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園芸地域の事例 - 知内町

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園芸地域の事例 - 知内町
6、園芸地域の事例
-
知内町
-
1)はじめに
北海道における稲作の非中核地帯である道南地域は、1970 年代の減反政策以降、地域農
業振興の取組みとして施設園芸を取入れ、施設園芸産地を形成するに至った。とくに知内町
では、施設野菜(ニラ・トマト)といった労働集約作物の生産振興が図られ、農業経営の
収益向上を実現している。地域資源としてニラをはじめとした施設野菜が位置づけられる。
知内町は地方創生に係る環境省の事業である「低炭素・循環・自然共生」地域創生実現
プランに事業採択され、5年間、低炭素・循環・自然共生による3つの地域活性化プロジェ
クト策の推進を行うこととなった。農業関係では、特産品であるニラを活用した低炭素・地
域循環による産業活性化が計画検討されており、その取り組みとしてはニラ等営農施設へ
の木質バイオマス機器等の導入とニラの茎等の回収システム構築、循環活用の実施が検討
されている。また、これらの実現プランの実施において、知内町は「低炭素地域づくり協議
会」を設立し、農業団体では農協・ニラ生産組合長が構成員となり、協議会の部会にはJA
生産組合長・JA青年部部長らがメンバーとなっている。
こうした地方創生に係る事業展開が進む中で、町においても「ものづくり産業振興条例
(以下、条例)」を制定し、国の事業と連動させて町単として進めることと、地域産業の中
核をなす、ものづくり産業・商業・観光産業の 6 本の柱の強化推進を示している。6本の柱
とは、①雇用・担い手対策、②人材育成支援、③ものづくり支援、④企業立地支援、⑤移住
支援、⑥人材バンク事業である。
そこで、知内町における農業振興の取組みを、地域農業を支える人材の育成・確保と労働
力が減少する中での効率的な生産態勢の確立、6 次産業化と農畜産物等の輸出拡大別にみて
いく。
2)知内町の農業構造の変化
農業センサスを用いて、1995 年以降の農家戸数と農業就業人口の推移を見たものが、
【図
2-6-1】である。
第1に、農家戸数の減少が相対的に高い水準で進行している。2000 年以降でみると 5 年
ごとの期間減少率は 20%前後で推移している。2010 年の販売農家数は 168 戸であり、直近
15 年間では 50%減少している。表示していないが、農家戸数の減少にともない 1 戸あたり
の平均規模は拡大し、
販売農家 1 戸当りの平均規模は直近の 2010 年で 7.7ha を示しており、
これは 1995 年の 4.2ha より 45.5%増加している。
第2に、農業就業人口の減少も農家戸数の減少と同様に高い水準で推移している。1995 年
の 592 人であった農業就業人口は 2000 年には 462 人、2005 年は 424 人、2010 年には 360 人
に減少しており、その減少率は 39.1%に達している。農業就業人口の減少率は農家戸数の
減少率より低い水準であるが、40%をわずかに下回るなど、高い水準で動いていることが確
85
認できる。また、これに加え、表示していないが、2010 年センサスによると知内町の農業
就業人口における 65 歳以上の割合は 49.7%に達している。
以上のように、知内町においても農家戸数と農業就業人口の減少、高齢化の進展は急速に
進展しており、今後の地域農業課題として必然的に浮き彫りになる農業労働力問題に対し、
何らかの形で対応する必要が迫られる。
図 2-6-1 農家戸数と農業就業人口の推移(知内町)
400
350
700
592
600
462
500
424
250
360
400
200
150
300
336
280
100
200
197
農業就業人口(人)
農家戸数(
戸)
300
168
100
50
0
0
1995年
2000年
2005年
農家戸数
農業就業人口
2010年
資料)農業センサスより作成 。農家戸数と農業就業人口は販売農家の 値である
3)地域農業を支える人材の育成・確保
知内町の地域農業を支える人材の育成・確保についての取り組みを、
「ものづくり産業振
興条例」の内容からみると、雇用・担い手対策、人材育成支援、移住支援、人材バンク事業
が該当する。以下では、それぞれの内容についてみていく。
第1に、雇用・担い手対策である。条例には雇用・担い手対策として、新規就労者・後継
者等への給付金が定められている。この給付金は2~5年間1人当たり 150 万円/年を支援
することとなっており、農業や漁業・自営業を開始する者、または新規社員を正規雇用する
企業を支援対象としている。つまり、知内町はこの対策を通じて、農業をはじめ、全産業に
おいての雇用者及び担い手の確保に取り組む姿勢がうかがえる。
第2に、人材育成支援である。これは研修や資格取得のための支援として、研修や資格取
得に係る費用や補填人件費等の8割を知内町が補助する事業である。条例によると、この事
業は1年に 100 万円以内を基準額と設定しており、とくに農業では農業従事者の他に、農業
生産法人の従業員も支援対象となっている。
第3に、移住支援である。知内町は農業だけでなく、他産業への参入や知内町での生活の
86
ため、移住を希望する者に対して、移住希望者支援と移住希望者住宅支援、社宅等整備支援
を実施していることを条例で定めている。移住希望者支援は移住目的の住宅の新築または
購入に対して、1人当たり 50 万円または 100 万円を支援するものであり、移住希望者住宅
支援は知内町がセミオーダー住宅を 10 棟新築し希望者に賃貸し 20 年後に土地と住宅の所
有権を移転するものである。最後に、社宅等整備支援は企業が新たに社宅を新築または購入
する場合、1戸当たり 100 万円または 200 万円を支援する事業である。
第4に、人材バンク事業である。条例では人材バンク事業を運営する事業者に対する支援
も設けられている。その内容は人材バンクを運営している事業に対し、3年間に運営経費の
全額を支援するのである。
4)労働力が減少する中での効率的な生産態勢の確立
知内町は北海道の中でも比較的温暖な気候条件を活かし、水稲にニラ、トマト、ホウレン
ソウ等の施設野菜を組み合わせた複合経営を主体とし農業振興を図っており、とくにニラ
については北海道最大の産地となっている【図 2-6-2】。
図 2-6-2 ニラの出荷量・販売量の推移(知内町)
資料)農協提供資料より作成 。
知内町のニラ生産は1971年に9戸の農家で「ニラ研究会」を設立し、ニラ栽培を開始し
たのが始まりである。その後1975年には「知内ニラ生産組合」を立ち上げ、品種の研究、
栽培体系の確立、共同作業の実施などを通じて産地確立に向けた取組みを行ってきてお
り、「北の華」のブランド名で全国的に知られている。
知内町におけるニラ生産の成功の要因は、府県産の出回る時期と道内露地物が大量に出
87
回る時期との中間にあたる端境期に、定時定量の出荷ができる体制を作りあげたことにあ
る。さらに、知内町は無加温栽培の北限地であり、無加温ハウス栽培法を確立したことも
大きな要因である。現在では、トレーサビリティに対応するため、2004 年に結束テープへ
の生産者番号の表示を開始し、2005 年からは「QR コード」の添付へとレベルアップして、
顔の見える野菜の生産に取り組んでいる。
ニラ生産戸数も現在のところ大きな変化はなく、2015 年には 2 戸で後継者が U ターンす
るなど後継者の確保は安定化している。農協資料によるとニラの販売高は、1986 年に 1 億
円を突破し、2000 年には5億円、2010 年には販売額10億円を達成しており、2015 年には
確定値ではないが11億7,000万円という過去最高の販売額を記録している【表 2-61】。最近の販売額の上昇は、府県における夏物出荷が気象上の問題から減少しており、知内
産ニラの 6 月の後期の収量面積および販売が拡大したことが要因となっている。一部の経
営では「ホウレンホウ+ニラ」の経営からニラ専業に移行する経営も増え作付面積も拡大し
ている。一方、それにより他の施設野菜(とくにホウレンソウ)の作付けが減少している。
表 2-6-1 ニラ栽培農家戸数と作付面積の推移(知内町)
区分
作 付面 積 (ha)
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
29.5
29.0
29.1
28.5
28.1
30.1
収穫 量 (kg)
1,662,620
1,695,050
1,678,488
1,695,180
1,536,227
1,703,189
販 売額 ( 千円 )
1,068,271
1,016,175
1,029,967
945,059
981,752
1,170,000
生産 者 戸数
73
73
73
73
72
72
対 前年 増 加戸 数
対 前年 減 少戸 数
-1
資料)農協提供資料及び聴き取り調査により作成 。2015 年は確定値ではない。
以上のような経過でニラの大産地を形成している知内町であるが、高齢化による農業労
働力が減少する中で、ニラ生産体制のさらなる進展のため、ニラ集出荷貯蔵施設の新規更新
が計画されている。知内町におけるこれまでのニラの集出荷は、農家が収穫・ゴミ除去・計
量・結束し農協施設(予冷保管(3基)
・包装システム(機械化))へ出荷する体制がとられ
てきた。しかし、作付面積と生産量を維持することや、高齢化に伴う生産者の労働時間の軽
減、栽培管理での適期作業の確立、製品基準の安定化を高めるためにも集出荷体制を見直し、
施設の新規更新が課題となってきた。
そこでニラの完全共選施設の整備を進め、農家からはバラ受入し、計量・結束・調整・包
装までの過程を一貫システム化とするニラ共同調整包装施設の構築が進められている。ニ
ラ共同調整包装施設の構築は農家が行っていた集荷調整作業(計量・結束・調整)が新たな
ニラ共同調整包装施設で行うこととなり、結果としてニラ農家においては、労働時間の軽減
88
が期待される。農協資料によると、出荷調整作業に係る農家の労働時間は 10a 当り 345.6 時
間で、これはニラ共同調整包装施設の構築により余剰労働力となる。農家はこの余剰労働力
を規模拡大や栽培管理等に活用することで、より高品質・多量のニラ生産が可能となり、ニ
ラの出荷量も既存の 1,536 トンから 1,829 トンに増加し、農家所得のみならず、知内町の
地域活性化にも正の影響を与えると予測されている。さらに、ニラ共同調整包装施設の構築
は長期間雇用の場を設けることにも繋がり、町内における雇用の場の拡大にも効果が望め
る。この事業は 2016 年を目途に補助事業(強い農業づくり)を活用し施設整備を行う予定
である。
さらに、知内町農業においては、ニラ等の施設園芸だけではなく、土地利用型部門におい
ても若手農業者を中心に、彼らの自主的な組織活動を媒介に土地利用型農業の担い手とし
ての「共同利用・受託組織」が、府県の集落ぐるみのそれとは異なる集落の壁を取り払った
「全町一円」をエリアとした特性を持った組織を結成し、農地の保全に向けた取組みが行わ
れている。現局面では関係機関の誘導策に支えられながら、土地利用型部門の担い手として
の生産者組織の形成・展開が行われつつある。
5)6次産業化と農畜産物等の輸出拡大
知内町では、特産品であるニラとカキを活用した加工と販売部門での取り組みが活発に
行われている。以下では、ニラとカキにおいての販売促進のための取組についてみていく。
北海道最大のニラ生産量と品質を誇っている知内町では、ニラ生産部会の主催で毎年 12
月に、ニラの販売促進とニラを活用したレシピの普及のため、農家によるニラ料理のコンテ
ストが行われている。このコンテストで選ばれたニラ料理及びレシピは知内町役場ホーム
ページに掲載され、消費者に知られている。そして、最近では知内町で生産されたニラをピ
ューレとし、カステラに活用する等の画期的な取組みもなされている。
知内町はニラの他に、カキも特産品となっており、販売促進と知内産カキの PR のため、
2016 年1月 10 日「かき小屋知内番屋」を開店させた。「かき小屋知内番屋」は国からの交
付金を活用し、約 3,000 万円の予算で地元会社の倉庫を改修したもので、知内産カキの PR
の場として活用が期待される。
その他に、知内町はニラとカキをテーマとする「しりうち味な合戦冬の陣カキVSニラま
つり」を開催、ニラとカキの PR に積極的に取り組んでいる。このイベントは 1998 年からス
タートし、現在 18 回目となっている。イベントでは、知内町産ニラとカキを産地価格で消
費者に販売するとともに、知内町産カキとニラを使用した創作料理の試食と新鮮なカキを
その場で味わえることが可能となっている。こうした、町の海産物・農産物を活用した生産
消費拡大が町全体で取組まれている。
6)知内町における農業振興と農村活性化の焦点
すでに産地形成を果たしている事例地域では、地域資源を「ニラ」というようにすでに地
89
域特産品として確立している品目を対象にし、それをさらに活用した地域振興が進められ
ている。産地形成後の動きとして、生産面での課題あるいは販売面での課題に対応した施設
更新などの動きがそれである。
さらには、国の事業と関連付けながら、地域資源の生産振興を主体とした他産業との連
携(木質バイオマス)や生産過程における廃棄物の再利用など、新たな産業連携もみられ、
事例地のような産地形成を成し遂げた地域では「地域資源の再発見」よりも、これまでの地
域資源を活用したより高度な地域振興の取組みが確認される。既存地域資源を活かしたワ
ンステップ進んだ地域づくり・地域振興のあり方であると考えられる。
90
付表 2005年センサス 知内町 集落調査結果の抜粋
農地
12
河 川・ 水路
農 業用 用排
水路
農 山村地 域資源 を
活 用した 観光客 の
産 地直送 を介し た
児 童、生 徒の農 林
交流
業 体験学 習の受 入
農 林業ボ ランテ ィ
ア 活動を 介した 交
受入
0
0
1
9
4
1
3
0
0
11
1
3
8
11
9
12
12
0
1
10
0
0
0
0
0
0
該当 なし
産 地直売 所(施設
数)
2
0
757
120
施設 数
活動 してい る、
取組 んでい る
して いない
北海 道
7,325
該当 なし
1,078
2,654
416
4,757
1,134
617
870
948
206
5,697
3,418
1,407
1,928
4,084
6,708
6,455
6,377
7,119
550
1,253
5,502
640
2,107
0
0
0
0
施設 数
集落名
総農家
販売農家
経 営 耕 地面 積
( 販売 農 家 )
地域資源の保全、活用状況
販売 農家
1戸 あた り
耕地 面積
調 査対象農
業 集落の番
号
農地 (注1)
森 林 (注1)
ため池・湖
沼 (注 1)
河川・水路
(注 1)
農業用用排
水 路 (注 1)
農 山村地 域資 源を
活 用した 観光 客の
産 地直 送を 介した
交 流 (注2)
児 童、 生徒 の農 林
農林 業ボラ ンテ ィ
業 体験 学習 の受 入
ア活 動を介 した 交
(注 2)
流 (注 2)
産 地直売 所(施 設
数)
市民 農園 (施 設数 )
戸
戸
ha
中の川
23
16
118
7.4
1
2
2
-
2
2
2
1
2
2
-
-
森越
28
21
119
5.7
2
2
2
-
1
1
2
2
2
2
-
-
渡島知内
11
10
81
8.1
3
2
2
-
1
2
2
1
2
2
-
-
重内第1
29
28
229
8.2
4
2
-
-
1
1
2
2
2
2
-
-
重内第2
22
21
116
5.5
5
2
2
-
1
1
2
2
2
2
-
-
重内第3
9
9
x
6
2
2
-
1
1
2
2
2
2
-
-
湯の里
27
18
71
3.9
7
2
2
2
1
2
1
1
2
2
1
-
上雷
36
36
181
5.0
8
2
2
-
1
2
2
2
2
2
1
-
元町
15
9
32
3.6
9
2
2
1
1
2
2
2
2
2
-
-
前浜
4
2
x
10
2
2
-
1
2
2
2
2
2
-
-
30
27
99
11
2
2
-
2
2
2
2
2
2
-
-
4
-
-
12
2
2
-
2
2
2
2
2
2
-
-
2
0
涌元谷地
涌元
ha/戸
市民 農園( 施設数 )
流
12
取組 んでい る
して いない
た め池 ・湖
沼
森林
活動 してい る、
知内 町
( 統計 ・ 情報 セン タ ー職 員に よる 農 業集 落精 通者 の 方へ の面 接 聞き 取り 調査 )
地 域資 源 の保 全 、活 用 状況
調査対象
集落数
3.7
計
注 1) 1: 保全活動をし ている 2 :していな い -:該 当なし
注 2) 1: 取組んでいる 2:取組 んでいない
91
受 入 (注2)
92
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