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Global Energy Policy Research
1 Global Energy Policy Research GEPR(グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ)は、日本と世界のエネルギー政策 を深く公平に研究し、社会に提言するウェブ上の「仮想シンクタンク」です。この機 関は、アゴラ研究所(http://agorajp.com/、東京)が運営し、エネルギー問題につい ての研究と調査、インターネットでの情報提供、シンポジウムの開催、提言の作成、 書籍の出版を行います。 核科学者が解読する北朝鮮核実験 ̶ 技術進化に警戒必要 澤田 哲生 · Monday, January 28th, 2013 北朝鮮の国防委員会は2013年1月24日、国連安全保障理事会の制裁決議に反発して、米 国を核兵器によって攻撃することを想定した「高い水準の核実験」を実施すると明言し た。第三回目となる核実験。一体、高い水準とは何を意味するのだろうか。小型化、高 濃縮ウラン、同時多数実験をキーワードに解読する。 (編集部より・写真は広島に落とされた原爆「リトルボーイ」。Wikipediaより。日本人 には不快な写真だが、核が日本に使用された歴史上の事実、そして引き続き日本が核の 脅威にさらされている現代の事実は受け止めなければならない。) 高いハードルではない弾頭小型化 正確には小型軽量化である。爆発規模が小型であることを必ずしも意味しない。要する に、手持ちの運搬手段(ミサイル)に搭載して、攻撃目標(例えば米国のワシントンDC) まで、運んでいくことが可能な軽量化が第一義的に重要である。兵器として必要な核爆 発威力の規模はミサイルの命中制度と関係するが、数キロから数10キロトン(以下、kt と略)のTNT火薬相当が目標になる。 まず歴史から2つの事実を紹介する。 最初に核爆弾を製造したのは米国である。1945年に、広島に投下された濃縮ウランを用 Global Energy Policy Research -1/5- 22.12.2016 2 いたリトルボーイ(ガンバレル型)、そして長崎に投下されたプルトニウムのファットマ ン(爆縮型)である。核爆発威力は、各15ktおよび20kt。しかし、ともに重量は5トン程度 あった。これでは北朝鮮が開発した弾道ミサイル、通称「テポドン」の推力では搭載で きない。 その後、米国は高水準化の最大のポイントである軽量化に努め、8年後の1953年9月には、 重量が800ポンド(約360kg)のガンバレル型(高濃縮ウラン利用)で、威力が15ktの核砲弾 の完成にこぎ着けている。これならばテポドンにも搭載できる。威力は同等で、重量は1 /10以下だ。ちなみに、核砲弾は大砲で飛ばした。これが核弾頭の原型である。この後、 さらに小型軽量化は進んでいる。 (編集部より・米国が53年に行った核砲弾の実験の様子。Wikipediaより。) もうひとつの歴史的事実を紹介する。 1998年5月28日に、パキスタンは初めて核実験を行った。この日のうちに5回の核実験 を行っている。すべて成功し、軍部の発表によれば、1回目が12kt、2回目は25ktだとい う。さらに、これらは初期的なものではなく、〝コンパクトで強力な核兵器〟だと言っ ている。最初から、小型化に成功したということである。 彼らの敵国はインドである。インドに対して実効力のある核抑止力を構築するためには、 彼らの持つミサイルに搭載できる小型化なくしては無意味だからだ。パキスタンの最初 の実験では、高濃縮ウランを爆縮方式で利用して、核爆発威力を高めている。 これらの歴史的事実から指摘したいのは、北朝鮮にとって、軽量高性能化、つまり高い 水準の核実験を今回実施することは、さほど高いハードルではないということだ。 高濃縮ウランの獲得も容易−天然ウラン鉱脈を保有 過去二回の実験では、いずれもプルトニウムが用いられた。そのプルトニウムを生産し た黒鉛減速型の原子炉(寧辺原子力研究センター)は、その冷却塔が2008年6月27日に爆 破破壊された。米国などの圧力に応じた結果だ。冷却塔なしでは原子炉は動かせないの で、その後プルトニウムは生産できなくなった。 プルトニウムのストックは、核爆弾10個相当以上あったが、プルトニウムはその品質が 時間とともに劣化していく。 北朝鮮は、かねてより、ウラン濃縮施設を建造・稼働しているという疑念が絶えない。 その傍証はいくつもある。ウラン濃縮問題が最初に取りざたされたのは2002年である。 Global Energy Policy Research -2/5- 22.12.2016 3 当時から充分な時間が経った。北朝鮮が核爆弾を製造するに足る量の高濃縮ウランをす でに保有している可能性は充分にあるとの見方が根強い。これは「保有している」と考 えることが妥当だ。 また、2010年5月12日には、北朝鮮は独自の核融合技術を開発したと発表し、その実験 の証も見つかっている。核融合技術は、いわゆる水爆に利用されることはよく知られて いる。この同じ技術が、核爆弾の小型化および高威力化にも利用できるのである。 北朝鮮は天然ウランの宝庫だ。推定ウラン埋蔵量は400万トンともいわれる。この量は、 現在世界で最もウラン採掘規模が大きいオーストラリアを凌駕する。濃縮施設の性能に よるので、一概には言えないが、1トンの天然ウランがあれば、有意な核爆弾1個分程度 の高濃縮ウランを製造できる。 同時多数実験の意味するもの 地下核実験の方式は2つある。ひとつは地面に縦穴を穿つ方式。地下数百メートル以上の 深い場所にある岩盤までボーリングして、その先端部に核爆弾を装着する。 もうひとつは横穴方式。山の中腹などにトンネル方式の横穴を掘って、その先端部分で 爆発実験を行う。北朝鮮は、この横穴方式で実験している。横穴方式のメリットは、主 坑道から枝分かれするように分岐坑道を何本も掘って、それぞれの先端で、立て続けに 実験を実施することが可能である。 パキスタンが一日のうちに5回の実験を実施した際、この横穴方式で行った。北朝鮮の第 一回および第二回の核実験は、プルトニウムを用いた爆弾を、各回1個爆発させたに過ぎ ない。当時、プルトニウムの収量、保有量はさして多くなく、〝虎の子〟のプルトニウ ムを大切に使っていたといえる。 北朝鮮が原爆のもう一つの材料である高濃縮ウラン、特に兵器利用に適した濃縮度90% 以上のウランを一体どれくらい持っているかは不明だ。しかし、10年の歳月をもって、 複数回の核実験をほぼ同時に実施するだけの高濃縮ウランをすでに手中にしている可能 性は充分ある。同時多数実験が仮に行われれば、それは北朝鮮が核物質の製造能力を誇 示したことを意味する。また、国際世論に抗して、この先何度も地下核実験を実施する のにも難がある。パキスタンがそうであるように、多様な種類の核実験を同時に行い、 その後沈黙するケースも考えられる。その時こそ、技術的な目標が真に達成されたこと を意味する。 北朝鮮のねらいとわが国の決意 北朝鮮がこのようにして、高濃縮ウランを用いた核爆弾製造能力(ウランルート)を手 中にすることには、大きな意義が二つある。 ひとつは、covert(隠蔽)性が高まる。プルトニウム生産には原子炉が必須。原子炉はなに かと目立つ。衛星からも捉えられる。しかし、濃縮工場は地下施設として運用できる。 発見しにくいのだ。さらに、ウラン濃縮は、イランがそうであるように、常に平和利用 のため、つまり発電用の軽水炉で用いるためと言い張れる。軽水炉で用いる低濃縮ウラ ンと核兵器用の高濃縮ウランの壁は、実は非常に低い。つまり平和利用を錦の御旗にし て、軍事利用を隠蔽できるのである。 二つめは、望むだけの核抑止力(核攻撃能力)を手中にできる。北朝鮮の天然ウラン埋蔵量 Global Energy Policy Research -3/5- 22.12.2016 4 は、莫大な量である。つまり、ウラン濃縮技術を確立すれば、彼らは製造したいだけの 数の核兵器をつくるための高濃縮ウランを、事実上際限なく手に入れたに等しい。 しかも、彼らがすでに手中にしている爆縮技術と高濃縮ウランを組み合わせれば、広島 型にくらべてより威力が増す。さらには、プルトニウムはその物理的性質から時ととも に劣化するが、ウランはそのような劣化がほとんどない。要するに、維持管理がよりや りやすい。 このようにして、従来のプルトニウムルートに加えて、ウランルートを確立することで、 北朝鮮の核兵器製造能力に多様性が生まれる。 つまり、『高い水準の核実験=高い水準の核抑止力』なのである。その結果、文句のつ けようがない、より盤石な核抑止力つまり核戦略を確立することが、強盛大国北朝鮮の ネライなのである。 もちろん、核弾頭のみでは意味をなさない。運搬手段であるミサイルの高水準化とセッ トでなければならない。先に行われたテポドンの成功の意義は大きい。すでに、1万キロ メートルの射程を見込んでいる。つまり、米国の東海岸までが射程にはいる。わが国や 韓国がスッポリ入ることはいうまでもない。核戦略の最初の段階は、短中長距離ふくめ て、数十から数百発の核弾頭搭載ミサイルを配備することではないだろうか。 わが国では、安倍政権が『日本版NSC(National Security Council)』を創設すると言う。国家セキュリティの根幹を強化することは、核の実相を把 握することと不可分ではあり得ない。 他国に依存しない、独自の情報収集分析能力が必要である。そうすることによって、は じめて他国から真っ当なカウンターパートナーと認められ、より実効力の高い協調が可 能になり、強固なパートナーシップが構築できるはずである。(了) 略歴 澤田 哲生(さわだ てつお) 1957年生まれ。東京工業大学原子炉工学研究所助教。工学博士。京都大学理学部物理科 学系卒業後、三菱総合研究所入社、ドイツ・カールスルーへ研究所客員研究員(1989-1 991年)をへて東工大へ。専門は原子核工学、特に原子力安全、核不拡散、核セキュリティ など。最近の関心は、社会システムとしての原子力が孕む問題群への取り組み、原子力・ 放射線の初等中等教育。近著は、「誰も書かなかった福島原発の真実 」(2012年、WAC)。[email protected] (2013年1月28日掲載) This entry was posted on Monday, January 28th, 2013 at 2:00 pm and is filed under コラム, 原子力に対する評価 You can follow any responses to this entry through the Comments (RSS) feed. Responses are currently closed, but you can trackback from your own site. Global Energy Policy Research -4/5- 22.12.2016 5 Global Energy Policy Research -5/5- 22.12.2016