Comments
Description
Transcript
ペロブスカイト酸化物単結晶への 電界効果キャリア注入
ペロブスカイト酸化物単結晶への 電界効果キャリア注入 〒305-8562 茨城県つくば市 産総研つくば中央第4 (独) 産業技術総合研究所 強相関電子技術研究センター 井上 公 ら、今だに、元素置換/欠損によるケミカルドー §1 はじめに ピングしかないと言っても過言ではないという現 状なのである∗ 。 もちろんお金があればの話なのだが、市販の装 置を買い集めるだけで、20年前には想像だにし ケミカルドーピングじゃいけないのか? もち なかったような実験を(少なくともスペック的に ろんケミカルドーピングなしには現在の物性研究 は)やってのけることが可能な時代である。実験 は語れないのだが、少なくともある種の物性探索 技術の進歩には、どの分野においても目覚ましい にはどうしても不向きである。まず、この方法で ものがあり、業界誌の広告ページを見ながら、胸 はドーパント周辺で結晶構造が変化してしまう を躍らせたり、ため息をついたりしているのはお ので、乱れが伴うという難点がある。さらにドー そらく私だけではないだろう。 パントを増やせば格子定数が変化するので、バン ド幅(電子の運動エネルギー)すらも変わってし ところが、かれこれ百年来、これから述べる「静 まうだろう。こうした影響を排除できなければ、 電効果キャリアドーピング(electrostatic carrier doping:ESD)」と呼ばれる実験手法には、目立っ 「純粋にキャリアのみをドープしたときの電子状 た進展がほとんど見られていない。今年はアイン 態の変化」というものを実験的に検証できたとは シュタインの奇跡の年から百年目という節目なの 言いがたいのである。 例えば、絶対零度での相転移点 (量子臨界点) だそうだが、ESD の研究も 99 年前の 1906 年に、 Bose という人が、静電効果によるキャリアの蓄 近傍で起こる「量子臨界現象」という非常に興味 積で電気伝導度を変化させようと試みたのがおそ 深い研究テーマがある 4, 5) 。その研究に必要とさ らく最初の報告であろう 1, 2) 。しかしながら、現 れるものは、乱れの少ない純良な単結晶である。 在までに何か本質的に大きな進展があったのかと 不純物による散乱は強い電子相関があるとさらに 問われると、あまり面白い話を見つけられない。 増大される傾向があり、極低温での本質的な量子 研究人生は短いのだから、百年も進展のない研 臨界現象を隠してしまう恐れが大きいのだ。そう 究には早々に見切りを付けて何か他のことでも やった方が身のためかも知れない。しかしこの実 ∗ 験手法、一見したところとても簡単そうに見える もんだから質が悪い。しかも困ったことに、これ だけ世の中の実験技術が進展しているのにもかか わらず、そもそものキャリアドーピングという方 法そのものに、ほとんど何の進展も見られていな いのである。物質にキャリアをドープしてその物 性がどう変化するかを見極めるというのは、物性 物理学においてはきわめて重要な実験方法のは ずだ。なのにそのために確立された手段と言った 1 20 世紀末の一年余の期間、米国ベル研究所の Batlogg 博士 (現在はスイス連邦工科大学の教授) のグループか ら、ほぼ2週間に1本の驚くべきペースで、Nature だ の Science だのといった商業誌を中心に ESD の論文 が発表された。様々な物質の単結晶上に電界効果トラ ンジスタのような構造を作製すると、静電場によって 誘起されたキャリアが、超伝導をはじめとする多種多 様な物性現象を引き起こすという話である。百年の眠 りを醒す一大ブレークスルーかと思われたが、我々を 含めて世界中で誰もそれらの結果を再現できない。真 偽に強い疑念が投げかけられた末にベル研の内部査察 が行われ、一連の論文には「捏造に違いない」との烙印 が押されてしまった 3) 。その後、ESD の研究はまた深 い眠りについたと思われているかも知れないが、実際 にはこれを契機にして世界各地で胎動が始まっている。 なるとケミカルドーピングによる探索では具合が ESD という手法について、世の中の研究の現状 悪い。この研究でさらに重要なのは「精緻なパラ を簡単に概観する。我々のグループの成果につい メーター制御」が必要とされるという点である。 ても紹介しながら、現状での問題点についても考 静磁場や静水圧の制御による研究ならば、量子臨 える。ここで念頭に入れておくべきことは、ESD 界点近傍での極めてきれいなパラメータ制御が可 という手法が目指しているものが、ノンドープの 能であり極低温実験とも相性が良い。ゆえに量子 絶縁体単結晶へのキャリア注入なのだということ 臨界現象の研究は現在この二つの実験によって である。したがって、そもそも初めからキャリア 完全な寡占状態になってしまっている。だからこ をドープしてある半導体トランジスタの原理と そ、キャリア数までも制御して量子臨界現象を探 は、本質的にかなり異なる立脚点の上にあるのだ れたら、物性研究の世界が一気に大きく広がるの と考えておいたほうがよい。絶縁体(とくに電子 である。しかしケミカルドーピングでキャリア濃 どうしに作用する強い電子相関によって電荷励起 度を連続的に制御しようと思うと、キャリア濃度 にギャップの開いてしまっている物質:モット絶 ごとに異なる単結晶を作製しなければいけないの 縁体)にキャリアを注入する場合、そのキャリア で、莫大な労力が必要となり、「精緻なパラメー が必ずしも空間的に一様に分布するわけではない ター制御」なんて、ほとんど不可能に等しい。 というのがキーポイントになる。 そこでこのキーポイントに関連する話題とし そこで、まさに最適の実験手段と目されている のが ESD である 6–9) 。そうであるがゆえに、百 て、本稿の後半では金属電極と絶縁体との接合面 年も進展が見られなくても、なかなか忘れられ にできるエネルギー障壁を介した「動的な電場変 ず、今も執念深い研究が続けられているというわ 調 (パルス印加)‡ 」によってキャリアを注入した けだ。銅酸化物にキャリアを入れてみたら高温超 り、抜き取ったりしようという研究についても簡 伝導になったという大発見はもはや20年近く前 単にレビューしておく。静電場による方法におい の話になってしまった。我々の ESD 研究の対象 ても、パルス電場による方法においても、次なる は、物性の宝庫と言われているペロブスカイト型 ブレークスルーのためには、どうやら共通の物理 の遷移金属酸化物 (TMO)10) であるが、TMO に 現象の理解を必要としているのだということが、 † 次第に明らかになってきたところである。 限らず多種多様な強相関物質 について「キャリ アを入れてみたら何が起こるだろう」という疑問 §2 静電場によるキャリアドーピング: ESD に簡単に答えてくれるような新しい実験手法とし て ESD が確立されれば、現在の物性研究に与え 2.1 ESD の基本的な方法 るインパクトは量り知れないものとなることは間 違いない。さらに付け加えると、ESD でドープ 遷移金属酸化物単結晶への ESD として現在試 されたキャリアは単結晶試料とゲート絶縁層の界 みられている、あるいは提案されている方法は、 面付近に閉じ込められて2次元電子系を構成する 主として図 1 に示す4つの方法である。これらは と考えられている。低次元電子系では電子のスク いずれも原理的にはすべて同じであり、キャリア リーニングが小さくなるなどの効果のために電子 注入したい試料の表面にいわゆる電界効果トラン 相関が増大するので、バルクでは量子臨界現象が ジスタ(field effect transistor: FET)型の構造 見られなかった物質でも、ESD でキャリアドープ を作製するだけである。ゲートと呼ばれる電極と することで、その効果が出現するかもしれない。 単結晶試料の間に静電場を印加すると、コンデン 本稿ではまず、静電場を制御して単結晶試料へ ‡ の連続的かつ可逆的なキャリアドーピングを行う † 簡単に言えば、電子どうしに働くクーロン相互作用の 大きさが電子の運動エネルギーよりも大きな物質のこ とである。 2 静電場による ESD に対して、パルスや交流電場、ある いは光(電磁波)によってキャリアドーピングを行う 試みが Electrodynamic carrier doping (EDD) であ る。太陽電池のように pn 接合を用いた光キャリア注 入もその仲間であると言えないこともない。この方法 の物性研究への応用も大いに期待されている 11) 。 (a) (b) ⤧⦍⭯䜽䝃䝷䝛 䝍䝰 䝍䝰 䝌 䝁䞀 䝁䞀 䜽 䜽 䜶 䞀 L 䜨 䜨 䝷 䝷 W ⤧⦍⭯ ༟⤎ᬏ ༟⤎ᬏ ⫴㟻䜶䞀䝌 ⫴㟻䜶䞀䝌 W (d) 䝁䞀 䜽 ⤧⦍⭯ ༟⤎ᬏ 䜽 ༟⤎ᬏ 䝁䞀 L 䝍䝰 䜨 䝍䝰 䜨 䝷 䝷 (c) W L ⤧⦍⭯ 䜶䞀䝌 ⤧⦍⭯ 䜶䞀䝌 図 1 ESD の概念図。L はチャネル長、W はチャネル幅。図は高さ方向を誇張してあり、実際の電極や絶縁 膜の厚さは単結晶の厚さと比較すると無視できる。(a) 単結晶表面にソース・ドレイン電極、その上に絶縁膜を 蒸着し、さらにゲート電極を付ける方法。ゲート電極は導電性ペーストでも代用される 12) 。背面ゲートについ ては本文参照。(b) (a) をスタンプ方式にしたもの。絶縁膜には弾性のあるポリマーなどを用いることが望まし いが、絶縁膜ではなく真空を用い、ゲート電極を走査型プローブで代用できると考えられている。図では絶縁膜 とゲート電極が一体化しているが、必ずしもそうである必要はない。(c) 弾性のある絶縁膜を用いてトランジス タ構造を作製し、その上に単結晶を乗せる方法 15) 。(b) と同様、単結晶と絶縁膜の密着性が問題である。(d) (b) と (c) で問題になる絶縁膜との密着性を逆手に取り、むしろゲート絶縁膜の代わりに真空(または気体)層 を利用する方法 16) 。 サにキャリアが蓄積されるように試料の表面に電 単結晶 ESD での飛躍的進展は酸化物単結晶 ESD 荷が誘起されるのだが、この静電荷の層を介した の研究にも反映されつつあり、実際に我々も大き 電気伝導を、ソース、ドレインと呼ばれる二つの な刺激を受けている。そこで明らかになってきた 電極間(チャネルと呼ぶ)に流れる電流として観 ことを踏まえながら、以下では、筆者なりに整理 測するというわけだ。後述するが、より正確に現 してみた ESD の問題点について議論する。 象を議論するためにはチャネル内部にさらに2つ 2.2 ゲート絶縁膜の耐電圧 ベル研騒ぎのころに最も話題になったのは、彼 の端子を設けてその電位差を測定する、いわゆる らが絶縁膜に用いているアモルファスのアルミ 4端子測定を行うことが必要である。 世紀末に世界を震撼させたベル研発の大量の論 ナ Al2 O3 が非常識なほどに高耐圧だということ 文に触発され、当時世界中で多くのグループがに であった。それでは、現実的な値として、実際ど わかに単結晶 ESD の研究に取り組み始めた。筆 の程度のキャリア濃度を静電場で誘起できるの 者も 2001 年の夏に異なる分野から参入してきた であろうか。例えばペロブスカイト型の遷移金属 素人である。こうした素人から腕に覚えのある人 酸化物を例にとって考えてみよう。格子定数をお まで、少なくない研究グループがこの研究に取り よそ 3.9 Å だとして、単位胞当たり 0.5 個のキャ 組んだのであるが、残念なことに遷移金属酸化物 リアをドープするにはどれほどの電場が必要か。 単結晶での成功例は未だに非常に少ない 12–14) 面密度は 0.5/(3.9 × 10−10 )2 ' 3.3 × 1018 m−2 で 。 しかしながら暗い話題ばかりでもない。この数年 あり、形式的にはこれに素電荷を乗じたものが、 の有機物単結晶に関する ESD 研究の進展は劇的 ゲート電界 EG と絶縁膜の誘電率との積に等し と言ってもよいほどである 15–17) いはずだ。したがって比誘電率が 8.5εo (εo は 。これらの有機 3 真空の誘電率)のアルミナを絶縁膜に用いた場 晶試料との界面を良質なものにしなければなら 合、EG = 3.3 × 1018 e/8.5εo ' 70 MV/cm とな ないということである。電界によって誘起される る。つまり 1000 Å のアルミナ絶縁膜に 700 V も キャリアは、ほとんど表面付近にのみ存在するか のゲート電圧を掛けよというわけだ。これは難し らだ。 い。実際にはせいぜい 100V で絶縁破壊するから 理想的な「ゲート電極 (金属)/ゲート絶縁膜/ EG = 10 MV/cm が限度である。単純に考えれ 単結晶試料」の接合が得られているとすると、電 ば単位胞当たりわずかに 0.07 個のキャリアしか 界誘起のキャリアの分布は、古典的にはポアッ ドープできないということになる。 ソン方程式の解によって与えられる。ただし実 もう少しまじめに考えると、以下で述べるよう 際には電子が波であることを考慮しないといけ にキャリアは深さ方向に一様に分布するわけで ないので、いわゆるポアッソン–シュレーディン はないことがわかる。したがって「局所的」には ガー方程式を数値的に計算しなければならない キャリア濃度のより大きい箇所も出現することに 20) なる。全く乱れのないモット絶縁体の場合、その を解析的に解くことは困難であるが、Takada と ことによって系全体が相転移してしまうことだっ Uemura による近似解 21) を「金属電極/Al2 O3 絶 て考えられるだろう。 縁膜/SrTiO3 単結晶」の積層構造にあてはめて 。このポアッソン–シュレーディンガー方程式 図 2 にプロットしてみた 6) 。 ところでこの耐電圧というのは物質の電子的な 性質 (例えばバンドギャップなど) よりも実際に SrTiO3 は電荷密度が 1018 cm−3 で半導体から はむしろ不純物 (例えば空隙) の量だとか、結晶や 金属へと転移し 22) 、1019 – 1021 cm−3 で超伝導を アモルファス状態の不均質性とかいったことに大 示すのだが 23) 、そのために必要なゲート電界の きく依存してしまっている。したがって、試料の 大きさを図 2 より見積もることが出来る。明らか 大きさを小さくすれば小さくするほど絶縁膜中に なのは、大きなゲート電界 EG を印加するほど誘 存在する絶縁破壊の脆弱点を避けられる確率が高 起される電荷密度 n(z) が大きくなるということ くなり、耐電圧が飛躍的に向上するということが である。古典的な描像とは異なり、n(z) は界面 経験的にわかっている。実際にナノスケールで耐 からやや離れた位置にピークをもち、電界を大き 電圧を測ると、アルミナ絶縁膜の場合 55 MV/cm くすると、このピーク位置もより界面に近づいて にも達するという報告もある 18) 行く。したがって界面に数ナノメートル程度の凸 。 真空層を用いた図 1(d) の場合は比誘電率が1 凹があるだけで、電荷密度の最も高い領域が大き になるわけだからアルミナの 8.5 倍もの電界を掛 く攪乱されてしまうということになるのだ。これ けなければならない。しかし実際にはある程度空 は非常に厳しい制約だと言わざるをえない。 気分子が残っているので、パッシェンの法則によ 電荷密度は、SrTiO3 の誘電率 εsto と界面に垂 れば、空気層の厚さが小さい(空気分子の平均自 直な方向の有効質量 mz の比 (εsto /εo )/(mz /mo ) 由行程より短い)ところではアバランシェ崩壊が によっても大きく変化することがわかる。ここ 抑制されてむしろ耐電圧が急上昇するのである。 で mo は自由電子の質量である。SrTiO3 の誘電 電界は電圧をこの空気層の厚みで割ったものであ 率は低温で急激に増加するので、図 2 の (a) は室 るからさらに上昇度が大きく、0.6 µm の厚さで 温付近での分布、(b) は低温での分布だと思って 平均的な耐圧が 12.4 MV/cm に達するという報 もらえば良い。したがって、低温での SrTiO3 の 19) 。走査型プローブを電極に用いるな ように誘電率の大きい物質の場合は、界面から どして工夫をすればさらに高い電界を印加できる 遠い、つまりバルクに近いところまでキャリアが 可能性もある。 誘起されることがわかる。これならば界面付近の 2.3 ゲート絶縁膜と単結晶試料との界面 乱れの影響をある程度は回避できるのかもしれ 告もある ない。 ESD を行うにあたって最大の障壁は、平坦か ただし以上の議論は電子相関の弱い物質にお つ清浄な単結晶表面を得て、さらに絶縁膜と単結 4 19.0 18.5 18.0 0 0 2 / o ) / (mz/mo) = 1000 20 5 19 18.0 STO 18.5 20.5 19.5 20.0 5 ( ) / (mz/mo) = 10 19.0 o 20.0 / EG (MV/cm) STO 18 log ( n / cm-3 ) EG (MV/cm) ( (b) 10 19.5 (a) 10 17 0 4 z (nm) 6 8 0 2 4 z (nm) 6 8 図 2 「金属電極/Al2 O3 絶縁膜/SrTiO3 単結晶」構造における SrTiO3 単結晶内のキャリア濃度 n(z) = Ns |ϕ(z)|2 = (εins /e)EG |ϕ(z)|2 をゲートの電界 EG および界面からの距離 z の関数としてプロットし たもの。ここで ϕ(z) は Takada と Uemura によるポアッソン–シュレーディンガー方程式の近似解 21) 、 εins = 8.5εo は Al2 O3 の誘電率、εo は真空の誘電率、e は素電荷である。図中の mz は界面に垂直な方向の SrTiO3 の有効質量、mo は自由電子質量である。 ける話である。強相関電子系であるモット絶縁体 ジを緩和するために、SrTiO3 の清浄表面の上に の場合には rigid band という描像が成り立たな SrZrO3 などの保護層を数ユニットセルほどエピ いと考えられているので、半導体の接合と同様に タキシャルに成長させておき、その上から絶縁膜 ゲート絶縁膜と単結晶試料との界面でのバンドの を蒸着する方法も試みられている。これは § 2.5 曲がりでキャリアが蓄積するのだと想定していい で紹介する。 のか、はなはだ疑問である。また、通常の金属や 有 機 単 結 晶 の ESD は “Parylene C” の 商 半導体でのスクリーニング長についてはよくわ 標名で販売されている poly-monochloro-para- かっているものの、強相関電子系でのそれについ xylylene というポリマー(融点が 280 ◦ C で無色 ては理解が深まっているとは言えない。電子相関 透明。有機系コーティング材として広く知られて の増大によって有効質量 mz が増大すれば、上記 いる)を、ESD 研究の絶縁膜に用いるという手 の議論によるとキャリアはより界面付近に閉じ込 法が開発されてから劇的な進展を見せた められることになる。しかしながら、ある種の量 リレンは単結晶試料との界面に余計な界面状態を 子臨界点近傍では ε(ω)|ω→0 などの応答関数もま 作りにくいというのが成功の原因であると考え た発散的な増大を示すことも考えられ、実際にそ られている。ポリマーを絶縁膜に用いた遷移金属 のような極限でどの程度の深さまでキャリアが 酸化物単結晶への ESD 研究も行われつつあり、 ドープされるのかというのは非常に興味深い問題 我々の結果についても § 2.4 で少し触れることに である。遷移金属酸化物単結晶への ESD の成功 する。 例がこれまで SrTiO3 12, 14) と KTaO3 13) 17) 。パ とい ゲート絶縁膜と単結晶試料との界面の問題に取 う弱相関で誘電率の大きな物質に限られているの り組むための、さらに理想的な方法も研究されて は、まさにこの界面の問題に起因していると言っ いる。図 1(d) にあるような空気層または真空層 てよいだろう。 を用いた手法である。超高真空中で単結晶試料を SrTiO3 はほぼ原子スケールで平坦な表面を持 劈開するなどした後に走査型プローブ顕微鏡で表 つ単結晶が市販されており、KTaO3 も比較的簡 面の清浄な部分を探し出し、その微小領域に対し 単な熱処理によって平坦な表面を得ることが出来 て、超高真空中でそのまま、図 1(b) にあるよう る。さらに絶縁膜の蒸着時に界面が受けるダメー な ESD(ただし絶縁膜の代わりに真空層) を行う 5 というのが、おそらくこの実験手法の究極の姿で 4端子測定を行うと、VD を掃引したときの履 あろう。空気層/真空層を用いる手法は実際に有 歴も、VG を掃引したときの履歴も見事に消失し 機物単結晶では見事な成果を出しているので 16) ていることがわかる。これは履歴の原因がソー 、 酸化物への応用も夢物語ではなくなってきたので ス・ドレイン電極とチャネルとの界面にあるとい はないだろうか。 うことを示唆している。ただし、我々のパリレン 2.4 単結晶試料とソース・ドレイン電極との界 絶縁膜を使った ESD は現時点では試行錯誤の段 面:接触抵抗 階であり、条件次第ではかなり異なった結果を得 もうひとつの大切な問題は単結晶試料と金属 ることもある。例えば、右回りの大きな履歴は4 電極との界面のことである。いわゆる接触抵抗と 端子にしたらいつも必ず消失するというわけでは いう問題だ。完全な絶縁体試料に対して ESD を ない。したがって、パリレンで見られる履歴は、 試みる場合、キャリアは試料の内部からは供給さ 必ずしも接触抵抗の変化によるものだけが原因で れないので、当然ソース・ドレイン電極から注入 はなく、パリレン内に混入してしまった不純物イ されなければならない§ 。したがってソース・ド オンのマイグレーションに起因する場合もあると レイン電極とチャネルとの界面に生じる接触抵 考えている。この点については現在さらに検討中 抗 Rcnt が無視できないときにゲートに電界を印 である。 加すると、単結晶そのものの物性変化よりもむし ID –∆V 曲線は、アルミナの場合にはいわゆる ろ、接触抵抗の変化の方が顕著に観測されてしま 電界効果トランジスタで見られるような特性を うことになる。 示している。これはアルミナをスパッタリング 古典的なショットキー障壁であれば、接触抵抗 によって成膜する際に、単結晶の表面を荒らして は、金属電極の仕事関数と半導体試料のイオン化 しまい、酸素欠損などによっていくらかキャリア エネルギーの差を用いたモデルで説明できるので が入ってしまうからなのだろう。振る舞いはきれ あるが、ESD のように絶縁体にキャリアを注入 いなのだが、以下に示すように移動度の値は小さ しようとする場合、むしろ試料の移動度の方が接 い。一方、パリレンの場合は成膜後もチャネルは 触抵抗に大きな影響を与えてしまうようだ 24) 。 ほぼ理想的な状態に保たれるのだが、キャリアが 図 3 は我々のグループによる SrTiO3 単結晶へ の室温での ESD の結果である 25) ほとんどいないので、ゲート電場を掛けてもすぐ 。(a) は絶縁膜 に一様なチャネルが形成されるというわけにはい としてアモルファスのアルミナ(膜厚 100 nm、誘 かない。どうやらチャネル内に電流の流れやすい 電率 8.5 εo )、(c) はパリレン(膜厚 1 µm、誘電 部分と流れにくい部分とが出現するようである。 率 3.15 εo )を使用している。また (a) と (c) の横 その兆候は図 3(d) にもすでに見られているが、こ 軸は、それぞれチャネルに掛けたバイアス VD と のまま温度を下げていくと、フィラメント形成を ゲートに掛けたバイアス VG だが、(b) と (d) の 反映するかのような S 字型の負性抵抗 横軸はチャネル内に設けた電圧端子間の電位差 出現することを最近我々は確認している。キャリ ∆V になっている。つまり (b) と (d) が4端子測 アがソースドレイン電極からの注入によってのみ ¶ 26, 27) が 供給されるのだから、ピンチオフとか飽和という 定の結果である 。 通常の FET の現象論を単純に適用するのは難し § モット絶縁体の場合はもともと大量に存在する電荷が 強い電子相関によって局在しているだけなので、電界 によってそれを融解してやれば一気に大量のキャリア が出現するのではないかという考えもある。 ¶ (b) で原点がきれいにずれてしまっているのは奇妙な 結果なのだが、例えばチャネル全体をゲート電極が覆 いきれていなかったと考え、電圧端子の片方だけがゲー トを印加されたチャネルの電位を観測しているものの もう片方は直接観測していなかったとすると、端子間 の電位差に常に余計な値が乗ってくることになる。 いようである。 VD = 5 V の 時 の 接 触 抵 抗 Rcnt = (VD − ∆V )/ID 、およびチャネル部分の面抵抗 R2 = (W/L)(VD /ID − Rcnt ) を、図 3(a) および (c) の データから算出し、ゲート電界 EG によって誘起 されたキャリアの面密度 n2 = εins (EG − Eth )/e の関数としてプロットしたものが図 4(a) であ 6 1010 (a) (b) VG=6V &_' 109 Rcnt RŜ Rcnt RŜ Al2O3 / SrTiO3 300K RŜ , Rcnt ( k ID ( 10-9 A ) ) 1.0 0.5 VG=5V VG=4V VG=3V 0 0 2 4 6 VD ( V ) 0 0.4 V(V) 108 107 alumina alumina parylene parylene 106 105 104 0.8 103 ID ( 10-9 A ) (d) VD=5V 20 VD=1V 10 Parylene / SrTiO3 300K 0 0 50 100 VG ( V ) 0 &`' 101 µeff ( cm2/ Vs ) (c) 30 0.4 100 µeff parylene µeff alumina 10-1 10-2 10-3 10-4 0.8 V(V) 10-5 0 図3 SrTiO3 単結晶への室温での ESD の 結果。縦軸はチャネルを流れる電流 ID で、 チャネル長 L と幅 W は 200 µm と 400 µm である。(a) の絶縁膜はアモルファスのアル ミナ Al2 O3 (膜厚 100 nm、誘電率 8.5 εo ) 、 (c) はパリレン(膜厚 1 µm、誘電率 3.15 εo ) 1.0 2.0 12 -2 nŜ ( 10 cm ) 図 4 (a) 図 3 に示したデータから見積 もった VD = 5 V の時の接触抵抗 Rcnt = (VD − ∆V )/ID 、およびチャネル部分の面 抵抗 R2 = (W/L)(VD /ID − Rcnt) を、 ゲート電界 EG によって誘起されたキャリ アの面密度 n2 = εins (EG − Eth )/e の関 数としてプロットしたもの。L はチャネル 長、W はチャネル幅、e は素電荷、εins は 絶縁膜の誘電率、Eth はゲートのしきい電 場である。(b) 上図の R2 から求めた移動 度 µeff = 1/(en2 R2 )。赤は絶縁膜がアル ミナの場合、青はパリレンの場合である。 である。ソースドレイン電極にはアルミニ ウムを用いた。(a) と (c) の横軸は、それぞ れチャネルに掛けたバイアス VD とゲート に掛けたバイアス VG である。(b) と (d) は それぞれ (a) と (c) のデータをチャネル内 に設けた電圧端子間の電位差 ∆V を横軸に してプロットし直したものである。(a) の測 定の際には VD = 5 V に固定してある。す べての図において、実線はバイアスを増加さ せていくときのもので、破線は減少させてい くときのものである。 ゲート電界を印加する、つまり n2 を大きくし k る 。アルミナのゲート絶縁膜を使用した場合の 我々の接触抵抗 Rcnt の値を文献値 24) ていくと Rcnt も R2 も急激に減少していく。一 と比べて 方、パリレンのゲート絶縁膜を使用した試料の みると、桁違いに大きいことがわかる。しかし Rcnt は n2 が小さいところで急激に減少するが、 Rcnt ' 105 kΩ に達するとなかなか減少しなく k なる。R2 も (アルミナの場合よりは初めからは ここで我々は4端子測定を行って接触抵抗を見積もっ ているが、2端子測定の場合は次のようにして、Rcnt を求めればよい。まず Rch = (L/W )R2 + Rcnt であ るから(Rch はソースドレイン間の2端子抵抗) 、アス ペクト比 W/L が等しい (つまり R2 が等しい) 複数 のサンプルについて Rch W を L の関数としてプロッ トしてみる。チャネルの物性が W/L に依存しなけれ ば、これはほぼ直線になるはずだ。その場合、この直 線の傾きが R2 を、縦軸との切片が Rcnt W を与えて くれる。この結果を 4 端子測定と比較するのは興味深 い。我々も現在試みているところである。 るかに低い値なのだが)n2 を大きくしてもほと んど変化を見せない。アルミナの試料でもっと n2 を大きくすれば R2 < 104 kΩ にできるのか、 それとも R2 ' 104 kΩ あたりにこの W/L 比で の試料の限界値があるのか、現在さらに研究を進 めている。 本稿ではこの試料の温度変化を紹介できなかっ 7 たが、とくに低温域で接触抵抗と電荷注入の問 ほとんどないので、微分形の µEF をプロットする 題は顕著になってくる。これを克服しなければ、 とばらつきが多くなってしまう。 我々の ESD 研究の本来の目標である量子臨界点 ただし移動度からさらに何か有用な情報が得ら の探索は不可能になってしまうだろう。さまざま れるわけでもない。トランジスタの特性を論ずる な試みが現在進行中であるが、例えば、図 1 に示 場合には、確かに移動度というのは一つの重要な した背面ゲートはこの接触抵抗を制御するための 指針だが、ESD の手法を用いて相転移を探索し ひとつの方法である。§ 2.5 で述べるように、低 ようなどという研究の場合には、実験から直接得 温域では ID -VD 曲線が極端に非線形になってし られる R2 という物理量を、上式(とくに微分形) まうのだが、この背面ゲートに電界を印加するこ を用いて移動度という(定義によっていろいろ変 とによって接触抵抗が劇的に低下し、ID -VD 曲 わってしまう)物理量にわざわざ書き直して、そ 線がオーミックになるということを実際に我々は の大小に一喜一憂する必要なんてほとんどない 確認している。しかし残念なことに、こうした接 だろう。むしろ R2 のままプロットしてその振 触抵抗の問題への取り組みに対して、我々は未だ る舞いを議論してくれた方がわかりやすい。今後 に頼れるべき指針を有していない。特に「強相関 ESD 研究がより進展を見せていけば、世の中の 酸化物と金属との接触」について、我々の理解が 論文のスタイルもそのように変わっていくだろう ほとんど進んでいないことを痛感させられる。一 と思っている。とりあえず参考のために µEF と 方で、接触抵抗の変化は強い履歴を示すことがあ µeff の関係を図 5 に示しておく。 り、これを積極的に使って新型の不揮発な電気抵 1 R ~ ID 抗変化メモリー素子を作ろうという試みがこの数 年で非常に活発になって来ている。§3 で紹介す µEF る、いわゆる Resistive Random Access Memory (RRAM) と呼ばれるものである 28) 。こうした研 究に後押しされて、この数年で接触抵抗の理解 µeff は飛躍的に深まるに違いないと、私は確信して いる。 図 4(b) は、図 4(a) の R2 から求めた有効移 0 nth 動度 µeff = 図 5 電界効果移動度 µEF と有効移動度 µeff の関係を模式的に示したもの。本文で 用いている表記にあわせて縦軸を 1/R2 、横 軸を n2 としているが、それぞれ適当な係数 を掛ければ ID と VG に等しくなる。つま りトランスファープロット(ID –VG プロッ 1 en2 R2 である。半導体の電界効果トランジスタではむし ろ上式の微分形である非飽和領域における電界効 ト)と同じことである。面密度のしきい値 nth (Vth に対応)と測定点を結ぶ直線の傾 きから求められる移動度が µeff であり、測 定点での接線の傾きが µEF である。 果移動度 µEF をよく使用する。 µEF n ~ VG ( ) 1 ∂ 1 = e ∂n2 R2 dins L 1 ∂ID = εins W ∆V ∂VG 2.5 金属非金属転移 我々が試みている ESD のもう一つの方法は、 (dins は絶縁膜の膜厚、VG はゲートの電圧。∆V 単結晶(ここでは SrTiO3 )の背面から電場を印 は 4 端子測定での電圧端子間の電位差だが、VD 加することである 29) 。我々は図 1(a) に模式的に で代用されることが多い。 )である。しかし、絶縁 示したような構造を作製し、背面ゲートからバイ 体へのキャリア注入を試みる ESD の場合、ID – アス VBG を印加した 8, 30) 。 ここで SrTiO3 単結晶の表面には、ユニットセ VG 曲線は教科書にあるような曲線になることは 8 VBG = –20V VBG = 60V VBG = 120V 0.4 ID ( µ A ) ID ( µ A ) 0.4 0.2 0 -0.2 0.2 VBG = 60V 0 T = 2.1K -0.2 T = 2.1K 4 2 6 4 R ( h/e2 ) R ( h/e2 ) 1000 2 100 6 4 2 10 -100 10 6 4 2 1 6 4 2 -50 0 50 100 VD ( mV ) -0.2 0 0.2 0.4 VD ( mV ) 図 6 (左上図) 2.1 K でのソース・ドレイン間の電流 ID をドレインの電位 VD に対してプロットしたもの。 実験は ID を −0.4 µA から 0.4 µA までスキャンしながら VD を測定した。ゲート電圧は −20 V から 60 V ま で変化させてある。(左下図) チャネル部分の面抵抗 R2 を量子抵抗 h/e2 = 25.8 kΩ を単位としてプロットし たもの。(右上図) VBG が 60 V から 120 Vのときの ID –VD 曲線。(右下図) VBG を 120 V にまで増加させる と、R2 の値が h/e2 以下にまで小さくなる。 ル3個分からなる SrZrO3 (∼10 Å) をヘテロ・エ そして VBG を 120 V にまで増加させると、ついに ピタキシャル成長させてある。SrTiO3 のバンド は R2 の値が量子抵抗の値 h/e2 = 25.8 kΩ にま ギャップは 3 eV、SrZrO3 のそれは 6 eV、この大 で達してしまう。ここで h はプランク定数で、e きな違いのせいで、キャリアは主として界面の は素電荷である。単純に解釈すれば、R2 ≤ h/e2 SrTiO3 の側に多く蓄積されると考えられる。 というのはチャネル全体に2次元的な金属電子状 態が出現したということを意味している。 ソース・ドレイン電極はアルミニウムで、チャ ネル長 L は 3 µm、チャネル幅 W は 400 µm で 非線形の I–V 特性に関しては、これまでに同 ある。電極は SrTiO3 /SrZrO3 界面に直接接して じような I–V 曲線を報告している例は少なくな いる。ゲート電極は常にドレイン電極と同電位 い。しかし我々の試料のチャネル長は 3 µm とい にしてある(接地してあるのとほとんど同じであ う大きな値なので、ソース電極からドレイン電極 る)。したがってこの試料の絶縁膜(アモルファ への単純なワン・ステップのトンネル過程を考え ス Al2 O3 )は単に保護層としての役割を果たして るのは無理がある。 この 3 µm のチャネル長の試料では4端子測定 いるだけである。 を行ってはいないのだが、図 3(d) で述べたよう 厚さ 0.5 mm の SrTiO3 単結晶基板を介して、 背面ゲートのバイアス VBG を印加すると、ID –VD に、特に低温でキャリア注入を行うと、チャネル 曲線は図 6 のように変化する。図 6 (左) に示すの 内にはやはり金属的なドメインのまだら模様が形 は 2.1 K での IS –VD 曲線である。ほぼ対称的な 成されているのではないかと考えられる。その場 強い非線形性が見られるが、これはソース電極と 合、この系の伝導は、ソース・ドレイン電極に形成 ドレイン電極のそれぞれに大きなエネルギー障壁 された大きなエネルギー障壁を通ってチャネルに が形成されていて、それを介したトンネル電流が 注入されたキャリアが、いくつもの金属ドメイン 流れているからであると推測される。VBG を増や 間を連続的にトンネリングあるいはホッピングす していくと非線形性が弱くなり、ギャップが消失 ることによって、引き起こされていると考えるの してついには典型的なオーミックの I–V になる。 が自然であろう。ゲート電場を大きくしていくと 9 (a) Top Electrode charged region (b) (defects, dislocation, Impurities, phase separation, etc) Electroforming insulating medium Bottom Electrode (c) conduction path or “filament” (e) (d) Top Electrode Top Domains model Middle Domains Bottom Domains Bottom Electrode 図 7 (a) 半導体の部分は、不活性な絶縁体の中に電荷を帯びたドメイン (領域) がぽつぽつと (非パーコレー ティングに) 存在しているものと仮定する。(b) 最初にこのサンドイッチ素子に、十分に長い時間大きな直流電 場を印加する。これを “electroforming” と呼ぶ。フォーミングによって、電荷を帯びたドメインが増大してい るのではないかと考えられる。(c) この素子を流れる電流の経路として考えられるのは、1次元的ないわゆる 「フィラメント」である。このフィラメントは電荷密度の不均質なドメインを量子トンネルあるいはホッピング (図中の矢印) によって繋いだものであろう。(d) 電極から注入されるキャリアの量は、これらのドメイン全て を満たすには十分な量ではない。しかしながら、電極との界面付近の典型的なドメインの大きさは数十ナノメー トル程度であると見積もられている 27, 43) 。したがって、少しばかりの電荷量でも、それらのドーピング状態 を実効的に変えてしまうのではないかと考えられる。そこで我々は、この系が、電極の近くの小さなドメイン (太線の丸) とその他のドメインとにわけて考えられるとして、モデルを構築した。(e) このモデルでは、上部 と下部の小さいドメインは 40 個あり、106 個の状態からなっている。中央のドメインはひとつだけで、109 個 の状態からなるものとする。実際の個数は文献 44–46) にあるような実験によって今後明らかにされることであ ろう。ドメイン内の状態数は、実験で報告されているキャリア密度 35) を反映するように設定されている。キャ リアはドメイン間をトンネルする。電荷の遷移確率は、現象論的パラメーターであるトンネルレートに準拠して いる 47) 。レート方程式を用いたこの系の数学的な記述については我々の原著論文を参照して欲しい 33) 。 この領域がそれぞれ成長するとともに、電極の障 われている。しかしながら、この不均質性を電気 壁も急激に小さくなっていく。やがてパーコレー 的に制御できるということこそが、強相関電子系 ティングな伝導のパスが繋がり、オーミックな のもつ最大の利点であると考えてみてはどうだ I–V が出現する。さらにチャネル全体がひとつ ろう。 の金属ドメインで覆われたときには R2 = h/e2 そこで、次のセクションではこのことに注目し て出発した、我々のもうひとつの研究を紹介して となるというシナリオだ。 おこう。 このように電荷分布が不均質になるのは主とし て界面の乱れやトラップ準位による影響が大きい §3 キャリア分布の動的制御:電気抵抗 のであろうが、一方でこれらは界面の2次元電子 のスイッチング効果 系で電子相関が強くなった効果を反映していると も考えられる。 遷移金属酸化物の多くは、複数の 電極にバリアがあり、さらに電荷の不均質な分 競合する基底状態を持っており、それらの競合に 布があると、I–V 特性に大きな履歴が現れる。そ よって量子的な揺らぎが大きくなると、さまざま れを用いることによって、電気抵抗の変化を利 な巨視的不均質が産み出されるのである 31, 32) 。 用したメモリー素子が作れるのではないだろう か 強相関電子系を、将来どんな形にせよエレクト 33, 34) 。 ロニクス素子として用いるためには、この本質的 我々のモデルが対象としているのは、半導体を な不均質性は大きな欠点となるのではないかと言 金属電極で挟んだ単純なサンドイッチ構造におい 10 V (arb. units) て古くから報告されている不揮発な抵抗変化であ る。半導体と金属電極の組み合わせ如何では、金 属電極間に電気的なパルスを与えるだけで、その しかもそれが不揮発に保たれることがわかってい る 27, 35–42) -0.2 0 -8 0 600000 I (carr/uot) 電気抵抗の値が数桁にも渡って可逆的に変化し、 8 1000 2000 3000 4000 5000 6000 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 0 -600000 。この不揮発な2端子抵抗変化現象の I (carr/uot) 研究は、この数年でにわかな盛り上がりを見せて おり、次世代の電子デバイス「抵抗変化ランダム アクセスメモリー (RRAM)」の開発につながる 0 -2000 -4000 と期待されている。 time (uot) 我々は、金属電極と半導体の間のポテンシャル 図 8 我々のモデルを用いたシミュレーシ ョンの結果。初期状態では小さなドメイン が 20 %、大きなドメインが 10 % のキャリア で満たされているものとした。これらの占 有度は少量の Cr をドープした SrZrO3 の ような系 36) と一致している。最上端の図 は、外部印加電圧の時間変化を示している。 小さな直流外部電圧 Vread が常に掛かって いて、電流が常時流れている状態になってい る。そこに、1000 uot †† という一定時間間 隔で、短い時間 (10 uot) のパルス電圧が印 加される。中央の図は上部電極を流れる電 流である。正の電圧パルスに対しては正の 鋭い電流スパイクが出現し、負の電圧パルス に対しては負のスパイクが出現する。最下 端の図は中央の図と同じであるが、縦のス ケールが異なっている。パルスとパルスの 間で電流値がスイッチしていることが良く わかる。 障壁を介した動的なキャリア注入および抽出と いう観点から、この現象の研究の「たたき台」と なるためのモデルを提案した。このモデルでは、 サンドイッチ構造の半導体部分が、不活性な絶縁 体の中に電荷を帯びたドメインがぽつぽつと (非 パーコレーティングに) 存在した状態になってい るということを大前提としている (図 7)。 つまり、このモデルに用いたドメイン構造とい うのは、前のセクションで考えた「ナノスケール での空間的な不均質性 (相分離)」という、強相関 TMO に広く共通に見られる性質にヒントを得た ものである。近年これは、TMO の示す最も劇的 な性質であるとして注目を集めており、TMO で 見られる多くの面白い物理現象のほとんどは、お の状態が劇的にスイッチするのである‡‡ 。(通常、 そらくこの相分離と何かしら関係しているであろ うと考えられている 31, 32) 。 高抵抗状態から低抵抗状態への遷移は “Set”、低 我々の電気抵抗スイッチングのモデルにおいて 抵抗状態から高抵抗状態への遷移は “Reset” と は、TMO 物質中の電荷を帯びた小さなドメイン 呼ばれている。) さまざまな系において典型的に が、キャリアドープによってモット転移を起こす 観測される履歴曲線を図 9 に示す。図 9(i) は我々 ということを前提とすることにした 34) 。このモ のモデルにおける計算結果である。我々の計算結 デルを用いて計算した基本的な電気抵抗スイッチ 果は、実験結果と定性的には驚くべき一致を見せ ングの振る舞いを図 8 に示す。正負の電圧パルス ている。特に我々のモデルは “Set” と “Reset” を交互に印加することによって、この系の電気抵 抗は高抵抗状態と低抵抗状態の間で交互に変化す ‡‡ “Set” と “Reset” での急峻な変化は、全てのサンド イッチ構造で見られるわけではない。とくに金属電極 と絶縁体の間に大きなショットキー障壁が存在する場 合には、履歴は残るけれどもこの急峻な変化は見えに くくなるようだ。これはおそらくキャリア注入による ショットキー障壁の幅のなめらかな変化こそが履歴現 象の支配的な要因になってしまうからであろう 41) 。 実際に我々はこのケースについてもモデル計算を行っ ており 34) 、I-V 特性の履歴から急峻な変化が消えて しまうことを確認している。これは実験によって観測 された I-V 特性と良く似ている。 るということがよくわかる。 こうしたスイッチング現象は、電流–電圧特性 (I-V 特性) に履歴が見られるという現象と関係し ている。つまり、I-V 特性が基本的に高抵抗状態 と低抵抗状態の二つからなっていて、印加した直 流電圧の絶対値があるしきい値を超えると、二つ 11 (a) (b) Reset (c) Reset Set Set Set Reset (e) (d) (f) Reset Reset Reset Set Set Set (g) (h) (i) Reset Reset Set Reset Set Set 図 9 不 揮 発 RRAM の 候 補 と し て 考 え ら れ て い る い く つ か の 物 質 (TMO 以 外 の 物 も 含 む) の サ ン ド イ ッ チ 構 造 の 電 流–電 圧 特 性 。比 較 の た め に 我 々 の 計 算 結 果 も 示 し て あ る 。“Set” と は 高 抵 抗 状 態 か ら 低 抵 抗 状 態 へ の 変 化 、“Reset” と は 低 抵 抗 状 態 か ら 高 抵 抗 状 態 へ の 変 化 の こ と で あ る 。(a) Au/Ti/SrZr0.998 Cr0.002 O3 /SrRuO3 36) 。(b) Ag/CeO2 /La0.67 Ca0.33 MnO3 48) 。(c) Ag/Bi2 Sr2 CaCu2 O8+y ヘテロ接合 49) 。(d) Pt/NiO/Pt 40) 。(e) Al/“Rose Bengal”/ITO 50) 。(f ) Al/DDQ/ITO 51) 。(g) Au/porus Si/p-type Si 52) 。(h) 2重障壁 AlAs/GaAs ヘテロ構造による柱状ダ イオードの集合体 53) 。(i) 我々のモデルによる計算結果。電圧のプロトコルは −Vmax → 0 → Vmax → 0 → −Vmax であり、1サイクルに要した時間は 3000 uot である。我々の結果は実験で観測されたものと驚 く程よい一致を見せている。 の両方において、急峻な変化が出現するというこ き起こされていなかった。つまり図 9(i) のような とを見事に再現できている。 I-V 特性を伴う電気抵抗のスイッチング現象は、 この電気抵抗スイッチング現象についてより深 どちらかひとつの界面によってのみ引き起こされ く考察するために、我々は、I-V 特性の履歴の過 る現象であると結論づけてもよいようである。実 程においてそれぞれのドメインのキャリア数がど 際に、この「小さなドメイン」を、はじめからど う変化するかを調べてみた。そこで明らかになっ ちらか片方の界面にしかもたないモデルを考えて たのは、図 9(i) の I-V 特性を再現するようにモ も、同じようなパラメーターの設定で、同様のス デル計算のパラメーターを選んだ場合、履歴に現 イッチングを見せるということを我々は確認して れる急峻な “Set” と “Reset” にはともに上部ド いる。言い換えれば、「小さなドメイン」は両方 メインのみが関わることになるということであ の界面に等しく存在する必要はないのである。 る。つまり上部ドメインの電子状態だけに、強相 中央のドメインのキャリア数は、ほぼ一定値に 関効果によってエネルギーギャップが開いたり閉 保たれている。つまりこのドメインの役割は、二 じたりする現象、いわゆる金属絶縁体転移 (モッ つの界面での現象を分離するバッファーとなって ト転移) が現れるというわけだ。履歴に強く関わ いるだけにすぎない。中央のドメインの状態数を るこの相転移は、この場合、下部ドメインでは引 増やしてやる (バルクの電荷不均質領域を増やす) 12 hopping or tunneling conduction Reset fuse blows! (Mott transition) Set 図 10 我々のモデル計算によって明らかになった “Set” および “Reset” 動作の概念図。この系を流れる電流 の経路 (電荷密度の不均質なドメインを量子トンネルあるいはホッピングによって繋いだ、1次元的ないわゆる 「フィラメント」) が、界面付近で焼き切れて電流が流れなくなるのが “Reset” 、切れた「フィラメント」がま た繋がって電流が流れるのが “Set” である。切れたり繋がったりということは、いずれか片方の電極との界面 付近にある「小さなドメイン」のみが、モット転移を起こすことによって実現している。 と、当然中央のドメインのキャリアの占有率が降 このことはまた、ナノスケールの金属クラスター 下するが、履歴曲線もスイッチング現象も全く影 で見られる、クーロンブロッケードと呼ばれる現 響を受けることはない。つまりこのことからも、 象になぞらえることもできるであろう。 この現象は片方の界面のみで起こっているという §4 むすび ことがわかる。 上述したように、この系を流れる電流の経路と 本稿のテーマは電場によるキャリアドープであ して考えられるのは、電荷密度の不均質なドメイ るが、ESD のような静電場だけでなく、パルス電 ンを量子トンネルあるいはホッピングによって繋 場のような電場変調もまた、実際に絶縁体にキャ いだ、1次元的ないわゆる「フィラメント」であ リアを注入するという事実は大切なことである。 る。したがって、このシミュレーションで明らか 潜在的に電子相関の強い TMO の場合、絶縁体 になったことは、電圧の絶対値が “Reset” のし にドープされたわずかな量の電荷は、我々がドメ きい値を超えたときに、片方の電極との界面付近 インと呼んでいる、電子系の本質的な不均質性に で「フィラメント」がプツリと切れてしまい、次 よってもたらされる領域にドープされると考えて に、電圧の絶対値が “Set” のしきい値を超えたと よいだろう。乱れを避けたいがために ESD を行 きに、切れていた「フィラメント」がまた繋がっ おうというのにキャリアドープに伴って本質的に てしまうということである。これはまさに再生可 不均質が現れるのではないかと考えるのはあまり 能な (再構築可能な) 電流ヒューズのようなもの 気持ちのいいことではない。しかし、こういう研 である。この概念図を図 10 に示す。 究がなければ、本物の臨界現象は永遠にベールの マクロな電気抵抗のスイッチングが、TMO に 下に隠されたままなのかもしれないし、不均質性 注入されたほんのわずかのキャリアによって引 を積極的に利用することで、均質な半導体デバイ き起こされるということは、とても興味深い。 スでは想像もできなかった、新概念の電子デバイ これは、この系での伝導がわずか数十ナノメー スが生まれるかもしれない。 トルという狭い領域で支配されているからであ ドメインのいくつかは、ドープ量を増やしてい る 27, 43) 。したがってほんのちょっとのキャリア くと、非常に異なる電子状態を持った二つの電子 ドーピングであっても、界面近くの「小さなドメ 相の相境界にまで達してしまうことがあるはず イン」のキャリア濃度は、強相関効果が発現する だ。これらの電子相は、その起源がなんであれ、 しきい値にまで上昇させられてしまうのである。 一般に、とても異なる電気抵抗特性を持っている 13 ことが多い。§3 では、まさにそのことが電気抵 No. 8 23. 5) P. Coleman and A. J. Schofield: Nature 抗スイッチングの源となると議論した。我々がそ こで仮定した金属絶縁体転移(モット転移)は、 433 (2005) 226. 6) I. H. Inoue: Semicond. Sci. Tech. 20 (2005) 単にその中の一例にすぎないということも付け加 S112. えておこう。 7) C. H. Ahn, J. -M. Triscone and J. 捏造事件以降の地道な取り組みを振り返ること Mannhart: Nature 424 (2003) 1015. によって、今にして考えれば実に当たり前と言え る問題点(絶縁耐圧、キャリア分布、接触抵抗、 8) C. H. Ahn, A. Bhattacharya, A. M. Gold- 不均質性)などが改めて整理されて来た。この1 man, M. Di Ventra, J. N. Eckstein, C. D. ∼2年で有機物単結晶への ESD が劇的な進展を Frisbie, M. E. Gershenson, I. H. Inoue, J. 見せているが、そこでのブレークスルーとなった Mannhart, A. Millis, A. F. Morpurgo, D. 出来事を分析すればするほど、遷移金属酸化物単 Natelson and Jean-Marc Triscone: Rev. 結晶への ESD 研究にもそろそろ何かが起こりそ Mod. Phys. 投稿中. 9) 井上 公: 応用物理 (2005) 印刷中. うだと、期待を抱かないわけにはいかない。百年 10) M. Imada, A. Fujimori and Y. Tokura, 目の転機は訪れるであろうか。 Rev. Mod. Phys. 70 (1998) 1039. 謝辞 11) 広井善二, 村岡祐治, 村松孝樹, 山内 徹, 山 浦淳一: 固体物理 39 (2004) 211. 図 3 と図 6 で紹介した実験結果は産業技術総 合研究所・強相関電子技術研究センターにおける 12) K. Ueno, I. H. Inoue, H. Akoh, M. 上野和紀、中村浩之、高橋幸裕、山田浩之、佐藤 Kawasaki, Y. Tokura, and H. Takagi: 弘、山田寿一、長谷川達生、川崎雅司、高木英 Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 1755. 典、赤穗博司、十倉好紀の各氏との共同研究で得 13) K. Ueno, I. H. Inoue, T. Yamada, H. Akoh, られた成果である。また、§3 で紹介したモデル Y. Tokura and H. Takagi: Appl. Phys. は、Marcelo J. Rozenberg 氏(Université Paris- Lett. 84 (2004) 3726. Sud および Universidad de Buenos Aires)と、 14) K. Shibuya, T. Ohnishi, M. Lippmaa, M. Maria J. Sánchez 氏(Centro Atómico Bariloche, Kawasaki and H. Koinuma: Appl. Phys. Argentina)との共同研究によって得られたもの Lett. 85 (2004) 425. である。また Allen M. Goldman 氏(University 15) V. C. Sundar, J. Zaumseil, V. Podzorov, of Minnesota)には、ESD 研究における問題点に E. Menard, R. L. Willett, T. Someya, M. ついて、有益な議論をしていただいた。この場を E. Gershenson and J. A. Rogers: Science お借りして、共同研究者の皆さんに感謝したい。 303 (2004) 1644. 16) V. Podzorov, E. Menard, A. Borissov, [参考文献] V. Kiryukhin, J. A. Rogers, and M. E. 1) V. E. Bose: Phys. Z. 7 (1906) 373. Gershenson: Phys. Rev. Lett. 93 (2004) 2) R. E. Glover, III and M. D. Sherrill: Phys. 086602; E. Menard, V. Podzorov, S. -H. Hur, A. Gaur, M. E. Gershenson and J. A. Rev. Lett. 5 (1960) 248. Rogers: Adv. Mater. 16 (2004) 2097. 3) M. R. Beasley et al.: Report of the investigation committee on the possibility of sci- 17) V. Podzorov, V. M. Pudalov and M. E. entific misconduct in the work of Hendrik Gershenson: Appl. Phys. Lett. 82 (2003) Schön and coauthors, Lucent Technologies, 1739; V. Podzorov, S. E. Sysoev, E. Logi- Sep. 25, p.1 (2002). nova, V. M. Pudalov and M. E. Gershenson: Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 3504; 4) A. J. Schofield: Phys. World 16 (2003) 14 R. W. de Boer, A. F. Morpurgo and T. Chen, T. Yamashita, Appl. Phys. Lett. 63 M. Klapwijk: Appl. Phys. Lett. 83 (2003) (1993) 684; U. Kabasawa, H. Hasegawa,T. 4345; J. Takeya, C. Goldmann, S. Haas, Fukazawa, Y. Tarutani, K. Takagi, J. K. P. Pernstich, B. Ketterer and B. Bat- Appl. Phys. 81 (1977) 2302; D. Matthey, logg: J. Appl. Phys. 94 (2003) 5800; V. S. Gariglio, J.-M. Triscone, Appl. Phys. Y. Butko, X. Chi, D. V. Lang and A. Lett. 83 (2003) 3758; A. Bhattacharya, M. P. Ramirez: Appl. Phys. Lett. 83 (2003) Eblen-Zayas, N. E. Staley, W. H. Huber, A. 4773; T. Hasegawa, K. Mattenberger, J. M. Goldman, App. Phys. Lett. 85 (2004) Takeya and B. Batlogg : Phys. Rev. B 69 997; M. Eblen-Zayas, A. Bhattacharya, N. (2004) 245115. E. Staley, A. L. Kobrinskii, A. M. Goldman, Phys. Rev. Lett. 94 (2005) 037204. 18) V. Da Costa, C. Tiusan, T. Dimopoulos 30) 井上 公: 平成 15 年度 強相関電子技術研究 and K. Ounadjela: Phys. Rev. Lett. 85 センター (CERC) 研究報告書 (April 2004) (2000) 876. 35. (http://staff.aist.go.jp/i.inoue/papers/ 19) T. Ono, D. Y. Sim and M. Esashi: J. Mi- - mine/CERC2004J.pdf) cromech. & Microeng. 10 (2000) 445. 31) A. Moreo, S. Yunoki, E. Dagotto, Science 20) T. Ando, A. B. Fowler and F. Stern: Rev. 283 (1999) 2034; E. Dagotto, T. Hotta, Mod. Phys. 54 (1982) 437. A. Moreo, Phys. Reports 344 (2001) 21) Y. Takada and Y. Uemura: J. Phys. Soc. 1; E. Dagotto, Nanoscale Phase Sep- Jpn. 43 (1977) 139. 22) P. Calvani, M. Capizzi, F. Donato, S. Lupi, aration and Colossal Magnetoresistance, P. Maselli, and D. Peschiaroli : Phys. Rev. (Springer-Verlag, Berlin, Oct. 2002); E. B 47, (1993) 8917. Dagotto, New J. Phys. 7 (2005) 67. 23) J. F. Schooley, H. P. R. Frederikse, W. R. 32) S. H. Pan, J. P. O’Neal, R. L. Badzey, C. Hosler and E. R. Pfeiffer: Phys. Rev. 159 Chamon, H. Ding, J. R. Engelbrecht, Z. (1967) 301. Wang, H. Eisaki, S. Uchida, A. K. Gupta, K.-W. Ng, E. W. Hudson, K. M. Lang, J. 24) L. Bürgi, T. J. Richards, R. H. Friend and C. Davis, Nature 413 (2001) 282. H. Sirringhaus: J. Appl. Phys. 94 (2003) 6129; B. H. Hamadani and D. Natelson: 33) M. J. Rozenberg, I. H. Inoue and M. Appl. Phys. Lett. 84 (2004) 443: B. H. J. Sánchez, Phys. Rev. Lett. 92 (2004) Hamadani and D. Natelson: J. Appl. Phys. 178302. 34) M. J. Rozenberg, I. H. Inoue and M. J. 95 (2004) 1227. 25) 中村浩之ら、日本物理学会第 60 回年次大会、 Sánchez, cond-mat/0406646. 35) Y. Watanabe, J. G. Bednorz, A. Bietsch, 26pYK-17、2005 年 3 月。 Ch. Gerber, D. Widmer, A. Beck, S. J. 26) G. Dearnaley, A. M. Stoneham, D. V. Mor- Wind, App. Phys. Lett. 78 (2001) 3738. gan, Rep. Prog. Phys. 33 (1970) 1129. 27) H. Pagnia and N. Sotnik, Phys. Stat. Sol. 36) A. Beck, J. G. Bednorz, Ch. Gerber, C. A 108 (1988) 11、および、その中の引用文 Rossel, D. Widmer, App. Phys. Lett. 77 献を参照のこと。 (2000) 139; A. Beck, J. G. Bednorz, C. Gerber, C. P. Rossel, PCT WO 00/49559 28) Focus Report on Resistance Change Mem- (2000). ory (Memory Strategies International, 37) A. Schmehl, F. Lichtenberg, H. Bielefeldt, Texas, March 2004). J. Mannhart, D. G. Schlom, App. Phys. 29) K. Nakajima, K. Yokota, H. Myoren, J. 15 S. Tsui, A. Baikalov, J. Cmaidalka, Y. Y. Lett. 82 (2003) 3077. 38) S. Q. Liu, N. J. Wu, A. Ignatiev, Appl. Sun, Y. Q. Wang, Y. Y. Xue, C. W. Chu, Phys. Lett. 76 (2000) 2749; S. Duhalde, M. L. Chen, A. J. Jacobson, Appl. Phys. Lett. Villafuerte, G. Juárez, S.P. Heluani, Phys- 85 (2004) 317; T. Fujii, M. Kawasaki, A. ica B 354 (2004) 11; R. Dong, Q. Wang, Sawa, H. Akoh, Y. Kawazoe, Y. Tokura, L. Chen, T. Chen, X. Li, Appl. Phys. A 80 Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 012107. 実は、 (2005) 13; A. Odagawa, H. Sato, I. H. In- ショットキー接合を舞台にした電気抵抗ス oue, H. Akoh, M. Kawasaki, Y. Tokura, T. イッチングの研究は 1970 年以来の長い歴史 Kanno, H. Adachi, Phys. Rev. B 70 (2004) を持っている。例えば ZnSe/Ge のヘテロ接 224403. 合 [H. J. Hovel, Appl. Phys. Lett. 17 (1970) 39) V. A. Rozhkov, A. I. Petrov, Proc. 3rd 141] や、GaAs/Si のヘテロ接合 [A. Moser, Int. Conf. on Electric Charge in Solid In- Appl. Phys. Lett. 20 (1972) 244] などであ sulators (Tours, France, July 1998) No.287, る。これらの場合、フォーミングによって生 p.671; G Stefanovich, A Pergament and D じる界面の不完全性が、その後のスイッチン Stefanovich, J. Phys.: Condens. Matter 12 グ現象に重要な役割を果たしていると考えら (2000) 8837; S. H. Kim, I. S. Byun, I. R. れている。 Hwang, J. Kim, J. Choi, B. H. Park, S. 42) 構造的、熱力学的な原因によって、同様な Seo, M. J. Lee, D. H. Seo, D. -S. Suh, Y. 電気抵抗スイッチングを示すサンドイッチ S. Joung, I. K. Yoo, Jpn. J. Appl. Phys., 構造も存在することを忘れてはならない。 44 (2005) L345. 良く研究されている典型的な例は、”ovon- 40) I. G. Baek, M. S. Lec, S, Seo, M. J. Lee, D. ics” と呼ばれる、アモルファスの母体中に H. Seo, D. -S. Suh, J. C. Park, S. O. Park, 結晶化したフィラメント (伝導のパス)が形 H. S. Kim, I. K. Yoo, U. -In Chung, J. 成されるものである [S. R. Ovshinsky, U. T. Moon, IEEE International Electron De- S. Patent 3,052,830, (1962); ibid J. Non- vices Meeting, (San Francisco, Dec. 2004); Crystall. Solids 2 (1970) 99]。あ る い は 、 S. Seo, M. J. Lee, D. H. Seo, E. J. Jeoung, 金属的なフィラメントが形成されている D. -S. Suh, Y. S. Joung, I. K. Yoo, I. R. ことがはっきりと確認されているような系 Hwang, S. H. Kim, I. S. Byun, J. -S. Kim, も あ る [A. Nakamura, K. Matsunaga, J. J. S. Choi, B. H. Park, Appl. Phys. Lett., Tohyama, T. Yamamoto, Y. Ikuhara, Na- 85 (2004) 5655; S. Seo, M. J. Lee, D. H. ture Materials 2 (2003) 453; K. Terabe, T. Seo, S. K. Choi, D. -S. Suh, Y. S. Joung, Hasegawa, T. Nakayama, M. Aono, Na- I. K. Yoo, I. S. Byun, I. R. Hwang, S. H. ture 433 (2005) 47.]。これらは我々の研究 Kim, B. H. Park, Appl. Phys. Lett., 86 対象には入っていない。というのも、我々が (2005) 093509; H. J. Sim, D. H. Choi, D. 興味を持っているのは、強相関電子系によっ S. Lee, S. Seo, M. J. Lee, I. K. Yoo, H. S. て引き起こされるスイッチング現象だからで Hwang, IEEE Electr. Dev. Lett., 26 (2005) ある。 43) T. Becker, C. Streng, Y. Luo, V. Mosh- 292; I. G. Baek, private communication. 41) A. Baikalov, Y. Q. Wang, B. Shen, B. nyaga, B. Damaschke, N. Shannon, K. Lorenz, S. Tsui, Y. Y. Sun, Y. Y. Xue, Samwer, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) C. W. Chu, Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 237203. 957; A. Sawa, T. Fujii, M. Kawasaki, Y. 44) C. Rossel, G. I. Meijer, D. Brémaud, and Tokura, Appl. Phys. Lett. 85 (2004) 4073; D. Widmer, J. Appl. Phys. 90 (2001) 2892. 16 45) E.Z. Luo, J. B. Xu, W. Wu, I. H. Wilson, B. Zhao, X. Yan, Appl. Phys. A 66 (1998) S1171. 46) K. Szot, W. Speier, R. Carius, U. Zastrow, W. Beyer, Phys. Rev. Lett. 88 (2002) 075508. 47) J. G. Simmons and R. R. Verderber, Proc. Roy. Soc. A 301, 77 (1967). 48) R. Fors, S. I. Khartsev, A. M. Grishin, Phys. Rev. B 71 (2005) 045305. 49) N. A. Tulina, A. M. Ionov and A. N. Chaika, Physica C 366 (2001) 23. 50) A. Bandyopadhyay and A. J. Pal, Appl. Phys. Lett. 82 (2003) 1215. 51) B. Mukherjee and A. J. Pal, Appl. Phys. Lett. 85 (2004) 2116. 52) K. Ueno and N. Koshida, Appl. Phys. Lett. 74 (1999) 93. 53) B. W. Alphenaar, Z. A. K. Durrani, A. P. Heberle, M. Wagner, Appl. Phys. Lett. 66 (1995) 1234. 著者紹介 井上 公(いのうえいさお) 1990 年東京大学理学部物理学科卒。92 年同大学 院理学系研究科修士課程修了 (物理学専攻)。同 年工業技術院電子技術総合研究所研究官。99 年 同主任研究官。01 年より独立行政法人産業技術 総合研究所主任研究員。理学博士。専門は物性物 理、とくに強相関電子系の電子状態の研究。 e-mail: [email protected]