 標識 標準糖鎖に等濃度の Cy3 標識 CAWS または CAWS727 を混合し,各種レチチンとの結 合における阻害活性を解析した.値は蛍光強度で示した.CAWS または CAWS727 の 添加により,標準糖鎖と PSA, LCA, NPA, ConA, GNA, および HHL の各レクチンとの結合 が 競 合 に よ り 阻 害 さ れ た . こ れ ら の レ ク チ ン に 対 す る 競 合 性 は CAWS と 比 較 し , CAWS727 で弱まる 傾向を認めた. 10! Fig. 3-11 Cy3 標識標準糖鎖と 各種レクチンの結合に対する マンナン共存による競合反応 Fig. 3-10 にて競合性を認めたαマンナン特異的レクチン(PSA, LCA, NPA, ConA, GNA, および HHL)および競合性を示さなかったレクチン 2 種(AOL および AAL)をコントロ ールとして抽出した.Cy3 標識標準糖鎖と異なる濃度の CAWS または CAWS727 を混合し, LecChip 上に重層して反応させたのちに,エバネッセント蛍光を測定した.値は傾向強度 を示し,レクチンごとに,CAWS または CAWS727 の濃度を横軸に展開して表記した.α マンナン特異的レクチンとの競合(親和性)は CAWS と CAWS727 で著しく異なる. 11! 第3章 考察 真菌多糖は生体防御系に対する修飾作用を有し,細胞壁の主要構成成分である ȕ グルカ ンは古くから,腫瘍免疫の強化のために使用されてきた 77, 78) .ȕ グルカンと同様に真菌細 胞の主要な構成多糖である Į マンナンを比較すると,ȕ グルカンはヒトや哺乳動物の組織 には存在せず,植物や微生物に局在しているという特徴がある.したがって,ヒトにとっ ては本来非自己の成分である ȕ グルカンに対する受容体を介した生体防御系の活性化は, 宿主の免疫能と密接に関連していると考えることができる.その後の自然免疫研究の著し い進展により,これまでに complement receptor 3 (CR3), lactosylceramide, dectin-1 がβグル カンの受容体として報告されている れ 80) 78, 79) . Saijo らによって dectin-1 欠損マウスが作成さ ,ȕ グルカンの受容体であることが明確にされた.この研究の流れの中で, dectin-2 も Ariizumi らによって同時に発見された 81) .その後の研究によって,dectin-2 のリガンド は Į マンナンで,CAWS は,dectin-2 のリガンドであることも明らかになった 18) .これら のことから ȕ グルカンと Į マンナンは,真菌由来の代表的な病原体関連分子パターン (PAMPs)と考えられるようになった. PAMPs はパターン認識受容体(PRRs)によって認識され,自然免疫系が活性化される 82) .PRRs にはいくつかの受容体ファミリーが知られ,中でも Toll 様受容体(TLR)ファ ミリーは最も研究が進んでおり,病原体に含まれる特定の核酸モチーフや脂質構造,ポリ ペプチド構造等を認識している 83) .一方で,dectin-1 や dectin-2 は TLR とは別のファミリ ーを構成し,主に糖鎖構造を認識する C 型レクチン(様)受容体ファミリー(CLRs)に 属している.CLRs は共通構造としてレクチン様の糖鎖認識ドメインを持ち,特定の糖鎖 構造と結合することで,刺激を直接的に,あるいは FcRγなど他の分子との会合によって 間接的に細胞内にシグナルを伝達する 71) .CLRs の多くはマクロファージや樹状細胞表面 に多く発現しており,病原体の糖鎖構造を認識して貪食作用やサイトカイン産生などを誘 導すると考えられている. 真核生物の生体を構成するタンパク質のうち,実に半数以上は糖鎖の修飾をうけた糖タ ンパク質として存在しており,大部分が N-結合型または O-結合型の糖鎖付加を受けてい るとされる 84) . N-結合型糖鎖の前駆体は Glc 3 Man9 GlcNAc 2 によって構成される D1,D2, および D3 の 3 本のアームからなる high-mannose 型の基本構造を持つ.したがって, high-mannose 型多糖類はヒトや動物が有する糖タンパク質 の中でも 糖鎖の基本的な構造 を担っており,生体組織を構築する上で,様々な角度から関係している 85, 86) .本章ではレ クチンアレイによる糖鎖プロファイリングの手法を応用することで,CAWS を構成する多 糖類のうち,レクチンによって認識される high-mannose 型の糖鎖構造の特徴について詳細 に解析した.固相化したレクチンアレイと蛍光標識した CAWS との結合性をみると,Įマン ナ ン と 特異 的 に結 合 する レ クチ ン 類 と 強く 結 合し , CAWS の 糖鎖 は Į マ ンノ ー ス (Į0DQ)を多く含有していることが再確認できた. さらに,結合組織を構成する糖タン 12! パ ク 質 の 1 つ で あ る ラ ミ ニ ン に 焦 点 を 当 て , CAWS が ラ ミ ニ ン 糖 鎖 に 含 ま れ る high-mannose 型糖鎖とレクチン結合活性で競合することを明らかにした.ラミニンは結合 組織の主要成分であり,多くの糖鎖結合部位を持ち 87) ,様々な組織成分と結合して組織を 構築している .ラミニンに含まれる糖鎖構造はレクチン親和性クロマトグラフィー 等, 様々な角度から解析されており, 2-,3-,4-分岐複合型オリゴ糖鎖,ポリラクトサミン側鎖, high-mannose 型オリゴ糖が見出され,糖尿病などの病態で糖鎖構造が修飾を受ける可能性 も示唆されている 88, 89) .宿主のラミニン糖鎖と CAWS の糖鎖がレクチンの認識で競合す るため,Man 残基の構造類似性が自然免疫系の活性化の面で, CLRs における交差反応や 相互作用の要因となりうる.ラミニンの糖鎖と CAWS の糖鎖認識で,特に競合が強かった のは high-mannose 型の糖鎖を認識するレクチン類であったので,high-mannose 型の糖鎖構 造がレクチンによって認識され,生体構成糖鎖の交差反応を起こす可能性が最も強いと考 えられる.一方で,high-mannose 型の糖鎖構造はラミニンのみならず生体中には多数存在 するので,CAWS の糖鎖と生体を構成する糖鎖の相互作用や交差反応は他の糖タンパク質 にも起こりうると推測され,様々な場面で生体組織の構築を阻害し,安定した血管壁構造 の再構築に影響を与えている可能性がある. CAWS は単独でマウスに対する急性致死毒性と血管炎惹起活性を有しており, in vitro では dectin-2 を介して骨髄由来樹状細胞や脾臓細胞を活性化し,炎症性サイトカイン産生 をすることができる.一方で,CAWS727 単独ではそれらの活性は認めず,サイトカイン 産生能は極めて微弱である.CAWS と CAWS727 を比較すると,Table 3-1 に示したように 血管炎惹起活性をはじめ種々の活性に差が認められる. Table 3-1 CAWS および CAWS727 の生物活性の概要 CAWS CAWS727 Vasculitis ż ! Cytokine induction ż ?* Lectin binding ż ż Complement activation ż ! Acute toxicity ż ! *CAWS727 の単独刺激ではサイトカイン誘導は極めて弱いが,他の刺激との共存により 13! サイトカイン誘導を認める場合もある. さらに,CAWS 刺激によるサイトカイン産生を CAWS727 は濃度依存的に抑制する.これ は CAWS727 の活性が微弱なだけでなく,dectrin-2 依存の自然免疫系の活性化に対しては 抑制作用を示すためと考えられる.また,ConA を共存下に脾臓細胞を刺激すると,CAWS と ConA は部分的に相乗的に働き,さらに高濃度のサイトカインが産生される が,興味深 いことに,この作用は CAWS727 と ConA の共存下でも認められる(未発表). したがっ て,単独刺激では CAWS 727 は CAWS の作用に競合するが,CAWS727 の作用は状況によ って,アゴニストとしても作用する可能性がある.一方で,IL-10 は CBA/J マウスで CAWS 血管炎に対する抵抗性の大きな要因とされるが 76) ,本章における IL-10 産生の実験結果か らは,CAWS ならびに CAWS727 は IL-10 産生に影響を与えないと考えられ,CAWS727 の 抗炎症作用は IL-10 の影響を受けたものでないことが確認された. CAWS と CAWS727 の因子血清との反応性では,factor 5, 11, 13 の相対強度は著しく異な り,NMR スペクトルを比較すると,CAWS727 の構造に ȕ-mannosyl 残基の増加と Į-mannosyl 残基のわずかな減少が確認された.α-mannosyl 残基の減少はレクチンアレイを用いた解 析でも同様であり,レクチンの糖鎖認識機構が CAWS727 では減弱している可能性が高い ことを示した.CAWS マンナンの糖鎖構造におけるα-mannosyl 残基の減少と ȕ-mannosyl 残基の増加は,Į-マンナンに依存する dectin-2 との親和性を減少させ,結果として,炎症 性サイトカイン生成に伴う急性相反応と血管炎の惹起活性を抑制方向に制御する可能性 があることが示唆された. CAWS と CAWS727 の推定構造を Hobson や Tada,および Shibata らの報告 74, 75, 90) をもと に考察すると,CAWS は C andida マンナンの基本構造のうち,ȕ-mannosyl 残基が一部で欠 落した構造になっていると推定され,CAWS727 はほぼ野生型と同様の C andida マンナン の基本構造を有していると推定される(Fig. 3-12). また,この傾向は完全合成培地のみでなく,汎用培地( YPD 培地)でも認められる. YPD 培地の培養温度を 27℃と 37℃に設定して,C . albicans 菌体の熱水抽出画分 HWE を調製す ると,27℃で調製した画分では血管炎が生じない.このとき, CAWS727 で観察されたの と同様に ȕ-mannosyl 残基の増加が確認されている 88) .これは,YPD-27℃では培養開始時 に pH が維持され,ȕ-mannosyl 残基合成酵素の活性が維持されたためと考えられる. さら に,カンジダ属の他菌種についても検討し, C . m etapsilosis を完全合成培地で培養し,菌 体 外 多 糖 画 分 (CMWS) の 構 造 と 活 性 を 比 較 し た と こ ろ , 強 い 血 管 炎 惹 起 活 性 を 示 し , ȕ-mannosyl 残基は少なかった 91) .これらの結果からも,ȕ-mannosyl 残基は CAWS 活性を 負に制御しているものと推察された. 特に C andida の細胞壁多糖類の合成機構については,糖鎖の合成酵素や転移酵素が遺伝 子レベル間で詳細に研究されており 75, 92, 93) , Ueno ら の 報 告 で は , 遺 伝 子 操 作 で β -1,2-mannosyl 残基の合成を減らした C . albicans で野生型マンナンとマウスの樹状細胞に 1H! おけるサイトカイン誘導能を比較しており,β-1,2-mannosyl 残基を減らしたマンナンでは, IL-6,IL-12p40 および TNF-α等の炎症性のサイトカインの誘導が促進されたことを報告 している 94) . 本章で最も興味深い新知見は,ȕ-mannosyl 残基の増加は,自然免疫を介する炎症反応の 低下のみならず,αMan の持つ炎症惹起作用を抑制する作用を獲得する可能性があること を in vitro で初めて確認した点である. これは,CAWS の構造活性相関の解明のみならず, 糖鎖の修飾を創薬に応用することで,全く新しい機序の抗炎症薬や血管炎の発症や進展を 効果的に抑制する治療薬の開発に道を開く可能性があり,今後のさらなる解析が期待され る. 1I! !! Fig. 3-12 C . albicans 由来 N-結合型 mannoprotein(CAWS および CAWS727)の推定構造 N-結合型 mannoprotein は high-mannose タイプ糖鎖構を持つ多糖類で,複数の mannosyl 基転移酵素によって合成されており,α-およびβ-mannosyl 結合で構成されている. 自然 免疫系では,これらのマンナンは dectin-2 受容体やマンノース結合レクチン(MBL)と結合 する.CAWS のマンナン構造はβ-1,2-mannosyl 基が欠落(または著明に減少)した構造と 推測され, CAWS727 は通常型の mannoprotein 構造 (Hobson et al) 87) を持つと推測された. 27! 総括 CAWS 血管炎は急性相の炎症反応期から慢性期の血管病変形成期に移行し,炎症の誘発 後数週間の経過で病変が完成する. DBA/2 マウスでは血管炎に心機能不全を合併し,さ らに数週の経過で死亡する. この間には,様々な炎症や免疫反応が全身ならびに局所で 惹起されている.本研究ではこの過程を病理組織学的に観察し,局所の血管病変が DBA/2 マウスの生体に与える影響について,病態生理の面から経時的に解析した.さらに血管炎 発症機序について CAWS の構造と生物活性の相関に関する解析を加えた.その結果,左室 機能低下を合併する新しい病態モデルとして有用性と,さらに CAWS 血管炎の発症機序の 解明や血管炎を抑制する糖鎖構造に関する新たな知見を得た. CAWS 血管炎は病変局所のみで起こる現象ではなく,自然免疫の活性化をトリガーとし た全身性の炎症性応答が結果として,大動脈および冠動脈病変を生じ,さらに左室機能低 下をきたすと考えられる.個々の反応の関連性について十分に解析できていない点もある が,CAWS 血管炎の全体像を本研究によって得られた 新たな知見と既報を合わせて整理す ると,CAWS 投与後の全身的あるいは局所的な生体内反応は時系列で 以下のように記述さ れる(Fig. 5 に概要をシェーマで示した). E*+A!1!@JQ4 血管炎における生体反応の因子と経過! (※SRJG. マウスでのみ確認される現象)! 1) 超急性期∼急性期反応(投与後数秒∼数時間) CAWS 投与により,CAWS の主要な活性成分である high-monnose 型糖鎖が補体のレクチ ン経路を活性化し,その結果,アナフィラトキシンが産生される.自然免疫系では樹状細 胞とマクロファージに多く発現する C タイプレクチン様受容体のうち,α マンナンを認識 2-! して結合する dectin-2 を介する活性化シグナルが FcRγ分子との会合によって細胞内に伝 達され,多くの炎症性サイトカインが生成する 18) .炎症性サイトカインにより好中球をは じめとする炎症細胞が活性化され, 脱顆粒が起きて多数のメディエータ が産生される. Barrett らは 95) ,骨髄由来の樹状細胞を家ダニで刺激すると dectin-2 を介して Cys-leukotrien の産生増強が起きることを報告している.CAWS による樹状細胞からの脂質メディエータ ーの産生を直接は評価していないが,同様の反応が惹起されている可能性がある.これら のステップで,血管作動性の多数の低分子ペプチドや 脂質メディエーターが産生される. これらを受け,皮膚・粘膜の肥満細胞もアナフィラトキシン受容体を介して活性化・脱顆 粒し,ヒスタミンなどのメディエーターが全身へ放出され る.炎症性サイトカインのうち, TNF-αは特に高濃度に産生が認められ,TNF-αが血管内皮細胞の活性化を引き起こす. 血管内皮細胞では TNF 共存下で CAWS 刺激されると tissue factor (TF) の産生が高まり, thrombomodulin (TM) の産生が低下し,結果として血液凝固傾向が高まる.この過程で, 内皮細胞は障害を受け,血中に ICAM-1 が放出される 96) .これらのサイトカインや放出さ れたメディエーターにより,全身の血管で炎症が惹起され,いわゆる全身炎症の状態とな る.他方,肝臓では急性相反応物質の産生が高まる と考えられる. 2)亜急性期∼慢性期 血管内皮細胞は常に血流によってシェアストレスに曝されるが,大動脈起始部と冠動脈 開口部では早い血流と冠動脈分岐部で生じる血流の乱れによって,最も高い圧負荷がかか ると推測される 28) .結果的に,全身性の急性炎症反応は経時的に収束するが,最も負荷が 大きい大動脈起始部と冠動脈開口部の内皮細胞のは強く損傷を受け,長時間の内皮細胞障 害によって,ケモカイン等の走化性分子が産生され,好中球などの炎症細胞が局所に浸潤 する.炎症性細胞の浸潤は血管外側での遊走が顕著であるのは,走化性分子の濃度が血管 内腔では血流によって運ばれるため,外側と比べ低濃度になっている機序に基づく可能性 がある. 好中球はサイトカインの影響を受け,局所では長寿命となり,組織障害を起こす.障害 分子には,活性酸素,加水分解酵素,サイトカイン等の多種多様な分子がかかわる.本研 究の電子顕微鏡による観察では,血管炎の組織像に弾性線維の断絶が認められており,炎 症性細胞は顆粒球が主体であると推定される.また,ミエロペルオキシダーゼ(MPO)欠 損マウスでは,血管炎は殆ど形成されないので 97) ,血管炎の惹起に好中球が中心的な役割 を果たしていると考えられる.マクロファージや樹状細胞も炎症過程で関与する. CAWS を構成するα-マンナンは自然免疫受容体 dectin-2 のリガンドである 18) .局所で CAWS の α - マ ン ナ ン 構 造 が 組 織 を 構 成 す る 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス の 糖 鎖 構 造 の う ち , high-mannose 型糖鎖あるいは レクチン様受容体や結合タンパク との相互作用や交差反応 を起こし,血管炎の進展に寄与している可能性がある . 3)慢性期 2.! CAWS 血管炎はマウスの系統間で重症度に著しい相違が認められるが,DBA/2 マウスに 対する血管炎惹起作用は非常に強いので,重度の血管病変が大動脈弁の弁尖肥厚を来た し,さらに炎症性細胞の浸潤より心臓の内部構造に影響し,結果として大動脈弁口の 狭小化や左室流出路(MN=O)の狭窄を生じる.大動脈弁狭窄と MN=O 狭窄は,左室 に過剰な圧負荷をかけ続けるため,慢性的に左室の求心性心筋肥大を誘導する.肥大 した心筋の酸素消費量の増加と血管炎に伴う冠動脈病変のため虚血状態に陥り,虚血 によって肥大心筋は拡張相様の遠心性左室肥大に移行し,急激な左室機能低下が生じ て心不全死または致死的不整脈が誘発され突然死する可能性が高い.! 血管炎の発症機序としては,CAWS に含まれるマンナン構造のうち,特にαマンナンの high-mannnose 構造が重要であると考えられる.CAWS のαマンナンは C 型レクチン様レ セプター(CLRs)によって認識される. CLRs のうち,Dectin-1 と dectin-2 はいずれも真 菌 PAMPs を認識する重要な分子であるが 98) ,βグルカンに代表される dectin-1 のリガン ドは体内には存在しないか,あるいは存在しない可能性が高いため,主に非自己に対する 免疫の活性化機構を刺激するものと考えられる.これ に対し, αマンナンに代表される dectin-2 のリガンドは体内に多数存在する.本研究ではレクチン結合性の解析結果から, マウスの結合組織を構成する ラミニン などの糖鎖構造にもαマンナン が含まれているこ とが判明した.これは,自然免疫系の活性化が CAWS のαマンナンと共通の糖鎖構造を抗 原として認識し,自己組織の成分に対して反応性を獲得する可能性があることを示唆する ものである.本研究で明らかにした CAWS の high-mannose 型糖鎖の構造と機能について, CAWS 血管炎の誘導や病変の進展に関する分子論的な機序の解析がさらに進めば,血管炎 症候群の原因解明と治療方法の開発に貢献できると期待される. CAWS のマンナン構造と活性の関係では,β-1,2-mannosyl 残基の増加による血管炎誘導 作用の減弱と抗炎症作用の獲得が示唆された.β-1,2-mannosyl 残基が欠如した CAWS は, 天然型の mannoprotein に類似した構造の CAWS727 と比較して,α-マンナンの dectin-2 受 容体への結合親和性が強いと予想され,結果として,骨髄由来樹状細胞や脾細胞からのサ イトカイン産生は,CAWS で著しく強い産生能を示した.この反応は局所ならびに全身で の急性相反応のトリガーとなりうるので,これに続く炎症反応に大きく 影響していると考 えられる.すなわち,血管炎惹起の構造活性相関の一端は,dectin-2 受容体に依存したサ イトカイン産生能力に起因する可能性があり,CAWS727 では炎症性サイトカイン産生は 弱く,補体活性化能も示さない.CAWS727 による炎症細胞の活性化は起こりにくいので, 内皮細胞の活性化ならびに走化性分子の産生に至らず,シェアストレスの影響も受けにく く,血管病変の発症に至らないのではないかと思われる.共同研究者らは,ミゾリビンや 抗 TNF 薬(etanercept)を CAWS 血管炎モデルに投与し,血管炎が抑制されることを見出 している 99, 100) .これらのことも,急激な炎症性サイトカイン産生が血管炎発症に重要で あることを示唆している. 一方,このプロセスで血管炎の病勢に関わる 宿主側の種々の修飾因子も判明している. 2/! 例えば,血管炎は Nude マウスや SCID マウスでも惹起されるが比較的軽度であり,これ は,浸潤する細胞の活性化のレベルならびに種類に依存すると推定される.また, CBA/J マウスは CAWS 血管炎に対して抵抗性を示すマウスで,IL-10 を多量に産生する性質を持 つ.IL-10 は抗炎症性のサイトカインであり,このマウスが抵抗性を示す理由の 1 つにな っているものと思われる.さらに,IL-10 産生プラスミドをマウスに前投与し,血管炎惹 起を試みたところ,発症は抑制傾向を示したことから,IL-10 は血管炎に対して抑制的な 因子であることが示唆された 76) .また,Btk 欠損の CBA/N マウスでは IL-10 産生も抑制さ れており,結果的に血管炎は増悪傾向を示した 101) . 川崎病の患児糞便から分離された C andida 抽出物(CADS)を用いた血管炎モデルの作 成から始まった研究 9) は,マウスの病態モデルとして解析され てきた背景を持っており, 主な研究成果は血管炎の病因論に関して報告されてきた.その後,より血管炎の誘発活性 が強力な菌体外多糖(CAWS)に展開し,活性を決定する構造側の因子が明らかになって きた. CAWS 研究の成果は,微生物感染症または微生物由来の病原体関連分子パターン (PAMPs)が血管炎の発症に関与する可能性があることを強く示唆している.更に血管炎 発症に関与する CAWS の構造因子が分子論的に明らかになれば,C andida 感染症や C andida 成分と生体成分との相互作用が明確になり,ヒトの心血管病変との関連性や発症メカニズ ムに迫れる可能性がある. C andida 感染症をはじめとする深在性真菌症は,高齢化と易感 染性患者の増加に伴い,年々増加している.臨床現場における興味は, C andida 感染症や CAWS ヒトでも血管炎や弁膜症といった心血管病変の直接的な原因となりうるか,という 点にあるかも知れない. C andida はヒトの皮膚や粘膜の常在真菌であり,宿主の免役状態 によっては常に感染症となるリスクがある.細菌は原核生物であるが,真菌は真核生物で あるため,構成タンパク質や糖鎖構造の中にはマンナン類のように,動物組織の構成成分 と類似性の高いものも存在する可能性が高く,特に自然免疫系を介した生体防御系の撹乱 にも繋がる可能性がある.CAWS に相当する mannoprotein 構造がヒトの生体環境下でも生 成されるか否かは不明であるが,CAWS の生成条件(温度,pH の緩衝,限定された栄養 環境)は,生体内でも存在しうる.それは,ヒトを含む哺乳類の体内環境でも CAWS に相 当する成分が生成される可能性があると考えられる.Sargent らによれば 102) ,小児白血病 患者の全身性 C . albicans 感染症において,消化管組織での壊死性血管炎が報告されている. この報告では,肝臓の膿瘍病変には C . albicans 菌体を認めたが,壊死性血管炎が確認され た消化管の病理組織には菌体が証明されず,菌体から放出された可溶性成分と血管炎発症 の関与が示唆されており非常に興味深い. 循環器疾患の中でも血管炎や左室機能不全は難治性疾患であり,標準的治療の範囲内で は治療に難渋することも多い.これらの循環器疾患の治療では,多剤併用療法が日常的に 行われており,薬剤師の役割は極めて重要である.申請者は長年にわたって循環器疾患の 専門病棟で病棟専任薬剤師として勤務し,治療抵抗性を示す患者に多く接してきた.特に 薬剤抵抗性を示す末期心不全の治療は非常に困難で,場合に よっては適応外使用や試験的 20! プロトコールが試みられることもある.保険適応がない試験的治療には,前臨床段階の基 礎データによる裏付けが必要であるが,それには優れた動物モデルの存在が不可欠である. DBA/2 マウスの CAWS 血管炎は CAWS の腹腔内投与のみでほぼ全例に発症する.本モデ ルは血管炎のモデルであるとともに,心不全モデルとしても有用である可能性が高く,同 時に多数の個体でほぼ同じ程度の重症度の疾患が作成できる.加えて,CAWS の投与量で 重症度を制御することができ,外科的手技や遺伝子操作を必要としないため,実験者の手 技的因子による重症度の個体差が生じにくい. CAWS 血管炎では慢性心不全を合併して 一定期間を経てから急速に生存率が低下し,未治療のままでは全例が死亡する.この特徴 は標準的治療と試験的治療の効果を比較する場合,生存率の変化をみることにより,高精 度で治療の効果判定が可能な動物モデルであると考えられる.臨床研究では治療の介入に よる予後改善効果は最も重要なアウトカムである.したがって,CAWS 血管炎モデルは新 規創製の治療薬をはじめ,併用療法や治療プロトコールの検討にも極めて有用な優れたモ デル動物であると結論付けられる.実際に CAWS 血管炎の治療効果を確認する目的でレチ ノイン酸誘導体や抗 TNF 薬等の治療薬を投与した報告があり 100, 103) ,心不全治療薬のカル ベジロールやアンジオテンシン受容体拮抗薬など を投与し,治療の介入による生存期間の 変化を観察する試みも進行中である.CAWS 血管炎モデルは作成が簡便な循環器疾患の動 物モデルであるため,基礎研究のみならず教育においても,難解な循環器疾患の病態生理 を理解する上で有用と考えられ,薬学における臨床・教育・研究のいずれの領域にも 応用 が可能である. 21! 謝辞 本研究にあたり,終始懇切なるご指導を賜りました,恩師,東京薬科大学免疫学教室, 大野尚仁教授,ならびに東京薬科大学臨床薬剤学研究室,太田伸教授に心より感謝の意を 表します. 本研究にあたり,病理組織標本の観察と評価におきまして,終始懇切なるご指導を賜り ました,長野赤十字病院検査部,故 羽田悟部長に厚く感謝いたします. また,終始ご助言とご協力を頂きました,安達禎之准教授,三浦典子講師ほか免疫学教 室の皆様に深く感謝致します. また,動物飼育にご協力頂きました,東京薬科大学動物実験棟の皆様, NMR 分析をし て頂きました東京薬科大学中央分析センターの皆様,心臓切片を作成して頂きました日本 SLC の皆様,心臓超音波エコー検査にご助力をいただきました ALOKA 株式会社様に厚く 御礼を申し上げます. 本研究ならびに本論文作成の機会をいただきました,長野赤十字病院 清澤研道院長, 山崎茂薬剤部長,ならびに中澤一純前薬剤部長に厚く御礼申し上げます. また,本研究の遂行にあたり,絶えずご親切なるご指導とご鞭撻を賜りました,長野赤 十字病院循環器病センター循環器内科,吉岡二郎センター長兼副院長ならびに臼井達也副 部長に心より感謝いたします. 最後に,本研究にあたり,終始懇切なるご助言,および実験の直接指導とご協力を頂き ました石橋健一助教に御礼申し上げます. 22! 論文目録 本研究は,以下の報告を中心にまとめた. 1. 平田尚人,石橋健一,太田伸,羽田悟,篠原弘靖,喜多村美緒,三浦 典子,大野 尚 仁 C andida albicans 培養液中の可溶性多糖画分(CAWS)によって DBA/2 系マウスに惹起 される血管炎の病理組織学的検討と致死毒性の解析 . Yakugaku Zasshi. 126:643±650, 2006 (第 1 章および第 2 章の一部) 2. Hirata N, Ishibashi K, Usui T, Yoshioka J, Hata S, Adachi Y, Miura N, Ohta S, and Ohno N. A Model of Left Ventricular Dysfunction Complicated by CAWS Arteritis in DBA/2 Mice. Int J Vasc Med . 2012, 570297. (第 1 章の一部および第 2 章) 3. 平田尚人,太田 伸,大野尚仁.病原性真菌 C andida albicans 由来の血管炎惹起性多糖, CAWS のレクチン親和性の解析.医学と生物学. 157,123-133,2013 23! (第 3 章) 引用文献 1) World health organization (WHO); The 10 leading causes of death by broad income group (2008) : http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs310/en/index.html# 2) Swirski FK, Nahrendorf M. Leukocyte behavior in atherosclerosis, myocardial infarction, and heart failure. 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