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持続可能な発展と企業の社会的責任 - C-faculty
Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 持続可能な発展と企業の社会的責任 ―中国における和諧(調和)社会実現にむけて― Sustainable Development and Corporate Social Responsibility in China 葉 軍* YE Jun* Abstract China is targeted to achieve the sustainable development in globalizing market economy. The corporate social responsibility (CSR) is expected to be a effective scheme to promote the sustainable development. Some prominent Chinese firms and overseas company plan to initiate some CSR programs in China. The author attempts to make clear the function of CSR programs and to investigate the relations between the sustainable development and CSR. (中文)在经济全球化、一体化背景下,强化企业对社会的经济责任,提升企业核心竞争 力是不容置疑的。同时以法律形式规范企业对生态环境的保护、扶助社会弱势群体、支持社 区建设,使之行之有效地承担起一系 列社会问题的责任与义务,这是我国构建和谐社会、保持社会经济健康、持续发展的根 基所在。本文以此为研究视角,在对企业社会责任科学内涵界定的基础上,着重对我国企业 社会责任发展的进程、存在的问题进行了分析和阐述,最后提出了未来我国企业社会责任发 展应注意处理好的几大问题。 キーワード:企業の社会的責任 ダー市場経済体制 持続可能な発展のための中国経済人会議 2003 年 10 月に、持続可能な開発のため の 世 界 経 済 人 会 議 WBCSD(The World Business Council for Sustainable Development )との交流を経て、中国企業 による組織、持続可能な開発のため中国経 済 人 会 議 CBCSD(The China Business Council for Sustainable Development : 中国企業連合会持続可能な発展のための商 工理事会)が発足することによって本格化 した。その主な目的は、エネルギーと気候、 クリーンな発展メカニズム、商工業の役割、 企業の社会的責任および健康安全と環境と いう 5 分野での新たな挑戦に対応すること ステークホル であり、最終的には経済、環境および社会 が調和する持続可能な発展を成し遂げるこ とである。企業の社会的責任はその目的実 現のための核心を形成する概念であり、他 の 4 つの分野における国際交流と協調を牽 引する役割を果たす。したがって、中国に とって、企業の社会的責任の展開は重要な 意味をもつ。 1 企業の社会的責任の概念 1953 年に、H.B.Bowen はその著書『企業の 社会的責任(Social Responsibility of *天津理工大学教授 *Professor of Tainjin University of Technology 日本語訳 朱珉 中央大学兼任講師 1 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 Businessman)』の中で、 「ビジネスマンは社 会が期待する目標と価値にそって、政策の 制定や、決定および実施を行う義務がある」 と、はじめて企業およびその経営者が社会 的責任 を担うべきという理念を提起した。これを 契機に、企業の社会的責任について、各国 の学界の専門家によって多くの分野にわた ってさまざまな研究が行われた。近年、科 学技術の高度な発展にともない、持続可能 な発展が世界各国の関心事となり、企業の 社会的責任もますます注目されるようにな った。企業の社会的責任の概念について定 説はないが、先行研究を整理すると、大き く 2 つの流派に分けることができる。 ひとつはDavis(1973)をはじめとする流 派で、企業の社会的責任が社会的視点から 論じられた。たとえば、 「企業の社会的責任 に含まれているのは企業が経済的、技術的 および法律的要求以外の問題への考慮と反 応であり、・・・・・・法律的要求が終焉すると ころはつまり、企業の社会的責任が始まる ところである」と主張している。Carroll (1979・1983・2003)は社会が企業に対す る経済的、法律的要求を、その他の誘導的 な社会期待・関心と関連させ、さらに全面 的な定義を下した。彼女は「企業の社会的 責任は経済的責任、法律的責任、倫理的責 任および自由な意思決定あるいは慈善的責 任といった 4 つの分野が含まれている。収 益を求め、できるだけ売上げを伸ばし、コ ストを削減し、合理的な利息収入を得よう とするなど、適正な経営決断は企業の経済 的責任である。環境保護法、消費者の権利 に関する法、従業員保護法など、あらゆる 法律を遵守し、取引に関するゲームのルー ルを守り、契約の義務と承諾を履行するこ とは企業の法律的責任である。正義および 公平な倫理的に正しい行動をして、ステー クホルダーの利益を損なうことを避けるこ とは企業の倫理的責任である。自分の意思 で他人を援助し、コミュニティーの発展を 支援し、公共環境の改善に力を貸し、よい 企業市民になることは企業の慈善的責任で ある」と指摘している。彼女の定義は企業 の社会的責任の基本的内容を示し、企業の 社会的責任の全体像を総合的に認識するこ とに重要な意味を持つ 1 。 もうひとつはR.Edward Freeman(1984)を はじめとする流派で、企業運営の視点から 述べている。彼らは企業が主にステークホ ルダーに対して、経済的、法律的以外の社 会的責任を負うべきと主張する。たとえば、 「企業が社会的責任を果たすステークホル ダーが従業員、所有者、消費者、コミュニ ティーおよび政府の 5 つに大分類して、さ らにこの大分類を細分化した。従業員は女 性従業員、年長従業員、労働組合員、社会 変革を主張する従業員、所有者は個人出資 者、投資機構、株主総会のメンバー、消費 者は一般消費者、製品のリスク責任論者お よび消費者権利の積極的な主張者、コミュ ニティーは一般公衆、市民団体、環境保護 団体、政府は中央政府、州政府および地方 政府、が含まれていると論じられた。ステ ークホルダーの概念を明確にすることは、 企業が社会的責任を果たす際、個人あるい は団体といった考慮すべき具体的な対象像 を浮き彫りにし、社会的責任の内容を具体 化することに寄与した 2 。 企業の社会的責任は内容が多岐にわたり、 強制的な法律的責任もあり、自覚的な道義 的責任もある。この概念に関して研究者の 中でも理解が一致していないが、その核心 的な内容は、企業を単なる利益追求から、 社会的責任、環境保護など企業の市民義務 に転換させることだと、筆者は理解してい る。 中国の経済発展の現状から見れば、中国 における企業の社会的責任は以下のように 定義することができる。つまり、企業は経 済発展の基本ユニットとして、社会の全面 的発展に適応し、また発展を促進するため に、多方面のステークホルダーに対して、 すなわち、政府、生産財の所有者、消費者、 従業員、コミュニティー、競争者、供給者 1 余遜達・陳旭東「公衆視野中的企業社会責 任」『浙江社会科学』2006年第5期 2 余遜達・陳旭東、前掲論文 10 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 および社会的弱者などに対して、経済的責 任、法律的責任、倫理的責任および慈善的 責任を履行する。 よび個人発展の需要に対応できるようにす べきである。最後に、企業の従業員は団結 の自由と集団協議の権利を有する。企業は 従業員の選挙で組織された労働組合による 集団協議の権利を尊重しなければならない。 第四の内容は、企業の取引先および消費 者に対する社会的責任である。具体的には、 ①相互利益の原則に基づき、取引先と Win-Win 関係を築くこと、②透明、公平、 公正な競争原則に基づき、ライバルと競い、 非道徳的な手段による競争優勢の獲得をし ないこと、③消費者に対して、製品の品質 あるいはアフターサービスにおける保証を 履行し、安くてよい製品とサービスを提供 し、消費者の満足度を高め、消費者を欺く 手口で暴利を貪ることをしないこと、であ る。 第五の内容は、企業の社会に対する社会 的責任である。まず、企業は直接に慈善基 金を設立し、あるいは社会の慈善機構や福 祉機構に対して、お金や物を寄付し、企業 イメージや、一般公衆の企業に対する認知 度を向上させる。また、企業は広範囲に公 益事業の活動に参加し、企業の認知度を高 める。次に、持続可能な社会発展や環境保 全において、関連法律の規定により、企業 は資源をできる限り合理的に利用し、環境 への汚染を抑える。それと同時に、企業は 自身による資源浪費や環境汚染に対して、 相応な費用を負担すべきである。最後に、 コミュニティー建設において、企業は積極 的に地域活動に参加し、就職口や再就職口 を提供し、生活困難な人々を助けるべきで ある。 この 5 つの社会的責任のうち、実施方法 によって、2 種類に分けられるということ を強調しておきたい。ひとつは強制的な社 会的責任である。その具体例は、安全生産、 環境保護、資産価値の維持と増殖、納税義 務、従業員の福利厚生と社会保障などであ る。これらの社会的責任では政府の関連部 門が法律や法規および業種規定に基づく、 強制的に執行することに、企業が拒否でき ないのである。もうひとつは自発的な社会 的責任である。たとえば、公益事業、慈善 2 企業の社会的責任の基本的特徴 以上述べたように、一言でいえば、企業 の社会的責任は、企業が密接な関係を持つ ステークホルダーに対して相応の責任を負 い、関連法律の範囲内で、最大限度にステ ークホルダーの期待と要求を満足させるこ とである。現段階から見れば、中国におけ る企業の社会的責任は以下の 5 つの内容を 含んでいる。 第一の内容は、企業の投資者に対する社 会的責任である。これは企業のもっとも基 本的な責任である。具体的には、①利潤の 最大化により、企業の資産の保持と増殖を 実現すること、②投資者の合法的な利益を 損なわないように、資本の投資回収率を高 めること、③債務契約に従い、期限どおり に利息を支払い、債権者に安心を与えるこ と、である。 第二の内容は、企業の政府に対する社会 責任である。これも企業の基本的な社会的 責任である。企業は法律による規定の範囲 内で政府の介入と監督を受けなければなら ない。関連法律、法規を遵守し税金を納め、 いかなる理由があっても、脱税、申告漏れ などの違法行為をしてはいけない。 第三の内容は、企業の従業員に対する社 会的責任である。具体的には、まず企業は 従業員の福利厚生、安全、教育などに対す る義務を有する。企業は労働保護制度を整 備し、従業員に安全、衛生的な労働環境を 提供し、事故災害を事前に防ぎ、健康安全 教育を確実に実施しなければならない。次 に、企業は従業員(従業員本人およびその 家族)の福利厚生を重要視しなければなら ない。企業は賃金待遇や、医療保険、年金 保険、失業保険などの面において、直接あ るいは間接的に責任を負い、民族、社会的 地位、国籍、身体障害、性別などを理由に 差別してはならない。そして、企業は従業 員の再教育の義務があり、従業員の文化水 準と技術的素質を絶えず高め、企業発展お 11 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 事業などである。これらの社会的責任は主 に企業文化を元に展開されている。言い換 えれば、企業経営者の総合的な素質、特に 調和社会の構築に対する認識と理解の程度 によって大きく違ってくる。現在、多くの 企業はこの点に関して、まだ認識不足で、 効率性と公平性のうち、効率性に偏る傾向 が強い。これは各級の地方政府が企業に利 益の多寡を企業評価の主要指標とすること を誘導して、多くの企業が環境保護、従業 員の権利、安全生産などを省みず、利益ば かり追求することをもたらした。さらに、 一部の企業は環境保護などに対する投入を 最小限にし、自発的に社会的責任を展開、 推進するどころか、国家が強制的に推進し ている社会的責任を空文化している。した がって、現段階においては、企業の経営理 念を改め、社会的責任に対する理解を深め、 新しい企業の社会的責任の理念を確立する ことを早急に行わなければならない。 3 中国における企業の社会的責任の展 開過程 法治国家の構築と経済体制改革の加速に ともない、政府、社会、企業、特に CBCSD による共同努力のもとで、現在企業の社会 的責任は広範囲にわたって展開されている。 強制的な社会的責任と関連する法律体系は 基本的な部分が整備されている。たとえば、 「中華人民共和国税徴収管理法」、 「中華人 民共和国労働法」、「中華人民共和国鉱産資 源法」などがある。そして、企業の自発的 な社会的責任も徐々に認識され、取り組む 企業がますます増えている。たとえば、加 寧アルミ業有限会社、中国石油化学工業グ ループ、中国遠洋運輸グループ、中国シェ ルグループなどの企業は、 「希望小学校」の 建設や、奨学金基金の設立、公益性の基金 に寄付することなどを通じて、積極的に生 活貧困者や障害者を援助し、公益活動にお いて成果を挙げている。 そして、CBCSD の主な業績は以下の 4 つ である。 第一は、2007 年 7 月に、中国における初 めての企業の社会的責任報告国際フォーラ 12 ムを開催したことである。企業の社会的責 任報告書は企業が活動、製品およびサービ スを通じて生じた経済業績、環境保護業績 および社会的業績などの内容を含んでいる。 会議では、企業が社会的責任を履行する際 の重要な実践方式である企業の社会的責任 報告書について、自主的に外部への公表す る報告書の作成と編集などの問題に関して、 意見交換や検討が行われた。今回の会議は 6 つのテーマに分かれており、内容は国内 外企業の社会的責任報告の発展、企業の社 会的責任報告の背景と紹介、ハイレベルな 企業の社会責任報告書の作成方法、国内外 の企業の持続可能な発展の報告と経験交流、 CBCSD の「1+3」という企業の社会的責任 のプロジェクトに及ぶ。 第二は、 「中国企業の社会的責任推薦基準 とモデル実施事例」を作成したことである。 2005 年初めに、CBCSD は国家安全生産監督 管理総局の企画科学技術部の協力のもとで、 このモデルの作成を始めた。BP 社、ビーエ ーエスエフ(BASF)社、中国遠洋運輸グル ープ、シェルグループ、デュポン社、アル セロール社など、多くの会員企業が共同努 力、参加した結果、2006 年 11 月に完成し た。これは中国企業の社会的責任の展開が 規範化された段階に入ったことを示してい る。 第三は、正式に「1+3」という企業の社会 的責任のプロジェクトを発動したことであ る。2007 年に、CBCSD はビーエーエスエフ 社、中国石油化学工業グループ、ヴェオリ ア・ウォーター・チャイナ、デュポン社な ど、13 社の CBCSD の会員企業と 34 社の中 国国内の企業が参加した「1+3」プロジェク トを発動した。それと同時に、企業の社会 的責任の展開を深化するために、CBCSD は 社会的責任プロジェクトのチームを発足し、 理事企業であるビーエーエスエフ社、中国 遠洋運輸グループおよび中国国際海運コン テナグループにリーダーを担当させた。そ のうち、ビーエーエスエフ社は中国で率先 的に「1+3」プロジェクトを実施した会社で ある。その基本モデルは以下のようである。 まず 1 社の会員企業とその供給チェーンに Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 ある 3 社のパートナー企業がチームを組み、 供給チェーンを通じて企業の社会的責任の 理念を伝達し、よい事例、専門知識および 各社に合わせた解決案を用いてパートナー 企業を導く。そして、この 3 つのパートナ ー企業はさらに各自の供給チェーンにある 3 つの企業とチームを組む。このようにモ デルは繰り返しながら社会に社会的責任の 輪を築いていく。 「1+3」プロジェクトの現実的な意義は、 一方では企業同士のパートナーシップを推 進するための新しいモデルを模索したこと であり、もう一方では、パートナー企業に 付加価値をもたらし、企業の政府部門、業 種内部および社会公衆におけるイメージを 高めることができたことである。そして、 企業の社会的責任は長期的、持続的に改善 されるべきプロセスとして、普及し続ける 必要がある。「1+3」プロジェクトの実施モ デルはまさに多様な主体協力の集積効果を 発揮し、さらに多くの企業に影響を与える ことができる。企業の長期的発展の角度か ら見れば、パートナー企業がこれからの挑 戦に対応し、長期的な発展を遂げられるか どうかは、直接に企業自身の発展に関わっ てくる。もし企業の取引先の生産が環境保 護型で、省エネでかつ安全であり、従業員 とコミュニティーが安定的で調和的であれ ば、その企業は持続発展な潜在力をもつこ とになり、長期的に安定的、効率的な供給 チェーンを確保することにもなる。したが って、長い目で見れば、このプロジェクト は、企業の長期的、安定的な発展を確保す るための重要な措置でもある。 第四は、専門機構に委託し、社会影響力 のある企業の社会的責任に関する調査と優 良企業の選出を行ったことである。2006 年、 企業の社会的責任を推進するために、北京 大学民営経済研究所と雑誌「環球企業家」 が主催者、全国商工連合会、中央テレビ、 中国光采事業促進会などの機構が協賛者と して、今回の調査を実施した。その調査で 13 の主な目的は調査を通して、企業と社会に、 企業の社会的責任の理念を周知させ、企業 が自主的に社会的責任を担うことを導くこ とである。 調査対象は中国国内で登録し、3 年以上 経営している外資、民営および国有企業で ある。また、最近 3 年間の累計が赤字では ない、かつ最近 1 年間に重大な法律違反や 道徳過失を犯していない企業である。評価 システムは経済、社会および環境といった 3 つの面で 22 の項目に及ぶ。調査活動は 2006 年 7 月に正式に開始し、4 ヶ月続いた。 調査方式として、企業が自主的に申請し、 アンケートに答え、資料を送る方式と、調 査の実行委員会が公開資料を集める方式と が併用された。 調査活動は全部で 5 つの段階に分かれて いる(図 1) 。第一段階は、調査の発動と企 業申請およびデータベースの作成である。 第二段階では、企業のアンケートと公開収 集した資料に基づき、事前に定めた評価指 標と計算方法によって、すべての参加企業 の社会的責任パフォーマンスについてまず はじめに順位をつけ、トップ 100 社を決め た。第三段階では、専門調査機構に委託し て、全国範囲内でトップ 100 社に関する公 衆調査を行い、その結果によってトップ 50 社を選出した。第四段階では、50 社の候補 企業に対して、インターネットやマスコミ を通じて公示し、一般国民からの投票と質 問を受け付けながら、専門委員会による審 査を行った。第五段階では、国民投票と専 門家審査の結果によって、最終的に 20 社の 優良企業および企業の個別賞、企業家個人 賞を選出した。そして、 「中国企業の社会的 責任状況白書」と「もっとも社会的責任が 欠如している 10 大事件」が公布され、「中 国企業の社会的責任案例」という本も出版 された。 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 図1 2006 年中国企業の社会的責任に関する調査プロセス プロセス 9/710/ 7 20/ 7 30/ 10/ 20/ 30/ 10/ 20/ 30/ 10/ 20/ 30/ 7 8 8 8 9 9 9 10 10 10 11 12 調査発動 情報収集 第一巡調査 第二巡調査 第三巡調査 最終結果の公表 出所: 『新民夕刊』2006 年 11 月 20 日 4 中国企業の社会的責任の欠如 中国における企業の社会的責任の展開は ますます広がっており、一定の成果をあげ た。しかし、中国はまだ計画経済から社会 主義市場経済への転換期にあり、新旧体制 間の摩擦は避けられない。そして、国内で の研究が相対的に遅れていることから、政 府、企業および国民は多くの問題に関する 認識と理解がまだ不十分である。したがっ て、諸矛盾に直面する際、個々の利害関係 者はいまだに計画経済体制のもとでの考え 方と管理方式から抜け出せていない。 具体的な課題は、以下の 5 つの面で現れ ている。 第一に、企業内部の従業員の合法的な権 利が損なわれ、有効的な保障ができていな い。まず、労働契約に関する法律強制力が 足りない。現在、民営企業は経営の内部組 織を構成する従業員と契約を結ばない、あ るいは形式上だけの、内容不備の契約を結 ぶことが多い。労災、医療保険、救恤の給 付金などに関わるトラブルが起きた場合、 従業員は常に弱い立場に立たされるに違い ない。次に、労資紛争が多発している。国 家の関係部門の統計によると、1995 年 1 月 から 2006 年 12 月まで、各級の人民法院が 審理した労働争議の件数は累計 85.6 万件 にのぼった。多くの労資紛争のうち、相当 部分は企業が出稼ぎ労働者の賃金を時間通 りに支払わないこと、一部は企業内部の賃 金格差が大き過ぎることが原因である。 第二に、安全生産が重要視されていない。 現在、中国は経済高度成長期にあり、自然 資源が相対的に不足していることから、企 業は一次資源を採掘して利用する際、国家 の監督システムが整備されていないもとで、 高額の利潤を追求するばかりに、各種事故 の多発をもたらした。国家安全検査局の全 国安全生産統計によると、2006 年 1 月から 4 月まで、全国で死亡者が 10 人以上発生し た「特大事故」が 31 件あり、合計 479 人が 死亡した。そのうち、鉱工業企業では 13 件で、計 221 人が死亡した。炭鉱企業では 9 件で、計 161 人が死亡した。金属と非鉄 金属鉱業企業では 1 件で、計 10 人が死亡し た。建築企業では 1 件で、計 11 人が死亡し た。漁業船舶では 1 件で、12 人が死亡した。 農業用船舶では 3 件で、計 50 人が死亡した 3 。特に炭鉱業の安全生産問題が突出してい る。2001 年から 2004 年まで、死亡者が 10 名以上の特に大規模な炭鉱事故は 188 件あ り、平均 7.4 日に 1 件の割合で発生した。 第三に、企業の信用を築く体制に不備が ある。市場経済の導入により、経済発展が 加速されていると同時に、管理監督制度、 特に監督メカニズムが働いていないため、 企業の信用を損なうケースが相次いでいる。 たとえば、広東科龍電気、広東健力宝グル ープの資産流用事件、斉斉哈璽第二製薬の 偽薬事件、安徽華源バイオ製薬の不良薬事 件などがある。企業の経済活動の中で信用 を損なう行動は主に融資の不返済、契約違 反、偽広告、偽製品、品質詐欺などである。 3 「2006 年全国重大事故統計」 http://www.sxwhaj.gov.cn、2007 年 9 月 12 日アクセス 14 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 国家の関連部門の統計によると、債務不履 行により経営困難に陥った企業は調査企業 全体の 80%を、契約違反は 71%を、偽情報 は 31%を、偽製品は 28%を、品質詐欺は 13%を占めている。毎年信用欠如による企 業の直接的、間接的な経済損失は 6000 億元 に、債務不履行による直接損失は 1800 億元 に、企業間の「三角債」は 1 兆円元近くに、 契約詐欺による損失は約 55 億元に、製品の 品質問題あるいは偽製品による損失は 2000 億元にのぼる 4 。 第四に、企業が公益、慈善事業に積極的 に参加しない。中国のある慈善団体の公益 調査によると、現在国内における商工業登 録企業は 1000 万社を超えているが、寄付記 録をもつ企業は 10 万社に過ぎない。つまり、 99%の企業は寄付などの慈善活動を全くし ていないということになる。筆者は、慈善 寄付に対して企業が積極的でない原因は公 益性に関する社会的責任の理念が形成され ていないことであると思う。もちろん、国 家徴税制度における未整備も否定できない。 「中華人民共和国企業所得税法」では、 「納税 者が公益、救済に寄付する場合、年度内の 納税所得額の 3%以内の範囲で減免する」 と規定している。すなわち、もし企業の寄 付金額が、税引き前利潤の 3%を超えると、 超過部分についてなお税金を納めなければ ならない。企業は寄付すればするほど税金 を多く納めることになる。現在税収の制度 上の問題、慈善組織の少なさおよび寄付手 続きの煩瑣が、企業が寄付活動に対して積 極的でないことの主要な原因といえよう。 第五に、企業の粗放型経済成長の方式が 生態環境の悪化を引き起こしている。近年、 中国は粗放型経済成長から集約型経済成長 への転換を加速し、グリーン GDP という概 念を提起した。グリーン GDP は、GDP から 資源的直接経済損失や、生態均衡の修復、 資源損失の補償のための経済投資が差し引 かれる。グリーン GDP を基礎として組み立 4 中国企業連合会、中国企業家協会、企業 誠信課題チーム「我国企業誠信建設的主要 問題」、『企業管理』、2006 年 12 期 15 てられる経済発展のモデルと国民経済計算 体系の構築は、資源と環境の保護、資源の 持続可能な利用と経済の持続可能な発展に だけではなく、経済成長方式の転換、経済 効率の向上、社会福祉の増進にも有利であ る。また、グリーン GDP は一国あるいは一 地域の実際の経済的生産能力を一層如実に 反映することができる。計算方法から見れ ば、従来の GDP の算出方法にグリーン GDP を取り入れただけであるため、グリーン GDP はまったく新しい概念というより、む しろ一種の新しい体制を志向するものであ り、人間と自然との関係における一種の新 しい理念であり、一種の高消費・高汚染の 発展モデルへの反省である。 中国ではまだ強制力の強い監督手段と環 境保護の評価体制が形成されていないため、 企業は高額の利益を獲得するときに、過度 なエネルギー消耗と資源浪費という問題が 同時に生じている。特に中国の生態環境は 楽観的な状況ではない。生態環境の悪化は 範囲の広がり、程度の深化をともない、ダ メージが深刻化しつつある。生態環境の全 体的機能が低下するにつれて、自然災害へ の防御力が弱まっている。具体的には以下 のようである。①森林の品質低下、草地退 化、土地の砂漠化、水土流失、水の生態環 境などは日ましに深刻化している。最近十 数年間、森林のカバー率は徐々に増えてい るが、林地の単位面積当たりの蓄積量は低 下している。生態機能が良好な近熟林、成 熟林、過熟林は30%以下である。90%の草 原は程度に違いがあるものの、退化が進ん でおり、砂漠化は80年代半ばの2100平方キ ロメートルから90年代末の3436平方キロメ ートルと広がっている。現在、淮河の水資 源の利用率は60%、遼河は65%、黄河は62%、 海河は90%であり、国際公認の利用警戒ラ インの30~40%をはるかに超えている。華 北地区は地下水の利用超過により、3~5万 平方キロメートルの巨大な漏斗状の地形が 現れた。基本的な統計によると、濱海の湿 地面積が累計21900平方キロメートル失わ れた。これは濱海湿地面積の50%を占める。 江河の断流、湖泊の縮小は多発しており、 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 水の生態環境が悪化しつつある。全国の生 態機能が弱まり、生態安全が脅威にさらさ れている。水源涵養機能、砂漠化の防止と 浄化機能が退化し、砂嵐の被害が深刻化し ている。②農業と農村面源の汚染が深刻で、 食品安全問題が突出している。化学肥料の 平均使用量は先進国の安全使用量上限の2 倍であり、平均利用率は40%前後にとどま っている。汚水灌漑は中東地区に集中して いるため、中東部の重金属汚染土壌は汚水 灌漑面積の20%を占めている。畜産、養殖 の汚染物排出量は鉱業の固体廃棄物量の2 倍以上で、農業活動を原因とする汚染は中 国汚染の大きな問題となっている。16省の 省庁所在都市の野菜卸市場のデータによる と、農薬の総検出率は20~60%で、基準超 過率は20~45%である。③有害外来種が侵 入し、生物の多様化が衰退し、遺伝資源が 失われ、生物資源の破壊は深刻である。統 計によると、外来侵入種は約200種あまりで、 全国の大多数の自然保護区には外来種があ る。国連のワシントン条約のなかで、740 種の絶滅に瀕している動植物を列挙してい るが、そのうち中国が189種を占めている。 中国は野生水稲、大豆などの遺伝資源に対 する保護が不十分で、70%以上の野生水稲 はすでに壊滅した。また、アメリカは中国 から植物資源を932種20140個輸入し、大豆 資源だけでも4452個にのぼり、そのうち半 分以上は中国の許可を得ていない 5 。 中国の生態環境悪化の原因は多方面にわ たると思う。経済構造の不合理性、変わら ない伝統的な資源の開発利用法はその一因 であるが、開発を重視、保護を軽視する傾 向、建設を重視、管理を軽視する傾向も重 要な原因である。一部の地区においては、 特に中西部地区は生態環境を犠牲にして目 前の利益と引き換え、自然生態環境に多大 な圧力を与えた。そして、一部地区の生態 環境建設の過程では、自然浄化と破壊が同 時に進んでおり、自然浄化のスピードが破 壊に追いつかないことが生じている。また、 5 「倡導“緑色GDP”」新華網、2006 年 3 月 13 日、2007 年 9 月 20 日アクセス 16 生態保護の管理体制や法制度の不備、管理 メカニズムの機能不全、基礎の弱さ、治理 力の不足もその一因であろう。 5 持続発展可能という理念の下での企業 の社会的責任の展開 経済のグローバル化、一体化が進むにつ れて、中国国内の有名ブランド、たとえば、 ハイアールグループ、中国石油化学工業グ ループ、中国遠洋運輸グループなどは、国 際化の中、企業の社会的責任の理念を率先 的に樹立するようになった。しかし、全体 から見れば、企業の社会的責任はまだ新し い概念であり、理論的研究にしても、実践 的模索にしても、発動したばかりの段階に 過ぎない。したがって、これから社会的責 任を広げるために、以下のようなことに力 を入れるべきであろう。 第一は、国民の社会的責任の意識を育成 し、企業の自立精神を強化し、自主的に社 会的責任を担う理念を形成することである。 企業の社会的責任に関しては、異なるステ ークホルダーであれば、認識や理解の程度 も異なってくる。社会全体の共同認識を達 成しなければ、社会的責任の具体内容、評 価指標、管理監督政策の作成などの実務も 操作できない。社会全体の共同認識を達成 するために、マスコミや、インターネット、 各業種の組織、企業家協会、各種フォーラ ムおよびニュース報道を通じて、大々的に 宣伝、提唱し、多くの国民に社会的責任に 関心をもたせ、参加させる。国民の社会的 責任の重要性に対する認識を高めることは、 外部から良好な社会環境をつくることであ り、企業の社会的責任を推進するには重要 な措置である。 第二は、法律や法規を整備し、特に各種 実施細則の制定を早め、政府の監督と管理 を強化することである。企業が担うべき社 会的責任を「会社法」に明記し、逐次に社 会的責任履行の法制化を実現する。国際慣 例に適合していない、規定が明確でない現 行の労働法などの法規に対して、中央ある いは地方立法の手続きを経て、改定が行わ れるべきである。さらに、従業員の待遇や、 Global Environmental Policy in Japan,No.12(April,2008) Internet Version, 10-18 安全衛生、環境保護、労働保障などを主要 内容とする社会的責任の履行に関する地方 法規が制定され、企業の法律意識が強化さ れる。そして、 「労働法」や「生産安全法」、 「環境法」などの法律に違反する企業に対 して、罰則が強化され、企業の経営理念が 転換させる。 第三は、地方あるいは業種の社会的責任 の評価基準の制定を積極的に行うことであ る。現在、中国は基本的にSA8000の認証基 準を参照している。しかし、SA8000は多く の国際基準のひとつに過ぎず、先進国の状 況を想定して作った基準である。たとえば、 児童労働、強制的雇用、健康安全、団結の 自由・集団的協議権、差別待遇、罰則、労 働時間および賃金などにおいて、先進国と 発展途上国の中国とは現状が異なる。評価 基準の制定における国内の有益な模索は、 清華大学が研究、編集した「中国企業の社 会的責任推薦基準とモデル実施事例」であ る。これは中国の現状に合致しており、中 国の特色をもつ、実行性が高い評価基準と いえよう。 第四は、企業の発展サイクルに合わせて、 計画的、段階的に社会的責任を推進するこ とである。社会的責任の制定と履行は企業 の立場を十分考慮しなければならない。異 なる類型、発展段階の企業は担う社会的責 任の具体的内容も異なる。強制的な社会的 責任は類型や発展段階に関係なく、すべて の企業が担うべきであるが、自発的な社会 的責任は企業の発展サイクルによって区別 すべきである。創業初期の企業は最大限に 利益を獲得し、好循環を形成しようする。 この段階では、企業の社会的責任の認識が 低いので、政府は強制的な社会的責任の実 行、貫徹を重点的に監督すべきである。対 象企業は主に中小型の民営企業である。経 営が軌道に乗った企業は、創業初期の困難 期が過ぎ、好循環の発展が形成されつつあ る。この段階では、ステークホルダーのう ち、従業員への技術訓練、消費者への信用 保証、パートナー企業における社会的責任 を推進し、今後の企業発展のために力を蓄 えるべきである。実力のある大型企業、多 17 国籍企業の社会的責任の推進は、企業文化 の確立、企業イメージの向上から始まるべ きである。これらの有力企業が社会的責任 の範囲を広く設定し、寄付や、貧困支援、 地域教育とサービスなどの公益性活動に積 極的に参加する仕組みが整備されることが 必要である。 参考文献 [1]聶清凱・夏健明「網絡経済時代企業組織 架構重建研究」 『外国経済管理』2004年第11 期 [2]馬風光「企業的社会責任模式論」 『福建 論壇』2000年第9期 [3]余遜達・陳旭東「公衆視野中的企業社会 責任」『浙江社会科学』2006年第5期 [4]劉昕・林南山「企業的社会責任:HR大有 可為」『人力資源・HR経理人』2006年第4期 [5]H·R·Bowen(1953), Social Responsibility of Businessman,Narpero & Row,New York. 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