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スピンエレクトロニクス研究の現状(PDF,1163KB)

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スピンエレクトロニクス研究の現状(PDF,1163KB)
RISTニュース No.
42(2006)
スピンエレクトロニクス研究の現状
Current research state for spin electronics
(独)物質・材料研究機構
磁性材料センター
猪俣 浩一郎
電子の電荷とスピンを制御し利用するスピンエレクトロニクスが2
1世紀のエレクトロニクス
として期待されている。従来の磁性材料では磁化が重要な物理量であるが、スピンエレクトロ
ニスでは伝導電子のスピン分極率がキーとなる。スピンエレクトロニクスは巨大磁気抵抗効果
の発見以降研究が盛んになり、新しい物理現象の発見やデバイス提案が次々となされてきた。
本稿ではトンネル磁気抵抗を利用する不揮発性磁気メモリ(MRAM)を中心に、周辺の材料・
デバイス研究の現状を述べるとともに、スピントロニクスのキー材料であるハーフメタルの開
発状況を紹介する。
1.はじめに
(GMR:Giant Magneto- Resistance)効 果 で
今日のエレクトロニクス産業を牽引してい
ある1)。膜厚方向の原子配列が人工的に制御
る材料は半導体と磁性体であるといっても過
された人工格子では、積層周期が伝導電子の
言ではなく、いずれも電子の性質を利用して
平均自由行程よりも十分短いため、運動量を
いる。電子は電荷とスピンをもち、スピンに
保存した電子の界面での散乱がスピンに依存
は上向き(↑)と下向き(↓)の2種類があ
し、電気抵抗にスピン状態が反映してGMRが
る。磁性材料はスピンを、半導体材料は電荷
発現する。
を利用しており、両者はごく最近までほとん
GMRの 発 見 以 降、ト ン ネ ル 磁 気 抵 抗
ど接点がなかった。これは、磁性材料では電
(TMR)をはじめ磁性体の電子伝導が大きく
子スピンを起源とする磁化を扱えばよく、伝
注目されるようになった。また、スピンに依
導を利用することはあまり考えなかったし、
存した伝導は、これまで電荷しか利用してこ
半導体材料ではスピンを利用しようにも電子
なかった半導体でも注目されるようになって
が伝導する間に緩和してしまい、↑スピン電
きた2)。このように電子のもつ電荷とスピン
子と↓スピン電子を区別して制御することが
を制御し、新しいエクトロニクスを創製しよ
できなかったからである。しかし、素子サイ
うという研究領域をスピンエレクトロニクス
ズが電子のスピン拡散長(一般に数百ナノ
(またはスピントロニクス)と呼んでいる。
メートル以下)よりも十分小さな、いわゆる
その概念を図1に示す。この分野は現在発展
メゾスコピック系になると伝導中のスピンは
期にあり、金属や半導体を含め多岐に亘る非
保存され、電子伝導現象にスピンの寄与が観
常に活発な研究が世界的規模で行われてお
測されるようになる。その典型的な例が19
8
8
り、ナノ領域の新しいパラダイムとして大き
年、金属人工格子で発見された巨大磁気抵抗
く注目されている。GMR素子やTMR素子は
−35−
RISTニュース No.
42(2006)
ローム単位の厚さで積層された多層膜であ
㔚ሶ䋨㔚⩄
㔚ሶ
㔚⩄䊶䉴䊏䊮
䊏䊮䋩
䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭䇭⏛᳇Ꮏቇ
り、Fe/Crの場合、Crを介した隣同士のFe層
の磁化は互いに反平行に結合する。このとき
䇭䇭䇭䇭䇭䇭ඨዉ૕Ꮏቇ
d䋨䌦䋩㔚ሶ䉴䊏䊮䈱Ꮒⷞ⊛䈭㓸࿅䈱೙ᓮ
䌳,䌰㔚ሶ䈱㔚⩄೙ᓮ䋨વዉ䋬శቇ․ᕈ䋩
抵抗が高い。十分大きな外部磁場
(飽和磁場、
Hs)を加え磁化を互いに平行にすると抵抗が
下がる。このときのMR変化率(Hs下での抵
䉴䊏䊮䊃䊨䊆䉪䉴䊂䊋䉟䉴
䉟䉴
MRAM
䊁䊤䊎䉾䊃䉴䊏䊮䊜䊝䊥
䉴䊏䊮FET
䉴䊏䊮䊃䊤䊮䉳䉴䉺
䉴䊏䊮
વዉ
శ
䉴䊏䊮න৻㔚ሶ⚛ሶ
䉴䊏䊮౒㡆䊃䊤䊮䉳䉴䉺
⏛ᕈඨዉ૕䊂䊋䉟䉴
䉴䊏䊮శᯏ⢻⚛ሶ
㊂ሶ䉮䊮䊏䊠䊷䉺
抗値に対する抵抗変化の比)はCrの膜厚に依
存し、
0.
9nm厚のとき4.
2Kで最大8
5%、室温
で約2
0%と、従来の異方性磁気抵抗(AMR)効
果に比べ非常に大きい。その後Co/Cu系にお
図1 スピンエレクトロニクスの概念
いて室温で5
0%という、より大きなGMRが観
すでにハードデイスク(HDD)の読み取りヘ
測され、GMR効果は普遍的な現象とみなされ
ッドとして実用化され、その高密度化に寄与
るようになった。
している。また、TMR素子は不揮発性磁気抵
GMR効果は定性的には次のように理解さ
抗効果型ランダムアクセスメモリ(MRAM:
れる。強磁性金属では上向きスピン(↑)電
Magnetoresistive Random Access Memory)
子と下向きスピン(↓)電子は、異なるポテ
3)
への実用化も開始された 。MRAMは将来、
ンシャルを受けて結晶中を運動している。そ
DRAMを置き換える可能性のあるユニバー
のため電子の散乱はスピンに依存する。この
4)
サルメモリとして期待されている 。このほ
ポテンシャルは交換ポテンシャルと呼ばれ
か、将来のスピンエレクトロニクスデバイス
る。図2に示すように、強磁性金属層と非磁
として、スピンFET、スピン共鳴トンネル効
性金属層からなる人工格子において、磁場が
果素子、マイクロ波発振デバイス、スピン単
零のとき強磁性層の磁化は互いに反平行に、
一電子素子 などが注目されている。また、
Hs以上の磁場で平行に向くとする。膜面内に
磁場を使わない画期的な磁化反転技術として
電流を流すと、伝導電子は界面での散乱を受
スピン注入磁化反転、新しい材料として磁性
けながら膜面内を伝導するが、人工周期が電
半導体、スピントロニクス全体に関わるキー
子の平均自由行程より短いとき、電子は運動
材料としてハーフメタルがそれぞれ期待され
量を保存したまま界面を横切って、平均自由
5)
ている 。
行程だけ移動できる。このとき、電子のスピ
本稿では金属系、特に強磁性トンネル接合
ンは向きを変えないで散乱され、独立に伝導
に焦点を当て、その開発の現状とMRAMへの
に寄与すると考えることができる。そうする
応用開発動向について述べるとともに、スピ
ンエレクトロニクスのキー材料であるハーフ
メタルについて紹介する。
ᒝ⏛ᕈጀ
ᕈጀ(F)
ᕈጀ(N)
㕖⏛ᕈጀ
2.巨大磁気抵(GMR)抗効果
2.
1 GMR効果とは
はじめにスピンエレクトロニクスのきっか
けとなったGMR効果について簡単に述べて
(a)෻ᐔⴕ⏛ൻ㈩೉
ᛶ᛫䋽RAP
おく。GMR効果は19
88年、Fe/Cr人工格子に
おいて発見された1)。人工格子はオングスト
(b)ᐔⴕ⏛ൻ㈩೉
䇭䇭䇭ᛶ᛫䋽RP
図2 巨大磁気抵抗効果の原理
−36−
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と電子は交換ポテンシャルのため、スピンの
性層(フリー層)の磁化反転のみを利用して
向きによって界面での散乱のされ方が異な
高感度化をはかる方法である。図3はスピン
り、一般に磁化と同じ向きのスピンを持つ電
バルブ構造(a)
、およびその模式的な磁化曲
子の抵抗率は逆向きの電子のそれよりも小さ
線(b)とGMR曲線(c)を示したものであ
い。従って、磁化が平行のときは同じ向きの
る。
(b)
、
(c)は大きな負の磁場を印加した
スピン電子が主として伝導に寄与することに
後、正の方向に戻した場合のヒステリシス曲
なる(図2(b)
)
。一方、強磁性層の磁化が
線を示している。ピンド層は反強磁性層から
互いに反平行(図2(a))のときは、いずれ
一方向に交換磁場(exchange field)Hexを受
の向きのスピンも界面で等しく散乱される。
けるため、磁化曲線およびMR曲線は原点か
従って抵抗は(b)の方が小さい。これがGMR
らシフトする。これがスピンバルブの特徴で
効果である。スピン依存散乱は強磁性体の中
ある。また、しばしばフリー層はピンド層か
においても存在する(バルク散乱)が、膜面
ら交換結合を受け、その結果フリー層の磁化
内に電流を流しているので測定系が電子の平
曲線も原点対称でなくオフセット磁場Hinを
均自由行程より大きいため、それは一般に観
受ける。スピンバルブGMRの代表的な組み合
測されない。
、
わせには、Ni80Fe20/Cu/Ni80Fe20(MR=5%)
以上は、電流を膜面内に流した場合のGMR
5%)
、
Co/Cu/Co(9.
5%)、Co/Cu/Ni80Fe20(6.
(CIP-GMR:Current in plane-GMR)につい
2%)な ど が あ る。図
Co90Fe10/Cu/Co90Fe10(1
てである。電流を膜面に垂直に流した場合の
4にHDDの面記録密度の向上を示す。GMR
GMR(CPP-GMR:Current perpendicular to
plane-GMR)
では状況が違ってくる。それは、
෻ᒝ⏛ᕈጀ
(a)
GMRを支配するのはCIP-GMRでは電子の
ᒝ⏛ᕈ䋨䊏䊮䋩ጀ
㕖⏛ᕈጀ
ᒝ⏛ᕈ䋨䊐䊥䊷䋩ጀ
ン拡散長(スピンを保存したまま電子が移動
(b)
⏛ൻ M䇭
平均自由行程であるが、CPP-GMRではスピ
できる距離)になるからである。スピン依存
Hex
散乱は磁性体の中でも存在する(バルクスピ
⏛႐ H
ン依存散乱)。従って、CPP-GMRでは界面に
(c)
MR
Hin
加えバルクもスピン依存散乱に寄与するの
⏛႐ H
で、界 面 が 多 数 あ る 場 合 に は 一 般 にCPP-
図3 スピンバルブ型MTJの構造とTMR曲線
GMRの値はCIP-MRより大きくなる。
2.
2 スピンバルブGMRとそのHDDへの応用
GMR素子をHDDのような磁界センサとし
て使う場合には、小さな磁界で大きなMRを
得る必要がある。人工格子の場合には層間の
交換結合が存在するため、飽和磁場が大きく
GMRの感度が小さい。高感度GMRを得る手
段として、通常スピンバルブが用いられる。
これは例えばIrMn/CoFe/Cu/CoFeのように
反強磁性体(IrMn)を用い、それに接した磁
性層のスピンを固着し(ピンド層)、他方の磁
図4 HDDの面記録密度向上の経緯
−37−
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ヘッドの開発により面記録密度が大きく進展
ここで注意すべきことはトンネルするのは界
していることがわかる。最近ではより大きな
面近傍の電子ということである。
したがって、
磁気抵抗を示すトンネル磁気抵抗(TMR)効
MTJにおけるスピン分極率は磁性体固有の
果素子が適用され、高密度化に貢献している。
ものではなく界面電子状態と関係し、バリア
材料や界面性状に依存する。強磁性体では0
3.強磁性トンネル接合とトンネル磁気抵抗
<P≦1であるが、Al酸化膜(AlOx)の場合、
効果
得られている最大のPはFeCoB合金の0.
6程
3.
1 散漫トンネル(Diffusive tunneling)
度、室温でのTMRは7
0%程度である。MTJで
1∼2nm程度の薄い絶縁層(トンネルバリ
は通常、反強磁性層/強磁性層1/バリア層
ア)を二つの強磁性層で挟み、その間に電圧
/強磁性層2からなるスピンバルブ型が用い
を印加すると量子効果によってトンネル電流
ら れ る。反 強 磁 性 層 と し てIrMnを 用 い た
が流れる。このような構造を強磁性トンネル
IrMn/CoFe/AlOx/CoFe/NiFeスピンバルブ型
接合(MTJ:Magnetic Tunneling Junction)
と
MTJでは室温で約5
0%のTMRが得られ、これ
いう。一定のエネルギーをもつトンネル電子
は(1)式でP=0.
5を用いて得られる値に近
は主として界面に垂直な運動量をもつが、そ
い。
の電子が障壁内で散乱され運動量が保存され
(a)
ずにトンネルする場合(図5(a)
)と、運動
量を保存したままトンネルする場合(図5
㔚ሶ
(b)
FM1
㔚ሶ
(b))と が あ る。前 者 は 散 漫 ト ン ネ ル
䉝䊝䊦䊐䉜䉴
䉝䊝
䉜䉴
(Diffusive tunneling)と呼ばれ、バリアにAl
酸化膜(AlOx)などのアモルファス膜や無配
FM2
向の多結晶膜を用いた場合に観測される。後
න⚿᥏
න⚿᥏
I
ᢔẂᢔੂ
ᢔੂ䊃䊮䊈䊦
䊈䊦
( k// = 0 )
䉮䊍䊷䊧䊮䊃
䊮䊃 䊃䊮䊈䊦
䊈䊦
者 は コ ヒ ー レ ン ト ト ン ネ ル(Coherent
tunneling)と呼ばれ、単結晶バリアや結晶配
図5 散漫トンネル(a)とコヒーレントトンネ
ル(b)を示す模式図
向したバリアを用いた場合に観測される。
散漫トンネルの場合、一般にトンネルコン
3.
2 コ ヒ ー レ ン ト ト ン ネ ル(Coherent
ダクタンスは二つの電極の状態密度の積に比
tunneling)
例するが、強磁性電極の状態密度はスピンに
依存するため、トンネルコンダクタンスは二
コヒーレントトンネルではエネルギーのほ
つの強磁性電極の磁化の相対角度に依存す
かに運動量が保存されるため、TMRは電極の
る。抵抗で表すと、一般に磁化が互いに反平
バンド構造を反映することになる。例えば、
行なときに抵抗
(RAP)が 最 も 大 き く、平 行
Fe/MgO
(0
0
1)
/FeではFeの(00
1)方向のsp電
(RP)のとき最も小さい。この両者の差を平行
子(1バンド)がトンネルに寄与するが、こ
の抵抗で割った(RAP-RP)/RPをトンネル磁気
のバンドはフェルミ面において多数スピンバ
抵抗(TMR:Tunneling Magneto-Resistance)
ンドには存在するが、少数スピンバンドには
という。通常、トンネルする際スピンは保存
バンドギャップがあり存在しない(図6)
。
され、散漫トンネルの場合TMRは一般に強磁
したがって、磁化が平行のときはトンネルで
2)を用いて
性電極のスピン分極率P(i=1,
i
きるが反平行のときはトンネルできない。そ
6)
次のようなJullierの式で表される 。
TMR=2P1P2/(1−P1P2)
のため、1,
0
0
0%という巨大TMRが理論的に
(1)
−38−
予測されている7)。実験的には最近、MgO
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ᄙᢙ䉴䊏䊮
ᄙᢙ
䊏䊮 up-spin
ዋᢙ䉴䊏䊮
ዋᢙ
䊏䊮 down-spin
∆1
∆2’
∆1
EF
∆5
EF
Γ
∆
Η
∆2
Γ
∆
Η
k z ([001])ᣇะ
図6 Feの<001>方向のバンド構造
図7 AlOxおよびMgOバリアを用いたTMRの
発展
(0
01)単 結 晶 基 板 上 に 作 製 さ れ たFe/MgO
4.TMR素子のMRAMへの応用
(0
01)/Feからなる単結晶MTJにおいて、室温
4.
1 MRAMの動作原理と特徴
8)
で1
88%という大きなTMRが観測され 、こ
スピンエレクトロニクスとして現在最も大
の理論が実証された。Feを電極としAlOxバ
きく期待されているデバイスはMRAMであ
リアを用いた場合のTMRはせいぜい40%程
る。MRAMはMTJ素子の磁化状態をメモリと
度である。
するもので、電荷の蓄積をメモリとする従来
このようなコヒーレントトンネルは界面に
の半導体メモリとは原理が本質的に異なる。
垂直な運動量が保存されればよく、バリアは
図8(a)にMRAMのアーキテクチャを示す。
特に単結晶である必要はなく結晶配向膜であ
MRAMはMTJをメモリ素子としそれを二つ
ればよい。このような観点から、MgO基板を
の配線、ビット線とワード線の交点に2次元
用いることなく熱酸化Si基板上に作製した
的に配列した構造からなる。このMTJは図8
CoFeB/MgO/CoFeBにおいて、室温で2
3
0%
(b)に示すように、半導体からなるMOSトラ
9)
という巨大TMRが観測された 。これは、
ンジスタの上に多層配線を介してスタックさ
CoFeBがアモルファスでありその上に作製
れる。MOSトランジスタを使うのは、MTJ
されたMgOバリアは(0
01)配向すること、
自体に選択機能がないため、それのみでは高
接合を作製後350℃ 程度の温度で熱処理する
速読み出しができないからである。MOSトラ
とMgO界面近傍のCoFeBがbcc構造をもって
ンジスタをスイッチとして用いることで、そ
結晶化し、Fe/MgO
(001)/Feと同様のコヒー
のオン、オフによりMTJ素子の選択を行うこ
レントトンネルが生じるためと理解されてい
とができる。したがって、一つのメモリセル
る。最近ではTMRはさらに向上し、室温で
は一つのMTJと一つのMOSトランジスタと
10)
40
0%以上が得られている 。図7にAlOxお
で構成される。これはDRAMによく似た構造
よびMgOバリアを用いた場合のTMRの進展
で、DRAMに用いるキャパシタをMTJで置換
を示す。
えたものに相当する(図8(c)
)
。DRAMで
はキャパシタに電荷が存在するか否かで
“1”
、
“0”を決めるが、MRAMではMTJを
−39−
RISTニュース No.
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し耐性をもち、かつ大容量化が可能なことか
(a)
ら、ユビキタス社会におけるユニバーサルメ
Bit line (BL)
モリとして期待されている。パソコンなど高
MTJ (spin-valve)
速で頻繁に書換えが行われるような用途で
Word line (WL)
は、1
015回以上の繰り返し特性が要求される
(b)
(c)
Memory cell
WL
BL
が、それを満たすメモリはMRAMとDRAMの
䃂
BL
MTJ
䃂
MTJ
WL
Metal 1
Metal 2
MOSFET
䃂
みである。しかし、DRAMは揮発性なので、
G
n+
p
n+
MOSFET
不揮発性でこの機能を満たすのはMRAMの
図8 MRAMのアーキテクチャとメモリ素子構
造
みである。
4.
2 MRAMの開発状況
表1 MRAMと他メモリの比較
MRAMは‘9
9年、IBMによってはじめて開
発されたが、そのときの容量は1キロビット
MR AM
Nonvolatality䇭䇭
䇭䇭
C ell size
䇭䇭
C apa./D.R(
apa./D.
m)
F eR A M
䇭䇭F lash䇭䇭䇭䇭
䇭䇭
䇭䇭PR AM 䇭
䂾䇭䇭
䇭䇭䇭䇭䇭
䇭䇭 䂾䇭䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭䇭 䂾䇭䇭䇭䇭
䇭䇭
䇭 20 F 2
16M b/0.18
R ead time (ns)䇭 䇭 10-50
W r ite time (ns)䇭䇭
䇭䇭
1G b/0.16
E ndur ance䇭䇭
䇭䇭 䇭 >1015䇭䇭䇭
䇭䇭109-1012䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭 106䇭
䃁䇭䇭
䇭䇭
であった。
その後着実に技術開発が進められ、
㬍䇭䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭 㬍
8 F 2 䇭䇭 140 F 2
2
0
0
4年に16メガビットが発表された。このと
き1
8
0nmルールが用いられ、セルサイズは
50䇭䇭
䇭䇭
30-100
SR AM
4M b/0.18 256M b/0.17 4M b/0.25
80 F 2䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭4.4 F 2䇭䇭䇭
䇭䇭7.7 F 2
4M b/0.25
10-50 䇭䇭䇭
䇭䇭 30-100䇭䇭䇭䇭
䇭䇭 䇭104䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭
C onsum.Power 䇭 䂦㸢 䂾 䇭䇭
䇭
䂾䇭
DRA M
85
50䇭 䇭 䇭
5-70
85
50䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭䇭
5-70
1012
䂾䇭䇭
䇭䇭䇭䇭䇭
䇭䇭 䂦
0nsであった。
1.
4
2m2、アクセス時間30-4
>1015䇭䇭䇭䇭
䇭䇭>1015
2
0
0
5年のVLSIシンポジウムでは4キロビッ
䇭 䂦 䇭 䇭䇭䇭䇭
䇭䇭䇭䇭 䂦 䇭
トセルアレイではあるものの、初めて90nm
F : F eature size䇭䇭䇭
䇭䇭D.R . : Design R ule
ルールを使用したMRAMセルが登場した(フ
リースケール)。また、セル段階ではあるが
構成する二つの強磁性体の磁化配列が平行ま
1.
2Vで1
0
0MHz(1
0ns)の読み出しも確認さ
たは反平行を“1”、
“0”とする。読み出し
れている
(ルネサス/三菱グループ)
。図9に
にはTMRを利用する。すなわち、MOSトラ
半 導 体 メ モ リ(DRAM、強 誘 電 体 メ モ リ
ンジスタをオンにし、MTJ素子を流れる電流
FeRAM)と比較してMRAM開発の推移を、
によって発生した電圧降下を測定すること
図10にMRAMセルサイズの縮小動向を示す。
で、その大きさから平行(“1”)または反平
現在、MRAMの技術課題は大まかに言え
行(“0”)を判定する。一方、書込みはビッ
ば、実用化のための書込み特性のバラツキ対
ト線とワード線に流す電流が作る合成磁場
で、交差するMTJ素子のフリー層の磁化を反
10
0.5
10
転させる。このとき、ワード線の電流の向き
10
7
10
6
10
5
性メモリが研究開発されているが、MRAMと
10
4
これらを含めた他のメモリとの性能を比較し
10
やPRAM(相変化型)などいろいろな不揮発
0.4
8
10
最近、FeRAMに加えRRAM(抵抗変化型)
MRAM *
Gbit
IBM & Infineon
F = 0.18 µm
16Mb
0.3
Motorola
Mbit
Motorola
NEC & TOSHIBA
NEC
M otorola
Renesas
0.2
IBM
Samsung
F
Sony
3
kbit
0.1
TOSHIBA
IBM
2
10
1998
て表1に示す。MRAMは不揮発性であり、書
換え速度がSRAM並みに速く、動作時および
2000
2002
2004
Year
2006
2008
−40−
0.0
2010
*http://ne.nikkeibp.co.jp/members/NEWS/20040620
図9 MRAMの開発推移
待機時の消費電力が小さく、無制限の繰り返
Feature Size; F ( µm)
m)
いに平行、または反平行に制御できる。
Memory Capacity (bit)
10
を変えることで、二つの強磁性層の磁化を互
9
RISTニュース No.
42(2006)
Motorola (Freescale)
4 Mb (2003/10 䉰䊮䊒䊦)
䊃䉫䊦䉶䊦
䋨 m2)
䉶䊦䉰䉟䉵䋨µm
5.0
Sony (2004)
IBM/Infineon
16 Mb (2004)
2.0
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512 Kb(2003)
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Freescale
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90
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0.3
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Samsung
16 Kb (2003)
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ඨㆬᛯ䈪⏛ൻ
180
250
350
㧔㨎㧕
500
਎ઍ ( nm )
図10 MRAMセルサイズの縮小動向
策と、ギガビット級大容量化技術の開発に大
別される。前者は電流磁場による書込みマー
䊥䊷ጀ
෻ᐔⴕ⚿ว䊐䊥䊷
෻ᐔⴕ⚿ว
ジンが小さいことに起因している。現在の電
Ru
ඨㆬᛯ
ㆬᛯ䈮䉋䉎
䉋䉎
䉏䉎
䉴䉟䉾䉼䊮䉫
䊮䉫䈏ㆱ䈔䉌䉏䉎
流磁場による書込み法では印加磁界に対する
図11 アステロイド書き込み(a)とトグル書き込
み(b)
磁化反転境界が星型(アステロイド曲線と呼
ばれる)になる。この方法ではアステロイド
曲線の外側の印加磁界で磁化が反転し(書込
み可能)、内側では反転しない(非書込み)の
た、書込み電流自体が大きくなってしまうと
であるが、選択しない素子に対しても磁界が
いう問題もある。このようにトグル書込みも
および、それらを反転させないようにするた
決定打になっていないというのが現状であ
めの設定条件が比較的狭い(図1
1(a)
)
。そ
る。
のため素子間の特性バラツキを低減するため
の材料やプロセスの開発、および素子形状の
4.
3 ギガビット級MRAMの開発に向けて
工夫などが行われている。
ユニバーサルメモリを目指すMRAMにと
アステロイド方式の上記課題を原理的に解
って、ギガビット級の大容量化を実現するこ
決できる方法として、200
3年トグル書込みが
とは悲願である。そのためには①高速読み出
米モトローラ(現フリースケール)によって
しおよび②低電流書込みを実現しなければな
提案された。この方法はMTJのフリー層に反
らない。①は、前述したFeCoB/MgO/ FeCoB
平行結合3層膜を用い、その磁化容易軸と困
のようなコヒーレントトンネルTMR素子で
難軸の中間の方向を走るビット線とワード線
対応可能であり、これによってギガビットに
に時間差を設けて電流磁界を印加し、磁化を
おいてもSRAM並みの高速読み出しが期待
反転させるものである(図1
1(b)
)
。この方
できる。②はスピン注入磁化反転という新し
式は誤書込みが極めて発生し難く、そのため
い書込み法が期待されている。以下、これに
書込みマージンが大きく、歩留まり向上に資
ついて簡単に紹介する。
するという特徴がある。しかし、トグル書込
スピン注入磁化反転はMTJ素子に直接電
み動作は磁化方向を反転させるのみで、アス
流を流し、強磁性電極によるスピン偏極電流
テロイド方式のように書込み電流の極性で磁
が作るスピントルクを利用してフリー層の磁
化の向きを制御できない。そのため、書込み
化反転(書込み)を行うものである。'9
6年に
前に一度データを読み出し、書込み動作を行
理論的に提唱されたもので11)、素子サイズが
うかどうかを判断する回路が必要になる。ま
小さくなるほど磁化反転に必要な電流が小さ
−41−
RISTニュース No.
42(2006)
注入による繰り返し書込み実験も行われ、
Mbit
Gbit
1
0
0nsパルスで1
012回以上の繰り返し耐性が
Writing Current
検証されている14)。
CIMS
このようにスピン注入磁化反転はギガビッ
ᵈ౉)
(䉴䊏䊮
䊏䊮ᵈ౉
ト級MRAMの実現に有望な書込み技術であ
るが、まだ課題もある。その一つは、書込み
Oe field
電流が大きいという問題である。図1
4では電
⏛႐䋩
䋨㔚ᵹ⏛႐
流密度が2×1
06A/cm2であるが、セル選択ト
Memory Cell Size
ランジスタのドライブ能力などを考慮すると
5×1
05A/cm2程度に低減させる必要がある。
図12 電流磁場とスピン注入磁場による磁化反
転の素子サイズ依存性
特に、高速動作のためには1
0ns以下の短パル
スでこれを実現する必要がある。もう一つは
くなり、MRAMのスケーリングを可能にする
低抵抗化のためMgOバリアの厚さは薄く設
画期的な技術である(図12)。実験的には当初
定されるが、その際、1
0年間保障できる繰り
膜面垂直方向に電流を流す巨大磁気抵抗
返し書込み耐性が量産時で可能かどうかとい
(CPP-GMR)効果素子において検証された
う問題である。これは閾値電流密度とも関係
12)
7
2
0A/cm のオーダで大きす
が 、電流密度が1
し、今後十分検討されなければならない。こ
ぎるという問題があった。その後、筆者らは
れ ら を ク リ ア で き た と き、ギ ガ ビ ッ ト 級
スピンフィルタ機能をもつRuスペーサを用
いることで、1×106A/cm2に低減できること
を示した13)。
スピン注入磁化反転をMTJに対して実用
化するためには、低抵抗でかつ大きなTMRを
もつMTJ素子に対して、低電流で磁化反転を
実現しなければならない。2005年のIEDMで
ソ ニ ー は、厚 さ が 約 1nmのMgOバ リ ア と
CoFeBフリー層を用いた低抵抗MTJ素子(抵
抗×面積=20m2,TMR=160%以上)を開
発し、それを用いた4キロビットのセルアレ
イに対してスピン注入書込みを実現した14)。
図13 スピン注入によるI-V
(a)
およびR-V
(b)
曲線
MTJ素子サイズは115×155nm2であり、トラ
ンジスタおよび配線層は0.
1
8mのCMOSプ
ロセスを用いて作製している。図13(a)に
セルのI-V特性を、図1
3(b)にR-V特性を示
MRAMの実用化が見えてくるであろう。
す。スピン注入によって磁化方向の制御が観
5.スピンエレクトロニクスの将来に向け
て:ハーフメタルの開発動向
測されている。磁化反転閾値電流は書込みパ
ルス幅に依存し、パルス幅が小さくなるほど
従来の磁性材料では磁化がキーパラメータ
大きくなるが、3nsの高速パルスでも書込み
でありそれが大きいことが重要であるが、ス
が可能であり、上記セルの熱揺らぎ耐性も問
ピンエレクトロニクスではそれに代わるキー
題ないことが確認されている。また、スピン
パラメータはスピン分極率である。
(1)式で
−42−
RISTニュース No.
42(2006)
することができ、磁性体と半導体の融合が期
待されるなど、スピンエレクトロニクスの
キーマテリアルである。そのため、近年ハー
フメタルに関する研究が活発化している15)。
3
Rh2MnGe
Rh2MnSn
Rh2MnPb
Co2VAl
Fe2MnAl
2
Co2TiSn
1
Fe2CrAl
24
れるほかに、半導体に高効率でスピンを注入
4
t
TMRやCPP-GMRをもたらすことが期待さ
5
Z-
メタルと呼ばれる。ハーフメタルは巨大な
Co2MnSi
Co FeSi
Co2MnAs Co2 MnSb
Co2MnGe
2
Co2MnSn
Co
FeAl
2
Rh2MnIn
Rh2MnTi
Ni2MnAl
Co2CrAl
Fe2MnSi
Ru2MnSi
Ru2MnGe
Ru2MnSn
6
0
=
ることが予想される。P=1の材料はハーフ
7
-1
Co2MnAl
Co2MnGa
Rh2MnAl
Rh2MnGa
Ru2MnSb
Co2TiAl
Fe2VAl
t
料からなるMTJは無限に大きなTMRを与え
M
( B)
Magnetic moment per formula unit Mt (µ
わかるように、スピン分極率P=1をもつ材
Mn2VGe
Mn2VAl
-2
-3
ハーフメタルは図14にそのエネルギーバン
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
Valence electrons per unit cell (Zt)
ド構造を示すように、フェルミ準位(EF)に
図15 フルホイスラー合金の磁気モーメントと
価電子数の関係
おける伝導電子が一方のスピンのみであり、
他方のスピンバンドは半導体的にギャップを
もっている。ハーフメタルには(La,Sr)
MnO3(LSMO)、Fe3O4、CrO2 などの酸化
5は第一原理計算から求
晶構造L21をもつ。図1
物系,NiMnSb,Co2MnSiなどのホイスラー
められた、フルホイスラー合金における磁気
合金、閃亜鉛鉱型のCrAsなどがある。2
0
0
3年
モーメントの価電子数依存性を示している。
以前はNiMnSbやFe3O4に関して多くの研究
これから磁気モーメントはスレータポーリン
がなされたが、ハーフメタルに期待されるよ
グ曲線に従うことがわかる。図中整数の磁気
うな大きなTMRは得られなかった。
2
0
0
3年に
モーメントをもつ合金がハーフメタルであ
なってLSMO電極とSrTiO3 バリアを用いた
る。フルホイスラー合金には多くのハーフメ
エピタキシャルMTJにおいて、
4.
2Kで1
8
0
0%
タルが存在するが、特にCo基合金はキュリー
という巨大TMRが報告され、ハーフメタル特
点が高く実用的である。一方、注意すべきこ
16)
性が現実的であることが示された 。しかし、
とはフルホイスラー合金には不規則構造が存
LSMOのキュリー点が3
5
0Kと小さいため室
在することである。X2YZにおいてYとZが不
温でのTMRは数%程度に激減してしまう。
規則配置をとるとB2構造(CsCl型)に、X、
キュリー点の高いハーフメタルとしてはフル
Y、Z全ての原子が不規則分布するとA2構造
ホイスラー合金が知られている。フルホイス
(bcc)になる。そして、一般に不規則性が増
ラー合金は一般式X2YZ組成式で表され、結
すほどスピン分極率は低下する。
フルホイスラー合金を用いた最初のMTJ
は2
0
0
3年筆者らによって作製され、Co2(Cr,
Fe)Al(CCFA)を用いて室温で約2
0%のTMR
が報告された17)。ここでの重要な発見は、従
EF
δ
来大きなTMRを得るためには規則相L21を確
保することが必須と考えられてきたが、不規
則相B2構造でもよいことを指摘したことで
ある。この報告はCo基フルホイスラー合金が
大きく注目されるきっかけとなった。また、
B2構造が大きなスピン分極率をもつことが
図14 ハーフメタルのバンド構造の模式図
−43−
RISTニュース No.
42(2006)
260
240
Co2(Cr,Fe)Al = CCFA (B2)
TMR(%)
220
200
RT
RT
Co2FeAl = CFA (B2)
Heusler/AlOx/CoFe
Co
2MnSi = CMS (L21)
180
L2 11
L2
Co2MnAl = CMA (B2)
160
Co2FeSi = CFS (L21)
140
Co2FeAl0.5Si0.5 = CFAS (B2, L21)
120
100
Full-Huesler
80
60
B2
B2
NiMnSb
Fe3O4
40
2
0
0
䂥
1999
䂥
2003
2004
2005
year
2006
2007
図16 ハーフメタルを用いた室温におけるTMRの進展
㩷
理論的にもサポートされた18)。現在、CCFA
㪉㪇㪇
を 用 い たMTJのTMRは 低 温 で3
17%(P=
TMR = 174%
3
0.
89に相当)、室温で109%が得られている19)。
TMR (㧑)
㪈㪌㪇
図16は種々のCo基フルホイスラーを用い
たMTJの、室温におけるTMRの進展を示した
も の で あ る。CCFAの ほ か に 主 と し てCo2
Rs = 2.14˜10 Ω
Annealing at 500 ͠
㪈㪇㪇
㪌㪇
MnSi、Co2MnAl、Co2FeSi、Co2FeAlな ど
が研究されている。Co2MnSiでは低温でP=
㪇
㪄㪈㪇㪇㪇
1に相当するハーフメタル特性が得られてい
㪄㪌㪇㪇
㪇
㪌㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
H (Oe)
るが、温度変化が大きく室温のTMRは70%程
度に激減する20)。最近、筆者らによって室温
図17 室温TMR174%のTMR曲線
で17
4%のTMRを示すホイスラー合金が開発
さ れ た21)。こ れ はL21構 造 のCo2FeA10.5Fe0.5
向けられるであろう。今後Co基フルホイス
(CFAS)を電極とする、CFAS/MgO/CFASか
ラー合金を用いた研究は世界的な潮流を生
らなるエピタキシャルスピンバルブ型MTJ
み、TMRは飛躍的向上が予想され、近い将来
である。そのTMR曲線を図17に示す。この大
限りなくP=1に近いハーフメタルの実現が
きなTMRはMgO(001)バリアを用いている
大いに期待される。それに伴いスピンエレク
もののコヒーレントトンネルに基づくもので
トロニクス研究の新たな展開が始まるであろ
はなく、CFASそのものの大きなスピン分極
う。
21)
率に伴うものである 。すなわち、CFASは大
きなスピン分極率をもつ材料である。
5.おわりに
この材料の開発によりハーフメタルの研究
以上、スピンエレクトロニクスについて、
は新たな段階に入り、益々ホイスラー合金に
現在最も期待の大きいMRAMを中心に現状
−44−
RISTニュース No.
42(2006)
を述べるとともに、将来のキー材料として
6)M. Jullier, Phys. Lett. 54A, 225 (1975).
ハーフメタルを紹介した。今後はこれらの材
7)W. H. Butler et al., Phys. Rev. B 63,
料・技術を確かなものにする研究とともに、
054416 (2001)., J. Mathon and A.
スピンエレクトロニクスを大きく展開するた
Umeski, Phys. Rev. B 63, 220403R
めのデバイスに関する研究が必要である。半
(2001). 導体デバイスの基本となるトランジスタは50
8)S. Yuasa et al., Nature Mat.,3, 868
年前,磁気記録は10
0年前に発明されている。
(2004)., S. Parkin et al., Nature Mat.,3,
この間,それぞれの技術は大きく進展したが,
862 (2004).
9)D. D. Djayaprawira et al., Appl Phys.
その基本原理は変わっていない。真空管から
Lett. 86, 092502 (2005)
トランジスタに代わることでエレクトロニク
ス社会へと世の中が一変したように、大きな
10)S. Yuasa et al., Appl. Phys. Lett. 89,
042505 (2006).
技術革新は従来技術の延長ではなく質的に異
なる物理現象から生まれる。スピンエレクト
11)J. C. Slonczewski, J. Magn. Magn.
Mater. 159, L 1 (1996).
ロニクスが21世紀の電子・情報・通信産業を
支える革新的なデバイスを実現できるか否か
12)J. A. Katine, F. J. Albert, R. A.
は,革新的な材料シーズと筋の良いデバイス
Buhrman, E. B. Myers and D. C. Ralph,
提案にかかっている。
Phys. Rev. Lett., 84, 3149 (2000).
13)
Y. Jiang, T. Nozaki, S. Abe, T. Ochiai, A.
謝辞
Hirohata, N. Tezuka and K. Inomata,
本稿で示した内容の一部はCREST-JST、
Nature materials, 3, 361 (2004).
ITプログラムRR2
0
02、科研費補助金(基盤
14)鹿野博司、細身政功:応用物理, 9, 1091
(2006).
研究A(1
52
06
074)、放送文化基金、三菱財団
の研究助成を受けて行なわれた。
15)K. Inomata et al., J. Phys. D 39, 816
(2006).
参考文献)
16)M. Brown et al., Appl. Phys. Lett. 82,
1)M. N. Baibich, J. Broto, A. Fert,
Nguyen Van Dau, F. Petroff, P. Etienne,
233 (2003).
17)K. Inomata, S. Okamura, R. Goto and
G. Creuzet, A. Friederich and J.
N. Tezuka, Jpn. J. Appl. Phys. 42, L419-
Chazelas : Phys. Rev. Lett., 61, 2472
L422 (2003).
(1988).
18)Y. Miura, K. Nagano, and M. Shirai,
2)猪俣浩一郎:日本応用磁気学会誌. 23,
1826 (1999).
Phys. Rev. B69, 144413 (2004).
1
9)T. Marukame et al., Appl. Phys. Lett.
88, 262503 (2006).
3)The world street journal online, July
10, 2006.
2
0)Y. Sakuraba et al., Appl. Phys. Lett. 89,
052508 (2006).
4)猪俣浩一郎 編著:不揮発性磁気メモリ
MRAM, 工業調査会 (2005)
2
1)N. Tezuka et al., Appl. Phys. Lett.
submitted
5)猪俣浩一郎 編著:スピンエレクトロニ
クスの基礎と最前線、シーエムシー出版社
(2004)
−45−
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