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エコ・エレクトロニクス材料β-FeSi2大型単結晶の 育成と光物性に関する
The Murata Science Foundation エコ・エレクトロニクス材料 β-FeSi2 大型単結晶の 育成と光物性に関する研究 Crystal growth and optical properties of Eco-electronics-material β-FeSi2 A21106 代表研究者 共同研究者 鵜 殿 治 彦 茨城大学 工学部電気電子工学科 助教授 Haruhiko Udono Associate Professor, Faculty of Engineering, Dept. of Electrical and Electronic Engineering, Ibaraki University 菊 間 勲 茨城大学 工学部電気電子工学科 教授 Isao Kikuma Professor, Faculty of Engineering, Dept. of Electrical and Electronic Engineering, Ibaraki University We have grown high quality β-FeSi2 single crystals by a temperature gradient solution growth method using Ga and Zn solvents. The crystals grown from Ga solvent (Ga-β-FeSi2) and Zn solvent (Zn-β-FeSi2) showed p-type conduction. The resistivities at room temperature (RT) of Ga-β-FeSi2 and Zn-β-FeSi2 were 0.02-0.03 Ωcm and 0.4-2 Ωcm, respectively. The hole concentration and Hall mobility at RT were (1-2) 1019 cm-3 and 14-16 cm2/Vs for Ga-β-FeSi2 and (2-4) 1017 cm-3 and 19-46 cm2/Vs for Zn-β-FeSi2. The temperature dependence of the hole concentration reveals that ionization energy EA is approximately 0.02 and 0.12 eV for Ga-βFeSi 2 and Zn- β -FeSi 2, respectively. We also studied the optical absorption, polarized reflectance (PR) and photoluminescence (PL) of the β-FeSi2 crystals. In low-absorption measurements, we found a phonon emission and absorption structure, which suggests an indirect transition. The exciton energy gap of 0.814 eV was determined from the absorption spectrum at 3.5 K. We also found a direct transition with the gap energy of 0.939eV. PR measurements for E//a, E//b and E//c revealed the anisotropy of reflectivity of β-FeSi2. We observed the PL with a peak wavelength of about 1.56 µm at 20 K. しかし、 β -FeSi 2 発光素子の発光効率は今 研究目的 のところ低く、またその発光メカニズムもは β -FeSi 2 はSi 基板上にエピタキシャル成長が っきりと判っていない。理論計算では β -FeSi 2 可能なSi 系発光材料として最近急速に注目を は間接遷移型のバンド構造を持つと予測する 集め始めた材料である。1996 年に英国サリー 報告が主流であるが、薄膜を用いた光吸収測 大のグループが Si 中に β -FeSi 2 を埋め込んだ 定では直接遷移型との報告が多数をしめてい 素子で低温でのEL 発光(波長1.5µm)を報告 る。このため、薄膜の β -FeSi 2 では歪みによっ し、2000 年には筑波大のグループが室温 EL てバンドが変調されて直接遷移型になり、発 発光を報告するに至っている。こうしたこと 光しているとの理論計算もなされている。し から β -FeSi 2 はLSI テクノロジ−における光イ かしながら、バルク単結晶を用いた光吸収測 ンターコネクションへの道を切り開く材料と 定の報告は無く、実際の β -FeSi 2 のバンド構 して注目されている。 造が直接遷移型なのか間接遷移型なのか明確 ─ 43 ─ Annual Report No.18 2004 になっていない。今後の β -FeSi 2 発光素子の開 本 文 発に向けて、 β -FeSi 2 の基礎物性、特に光物 1.バルク単結晶成長 性を明確にすることが緊急課題といえる。 こうした背景をふまえ、本研究では高品質 1-1 成長方法と結晶評価法 な β -FeSi 2 単結晶を育成し、その光物性、特 β -FeSi 2 バルク単結晶の成長は、縦型の抵抗 にバンド構造を明らかにすることを目的に研 加熱炉を使用して、溶液温度差法によって行 究を行った。 った。成長アンプルは全て高純度石英管を使 用して作成した。溶質原料にはFe とSi を1 : 概 要 2 の組成比でアーク溶解した FeSi 2 熔融合金、 β -FeSi 2 の電子構造を明らかにするためには もしくは、Fe と Si を 2 : 5 の組成比でアーク バルク単結晶を用いた光吸収測定および反射 溶解したFe 2 Si 5 熔融合金を用いた。溶媒には 測定が有効である。これまでに β -FeSi 2 の吸収 純度 99.9999 %(6N)のGa およびZn を使用 および反射測定に関する研究報告は多数なさ した。結晶成長条件を表 1 に示す。ここで、 れているが、バルク単結晶を用いた測定報告 T G , T S は、それぞれ結晶成長部温度、原料部 はない。これは、高品質な β -FeSi 2 バルク単結 温度である。成長した結晶は、粉末X 線回折、 晶を得るのが困難であったためである。Fe-Si 背面反射Laue 観察、SEM-EDX 装置による測 状態図がしめすように β -FeSi 2 の固相線は液相 定によって評価した。また、電気的特性は室 線と接していないために融液からの単結晶成 温から10K の間でvan der Pauw 法もしくは6 長が行えず、大型の単結晶を得ることが実質 端子のブリッジ型電極を用いたHall 効果測定 的に難しい。このため β -FeSi 2 バルク単結晶の でおこなった。試料の電極は銀ペーストを用 成長はヨウ素を輸送剤に用いた化学気相輸送 いた。測定時の印可磁場は直流0.35T である。 法(CVT)を中心に研究開発が進められてき た。しかし、CVT 法によって得られる結晶は 1-2 結晶成長結果 一般的なサイズが0.5mm ×0.2mm ×10mm 程 Ga 溶媒からの成長、Zn 溶媒からの成長ど 度と小さいために光学測定を行うには十分な ちらの成長実験においてもきれいな光沢のフ サイズではなかった。また、こうした針状結 ァセット面をもった β -FeSi 2 単結晶が成長し 晶は双晶を含みやすいために、光学異方性に た。図1(a) ,(b)にそれぞれGa 溶媒、Zn 溶 関する測定も難しかった。本研究では、 β - 媒から成長した典型的な成長結晶の写真を示 FeSi 2 バルク単結晶の新たな成長方法の開発に す。Ga 溶媒から成長した結晶は3 ×3 ×2mm 3 取り組み、溶液成長法によって光学測定を行 程度の粒状で成長異方性が小さかった。また、 うのに十分なサイズのバルク単結晶を成長す ることに成功した。更に、このバルク単結晶 を用いて吸収および反射測定を行い、歪みの 無い β -FeSi 2 が間接遷移型のバンド構造を持 つことを初めて明確にした。 ─ 44 ─ 表1 結晶成長条件 The Murata Science Foundation Zn 溶媒から成長した結晶についても粒状結晶 ての結晶は正の Hall 係数を示し、p 型伝導を が成長したが、原料に Fe 2 Si 5 を用いた場合、 示した。Ga 溶媒から成長した結晶のHall 係数 図 1 ( b ) に示 すような針 状 結 晶 ( 4 × 1 × は室温で 0.4cm 3 /C で、Zn 溶媒から成長した 0.5mm 3 程度)もみられた。いずれの結晶も低 結晶はこれより約2 桁高い値を示した。また、 指数面のファセット面が発達しており、 Zn 溶媒から成長した結晶は低温でピークを示 (100)、(001)面などを用いて光学測定を十 し、浅い不純物バンドの伝導領域が観測され 分に行うことが可能である。また、結晶成長 た。これらHall 係数から計算した正孔濃度の 速度の異方性が高いために生じる針状結晶は 温度依存性を図 3 に、また、移動度の温度依 CVT で成長する結晶や昨年報告した Sn 溶媒 存性を図4 に示す。Ga 溶媒から成長した結晶 から成長した結晶にもみられる。成長速度が の正孔濃度は室温で(1 − 2)× 10 19 cm -3 程度 最も大きいGa 溶媒から成長した結晶にはあま と高い。これは、溶媒のGa が不純物として結 り針状結晶がみられないことから、成長速度 晶中に取込まれるためである。一方、Zn 溶媒 が遅い成長の場合に針状結晶が成長しやすい から成長した結晶では、室温の正孔濃度が (1 −4)×10 17 cm -3 でGa 溶媒と比べて約2 桁低 と考えられる。 図 2 に抵抗率とHall 係数の温度依存性を示 す。室温での抵抗率はGa 溶媒から成長した結 晶では0.02-0.03Ωcm 程度、Zn 溶媒から成長 した結晶では 0.4-2Ωcm 程度で 20K では室温 より 2-3 桁高い抵抗率を示した。また、すべ 図3 (a)Ga溶媒および(b)Zn溶媒から成長した結晶の 正孔濃度の温度依存性 図1 Ga 溶媒および Zn 溶媒から成長した β -FeSi 2 単結晶。 (a)#Ga6,(b)#Zn13 図2 Ga溶媒およびZn溶媒から成長した β-FeSi2 結晶の(a) 図4 Ga 溶媒および Zn 溶媒から成長した β-FeSi2 結晶の移 抵抗率および(b)Hall係数の温度依存性 動度の温度依存性 ─ 45 ─ Annual Report No.18 2004 い値であった。室温での移動度についてはGa 2 溶媒から成長した結晶が10 −20cm /Vs 程度、 2 厚さ 20µm 以上の厚い試料では研磨した試料 を希釈フッ酸で表面処理したものを測定に用 Zn 溶媒から成長した結晶が20 −50cm /Vs 程 いた。厚さ1µm 前後の薄い試料では、研磨し 度であった。Ga 溶媒から成長した結晶および た結晶を直径0.5mm φの単孔リングでマスク Zn 溶媒から成長した結晶それぞれの正孔濃度 したものを希釈したフッ硝酸でエッチングし、 の温度依存性について2 準位モデル [1] を用い て解析した結果を表2 および3 に示す。 試料中央部分のみ所定の厚さの試料を作成し た。最終的な測定試料の厚さは、顕微鏡もし くはSEM による断面観察から求めた。偏光反 2.β -FeSi 2 単結晶の吸収および反射測定 射測定は結晶の(100)および(001)ファセ 2-1 ット面を利用してa//E, b//E, c//E の各偏光に 透過吸収および反射測定実験方法 光吸収測定および偏光反射測定にはGa 溶媒 対する反射率を測定した。 を用いた温度差法によって成長した β -FeSi 2 単 光透過測定は、焦点距離 50cm の分光器に 結晶を使用した。1-2 節で述べたように結晶 InGaAs 検出器、ハロゲンランプ光源を組み合 の抵抗率は室温で約 0.03Ωcm, 20K 以下では わせたシングルビームロックイン方式の分光 10Ωcm 以上である。また、Hall 測定から求め 測定装置および積分球型PbS 検出器を備えた 19 -3 た正孔濃度は室温で約1.5 ×10 cm , 20K 以 16 -3 ダブルビーム、ダブルモノクロ方式の分光光 下では1 ×10 cm 以下である。X 線ロッキン 度計を用いて 300K から 4K の範囲で行った。 グカーブ測定により求めた800 回折のFWHM 光反射測定は紫外−可視−近赤外顕微分光光 は50"程度で良い結晶性を持っている。 度計を用いて室温で測定した。光吸収係数α 光吸収測定用結晶は研磨とエッチングによ って作成した。ガラス基板にWax で固定した は反射率 R の温度依存性を無視できると仮定 して式(1)より計算した[2]。 後、#4000 のカーボランダムによって所望の 厚さまで研磨によって薄片化し、その後、ダ ··················(1) イヤモンドスラリーによって鏡面研摩した。 研磨後はアセトン洗浄で Wax を取り除いた。 ここでT は透過率、d は試料厚さである。 偏光反射測定はa//E, b//E, c//E の各偏光光 源を用い紫外−可視−近赤外顕微分光光度計 表2 Ga溶媒から成長したp型 β-FeSi2 結晶の電気的特性 によって室温で測定した。このとき光の入射 条件は垂直入射である。 2-2 透過吸収および偏光反射測定の結果と 考察 表3 Zn溶媒から成長したp型 β-FeSi2 結晶の電気的特性 (a)直接遷移に対応した吸収 図 5 に厚さ 0.8µm の薄い試料を用いて 10300K の温度で測定した吸収係数 α の光子エネ ルギー(h ν )依存性を示す。測定したエネル ギー領域で吸収係数は光子エネルギーの増加 ─ 46 ─ The Murata Science Foundation に伴って急峻に増加し、1eV での吸収係数は 収が生じていることが判る。 ( α h ν ) 2 =0 への 5 ×10 4 cm -1 以上となる。この0.8-0.95eV 領域 外挿から求めた直接遷移に対応するバンドギ での急峻な吸収係数の増加はSi 基板上に成長 ャップエネルギー E g d は室温で0.876eV, 10K した β -FeSi 2 薄膜でもみられており、 β -FeSi 2 では 0.939eV であった。図 7 に外挿から求め のバンド間遷移による吸収に対応している。 たバンドギャップエネルギーの温度依存性を β -FeSi 2 の伝導帯の底(CBM)と価電子帯の これまでの報告値と一緒に示す。ここで、破 頂上(VBM)を放物線近似できるとすると直 線で示したバンドギャップの温度依存性は熱 接許容遷移での吸収係数は 力学モデルを基礎とした式(3)を用いた[3]。 ···(3) ························(2) Si 基板上の β -FeSi 2 薄膜を用いた測定により で表される[2]。 図6 に ( α h ν ) -h ν プロットを示す。光子エネ β -FeSi 2 のバンドギャップエネルギーが数多く ルギーに対して ( α h ν ) が直線にのっており、 報告されているが、我々がバルク単結晶を用 2 2 (2)式の関係から直接許容遷移に対応した吸 いて測定した結果は、Filonov ら[4]、および Rebien ら [5] の報告した Si(100)基板上に エピタキシャル成長した β -FeSi 2 (100)配向 膜での測定結果と良く一致している。これに 対し、 β -FeSi 2 多結晶膜での光吸収測定およ び β -FeSi 2 単結晶を用いた光導電率測定から 求めた E g d は全体的に0.02 ∼0.04eV 程度低く なっている。 (b)間接遷移に対応した吸収 薄い試料で測定した吸収スペクトルでは図5 図5 高い吸収係数を持つ領域の吸収係数のエネルギー依 存性、試料の厚さ0.8µm 図6 高い吸収係数を持つ領域の吸収係数のエネルギー依 図7 β-FeSi2 の直接遷移および間接遷移ギャップエネルギ 存性、(αhν)2 プロット ーの温度依存、測定値と報告値[4-8] ─ 47 ─ Annual Report No.18 2004 に示したように直接遷移に対応する吸収端以 励起子の結合エネルギー E ex が明らかでないこ 下にも吸収が見られている。これは試料が薄 とから間接遷移エネルギーギャップ E ind g (= く反射率の補正誤差の影響が大きいことに加 E gx + E ex )を現時点で正確に求めることがで え、間接遷移に対応する吸収があるためであ きないが、E ex は通常それほど大きくはないこ る。図 8 に厚い試料を用いて測定した吸収係 とから、室温での間接遷移エネルギーギャッ 数の低い領域での吸収スペクトルを示す。図 プは0.7eV 程度になることが予測される。 に示すように吸収スペクトルにフォノンの吸 収と放射に対応した構造が見られる。4K の低 (c)偏向反射測定 温では0.84eV 付近からフォノン放射に伴う吸 β -FeSi 2 は斜法晶系に属するために光学異方 収がみられ、温度を上げていくとフォノン吸 性を持つことが予測される。しかしながら、 収に伴う吸収が現れてくる。このような吸収 β -FeSi 2 の光学異方性を考慮した反射率測定 スペクトルの構造は間接遷移型のバンド構造 は少なく、a,b,c 軸各結晶方位について測定し において見られる特徴的なものであり、 β - た報告はこれまでにない。本研究では溶液成 FeSi 2 結晶では直接遷移よりわずか低エネルギ 長から得た高品質なバルク単結晶を用いてす ー側(∼0.1eV 程度)に間接遷移が存在するこ べての結晶軸に対する反射率の異方性を初め [9] とが明らかになった。この結果はMoroni ら およびMiglio ら [10] が報告している、Y-Y 直 て明らかにした。図 9 にその結果を示す。ま た、薄膜およびバルク結晶でこれまでに報告 接遷移より0.05-0.06eV 低エネルギー側にY- されている反射スペクトルも示しておく[11, 12]。 Λ* 間接遷移が存在するという第一原理計算か E//a, E//b, E//c 各偏光方向に特徴的な反射ス ら求めた β -FeSi 2 のバンド構造と一致してい ペクトルがみられる。E//a のスペクトルでは る。また励起子が関与した間接遷移吸収モデ 1.2eV と 1.6eV 付近に特徴的なピークがみら ルにおいて31meV の平均フォノンエネルギー れる。E//b のスペクトルでは1eV 付近に一つ を仮定した場合、低温での吸収スペクトルを の特徴的なピークがみられ、約 1.2-2eV 付近 よくフィッティングできることがわかった。 では平坦なプラトー領域がみられる。E//c の このモデルを使って求めた間接励起子エネル スペクトルでは1.3eV, 1.9eV, 2.6eV 付近の3 ギーギャップ E gx の温度依存性を図 7 に示す。 つのピークが特徴的である。またこれまでに 図9 β-FeSi2 バルク単結晶で測定した室温での偏光反射ス 図8 吸収係数の低い領域での吸収係数のエネルギー依存性 ─ 48 ─ ペクトル The Murata Science Foundation 58 (1991) 2924. 報告されている反射スペクトルは我々が測定 したE//b のスペクトルと非常によく類似して [4]A.B. Filonov, D.B. Migas, V.L. Shaposhinikov, N.N. Dorozhkin, G.V. Petrov, いることがわかる。 V.E. Borishenko, W. Henrion and H. Lange, J. また、FLAPW による理論計算から求めた β -FeSi 2 の電子構造をもとに計算した反射率と Appl. Phys. 79 (1996) 7708. [5]M. Rebien, W. Henrion, U. Muller and S. Gramlich, Appl. Phys. Lett. 74 (1999) 970. 実験結果を比較したところスペクトルの構造 [6]C. Giannini, S. Lagomarsino, F. Scarinci and および異方性ともによい一致が見られた。 P. Castrucci, Phys. Rev. B 45 (1992) 8822 [7]Z. Yang, K. P. Homewood, M. Finney, M. 3.まとめ Harry and K. J. Resson, J. Appl. Phys. 78 (1995) 1958. Ga 溶媒および Zn 溶媒を用いた溶液成長法 で高品質な β -FeSi 2 バルク単結晶を成長し、 [8]K. Takakura, N. Hiroi, T. Suemasu, S.F. Chichibu and F. Hasegawa, Appl. Phys. Lett. この結晶を用いて光吸収測定および偏光反射 測定を行った。光吸収測定により β -FeSi 2 の 80 (2002) 556. [9]E. Moroni, W. Wolf, J. Hafuer, and R. Pod- バンド構造について調べた結果、バルクの β FeSi 2 は間接遷移型のバンド構造を持つことが loucky, Phys. Rev. B 59 (1999) 12860. [10] D.B. Migas, L. Miglio, W. Henrion, M. Rebien, F. Marabelli, B.A. Cook, V.L. Sha- 明らかになった。直接遷移に対応する吸収端 poshinikov and V.E. Borisenko, Phys. Rev. より∼ 0.1eV 程度低エネルギー側に間接遷移 に対応するフォノン構造がみられた。この測 B 64 (2001)075208. [11] V. Antonov, O. Jepsen, H. Henrion, M. Rebien. P. Stauβ, and H. Lange, 57 (1998) 8934. 定結果はY-Y 直接遷移におけるバンドギャッ プエネルギーより 0.05-0.06eV 低エネルギー [12] A.B. Filonov, D. B. Migas, V. L. Shaposhinikov, V. E. Borisenko, W. Henrion, 側に Y-Λ* 間接遷移が存在するという理論計 M. Rebien, P. Stauss, H. Lange and G. Behr: 算結果と同じ傾向を示した。また、直接遷移 J. Appl. Phys. 83 (1998) 4410. に対応するバンドギャップエネルギー E g d の温 度依存性を測定した結果、室温では0.876eV, 今後の研究の見通し 10K では 0.939eV であった。この値は Si (100)基板上にエピタキシャル成長した β - 本研究によって、光学測定に十分な大きさ FeSi 2 (100)配向膜での測定結果と良く一致 と結晶性を持った β -FeSi 2 バルク単結晶を育 していた。さらに、偏光反射測定から β -FeSi 2 成することに成功し、吸収測定、反射測定か の絶対反射率についてE//a, E//b, E//c の各異 ら歪みのない β -FeSi 2 が間接遷移型のバンド構 方性を初めて明らかにした。 造を持つこと、および反射率の異方性を初め て明確にすることができた。 現在、 β -FeSi 2 の電子構造の理論計算とと 参考文献 [1]C. M. Wolfe, N. Holonyak Jr, G. E. Stillman, もに、低温での電界変調偏向反射スペクトル Physical Properties of Semiconductors, Prenice-Hall, Inc., New Jersey, 1989, Chap. 4. の測定を進めており、β -FeSi 2 の電子構造に関 するしてより詳細なデータが得られる予定で [2]K. Kudo, Hikari Bussei Kiso, OHM, Tokyo, 1996, p. 179. ある。今後、これらの実験結果と、理論計算 [3]K.P.O'Donnell and X.Chen, Appl. Phys. Lett. 結果を詳細に比較検討することで β -FeSi 2 の ─ 49 ─ Annual Report No.18 2004 歪みのない状態における電子構造がどのように 3) H. Udono, I. Kikuma, T. Okuno, Y. Masumoto, H. Tajima, S. Komuro, Optical なっているかを明らかにできると考えている。 properties of β -FeSi 2 single crystals grown 更に、バルク結晶ではほとんど光らない β - from solutions, Thin Solid Films 461 (2004) FeSi 2 がSi 基板上ではなぜよく光るのかについ て、歪みによって薄膜の β -FeSi 2 がバンド変調 pp.182-187. 4) H. Udono and I. Kikuma, Electrical properties of p-type β -FeSi 2 single crystals grown 効果生じて直接遷移化しているのかどうかに from Ga and Zn solvents, Thin Solid Films 461 ついて歪みを加えた光学測定実験から明らか にしていく予定である。こうしたバルク結晶 (2004) pp.188-192. 5) Y. Terai, H. Ishibashi, Y. Maeda, H. Udono, で得られた光物性の知見を薄膜 β -FeSi 2 の成 Thermal expansion of β -FeSi 2 at low tempera- 長およびデバイス研究にフィードバックし、 tures, Thin Solid Films 461 (2004) pp.106109. 光インターコネクション用発光素子の開発に 6) Y. Maeda, H. Udono, Y. Terai, Raman spec- つなげたい。 tra for β -FeSi 2 bulk crystals, Thin Solid Films 461 (2004) pp.165-170. 本助成金による主な発表論文、著書名 7) H. Udono, I. Kikuma, T. Okuno, Y. 1) H. Udono, K. Matsumura, I. J. Ohsugi and I. Kikuma, Control of Ga Doping Level in β - Masumoto, H. Tajima, Indirect optical absorption of single crystalline β -FeSi 2 , Appl. Phys. FeSi 2 using Sn-Ga Solvent , Mat. Sci. Semi- Lett. 85 (2004) pp.1937-1939. con. Proc. Vol. 6, (2003) pp. 285-287. 2) H. Udono and I. Kikuma, Etch Pits Observation and Etching Properties of β -FeSi 2 , Mat. Sci. Semicon. Proc. Vol.6. (2003) pp.413-416. ─ 50 ─