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ドーム型簡易スクリーンによる感動体験授業づくり
分科会G2 ドーム型簡易スクリーンによる感動体験授業づくり サイエンスドーム研究会,中川斉史(三好市下名小学校教頭) キーワード:理科,国語,社会,プロジェクタ,天体シミュレーション,ストリートビュー 1.従来の課題 プロジェクタならではの大画面の迫力は、特に暗い 部屋で印象が強い。一般のプラネタリウムでは、専用 のドーム型スクリーンに、多くの光源と機材を使って 美しい星空を投影する。しかし、学校の教育活動でそ れらの施設を度々使うことは不可能である。それなら ば、同じ感動を学校内で実現することができないかメ ンバーで考え、今回の実践を行った。 を鏡像にして投影することで、ドーム内から見た画面 が正像となる。 また、 半球面にリア投影するだけでは、 球の左右面に投影される映像が上下に拡大されて映る ため、左右を同時に大きく台形補正する必要がある。 2.目的・目標 できるだけ材料費をかけず、シンプルな方法で実現 するために、いろいろな試行を重ね、大変おもしろく 興味深いドーム型スクリーンを作成することができた。 そして、投影するコンテンツは、星空に関するものだ けでなく、ストリートビューや、自作コンテンツでも 迫力ある映像を体験できた。 さらにドーム内の想像を超える快適さと、閉じられ た空間の雰囲気が、子供達の興味を持続させ、学習内 容が深化することも分かった。 本実践では、ドームの作成と投影方法、そしてそれ らを使った具体的授業について述べる。 分科会G2 2.1 ドームの製作 今回製作したドームは、 約30名が入ることので きる写真1のような半球 型のドームである。床面 積は約4m×4mであ る。全体の素材は、農業 用のビニルシートと、運 動会や演劇等で利用する 白の衣装用ビニル袋を使 った。ドーム全体を白ビ ニル袋で覆ってしまうと、 圧迫感が強まり子供達の 心理的不安をおこすとい けないので、半球部分を 透明にする。 各ビニル袋のパーツを ひたすらンは、セロハン テープでつなぎ合わせ作 写真1 自作天体ドーム 成する。材料費はそれほ での授業 どかからないが、人的作 業に時間がかかるため、教員仲間と協働的に作業を行 うことが必要であった。 このドームは空気で膨らませるが、専用のエアポン プなどは不要で、家庭用の扇風機がちょうどよい。そ して、ドーム内は扇風機のおかげで常に新鮮な空気が 供給され、息苦しくならない 2.2 プロジェクタ投影の工夫 図1のように、プロジェクタをリア投影する。画面 図1 ドーム型スクリーン投影方法 そこで、な幾何学補正ボックス YA-S10(カシオ製) を利用し、画面の補正を行った。 幾何学補正ボックスを利用すると、通常のキースト ーンでは調整できない左右の丸みと上下の丸みの両方 を細かく補正できる。ただ、これらを使わなくとも、 ドームにはみ出るくらい大きく投影することで、ゆが みはあっても迫力のある映像を投影することができた。 今回の実践では、81点台形補正のアダプタをプロ ジェクタの間に挟む方法と、そのまま投影する方法の 2通りの実践がある。これは、新たな機器を導入して ドームの曲線に合わせた映像を投影するのか、そのま ま普及を図るためにどんなプロジェクタでもできるの かという点で両方の可能性が明らかとなった。 (1)幾何学補正ボックスを使って PCからの映 像とプロジェクタ の間に写真2のよ うな幾何学補正ボ ックスを経由する ことで、81地点 の個別台形補正が できる。投影画面 写真2 幾何学補正ボックス を9×9に分割 し、それぞれを細 かく台形補正する。 これにより、ドームの球状に合わせた上下左右の曲 面への投影が、スムーズとなる。ただ、この実践のた めだけに、新たなこれらの機器を導入するのは現実的 でないのと、81地点の細かな補正の微調整は時間と 手間がかかるため、一般的な学校ですぐ実践できる方 法として、次のようにプロジェクタのみで実現できな いか考えてみた。 (2)一般的なプロジェクタを使って 幾何学補正ボックスを利用しない方法では、球面に 投影した画像は左右に大きく湾曲する。しかし、それ を承知でドームを大きくはみ出るように投影すれば、 十分実用に耐えることができるケースが多い。そのた め、どの学校でも実践できると思われる。このやり方 − 100 − JAPET&CEC成果発表会 では、学校で所有しているプロジェクタを使い投影す る仕組みであり、非常にシンプルである。大きさと迫 力で、上下左右のゆがみはあまり気にならないという こともわかった。 2.3 投影するコンテンツ (1)星空の投影 星空の投影には、天体シミュレーションアプリのス テラリウム(http://www.stellarium.org)を利用した。 このアプリは、フ リーソフトである が、数多くの機能 を搭載しているた め、授業で活用で きる。(写真3) 特に、任意の地 上映像を合成する ことができるため、 自分の学校の校庭 写真3 星空の投影 の写真を組み込む ことができる。 そのため、アプリ上で合成された映像が、実際の自 分たちの学校から見た星空をシミュレートすることに なり、位置関係や大きさの感覚が、実感を伴って理解 させることができた。 (2)星空投影における地上映像の合成 ステラリウムでは、デジタルカメラで撮影した地上 風景を合成することができる。そのためには、まず3 60度の地上風景を撮影し、地上部分と空の部分を切 り抜く作業が必要であるが、そうして切り抜いた写真 画像をステラリウム上で取り込むと、実際の学校の運 動場から見た景色から見える天体の様子を映し出すこ とができる。 4.成果 このドーム内での投影は、実際に体験すると、頭で 想像するよりは、かなり迫力がある。そして、投影さ れたものが、リアルに思えてくるほど子供たちの歓声 があがり、実感を伴う。そのため、たとえば小学3年 生で、物語を想像して作文を書く授業では、子供たち の記述に大きな変化が見られた。 子供たちの作文は、であがってみると、一番少ない 子で2枚。最高が10枚超え(1枚は288文字)と いう結果になった。なにより、何時間経っても、これ らの作文への意欲が継続していることのすごさがある。 また、作文の内容で、描写が細かくなっていること に気づく。これは単なる枚数の増加という数字の評価 ではなく、 質的な高まりが見られるということである。 そして、この授業をしてから、毎日の日記に変化が出 てきた。また、これまでの日記では見られなかった描 写の言葉、話し言葉などが適切に登場し、書くことを 楽しむようになった。 星空の投影では、学習した夜に全ての子供達が自分 の家から星空を眺め、ドームで見たものと同じ星座の 形を確認したり、 位置の変化を何度も確かめたりして、 興味関心が持続していることが分かった。これまで、 星の学習に関しては、全員が夜まで興味を続けること が難しいとか、子供達が想像する以上に星座が大きく て、見つけることができないなどの課題があったが、 このドーム型スクリーンを使うことで、それらは解決 できたと言える。 さらに、ドームを膨らませるための扇風機に、夏に は、スポットクーラーの吹きだし口を使ったり、冬に は電気ファンを使ったりすることで、かえってドーム 内の温度が保たれ、 非常に快適であることも分かった。 このように、校内で手軽に利用できるドーム型スク リーンの製作にあたっては、長年理科教材を自作して いる教員やICT支援員、関連機器のメーカーなどの 皆さんの協力があった。そして、これらのドーム型ス クリーンを製作するためのワークショップを開催し、 多くの教員でいっしょに自作する取り組みも行った。 近隣の学校から多くの先生方が集まり、このドーム製 作に汗を流し、各学校へ持って帰り、同じ体験を子供 達にさせていると報告を受けている。 − 101 − 分科会G2 (3)ジオラマからの映像 国語の学習で、子供達が地図の上を探検し、そこで 出合った生き物や 状況をくわしく物 語風に書いていく という作文単元が ある。ここでは、 教科書にある平面 的な地図から、同 じように紙粘土で 作成したジオラマ を利用して、登場 人物になりきるた 写真4 ジオラマの中で主人公に めにこのドームを なりきる 使った。登場人物 になりきり、ジオラマの中を歩き回る様子をドーム内 で再生し、客観的な描写から主観的な描写をすること をめざした。(写真4)そうすることで、物語として の完成度が高くなった。 ジオラマの中を登場人物になって進んでいくために は、小型のカメラが必要である。ここでは、簡易US Bカメラを利用した。このカメラは、広角レンズなの で、人間の目に映るのと同じ範囲が見える。 (4)ストリートビューの投影 Google ストリートビューは世界各地の道以外にも 有名建造物や名勝なども掲載されている。これらの機 能をPCの平面的な画面で見るのではなく、ドーム型 スクリーンで見ると、まるでその場にいるようなバー チャルリアリティの世界を楽しむ事ができる。この投 影では、他のどんな投影方法にもかなわない映像が見 える。 通学路のように、子供たちに身近な場所のストリー トビューからはじめ、通常は見学できない遠いところ の町並みに行き、その雰囲気を味わわせたり、ふだん 立ち入ることのできない場所 (NASAや軍艦島など) へ行ったりすることで、ストリートビューのコンテン ツの価値を高めることができる。 ふだん平面の画面で見ているものが、ドーム型スク リーンへ投影することで、大人でもその迫力に飲み込 まれる。