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有機的デザインとコルビュジェ
建築史レポート No.2 有機的デザインとコルビュジェ R05082 増田 泰堂 1.はじめに 今回の課題で、なぜ私が近代建築の3巨匠のうちコルビュジェを選んだのか。それはコ ルビュジェのロンシャン教会(写真1)の有機的デザインに興味を抱いたからだ。授業で配布 されたプリントのいかにも数学的なコルビュジェの作品群の中に唐突に現れたこの教会は 強く印象に残った。しかもこのフリーハンドでデザインされているかのような外観までも が、実は代数・幾何などの単純な数式の組み合わせによって処理されている(写真2)という 事実に私は驚かされ、さらに興味を抱いた。 そこで今回のレポートにおいて私は「計算された有機的デザイン」をサブテーマに、近 代建築と現代建築の関わりを分析する。 左:写真1 右:写真2 ( 1,2 ともに建築史 授業用 PowerPoint より抜粋) 2.比較する現代建築 ― 横浜港大さん橋国際客船ターミナル ― 今回はロンシャン教会と比較する現代建築として横浜港大さん橋国際客船ターミナル(次 ページ写真3)を選んだ。この2002年に完成した建築の外観は非常に有機的なデザイン である。大地がそのまま盛り上がり、波打って海に突き出でていてまるで公園のようだ。 ロンシャン教会は一度に多くの巡礼者を迎えつつ、静かな祈りの場を確保しながらも周 りの風景に調和するという多くの要求を叶えるようデザインされている。同じようにこの 大さん橋も多くの要求を満たすデザインが求められ、1994∼1995年に行われた国 際デザインコンペによってイギリス在住の建築家、アレハンドロ・ザエラ・ポロ、ファッ シド・ムサヴィ両氏の作品が選ばれた。 写真3(転載元 HP はすでに存在しない) では彼らのデザインにはどのような計算か隠されているのだろうか。 3.分析 彼らのコンペ案には「カードボード」という新しい構造コンセプトが添えられていた。 これはコルビュジェによる「ドミノ方式」の発展ともいえる構造だ。単純にいうと柱・梁 を必要とせず、天井と床を成す折り畳まれた面が荷重をそれ自身に沿って斜め方向に地面 へと伝えるのだ。この設計コンセプトは非常にシンプルな数式で成り立っており、その点 でコルビュジェの設計思想に通じている。 この構造によって桟橋にありがちな、行くか、戻るかという方向のみの動きがなくなり 施設全体を回遊するかのような流れが生まれ各施設の連続性が高まっている。また素材の 種類を減らすなどの工夫でさらに連続性を強調しつつも、緩やかなスロープでつながった 各階は同時にその機能において差異化されており、出入国ターミナルとしての機能には問 題がない。 カードボード構造のモデル 上:立面図 左:断面図 さらに、大さん橋はコルビュジェの提唱した「近代建築5原則」も満たしている。この 5原則は現代建築において住宅に対してよりも、ビルなどの大型構造物に対して当てはめ られるようになった。 ①「ピロティ」 大さん橋では「カードボード構造」により1階が大きな駐車場 として確保され、また入り口正面から建物を見た際に左右に飛び 出た2階のフロアが建物全体に軽快さをもたらしている。(写真4) 写真4 (GA JAPAN 57 より) ②「水平横長の窓」 これは2階の各入り口及び左右の壁面を強化ガラスによって構成することにより実現し ている。これにより巨大な天井の圧迫感が薄れ、外との繋がりが生まれている。 ③「自由な平面」 この章の最初で述べたように「カードボード構造」による大空間によって自由度の高い フロアになっている。また、各フロアをつなぐ緩やかなスロープによってバリアフリーも 実現している。 ④自由なファサード 左の写真は写真1の正面入り口部分の拡大であるがマ ンタの口のようなデザインになっているのが分かるだろ うか。聖ピエトロ寺院の正面に似た奥に広がる、包み込 まれるような入り口と左右のスロープは正面に立ったと きに建物の大きさを強調し、また木材による曲線が美し さを引き立てている。 ⑤屋上庭園 入り口わきのスロープから先端まで続くうねった木の床の屋上送迎デッキ(次ページ写真 5)は、この大さん橋最大の外見的特徴だ。大さん橋が横浜のウォーターフロント、山下公 園と赤レンガ倉庫の中間に位置していることから考えても観光スポットとして必要不可欠 である。 芝生のみで木が植えられていない ため庭園というよりは公園であるが、 それは強い海風で木が育たないため と、このパノラマをさえぎらないた めだ。 また一部には屋外ステージとして 使用できる部分があり、人々の集ま る場所となる。 最近の屋上庭園は昔と違い、ヒー トアイランド対策の側面も持ち合わ 写真5 (転載元 HP はすでに存在しない) せている所も増えてきているが、こ の公園は純粋に人々の集まる場とし て機能している。 以上のように横浜大さん橋では、 ・単純な数式の組み合わせによって曲線を処理している点 ・ドミノ・システムの発展型が用いられている点 ・「近代建築 5 原則」が基本となっている点 の3点から、ル・コルビュジェがいかに現代建築に強い影響を与えているかがわかる。 4.まとめ 今回のレポートの製作中にル・コルビュジェの有機的デザインはアントニオ・ガウディの 影響を受けている、という記述を発見した(GA JAPAN 57)。彼は実際にガウディの作品を 見に行ってメモを制作しているという記録が根拠になっているそうだ。確かに両者の建築 を見るとよく似ている。 コロイド曲線や放物線など具体的な方程式を用いたガウディのデザインは、コルビュジ ェによって抽象的な幾何学による数学的デザインに洗練された。これは近代、現代の建築 家に大きな影響を与え、後の建築デザインの幅を大きく広げるきっかけになったといえる。 そして現在それはコンピューター・グラフィックスによって生物学と結びつけられ、ま さに「有機的」といえるデザインが現れた。これからの建築はさらに自由なデザインが可 能になるだろう。そしてその幅は私たちが広げるのだ。 参考資料:建築をめざして (ル・コルビュジェ著) GA JAPAN 57 (A.D.A.EDITA Tokyo) Casa BRUTUS 2005 年 12 月号 (マガジンハウス) 建築の歴史 (学芸出版社) 横浜大さん橋国際客船ターミナル総合案内(http://www.osanbashi.com/) 2006年1月16日提出