...

屈折強調 Digital Breast Tomosynthesis に関する基礎研究

by user

on
Category: Documents
24

views

Report

Comments

Transcript

屈折強調 Digital Breast Tomosynthesis に関する基礎研究
○平成20年度奨励研究
「屈折強調 Digital Breast Tomosynthesis に関する基礎研究」
放射線技術科学科 助教 島雄 大介
1.研究目的
高速データ通信が可能なフラットパネルディテクタの出現により、幾何学的断層撮影法がトモシンセシスとして
再び脚光を浴びつつある1,2)。従来の幾何学的断層撮影法では各深さにおける断層像の取得毎にX線照射が
必要であったが、このトモシンセシスでは1度のX線照射で任意の深さでの断層像を何枚でも再構成できる。欧
米では既に Digital Breast Tomosynthesis (DBT)として吸収コントラストによる乳房撮影の分野で臨床試験が進
められ、2009年からの臨床利用が計画されている。
本研究では、ラウエ型アナライザを用いた屈折コントラスト法にトモシンセシスを応用して3)、乳癌試料の屈折強
調断層像の取得に向けた基礎研究を行う。特に、従来の吸収コントラスト法に対する再構成法である「シフト加
算法」の概念をそのまま屈折コントラスト法に応用し、屈折効果が強調された断層像が再構成されるのかを検討
することとする。さらに、ラウエ型アナライザの角度位置を変化させ4)、得られる断層像との関係を把握する。
2.研究方法
実験は高エネルギー加速器研究機構のPhoton Factory (BL14B)で行った。ハッチ内にラウエケースによる屈
折強調画像法用の光学系を組み(図1)、ビームラインの二結晶モノクロメータ:Si(111)により得られる17.4 keVの
単色X線を利用した。モノクロコリメータMCとラウエ型アナライザA[L]の回折面はSi(220)を利用し、MCは非対称
結晶(非対称角:9.9°)、A[L]は対称結晶とした。画像検出器には画素サイズ9μm×9μmのX線CCDカメラ
(XDI-VHR40, Photonic Science社)用いた。試料はホルマリン固定された標本(サイズ:30mm×30mm×40mm)
とした。この試料は浸潤性乳がん患者より摘出されたものであり、石灰化を多量に含む領域を観察領域とした。
断層角は±25°とし、1°ステップでトモシンセシス用投影画像(生データ)を51枚取得した。A[L]の角度位置
は、回折強度曲線の最下点を基準として、①100″低角側(比較用の吸収コントラスト画像)、②0″(暗視野象
5)
)、③0.5″低角側、④1.0″高角側とした。本研究ではシフト加算法で屈折強調断層像が得られるかを調査す
る基礎研究であるため撮影線量については検討せず、各生データの撮影時間は、視覚的にコントラストが確認
できる4-5秒とした。これらの生データを元に支点面とそこから2mm下流の位置での断層像をシフト加算法により
再構成した。ボケ除去処理としては、アンシャープマスク処理(半径;15ピクセル,マスク加重0.6)を採用した。
MC: Si(220)
object
Incident X-ray:
17.4keV
A[L]: Si(220)
PIN photodiode
X-ray CCD camera
図1.ラウエケースによる屈折強調画像法用の光学系
図2.乳がん試料の投影像とトモシンセシスによる断層像
3.研究結果
図2にA[L]の角度位置が、(a)100″低角側[吸収コントラスト像]、(b)0″[暗視野象]、(c)0.5″低角側、(d)1.0″
高角側における像をまとめた。ここで、1は投影像、2と3はトモシンセシスによる断層像(2は支点面、3は支点面
より2mm下流での断層像)である。(a)-2と3に示した従来のトモシンセシスでも、微小石灰化、クーパー靱帯、乳
腺実質と実質内脂肪の分布が描出されているが、(b) - (d)に示すようにA[L]を用いることで、これらがさらに明瞭
となった。特に(b)では石灰化、(c)と(d)ではクーパー靱帯、脂肪化乳腺の形態の描出が優れていた。これらは、
X線の屈折現象により付加された新たなコントラストに起因するといえる。
4.結論
従来の吸収コントラスト法に対する最も単純な「シフト加算法」をそのまま屈折コントラスト法に導入したとしても、
屈折強調トモシンセシスが可能であることが実験的に示された。その結果から、①暗視野条件での屈折強調トモ
シンセシスではボケを伴わない鮮明な石灰化像が得られ、その辺縁形状の評価が可能であり、②A[L]にオフセ
ットを与えた場合の屈折強調トモシンセシスでは軟組織の描写能が向上し、腫瘤の観察に適することが示唆さ
れた。
5.成果の発表
1) D. Shimao, K. Kataoka, R. Shioda, M. Sugawara, H. Sugiyama, M. Ando. Preliminary results of
Digital Breast Tomosynthesis by synchrotron X-ray. The 3rd Asian Meeting on Synchrotron
Radiation Bio-Medical Imaging (Yunnan, China), Oct 2008
2) 島雄大介,片岡香,塩田涼子,菅原麻依子,杉山弘,市原周,安藤正海. 単色・平行X線によるデ
ジタルブレストトモシンセシス. 第22回日本放射光学会年会放射光科学合同シンポジウム(東京)
2009年1月
6.参考文献
1)
2)
3)
4)
5)
B.
J.
D.
D.
M.
G. Ziedses des Plantes: Acta Radiol. 13 (1932) 182.
T. Dobbins III, et al.: Phys. Med. Biol. 48 (2003) R65.
Shimao, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) L608.
Shimao, et al.: Appl. Radiat. Isot. 64 (2006) 868.
Ando, et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 40 (2001) L844.
Fly UP