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予言に託す変革の精神 −古代中国の予言と童謡 目次 一 予言の政治学
予言に託す変革の精神 −古代中国の予言と童謡 目次 一 予言の政治学 二 童謡の予言 三 熒惑(火星)と童謡 中国は予言の宝庫である。いずれの予言も神秘的・呪術的内容であるが、実は極めて政 治的な産物といわざるをえない。歴史書に記録されたさまざまな予言がリアルに、そして 雄弁に当時の政治や社会を物語ってくれる。 神秘的・呪術的といっても予言は占いと同じではない。占いが一般的・総括的な予測に よって将来の可能性や傾向を暗示するにとどまるのに対して、予言はあくまで個別的・具 体的な予見であるのみならず、その予見が現実となって始めて予言として承認されるもの だからである。 今日、予言といえば不吉・不健全・不合理・独善などが想起され、いかにも破滅的で非 建設的なイメージが強い。しかし、こと古代中国の予言にはそれはない。一見しただけで は破壊的とも読める予言であるが、実は不正を憎悪し正義を希求する健全な精神の現れで ある。時には極めて具体的に過激に個人攻撃するものあり、時にはあまりにも暗示的で理 解に苦しむものもあるが、どの予言にも安定した社会の実現をはかろうとする理想が見え 隠れしており、将来への期待や希望を託すものとなっている。そして、そこに込められた 期待や希望が紆余曲折を経て達成された時、それらは予言として認識され、人々の記憶に 鮮明に残り歴史に記録される。これが古代中国の予言の実相である。 ●禁圧できない童謡 中国の童謡に謳い込まれた予言の政治・社会批判は、まさに権力機構にとっては反逆的 行為であった。童謡は古代の占星術を取り込んで熒惑と結合し、その神秘性に拍車をかけ た。神秘の力を得た童謡はますます過激になり、より研ぎ澄まされた批判のメスで権力機 構に衝撃を与える。 ただ、神秘の予言によって権力を掌握した者にとって、予言はもろ刃の刃となる。新た な予言によって批判にさらされ、その地位を脅かされるからである。光武帝が利用した図 讖も、古代の占星術を発展させた星辰・星讖も、泰始三年(二六七)、晋の武帝が星辰讖緯 の学を禁止したのをはじめ、後趙の石虎・前秦の符堅らによってしばしば禁止されている。 しかしながら、図讖・星讖の学は禁圧できても、文字ではなく謳った時点で消滅する口頭 言語で流布する童謡は、人から人へと謳い継いでいくためその責任を追及できず禁圧する ことができない。童謡が中国で反体制知識人の武器として滅びることはなかった所以であ ろう。